杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

『第9地区』を観て

2010-04-15 23:50:08 | 映画

 今日は夜、予定していた撮影が、先方の都合でNGになり、空いた時間で映画館へ。エイリアンものでアカデミー作品賞にノミネートされた異色作『第9地区』を観に行きました。

 

 私の好きな『ロード・オブ・ザリング』シリーズのピーター・ジャクソンが製作し、南アフリカ出身の新進気鋭監督ニール・ブロムカンプが監督脚本を務めたSF作品という触れ込み。ピーター・ジャクソンはロード~シリーズ以前はスプラッター映画(…いわゆるグロテスクもの)が得意だっただけに、若いディレクターに、エイリアン襲来を流行りのPCゲームばりにスピーディーかつグロっぽさ満開で描いたのかも、と勝手に想像し、そういう作品がアカデミー作品賞にノミネートされたってのが(ノミネート数が10作品に増えたとはいえ)不思議だなぁと思ってました。

 

 観終わった後は…アカデミーノミネーションは不思議でもなんでもなく、当然!というか、受賞作『ハート・ロッカー』や『アバター』よりも面白かったかも! とにかく、エイリアンVS人間を、こういうアプローチで描いた作品は初めてで、プロットの斬新さ、ドキュメンタリータッチの臨場感、キャラクターの面白さ、どれもこれも、ここ最近観た中で私的にはピカイチでした。

 

 日本の空港は、少し前まで外国人用の入国ゲートに『AIien』って書いてあったんですよね。今はさすがに『Foreigher』だけど、“外国人登録”って和英辞典で引くと『the Alien Registration』って出てきます。

  エイリアンって、SF映画の世界では宇宙から来た得体のしれない侵略者で、現実の島国日本では外国人を総称する言葉…。とにかく自分たちとは違う異端者であり、分けて、隔離させる対象に違いありません。

 

 

 この映画では、エイリアンは地球に侵略しに来たのでも、地球人と交流しに来たのでもなく、たまたま宇宙船が故障して浮遊してきた“難民”状態。で、こちらに悪さをしそうにないとわかった人間が、衰弱したエイリアンを保護し、地上に難民キャンプを作って収容する。難民生活が長くなって、人間との間で差別や暴動が起きる。南アフリカの首都ヨハネスブルグが舞台になっているものだから、人種問題のメタファーみたいに見えてくるのです。・・・この街で数ヵ月後にワールドカップサッカーが開かれるのかと思うと、映画の中とはいえ、ちょっと考えさせられちゃいます。

 

 途中から、『アバター』と同じように、人間の欲深さや狂気が無垢なエイリアンを追い込み、主人公の人間がエイリアンを救おうとする・・・という構造になっていくのですが、アバターが陳腐なおとぎ話に思えるほど、こちらのほうがリアル。

 平凡で小市民的な主人公に、見た目が超キモ&グログロでとても高度な知能を持っているようには見えないエイリアン。…それが最後のほうは愛らしくカッコよく見えてくるのだから、プロットの力ってすごい。

 

 

 制作費がハリウッド産SFモノにしては低予算(30億円)で、有名俳優は一切ナシ。主人公役のシャルト・コプリーは監督の友人で南アフリカのプロデューサーで、俳優が本業ではないという布陣。でも監督の才気とプロデューサーのサポート次第で、こんなに面白~い映画が出来るのですから、映画を作る人ってやめられないんでしょうね・・・。

 

 『第9地区』、とにかく現在公開中の作品ではイチオシです。オフィシャルサイトはこちら