杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

2018年春の映画鑑賞備忘録

2018-04-14 15:18:48 | 映画

 私の唯一の息抜きと言ってよい映画鑑賞。春はアカデミー賞ノミネート関連の作品がたくさん公開されるので、毎年集中的に映画館通いをします。今年は父の四十九日が終わった1月下旬から、週1~2本を目安に通い始めましたが、今のところ大きなハズレのない良作選びが続いています。とくに女性の描き方が素晴らしい作品が多く、爽快な気分で映画館を出られました。備忘録のつもりでリストアップしておきます。

 

★ジオストーム  今年最初に観た映画。地球滅亡の危機が、気候を制御するAIの暴走によってもたらされるというプロットは斬新でした。主人公の恋人の女性SPがやたらカッコよくて、日本語吹替版のブルゾンちえみもすごくよかった。ブルゾンさん、いい声ですね。朗読とかナレーションやったらどうかな。

 

★ブラックパンサー アメコミにしては深淵なストーリー。中心人物がほぼ全員アフリカ系で、国王のボディガードが全員女性ってまさに時代の反映ですね。しかも彼女たちがやたらカッコいい!個人的には「ホビット」のビルボ役マーティン・フリーマンとゴラム役アンディ・サーキスの対決再現がツボでした。

 

★スリービルボード 娘を殺された母親の絶対泣き寝入りしない男前っぷりにあっぱれ。個人的にはアカデミー作品賞。犯人の謎を最後まで引っ張るって私の好きなサスペンス「殺人の追憶」みたいでゾクゾクしますが、母親と警官が最後に交わすセリフには「殺人の追憶」を超えた人間ドラマがありました!

 

★羊の木  ちょっと残念だった作品。女性の描き方も残念。プロットはすごく面白いので、ブラックコメディにしたほうがよかったんじゃないかな。

 

★コンディデンシャル―共助  北朝鮮のイケメン刑事と韓国の熱血刑事が協働で、偽札造りの犯罪組織を追うという骨太エンターテイメント。対立構造の中にも存在する共感覚というプロットを素直に楽しめました。北の刑事をイケメンにしたのは北への忖度だろうか…笑?

 

★嘘八百  堺を舞台に、千利休ゆかりの茶碗の贋作で一儲けしようという詐欺師と骨董屋の怪しい世界をコミカルに描いた作品。白隠研究でおなじみ芳澤勝弘先生の名訳著『欠伸稿』が思わぬ形で登場して嬉しい限り!

 

★デトロイト アメリカの黒歴史に斬り込むキャスリン・ビグロー監督の容赦ない実話再現力に惚れ惚れ。女性フィルムメーカーの星ですね!スターウォーズ新シリーズのジョン・ボイエガが演技派だと知って得した気分でした。


★シェイプ・オブ・ウォーター こちらもヒロインの逞しさに惚れ惚れ。ダイバーシティの寓話化というのかな、今観るべき価値のある作品でした。

 

★グレイテスト・ショーマン  アカデミー賞授賞式での歌姫キアラ・セトルの「This is me」を聴いて映画館へ直行。

 

★ナチュラルウーマン  アカデミー外国映画賞。ホンモノのトランスジェンダー歌手が演じるトランスジェンダー歌手の役。これも今観るべき価値ある作品。

 

★15時17分、パリ行き  実際に起きた列車内テロを身を挺して防いだ一般市民を、当事者本人に演じさせるという今まで見たことのない映画。しかも事件前の平凡な日常を丁寧に描く。87歳でこういう挑戦ができるイーストウッド監督に惚れ惚れ。

 

★ペンタゴン・ペーパーズ~最高機密文書  情報公開法や公文書管理法に対する注目が高まる今、必見の作品。ワシントンポスト社の女性オーナーや編集長が、自身の地位(ポスト)と向き合う人間ドラマでもあるわけで、原題の「The Post」のほうがしっくりきますよね。「大統領の陰謀」や「ニクソン」を続けて観たくなります。WOWOWで放送するときはぜひお願いしたい。

 

★リメンバー・ミー  時間つぶしに観たアニメでしたが意外に深かった!メキシコの死者の日=日本のお盆のような民俗信仰をこんなに楽しくて感動的なエンターテイメントに仕上げるなんてさすがディズニー。アニメで「死」や「魂」を描くときの日本(たとえば「君の名は」)とハリウッドの違いが改めて分かりました。とにかく家族写真は大切にしなきゃ。

 

★しあわせの絵の具  モード・ルイスの絵はどこかで見たことがあると思いますが、こういう背景を持った人だと知ってより一層親しみを覚えました。モードを演じたサリー・ホーキンスはシェイプ・オブ・ウォーターでアカデミー主演女優賞にノミネートされましたが、こちらの方がスゴイ。彼女のハンディキャップ演技は演技とは思えません。

 

★ウィンストン・チャーチル  ゲイリー・オールドマンは私のお気に入りスパイ映画「裏切りのサーカス」でのアカデミーノミネーション演技に痺れてましたから、本作での受賞は当然という感じ。チャーチルの人となり(朝昼晩酒を欠かさないとか)をよく知らなかったので純粋に勉強になりました。こちらも「英国王のスピーチ」や「ダンケルク」を前後に観たくなる。WOWOWさんお願いします。

 

★素敵なダイナマイトスキャンダル  一世風靡した風俗雑誌の名編集長の自叙伝。ラジオでご本人が映画の紹介をするのを聴いて映画館へ直行。幼い頃、実母が愛人と駆け落ち&ダイナマイト爆発心中したというトラウマが効果的にインサートされて、主人公の人となりがしっくり伝わってきました。実母役の尾野真千子さん、NHKで「カーネーション」の再放送が始まりましたが、今の日本の女優さんでピカイチだと思います。

 

★クソ野郎と美しき世界  元SMAPの3人は、昔から素晴らしい演技派だと思ってた3人でしたが、本作はなんといっても園子温、太田光、山内ケンジという監督名に惹かれました。とくに山内さんは静岡県民におなじみ「コンコルド」のCMディレクターで、古館寛治さんも本作にしっかり登場されて安心?しました(笑)。オムニバスじゃなくて3人がちゃんと出演するオーシャンズ11みたいな作品が観たいな。

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世界遺産熊野へバス巡礼

2018-04-07 13:02:30 | ニュービジネス協議会

 3月25~26日、(一社)静岡県ニュービジネス協議会東部部会のタウンウォッチングで世界遺産の熊野古道へ行ってきました。私にとっては初めての熊野。古道歩きの巡礼ではなく、ほとんどがバス移動だったで、大っぴらに「熊野に行って来たー!」と言えないところもありますが、それでもこの地が霊場と参詣道として長い年月、篤い信仰を集めて来た理由の一端を感じることができたツアーでした。

 

 

 三島を朝5時30分に出発、私は7時過ぎに静岡ICで拾ってもらって一路伊勢路へ。お昼過ぎに到着した最初の訪問地は三重県熊野市、七里御浜沿いにある世界遺産『花の窟神社』です。

 ここは日本書紀に記される日本最古の神社で、神話の大母神イザナミノミコトが火神カグツチノミコトを産み、灼かれて亡くなった後に葬られた御陵。社殿がなく、高さ45mの石巌壁がご神体です。イザナミノミコトの霊にお供えする花を巌の所々に花を手向けたことから、花の窟神社という美しい名前が付けられたそう。この地を訪ねた西行が「三熊野の御浜によする夕浪は 花のいはやのこれ白木綿(しらゆう)」と、これまた絵に描いたように美しい歌を詠みました。岩の壁しかないお社を前に「ふ~ん」という言葉しか出なかった自分にしたら、こういう歌が詠める詩人に心底憧れてしまいます。

 

 次いで伊勢路を南下し、和歌山県新宮市の『熊野速玉大社』と摂社『神倉神社』を訪ねました。

 熊野速玉大社は全国3000余社の熊野神社の総本宮。熊野の神々は、神代の頃、まず神倉山のゴトビキ岩に降臨され、日本書紀には神武天皇が神倉を登拝したことも記されています。その後、現在地に真新しい宮を造営して「新宮」と号し、平安初期に現存する12の神殿・熊野速玉大社が完成したということです。

 最初に神々が降臨した神倉のゴトビキ岩に至るまでは、古道の趣そのものの自然石を積み重ねた500数段の険しい石段を登ります。これが、這いつくらねばならないほどの急勾配で、二足歩行の人類が種として退化させられたような屈辱感?を味わいました。ゴトビキ岩の懐からは弥生時代中期の銅鐸の破片も発見されたとか。そう、ここは日本人が祈りの時を、大河の源泉のように永く溜め続けた場所なんだなあと思えてきます。

 神倉山には初め社殿はなく、自然を畏怖し崇める自然信仰、原始信仰の中心だったそう。日本酒の起源を調べようと、神道や仏教の歴史を少々かじってきた自分にとっては、いっそう胸に迫るものがありました。

 ガイドさんから、さかんにパワーストーンパワーストーンとせっつかれ、順番に岩を撫で撫で。急峻な石段を顧みると、パワーを授かりたいという願望はさておき、日本人のはしくれとして先祖の切なる祈りの声を受け止めなければいけないなと思えてきます。いにしえの巡礼者は、今の自分なんかよりはるかに、生きがいを持って生涯を送ることが困難、いや、その日その日を生き抜くこと自体困難な時代に生を受けた人々に違いありません。健康で平和に暮らせている自分は、まずはここに来れたことだけで感謝しなければいけないですね。

 速玉大社には樹齢一千年のナギの御神木があります。ナギの葉は葉脈が真っ直ぐで折れたり切れたり絡まったりしていないため、”縁が切れない”という言い伝えがあって、ガイドさんから「お財布に入れておくとお金と縁が切れませんよ」と葉っぱをプレゼントされ、喜んでホイホイもらっちゃいました。こういうところがまさに人間の弱さ、なんです(笑)。

 熊野本宮大社に着いたのは夕刻でした。今年平成30年(2018)は、創建2050年という記念の年だそうです。かつては大阪から熊野まで99の王子社を廻りながら長い苦難の巡礼旅の果てに詣でる本宮大社。バスでちゃっちゃと着いてしまった自分には、本当の熊野詣の有難味は理解できないだろうと反省しつつも、檜皮葺の荘厳な社殿の佇まいに素直に感動しました。ブラタモリでも紹介されていましたが、元は熊野川の中州にあって、明治22年の熊野川大洪水を機に現在地に移築。中州だった場所には、平成12年(2000)に鳥居が再建されました。

 境内で目に付いたのは、八咫烏のマーク。サッカー日本代表のエンブレムで有名ですね。八咫烏は神の使者として神武天皇を大和橿原まで導いた3本足のカラス。3本足とは天・地・人を表現しています。蹴鞠名人の平安貴族・藤原成道が熊野詣の際、「後ろ鞠」という妙技(どんな蹴り方なんだろ?)を奉納したそうで、そんなこんなでボールをゴールに導いてほしいという願いから、日本代表のエンブレムに選ばれ、サッカー関係者にとっての必勝祈願の地にもなっています。この黒ポストから手紙を投函すると、八咫烏の郵便印付きで届くそうです。

 

 本宮大社HPの解説によると、熊野三山(本宮大社・速玉大社・那智大社)では、熊野本宮大社の主祭神・家都美御子神を「阿弥陀如来」、熊野速玉大社の主祭神・熊野速玉男神を「薬師如来」、熊野那智大社の主祭神・熊野牟須美神を「千手観音」としてお祀りしています。そして三山はそれぞれ、本宮は西方極楽浄土、速玉は東方浄瑠璃浄土、那智は南方補陀落浄土と位置付けられ、平安時代以降には熊野全体が浄土の地として崇められた。まさに神仏混合の聖地です。

 私は4年前、大阪市立美術館で開催された紀伊山地の霊場と参詣道世界遺産登録10周年記念「山の神仏」展で、薬師如来に例えられた熊野速玉男神坐像を実際に拝見し、神仏混合の歴史と意味合いについて興味深い講演を聞きました(こちらを参照)。実際に訪ねた熊野本宮や新宮は、世界遺産登録を機に周辺が整備され、却って霊場としての趣きが失われたんじゃないかとも思えますが、目に見えるものではなく、見えないものを感じる心が試されているのかもしれませんね。

 

 ところでニュービジネス東部部会でこのツアーが決まったのは、ひとえに部会リーダーである三嶋観光バス㈱の室伏強社長の行動力でした。東部部会では2020年東京五輪自転車競技の開催を契機に、静岡県東部や伊豆地区のヘルス・エコツーリズムの可能性を探るべく、先進地への視察を検討していた中、三島を舞台にした映画『惑う』の林弘樹監督から「熊野の玉置神社がスゴイ」と勧められ、同時期に偶然、別の観光業者からも「玉置神社は神に呼ばれた人しかたどりつけないらしい」と聞いて、これは呼ばれているかもしれないと思い立ったのだそう。社長自らバスを運転するという気の入れようでした。

 その玉置神社には、翌26日午前中に訪ねました。本宮大社から続く大峯奥駈道は現役の行場で、看板らしきものは一切なく、徒歩巡礼者にとっては難所中の難所とのこと。もちろん我々は国道168号線をバスで向かいましたが、国道といっても細く険しい難路で、途中でトラックと正面衝突しそうになったり、工事車両に道を阻まれたりと、”ひょっとしたらたどり着けない恐怖”を何度か味わいました。実際にハンドルを握っていた室伏社長、標高1000mにある玉置神社の鳥居が目に入ったときは、さぞホッとされたでしょう。

 鳥居から拝殿までは15分ほどの森林ウォーク。参道には紀伊半島が誕生した頃の枕状溶岩がせり出していていました。海底噴火の爪痕が標高1000mの高さまで堆積したんですね。さらに進むと、樹齢3000年と言われる神代杉、常立杉、大杉などの巨樹林が拝殿を覆うように林立しています。温暖多雨な気候と土壌のもと、永らく聖域として伐採が禁じられていたためです。晴天のこの日は、目に入るものがクリアなビジョンでしたが、霧がかかっていたら水墨画のような世界になるんだろうと想像しました。神代杉は確かに物の怪が宿ったようなお姿。私の好きな映画『ロード・オブ・ザ・リング』に登場するエントの木の髭を彷彿とさせます。

 この神社が創建されたのは10代崇神天皇の代、悪魔祓いが目的とのこと。根っから鈍な私は、神秘体験とはとんと縁がありませんが、正式参拝したとき「光の羽が見えた」と叫んだ参加者がいました。シックスセンスというのかな、そういう感性を持つ人がちょっぴり羨ましくなります。肝心の室伏社長は、参拝記念に玉置神社の名前入りタオルを貰っていたく感激。そうそう、神主さんが若い女性だったというのも意外というか、新鮮でした。

 

 次いで吉野熊野国立公園内の奈良県・三重県・和歌山県にまたがる国特別名勝の大峡谷・瀞峡(どろきょう)を見学。古くは玉置神社の御手洗池だったそうで、巨岩・奇岩・断崖絶壁と深いコバルトブルーの水面が、日本の風景とは思えない強烈なインパクトを与えます。観光用のジェット船が疾走する姿が目に飛び込んできて、ああ、現代の観光地だと我に返りましたが、玉置神社同様、濃霧にでも覆われたらさぞかし原始的な風景を醸し出すのでしょう。休業中で中が見られなかった瀞ホテル、ここも実に絵になります。


 

 旅の終わりは入鹿温泉流荘でランチをした後の鉱山トロッコ電車乗車体験。三重県熊野市紀和町は1200年以上も昔から銅が採掘され、鉱山の町として発展してきました。その鉱山で実際に使われていたトロッコが観光用として復活。入鹿温泉ホテル瀞流荘と湯ノ口温泉の発着場を結ぶ約1kmの元鉱山トンネルを、約10分で走る小さなトロッコ旅が体験できます。瀞流荘の駅は桜が満開で、素晴らしいお花見&トロッコ体験を満喫しました。

 

 2日間ほとんどバス移動で、車中での過ごし方に一考の余地があったものの、熊野の聖地巡りは、自分が日本人でよかったと思えた素晴らしいツアーでした。見晴らしのよい季節ばかりでなく、見通しのよくない季節にも訪ねてみたいと思わせる不思議な魅力。第六感のない自分にも、見えないものに心を寄せて来た日本人の精神性をしみじみ尊く感じることができました。

 キリスト教の神学では神の存在を「存在するから信じるのではなく、信じるから存在する」と説明するそうです。存在するから~は科学的論理、信じるから~は宗教的論理。自然や歴史をテーマにしたツーリズムをビジネスとして考えた場合、どちらの論理も不可欠だろうと思います。今回帯同してくれた現地ガイドさんは、神倉神社を毎朝欠かさずお詣りしているとのこと。そういう人の言葉は心に響くということが、客目線で体感できました。ツーリズム成功のカギは、まずは人材育成というところでしょうか。

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静岡県の朝鮮通信使研究を継ぐ者

2018-04-04 19:46:18 | 朝鮮通信使

 今朝(4月4日)の静岡新聞朝刊の訃報記事で、静岡県立大学元教授で比較文化学者の金両基(キム・ヤンキ)先生がお亡くなりになったことを知りました。朝鮮通信使の世界記憶遺産登録を日韓共同で実現させた功労者で、私にとっても朝鮮通信使学の偉大な師匠。長く闘病されておられたのは知っていましたが、2月に清見寺で開かれた世界遺産登録記念式典ではお元気な姿を拝見したばかりだったので、記事を見て思わずエッ!と声を上げてしまいました。世界遺産登録をしかと見届けての旅立ち、さすが金先生、とあえて言わせていただきます。

 

 今日は偶然、金先生も発起人のお一人として尽力された静岡県朝鮮通信使研究会の10周年記念講座レジメ集成『静岡県の朝鮮通信使』が完成し、印刷所より見本を入手しました。研究会の天野一会長が発行人となり、座長の北村欽哉先生が制作された10年分のレジメを約170頁の冊子にまとめたものです。私は編集のお手伝いをし、北村講座の受講後にこのブログで報告した内容を〈ブログ解説〉として掲載させていただきました。

 好き勝手に書いたブログ記事を、北村先生の貴重な研究録と一緒に掲載させていただくのは大変おこがましいのですが、「スズキさんのブログは侮れないですよ」と北村先生に苦笑いされました。というのも、本誌のあとがきに、静岡市美術館で開催された『駿河の白隠さん』で〈龍杖図〉と〈中寶山折床會拙語〉が並んで展示されたのは、北村講座の小島藩惣百姓一揆の解説を参考にしたようで、美術館の展示や図録で解説者がそのことに触れていないのはさびしい、と。どうやら私が北村講座の内容を聞き書きして〈駿河史秘話~小島藩と白隠禅師と朝鮮通信使〉と題してブログ(こちらこちら)で発信したのを解説者が読んだのがきっかけらしいのです。事実であれば、白隠さんの展覧会で参考にしてもらったなんて実に光栄な話ですが、利用されっぱなしの北村先生には申し訳ないかぎり…。

 

 天野会長はそんな北村先生の地道な朝鮮通信使研究を、会員のみならず出来るだけ多くの静岡県民に広報したいと願っておられました。私も同様で、知り合いの出版関係者に先生の本を出してもらえないかとお願いしたことがありましたが、時機に至らず、だったよう。昨年、北村先生は羽衣出版から『寺子屋で学んだ朝鮮通信使』を上梓されましたが、内容は先生の膨大な研究の一部に過ぎません。そんなときに白隠展の一件があって、先生が、まずは県朝鮮通信使研究会の活動記録をちゃんと作らねば、と本腰を入れられたのもうなづけます。

 

 基本的に講座で使用したレジメを講座開催順に掲載したものですから、受講していない人が読んでもわかりにくいと思いますが、江戸の庶民が政治や外交に対してどのような感覚を持っていたのか、朝鮮通信使を通して時代や地域性がじわじわ見えてくる、そんな面白さがぎっしり詰まった内容です。そう遠くないうちに北村先生がしっかりとした研究書をまとめられると思いますので、とにかく今は、せっかく世界記憶遺産に登録された朝鮮通信使について、多くの人に関心を持ち続けていただくよう、このレジメ集成を活かす方法を考えたいと思います。

 本誌を入手希望のかたは、静岡県朝鮮通信使研究会事務局(天野一事務所 TEL054-266-3343)までお問い合わせください。

 

 最後にひとつ、ぜひご紹介したいのが、本誌にも掲載された世界記憶遺産の一つ・清見寺に残る朝鮮通信使従事官・南龍翼(南壷谷)の詩〈夜過清見寺〉。このブログでも再三紹介(こちら)させてもらいました。


夜過清見寺

 日落諸天路  風翻大海波  法縁憐始結  詩句記曾過  瀑布燈光乱

 蒲圑睡味多  客行留不得  其奈月明何

(鈴木真弓の意訳)天上人が舞い降りる道に、日が落ち、風が立ち、大海原が波立っている。ここで詩を詠むことは、みほとけの縁(えにし)だろうか。滝のしぶきに灯光がきらめくのを眺めていると、心地よい眠りに誘われる。旅はまだ終わらないが、こんな月明かりの夜は、このまま留まっていられたら・・・と思わずにいられない


 この意訳を2007年制作の映画「朝鮮通信使~駿府発二十一世紀の使行録」の脚本で書いて、主演の林隆三さんに朗読していただき、痺れるような感動を得た思い出の詩。2月、金先生と最後にお会いした清見寺での世界遺産登録記念式典で久しぶりにこの詩の扁額と再会し、フェイスブックで紹介したら、金先生から「私は南壷谷の子孫」と驚きのコメントをいただきました。


 今までそうとは知らなかったので、びっくりしたと同時に、やはり先生が朝鮮通信使の研究をこの世に残されたのは天命だったんだなあとしみじみ。これから清見寺でこの扁額を見るたびに、金先生の笑顔や歯に衣着せぬ物言いを思い出すことでしょう。先生の遺志をささやかでもしっかりつなげていきたい、と噛み締めます。・・・先生、ご先祖の南壷谷さんにお会いできたでしょうか?

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「しずおか酒と人」原画展@お抹茶こんどう

2018-04-02 12:41:09 | しずおか地酒研究会

 平成30年度本格スタートの今日(4月2日)、大切な記念日を迎えられた方も多いと思います。かくいう私も、人生初の試みがスタートしました。・・・なんてえらく大げさですが、昨年初めておじゃまして懇意になった静岡市駿河区津島の『お抹茶こんどう』(こちらを参照)にて、自作のイラスト原画展が始まったのです。30年余、静岡県内のさまざまなお店を取材等で廻ってきましたが、こういうお声かけをしていただいたのは初めてで、本当に嬉しく感激しております!

 

 テーマはずばり「しずおか酒と人」。1997年9月から1998年10月まで13か月、毎日新聞朝刊地方面にて週1連載した「しずおか酒と人」をはじめ、今まで雑誌等に書き下ろした酒蔵の手描きイラストの原画数点を、お店に飾らせていただきました。

 基本的に文章を補完する目的で描いたもので、作画はまったくの独学。イラストだけでは意味がわからなかったり、面白みに欠けると思いますが、静岡県内の蔵元さんや杜氏さんをご存知の方なら「ああ、この蔵のあの人!」と判っていただけるでしょう。中には光栄なことに酒瓶ラベルに出世!したイラストもあり、実際にそのお酒を飲みながら鑑賞していただければ最高なんですが、ここは静岡茶やとろろなど静岡の味を楽しむ食事メインのお店で、取り扱う地酒は銘柄が限られています。広~い意味で、静岡の酒はこういう人たちが頑張って造っているんだなと妄想していただけばありがたいです。

 

 お抹茶こんどうは、日本茶インストラクターのオーナー近藤雄介さんが静岡茶をはじめ静岡産食材にこだわったお店。県外のお客さんをおもてなしするのに最適な穴場的名店です。名物抹茶カクテルは、目の前で静岡県産緑茶を石挽し、抹茶にしたものを生ビールに注ぐというこの店ならではのスペシャルなテイストです。

 「しずおか酒と人」展は5月いっぱいまで2か月間やらせていただきます(途中で作品入れ替えあり)ので、この機会に歓迎会等でご利用いただければ! ぜひよろしくお願いします。

 

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「Tabi tabi」しずおか今昔物語3~鎮守の森としての谷津山

2018-03-19 10:31:30 | 歴史

 静岡新聞社から『しずおか知的探検BOOK Tabi tabi 』の第3号が刊行されました。今回の特集は春に相応しい〈花と緑のボタニカルツアー〉。書店の平積みを見た時は、ひと足早く開花した桜のような表紙のピンクカラーのロゴがパッと目について、まさに春到来気分。今日は静岡市内の公立小学校の卒業式ですが、ライターにとって自分が関わった雑誌を初めて店頭で見つけた時は、自分の子どもがまさに卒業式で旅立つ日を迎えたような心境、です!。

 1年前の2017年春に創刊したTabi tabi。創刊号特集の〈今日は、渚へ〉では、総延長505キロという長い海岸線を持つ静岡県の海の文化と人にスポットをあて、歴史コーナーを受け持たせていただいた私は、こちらで紹介したとおり清水港の歴史について寄稿しました。

 

 2017年秋発行の第2号は〈列車で行こう、どこまでも〉。文字通り鉄道の旅がテーマです。個人的にもとても好きなタイトルチューンで、どのページも本当に読みごたえがありました。歴史コーナーでは御殿場線と丹那トンネルを取り上げ、御殿場沿線に酒蔵を建てた近江商人について書いた当ブログの過去記事(こちら)が役に立ちました。

 そして今回の花特集。敬愛する浜松フラワーパーク理事長の塚本こなみさん、富士山下山ツアーや茶市場ツアーを企画するそふと研究室の坂野真帆さん、静岡県を代表する日本茶インストラクターの松島章恵さんなど昔からの知り合いが何人も紹介されていて、頼もしく拝読しました。植物や自然に関わる仕事をしている女性は、体力があるし表情や姿勢も文句なく美しい。日の当たらない環境でモグラのように仕事する自分には眩しい存在です(笑)。

 歴史コーナーでは静岡市のど真ん中にある谷津山を、ちょっと強引でしたが〈鎮守の森〉に見立てて考察してみました。横内小学校に在校していた頃、持久走で走らされて、どうにも辛い思い出しか残っていなかった谷津山でしたが、谷津山がどういう山なのか、もう少しちゃんと勉強しておけば、もっと違う思い出を残せたかもしれないと、今回つくづく思い知らされました。

 

 今回の取材では谷津山再生協議会(こちらの石井秀和さんにお世話になり、同協議会が昨年12月、国際ソロプチミスト静岡と共催した小学生~大学生対象の植物同定講座(谷津山活用モデルエリア観察会)にも同行取材させていただきました。同定とは生物の分類上の所属や種名を決めることで、主催者側が用意した葉っぱが、実際に谷津山のどこにどんなふうに生育しているのかを探る、ちょっとしたゲーム感覚の観察ツアー。このゲーム感覚というのが大切で、子どもたちは宝物を探すかのように本当に楽しそうに葉っぱ探索をしていました。現場観察では放置竹林の被害の深刻さを目の当たりにしましたが、石井さんは「竹の伐採もゲーム化できれば面白い」とおっしゃっていました。

 竹の伐採には行政や所有者の許可が必要だし、実際の伐採にはボランティアの力が不可欠だし、伐採後の竹を有機肥料等に活用する手段は企業の知恵が必要でしょう。昨年11月に取材した静岡県ニュービジネス大賞で最終エントリーに残った浜松の㈱田中造園は、放置竹林の竹を竹チップ化し、雑草の飛来種発芽を防ぐ独自技術を開発した企業でした。詳しくは同社HP(こちら)をご参照いただくとして、こういう企業をスポンサーに、竹をハンティングするゲームのようなものが出来れば本当に面白いな、と思いました。

 最大のネックは、伐採許可のネックとなっている、方々に離散した土地所有者。谷津山に土地を所有する個人はゆうに500人はいるそうで、判明している所有者間では協定を結んでいるものの、所有者がわからない箇所も少なくない。こういう問題は、おそらく谷津山に限ることではなく、全国各地の放置竹林対策で問題になっているのでしょう。有効な解決策が見つかるまでは、石井さんたちのようなボランティア団体が地域の人々に、谷津山の今の姿を地道に訴え続けていくしかないようです。

 

 ちょうど今、別の仕事で、今話題の新素材セルロースナノファイバー(CNF)についての執筆をしているところです。静岡市清水区出身でCNF研究の世界的権威である東京大学大学院の磯貝明教授のお話を要約すると、

 植物がどうして重力に逆らって自分の体を空に向かって成長させ、なおかつ根から水を吸い上げ、葉っぱで光合成をして、自分の体を作れるのか。どうして風雨に耐え、重力に逆らい、虫や鳥にもやられずに生命を維持できるのか。元をたどると階層構造の一番下にあるのがセルロースというまっすぐな分子。

 セルロースを切って拡大すると、パイプ状の繊維の集合体になっており、パイプを11本バラバラにしたのがパルプといわれる短繊維。これをもう一度シート状にしたのが紙になる。紙の繊維は長さ1ミリから3ミリ。幅がこれくらいで、よく見るとまた繊維の集まりになっており、セルロース分子に次ぐ小さなエレメントの構造体。学術的にはセルロースミクロフィブリルといわれ、セルロース分子が6×636本、まっすぐに束ねられた幅3ナノメーターというめちゃくちゃ細いものから出来ている。

 植物は自分の体を支えるために6×636本のセルロースミクロフィブリルをびっしり強固に水素結合させている。ロースミクロフィブリルというのは植物中に大量に、数えきれないくらいのナノファイバーが入っており、地球上で最大の蓄積量で年間成長量の、生物が生産するナノ素材である。しかしこれまでこれを1本1本剥がすことができなかった。化学薬品や熱を加えて強引に剥がすことが出来ても、環境に負荷がかかる方法では事業化できない。

 

ということ。磯貝先生はTEMPO触媒酸化方法という環境に優しいCNF抽出方法を開発し、緑のノーベル賞といわれるマルクス・ヴァーレンベリ賞を受賞されました。CNFは重さは鉄の5分の1、強度は鉄の5倍といわれ、応用分野の裾野の広さは計り知れないだけに、静岡県でも富士山麓のパルプ産業集積地を中心にこの事業に注力していくようです。こういう事業が自然と折り合いを付けて循環していく時代になれば、谷津山の問題もいつか淘汰され、人間が鎮守の森に寄せていた本来の「森に活かされていることへの感謝」を実感できるかもしれませんね。

 

 今回執筆した谷津山は先史時代からの歩みを大雑把に振り返ったものですが、歴史とは、単に振り返って懐かしむのではなく、今、そして未来に活かされるいのちのつなぎ方を学ぶ教科書にしたい・・・こういうテーマを手掛けると、そんなふうに思えてなりません。

 今回の記事も、まあまあ硬くてとっつきにくく、子どもたちの読書対象にはならないと思いますが、書いた内容は谷津山を走り回る我が後輩たちにぜひ知ってもらいたいなと願います。周辺の学校の先生方、ぜひよろしくお願いします!

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