杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

「杯が満ちるまで~しずおか地酒手習帳」編集後記(その1)

2015-10-30 07:19:08 | 地酒

 【杯が満ちるまで~しずおか地酒手習帳】が発行され、1週間が経ちました。この間、ご縁のあった方々よりたくさんのお祝いメッセージをいただきました。あらためて心より感謝申し上げます。

 

 自分の名前で書いたものが値の付いた単行本として売られる。請負業務ではなく、自分がライフワークとして取り組んできたテーマが本になって、一般の人の眼にさらされる。・・・今まで経験したことのない緊張感と高揚感でいっぱいいっぱいの1週間でした。メールやフェイスブック等で少しずつ感想コメントもいただき、嬉しくもあり反省もあり、の毎日です。

 多かったのが「読みやすかった」というご意見で、酒の業界ではない知人からも「あっという間に読めた」と言われ、ちょっとびっくりでした。私の文章は硬質でとっつきにくいと言われることが多いのですが、すんなり読んでいただけたとしたら、編集者の石垣詩野さんのスパルタ指示のおかげです。

 

 最初に書き上げた原稿(とくに参之杯の章)は、7万字をゆうに超える文字量で、石垣さんから「行政の仕事をしてきたライターさんは慎重に説明しすぎる」「酵母の解説は難しすぎて一般読者はついていけない」と一刀両断。3分の1に削るよう指令が下りました。大切に温めて書き上げたものを否定されたようでグサッときましたが(笑)、自分の原稿をこれほど真摯に読み込んでくれる人は他にいないし、なにより、最初に「マユミさんの酒の本を作りたい」と言ってくれた大切な同志。この人をナットクさせるものを書き上げねば!と逆に闘志が湧き、彼女が周囲からいい仕事をした、と評価されるようなものを書こう、と奮い立ちました。

 

 文章を削る作業には慣れていたものの、平成元年から取材を続けてきた酒蔵の物語(参之杯)に関してはかなり苦しみました。まさに身を削る作業といっていいくらい。書くときは「杜氏が身を粉にして醸す・・・」なんてさらっと書いちゃうけど、本当に削る作業がこれほどしんどいとは・・・。どうしても指定の文字数まで削りきれず、「文字の大きさを小さくして2段組みで入れることはできませんか?」と泣きついたときは、石垣さんがボスに交渉してページ数を増やしてくれました。

 表現をやわらかくするのも、今まで他人のインタビューや取材調査をベースにした記事を書くことが多かった自分には慣れない作業でしたが、映像作品『朝鮮通信使~駿府発二十一世紀の使行録』で朗読脚本を書いた経験と、現在担当するラジオの構成台本の仕事を通し、「声に出して読みやすい文章」「耳で聞いて心地よい文章」を書く訓練が活かされました。書いた文章はすべて音読してみて、リズミカルに読めるか、耳障りがしないかを確認。結果的に「マユミさんが語っているような文章だね」って言ってくれた人もいました。多くの方が読みやすいと感じていただけたのなら、そういうトーンで書いてくださいと指示してくれた石垣さんのおかげです。

 今回の仕事を通してあらためて、本というのは、書き手と編集者と版元によるプロダクト製品なのだとしみじみ実感しました。ひとりよがりでも指摘してくれる人がいないブログ記事や自費出版物とはやはり違う。ページ数が増えたことでコスト増の“仕様変更”を上司に直談判してくれた石垣さん、最後にハンコを押してくれた上司の庄田さん、ポップやポスターまで作って県内書店に直接宣伝に出向いてくれた営業スタッフのみなさん。・・・本づくりのプロたちとがっつり仕事ができたことが、何よりの幸せです。

 

 さて、あんまり内輪の裏話をしても興ざめだと思いますので(苦笑)、ここからは【杯が満ちるまで】【杯が乾くまで】のコラボ企画。本に掲載しきれなかった写真を紹介していきます(・・といっても、ここで投稿済みのものも結構あるんですが)。

 

 冒頭の「はじめに」の背景に使われた写真、何人かから「何のお米?」と聞かれました。

 これは、今年1月のこのブログ記事(こちら)で紹介した出麹で、「小夜衣」の森本酒造(菊川)で撮らせてもらいました。森本さん父子の半裸の麹造り写真(P8グラビア右下)は、石垣さんが最初、「ナマナマしい・・・」と躊躇(笑)したのですが、他に撮らせてもらった蒸し米作業や酒母立て等の写真と並べてみて、父と息子が向き合ってタイミングを合わせながら真剣な眼で作業しているこのショットが自分でもベスト。写真の選定はすべて石垣さんとデザイン担当者に一任したのですが、任せて正解!でした。

 

 これからもグラビアページ等で泣く泣く落とした写真を紹介していきますね。

 


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「杯が満ちるまで~しずおか地酒手習帳」発行しました

2015-10-23 06:34:25 | 地酒

 2015年10月23日、静岡新聞社より【杯が満ちるまで~しずおか地酒手習帳】を発行しました。静岡新聞出版部の担当の方々が21日から県内書店に営業挨拶に回ってくださって、私も22日から取材関係者先に挨拶回りを始め、「もう書店に並んでたよ」「目立つところに平積みしてあったよ!」と言われてびっくりアタフタ。嬉しいフライングでした。

 

 

 前作【地酒をもう一杯】から17年。亡くなった蔵元さんや杜氏さん、やむをえず店をたたまれた酒販店さんや飲食店さんもいらっしゃって、17年という歳月の重みを実感する取材でした。17年前のご自分の掲載写真を見て照れ笑いし、ご家族や従業員さんから冷かされるお元気な蔵元さんや店主さんから「お互い齢をとったけど、頑張ろうね」と言われたときは、酒の取材をライフワークにできたことを心底嬉しく思いました。

  

 地方の出版・書販環境の厳しさは、地方の酒を取り巻く環境にどこか似ているところがあります。本を作る、売る、買う人の情熱もまた、酒を造る、売る、飲む人のそれに通じるところがあると感じます。本も酒も、生きていく上で必要不可欠な生活必需品、というわけではないかもしれませんが、本も酒もない人生なんて想像出来るでしょうか・・・文明を持ち始めてからの人類の歴史で、書物と酒のない時代なんてあったでしょうか。都会だろうが地方だろうが、その土地の文化を伝える大きな柱に違いありません。地方には地方の、本と酒が生き残る手法があるはずだ・・・そんなことを、挨拶回りをしながらつらつら考えました。

 

 なんだが上から目線の物言いですみません。今回は【地酒をもう一杯】の改訂版というよりも、私の個人的な酒歴をベースにした読み語り風に仕上げてあります。このブログで書き溜めたネタもたくさん出てきます。表紙は静岡新聞出版部の20代の編集者兼イラストレーターに「同世代の読者がクールだと思うデザインにして」とお願いしたところ、こんな感じの、おんな酒場放浪記ふう(笑)になったのですが、若い人ってこういうのがクールなんだ・・・!と目からウロコでした(笑)。

 

 本書の文末に用意した謝辞を紹介させていただきます。ページが足りなくなって、掲載した謝辞はうんと短くなってしまったのですが、ここでは全文を掲載いたします。

 今後、【杯が満ちるまで】に載せられなかった写真等も、この【杯が乾くまで】で随時紹介してまいりますので、【満杯】【乾杯】ともによろしくお願いいたします!

 

 

 ある料理人から「店に飲みに来た客に、この酒を造っている人はね…って話して聴かせ、会話が弾む、そんな物語を書いてほしい」と注文されたことがありました。解説本にありがちな「どういう味か」「どうやって造ったのか」より、「どういう人が造っているのか」。よく知られていない銘柄、知られすぎている銘柄にも、産みの苦しみがあり喜びがあります。「酒の味とは、造る人自身」―これが、四半世紀以上の取材活動を通して得た私自身の確信でもあります。

 この本ではこれまでご縁をいただいた造り手の尊い酒造人生を伝える重みを受け止め、自信を持って書けるまで新たに取材や調査を加え、それがかなわなかった造り手は割愛させていただきました。県内全蔵元・全杜氏を等しく紹介できなかったことを、まずはお詫び申し上げます。

 

 静岡新聞社発行のタウン情報誌『静岡ぐるぐるマップ』のライターをしていた昭和62年(1987)頃、取材先の店で偶然、酒造りに情熱を傾ける人々に出会い、静岡吟醸の味に感動。一人の静岡人として、「地酒なんだから地元の人と一緒に呑んで感動を分かち合いたい」という単純な欲求に駆られ、酒販団体の会報誌や地域情報誌で少しずつ酒の記事を書くチャンスを得て人脈を広げました。

 20年前の平成7年(1995)、静岡市南部図書館で静岡の酒をテーマにした市民講座を企画し、一般の方々に地酒について直接語りかける場を得ました。講座はキャンセル待ちが出るほどの盛況で、「有料でもいいから続けて」という声をいただきました。

 これをきっかけに、平成8年(1996)、しずおか地酒研究会という愛好会を作りました。発足直後は120人ほど集まり、静岡県沼津工業技術センターや県内の山田錦圃場を見学し、南部杜氏のふる里ツアーを敢行。蔵元vs酒販店のパネルトーク、女性だけの地酒ディスカッション、山田錦の玄米を食べる会、静岡在住の外国人を招いて地元農家の母さん手作り酒肴と蔵元のコラボ、酔い止め用のお茶の飲み方講座、陶芸家を囲んでMY酒器自慢のサロン、駿河湾地引網体験、2004年浜名湖花博での庭文化創造館地酒テイスティングなど等、地域資源や人材を活かしたプログラムで地酒未体験者を巻き込んで、地酒の持つ潜在的な魅力の掘り出しに努めました。個人の思いつきでこんなことが続けられたのも、新しいファンが確実に増えているからでしょう。

 

 しずおか地酒研究会の発足間もない頃、『開運』の土井清幌社長(現会長)が、会の“効能”を「地元のいい酒を楽しい雰囲気で呑んでいると、隣に座った初対面の人が長年の親友のような気分になる。お茶や饅頭じゃこうはいかない」と評価してくださいました。

 地酒は人と人をつなげ、地域コミュニケーションを円滑にし、実り多きものにしてくれます。今では売り手や飲み手の方々が独自に酒の会やイベントを開くようになり、業界の外から投じた“貧者の一灯”は、少しずつですが光量を増しているように感じます。

 これまで思い込みだけで突っ走ってきた自分を辛抱強く導いてくださった造り手・売り手・飲み手の皆さまには、心から感謝申し上げます。皆さまは私に「本」という杯に注ぎ込む地酒の物語をたっぷり聞かせてくださいました。本当にありがとうございました。

 

 その杯を用意してくださったのが静岡新聞社出版部の石垣詩野さん。彼女のしなやかな感性と酒への好奇心が、今までにない地酒本を生んでくれました。

 共に注ぎ手になってくれたのがフォトグラファー山口嘉宏さんと佐野真弓さんです。佐野さんは静岡ぐるぐるマップ時代からの“戦友”。山口さんは世界中を飛び回り地球の裏側の街の路地裏・酒場・子どもたちの写真を撮り続ける映像作家でもあります。2人のレンズからは、造り手・売り手の今まで見たことのない生き生きとした表情が引き出され、書き手として大いに刺激をいただきました。3人の“チーム地酒満杯”にも深謝いたします。

 静岡の酒が読み手・飲み手の皆さまにとって得難い人生パートナーになることを祈って、酒縁に乾杯!

 

 

 なお、県内主要書店にてお取り扱いいただいていますが、静岡県外のかたにはネット通販(静岡新聞社アットエス、amazon)をご利用いただくことになります。サイトでの掲載まで少々時間がかかりますので、もうしばらくお待ちください。「早く読みたい!」とおっしゃる奇特な方がいらしたら、鈴木までご一報ください♪

コメント (2)
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20年後のビッグビジネスを語る

2015-10-07 11:04:50 | ニュービジネス協議会

 ノーベル物理学賞のニュースで、素粒子ニュートリノがふたたび脚光を浴びています。ニュートリノといえばカミオカンデ。カミオカンデといえば浜松ホトニクスの光電子倍増管。ちょうど1年前に浜松ホトニクス中央研究所を訪問して、スーパーカミオカンデに設置された20インチの倍増管(実物)を見せていただいたことを鮮明に思い出しました(こちらの過去記事を)。

 同研究所の訪問は、昨年11月20日に開催された【新事業創出全国フォーラムIN静岡】のパネルディスカッションに、原勉所長をお招きすることになったため。パネルディスカッションの記録を読み返してみると、新しい産業というのは日本の科学の、地道で陽の当たらない基礎研究の積み重ねによって支えられていることが伝わってきます。そして科学者は、その研究が社会にどう活かされるか、その視点が必要なんだろうと実感します。自己探究心を満足させ、名を残すだけを目的にしちゃいかんのだと。これは白隠禅師がよくおっしゃっていた「上求菩提 下化衆生」=つねに衆生(庶民)とともに救済されることを念頭において自己を向上させよ、という教えと同じではないでしょうか。

 大村智教授が受賞された医学生理学賞でも土中の微生物が注目を集めています。微生物とニュートリノ・・・人間の眼には見えない存在ながら、人のいのちや暮らしに大きな存在となっている・・・無と有、まさに禅の世界だなあとしみじみ思います。

 

 それはさておき、私がまとめたパネルディスカッションの記録は、ニュービジネス協議会の会報誌で発表しましたが、多くの方に読んでいただきたいと思い、再掲いたします。

 

パネルディスカッション「ふじのくにから未知への挑戦~20年後のビッグビジネスを語る~」(抜粋)

 第10回新事業創出全国フォーラムIN静岡 2014年11月20日 グランディエールブケトーカイにて開催

<パネリスト>

山口 建氏(静岡県立静岡がんセンター総長)

木苗直秀氏(静岡県立大学学長)

山本芳春氏(㈱本田技研工業取締役専務執行役員 ㈱本田技研研究所代表取締役社長執行役員)

原  勉氏(浜松ホトニクス㈱常務取締役 中央研究所所長)

 

<コーディネーター>

鴇田勝彦氏(一般社団法人静岡県ニュービジネス協議会会長 TOKAIグループ代表)

 

 

(鴇田)2005年からスタートした新事業創出全国フォーラムは今回で10回目を迎えました。今回のテーマは「ふじのくにから未知への挑戦」ということで、日本のみならず世界をも驚かす技術をもっておられる静岡の企業、大学、医療機関の方々をお招きし、ディスカッションをしていただきます。まだ誰も知らない世界、誰もがほしがる世界、そんな未知の世界へ果敢に挑戦されている方々です。ぜひとも20年後のビッグビジネスについて、妄想を語っていただければと思っております。

 

(山口)医療機関とは究極のサービス業だと考え、いのちの質(Quality of Life)、死の質(Quality of Death) というものと向き合っております。

 静岡がんセンターはまったく新しいところから始まった病院です。私は徳川慶喜公の孫にあたる故高松宮妃殿下の主治医を務め、「おもてなしをしっかりするように」と教えていただきました。最近、東京オリンピック決定以降、軽薄なおもてなしが流行っておりますが(笑)、真の、重厚なおもてなしの精神を以って静岡でガン医療を提供しようと努力しております。

 医療城下町構想は患者さんのために産学官金が一丸となって「モノづくり、ヒトづくり、まちづくり、カネづくり」に取り組もうと10年前に提唱したものです。最近になって政府が「まち・ひと・しごとづくり創生本部」というのを立ち上げましたが、我々は10年先取りしてやっております。

 

(木苗)どの大学でもそうですが、大学の使命とは教育、研究、社会貢献(地域貢献、国際貢献)であります。私が6年前に学長になったときに作ったキャッチフレーズが「個を磨き強い絆で知を発信」です。ようするに各学部や教室でそれぞれ個人が自分を磨き、それから強い絆で一致団結して国内外に発信する。集団でやることによって10年20年後、一人では出来ないような大きな仕事ができるということです。

 食品関連では文科省から5年間の研究予算をいただいております。今年採択された事業では「ふじのくに静岡県、体の健康・心の健康・地域の健康」を合言葉に10年20年先にも地域そして世界で貢献できる事業にしていきたいと考えております。

 

(原)浜松ホトニクス中央研究所の原です。今日は全国からお集まりということでご存知ない方もいらっしゃるかもしれませんが、浜松というのはテレビ発祥の地であります。高柳健次郎先生が浜松高等工業(現・静岡大学工学部)に赴任され、1926年、テレビジョンの画像にイロハの「イ」の字を映し出すことに成功しました。20年30年先の産業の種を創ったということで、高柳先生の弟子の一人が当社の創業者堀内平八郎でございます。堀内は現会長の晝間輝夫とともに1953年に会社を創立しました。哲学は「真の価値はお金ではない、新しい知識だ」。現在、光情報処理・計測、光材料、光バイオ、健康医療という4つの分野を中心に一生懸命やらせてもらっています。

 

(鴇田)山口さん、最先端医療技術はわが国の社会経済にとって大変インパクトを与えるものと思われますが。

 

(山口)現在、県内産業はトータルで15兆円ほどの規模で、輸送機器や電気機器に次いで6位ぐらいに医療薬品分野の製造出荷額がランクインしています。規模としては1兆円。47都道府県の中では第一位です。もともと強い分野ですね。今後の目標は10年間で1兆円プラス。そうなりますと近い将来、3位ぐらいに上げていきたいと思っており、6000~7000億円ほどの目処が立っております。

 医療は社会経済に非常に密に関係しており、70歳定年時代を前にその備えという意味で考えると、医療を「消費」ととらえたら、確かに大変でしょう。しかし消費ではなく「投資」と考えてみたらどうでしょう。日本国民への「投資」だと考えれば非常に重要なポイントになります。

 私自身、定年というのは我々人類が近年になって編み出した悪しき習慣だと思っています。20万年間の人類史の中でたかだかここ100年ぐらいの概念です。それまでは、身体が動き続ける間は死ぬまで働き続けてきた。それを助けるのが医療です。やはり50歳を過ぎると身体能力は落ちてきますが、幸いなことに人間の心は老いない。知恵は100歳になってもテレビのニュースを見ればそれなりに増やすことができます。喧嘩をすれば知恵は増えますね(笑)。

 今日、一番申し上げたいのは個別化サービスということ。これが21~22世紀の大きなビジネスになろうかと思います。医療はその人の身体の状態や心のケア等、完全に一人ひとり個別のサービスです。胃がんですと一人300万円ぐらいの出費になり、保険制度によって月10万円ぐらいで収まります。私の息子はHONDAのCR-Vに乗っておりますが、いつも胃がんの患者さんの手術と同じぐらいの値段だなあと見ています(笑)。

 

(鴇田)浜松ホトニクスは過去2回にわたってノーベル賞受賞に貢献されましたね。

 

(原)いきなり関係の無い話で恐縮ですが、2年前から京都の龍安寺にある蹲(つくばい)に惹かれています。真ん中の四角いところに水が溜まるのですが、その周りの四文字と中央の四角を組み合わせて読むと「吾唯足知」となります。禅の教えだそうです。地球は環境資源、食糧、人口、エネルギー、健康長寿といろいろな問題を抱えていますが、日本はこれらの分野の先進国でもあります。ちょうど1年前の読売新聞のコラムで、京都のある高僧に「少欲知足」という禅語を英語に訳すとどうなるかと訊いたところ、即座に「sustainable(持続可能)」と応えたとありました。日本の生活の知恵や考え方、東洋的な思想はすばらしいと思いました。

 ライフコミュニケーションやライフサイエンスという言葉はありますが、我々が掲げた「ライフホトニクス」とは、医療やバイオ関連に特定されたものから、生命や生き方などいろいろ広い意味を込めて、我々の技術を活かせる分野を探っていこうというものです。ここで言うライフとは人間ではなく地球のライフを指します。

 まず「光情報処理・計測」は光を使ったさまざまな計測技術ですね。離れた場所で接触しなくても計測可能な光を使った情報処理を進めています。「光材料」分野では量子カスケードレーザという色純度の優れたレーザー機器をすでに販売しております。とりわけ環境計測に威力を発揮し、炭酸ガスの中でもCO13やCO14など細かな割合を計測できます。たとえば静岡で計測したCO2が、この建物から発生したものか中国から飛来してきたものかが判るのです。欧米では使っていただいているのですが、残念ながら国内にはユーザーがおりません。ぜひこの機会によろしくお願いします(笑)。

 「健康医療」ではPET(Positron Emission Tomography)の技術開発に取り組んでいます。もうひとつはX線や放射線を使わず、光を使って体の中を見る光マンモグラフィーのような装置。実際に臨床検査も行なっています。集団検診に使うにはもう少し時間がかかりますが、もともとガンを持っている患者さんがX線マンモでは頻繁に検査できないところ、光ならば無害ですので安心して検査を受けられる。乳がんは簡単に切らず薬や放射線で小さくしてから切るというケースもあるようで、小さくするための投薬や放射線治療も人によって効き方が違うそうです。たとえば1週間後、光マンモで大きさがわかれば薬の量も判断できる。そういうことで浜松医科大学と共同研究を進めています。「光バイオ」では京都大学のiPS細胞のお手伝いをしています。植物の遅延発光の応用は工場排水が生態に及ぼす影響を短時間で検出できます。こんなことをやりながらライフホトニクスに向けて努力をしています。

 1926年に浜松でテレビジョンが誕生してから100年後の2026年ぐらいまでに浜松で何か新しいものを誕生させたいと思っています。

 

(鴇田)木苗学長は静岡県のクラスターの中でもフーズサイエンスヒルズとして地元資源を活用した新しい食の開発、マーケティングによって産学官金の連携を積極的に進めておられます。

 

(木苗)静岡県は富士山や駿河湾があり海の幸山の幸に恵まれ431品目も食材があります。そして静岡県は健康寿命日本一(女性1位、男性2位)。その理由としては食材が豊富でお茶を良く飲むということが考えられます。最近若い人が急須のお茶を飲まなくなったといわれますが、一世帯あたりのお茶の年間支出額は静岡市が全国第1位、浜松市が第2位を占めています。

 我々の研究のきっかけは徳川家康公です。家康公は75歳で亡くなりましたが、当時の平均寿命の2倍。家康公の食事を調べると、ビタミンやカルシウム豊富な麦ご飯、具沢山の味噌汁、丸干しの魚や根菜類、お茶などを摂取しており、薬は自分で調合していた。久能山東照宮にはさまざまな器具が残っています。

 最近の疫学的調査によるとお茶を飲んでいる人の大腸がんや肝がんの発生率が低く、ガンにかかる年齢が後ろになっているというデータもあります。糖尿病や認知症に関してもお茶は有効です。またノビレチンというみかんの皮に多く含まれる成分をアルツハイマーのモデルマウスに投与したところ、脳の組織が徐々に修復した。次いで20人ほど高齢者にお菓子として食べてもらったところ、それなりの効果が得られました。ただし治験人数が少ないのでもう少し検討の余地があります。

 私がセンター長になり、平成21~22年にかけ、研究開発から需要開発まで一貫した地場産品活用の研究開発の促進、それによる地域の活性化、人材育成、食による地域づくりに取り組んでいます。光を遮断して栽培したお茶の中に、アミノ酸が3倍含む白いお茶を開発することもできました。このクラスターは500社で1兆3千億円規模です。

 

(山本)環境、とりわけCO2の問題はさまざまな機関で話し合いが行なわれていますが、我々としては自分たちが出来ることをやりきろうと電気自動車や燃料電池車等さまざまなチャレンジに取り組んでいます。燃料電池車に関してはスマート水素ステーションの設置も進めています。私どもの独自技術を使い、水を電気分解して水素を作るもので、従来のガソリンステーションのように設置に大量のコストと時間をかけるのではなく、1日で設置できるような実証実験を進めています。

 FCVは2015年度中には発売したいと思って開発を進めています。水素を使い、排出は水だけ。走行可能距離は700kmで5人乗り。水素を充填する時間はガソリン車と同等の3分以内。これも我慢することなく利便性と環境を向上させるためです。当然我々が作る車はキビキビ楽しい車でありたい。安全装置もしっかり盛り込んでお届けしたい。

 ワクワクドキドキのモビリティとしては来年からF1に参戦します。二輪の世界では連続して参加し、個人もチームも優勝メダルを取ることができました。このマシンはF1よりも速く、二輪の世界で時速350キロで競い合っています。我々の想像を絶する世界なんです。来年から闘うF1も同様の世界ですが、従来と異なるのはCO2を配慮しているということ。F1のエンジンは1600ccターボですが、ハイブリッド車で、ガソリンエンジンは3割が実際の動力に使われ、6割は排出される。ただし排気ガスのエネルギーを回収して利用する。大変厳しい燃費規制の中で効率のよいレースを行います。音のレベルでいえば、マシンのそばに近寄ると身体がふるえるほどだったのが、今はマシンの近くでもイヤホンなしで会話ができます。

 最後にホンダジェットをご紹介します。これも来年から引渡しが始まります。全長13メートル、幅12メートルほどで、パイロットを含めて6人乗り。時速750kmで高度は1万3千メートル。ふつうのエアラインは1万メートル程度を飛んでいます。航続距離は2200キロメートル弱。静岡空港を拠点にすれば日本全国ほぼカバーできると思います。車と違い、エンジンと機体をそれぞれ開発したのは世界の中でもホンダだけで。世界中ではそれぞれ別のビジネスができるというわけです。両方ともアメリカのノースカロライナ州で生産しており、私も先週現地へ行って試乗してまいりました。もちろんライセンスは持っていないので客席に搭乗したわけですが、従来のビジネスジェットと違い、快適で広々とし静かで最新のエレクトロニクスを登載しており、非常に気持ちのよいフライトでした。燃費も同じクラスの飛行機の3割減。日本でも出来るだけ早くお披露目したいと思っています。鴇田会長、今ご注文いただければ、5億円ほどでお引渡しできますので、ぜひご検討ください(笑)。

 

(鴇田)ありがとうございました。実は最初にホンダジェットはいくらするのかお聞きしたかったのです。察していただきありがとうございます(笑)。私の印象では、今日の4名のお話だけでも大変広範囲なビジネスが育ち始めており、中小や新規企業にもビジネスの種を拾い、命を吹き込むことが出来る。そういうものが目の前に広がっているということがご理解いただけたのでは、と思っています。パネリストの皆さまありがとうございました。(了)

 

 

 なお、来る10月19日(月)、静岡県ニュービジネスフォーラムIN浜松が開催されます。今年のテーマはIT農業と6次産業化。一般の方も参加できますので、ぜひふるってお越しください。詳細はこちらを。

 


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福祉職の魅力発見ツアー2015

2015-10-04 10:17:30 | NPO

 10月に入り、グッと秋めいてきました。前回記事でご案内したとおり、静岡新聞社から17年ぶりに出版する地酒本【杯が満ちるまで~しずおか地酒手習帳】の刊行日が10月23日に決まりました。・・・ということで先月後半は校正やら何やらでバタバタして、ゆっくりブログを書く時間がとれませんでした。少し遅いご報告ですが、今日は先月参加した静岡県主催【福祉の仕事魅力発見ツアー】について紹介します。

 

 過去記事でも何度か取り上げていますが、広報をお手伝いしているNPO法人活き生きネットワーク(こちらが県から運営委託をされている福祉職人材育成事業の一環。毎月県の東部・中部・西部でセミナー講座&施設見学会を行なっています。単なる講座や見学会というよりも、求職中の人がしっかり就職できるよう、個人面談や見学先の求人情報提供等、より実践的な支援になっています。私は活き生きネットワーク事務局から添乗スタッフ急病というSOSを受け、急遽ツアーに帯同することになりました。

 9月10日の浜松、17日の沼津、29日の静岡の3日間参加し、あらためて介護福祉職へのニーズの高さ、マッチングの難しさ等を実感し、また各施設を運営するリーダーたちの高潔な精神に感動しました。施設訪問したのは以下の3ヶ所です。

 

 ◇デイサービス「ここ倶楽部」/浜松市 HPはこちら *併設の現役っこクラブ(元気な高齢者集いの場)のHPはこちら

 ◇小規模多機能型居宅介護「2人3脚」/富士市 HPはこちら *視察の様子をこちらのブログで紹介してくださっています。

 ◇社会福祉法人牧之原やまばと学園/牧之原市 HPはこちら 

 

 各施設を回るうちに「この分野の取材や事業支援を続けるなら、自分も最低限、介護ヘルパー初任者研修を受けておくべきだな・・・」と漠然と感じ、何気なくそうつぶやいたら、活き生きネットワークの杉本彰子理事長が間髪入れず「ぜひ取りなさい!」と。あっという間に、今月から始まる資格取得講座の受講手続きをしてくれました。現在、自分の身内に要介護の家族がいるわけではありませんが、そう遠くない時期に家族の介護を一手に担うことになります。自分だって要介護になるかもしれないし、このまま独居老人になればいざというとき他人のお世話にならざるをえない。ハードな講座スケジュールですがこれからの時代、必ず役に立つ資格だと思って頑張ります!

 

 なお、福祉職の魅力発見ツアーは来年3月まで毎月開催します。参加費無料で福祉弁当付き。介護の仕事の中身や待遇が座学と施設現場で手に取るように理解できる実践的なツアーです。雇用保険の失業給付を受給されている方は、求職活動として認定されますのでぜひご参加ください!

 

<今後の予定>

 10月6日(火) 9時30分~16時30分  静岡 午前中はアイセル21でセミナー、午後はケアハウス「カリタスみわ」見学

 

 10月13日(火) 9時30分~16時30分 浜松 午前中はクリエイト浜松でセミナー、午後は特別養護老人ホーム「グリーンヒルズ東山」見学

 

 10月20日(火) 11時30分~17時 沼津・三島(施設見学のみ) NPO法人にじのかけ橋「アルシオン」、NPO法人マム「サポートチームマム」見学

 

 10月27日(火) 12時20分~16時30分 袋井(施設見学のみ) 社会福祉法人デンマーク牧場福祉会「ディアコニア」「まきばの家」見学 

 

 10月29日(木) 9時30分~16時30分 沼津 午前中はプラザヴェルデでセミナー、午後はデイサービス「友愛デイサービス」見学

 

 11月5日(火) 9時30分~16時30分 静岡 午前中はアイセル21でセミナー、午後はデイサービス「てるてるエルマーナ」見学

 

 11月12日(木) 9時30分~16時30分 浜松 午前中は浜松市福祉交流センターでセミナー、午後はデイサービス「ここ倶楽部」見学

 

 11月17日(火) 9時30分~16時30分 沼津・富士 午前中はプラザヴェルデでセミナー、午後は小規模多機能型居宅介護「2人3脚」見学

 

 

 すべて事前要申込。活き生きネットワーク 担当/森藤(もりとう)、杉本まで。 

  FAX 054-209-5700 TEL 054-245-4494

 申込用紙は活き生きネットワークのHPからダウンロードできます。こちらを。

 


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