杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

てぬきそばと偽装ピザ

2007-12-31 11:05:38 | 地酒

 2007年を象徴する漢字が『偽』だったというニュースを見るにつけ、もったいないことをしたなあと思います。

 年末、老舗・ファミリー企業研究で知られる後藤俊夫先生(光産業創成大学院大学教授)のビジネス講座を受講し、赤福問題について考えたのですが、老舗企業が資本主義の国で、時代の変化に応じて新しいしくみや売り方を取り入れるのは何ら問題ないことで、伊勢に行かなければ買えなかった赤福を、買いやすくした功績はあったはずです。どこで買ってもちゃんと美味しいですものね、赤福。健康被害が出たわけでもないし。

 本来、日持ちのしない赤福を、冷凍保存し、解凍しても美味しく食べさせる技術というのは、大したものだと思います。ミートホープもそうですよね。豚や鶏のミンチを牛レベルの美味しさに仕上げた技術は、ある意味、スゴいです。

 これって、つまり、正直に表示すればよかった、という話ではないでしょうか。冷凍赤福だって、牛肉風の豚ミンチだって、中国産うなぎだって、安くて気軽に買えて、味や品質に問題なければ消費者は納得するでしょう。今の消費者はそれほど無知ではないと思います。ウソが表示されるはずがないと信じていたものに裏切られた、ということに怒っているのです。

 ようは、こういう消費者心理を読み取ってきめ細かな判断をしなかった経営者の失策でしょう。赤福でいえば、カリスマ的な大女将がいて、息子が早く死に、大学出たての孫がいきなり跡継ぎになり、経営者としてのスキルがないままにお祖母ちゃんが築いたブランドを自分の手でデカくし、お祖母ちゃん支配から脱却し、乗り越えてやろうと拡大路線に走った結果のようで、そこに老舗や同族企業特有の問題点もあったかもしれませんが、世の中の流れをしっかり見て、きちんとした決断することの大きさ・重さは、同族・非同族にかかわらず、トップがしっかり自覚すべきだと思うのです。

Photo

 そんな私の年越しそばは、立派な偽装手抜きそば。偽装なんて言ったら、アイディアを伝授してくれた<若竹>の蔵元・大村屋酒造場のおかみさんに申し訳ないですね。でもスゴいカンタンで、味も見た目もイタリアン! ゆでたそばを水で洗い、水気を切り、余った野菜類を適当に刻んで乗せ、ベーコンやちりめんや豆など好みの具をトッピングし、中華ドレッシング(いろいろ試しましたが、キューピー中華ドレッシング辛口がベスト)をかけるだけ。

 食べすぎ呑みすぎで胃が疲れているときなど、サラダパスタ風にさっぱりいただけてGOOD。大村屋酒造場の社長夫人・松永馨さんは料理の達人で、事務所2階のサロンで定期的に開催する『若竹サロン』では、いつもアイディア料理をふるまってくれます。そのサロンで覚えた一品です。

Photo_2

 酒のつまみには、富士錦酒造の社長夫人・清朋子さんが送ってくれたレシピが役立ってます。今朝、パンを切らしていたのに気がつき、代わりに焼いたのが酒粕。とろけるチーズを板状の酒粕に乗せ、6~7分オーブンレンジで焼いただけですが、甘くて超美味でした!

 オニオンスライスとかピザソースを乗せれば、立派な<偽装ピザ>ですね。でも、こういう知恵やアイディアは、まっとうに奨励すれば、みんなが喜んでくれるはず。これからもきめ細かい目で取材をし、体験できることは自分で体験し、真っ正直に書き綴っていきたい、と思います。

 2008年もどうぞよろしくお願いします。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

大臣のおやつ

2007-12-30 11:42:22 | 国際・政治

 ゆうべは国務大臣(少子化対策・男女共同参画担当)上川陽子さんの静岡事務所で、今年最後の取材&打合せでした。年始早々、陽子さんの政策記録集の制作に入るため、正月中はガラに似合わず政治のお勉強です。他にも正月明け締め切りの仕事が2本。振り返れば一年前は映像作品『朝鮮通信使』脚本執筆に忙殺され、初詣にも行けず、正月気分を味わうのは、サッカーの天皇杯や箱根駅伝の中継を、“ながら見”する時ぐらいでした。SOHO事業者の宿命なのかもしれませんが、まったく気分の晴れない大晦日イブです…。

Photo  陽子さんは2000年Photo_3に初当選する前、地元静岡市で数年間、政策コンサルタントとして活動していました。政治家になるため、それまで勤めていた東京のシンクタンクを退社し、東京に夫と娘も残しての決意の帰郷でした。

 その頃、私は、いきつけのおでん屋さんで偶然陽子さんとお会いし、 生家が隣近所で横内小学校の先輩と知って意気投合。その後、陽子さんが企画・出版した静岡のタウン情報誌『SHAKE』の編集に加わることになり、以降、折に触れて広報物のお手伝いをするようになりました。

 政治の世界とアクセスする機会など皆無だった私ですが、二世議員やマドンナ議員などとチヤホヤされる新人とは一線を画し、まっとうに政策を勉強し、プロとして実績を重ねた上で、政治家になるという確かな信念を持って地道に活動する陽子さんを通し、政治のひとつの理想を見たような気がしました。

 今でもありがたいと思うのは、陽子さんが事務局長を務める『おいしい水推進議員連盟』のお手伝いができたこと。

 水の問題は環境問題であり、国際紛争の火種にもなっていますが、その理由の原点は、河川が複数の地域にまたがっていること。私が、酒の取材をしていることを知って、「静岡市は、ひとつの市の中で一級河川が、源流部から河口まで貫く貴重な町。静岡市だから出来ることがあるはず」と示唆を与えてくれたのです。2003年には京都で開催された第3回世界水フォーラムにも同行させてもらい、おいしい水を当たり前のように享受できる日本や静岡という地域の価値を改めて実感しました。当日はイラク戦争開戦日で、議員の皆さんは徹夜国会明けで駆けつけるという緊迫状態だったことも忘れられません。

 私の場合、酒というカテゴリから水→地域の川→環境資源→地球の水資源、というように視野を広げて考察することができました。農業、子育て、医療、地場産業等々、それぞれの身近なテーマを切り口に、生活者レベル、地域レベル、国レベル、地球レベルで視野を発展させる・・・それが、政治を考えるということなのでしょう。陽子さんはさまざまな切り口を、絞りから広角までいろいろなサイズで提示し、ともに考える機会を与えてくれる導き手です。そして、有権者から、ここはこう変えてほしい、という声を聞けば国政に届ける。<代議士>という名の職業の所以でもあるわけです。

Photo_4  過去にお手伝いした政策集やインタビュー記事を見直しながら、水や農業や子育てという、きめ細かな生活者目線を持ちつつ、当選3期目で大臣に抜擢された女性代議士の存在を、同性として改めて頼もしく感じた仕事納めでした。

 ちなみに会議のおやつは、JA静岡市女性部でも活躍中のアグリロード美和代表・海野フミ子さんお手製のスイートポテト&芋まんじゅう。農家のお母さんが採れたてイモの自然の甘みをたっぷり生かして作るおやつは、おせちに負けないおごちそうでした。私が遠慮なくイモ菓子をぱくついていると、隣りの陽子さんは、完成したばかりの干支の土鈴にご満悦の様子でした。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

手書きのチカラ

2007-12-29 13:19:18 | アート・文化

 ゆうべから年賀状の宛名書きを始めました。絵と文面は手描きで版下を作って印刷するので、宛名だけでも直筆で書きます。パソコン原稿を書くことが多い昨今、年賀状だけが、きちんと字を書く唯一の機会になってしまったようです。面倒でも、せめて名前と住所だけでも直接書き込むことで、その人とのつながりを再確認する…年賀状を出す意義は、そんなところにもあるような気がします。とくに、鞆の石井さんから精魂こもった直筆の手紙をいただいた直後だけに、手書きが訴えるチカラというものを肌で感じています。

 24日のブログで初亀の『瓢月』クラシックボトルの紹介を書くにあたって、酒銘を揮毫された書家の大橋陽山さんといろいろお話しました。

 酒造や書道といった伝統の世界で、グッドデザイン賞を獲るような表現を活かすことに理解ある人材は、実はあまり多くいません。とくに静岡の酒は、パッケージや宣伝よりも品質重視で発展し、蔵元にも小売店にも、どこか、「売り方や宣伝の仕方を考えるのは、品質に自信がないから」と考えるフシがあるように思えます。

 いい酒を造り、放っておいても注文が来れば、それはそれで理想でしょう。しかし、大橋さんのように幅広いフィールドで活躍する方から見れば、「静岡で、いくらいい酒を造っても、知らない人のほうが圧倒的に多い」わけで、「より多くの人が、静岡の酒にアクセスできる機会を作るのに、デザインやパッケージで目を惹かせる作業は無駄ではないはず」です。

 品質を磨こうと必死に努力する静岡の蔵元を見続けてきた私としては、パッケージにかける経費があったらいい米を買いたい、機械を新しくしたい、という声も理解できるのですが、市場が激変する今、先々酒造りを続けていくため、新たな試みに踏み出す時期に来ているのでは、という思いもしています。

 大橋さんの周辺で、『瓢月』をデザインが面白いと言って買った人の多くが、「酒もすごい」と驚いているそうです。老舗というのは、そうやって新しいファンを切り拓く革新的な試みを重ねてきたからこそ、永く息づいているのでしょう。

 大橋さんとの対話で、伝統産業の広報のあり方について、ツラツラと考えているうちに、Photo Photo_2 大橋さんから、現在、東京都写真美術館で開催中の『文学の触覚』という展示会に出品している作品と、大橋さんが川崎の工業地帯の産業廃棄物処理工場で公開している『野書』の写真が届きました。人間がPhoto_3全精力を傾けて表現する文字のチカラを、まざまざと感じました。

 酒でも、文Photo_4章でも、造り手・書き手の精力が込められているか、流れ作業・こなし作業で済ませていないか、それは当事者が一番わかっていることで、後から「あれは手を抜いたもの」と言い訳も後悔もしないよう、最善を尽くし続けたいと思います。

 たかが年賀状、されど年賀状、です。 


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

松井妙子先生のカワセミ

2007-12-28 15:25:56 | アート・文化

 昨日、入手した喜久酔の酒粕を持って、金谷の染色画家・松井妙子先生のお宅へ年末のご挨拶に行ってきました。牧之原の茶畑のど真ん中にある、先生お気に入りの自家焙煎珈琲店アルムでお茶をしながら、この一年の出来事を振り返り、表現者として生きる悦びや難しさを語り合いました。

 松井先生とは、1992年3月発行のJA静岡中央会産直ガイド『四季ORIORI』の取材で、お茶にまつわるお話をうかがって以来、親しくおつきあいをさせていただいています。

 先生は、ふくろう、カワセミ、なまず、アンコウなど愛らしいキャラクターが自然と寄り添う姿を、優しく、温かいまなざしで描かれます。5月のGW明けに松坂屋静岡店で開催される年1回の個展は、初日午前中に大半が売約済みになってしまいます。「小さな作品しか手が届かないけど、1年間、コツコツ貯めて買いに来たの」というお客さんが大勢来ます。お正月の福袋のときのように、初日開店前から並び、オープンと同時に6階画廊までエスカレーターを駆け上がる(エレベーターより早いらしい)人もいるそうです。

 10数年前、1枚だけ、自分に買えそうな額の作品が奇跡的に残っていたことPhotoがありました。作品を選ぶ、というよりも、作品に選ばれた、という思いに近かったでしょうか。雪の中、じっと春の訪れを待つカワセミの姿は、当時の自分を映し出しているようでした。

 「余分なものは要らない、シンプルに生きられるのが一番ね」とおっしゃる先生。かといって自然豊かな山里でアトリエを構えたり、気ままに放浪生活をする作家とは違い、生家である金谷の古い商家で、実母を介護しながら、市井のつつましい暮らしを続けておられます。

 「母が元気な頃は気持ちが外にばかり向いて、カリカリ尖がった生き方をしていたと思う。今、こうして母の面倒を見るようになって、心がずいぶんおだやかになったの」と前向きに語ります。先生の作品は、先生のお人柄そのものだな…と改めて実感しました。

 

 松井妙子先生の作品は、静岡グランドホテル中島屋&焼津グランドホテルに常設展示されています。2008年は2月に金谷のミンクル(図書館)、5月に松坂屋、秋にお茶の郷で展示会が予定されています。ぜひ一度ご覧になってください。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

喜久酔の屋号

2007-12-27 16:59:52 | 地酒

 午前中、「喜久酔」の蔵元・青島酒造へ酒粕をもらいに行きました。蔵は午前中は洗米作業、午後は新酒の瓶詰め作業で大忙し。昼休み前のわずかな時間を狙って、ずうずうしくお邪魔し、ひとしきり、今冬の仕込みの展望などをうかがってきました。手土産に持参した吉見書店のダイアリーを見て、専務兼杜氏の青島孝さんから「真弓さん、昔より絵が上手くなったねえ」と冷やかされました。

 Photo_2

 私もお返しに、造りが始まると修行僧のようなヘアスタイルになる青島さんを冷やかそうと思ったら、彼の作業着に、〇に八に・(点)のマークを発見。青島酒造の屋号だそうですが、菩提寺に預けてあった家系図や古文書が焼失してしまったため、どんな意味か、いつから使われているのか判らないそうです。

 青島家では、本家は〇と八と●(星)でマルハチボシ、分家は〇と八でマルハチ、あるいは〇と●(星)でマルボシ、八と●(星)でハチボシというように、使い分けているとか。孝さんは「マルハチボシは、酒樽を真上から見た図じゃないかな。酒樽の蓋の注ぎ口を"ホシ”というんだ。八の意味は判らないけど、八の字の付く名前のご先祖がいたのかも」と推測します。

Photo_3 酒樽の注ぎ口が上蓋に付いていたら「天ホシ」、樽の脇に付いていたら「胴ホシ」と言うそうです。なぜ、ホシというのか判りませんが、星から注ぐ米の滴…なんてキャッチコピーが出来そう。

 酒造道具には、ねこ(櫂入れするときの踏み台)、きつね(もろみを酒袋に入れるときに使う小さな桶)、かえる(傾斜のついた足場台)など、愛らしい名前が付いたものが多く、つらく厳しい酒造労働の中で、道具を大切にしてきた職人たちの思いがしのばれます。

 藤枝の郷土史に詳しい方で、マルハチボシの意味がお解かりの方がいらっしゃったら、ぜひご一報ください。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする