静岡新聞社から『杯が満ちるまで~しずおか地酒手習帳』を出版していただき、10月23日で丸一年となりました。この本をきっかけに生まれた新しい酒縁、復活した懐かしい酒縁、より一層深まった酒縁・・・さまざまな縁(えにし)の広がりに、感謝と責任の重さを実感した一年でした。
しずおか地酒研究会の前身である静岡市立南部図書館食文化講座「静岡の地酒を語る」が1995年11月1日開催で、研究会の活動も20年を越えたため、これに感謝するアニバーサリー企画に汗を流した一年でもありました。加えて、初めて民間のカルチャー講座(朝日テレビカルチャー)を担当することにもなり、本の取材執筆を始めた2014年秋から数えると、丸2年、酒の魅力を伝える作業にどっぷり浸かったことになります。
正直なところ、本の印税も、しずおか地酒研究会の活動費も、コストを考えると完全にマイナスベースで、カルチャー講座もぎりぎりマイナスにならない程度。損得勘定せず好きで始めたことですから愚痴は言えませんが、酒で儲けてると思われるのは辛いし、20年前には夢のようだった魅力的な酒のイベントが自分の周辺でも毎月のように企画され、お誘いをいただくものの参加できる余裕もまったくなく、酒瓶を見るのが鬱陶しいとさえ思うこともありました(苦笑)。
今朝(10月24日)の静岡新聞朝刊文化芸術欄に、東大寺戒壇院の広目天像が紹介されていました。つい先月、早朝の戒壇院を一人訪ねて広目天さまに愚痴をこぼしてきたばかりだったので、記事を読んで改めてハッとさせられました。
本当に感謝すべきは、生活の糧のための仕事を私にくださった、酒とは無縁のお仕事関係の方々。そういう方々がいなければ、酒の活動はおろか私自身の生活も成り立ちません。どんな小さな仕事でも、この仕事を鈴木に、と言っていただけるだけで感謝感謝の一語に尽きるだろう、ご縁をいただいた仕事はどんな仕事であろうと(フリーランスなら当たり前ですが)全身全霊を傾けよう、そうでなければ酒の活動も続けられない・・・感謝の種を枯らすな、見失うな、大事に育てろ、と広目天さまに叱咤激励された気がしました。
この2年、やや盲目的に突っ走ってきましたが、自分の体力や生活力をふまえ、身の丈にあったペースで頑張ろうと思っています。これからもどうぞよろしくお願いいたします。
秋の20周年アニバーサリー企画について詳細をレポートするつもりでいましたが、自分の暮らし向きや今後のことをあれこれ考えているうちに日が経ってしまいましたので、とりあえずは写真紹介だけでお許しください。
9月25日には『お酒の原点お米の不思議2016秋編』を開催しました。夏に引き続き、静岡県農林技術研究所三ケ野圃場を再訪し、宮田祐二先生に刈入れ直前の「誉富士」「山田錦」をはじめ、さまざまな試験栽培中の品種について解説していただきました。この日、東京から急きょ酒食ジャーナリストの山本洋子さんご夫妻が駆けつけ、大変熱心に取材されていました。全国トップクラスの日本酒情報発信力を持つ洋子さんに静岡発の情報に触れていただく機会を作ることができて、宮田さんはもちろん、私も心底うれしかったです。
山本洋子さんを含め、松崎晴雄さん(日本酒輸出協会理事長)、里見美香さん(dancyu編集委員)という日本酒業界を代表するジャーナリストを迎えて、10月1日にサールナートホールで開催したのが『カンパイ!世界が恋する日本酒先行上映&トークセッション「あなたと地酒の素敵なカンケイ」』。
これだけの面々が静岡へ来てくださったのに会場満席とならず、自分の不甲斐なさを痛感・・・。それでも『カンパイ!』出演者の久慈浩介さん(南部美人蔵元)やジョン・ゴントナーさん(SAKEジャーナリスト)がビデオメッセージを寄せてくださったり、トークゲストの皆さんがご自身と静岡酒との出会い、全国の酒との違い、取材者としてみる静岡の蔵元の魅力など楽しい話題で静岡の酒を盛り上げてくださいました。(ICレコーダーの用意を忘れてしまい、いつものようにトーク内容を書き起こすことが出来ません。申し訳ありません・・・)。
なお映画『カンパイ!世界が恋する日本酒』は10月29日から静岡シネギャラリー(JR静岡駅前サールナートホール内)にて公開です。
10月2日は『杉錦の生もと造り体験』を開催。山廃・生もと・菩提もと等の伝統酒母造りで吟醸王国しずおかの中でも異彩を放つ杉井酒造で、生もとのもと摺り体験をさせていただきました。午前と午後2回にわけて参加募集したところ、1日ゲストの山本洋子さん夫妻、里見美香さん夫妻はじめ、沼津や浜松からも会員さんが駆けつけてくれて、定員オーバーで大いに盛り上がりました。
洋子さんはさっそく、週刊ダイヤモンドで連載中のコラム「新日本酒紀行」にて杉錦を取り上げ(10月22日号)、素晴らしい情報発信力を発揮してくださいました!
みんなで摺った生もとで仕込む「杉錦生もと特別純米(誉富士100%・静岡酵母HD-1使用)」は年末に生原酒で発売予定。一部、しずおか地酒研究会20周年記念ラベルで販売します。
出版1周年の昨日(10月23日)は、朝日テレビカルチャー静岡スクールの「地酒ライターと巡るしずおか酒蔵探訪」10月期初日。静岡市の萩錦酒造を訪問しました。私が心から敬愛する女性酒造家である蔵元夫人の萩原郁子さんが、平成28BYの仕込み開始を待つ酒蔵内部を丁寧にご案内し、萩原吉隆社長が蔵の冷貯蔵庫から自慢の5種を出してくださいました。静岡市民にはお馴染み・西脇の萩錦酒造の井戸水を、井戸からコップにすくって和らぎ水にしながらの試飲時間は、何物にも代えがたい贅沢な時間。初参加の受講生さんが喜んでいる姿に目頭が熱くなりました。
昨日は大正13年に撮影したという萩錦酒造の写真を初めて見せてもらい、写真に映っている志太杜氏と思われる職人さんたちの姿に、またまた目頭がじわっ。職人魂を受け継いだかのような郁子さんの逞しい手を見て、この人に蔵を支える使命があるように、自分にも何かを支える役目がある・・・そんなふうに勇気をもらえた気がしました。
またひとつ感謝の種が増えたみたいです。