杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

ガーベラの灯火

2020-04-20 17:34:24 | 農業

 ちょうど1年前にJA静岡経済連の情報誌スマイル59号で、静岡県内のガーベラ生産者を取材・紹介しました。ご縁をいただいた生産者さんとはSNSで今も情報交換しており、花の販売が激減している今も、急な生産調整が難しい花の産地のご苦労を、我がことのように心配しています。

 4月18日はヨイハナの日、ということで、県内主産地の浜松が中心となって4月18日をガーベラ記念日に制定しました。今年は土曜日なので、本来ならば華やかな販促イベントが予定されていましたが、緊急事態宣言が発令されてイベントの自粛はもちろん、街中は生活必需品の店以外、大半がクローズとなりました。

 19日に訪ねた近くの商店街もコンビニ以外はほとんど閉店という状態でしたが、唯一開いていたのがお花屋さん。その軒先に置かれたガーベラの色鮮やかなアレンジメントが、色彩が消えた商店街の命をつなぐ灯火のように思えました。

 花は、無くては生きていけない生活必需品ではないかもしれませんが、花のない世の中なんて想像できません。生活必需品を調達しに出られる際は、心の栄養になる花を1輪でも2輪でもいいので、ぜひお手にとってほしいと思います。

 

 ガーベラのウンチクと静岡県が生産日本一になった背景について、スマイルの記事を再掲します。

 


 ガーベラは南アフリカ原産のキク科多年草。発見者のドイツ人学者ゲルバー(T,Gerber)の名前にちなんで命名され、19世紀末にイギリスの採集家が王立植物園キューガーデンに贈った橙赤色の小さなキクが現在のガーベラの原種となりました。
 以降、ヨーロッパ各国で交雑が進み、多種多様な品種が作られています。日本には大正時代に渡来し、花のかたちから「花車」「千本槍」という和名が付けられました。昭和40~50年代から本格的な営利栽培が始まって品種改良も進み、現在では500種類を超える品種が流通しています。
 品種は大きく、花径10㎝を基準に大輪系と小輪系の2種類に分けられます。また花の形状、咲き方により、シングル、セミダブル、フルダブル、スパイダー等のタイプに分けることができます。


 日本におけるガーベラの主な産地は静岡県、福岡県、千葉県、和歌山県、愛知県、茨城県。うち静岡県は産出額19億円(平成28年)を誇る日本一のガーベラ産地です。
 最新の統計では、平成29年のガーベラ全国策漬け面積9,000アールのうち、2,820アールを占めており、出荷額は全国1億5,770万本のうち6,200万本を占めました。県内の主要産地は県西部(JAとぴあ浜松管内)、県中部(JAハイナン、JAおおいがわ管内)に広がります。

 

平成29年産都道府県別の出荷量(千本単位)と作付面積(アール)/(農水省統計部)より
 
 全国   157,770(千本)    9,000アール
1 静岡    62,000                           2,820
2 福岡       21,600                          1,200
3 和歌山   15,000                             680
4 千葉       14,200                          1,070
5 愛知       11,400                          800
6 茨城         6,150                          286
7 熊本         3,240                          331
  

 
 南アフリカ原産のガーベラは20~30℃の気温が保たれば、1年中花を咲かせます。静岡県が日本一の産地になったのは、年間を通してこの気温をキープしやすい環境にあるといえます。
 全国のガーベラ流通の一翼を担う㈱大田花き(東京)では「ガーベラは沖縄以外の全国で栽培されていますが、静岡県は日照時間がダントツ。多少天候に左右されても年間を通してつねに出荷量が安定しています」と信頼を寄せます。 

 県の主要産地では、オランダをはじめとする世界のスタンダードだった大輪系からスタートし、1990年代に小輪系も採り入れ、市場で人気の花粉が目立たない系統やポンポン系などさまざまな品種を柔軟に採り入れてきました。
 ガーベラにも旬(4~5月)があるのですが、一年中出荷されているので季節感が出しにくく、店頭ではどうしても他の旬の花に圧されてしまいます。新しい品種に挑戦したり販売イベントを仕掛けるなど、産地からアクションを起こす必要があります。
 主力産地のひとつ浜松では4月18日(ヨイハナ)をガーベラ記念日に制定したり、大田花きと共同で年に数回販促フェアを開催しており、「ガーベラには色別に花言葉があるので、受験シーズンや縁起担ぎの機会に効果的」と手応えも充分です。

 ガーベラは完全に咲き切ったかたちで出荷される珍しい花。つぼみの状態から開花までを楽しめるバラと違い、完成形の花を飾る楽しみは何かを模索し、産地では完全に咲き切らない“あまびらき”“ひなびらき”の状態での出荷についてもさまざまな検討もなされているとのこと。産地―卸―小売の力強い連携によるガーベラ市場の発展に、ますます期待が集まります。

 

*ガーベラを長持ちさせる方法

○花瓶にさすときは水の量は2センチ程度でOK

○水は1~2日に1度の交換でOK

○花がグッタリしてきたら、茎をカット。花だけを水を張ったお皿に飾る。

○置き場所は直射日光が当たらない涼しい場所。冷暖房の風が直接当たらない場所に。

 

 


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今こそ茶カテキン!

2020-04-10 16:36:49 | 農業

 静岡県はもうすぐ新茶の初取引を迎えます。県内ニュースの天気予報に「霜注意報」が出るくらい、お茶は、この時期の静岡のニュースに欠かせないネタ。ちょうど1年前にはJA経済連情報誌スマイルの取材で各地の茶産地や研究拠点を回り、大きな曲がり角にある静岡県の茶産業の未来にさまざまな思いを巡らせていたものでした。

 昨年3月からは静岡県茶業会議所会頭を務める上川陽子さんからのお声かけで、『茶と人フロンティア静岡会議』の設立準備会に加わり、消費者目線でさまざまな静岡茶振興策を考える機会をいただきました。

 今年2月22日にホテルセンチュリー静岡で開かれた『茶と人フロンティア静岡会議』設立シンポジウムの席では、静岡茶のヒトモノコト起こしのプラットホーム創出について、11人プラス常葉大の学生さんたちと練り上げた事業案のスピーカーも務めさせていただきました。この会場で22年前『地酒をもう一杯』の出版記念パーティーを開いて頂いた時、地酒イベントでは初めて日本茶インストラクターの方にブース出展をお願いした事を思い出し、改めて、静岡の宴会では飲酒NGの人のため、ウーロン茶じゃなくて静岡茶を!と呼びかけました。

 2月末の時点では、新型コロナウィルスの感染拡大がここまで深刻化するとは想像できず、4~5月の新茶シーズン、フロンティア静岡会議で提案された事業案がいくつ着手できるだろうとワクワクしていたのですが、今、増加の一途をたどる新型コロナウィルスの感染者数に戦慄し、緊急事態宣言という状況に身動きが取れず、外での取材も打ち合わせも行事も中止となり、なすすべもない日々を過ごしています。

 SNSでは茶カテキンが新型コロナウィルスに効果があるという論文が発表された云々という記事を見かけました。この手の不確かな情報を拡散すべきではないと思いますが、この機会に、茶の機能性についてもう一度おさらいしてみようと専門書をいくつか洗ってみました。素人レベルで理解できる確かな情報を紹介したいと思います。

 乾燥茶葉に含まれる主な成分は渋味のカテキン(10~18%)、苦味のカフェイン(2~4%)、うま味のテアニン(0,6~2%)といわれます。その効果や効能は次の通り。

 

◆カテキン/抗酸化作用、抗がん作用、コレステロール上昇抑制作用、血圧上昇抑制作用、抗動脈硬化作用、血糖上昇抑制作用、血漿板凝集抑制作用、抗菌・抗ウイルス作用、腸内フローラ改善作用、抗炎症・抗アレルギー作用、免疫機能改善作用

◆カフェイン/中枢神経興奮作用、眠気防止、強心、利尿作用、代謝促進

◆テアニン/脳・自律神経調節作用、認知障害予防作用、リラックス効果

 

 こうしてみると、カテキンってやっぱりスゴイですね。しかも煎茶が一番多く、ウーロン茶や紅茶には少ない。煎茶の中でも一番茶に一番多く含まれ、二番茶、三番茶とだんだん減っていきます。新茶は値が張るけど、初物の珍しさや新茶独特の香りや味だけではなく、カテキンの多さ=機能性の高さを付加価値にしてもいいんじゃないかと思います。

 茶カテキンが大きく注目されたのは30年ぐらい前。茶どころ川根の町民の胃ガン死亡率が低いことに着目し、統計データを解析し、お茶をよく飲む習慣がガンのリスクを低減させていることが判りました。その後、さまざまな生活習慣病予防効果も明らかとなり、1991年、静岡で初めて開催された国際茶研究シンポジウムでカテキンの機能性についての先進的な研究成果が発表されるなど、お茶の機能性が広く知られる機会が増えました。

 私はこの頃、酒の取材が縁で知り合った山本万里さん(農業技術研究機構野菜茶業研究所主任研究官)に、カテキンの一種・EGCG(エピガロカテキンガレート)がメチルエーテル化したものに抗アレルギー作用があるという話を直接聞く幸運に恵まれました。万里さんの研究で、台湾の凍頂ウーロン茶に多く含まれ、やがて「べにふうき」という紅茶用の品種にも多く含まれることが判明。ご承知の通り、べにふうきはその後、花粉症に効くお茶として一大ブームに。私自身は、紅茶用のべにふうきを緑茶として飲むのは苦すぎるので、緑茶の風味に近くて飲みやすい凍頂ウーロン茶を、横浜中華街の専門店まで買いに行って常飲したものです。

 

 茶カテキンはポリフェノールの一種で、昔から「タンニン」と呼ばれたお茶の渋味成分。主に①EC(エピカテキン)②EGC(エピガロカテキン)③ECG(エピカテキンガレート)④EGCG(エピガロカテキンガレート)の4種類あります。すごーく紛らわしい名前ですが(苦笑)このうち最も含量が多いのが④のEGCGで、他のカテキン類に比べて抗酸化作用が高く、茶の機能性成分のトップランナーともいえる存在です。

 1993年、EGCGとTF3(テアフラビンジガレート=カテキン類が酸化重合したもの)が動物実験でインフルエンザA/H1N1とB型ウイルスの感染を阻害することが判りました。2002年にはEGCが感染直後であればウイルスの増殖を効果的に抑制すること、2005年にはEGCGとECGがインフルエンザA/H1N1、A/H3N2、B型ウイルスの感染や赤血球凝集活性、ウイルスRNA合成等を阻害することが判明するなど、EGCGに代表される茶カテキンの抗インフルエンザウイルス活性パワーが続々と解明されました。

 2009年には、パルミチン酸モノエステルという化学修飾を加えたEGCGが、前年にパンデミックを引き起こした新型A/H1N1ウイルスで特効薬タミフルが効かない耐性株、季節性A/H3N2やB型ウイルス、さらに鳥インフルエンザA/H5N2の感染を効果的に阻害することが判りました。

 とりわけ注目するのは、①EGCGパルミチン酸モノエステル②EGCG③タミフル④アマンタジンの各化合物を、鳥インフルエンザA/H5N2に感染したニワトリ発育鶏卵に接種し、胎児の感染致死阻害率を調べた研究。②は7日後に70%致死、③と④は7日後に80~90%致死したのに対し、①は致死0=すべての胎児が生存したのです。

 

 新型インフルエンザウイルスの感染阻害に効果があることを実証したEGCGパルミチン酸モノエステルに続き、今現在、新型コロナウイルスの感染阻害にカテキン類が何らかの効果を発揮するのではないかという研究論文が海外からいくつか発表されているようです。

 現時点で確かなことは言えないにしても、茶カテキンには免疫機能改善作用という頼もしい機能が備わっています。細菌やウイルスなど外から入ってくる病原体の攻撃から体を守る免疫機能。病気にかかりにくい体をつくる上で欠かせないもので、これにはEGCGよりもEGC(エピガロカテキン)のほうが力を発揮するようです。

 一般に煎茶を淹れる湯温が70℃前後またはそれ以上では、ECGCとEGCの比率が1対1だそうですが、70℃より低い温度で淹れるとEGCGが減り、EGCは変わらず。長時間かけて抽出した水出し煎茶と、熱湯で淹れた煎茶をマウスに経口摂取させたところ、水出し煎茶を飲んだマウス群のほうが、免疫系で重要な役割を果たす有効成分(イムノグロブリンA)が多く作られました。EGCの増加が有効成分の上昇に一役買ったのです。

 

 専門書のカテキン解説の中で、抗ウイルスや免疫改善の部分だけを拾い読みしただけですが、カテキン含有量が増える一番茶=新茶シーズンを目前に知っておいてよかった!と思いました。

 カテキンの抗ウイルス効果が期待できる熱めの煎茶なら、お出かけ前や外出先で。免疫調整してくれる、ぬるめのお茶や水出し煎茶は家でくつろいでいる時に。・・・そんな飲み分けも効果的ですね。水出しならばテアニンが増えるので、脳・神経調整作用やリラックス効果が期待できるし、これから暑くなる季節、重宝しそうです。

 

 私たちが目に見えない新型ウイルスとの戦いに振り回されている中、茶畑では新芽が日々刻々と成長しています。自然のチカラに今一度、謙虚な気持ちで、向き合わなければと思う毎日。早くみんなと「喫茶去」し合える時間が来るといいな。

 

参考書/

茶の機能―生体機能の新たな可能性 2002年 学会出版センター刊

新版・茶の機能ーヒト試験から分かった新たな役割 2013年 農山漁村文化協会刊

平成30年度茶学総合研究センター実績報告書 静岡県立大学刊


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第三の茶、香り緑茶

2019-06-17 10:00:00 | 農業

 八十八夜から約1カ月経ち、一時はご祝儀価格だった新茶が手頃に入手できるようになりました。この春は、久しぶりにJA静岡経済連情報誌スマイルでお茶の取材をし、お茶を取り巻く時代の変化を現場で感じることができました。5月末に発行され、経済連のHPで全頁閲覧できますので、こちらをぜひご覧ください。

 

 今回の取材で最も印象に残ったのは「香り緑茶」です。女性に人気の、花や果実やハーブを使ったフレーバーティーの二番煎じか?と最初は穿ってみたのですが、聞けば、「煎茶」「深蒸し茶」に続く画期的な新製法による‶第三のお茶”とのこと。茶葉以外のもので香り付けをしたのではなく、摘み取った生の茶葉に温度を加えて萎凋(しぼんでシナシナになった状態)させてから従来の蒸し工程に進むと、茶葉が本来持っていたナチュラルフレーバーを発揮する、というのです。

 現場取材をしたJAおおいがわ茶業センター金谷工場では、昨年『香り緑茶―宗平SOHEI 』を試作し、今年から本格的にデビュー。山内茂センター長によると、仕上がった香り緑茶を飲んだとき「茶農家だったわが家の茶部屋(茶を揉む部屋)と葉部屋(葉を保管する部屋)の匂いに似ている」と直感したそうです。年配の生産者も同様に「懐かしい香りだなあ」と反応したそう。というのも、現代ほど生茶の鮮度管理を厳密に行っていなかった昭和30~40年代、荒茶工場では摘み取った葉をひと晩くらい放置しておいたので、その間に生葉が萎凋し、独特の香りを発散していたのです。

香り緑茶―宗平は、静岡伊勢丹地下1階のおいしいふるさと村で絶賛発売中!

 

 山内さんが淹れてくれた宗平を飲んでみたら、なんとなく、小学生の頃、遠足で水筒に入れて持って行ったお茶の味を思い出しました。淹れたてのすっきりシャープな立ち香とは違う、時間が経って角が取れた甘い含み香というのかな・・・ひと言でいえばやっぱり「懐かしい」。

 「この香りが、うちの若い女性職員たちに大好評だったんですよ」と驚いた表情の山内さん。香り緑茶製法を開発した県茶業技術研究センターでも、東京在住のふだんあまりリーフ茶を飲まないという20~40代女性108名に試飲してもらい、嗜好調査したら、9割という圧倒的多数から「好き」「どちらかといえば好き」との回答を得たとのこと。年配者には「懐かしい」、若者には「新鮮」に感じるって、ファッションの世界か、昨年来ブームになっているボヘミアン・ラプソディーのクイーンみたいな音楽・サブカルの世界の話かと思ってましたが、香りもそうなんだ~!と、新鮮な驚きでした。

 と同時に「昭和の時代の荒茶工場で萎凋した生葉の香り」と聞いて、酒蔵で、厳密に低温管理を行う吟醸酒造りとは違う、生酛や長期熟成の香味の変化を思い浮かべました。


 道具や設備がローテクだった昭和以前の酒蔵では、杜氏が算段しきれない自然任せの要素が大きくて、失敗も多かったと思いますが、逆に思いがけない香りや味に仕上がる"偶然の産物”もあったでしょう。日本酒は冷蔵庫で低温貯蔵すると香味の変化はあまり見られませんが、常温で貯蔵すると香味はもちろん色も変わって見るからに熟成した!ってわかる。常温長期貯蔵酒の中には、上品なブランデーのような熟成酒に仕上がる酒もある。そんな醗酵醸造酒の鷹揚な温度管理が産む香味の変化が、不醗酵の緑茶にも存在するんだなあ…と二重の驚きでした。


 といっても、今回、県茶業研究センターで開発した香り緑茶製法「香気発揚処理」は、かなり厳密なマニュアルになっています。

 スマイルにも書きましたが、摘み取った生葉に①加温(20~25℃で30~60分)、②低温静置(15℃で12時間)と撹拌処理(静置の間に2時間間隔で5分の撹拌×3回)を行うもの。センターでは製茶機械メーカーと共同で独自の〈香り揺青機〉を開発し、大量に仕上げるマニュアルを確立しました。

 県茶研では様々な品種での試作を進捗中で、これまでの分析で〈香駿〉〈さやまかおり〉〈つゆひかり〉等で高い香気成分が認められており、JAおおいがわでは実際〈さやまかおり〉〈かなやみどり〉〈やぶきた〉で試作をしたそうです。今後、産地別・品種別に特徴ある香り緑茶が数多く出回れば、山田錦一辺倒だった酒造米の世界に地域に適した新品種が増えてきたように、やぶきた一辺倒だった静岡茶にも多様性が生まれることでしょう。

 米農家や茶農家にとって、品種を変えるというのはビッグチャレンジ。しばらくはいろいろな品種を少しずつ試す期間が続くと思われますが、これという手応えを得たなら、思いきって変えてみる・挑戦してみる・世に問うてみるという決断行動に期待したいですね。それを成し得た先人たちが、煎茶製法や深蒸し製法を開発普及させたはず・・・との思いを込めて、今回のスマイルの記事では、最澄が中国から茶をもたらした頃からの茶の歴史を、長いイントロダクションとしてつづってみました。

 

 

 ところで、縁あって酒や茶の生産現場を身近に知る立場となり、歴史を紐解いていくうちに、どうしても気になったのが『酒茶論』という古書。2種類あって、一つは茶の湯の席での客人の失言から端を発し、茶と酒のどちらが優れているかのケンカになって、茶にはお茶うけのお菓子や果物、酒には肴の魚鳥が加勢して、大軍団となった両者が大和の宇治川をはさんで大合戦に及んだという御伽草子。もう一つは中国の古典「茶酒論」をベースに、戦国時代に岐阜乙津寺の蘭叔玄秀和尚(のちに臨済宗大本山妙心寺53世管主)が漢文で書いた酒と茶の効能比べ。禅僧らしく「どっちも水がなければ存在しない」と丸く収めています。

 この『酒茶論』の研究が、私の次なるライフワークになりそうです。

 


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S-mail 57号『静岡いちご』特集発行

2017-12-25 10:06:07 | 農業

 西武池袋本店『静岡ごちそうマルシェ』終了後、自宅に届いたのは、マルシェが始まる前に大車輪で取材執筆したJA静岡経済連情報誌『スマイル』の最新号・いちご特集。いちごのハイシーズンであるクリスマス前の発行が至上命題だったのですが、いちご生産現場の取材が出来るのは10月末以降という制約があり、短期間でのあわただしい誌面作りとなりました。なんとか間に合ってよかった!

 繁忙期に入ってしまって取材先のアポイントが思うようにとれず、いつもの誌面よりも取材先が少なく、少し物足りない感じもしましたが、仕上がりを見てビックリ! JA静岡経済連が、西武池袋本店で静岡いちごのトップセールスを今年1月に開催し、来年1月にも行うことが巻頭で大々的にアピールされていたのです。「西武池袋本店って静岡県をこんなに応援してくれていたんだ~」と今更ながら感激でした。

 西武池袋本店『静岡いちご紅ほっぺストロベリーフェスタ』は2018年1月10日から30日まで。地下2階の生鮮倶楽部青果市場での試食のほか、地下1階のスイーツ専門店で期間限定の紅ほっぺスイーツメニューを販売します。紅ほっぺというブランドは知られていても、静岡原産だと知らない人が少なくないそう。九州や北関東など強力な特産地が多い中、品質で勝負の静岡いちご。地酒と同様、優れた品質をいかに消費者に理解してもらうか、販売現場での役割は大きいと思います。今回発行のスマイルが、消費者理解の一助になれば、と願っています。

 

 さて誌面では紅ほっぺに続く新しい静岡いちごブランド『きらぴ香』の開発経緯と特徴について、県農林技術研究所での取材をまとめてあります。一部をご紹介しますので、ぜひ実際にスマイルをお手に取ってみてくださいね!(県下主要JA窓口、ファーマーズマーケット等で無料配布します)。

 

 

次世代のエースをねらう!静岡いちご「きらぴ香」

(解説)静岡県農業技術研究所 

 

いちご史上最高の香り

『きらぴ香』は表面がツヤツヤと輝き、スマートな形状。鼻を近づけるだけで甘くフルーティーな香りが立ちます。開発者自身、「いちごでは現在考えられるベストな香り」と太鼓判を押すように、確認された香気成分は実に129種類。主要成分ではいちご香(Furaneol)をベースに、バラの香り(Geraneol)、りんごやバナナのようなフルーティーな香り(Isoamyl acrtate)も含まれ、くどさのない爽快な香りを構成します。

きらぴ香

紅ほっぺ

 糖度は紅ほっぺより高く、収穫シーズンを通して9.5度と安定しています。逆に酸味は低く、酸っぱいいちごが苦手という人にも勧められます。今年シンガポールで開かれたバイヤー向けの試食会では全国の名だたるブランドいちごを抑え、人気ナンバーワンを獲得。日本が誇る美味しいいちごのブランド競争最前線に躍り出ました。

 

収穫時期が長く安定的

 研究所では品質の優位性はもちろん、生産効率が高く、農業所得の向上につながる品種の開発を目指しています。きらぴ香の開発にあたっては、市場のニーズが最も高まるクリスマスシーズンや年末年始に出荷できる極早生の品種で、なおかつ高い品質を実現することを念頭に置きました。

 いちごは春や夏など気温が高く日が長い時には、茎の基部にある成長点で葉を作りますが、秋になって涼しくなり、日が短くなると葉ではなく花芽を作ります。この状況を『花芽分化』といいます。きらぴ香は紅ほっぺより花芽分化が2週間ほど早いため、タイミングを見逃さず、適度に摘花します。これによって果重の増加と糖度の上昇が見込まれます。きらぴ香は紅ほっぺに比べて花付きが少ない品種のため、摘花には多くの手間がかからないというメリットもあります。

きらぴ香の花芽

 きらぴ香の最大の栽培メリットは、収穫時期が長く安定しているという点です。いちごの苗を定植させる育苗方法としては超促成夜冷(8月中旬~)、夜冷(8月下旬~)、紙ポット(9月初旬~)、普通ポット(9月上旬~)、電照抑制(9月中旬~)、未分化定植(7月下旬~*収穫は最も遅い)の6段階あり、このうち紅ほっぺは夜冷・紙ポット・普通ポットの3段階のみ。きらぴ香は6段階すべてに対応できます。定植時期が少しずつずれることで作業が楽になり、収穫も一時期に集中することなく、長く安定します。

 さらにトップシーズンとなるクリスマスや年末年始に切れ目なく出荷できるため、市場の評価も高まり、価格の面で生産者へのリターンが大いに望めるというわけです。

 

 平成26年(2014)のデビュー以来、県内各産地できらぴ香栽培に取り組む生産者は順調に増えています。今後はさらなる生産性向上に努め、きらぴ香のブランド化=高単価・高収益・省力化による経営規模拡大に尽力していきます。

 

■問合せ 静岡県農業技術研究所 静岡県磐田市富丘678-1 TEL 0538-35-7211

 

 

 

 


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八十八夜の活かし方

2017-05-01 10:23:38 | 農業

 52日は八十八夜。立春から数えて88日目ということで、茶どころ静岡では新茶シーズン到来のシンボリックな日とされていますが、本来は、お茶だけでなく農作業全般にとって大事な季節の節目。

 「米」という漢字を分解すると八十八になる。88歳のことも米寿と言いますね。そんなことから、農業に携わるすべての人にとって重要な日とされてきました。


  お茶摘み唄に「夏も近づく八十八夜、野にも山にも若葉が茂る~♪」と歌われるように、春から夏に移る時期にあたり、八十八夜を迎えたら夏の準備を始めます。昔は八十八夜を目安に種まきなどをしていたそうで、今でも農家では、霜よけのよしずを取り払ったり、苗代の籾巻きを始めるというような慣しを行っているところが多いよう


 ・・・というような話を、5月2日18時30分からオンエアのかみかわ陽子ラジオシェイク(こちらのネットラジオで聴けます)で話そうと下調べしていたら、幸運にも、前回ブログで紹介した『地産地消の歴史地理』の著者有薗正一郎先生から、近世農書が記述する水稲耕作暦のコピーが届きました。同書に、全国43の近世農書を元に先生ご自身で制作された暦を希望者に送る、と書かれてあったので、試しに希望の手紙を差し出したらすぐに送ってくださったのです。


 

 有薗先生作・水稲耕作暦の「播種日」の一覧を見たら、ありますあります、「八十八夜」の記述が。ほかに「春土用」「3月中旬」「4月初め」等々。遠江の農書〈報徳作大益細伝記〉では「寒明70日目頃」とあります。寒明けが立春だとすると、今の暦で言えば4月下旬に種まきしたわけです。

 田植えは播種日から約40日ぐらい後。有薗先生の暦では「小満」「夏至」「半夏生」の記述が並びます。二十四節気の言葉ってやっぱり当時の生活用語だったんだなあと改めて感心しました。



 八十八夜は農業のみならず、瀬戸内海では豊漁の続く時期としての「漁の目安」とされたり、沖縄地方の島では「とびうお漁」の開始の時期ともされたそうです。漁業にとっても大切な節目の日だったんですね。

  静岡で、八十八夜の日を何かの記念日にしている漁港があるのかなとネットで検索してみたんですが、ヒットゼロ。やっぱりお茶の八十八夜のイメージが強すぎるんでしょうかね・・・。でも静岡県ほど八十八夜という日が県民に認知されている県はほかにないだろうと思えますので、これを活かし、漁業と茶業の関係者がコラボして、この日にとれた魚と新茶を、それこそ米寿のお祝いにする、なんて仕掛けを考えたらどうでしょうか。


 田んぼでも、田植えや稲刈りはわりと絵になる作業ですが、播種ってあまり絵にならないせいか注目されませんね。でも種をまいて苗を育てる作業ってとても大事だと思います。八十八夜という日を、農作業一つ一つの価値を見直し、季節の暦の意味を再認識する、そんな学習の機会にできたらいいなと思います。


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