杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

バラと地酒とアワビと新茶

2013-04-30 11:36:14 | 地酒

 連休前半、お天気に恵まれましたね。私は3日間とも仕事がらみであちこち出かけました。久しぶりにきれいなモノ・美味しいモノにありつけてHAPPYな連休でした!

 

 

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 4月27日(土)は、かみかわ陽子ラジオシェイクの収録で、ゲストに、静岡市の安倍奥・油山のバラ生産者鈴木雄介さんをお招きしました

 鈴木さんが作った深紅のバラ『ヌーベルヴァーグ』は、今年の関東東海花の博覧会(花卉の品質コンテストでは日本で最も権威があるといわれる品評会)で、最高賞(農林水産大臣賞)を受賞しました。そのヌーベルヴァーグを、4月20日に新宿御苑で行われた安倍総理主催の桜をみる会で、陽子さんが総理に直接プレゼントしたんですね。そんな経緯でゲスト出演と相成りました。

 

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 22歳で、両親のバラづくりを継ごうと家業に入り、現在34歳の鈴木さん。栽培が難しいといわれるヌーベルヴァーグに挑戦して5年目の快挙だそうです。ニュージーランドで育種された品種で、色は黒味がかった赤・花びらがギザギザになっているのが特徴です。最近のバラのトレンドは、どちらかといえば、淡い中間色やパステルカラーなんだそうですが、あえてトレンドに背を向け、直球勝負で挑んだのが奏功したんですね。家業を継ごうと思ったきっかけを「両親が、とても楽しそうに、イキイキとバラを作っていたから」と明快なお答え。こういう若い後継者が身近にいるって、なんだかこちらも勇気付けられるような気がします。

 

 

 番組内では、私からも松下明弘さんの【ロジカルな田んぼ】について紹介コメントを入れさせてもらいました。オンエアは連休明けの5月7日(火)18時30分からFM-Hi (76.9) です。静岡・清水・藤枝の一部エリアしか聴けないんですが、聴ける人はお願いしますね♪

 

 

 

 

 

 28日(日)は、下田自酒倶楽部が企画販売するご当地酒『黎明(れいめい)』の新酒お披露目会に参加するため、友人を伴い、電車で下田まで遠征しました。お昼に着いて、まずは駅のそばにある蕎麦処【いし塚】に。以前、アットエス地酒が飲める店(こちら)で紹介させてもらって以来、下田で國香が飲める貴重な店としてすっかりファンになりました。

 

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 私の地酒取材歴の中でもベスト5に入る!國香×いし塚の蕎麦味噌コラボ。あまり日本酒を飲みつけない友人も、スイスイ味わってました。いただいたのは國香特別純米でしたが、他の蔵の凡庸な純米大吟を完全に凌駕する素晴らしい味わい!。繊細な香味が絶妙に調和し、私が何より蔵元・松尾さんの酒らしいと感じる、ノド越しがストンと落ちる、そのさばけの良さが見事に表現されていました。この酒質を純米酒クラスで発揮できるとは、実に恐るべき蔵元杜氏だ・・・と改めて敬服、というか、本当に「出会えてよかったぁ」と心から感動する酒質です。

 

 今、國香は特約店でも品切れ状態で、ファンはやきもきしていますが、松尾さんには過度なプレッシャーを与えず、ご自身がトコトン納得する酒だけを造り続けてほしいと思います。

 

 

 

 

 

 

 下田自酒倶楽部のご当地酒『黎明』は、過去記事(こちら)でも紹介したとおり、下田で育てたキヌヒカリを原料に、富士高砂酒造に製造委託した純米吟醸です。一時期、沼津の『白隠正宗』高嶋酒造で造ったこともありましたが、今は高砂さんに戻ったようです。下田市内の酒販店仲間が会員を募り、地域で買い支え、下田の新たな観光特産品に育てていこうと頑張っています。事務局を預かる下田ケーブルテレビの渡邉社長がなかなかのアイディアマンで、女子力を活用Dsc_0164して“黎明ガールズ”に田植えや稲刈りのPR隊になってもらおうと準備していて、私のような耳年増のオバサンには、若い女子たちへの地酒指南ぐらいしか手伝う余地はありませんが、下田では、楠山市長はじめ、大切にしていきたい、いろいろな酒縁があるので、出来る限りのお手伝いをと考えています。

 

 

 

 

 

 

 

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 この日は水産会社の社長さんが、アワビの刺身盛りをドーンと差し入れてくれました。コリコリとした黒アワビ、マイルドな白アワビ、アワビの肝など等・・・ふだんの飲酒生活では考えられない贅沢な酒肴が並び、ホント、眼が白黒状態でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

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 29日(月)は、天竜茶の太田昌孝さんの出品茶摘み取り作業を取材に行きました。天竜の太田さん・・・知ってる人にはおなじみ、静岡県いや日本を代表するお茶作りの名人ですね。昨年の全国茶品評会普通煎茶4キロの部で最高賞(農林水産大臣賞)受賞をはじめ、数々の受賞歴を誇り、2008年の北海道洞爺湖サミットでは太田さんのお茶が各国首脳にふるまわれました。太田さんの最高級茶を水で抽出したお茶をワインボトルに詰めた『MASA』は、高級ギフトとして有名百貨店等で注目されています。

 

 

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 この時期は各マスコミの取材も殺到していて、TBS、テレビ東京、朝日新聞にニアミスしました。私のようなローカルライターが取材に来ました~と言っても、お茶摘み支援隊の皆さんはどこ吹く風で、「写真はこういう角度で撮りなさい」とご指南くださるおばちゃんも(笑)。取材慣れした方々のおかげでスムーズに進みました。

 

 

 

 太田さんの茶園を訪ねるのは2回目。前回訪ねたときは、朝日新聞の記者とバッティングしてしまって、十分なお話が聞けなかったところ、奥様があれこれサポートしてくださいました。そこで、お礼も兼ねて、下田で調達したキンメダイの干物を差し入れ。「山では手に入らないわねえ~」と、とても喜んでいただきました。

 

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 すべて手摘みの出品茶摘み取りには、近隣から100人の助っ人が集まります。その方々の食事やおやつの世話をはじめ、摘葉や精揉に必要な道具の手入れや準備はすべて奥様の仕事。気がつくと、奥様は玄関の上がり場でハァ~っと息をついて疲れたご様子でした。この日はアテにしていた親戚が急病で来れなくなり、本当にお一人で大変だったそうです。・・・でも名人を支える妻というのは気丈ですね。

 太田さんは「お茶は自分の子どもより可愛い」と口癖のようにおっしゃる人ですが、確かに太田さんのお茶も、奥様との二人三脚で産まれるものだと実感しました。

 

 

 

 

 帰り道、遠州森町一宮駅近くを通り、久しぶりに入鹿ハムさんに立ち寄りました。國香酒造の仕込み水を使って作るハムやベーコンとして何度か取材させてもらった店です。「このところ松尾さんがお忙しいのでお水をもらいに行くの、遠慮しているんですよ」と申し訳なさそうにおっしゃっていましたが、なんのなんの、この店のロースハムも、石塚さんの蕎麦味噌に負けないくらい、私的には、ベスト・オブ・國香の酒肴です。

 

 それにしても、静岡県は東西南北、なんと、食の豊かな県だろうと、改めてしみじみ感動します。と同時に、世に溢れるグルメ情報の洪水の中、こういう豊かさを的確に伝えるにはどうしたらいいんだろうと、改めてグズグズ悩んでしまいます・・・。

 


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酔読ノススメ追補

2013-04-27 00:11:06 | 本と雑誌

 eしずおかのコラムサイト『日刊いーしず』で隔週連載中の地酒コラム「杯は眠らない」第7回Photo
を26日、更新しました。松下明弘さんの【ロジカルな田んぼ】の発行を記念し、私の書棚の“熟成本”をいくつか紹介しています。

 

 

 このコラムで紹介した、フリーアナウンサー國本良博さんに日本酒の本を朗読してもらった『酒と匠の文化祭』でのエピソード、事後報告になっちゃいましたが國本さんに「載せました」と報告したところ、思いがけず、國本さんも今月、自伝本を出版されたことを知って、あわてて書店に走りました。

 

 

 

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 タイトルは【くんちゃんのはなしのはなし】(マイルスタッフ刊・1785円)。國本さんが1973年から2009年まで勤め上げたSBS静岡放送時代のアナウンサーキャリアをまとめたもので、なんと、伝説のバンド・ケッタウェイズの未公開ライブをおさめたDVD付きです。

 

 

 「杯は眠らない」でも書いたように、國本さんとは1995年の静岡市南部図書館地酒講座からのお付き合いで、それ以前の國本さんは、まさに、中学~高校生時代にハマっていたSBSラジオのパーソナリティくんちゃん、でした。ページを読み進むうちに、『1400デンリクアワー』『ぶっちゃけスタジオCut in ! 』『夜をぶっとばせ』等など、懐かしいタイトルが次から次に登場し、一気に10代の頃にタイムスリップしちゃいました。

 

 まずビックリしたのは、國本さんが入社2年目にジョン・ウェインに突撃インタビューして、ちゃっかりサインをもらったというお宝エピソード。若者の、コワいもの知らずの突破力って貴重だなあ~としみじみ思います。私も20代の頃は・・・まぁいろいろやらかしたもんなあ(苦笑)。

 AMラジオの深夜放送を聴かなくなって久しくなり、最近はどんなプログラムがあるのか、とんと分からないのですが、少なくとも國本さんがバリバリ現役の頃のSBSラジオって本当に面白かったと記憶しています。本を読んでみて、なるほど、番組の裏方さんたちも、本当に面白がってずいぶん大胆なことをやっていたんだなあとナットクできました。

 

 

 

 

 今、國本さんは静岡第一テレビの夕方の情報番組にレギュラー出演されていますが、第一テレビとは浅からぬ縁があったことも本書で知りました。もちろん、局をまたぎ、競合同士の壁を越えてまで、この人を使いたい、と思わせる國本さんの実力があってのことですが、番組制作者の中に、情熱や志のある人がいなければ、またそういう人との出会いがなければ実現できないでしょう。

 

 出版の世界でも同じです。松下さんが日経新聞から本を出せたのも、松下さんの実力もさることながら、よき編集者や協力者との出会いがあってのこと。・・・私も、【地酒をもう一杯】を出せたのは、当時の静岡新聞出版局に平野斗紀子さんという編集者がいたからでした。鈴木真弓の著作本として出せなかったことを残念がってくれた酒友もいましたが、それが、私の当時の実力。未だに自分の名前が表に出た著書がないのも、私にそれだけの力がないのと、今、身近に「本を作ろう」と言ってくれる編集者がいないから。よき編集者との縁も、実力のうちなんですね・・・。

 

 

 なんだか自虐的な気分に陥っちゃいそうで、やめときましょう(苦笑)。とにかく、國本さんが局アナの枠を越えた行動力と人脈を持つ、真に実力のあるアナウンサーだということが、今まで知らなかった数多くのエピソードから伝わってきました。

 

 

 そんなこんなで、読み進めていったら、静岡の地酒との出会いもちゃんと書いてくれていました。私の名前や、静岡市南部図書館地酒講座のこともしっかり。・・なんだかジーンとしちゃいました。大切な大切な、36年9ヶ月のアナウンサー人生の中のエピソードに加えてもらえたなんて、スゴイことです。

 以前、ご本人から、当時の資料が欲しいといわれて提供したことがあったのですが、こういう形で世に発信し、記録してくれるとは・・・。私の活動を、自分の本で紹介してくれたのは、松崎晴雄さんに次いで2人目です。やっぱり、しずおか地酒研究会の草創期から支えてくれたこのお2人なんだなあと、心底手を合わせたくなりました。

 

 

 70年代から2010年代にかけての、静岡のテレビラジオ放送の歴史を総覧できる貴重な史料ともいえる【くんちゃんのはなしのはなし】、谷島屋、吉見書店、江崎書店はじめ、ネットでも入手できます。國本さんファンはもちろんのこと、ケッタウェイズやデンリクアワーを懐かしいと思える世代は必読ですよ♪

 

 

 

 『日刊いーしず』地酒コラム「杯は眠らない」第7回で紹介したのは古い本ばかりですが、今ではネットでカンタンに入手できますので、連休中の寝酒・昼酒のお伴にしていただければ幸いです。

 

 

 

 

 

 

 

 

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更新の意味

2013-04-25 20:42:07 | 農業

 疲れが溜まったせいか、風邪がひと月近く治らず、長時間デスクワークによる頭痛とめまいも加わり、ブログの更新に間が空いてしまいました。更新しない期間も、過去のさまざまな記事を閲覧してくださる方がいて、心底ありがたい・・と同時に、個人ブログとはいえ、誤った情報や思い込みだけで書いてはいけないと気持ちがひきしまります。

 

 

 「更新」という言葉、私のような仕事をしている人間にとっては、〈情報の更新〉という意味合いで使うケースが圧倒的なんですが、先日、お茶の取材先で「茶園の更新」という言い方をしているのを聞いて、エッ!?と思いました。

 

 

 茶園は寿命が50年ぐらい。そろそろ茶樹がくたびれてきたかなと思ったら、茶葉をぜんぶ刈り落とし、茶畑を丸裸にし、新芽を一から育て直すのです。これを、茶園の更新、と言うそうで、新しい葉が生え揃うまでその茶園は(もちろん全部いっぺんにやるのではなく、部分的に順番に更新していくわけですが)無収入になってしまいます。後継者がちゃんといて、この先何十年もお茶で食っていくぞ!という意欲ある生産者しかやれないかもしれませんが、丸裸の茶樹から出てくる茶芽は、本当に勢いがあって、厚く、力強いそうです。

 

 

 

 せっかく更新した茶畑から摘み取ったイキのよい茶葉も、これまで、他の茶葉と一緒に加工されていました。生産者にしてみれば、更新という作業は特段、特別なものではなく、隣近所でやれる農家もやれない農家もいるし、自分ちだけ声高に「更新しました」とアピールするものでもない。第一、普通茶葉といちいち分けて加工する余裕はないし、別加工するほど量的に更新茶葉が揃うわけでもない・・・ということでしょうか。

 

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 今回、取材した菊川の産地では、更新茶葉だけを使った『茶更(ささら)』という深蒸し茶を新発売しました。

 菊川は深蒸し製法発祥の地と言われていますが、テレビの影響で、掛川のほうが産地としては有名になってしまいましたね。

 

 

 

 産地では、菊川の強みは何かを模索したとき、深蒸しの特徴といわれる色の鮮やかさとか豊富な有効成分を云々言う前に、味できちんと評価されるお茶を作ることが、菊川茶復活&リーフ茶の消費低迷打破につながるはずだと腹をくくった。そして、発祥の地としてのプライドをかけ、深蒸し本来の深く濃厚な味わいを目指すことになった。

 

 

 しかもこれを、生産者、JA若手職員、茶商が連携し、共同で企画したのです。三者がそれぞれ独自に企画開発した商品というのは数あるものの、一緒に企画し商品化にこぎつけたというのは初めてのケースだそうです。消費者からみれば「そんな大そうなこと?」と思えますが、古い体質のお茶業界では、横の連携をうまく取るって容易ではないとか。茶園の更新を推進して生産者の意欲を引き出そうと発案したJAの若い職員たち、彼らの声に耳を傾け、面倒な更新茶葉のみの加工にGOサインを出した生産者、更新茶葉の価値を認め、その付加価値を消費者にアピールする努力をした茶商・・・それぞれの意思が一致しなければ生まれなかったのでしょう。

 

 

 

 

 

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 取材先でいただいた『茶更』は、抹茶よりもさらに深く沈んだ色。そしてなんとも芳醇でふくよかな味わいでした。私はどちらかといえば、山間地の浅蒸しタイプの渋いお茶が好きなんですが、『茶更』の加工は、昔ながらの深蒸し製法の復刻版を目指し、穂先梨蒸し製法=茶葉の穂先が梨色(黄色に近い色)になるまで長時間蒸し上げ、茶葉の持つチカラをトコトン引き出した、と聞いて、これが、もとからチカラのある更新茶葉でしか出来ない味なんだ・・・とありがたく頂戴しました。

 

 

 

 

 更新という言葉を広辞苑で引くと、「あらたまること」「あらためること」とあります。植物の世界では「世代の代わること」。林業では「主伐を行う土地に後継林を仕立てること」。・・・でもそこから生まれたのが復刻版の味、というのが、なんとも面白い。丸裸になってみないと作れない味、残せない技があるんですね。たぶんお茶だけじゃなくて、他のジャンルでも。

 

 『茶更(ささら)』はJA遠州夢咲の菊川茶直売所、小笠茶店舗にて発売中です。首都圏ではJR立川駅前の【菊川園】さんで入手できます。

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上野の森で博物館三昧

2013-04-16 14:00:54 | アート・文化

 先週末は上野で博物館をハシゴしました。まずは国立西洋美術館で開催中の『ラファエロ展。週末とあってさすがに混み合っていました。彼の作品がヨーロッパ以外で大々的に公開されるのは初めてだそうです。

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 ルネサンス絵画の大成者といわれるラファエロは1483年生まれで1520年に亡くなっています。今回の出品作は1490年代~1510年代に描かれたもの。日本で言えば日本水墨画の大成者・雪舟(1420-1506)、わび茶の創始者・村田珠光(1422-1502)たちとほぼ同時代、ということでしょうか。

 

 ちょうどこないだまでDVDで観ていた『花の乱』の時代が終焉を迎えた室町後期で、「銀閣」を建てた足利義政が亡くなったのが1490年、妻の富子は1496年没。千利休が1522年生まれで、織田信長は1534年生まれです。今更ですが、西洋のルネサンスと日本のわび・さび文化の出発がちょうど500年ぐらい前の同時期、というのも面白いですね。

 

 

 

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 そのお隣の国立科学博物館で観たかったのが『からだが語る大江戸の文化・江戸人展』。科学技術や地球物理学を紹介する科博で江戸文化の展示って、どんな切り口なんだろうと興味がありました。

 

 期待通り、江戸時代の遺跡から発掘された人骨やミイラをもとに、江戸時代の日本人の顔つき・体つきを再現し、当時の食生活や生活習慣との関係性を検証するという、さすがの切り口。たとえば、お武家さんや大奥の貴婦人方は全般的に顔が細長で、農民や町人はエラが張っている。顔つきも、本当にこういう人、いるいる!と思えてくるから不思議です。

 

 ラファエロが肖像画等で描いた西洋人の顔や体つきと比べると、「食べてるもんが違うんだろうなあ」とつくづく実感しました。

 

 

 

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 科博に来たのは1年ぶり。地球館2階の「科学と技術の歩み」入口では、田中久重の万年時計がドーンと出迎えてくれます。江戸時代から、日本固有に文化に根ざして発展した科学技術の変遷をさまざまな展示物で紹介するフロア。グレートネイチャーの世界も素晴らしいけど、私は人間が一生懸命創意工夫し、磨き上げていった技術や科学の世界が好きだなあ。昔は大の理系嫌いだったのに、年齢を追うごとにだんだん好きになってきた感じ。万年時計は装飾芸術としても高いレベルなので、何度見ても見飽きません。

 

 

 

 

 

 

 

 

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 さて、今回の上野行きの最大の目的は、国立博物館で開催中の『大神社展』です。

 今年の伊勢神宮の式年遷宮を機に、神社本庁はじめ、全国の神社の協力のもと、ふだんや身近に見られない神社の宝物や日本の神々に関する文化財が集結した神道の一大美術展。ちょうど富士山世界文化遺産登録がらみの記事を書いていて、富士宮浅間大社が「富士浅間曼荼羅」を出品すると聞いて、ちゃんと見て置こうと思ったのです。

 

 曼荼羅の絵はほかに、奈良春日神社の「春日宮曼荼羅」や、比叡山ふもとの「日吉曼荼羅」、「石清水曼荼羅」、「伊勢両宮曼荼羅」等など、そうそうたる神社の絵図が並んでいて、そういう作品群の中で見ると、富士山が信仰の山としていかに価値があるかが、より一層深く感じられました。

 

 

 面白かったのは、日本の神様って姿が見えないのが鉄則なのに、意外なほど「神像」がたくさんあるってこと。お酒の神様でお馴染み・京都松尾大社からは、古代中国の学者のような風貌の男神と、色白で豊満な女神坐像が出品されていました。「僧形神」といって、神さまなのに地蔵菩薩や十一面観音菩薩のような風貌のもの、「武装神」といって平安時代に使われた鎧を忠実にまとった珍しい坐像もありました。

 

 イチバン「かっけぇー!」と思ったのは、展示フロアのラストに登場する「春日神鹿御正体(かすがしんろくみちょうたい)」。春日大社の鹿は神の使いとされていますが、そのリアルかつ優雅なお姿は、「もののけ姫」の世界に出てきそうな雰囲気。宮崎駿さんはこういう神像をモデルに描いたのかなあと思えるほどでした。

 

 

 学生時代に仏教美術をかじった身として、知っていたつもりでまったくの不勉強だった神道美術。富士山の記事を書くため、酒文化を学ぶため、歴史ファンの常識として・・・さまざまなモチベーションで鑑賞したものの、見終った後は、やっぱ、生まれたときからお世話になっている神社のこと。日本人なら、一度はちゃんと、一から考察し直さねばならない世界だな・・・と反省しました。6月2日まで開催中ですから、上京の機会がある方はぜひ!

 


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『シュガーマン~奇跡に愛された男』を観て

2013-04-14 15:17:10 | 映画

 12~13日と東京。2~3件、仕事がらみの用事もあったのですが、2日間たっぷり感性の充電が出来ました。

 

 

 まずは映画から。今年のアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞した『シュガーマン~奇跡に愛された男』を観ました(公式サイトはこちら)。劇場で一般公開されるドキュメンタリー映画というと、戦争の悲劇や社会問題をより深く、センセーショナルに扱った重~いテーマが多いのですが、観た後で、これほどジワジワと感動と葛藤が交錯する気分になったのは久しぶりでした。

 

 

 

 デトロイトの貧困層出身のミュージシャン、ロドリゲスは、1960~70年代、ボブ・ディランよりもインパクトのあるメッセージ性の高い楽曲(「シュガーマン」は代表曲名)を発表し、一部で高く評価されたにもかかわらず、リリースした2枚のLPは全米ではまったく売れず、本人はレコード会社から干され、そのうちに消息不明に。ところが、遠く離れた南アフリカで、偶然、アメリカ娘がカセット録音して持ち込んだ彼の歌が、若者や反アパルトヘイト活動家の間で評判になり、本人がまったく知らない間に彼の名前はエルヴィス・プレスリーよりも有名になり、プロフィールがまったくの謎のままだったので“コンサート中にファンの目の前で自殺した伝説のロックミュージシャン”にされてしまった。彼の音楽で育った南アのジャーナリストとレコード店主が、90年代後半、謎を追求しようとネット等で調査をし、思わぬ事実にたどり着いた・・・。その顛末を、ロドリゲスの音楽とともに、関係者の証言と回想で追取材したドキュメンタリーです。

 

 

 こんなふうにサラッと説明すると、よくあるミュージシャンのちょっとユニークな伝記映画のように思われるでしょうが、ほかの伝記映画と違うのは、ロドリゲスという人物の、成功者なのか不遇者なのかよくわからない、つかみどころのない魅力。南アフリカでいくら伝説になったといっても、実際に売れたレコードは海賊版みたいなシロモノだから印税はおろか、本人はまったく知らない話だし、彼を干したアメリカのレコード会社オーナーも信じようとせず、「そんなに売れたのなら、誰が儲けをくすねたんだ」と怒り出す始末です。

 

 プロのミュージシャンで食べていく道をあきらめ、デトロイトの日雇い労働暮らしに戻ったロドリゲス。映画では、「彼が工事現場にもきちんとした身なりで来る紳士的な男で、教養も高く、社会の底辺の暮らしにも腐らず、懸命に働き、社会的問題にも眼をそらさない真面目な男だった」という証言が紹介されていました。

 

 

 後半、浮き彫りになる彼の素顔は、シュガーマン(=麻薬売人)なんて歌を作るような反社会性を微塵も感じない、おだやかな聖人のようです。彼はネイティブアメリカンとメキシコ系の血を引いているようですが、昨年夏、アリゾナのナバホで出会ったホピ族のジュエリー店主に、どことなく雰囲気が似ていました。

 他人の証言だけだったら、本当にこんな人、実在したのかなあと疑いたくもなるけど、そうじゃないところがこの映画の凄さ。ネタバレになるので、これ以上は書きませんが、「多くの人(ミュージシャンやクリエーター等)が、世の中から正当に評価されず、存在すら知られずに消えていく。彼も、奇跡的に一瞬、伝説にはなったが、はたして成功者といえるだろうか・・・」というくだりでは、なんだかじんわり泣けてきました。

 

 

 今、曲を聴けば、ボブ・ディランを凌駕するほどの素晴らしい音楽性と思惟に富む哲学的な歌詞なのに、当時のアメリカでは見向きもされず。南アでは100万枚以上売れたのに儲けたのは海賊版製作者だけ。20年以上経って追っかけファンがこうして立ち上がらなければ、一生浮かび上がることのない才能です。そういう才能が、世の中には本当にたくさんあるし、とりたてた才も能もない、ただのローカルライターの自分にだって、“一生懸命やっているのに周りから評価されない、自分が書いたものだって気づいてもらえない”という自虐的な思いがあります。

 なのに、一国の社会体制をひっくり返す力をも持つ音楽を創り出した人なのに、正当に報われず、その矛盾と、報いを求めようとしない、そんな彼の生き方に心を揺さぶられるのです。

 

 

 

 

 この映画によって、ロドリゲスというミュージシャンの名前が、音楽史にどのように刻まれていくのかわかりませんが、この映画を世に送り出した製作者は、映像クリエーターとして大きな使命を果たしたことだけはわかりました。

 

 

 静岡でも早く公開されるとよいのですが、アカデミー作品賞を取った『アルゴ』同様、静岡の映画興行主のお眼鏡には、すぐに留まらなかったんでしょうか、それとも地方の映画館にお鉢が回るまでは時間がかかるってことでしょうか・・・才能を見出すって難しいですね、ホント。


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