杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

安陪均さん個展&ふじのくに食の都体験講座のお知らせ

2011-09-29 09:38:16 | しずおか地酒研究会

 月末にかけて急に仕事や用事がたてこみ、頭が重~い日が続いています。急に寒くなったり、かとおもえば日中暑かったりと、季節の変わり目のせいかもしれません。ただ、ここ数年、夏の終わりごろから襲われる「更年期」みたいな全身倦怠症状が、今年は起きないのでホッとしてます。春から始めたダイエット&運動効果が少しずつ奏功してきたのかも。

 

 昨日(28日)も、午前中は10月末の地酒イベント(追ってお知らせします)のため某蔵元と打ち合わせ、お昼に中日新聞富士山特集10月分の電話取材、午後から県広報誌の緊急特集で防災関連の資料の書き起こしと、頭が3つ必要なスケジュールに追われ、夕方、プールで体をほぐそうと、車で5分の「ゆらら」まで行ったら、なんと『レジオネラ菌発生で緊急休館』の貼り紙。・・・季節の変わり目でトラブったのは、ワタシじゃなくてプールだったなんて、とほほです~

 

 不完全燃焼の気分で帰宅したら、伊豆の国市の陶芸作家・安陪均さんから個展の案内が届いていました。

 

 7月の震災復興支援チャリティエキシビジョン展で購入させていただいた三島茶碗は、いつか自分で茶が点てられるようになったら使おうと大切にとってあるのですが、個展の案内状にあった「大阪吉兆で懐石を学び、日本の総合文化に触れ、料理が映える器を作ることから生家に戻った」「初心に戻って“用と美”を兼ね備えた作陶を楽しんでいる」という言葉に、器って使いこなしてみて初めて作家が表現したかった真の美しさが理解できるんだって改めて思いました。

 

 個展の案内は、今日(29日)の静岡新聞朝刊29面のウイークリーガイドにも紹介されていますので、ぜひ!

陶芸 安陪均展

会場 さんしんギャラリー善(三島信用金庫本店4階) JR三島駅より徒歩8分 

会期 10月1日(土)~25日(火) 10:00~18:00 木曜休館

 

 

 

 県東部では、しずおか地酒研究会の仲間である御殿場の『みなみ妙見』店主・池谷浩通さんが、SBS学苑イーラde沼津校で「ふじのくに食の都~秋の地元食材&お酒たち」という公開講座を開催します。イーラde沼津校で日本酒講座を受け持つ鈴木詔雄さん(銘酒処すずき酒店)とのコラボ企画。金華豚、御殿場地鶏、天野醤油、白隠正宗など県東部の自慢食材と地酒の相性体験が楽しめる貴重な機会です。ぜひご参加を!

 

SBS学苑公開講座 ふじのくに食の都~秋の地元食材&お酒たち

会場 SBS学苑イーラde沼津校 JR沼津駅前 イーラde3階

日時 10月20日(木) 19時~20時30分

講師 池谷浩通さん(みなみ妙見店主・ふじのくに食の都づくり仕事人)、鈴木詔雄さん(銘酒処すずき酒店店主・SSI専属テイスター)

料金 受講料2100円・教材費2100円

申込 こちらからどうぞ。電話055-963-5252(SBS学苑イーラde沼津校)

 


新静岡セノバの概要

2011-09-27 10:10:55 | ニュービジネス協議会

 

 

Imgp4839
 少し前ですが、9月12日に開かれた(社)静岡県ニュービジネス協議会のNBサロン中部9月で、10月5日グランドオープンの「新静岡セノバ」の概要について、運営会社・静鉄プロパティマネジメント㈱代表取締役の今田智久社長にうかがいました。

 

 

 

 今田さんからお話をうかがうのは2度目(こちらを参照)。以前と比べると、少しお痩せになったかな。やっぱりご苦労が・・・

 

 それはさておき、静岡市民にとってなじみの深い新静岡センターが、「セノバ」って名前に変わっちゃうと知った時は、少々違和感もありましたが、お話をうかがって、いろ~んな意味で消費者側の意識もCHANGEしてるんだなって実感しました。

 

 

 

 

 ちなみに「cenova」のネーミングは、NTTDocomo、au、oazo等を手掛けたネーミングクリエイターの横井惠子さん。center(中心)+nova(ラテン語で“新しい”)の組み合わせだそうです。せっかく市民に愛着のある商業施設なのに、静岡市民から公募するという方法をとらず、あえて中央のトップクリエイターに命名してもらったというのは、何かやっぱり、CHANGEの意味を際立たせたかったのかな。

 

 

 

 

 

 

開発コンセプトは“静岡市都市部の新たな魅力創出・まちづくりに貢献するターミナル一体型再開発”。前回のサロンでもおっしゃったように、バスターミナルや鉄道駅と一体化し、機能的なゾーニングによって市街地の人の流れに新たな“回遊”の魅力を付加します。

 

 

 

 

興味を持ったのは、新静岡センター時代から井水を活用し、トイレ洗浄水、植栽の散水、バスターミナル城工場の空調等に利用するなど、安倍川の伏流水が豊富に流れる静岡市ならではの水の恵みを活かすということ。

 

静岡市中心部で大規模な地下街が作れないのは、地下水が多すぎるからって聞いたことがありますが、商業施設が地下水を使うのはなかなか規制が厳しいようです。セノバの場合は、センター時代から使っていた実績もあって許可が下りたとか。ほか、LED照明、ミスト散布装置、電気自動車用充電器の設置など各ポイントで環境にも配慮しています。

 

 

 

またバリアフリー・ユニバーサルデザインの採用に関しては設計の段階から福祉団体等にヒヤリングを行い、施設すべての出入り口をフラットにし、入口はすべてオートドアに。誘導ブロックは視覚障害者にとって黄色が見えづらいため周囲をグレーで囲む工夫をしたそうです。

 

 

 

 

 

 

 

注目のマーチャンダイジングでは、静岡市民の消費行動の特徴ともいえる“ちょっと新しくてトレンディなもの”と“堅実に日常性の高い需要にも応える”カジュアルファッション、食、雑貨のテナントをバランスよくミックスさせたとのこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

店舗面積はのべ32千平方メートル。うち6000平方メートルが複合映画館『シネシティザート』で、残り26千平方メートルが153の店舗。うち106店が静岡市に新規初出店で、店舗総面積は旧新静岡センターの約2倍です。『東急ハンズ』『MARUZEN&ジュンク堂書店』『BEAMS』『mont-bell』など静岡県初出店の店も注目です。

大都市ではお馴染みのこれら量販店が、どんな“静岡仕様”で乗り込んでくるのか、興味ありますね。

 

 

 

 

 

 

 

 

個人的に注目は、1階にオープンする『ヴィノスやまざきワインバー』、5階レストラン街の『炭焼きレストラン・さわやか』あたりかな。さわやかのハンバーグは、ファミレスでは全国に誇れるレベルだと思います。静岡の街中で気軽に食べられるようになるのはウレシイですね!

ほか、詳しい出店リストはセノバのホームページでご確認ください。

 

 

 

 


『輪になろう日本酒』に参戦!

2011-09-26 11:35:18 | 地酒

Imgp4886
 9月23日(金・祝)は東京ドーム・プリズムホームで『東日本大震災復興イベント 輪になろう日本酒~日本の絆を深めよう』が開催されました。全国から名だたる蔵元195社が集結した大試飲会。これほどの規模の試飲会や地酒まつりに参加する機会は久しぶり。しかもその場でお酒のチャリティ即売もしてくれるというので、やたら熱くなってしまいました

 

 

 その前に立ち寄ったのが東京国立博物館で25日まで開催の『空海と密教美術展』京都・東寺のマンダラ仏像群を360度・間近に観られる貴重な展示会で、もっと早く行きたかったんですが、ギリギリになってしまいました。

 

 仏像界きってのイケメン・帝釈天は、お背中の衣のビラビラまで繊細で美しかった・・・。今まで拝観する機会のなかった大阪・獅子窟寺の薬師如来や、香川・聖通寺の千手観音菩薩も素晴らしい。仏教文化がこれほど昇華し、今もって維持保存されているのが、インドや中国や朝鮮半島ではなく、日本だったということを今さらながらに不可思議に思います。日本人ってふだんはお寺さんをお葬式や法事のときぐらいしか利用しないのにね。

Imgp4882
 ・・・久しぶりに訪れた東京国立博物館の本館と平成館のすき間から、東京スカイツリーがどんぴしゃで見えてビックリでした。

 

 

 

 

 

 美しいみ仏たちに心洗われたというのに、夕方からは煩悩の世界へまっしぐら(苦笑)。『輪になろう日本酒』会場では、まず真っ先に静岡の蔵元ブースにご挨拶。磯自慢、開運、臥龍梅、喜久醉、正雪、白隠正宗、初亀、若竹の計8社が参加してました。

 Imgp4883
若竹さんは「おんな泣かせ」の新パッケージをお披露目されてました。故・栗田覚一郎さんの書が描かれたおなじみのパッケージがなくなってしまったのは少々さみしい気もしますが、新しいパッケージはモダン和風で粋ですね。10月下旬に発売予定だそうです。

Imgp4885
 次に、先日しずおか地酒サロンで来静してくださった松崎晴雄さん・典子さん&山本洋子さんが担当する「十四代」のブースへ。この3人が「十四代」をプレゼンするなんてすごーいプレミアムなんですが、知らない人は「蔵元さんですか~?」なんて気軽に声をかけてました(笑)。

 

 

 

 2時間という時間制限の中で、200社近くを制覇するのはとても無理で、個人的に好きな福井の「早瀬浦」や富山の「満寿泉」、被災されて気になっていた宮城・石巻の「墨廼江」、松崎さんから「要注目エリア」と教えてもらった滋賀県&佐賀県の各銘柄をピンポイントで回りました。

 Imgp4890
 先日やはり静岡へ来てくださった里見美香さんや牟礼博樹さんが受付ボランティアをされていたので、水をもらって休憩しながら、ライブステージのラスト・君嶋哲至さん(横浜君嶋屋)がボーカルを、望月正明さん(正雪)がドラムを担当するSAKEバンド『Mystic Water』の演奏まで拝聴し、各ブースで買い集めた酒をぶら下げながら、ほろ酔い気分で帰りました。

 

 

 

Imgp4889
 準備時間があまりなかったと聞きましたが、それでもこれほどの規模の試飲会が実現できるなんて、日本酒を愛する人々の熱意ってやっぱりスゴイ。 

 東京では立派なホテルやホール等で行う業界組合のイベントが恒例化しているけど、この会は、「本当に日本酒が好きな人が、好きな人たちのために、ゲリラ的に実行した」感じがして愉しかった。なんといっても、蔵元ブースで試飲してその場で買えるっていうのがよかったな。これ、中間業者さんの理解や協力がなければできないことですよね。

 

 実行委員会のみなさま、本当にお疲れさまでした&ありがとうございました。


茶道に学ぶお辞儀の作法

2011-09-24 22:05:55 | 駿河茶禅の会

 先日の台風15号は家の中にいてもビビりました。我が家はマンション3階の角部屋で3方向に窓があり、雨戸が付いていないので、窓を叩きつける風雨に部屋全体が地震のときのように揺れるのです。家のすぐ横を流れる側溝は水位がまたたく間に上昇し、今にあふれ出してニュースでよく見る水害みたいになっちゃうのかとマジで怖くなりました。

 

 そんな台風襲来の日、夜には静岡県ニュービジネス協議会のメンバー中心に始めた『茶道に学ぶ経営哲学研究会』の第2回例会を強行開催しました。会場の「あざれあ」は当日の会議室予約がほとんどキャンセルになったようで、入口の催事案内掲示板には当会の案内も事務所の手違いで勝手に中止扱いにされてました(苦笑)。

 

 他の団体がキャンセルしたおかげで駐車スペースが多めに確保できて、参加した人には都合がよかったけど、結局、ライフライン関係の企業に勤める人で職場を離れられなくなったり、地区の防災委員で呼び出しがかかったり、JRが止まって静岡へ来れなくなったり・・・等などで欠席者も多く、菓子や軽食を準備していたスタッフ側としてはヤキモキしました。

 

 

 聞けば、お茶の先生というのは、事前準備に細心の気配りをはかりながらも、当日ドタキャンの生徒がいても文句ひとつ言えないとか。実際に茶事を行う際も、亭主は客をもてなすためにトコトン尽くす。いつ来るかわからない、本当に来るかどうかわからない客に対しても細心の準備をする。・・・“人間”が出来ていないと亭主って務まらないんだな~と思います。

Imgp4874
 この日は講師の望月静雄先生が、茶室での立ち振舞いを一人ひとり指導してくださいました。茶室に入室する前、庭のつくばいで手や口を濯ぐときの作法、和室のふすまを開けるときの作法、お辞儀の作法、茶室に入室してから着座するまでの作法、お菓子をいただくときの作法・・・。いやぁ、な~んにもわかってないってことがわかって、日本人のくせに和室の構造や立ち振舞いの基本をちゃんと教わったことがないまま人生半分以上過ぎちゃったと思うと、末恐ろしくなりました(苦笑)。

 

 

 なんといっても、正座したときのお辞儀の作法ですね。これ、ちゃんと知ってないと日本人としてまずいんじゃないかって痛感します。

 

 もっとも重い「真」の礼は、手のひらをすべて畳につけて、背筋を伸ばしたまま、お腹を膝に付けるくらい上体を前にかがめます。時間的には頭を下げてもどすまでトータル9拍くらい。

 

 「行」の礼は客どうしの挨拶のお辞儀。手の指の第二関節から先を畳に付け、背筋を伸ばして上体を前にかがめます。時間的には6拍ぐらい。

 

 一番軽い「草」の礼は指先を膝の前の畳に付けて、上体を軽く前に下げます。時間的には3拍ぐらい。

 

 

 どのお辞儀も、背筋がきちんと伸びていないとみっともないですね。立礼でも同様。「真」の立礼は表彰式の時ぐらいしかしないスペシャルな礼ですが、背筋をピーンとさせ、お腹をしめ、45度ぐらいの角度までしっかり上体をかがめる。先日、首相が宮中任命式で天皇陛下にお辞儀をしていた姿は、背中が丸まっていてあまり恰好がよろしくなかったよう。ふだんからマナーを心得ているかどうかって、こういうときにわかってしまうんですねえ・・・。

 

Imgp4873
 ビジネスシーンで一番使うのが「行」の立礼で、目上の上司や顧客に挨拶をするとき、きちんとお辞儀ができるかできないかって大事です。背筋を伸ばし、30度程度まで上体をかがめます。

 

 同じ人に同じ日にふたたび会ったときは、角度15度ぐらいの「草」の立礼で。人とすれ違うとき、会議室へ入るとき、お茶を出す時など、「行」では仰々しい場合にはこれでOKですが、やっぱり背筋がちゃんと伸びてないと見苦しい。

 

 姿勢を正してお辞儀をすると、おへそのあたりの丹田にグッと力が入ります。ここを鍛えると全身のバランスがよくなることを、現在通っている「ゆらら」のスポーツインストラクターの先生から教わったばかり。丹田ってなんといっても身体の中心点ですから、脂肪も溜まりやすいけど、鍛え甲斐があるというものです。正しい作法は正しい健康法にも通じるんですね。

 

 

 茶道研究会といっても、実際に自分が茶を点てられるまで山あり谷ありって感じですが、息の長い勉強会にしていきたいと思っています。次回(10月5日)は駿府公園内の紅葉山庭園茶室で先生のお点前をしかと拝見する予定です。


シズオカ文化クラブ例会~静岡ハリストス正教会訪問

2011-09-22 10:07:04 | 歴史

 1週間遅れの報告になりますが、9月15日(木)18時30分から、シズオカ文化クラブの例会があり、静岡ハリストス正教会聖堂を訪問しました。

 

 

 Imgp4856
 静岡鉄道「春日町駅」の近くにある、エキゾチックなロシア聖堂。私、10年ちょっと前、この駅の近くに2年ほど住んでいたことがあるんですが、教会があるな~程度の認識しかなく、もちろん入ったこともありませんでした。静岡市内にロシア正教の教会があるというのも意外でした。東京神田の大聖堂は観光気分で見学した経験はあるけど・・・。

 

 そもそも、静岡とロシアの関係って、伊豆の下田や戸田ならわかるけど旧駿府城下の静岡市内であったっけ・・・?というレベルでした。これって“歴史好き”を公言する身としてはすごーく恥ずかしいレベル・・・ でもこういう機会を得られ、静岡市民としての自覚が深まったというのか、自分の足元をしっかり見つめる意義と価値を再確認できた気がします。

 

 

 

 日本にロシア正教が入ってきたのは幕末。文久元年(1861)に修道司祭ニコライ師がシベリアを単身、馬車で渡って、函館ロシア領事館付司祭として来日したのがきっかけです。明治元年には函館ロシア領事館で澤辺琢磨らが受洗し、日本人初のロシア正教信者になりました。

 澤辺琢磨って土佐藩脱藩浪士で、坂本龍馬の従兄弟なんですよね。確か大河ドラマ『龍馬伝』にも登場し、神田大聖堂の建築に尽力したってエピソードが紹介されていました。何でも彼は最初、ロシア領事館に剣術指南役でやってきて、攘夷論者としてニコライ師を暗殺するつもりだったのが、問答をかわすうちに改心したとか。勝海舟と坂本龍馬のなれそめに似ていますね。

 

 

 静岡で布教が行われたのは、明治10年頃から。東京本会から伝教者が派遣されて、今の静岡市葵区上石町にあった伊勢屋という宿を静岡教会(仮)として布教活動が始まって、教えを受けた飯海篤太郎という人が東京本会でニコライ師より直接受洗され、静岡教会受洗第一号になりました。

 

 明治16年には、その後執事長を務めた近藤伊作が受洗し、教会の建築資金をねん出して人宿町に『静岡生神女庇護会堂』を造りました。その後、会堂は火事で焼けてしまい、信者の住まいのある通研屋町、本通2丁目、東草深、西草深、北安東を転々とします。・・・うちのご近所にもあったなんて、すごく親近感を覚えますね。

 

 明治37年2月、日露戦争が始まると、日本国内のロシア正教会は窮地に立たされます。ニコライ大主教はロシアへ帰国するよう再三促されながらも「日本に骨をうずめる」「日本勝利のために祈る」という姿勢を断固貫かれたそうです。

 

 

 同年12月には、ロシア人俘虜120人が静岡へ送られてきて、旧徳川邸俘虜収容所に入ります。翌明治38年1月には、ロシア人俘虜将校7人が初めて静岡教会の主日祈祷に参加し、その後も再三参祷するようになりました。そして同年4月には静岡県から『静岡ハリストス正教会』設立の許可が正式におりて、明治44年、本通5丁目に新会堂が竣工されました。

 

 ニコライ大主教は明治45年に永眠しますが、このときまでに、日本国内には大聖堂1、聖堂8、教会276、会堂175が造られ、信徒は3万4千人余り。静岡県内には浜松、静岡、三島、伊豆修善寺に教会が置かれ、大正9年の記録では県知事あてに信徒総数142名が届けられていたとのことです。

 

 

 

 昭和に入り、ふたたび戦争が影をおとします。昭和15年の静岡大火で信徒の多くが亡くなり、昭和16年に太平洋戦争が始まると、時の大主教セルゲイ師が軍部に幽閉されます。師は終戦の日(昭和20年8月15日)の直前、8月10日に亡くなり、2年後の昭和22年1月、アメリカ系ロシア人のベニアミン主教がアメリカからやってきます。・・・ロシア正教会の指導者がアメリカからやってくるなんて、いかにも戦後って感じですね。

Imgp4855
 静岡教会は昭和20年6月の静岡大空襲で焼夷弾の直撃を受けてしまいましたが、信徒たちの努力によって昭和34年、ようやく現在地春日町に『静岡ハリストス正教会生神女庇護聖堂』が竣工します。昭和57年には静岡ハリストス正教会開教100周年を迎え、147名の信徒数が記録されています。

 

 

 

 築50年余り経った聖堂は、耐震上の問題があって、残念ながら年内に取り壊されることになりました。そこで今回、シズオカ文化クラブさんの企画で特別礼拝に参加させてもらうことに。

 

 

 Imgp4863
 初めて入った聖堂の内部は、高い天井や壁に所狭しとイコンが飾られ、一瞬にして「ここはホントに静岡かっ!?」気分。しかもイコンの中には、幕末から明治にかけて活躍した女流画家山下りんが、ニコライ大主教から「日本人のために、日本人の貴女に描いてもらいたい」と直に頼まれた作品が数多く含まれています。

 

 イコンは「美術品ではなく信仰を助ける道具」であり、遠近法等の絵画手法を用いないものが多かったようですが、山下りんはサントペテルブルクに留学し、エルミタージュ美術館で中世ルネサンス絵画を観て感銘を受け、今までのイコンにはなかったルネサンス的表現で美しいイコンを数多く残しました(国内のロシア正教会に残っている山下りんの作品リストはこちら)。

 

Imgp4867
 今では“重要文化財級”の山下りん作品が、何気なく、ごく自然に飾られている聖堂内。宗教は違うけど、私が大好きだった東大寺法華堂(三月堂)に一千年余り、ごく自然に立ち続けておられたみ仏がたを思い出しました。法華堂も修復工事が始まり、み仏がたは専用の展示館に移されてしまいました・・・。

 

Imgp4857
 

 聖堂の機能は、とりあえず敷地内に建てられた信徒会館に移されるそうです。この信徒会館、建築家近藤一郎の代表作で(くわしくはこちら)、木目調のデザインと音響の良さから、室内コンサート等もたびたび開かれているそうです。この日もバイオリンユニットMio Stringsのミニコンサートを堪能させてもらいました。

 

 

 静岡とロシアの知られざる国際交流と、あまり馴染みのなかったロシア正教会の文化に触れることのできた、本当に得難い一夜でした。貴重な学習の場を用意してくださったシズオカ文化クラブの幹事のみなさま、本当にありがとうございました。