蝶の、世界中に通用する名前として、学名がある。学名は国際動物命名規約に詳しい取り決めがあり、新種を発見した場合、これに従って学名を決定し、記載論文を印刷物の形で発表する。
学名はリンネの提唱した二名法に基づいていて、属名(ぞくめい)と種名から成り、この二つの名前の組み合わせですべての動物の中のある特定の種を表すことが出来る。学名の後に命名者、命名年が続く。
画像のシジミチョウを例にとれば、 Rachana は属名、mioae は種名で、H. HAYASHI は命名者、すなわち僕、そして 1978 は西暦で表した命名年である。もし亜種が存在する場合は、三名式となり、種名の後に亜種名が挿入される。
僕は1978年(昭和53年)、このシジミチョウを模式種(タイプ標本)としてEliotia属を創設した。属とは分類上、種の上に位置し、一般的な表現を使えば、普通は幾つかの共通する特徴を持った種が集まって属を形成している(一属一種の場合もある)ので、いわばそのグループ名に当たるものである。
属名のEliotiaとは、僕の蝶師(?)の一人で長年にわたって有益な教えを受けた英国の著名な蝶研究者、Eliot氏に感謝の意を表して献名したもので、氏の名前をラテン語化したものである。
属名や種名を命名する時は、以前に学名として使われたことが無いことを確認して発表するのだが、1978年当時はせいぜい昆虫類で名前が重複していないか調べるのが関の山で、全動物をチェックすることは現実には不可能な作業だった。
最近はあらゆる分野でデータベース化が進み、全動物の学名のチェックが容易になった。その結果、属名Eliotiaは、1909年(100年前!!)に軟体動物のショウジョウウミウシ科の属名に使われていたのが判明した。画像の下段は中山書店発行の「動物系統分類学、軟体動物(Ⅱ)」の中の一ページで、ショウジョウウミウシ科の解説中に「別属Eliotiaは本邦未記録、地中海産」という記述がある。多分、20世紀初頭にEliotという名の人物に献名された属名であろう。これはホモニム(異物同名)といって二つの違った属に同じ属名が使われていることになり、後年シジミチョウの属名に使った僕のEliotiaは無効名(junior homonym)となって消え、僕の命名より後に付けられて、シノニム(同物異名:同じ属に二つの名前が付いていること)で無効名として消されていたRachanaという属名が復活することになった。
長くなったが、これがEliotia mioaeが現在Rachana mioaeという学名に変わった顛末記である。
それにしても新属の創設という多大なエネルギーと専門的知識を要求される作業が、ただ時代が早すぎた(データベースの無かった時代)ということと、Eliot氏の名前が姓としてはあまりにもありふれていた(Eliotさん、申し訳ありません)というだけで、僕が世界中で一番初めにmioaeが既知の属とは違う新しいグループを形成しうるという考えを発表したという客観的事実まで、命名上のきまりとはいえ、葬られてしまうのには釈然としない思いを抱くと共に、mioaeを新しい属の創設にふさわしい種であると見抜いた僕の慧眼(自画自賛ですみません)と努力が無に帰したのは、何ともくやしくてならない。
学名はリンネの提唱した二名法に基づいていて、属名(ぞくめい)と種名から成り、この二つの名前の組み合わせですべての動物の中のある特定の種を表すことが出来る。学名の後に命名者、命名年が続く。
画像のシジミチョウを例にとれば、 Rachana は属名、mioae は種名で、H. HAYASHI は命名者、すなわち僕、そして 1978 は西暦で表した命名年である。もし亜種が存在する場合は、三名式となり、種名の後に亜種名が挿入される。
僕は1978年(昭和53年)、このシジミチョウを模式種(タイプ標本)としてEliotia属を創設した。属とは分類上、種の上に位置し、一般的な表現を使えば、普通は幾つかの共通する特徴を持った種が集まって属を形成している(一属一種の場合もある)ので、いわばそのグループ名に当たるものである。
属名のEliotiaとは、僕の蝶師(?)の一人で長年にわたって有益な教えを受けた英国の著名な蝶研究者、Eliot氏に感謝の意を表して献名したもので、氏の名前をラテン語化したものである。
属名や種名を命名する時は、以前に学名として使われたことが無いことを確認して発表するのだが、1978年当時はせいぜい昆虫類で名前が重複していないか調べるのが関の山で、全動物をチェックすることは現実には不可能な作業だった。
最近はあらゆる分野でデータベース化が進み、全動物の学名のチェックが容易になった。その結果、属名Eliotiaは、1909年(100年前!!)に軟体動物のショウジョウウミウシ科の属名に使われていたのが判明した。画像の下段は中山書店発行の「動物系統分類学、軟体動物(Ⅱ)」の中の一ページで、ショウジョウウミウシ科の解説中に「別属Eliotiaは本邦未記録、地中海産」という記述がある。多分、20世紀初頭にEliotという名の人物に献名された属名であろう。これはホモニム(異物同名)といって二つの違った属に同じ属名が使われていることになり、後年シジミチョウの属名に使った僕のEliotiaは無効名(junior homonym)となって消え、僕の命名より後に付けられて、シノニム(同物異名:同じ属に二つの名前が付いていること)で無効名として消されていたRachanaという属名が復活することになった。
長くなったが、これがEliotia mioaeが現在Rachana mioaeという学名に変わった顛末記である。
それにしても新属の創設という多大なエネルギーと専門的知識を要求される作業が、ただ時代が早すぎた(データベースの無かった時代)ということと、Eliot氏の名前が姓としてはあまりにもありふれていた(Eliotさん、申し訳ありません)というだけで、僕が世界中で一番初めにmioaeが既知の属とは違う新しいグループを形成しうるという考えを発表したという客観的事実まで、命名上のきまりとはいえ、葬られてしまうのには釈然としない思いを抱くと共に、mioaeを新しい属の創設にふさわしい種であると見抜いた僕の慧眼(自画自賛ですみません)と努力が無に帰したのは、何ともくやしくてならない。