旅人ひとりー大阪大学探検部一期生のたわごとー

とこしえの精神(こころ)を求めて、さまよ(彷徨)う旅人ひとり。やすらぎを追い続け、やがてかなわぬ果てしなき夢と知るのみ。

小説・幻影のアリバンバン

2010-05-22 | 
アリバンバン ・alibangbang とはフィリピンの地方言語のひとつ、ビサヤ語で「蝶」を意味する。フィリピンの公用語はルソン島中央部で使われているタガログ語で、蝶はパルパロ・ paru-paroといわれている。ビサヤ語が使われているビサヤ諸島はフィリピン群島のちょうど中央、ルソン島とミンダナオ島に挟まれている大小さまざまの島で構成されている。主な島はセブ、ボラカイ、ボホール、ネグロス、パナイ、サマール、レイテなどの島々である。

この小説は僕が「ワニブックス出版サービス」から自費出版したもので、「国際生物多様性の日」である今日、5月22日から紀伊國屋書店の店頭に2週間(一部の店舗ではそれ以降も)並ぶことになっている。

少年時代から蝶、特に繊細な美しい色合いの翅を持ったシジミチョウの小さくて儚げでいながら実はしなやかで力強く生きている姿に惹かれて無邪気に追いかけていた主人公が、青年になって山で出会った女性に蝶を殺して標本にする行為を手厳しくとがめられ、心の底から打ちのめされてしまう。蝶を愛してやまない彼はどうすれば罪悪感を持たずに蝶を追い求めることができるのか、大いに悩んだ末、新種の蝶を発見して学名を付け、記載論文を発表することによりその蝶の存在を世界に知らしめることがその解決につながるのでは・・・と悟る。彼が求めてやまない美しい蝶にイメージが重なる女性との巡り合いが彼の生き方にさらに力強い影響を与えてゆく。新種の蝶に彼女の名を付け、愛の証しとしよう。そう決意した彼は理学部の大学院に進んだ後、分類学のさまざまな手法を学ぶためロンドンの大英自然史博物館に留学する。

帰国後、蝶研究の空白地帯であるフィリピン、それも当時あまり注目されていなかったネグロス島カンラオン山へ向かった。ガイドやポーターたちと山中を野営しながら新種のシジミチョウを追い求める。熱帯のジャングルでの過酷な探索の日々が続く。彼を支え続けたのは蝶好きな自分を初めて偏見なく見つめてくれた異性への限りない憧憬の念であった。

三年の歳月と四回に及ぶ山行の末、彼はついに新種のシジミチョウを捕虫網に入れることに成功した。愛する彼女の名をラテン語の学名に入れ、記載論文を発表。彼女は赴任先の西ドイツ、フランクフルトでそれを目にし、彼の彼女に対する愛情が絶えることなく続いていたことに涙すると共に、彼女の彼に対する想いも決して冷めていなかった感動のシーン で小説は締め括られる。

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蝶と村上春樹著・1Q84

2010-05-01 | 
音楽にくわしい人でも言い当てられる人が多くはないというチェコスロバキア人・ヤナーチェックの「シンフォニエッタ」の描写で始まり、タクシーの後部座席でこの音楽を理解し、その当時の世界情勢に思いを巡らせることが出来る「青豆」という変わった苗字を持つ若き女性。どういう物語がこれから展開してゆくのか、期待に胸が高鳴る出だしである。

去年の今頃は、「BOOK1」と「BOOK2」が発売前からすでに評判が高く、たちまちベストセラーに、そして大増刷された。今年4月半ばに出版された「BOOK3」は販売前から増刷決定との記事が早くも出ていた。

去年、友人から「蝶の話が出てきますよ」との知らせを受けて、早速覗いてみた。「BOOK1」第7章の「蝶を起こさないようにとても静かに」のタイトルが目に入った。麻布のお屋敷に住む七十代半ばの女主人(青豆に殺人とはばれない人殺しを依頼している)が庭にある温室で、珍しい蝶を数多く育てている。女主人と蝶たちは友達のような関係で、蝶は恐れをしらぬように女主人の体にまとわりつく。彼女は毎日、ここで蝶たちと会ってあいさつをして、いろんな話をするという。
「BOOK1、2」を通じて蝶が出てくるのはこの部分だけである。
著者はなぜ蝶をこの小説に登場させたのであろうか。

「蝶は時が来れば黙ってどこかに消えていく。きっと死んだのだと思うけど、探しても死骸が見つかることはありません。空中に吸い込まれるみたいに、何の痕跡も残さずにいなくなってしまう。蝶というのは何よりはかない優美な生き物なのです。どこからともなく生まれ、限定されたわずかなものだけを静かに求め、やがてどこへともなくこっそり消えていきます。・・・」

女主人の蝶についての上のような思いが、世間一般に抱かれている蝶への思いであろうと考えられる。優美でありながら、控えめで、はかなく・・・生きてきた痕跡も残さずに静かに消えてゆく。この小説の展開を暗示させるように、「おそらくこことは違う世界に」の言葉で女主人は締め括っている。

僕のような蝶好きにとっては、人気作家がこのような思いで蝶を登場させてくれていると知って、蝶って、そして蝶好き!!って、決してマイナーな存在ではないのだと意を強くした次第である。

でも本当は蝶ってしなやかでたくましいんですよ  
おまけに自分を主張する術を知っている生命力に満ち溢れた存在なのですけどね(^_-)



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