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ルリヒカゲ属(Ptychandra)はフィリピンを分布の中心とするジャノメチョウの仲間で、♂翅表が金属光沢を持つ濃青色で、裏面の色彩が地味なだけに、羽を大きく広げた時はそのアンバランスさもあって、思わず息をのむほどの美しさだ。しかし、♀はご覧のように表、裏とも茶褐色でもっぱら♂の引き立て役といった感じである。
僕の専門はシジミチョウの分類だが、時にはシジミ以外のチョウの新種記載も行っている。このオータニルリヒカゲもそのひとつで、学名は Ptychandra ohtanii H. Hayashi
である。種名オータニ(ohtanii)は若くして亡くなったが、本種を採集した大谷卓也氏に捧げられたものである。原名亜種はミンダナオ島の最高峰アポ山に分布し、別亜種lizae H.Hayashi がレイテ島に分布している。アポ山に分布している原名亜種はドイツのTreadaway氏の論文中で、絶滅が危惧されるチョウのひとつに挙げられている。
ルリヒカゲ属は7種が知られているが、フィリピン以外ではボルネオ島北部・山岳地帯の高所に分布するタルボティルリヒカゲが知られているだけである。フィリピンの各地に分布するルリヒカゲの仲間が、面白いことにボルネオとフィリピン諸島の間に位置する細長くて大きな島パラワンでは見つかっていない。パラワン島はルリヒカゲ属の分布の大きな空白地帯なのだ。ひょっとすると将来新しいルリヒカゲの種が見つかるかも知れないと楽しみにしている。
ところでアポ山の画像をご覧になって気付かれたことと思うが、高所に登るにつれ、硫黄臭がする噴煙が所どころで立ちのぼっていて、日本の温泉地を思い出すような光景に出くわす。実際に山麓では温泉が湧き、日本の協力のもと、地熱発電所建設の工事が進められている。