旅人ひとりー大阪大学探検部一期生のたわごとー

とこしえの精神(こころ)を求めて、さまよ(彷徨)う旅人ひとり。やすらぎを追い続け、やがてかなわぬ果てしなき夢と知るのみ。

舞台・シアタークリエ「幻蝶」

2012-05-01 | 
上掲の画像は、内野聖陽、田中圭、七瀬なつみなどが演ずる舞台「幻蝶」のパンフレットの表紙である。タイトルに惹かれて関西での初演・初日になる4月12日、阪急「西宮北口」駅に近い兵庫県立芸術文化センターに出かけた。「幻蝶」という言葉と共に物語の紹介に、幻の蝶を探し求める二人の「蝶屋」・・・とある。「蝶屋」という単語は想像はつくにしても一般の人には使われていない。ここまで具体的にマニア向けの言葉を使用している以上、蝶屋を名乗る?ひとりとして見に行かない訳にはいかない。

劇場に入って驚いた。女性の観客で埋まっている。蝶に関心を持つ女性が多いのではなく、俳優に惹かれてやって来ているのだろうとひがみたくなる。ストーリーをパンフに出ている内容に沿って紹介しよう。

とある森の中。
捕虫網を手にした二人の男の姿があった。名前は戸塚保(内野聖陽)と内海真一(田中圭)。共にどんな過去があるか定かではないが、何らかの理由で社会からはみ出してしまったダメ男二人である。戸塚は剛胆で自信家、人たらしのイケイケオヤジ。一方、真一は他人に心を開けないひきこもりの青年。そんな全く逆のキャラクターの二人を繋ぐ唯一の糸は「ある幻の蝶【シロギフチョウ】の存在を信じている」ということ。二人の目的は一つ。シロギフチョウを見つけることだ。

彼らこそ「蝶屋」であり、筋金入りの蝶マニアである。蝶の捕獲では業界にその名を轟かせた戸塚は、蝶を飼育・撮影しては一人楽しんできた真一の引きこもりの殻を破ろうと熱く奮闘するも、いつも空回り…。まるでボケとツッコミのような男同士の滑稽なやり取りは続いていく。

二人の蝶探しに図らずも巻き込まれていくのが、不動産会社のOL・安藤(七瀬なつみ)と旅回りのストリッパー・ユカ(中別府葵)だ。廃屋に不法滞在をする二人に対し退去命令を下しに来た安藤と、戸塚から出張サービスを頼まれたユカは廃屋で出会い、翌日には四人で蝶探しに出かけることになる。

社会と上手く関われずに蝶だけを追い続ける男二人に、自分たちとどこか似たものを感じる安藤とユカ。仕事も忘れて蝶探しにのめり込んでいく彼女たちにとって、廃屋で過ごす四人の空間と時間はいつしかかけがえのないものになっていく。

戸塚の過去の栄光とその挫折を知る昆虫ブローカー・吉永(大谷亮介)と、戸塚から借金を取り立てる、田舎町のボランティアと名乗る男・村木(細見大輔)。彼らの登場と思惑は、信じるものだけを追い求める四人の特別な楽園に、ゆっくりと影を落としていく。

それぞれの想いは交錯してぶつかり、かかわってはすれ違い、やがて結末へと向かっていく。

彼らは「幻の蝶」に出会うことができるのか?そして、彼らが本当に信じたいものとは何なのか…?

希望を捨てずに追い続ければ幻の存在でも現実のものになる。最初は悪人のごとき人たちも夢を追い続ける主人公たちの純粋さに惹かれて仲間になってゆく様子が巧みに描かれていた。社会では「蝶屋」は恐らく変人扱いであろう。でもいつまでも夢を追い続ける純粋さは、手前味噌で恐縮だが、拙著「幻影のアリバンバン」に通じるものがあって満足感に満たされて観劇を終えた。

パンフに出ていた作家、早川いくを氏の文章の一部を少し僕なりに解釈して「蝶屋」の思いを伝えることにする。

研究者やマニアたちは、まだ見ぬ幻の蝶・・・新種の蝶を脳裏に思い描きながら、日ごと夜ごと文献を漁り、採集に、分類に、同定に、そして標本作りに没頭する。思いがつのっては冷え、高ぶっては落胆し、失望と興奮が繰り返されるうちに、彼らの欲望は次第に純化していく。彼らの追求欲はやがて恋慕にも似た、切なく、そして切迫した想いに変わってゆく。
 
ただ、見たい。ひと目、会いたい。
もはや理由はない。目的もない。ただその想いだけに突き動かされ、蝶に取り憑かれた男たちは、捕虫網片手に、地平線の果てまで駆けてゆく。
しかし彼らの旅に終わりはない。

あこがれの相手は数百万種の中の一種、いや十万兆匹の中のただ一匹かもしれないのだ。

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