4月に英国制作のドキュメンタリー映画「蝶の世界」がテレビで放映された。美しい田園風景と共に英国の蝶たちが登場し、青年時代にかの地で網を振ったことが懐かしくよみがえった。生物地理学上日本と同じ旧北区にあるので共通種や近似種が映し出される中で、日本のゴマシジミ、オオゴマシジミと同属のアリオンゴマシジミ Maculinea arion が紹介された。上掲のシジミチョウである。英語ではThe Large Blue と発音されていて日本語の音声ではアリオンゴマシジミと呼ばれていた。
英国で発行されていた切手を下に掲げる。
幼虫時代にアリと共生することで知られている。上の画像の右側にアリの姿が写っている。
幼虫は最初はタチジャコウソウの一種を食草としているが、4齢(最終齢)になると食草を去ってさまよい始め、アリ(Myrmica 属)に出会うと第7腹節背面上の蜜腺から、アリの刺激によって甘い汁液を分泌し、その誘惑によって上掲の画像のようにアリの巣中に運びこまれる。
アリの巣内では幼虫は肉食性となって、アリの幼虫!を食べて成長し、やがて蛹となる。我が子を食べられたとは知らぬアリは蛹と仲良く暮らしている(上の画像)。アリオンゴマシジミは一時絶滅の危機に瀕していたが、1890年ごろコーンウォル州とデボン州の大西洋に面した海岸地帯で新産地が見つかった。しかしここでも数が減り続けていたので、1960年代から保護のための調査が始まった経緯がある。
1973年に来日した大英自然史博物館昆虫部長のT. G. Howarth 氏(上掲は大英博物館で僕が撮った写真である)が、日本鱗翅学会で「英国におけるゴウザンゴマシジミの保護について」という演題で講演された。当時はアリオンゴマシジミではなく、ゴウザンゴマシジミという和名が使われていた。
関東支部と近畿支部で話され、下の画像は近畿支部での講演時、僕が大英博物館に留学して氏と親しいということで通訳の大役をおおせつかった時の様子である。講演後の質疑にも当然通訳をまかされ冷や汗ものであったが、Howarth 氏から「Hisakazu(僕のファーストネーム)はよくやったよ」とねぎらいの言葉をかけてもらってホッとしたことが昨日の出来ごとのように思い出される。