旅人ひとりー大阪大学探検部一期生のたわごとー

とこしえの精神(こころ)を求めて、さまよ(彷徨)う旅人ひとり。やすらぎを追い続け、やがてかなわぬ果てしなき夢と知るのみ。

キノシタ キララシジミ (Poritia kinoshitai H.Hayashi)

2007-04-11 | 
僕は阪大経済学部を卒業したのだが、在学中は「財政政策」のゼミに所属して、木下和夫先生に指導していただいた。経済学よりも「探検」と「チョウの研究」にうつつを抜かしていた僕を、先生はいつもあたたかく見守ってくださった。

先生の財政学者としての偉業はつとに有名であったが、私人としての先生のやさしいあたたかいお人柄も、決して忘れることが出来ない。
フィリピン・パラワン島産のキラキラと宝石のように輝く美しいシジミチョウに木下先生の名前に因んで Poritia kinoshitai H. Hayashi  キノシタ キララシジミ と付けさせていただいて、先生への感謝の意を表した。

先生は平成11年2月に亡くなられたが、財政学とは全く関係のない分野での僕のこの一方的な行為を、生前、とても喜んでくださったことを不肖の学生であった僕は忘れることが出来ない。

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小説「億夜」 高樹のぶ子著ー中年期の男女のエロスー

2007-04-01 | 
展翅中の蝶を壊したことから、昆虫好きの男に惹かれる女性と、その女性を弟に奪われた兄を中心にストーリーが展開するのだが、何と、僕が幾つかのシジミチョウの新種を記載したボルネオのキナバル山!が出てくる。

虫好きの弟がキナバル山に採集旅行に行き、持ち帰った箱を恋人の手に残して自殺してしまう。その箱のふたの裏に「Di dalam disini ada kata-kata」というマレー語の言葉が残されていた。

蝶好き、虫好きの人物が小説で描かれることはまず無いのだが、高樹のぶ子の父君が大学の生物学の教授だったので、こういう小説が生まれたのかもしれない。

彼女はこのマレ-語を「この中に言葉あり」と訳しているが、マレー語と日本語が出来るマレーシア人に訳してもらった中で、「この中に物語あり」という訳があって、僕はこちらの訳の方がこの小説にあっているのでは、と勝手に決めつけている。

自殺した弟は人間であるがゆえの葛藤に苦しみ、・・勝負するときにはやさしさなど示さず、欲しいものを手に入れるためには犠牲をいとわず、自分の人生の充足のためなら相手の痛みなど考えず、単純にあっけらかんと、相手を倒す--そんな昆虫を羨ましく思う。それゆえ、昆虫の象徴としてカミキリムシになってキナバル山の頂めざして、飛んで行く夢を見るのだが、僕は蝶にはなれないが、自分の発見した新種のしじみ蝶に乗ってキナバル山を越えて行く夢を見たいと思っている。

以上は「億夜」を昆虫好きの僕の立場に立って解釈した味も素っ気もない文章だが、実はこの小説はそんなに単純なものでは無い。

中年になって再会したかつての恋人どうしの男女が、今一度、自分の過去と現在を見つめ直し、それぞれの魂の再生へと向かう筋立てになっているが、中年期の男女のエロスを巧みに描いていて心理学的にとても重要な問題を提起している。
エロスの力は現実には異性への断ちがたい想いとなって若い人々をつき動かすものだが、中年期のエロスもまた重大な役割を担っており、その扱い如何によっては破壊的にも建設的にも働く。

「あなたに抱かれる方がずっと簡単。でもそれも、出来ないの。」
「わかってる。あなたがそういう人だから、こんなに執着してしまうんだろう。」
小説の中の主人公たちの会話である。

若き日に 別れし人の 面影を 我に見いだす 人妻ありて・・・

初恋を 思い起こせし おみなごは 我が名を呼べと 抱かれつ求む

中年期のエロスは、若き日のエロスとは決して無関係ではあり得ないと悟った。

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マキコ キイチゴシジミ(Sinthusa makikoae)

2007-04-01 | 
キナバル山を含む、ボルネオ北部サバ州の標高1000mを越える山岳地帯で、わずかな個体が採集されているのみというきわめて珍しいシジミチョウで、ボルネオの蝶研究の第一人者で先年亡くなられた大塚一壽氏と共に記載したもので、氏の令嬢、牧子さんに因んでSinthusa makikoae H. Hayashi & Otsuka  マキコ キイチゴシジミと名付けた。

♂は川沿いの道の日当たりの良い葉上に後翅の青色鱗を美しく輝かせて止まったり、♀は尾根筋の花に飛来する。Sinthusa nasaka (キイチゴシジミ)と同じ場所で採集されることもある。

画像では♂の前翅・翅表は黒一色に見えるが、前縁や外縁のみが黒色で実際は濃紺色で、微妙な色彩の違いに自然の妙を感じる。

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