旅人ひとりー大阪大学探検部一期生のたわごとー

とこしえの精神(こころ)を求めて、さまよ(彷徨)う旅人ひとり。やすらぎを追い続け、やがてかなわぬ果てしなき夢と知るのみ。

映画の中の蝶、11 「羊たちの沈黙」

2014-12-01 | 
何ともおぞましい映画である。僕のブログに載せたくはないのだが、幾つか蝶に関するシーンが出てくるし、アンソニー・ホプキンス演ずる猟奇的殺人鬼の精神科医レクターの発する言葉に蝶が含まれているので、あえて取り上げた。蝶屋(蛾屋さんを含めて)に対する偏見はいつの世になっても消えないことをアピールするためである。

犠牲者の喉の奥から取り出された蛹を切り開いたら髑髏の模様があらわれた。下の画像である。


FBIの女性訓練生クラリス(ジョディ・フォスター)が同定のために或る場所を訪れる。まず薄暗い館内に恐竜の骨格標本が幾体も浮かび上がり自然史系の博物館であることは一目瞭然である。多数の蝶が収蔵されている標本箱が並ぶ研究室に入る。



対応してくれた研究員二人に蛹の同定を頼む。アジアにしか分布しないメンガタスズメAche-rontia styx)英名はEastern Death's Head hawkmoth という忌わしい名の蛾であることが分かる。





蛹で入手することも考えられるが、研究員によると卵を輸入して育てたのだろうという。研究のためでないのなら、この手の蛾を飼育するのは確かに悪趣味といえよう。見るからに陰湿な研究室の雰囲気に加えて、研究員の一人の表情が実に不気味で、虫好きの人間に対する偏見を強く感じた(ー_ー)!!

レクターによるとバッファロー・ビルと呼ばれる連続殺人鬼の元患者は性転換を目指していた。レクターの言葉を引用しよう。
「蛾の意味するものは変化だよ。みにくい毛虫が蛹に変化してやがて美しい蝶(セリフでは、beautyのみで beautiful butterflyとは言っていない。字幕翻訳者の意訳である。美しく変身する蛾もいるが、メンガタスズメのイメージにとらわれれば、美しいモノ=蛾とは訳出したくない心情はよく理解できる)になる。犯人も変身を望んでいるのだ」

ここで突然レクターがなぜ、「蛾」を「蝶=美」に置き換えたのか たしかに蝶も蛾もLepidoptera、鱗翅目(チョウ目)に分類されるので同じようなものだが、レクターが分類学の知識でもって発言したとは思えない。蝶であれ、蛾であれ、そんなことは彼にとっては重要なことではない。蝶と蛾は変身の代名詞なのだ。それは映画の製作者にとっても同じなのだろう。バッファロー・ビルの住まいに吊り下げられ
風で回っていた下掲の布飾りの絵は蛾ではなく、である。蛾屋がどうして蝶の装飾を使うのだ?
製作者は蝶屋と蛾屋の心理をまったく理解していない(-_-;)



この映画に出てくるような異常者が少数とはいえ、存在する現実を我々に突き付ける内容だが、僕は名作だとは思わない。はっきり言ってイヤな映画である。同じアンソニー・ホプキンスが出ている「日の名残り」のような映画の方がだんぜんエエ


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