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救急 集中治療 カプノグラム/カプノグラフィの有効利用

2006年03月01日 05時13分29秒 | 急性期管理技術

  カプノグラム/カプノグラフィの有効利用 

京都大学大学院医学研究科
初期診療・救急医学分野
准教授 松田直之


 要 点 
・ メインストリーム方式のカプノメータの長所と短所
・ サイドストリーム方式のカプノメータの長所と短所
・ カプノグラフィを構成する4つの相の生理学的解釈
・ カプノグラフィから読み取ること

 概 説 
 カプノグラフィ(カプノグラム)は麻酔における呼吸管理の必須のモニタであり,呼気ガスの二酸化炭素分圧(end-tidal partial pressure of CO2: PETCO2)を知るばかりではなく,呼吸の有無や呼吸状態を知ることができる。カプノグラフィの利用は気管挿管された患者における調節呼吸管理に限られるものではなく,ラリンジャルマスクでの自発呼吸管理,マスクや鼻カヌラを用いた呼吸管理においても利用できる。


① カプノメータの測定方式

カプノメータのCO2測定方式は2種類ある

 カプノメータによるPETCO2の測定方式は,メインストリーム方式とサイドストリーム方式の2種類がある。メインストリーム方式は呼吸回路内に組み込まれる方式であり気管挿管やラリンジャルマスクでの気道確保が行われている際に使用できる。一方,サイドストリーム方式は必ずしも気道確保を必要とせず,マスクや鼻カヌラでの酸素投与であっても,内腔1.5mm程のサンプリングチューブを介して呼気ガスを採取し,PETCO2を測定できる。

【メインストリーム方式で気を付けること】

 メインストリーム方式の回路接続を図1に示した。呼気ガスサンプリングでは計測センサーに重量があるため,気道確保された気管チューブやラリンジャルマスクと麻酔回路の間で荷重がかかる。蛇管固定具で蛇管をしっかりと固定しなければ,チューブが抜ける可能性がある。ラリンジャルマスクでの気道確保においても,その位置のずれに気をつける必要があり,メインストリーム方式の計測センサーの荷重とテンションに気をつけなければならない。そして,測定チャンバーの装着によりこの部分が死腔となる。

☆ メインストリーム方式の2大利点
・ PETCO2の測定が速やかであること
・ 呼気ガスを吸引する必要がないため低流量麻酔に適していること

☆ メインストリーム方式の4大欠点
・ センサーが熱を持ち熱傷の危険があること
・ 荷重が回路にかかること
・ 死腔が増加すること
・ 気道確保を必要とすること

⇒ ラリンジアルマスクは胸元に固定するのが良い
⇒ メーンストリーム方式では熱傷防止に留意する
⇒ メインストリーム方式ではセンサーの加重に気をつける。

【サイドストリーム方式で気を付けること】

 サイドストリーム方式では,人工鼻やサンプリング用アダプターからサンプリングチューブを介して呼気ガスを吸引してPETCO2を計測する(図2参照)。サンプリングする位置が患者側より離れるほど,PETCO2が低く算出されるため,通常は気管チューブと接続した人工鼻よりサンプリングする。呼気ガスのサンプリングには約50~500 mL/minを必要とし,場合によっては約2L/minまで必要とするため,新鮮ガス流量の少ない低流量麻酔には適さない。また,サンプリングチューブの材質や長さに留意する必要があり,長いほどPETCO2が低くなりやすい。サンプリングチューブの材質はナイロン製のものが望ましく,ポリエチレンやテフロン製のものはCO2透過性が高いため,PETCO2が低く出やすい。サイドストリーム方式ではサンプリングチューブからCO2が拡散する可能性に留意し,呼気には水蒸気が含まれるため水滴がサンプリングチューブを閉塞しないように気を付ける必要がある。計測器内へ蒸気や水滴が混入しないようにするためにwater trapが付けられているが,回路組立にあたっては,患者側に人工鼻をつけるとよい(図3参照)。人工鼻に側孔のついたものを利用することにより,サンプリングアダプタを使用する必要がなくなるため,死腔を減少できる。

☆ サイドストリーム方式の2大利点
・ ガス吸引部に荷重が加わらないこと。
・ 気道確保を必要としないためすべての患者に使用できること。

☆ サイドストリーム方式の4大欠点
・ CO2のサンプリングチューブなどからの拡散によりPETCO2が低く出やすい。
・ 水摘によるサンプリングチューブの閉塞の可能性がある。
・ 呼出開始より測定の応答時間が若干遅れる。
・ 低流量麻酔に適さない。

⇒ 業者の指定するサンプリングチューブを使用する。
⇒ 低流量麻酔では使用しない。

➁ サイドストリーム方式の有効利用
 脊椎麻酔や硬膜外麻酔で鎮痛を施し,プロフォフォールやミダゾラムで鎮静を行うような場合,呼吸の確認にサイドストリーム方式のカプノメータを利用するとよい。鼻前庭に装着する専用のものが市販されているが,これがない場合は内径14 Frの吸引チューブを先端より3 cm切断しサンプリングチューブの先端に接続して,テープで鼻に測定する(図5参照)。PETCO2は低く示される傾向があるが,呼吸様式を観察することができるため,呼吸抑制や無呼吸の評価に役立つ。


③ カプノグラフィの4相の生理学的意味

カプノグラフィ波型は横軸が時間経過,縦軸がPCO2を示し,4相から成り立つ(図6参照)。カプノグラフィ波型は吸気と呼気の流量波型とあわせて考えると理解しやすい。
1) 第Ⅰ相:吸気終末からまさに呼期が開始されようとした時期に形成され,チューブやマスクなどの死腔のガス排泄で形成される相であり,PCO2の上昇が生じない。
2) 第Ⅱ相:末梢気道より呼気ガスが排泄されることで,その呼気流量にしたがってPCO2の上昇が形成される。第Ⅱ相から第Ⅲ相への変化は呼気流量の急激な増加によって形成されるものであり,この流量の大半は気道レベルおよび気管チューブやマスク内のガス排泄により生じる。
3) 第Ⅲ相:alveolar plateauと呼ばれており,肺胞気が回路内に排泄され始める時期であり,気道内ガスとゆっくりと交じり合うことでPCO2がなだらかに上昇し,最終点がPETCO2となる。
4) 第Ⅳ相:吸気開始によりPCO2が低下するのが第4相である。

⇒ 第Ⅰ相は死腔ガス排泄,第II相は末梢気管支レベルの呼出,第Ⅲ相は肺胞レベルの呼出,第Ⅳ相は吸気相と覚えよう!


④ カプノグラフの波型解析
 カプノグラフィの波形を十分に理解することにより,呼吸状態の変化の理解に役立てるとよい。

1)2相の遅れと3相の傾きの急峻化(図7)
 呼気延長の所見である。肺気腫など閉塞性肺疾患や喘息の呼気延長所見として,出現する。

2)第3相の2峰性化・多峰性化(図8)
ボリュームコントロールやプレッシャーコントロールによる人工呼吸の最中で第3相の2峰性化や多峰性化が認められた場合,自発呼吸が出現してきたか,術野での横隔膜圧迫を考える。自発呼吸下での管理では喀痰量の増加により,このような波形を呈することがある。

3)第3相終末の上昇化(図9)
 第3相のPCO2の低下と,終末上昇化(tails-up pattern)は,サンプリングチューブの損傷とリークで生じる。調節呼吸時には回路内よりサンプリングチューブを介して一定量のガスを採取するため,その陰圧によりサンプリングチューブ外の空気が混入し,第3相が低下する。自発呼吸下ではこのようなパターンは見られにくい。

4)第2層の低下と第3相の短縮(図10)
 第3相の短縮は十分に肺胞気が排出されていないことを示す。すなわち,浅呼吸により有効な換気がなされていないことに注意する。ラリンジアルマスクを挿入し,プロポフォールの持続投与やでミダゾラムなどのマイナートランキライザーで鎮静を行う場合,このような波形が呼吸抑制の特徴となる。これを有効な換気とするためには,一定の気道内圧を目標に用手的にプレッシャーサポートを行うことが必要であり,肺胞レベルを十分に拡張させる必要がある。
⇒ プロポフォールは浅呼吸となるため,用手的pressure supportで対応する。

5)第3相の延長(図11)
 第3相の延長はフェンタニールなどの麻薬による吸気ドライブの抑制で生じやすく,呼吸数低下の所見である。呼吸数を増やすよう用手的にsynchronized intermittent mandatory ventilation(SIMV:同期的間欠的強制換気)を行うことが必要である。
⇒ フェンタニールは呼吸数を減らすので,用手的SIMVで対応する。

6) 第3相初期のノッチ(図12)
第3相初期に形成されるinitial notchは片肺のみの挫傷が強い場合や,片肺の気管支内分泌が多い場合や,肺移植後などで観察され,左右の肺コンプライアンスに差が生じていることを意味する。コンプライアンスの低い肺からの呼出が遷延するために第3相後半の傾きが急峻化する。

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コラム ラリンジアルマスクとカプノメータの固定

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 ラリンジアルマスクで気道確保され,サイドストリーム方式でカプノグラムをモニタリングする場合の固定例を図13に示した。ラリンジャルマスクは,そのチューブの形状から胸元方向にチューブ遠位端をもってくるように固定するのが望ましい。頭部方向にラリンジャルマスクがS字を描くように固定しているケースをよく見かけるが,マスクの位置がずれやすい。ラリンジャルマスクを胸方向に正しく固定している場合は,メインストリーム方式の計測センサーであれば胸に乗るように設置されることになるため,計測センサーの発する熱に留意し,乾ガーゼなどを下に敷くことで熱傷を起こさぬよう気をつけなければならない。メインストリーム方式では加重によるラリンジャルマスクの位置のずれと熱傷の危険あるため,サイドストリーム方式のほうが望ましい。



図の表題と説明


図1 メインストリーム方式の回路接続


図2 サイドストリーム方式の回路接続


図3 人工鼻を用いたサイドストリーム方式
 写真は気管挿管された患者における気管チューブ,コネクタ,人工鼻,サンプリングチューブの接続例である。人工鼻にサンプリングチューブを接続することで,水蒸気や水滴のサンプリングチューブへの流入を減少できる。


図4 吸引チューブを用いた経鼻式サンプリングチューブの作成


図6 カプノグラフィは4つの相で構成される


図7 閉塞性換気障害パターン


図8 自発呼吸出現パターン


図9 サンプリングチューブの破損パターン


図10 マイナートランキライザーパターン
マイナートランキライザは,1回換気量を低下させ,呼吸数を早める。さらに,血中濃度が高まると,換気量低下と呼吸が消える傾向を示す。


図11 麻薬による呼吸抑制パターン
フェンタニルは呼吸数を減らします。


図12 片肺挫傷パターン

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