救急一直線 特別ブログ Happy保存の法則 ー United in the World for Us ー

HP「救急一直線〜Happy保存の法則〜」は,2002年に開始され,現在はブログとして継続されています。

講義 ICUにおける不眠対策およびセロトニン症候群への留意

2017年04月03日 21時45分12秒 | 講義録・講演記録4
集中治療管理における鎮痛と鎮静 2017
2017年度版 集中治療室における鎮痛と鎮静の工夫
 
名古屋大学大学院医学系研究科 救急・集中治療医学分野
松田直之
 
 
 鎮痛・鎮静のプロトコル化 
 
  集中治療室(ICU:intensive care unit)における鎮痛と鎮静の手順は,日本集中治療医学会より「日本版・集中治療室における成人重症患者に対する痛み・不 穏・せん妄管理のための臨床ガイドライン(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsicm/21/5/21_539/_pdf)」として,しっかりとした内容が公表されています。また,集中治療専門医を配置している施設では,その指導下で,集中治療過程における「鎮痛」と「鎮静」の管理システムが完成されてきています。
 一方,2017年4月の現時点においても,急性期管理においては薬剤調節性の良さを追求し,より良い薬剤選択,薬剤の組み合わせを模索したり,模倣すると良いでしょう。
 従来私は,① フェンタニール,② デクスメデトミジン(DEX),③ ロゼレム®(ラメルテオン)を基盤とする鎮痛・鎮静の管理に加えて,CAM-ICUやIntensive Care Delirium Screening Checklist(ICDSC)などで日中に不穏を評価した場合には,④リスペリドンを併用していました。夜間せん妄や夜間不穏に対しては,リスペリドンに変えて,「トラゾドン」を併用するようにし始めています。「トラゾドン」を3時間毎に50mgを3回経管投与する方法もあります。
 鎮痛レベル,鎮静レベル,不穏レベルを適切にモニタリングしながら,その時点の最適な管理指針を討議できると良いでしょう。ICUにおけるロゼレム®(ラメルテオン)の効果については,MERIT trial(Melatonin Evaluation of Lowered Inflammation in ICU Trial)のデータを公表しています。
 プロポフォールについては,使用する機会が減少しています。propofol infusion syndrome(PRIS)は,病態が明確となってきており,小児に限らず,成人でも生じる危険性があり,社会的に問題となっています。特に,プロポフォールの溶剤である脂質の負荷に注意し,高用量投与とフラッシュが禁止であることに注意します。禁忌として集中治療における人工呼吸中の小児(15歳未満),禁止事項としてフラッシュに注意して下さい。
 トラゾドン 
レスリン錠 25~50 mg,デジレル錠 25~50 mg
 トラゾドンはトラゾドン塩酸塩として,成人で1日50~100 mgを初期用量とし,経過を見て必要とする場合は1日200 mgまで増量し,1~数回に分割して服用とします。胃管挿入時には,作用機序は,脳内のセロトニン再取り込みを阻害して,脳内セトロニン濃度を上昇させるとされていますが,① 脳内セロトニン濃度上昇によるセロトニン受容体1を介した抗うつ作用,② セロトニン受容体2の拮抗作用による睡眠増強です。トラゾドンの代謝は,肝代謝であり,尿中排泄が約80%,胆汁排泄が約20%とされています。血漿除去半減期は,約6時間です。服用期間が長期化した場合には,セロトニン症候群として,以下の症状などに注意します。
 
 セロトニン症候群の留意事項(薬剤熱の一つとして) 
 
1.体温上昇
2,異常発汗
3.消化器症状(下痢)
4.ミオクローヌス様症状
5.筋硬直

 留意事項 セロトニン症候群の評価に用いるHunter Criteria 

The Hunter Serotonin Toxicity Criteria: simple and accurate diagnostic decision rules for serotonin toxicity.

Dunkley EJ, Isbister GK, Sibbritt D, Dawson AH, Whyte IM.

QJM. 2003 Sep;96(9):635-42.

Hunter Criteriaは,感度約84%,特異度97%と考えられています。

セロトニン作動薬の内服歴と下記の1つ以上

1. 自発的なミオクローヌス

2. 誘発クローヌスと興奮ないし発汗

3. 眼球クローヌスと興奮ないし発汗

4. 振戦と腱反射亢進

5. 筋強剛

6. 体温が38℃以上で眼球クローヌスまたは誘発クローヌス 

 

 経腸栄養におけるトリプトファン:メラトニン・セロトニンの分泌バランス 

 経腸栄養を早期に完成させることは,薬剤投与の選択を静脈薬だけではなく,内服薬に広げる利点があります。また,早期からのアミノ酸補充をたやすくできる利点があります。トリプトファンは,代謝物であるセロトニン,メラトニン,NADの産生に重要な必須アミノ酸です。トリプトファンの1日の必要量は,約2~3 mg/kgとされています。急性期においては第4病日までなどの早期に経腸栄養や経口栄養を完成させることができれば,トリプトファンや微量元素やビタミンの補充の困りません。トリプトファンの含有量が多い食物は,乳製品,大豆,肉類ですが,白米やパンです。

 さて,その上でメラトニンとセロトニンは,トリプトファンの代謝物であることが知識としては重要です。メラトニンの分泌は,一般には夜9時ころから始まり,夜11時くらいに眠気を感じるレベルにまで高まります。私達のICUは現在,22時に暗くしていますが,21時が良いのかもしれません。一方,生体におけるセロトニンは消化管に約90%で含有されていることが知られているが,これらが分泌されるのは日中であり,セロトニンは光刺激によりメラトニンへの変換が抑制されているようですが,暗室とすることでセロトニンからメラトニンへの代謝が高まります。メラニンアナログであるラルテオン(ロゼレム®)を19時,トラゾドン(レスリン®)を21時と設定していますが,これはラルテオン(ロゼレム®)のみの効果をまず評価することを目的としており,生理学的な順番としては,① 日中を含めた経腸栄養の完成,② 19時のトラゾドン(レスリン®),③ 21時に消灯,④ 21時〜24時レベルのラルテオン(ロゼレム®),⑤ AM6時に明灯,この手順が良さそうでです。休薬の方針としては,トリプトファンの補充が行われている状態では,メラトニン補充を止めて②の19時のトラゾドン(レスリン®)のみにするので良いでしょうし,②の19時のトラゾドン(レスリン®)を止めて④ の21時〜24時レベルのラルテオン(ロゼレム®)とする必然性はないように考えています。

 トラゾドンにより脳内セロトニン濃度を高めるためには,トリプトファンの血中濃度の維持が必要なのでしょう。トリプトファン欠乏と夜間覚醒は,ICUAW(ICU-aquaired weekness)などを進行させる一部の集中治療患者さんに認められる事象と考えています。また,肝不全における肝性脳症などでは芳香族アミンが蓄積する病態ですが,トリプトファンの蓄積により血漿および脳内のセロトニン濃度が上昇し,目を閉じた状態でメラトニン濃度が増加するでしょうから,昏睡として意識レベルを低下させる修飾因子となる可能性があります。以上は,病態学的見地として,集中治療領域における重要な検討課題の一つと考えています。

Effect of Administration of Ramelteon, a Melatonin Receptor Agonist, on the Duration of Stay in the ICU: A Single-Center Randomized Placebo-Controlled Trial.

Nishikimi M, Numaguchi A, Takahashi K, Miyagawa Y, Matsui K, Higashi M, Makishi G, Matsui S, Matsuda N.

Abstract

OBJECTIVES: 

Occurrence of delirium in the ICU is associated with a longer stay in the ICU. To examine whether the use of ramelteon, a melatonin agonist, can prevent delirium and shorten the duration of ICU stay of critically ill patients.

DESIGN: 

A single-center, triple-blinded, randomized placebo-controlled trial.

SETTING: 

ICU of an academic hospital.

PATIENTS: 

Eligible patients were ICU patients who could take medicines orally or through a nasogastric tube during the first 48 hours of admission.

INTERVENTIONS: 

The intervention group received ramelteon (8 mg/d), and the control group received placebo (1 g/d of lactose powder) at 20:00 hours every day until discharge from the ICU.

MEASUREMENTS AND MAIN RESULTS: 

A total of 88 subjects were randomized to the ramelteon group (45 subjects) or the placebo group (43 subjects). As the primary endpoint, there was a trend toward decrease in the duration of ICU stay (4.56 d) in the ramelteon group compared with the placebo group (5.86 d) (p = 0.082 and p = 0.028 before and after adjustments). As the secondary endpoints, statistically significant decreases in the occurrence rate (24.4% vs 46.5%; p = 0.044) and duration (0.78 vs 1.40 d; p = 0.048) of delirium were observed in the ramelteon group. The nonintubated patients of the ramelteon group showed statistically significantly fewer awakenings per night and a higher proportion of nights without awakenings.

CONCLUSIONS: 

Ramelteon tended to decrease the duration of ICU stay as well as decreased the occurrence rate and duration of delirium statistically significantly.This is an open-access article distributed under the terms of the Creative Commons Attribution-Non Commercial-No Derivatives License 4.0 (CCBY-NC-ND), where it is permissible to download and share the work provided it is properly cited. The work cannot be changed in any way or used commercially without permission from the journal.

PMID:29595562
 
追記:2018/04/11 松田直之(当教室の臨床研究論文の追記:ICUにおけるラメルテオンの効果検証),2020/03/09 デザイン変更

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