救急一直線 特別ブログ Happy保存の法則 ー United in the World for Us ー

HP「救急一直線〜Happy保存の法則〜」は,2002年に開始され,現在はブログとして継続されています。

手技 緊急時のマスクの作り方

2020年02月26日 07時17分02秒 | 医療技術教育

手技 緊急時のマスクの作り方

留意 布マスクで気をつけること

〜 一般の皆さまへ 〜

日本集中治療医学会/日本救急医学会/日本麻酔科学会

集中治療専門医/救急科指導医/麻酔科指導医

医師 松田直之

 

はじめに

 COVID-19関連,新型コロナウイルスSARS-CoV-2感染症において,マスク不足が問題となっています。コロナパニックにならないように,私たちは平穏な心でいるようにすることに気をつけましょう。一方で,電車などの移動中に,花粉症で困ったり,悪臭に悩まされたりすることもあります。マスクをしていても,匂いが伝わってくることがあります。こういう時に,自身のタイプに合わせて,緊急マスクを作成することができます。

 マスクの重要なメリットは,手すりや座席などから自身の手についてしまった新型コロナウイルスを自身の鼻や口を触って付けてしまわないようにすることこと,鼻や口に手を運ぶ機会を減少させてくれること,そして接近距離からの飛沫感染を防いでくれることです。私は,花粉症の時期に,ハンカチとゴムを持参しています。参考として下さい。

 

必要なもの(鞄の中)

□ 気に入ったハンカチ 1枚〜3枚

□ 小さなポーチ:写真のポーチは,タイ集中治療医学会で頂いたものです。ゴム紐や裁縫セットを入れて持ち歩いています。

□ 乾ガーゼ(必ずしも必需品ではありません)

□ 輪ゴム・ゴム紐:使用し終わったマスクのゴム紐1セット

□ 廃棄用袋:洗濯や消毒をするまで,ここにしまってかばんで持ち帰ります。

 

 

緊急マスク作りの手順

A.  ハンカチを使った方法

 1.ハンカチを折る

  

  

  

  

 2.ゴムを用意する

  

 3.ハンカチの両端にゴムを通す

  

 4.さり気なくかける:ポイントは鼻・頬・顎から息が漏れにくくすることです。

  

※ 裏技:このマスクの裏に,ハンカチや乾ガーゼなどを,2段重ね,3段重ねできます。

 

B. ペーパータオルを使用したマスク作成法

 

 ペーパータオルを,ハンカチのときと同じように折ります。

 

 

 

 両端にゴムを掛けます。

 

 テープで止めても良いです。

 

 ※ このマスクの内側に,乾ガーゼを置きます。

 

さいごに

 マスクを着用することに加えて,その取外しにおいて手が汚染されます。取り外しの際には,衛生的手洗いを敢行して下さい。また,取り外したマスクは不潔であると認識してください。私は,耳から外したハンカチなどの部分を持って,持ち運び袋に収納して,消毒や選択の対象としています。手洗いを励行します。マスクを縫って作らなくても対応できる方法をお伝えしました。どうぞよろしくお願いします。 松田直之

考察 布マスクの有効な利用法について

 

名古屋大学大学院医学系研究科

救急・集中治療医学分野

松田直之

 

はじめに

 布マスクは危険性があるという報告があります。これは,比較的簡単な話であり,マスクをしたときとしないとき,ポリエステルマスクと布マスク,ハンカチ充填マスクと布マスクなどを比べるものとして,コロンの匂いがするかを試すとよいのです。コロンはデパートなどのように,試用ペーパーにふりかけておいて顔前30 cmレベルで比較すると良いです。鼻が詰まっている方は,実は深吸気で息を吸う可能性がありますので,SARS-CoV-2を肺の末梢まで吸い込んでしまう危険性がありますのでご注意下さい。

 

論文紹介

 

A cluster randomised trial of cloth masks compared with medical masks in healthcare workers.

MacIntyre CR1Seale H1Dung TC2Hien NT2Nga PT2Chughtai AA1Rahman B1Dwyer DE3Wang Q4.

BMJ Open. 2015 Apr 22;5(4):e006577. doi: 10.1136/bmjopen-2014-006577.

1 Faculty of Medicine, School of Public Health and Community Medicine, University of New South Wales, Sydney, Australia.

2 National Institute of Hygiene and Epidemiology, Hanoi, Vietnam.

3 Institute for Clinical Pathology and Medical Research, Westmead Hospital and University of Sydney, Sydney, New South Wales, Australia.

4 Beijing Centers for Disease Control and Prevention, Beijing, China.

 病院の医療従事者(Health Care Worker:HCW)で,布マスクと医療マスクと比較することを目的として,ベトナムのハノイの急性期対応の14病院で行われた多施設共同前向き臨床研究です。

 研究方法:フルタイムで勤務している18歳以上の1,607名の医療従事者を,1)医療用マスク着用必須,2)布製マスク着用必須,3)対照の通常群(通常のマスク着用を含む標準装備)の3つに無作為に分けます。そして,臨床的に呼吸器病態と診断(clinical respiratory illness:CRI),インフルエンザ様病態と診断(influenza-like illness:ILI),およびインフルエンザやSARS-CoVなどのRT-PCR検査で確認された呼吸器ウイルス感染症(laboratory- confirmed respiratory virus infection)になったかどうかが評価されています。

 結果:すべての感染の発生率は布マスクで最も高く,布マスクで統計的に有意にインフルエンザ様病態の発症が高かい結果でした(相対リスク:13,95%CI 1.69〜100.07)。粒子の浸透性は,布マスクで97%レベルであり,医療マスクでは44%とされています。医療用マスクが,最もインフルエンザ様症状の出現を抑制している結果となっています。

 結論:マスクは,インフルエンザ様症状の出現を抑制する可能性があります。しかし,布マスクの場合は,その布密度に注意が必要です。布マスクの着用や再利用は,インフルエンザウイルスなどの感染のリスクを高める可能性に注意します。

 

布マスクで注意すること:一般の皆さまへ

 マスクをしていて線香の香りがしたり,体臭に気づくような場合には,花粉が通過する可能性もあります。そして,エアロゾル感染にも気をつけます。一方,マスクは自身の手から鼻や口への自己接触感染を予防してくれます。手作りマスクにおいては,まず,布などの密度に注意します。

 そして,重要なポイントは,布マスクは汚いものと認識して,使用後はしっかりと洗う,または消毒することを徹底して下さい。マスクをしていて,最も注意することは,マスク着脱前後の衛生的手洗いです。手洗いや手指消毒を徹底することに注意されてください。エビデンスというのは,事象や事実です。これをどのように改善するかを,次の研究に結びつけることもできます。その上で,どう工夫するとよりよく防御できるのかを考えることも大切かもしれません。皆さまが,SARS-CoV-2感染症,COVID-19に罹患しませんよう祈念しております。どうぞよろしくお願いします。

BMJ Open. 2015 Apr 22;5(4):e006577より

留意:インフルエンザ様病態(influenza-like illness:ILI)の出現率は,医療用マスクで0.2%ですが,布マスクで2.3%と10倍の発症となります。この理由を洞察できると良いでしょう。上述の記載を読まれて下さい。


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留意共有 新型コロナウイルス感染症と集中治療

2020年02月25日 01時12分03秒 | COVID-19の集中治療

新型コロナウイルス感染症に正しく備える

対応策:具体的内容共有の重要性

 

名古屋大学大学院医学系研究科

救急・集中治療医学分野 教授

松田直之

 

 一般の皆さんへ:マスクを着用する場合にはより良い着用を!! 

 マスクを着用する利点は,① 自分が新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスなどの感染の疑いがある時に周囲の皆さんに移してしまう可能性を減少できること,② テーブルや手すり,自分の手や髪や眉毛や皮膚に既についてしまった飛沫を口や鼻に接触させる可能性を減少できることです。私たちの「手」が,私たちの口や鼻,そしてテーブルなどにコロナウイルスを運ぶことが,一つの大きな問題です。マスクをしていると自分の顔を触らなくなります。そのようなマスクは,汚染されている可能性があるので,帰宅した時には必ずすぐに廃棄して下さい。テーブルの上などに,置かないようにしてください。そして,帰宅したら,手洗い,洗顔,そしてうがいをしましょう。その上で,コロナウイルス感染症の後の多臓器不全,つまり敗血症管理は,細菌感染症の併発を含めて,皆で十分に気をつけましょう。敗血症の私のYouTubeも参考として下さい。

マスク着用 留意して頂きたいこと

MAXマスク

1.マスクフットに注意:鼻と頬と下顎,注意して下さい。挿絵と写真(上部付載)を参考として下さい。

2.鼻露出:鼻を出しているマスクの着用は禁止です。

3.鼻直線マスク:鼻根部を写真のようにフィットさせて下さい。鼻のところから空気漏れのないようにして下さい。

4.手洗い:マスクの基本は,手洗いを並行することです。

※ マスクは,咳をしている方が,周囲にその飛沫を暴露させないように注意するためのエチケットです。

※ マスクは,正しく着用するように,注意しましょう。

※ WHY なぜマスク??:眼元,毛髪,眉毛,鼻,口元,ここを私たちは手で触る傾向があります。テーブルなどを触った手の,鼻や口への接触を防いでくれます。

※ 要注意:外したマスクを,テーブルの上に置いてはいけません。テーブルが汚染されます。外から帰宅した場合や汚染された可能性のある場合は,残念ながら「廃棄する」のが原則です。

市民講座 敗血症ってなんですか?? 松田直之

市民講座 敗血症における集中治療室の役割 松田直之

 一般の皆さんへ:CBCラジオ  きくラジオ  健康生活 

12:50~12:58   コロナウイルスから身を守る 〜救急医療と集中治療〜 5日間特集

パーソナリティ:松田直之,アナウンサー:重盛啓之 CBCラジオ👂ここから:http://radiko.jp/#!/live/CBC

 3月2日(月)DAY1 コロナウイルスはなぜ怖いのか?

 3月3日(火)DAY2 マスクって重要ですか?

 3月4日(水)DAY3 コロナウイルス感染症で重症になるときの症状ってなんですか?

 3月5日(木)DAY4 コロナウイルスの救急医療と集中治療 〜どのような治療をするんですか?〜

 3月6日(金)DAY5 コロナウイルス感染症対策の整理 〜最低限抑えるポイントってなんですか〜?

※ On the CBC radio, we will feature managements and care of coronavirus. I will talk about the sepsis and multiple organ failure, too.

※ CBCラジオ放送:以下の内容について,平易に解説します。

 

 はじめに 

 中国河北省武漢(ウーハン)市は,人口1,100万人以上の大都市です。この武漢市を中心として,2019年12月より新型コロナウイルスによる多数の死亡例が報告されています。本邦では,2020年1月28日18時過ぎに,国立感染症研究所より新型コロナウイルス(Novel Coronavirus:nCoV)に関連した感染症症例について報告されています。このような恐れを抱く状況では,科学的な落ち着いた対応と,感染管理体制の構築,そして重症化に備える集中治療管理の適正化が必要となります。救急・集中治療領域では,間質性肺炎の急性増悪,ARDSおよび多臓器不全に至る早期段階での拾い上げが重要策となります。重篤化や死亡には,低栄養,免疫不全や既炎症状態などの疾患ベースが強く関与すると考えられます。

 本邦での初期症例の概要 

(1)年齢: 40代

(2)性別: 女性

(3)居住地: 中華人民共和国(湖北省武漢市)

(4)症状経過:

1月21日に来日し,1月22日より北海道を観光したという。

1月26日 体調不良のために外出せず,夜間より咳と発熱が出現した。

1月27日 北海道内の医療機関を受診し,急性肺炎として入院となった。

1月28日 熱は残っているが,容態は安定しているとされている。

(5)行動歴:

1月21日 武漢市より2名で来日し,東京都内の知人宅に宿泊したという。

1月22日 東京から3名で北海道に移動し,観光したという。

1月26日 体調不良のため外出していないという。

留意事項:日本に来てからはマスクを着用しており,武漢市の華南海鮮城(海鮮市場)の訪問はないという。ランセット論文(Lancet 2020 Jan 24. pii: S0140-6736(20)30183-5)では,発症から呼吸困難感までが約8日間,初発症状は発熱(98%),咳(76%),筋肉痛または疲労(44%),頭痛(8%),下痢(3%)とされています。

 ヒトに感染するコロナウイルスについて 

 コロナウイルスは,RNAウイルスであり,風邪の流行期の一般的なウイルスとして知られています。ヒトに日常的に感染するコロナウイルスは,HCoV-229E,HCoV-OC43,HCoV-NL63,HCoV-HKU1の4種類が知られています。一般に,この4種類のコロナウイルスによる「かぜ症候群」は,冬季が流行のピークであり,概ね6歳までに罹患し,コロナウイルスに対する免疫を獲得します。

 このコロナウイルス感染症のこれまで話題となった重症例として,重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)と中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)があります。つまり,これまで6種類のコロナウイルスが,同定されていました。2012年4月に中東で発症し,韓国でも重症例が報告されたMERS-CoVにおいては,日本集中治療医学会も感染症における全身管理として人工心肺(extracorporeal membrane oxygenation:ECMO)による管理なども検討されました。今回の新型コロナウイルス(Novel Coronavirus:nCoV)においても,SARSおよびMERSと類似する重症コロナウイルス感染症として,ARDS(救急一直線 記載)を含めた十分な全身管理への対応が必要とされます。

 コロナウイルスのウイルスとしての特徴 

 コロナウイルスは直径約100 nmの球形状であり,表面に突起があるため,この形状が王冠(crown)に似ているため,ギリシャ語で王冠を意味する「corona」という名前が付けられています。このコロナウイルスは,脂質二重膜のエンベロープを持ち,その中にはNucleocapsid(N)蛋白に巻きついたプラス鎖で30kbレベルの大きさの一本鎖RNA,エンベロープ表面にSpike(S)蛋白,Envelope(E)蛋白,Membrane(M)蛋白と名付けられた特徴のある蛋白が存在します。一本鎖RNAウイルスとしてのRNAの特徴から,α,β,δの3つのグループにコロナウイルスは分類されています。MERS-CoVやSARS-CoVは,βコロナウイルスです。現在,日本では「新型コロナウイルス(Novel Coronavirus:nCoV)感染症患者に対する積極的疫 学調 査実施要領(1月21日版)」が整備され,新型コロナウイルス感染症の確定例の濃厚接触者の発症時,感染症法15条の枠組みとして新型コロナウイルス遺伝子検査ができる仕組みが整えられています。

 コロナウイルスに限らず,ウイルスに共通する特徴として,① ウイルスはRNAあるいはDNAのどちらかしか遺伝子を持たないこと,② 細胞質がないこと,③ 外側をカプシドという殻のようなもので包まれていること,④ カプシドはカプソメアの集合体であり,カプソメアは3~6個のペプチドで構成されていることなどが特徴です。このカプシドの外側を包むようにしてエンベロープという脂質2重膜が存在しているのがコロナウイルスです。ウイルスにはエンベロープを持つタイプと持たないタイプがあり,コロナウイルスはエンベロープを持つタイプのウイルスです。C型肝炎ウイルス(RNA),水痘・帯状疱疹ウイルス(DNA),麻疹ウイルス(RNA),RSウイルス(RNA),インフルエンザウイルス(RNA),エボラウイルス(RNA)なども,カプシドの外にエンベロープを持ち,ヒトへの細胞への寄生を高めます。 

 これらコロナウイルスなどのウイルス領域の研究として,その特異的受容体を見つける研究もなされています(Li W, Moore MJ, Vasilleva N, et al. Angiotensin- converting enzyme 2 is a functional receptor for the SARS coronavirus. Nature 2003;426:450-454)。死亡率を高めたSARS-CoVでは,このangiotensin converting enzyme-2(ACE-2)を受容体として,ACE-2のカルボキシペプチダーゼ機能を修飾することや,ACE-2の発現領域への浸潤性を高めるなどの可能性が17年前より示唆されています。つまり,コロナウイルスの細胞傷害性は,例えばACE-2の発現の多い気管支,肺,心臓,腎臓,消化管などで強い理由の一つとなるのかもしれません。このような研究は,気道領域の問題だけではなく,心筋炎,腸炎,脳炎などの炎症に加えて,消化器系や泌尿器科系のがん発症との関連でも興味深いものとなります。

 新型コロナウイルス感染症疑いについて  

A.  新型コロナウイルスを疑う方策

新型コロナウイルス感染症の疑いに対して,救急外来(ER)での対応の一例

 1.スクリーニング対象:発熱または呼吸器症状を訴える患者さん

 2.武漢市への渡航歴/武漢市への渡航歴がある方との接触

 3.体温 37.5℃以上および呼吸器症状がある場合

以上を,「新型コロナウイルス感染症の疑い」として確定します。

一方,武漢市への渡航歴のない患者さんでも,新型コロナウイルス感染症を疑います。

B.  新型コロナウイルスを疑う経過フォロー

 1.感冒症状に対してのインフルエンザウイルスチェック

 2.インフルエンザ陰性 → ER医師は重症化に留意した説明を行います。

※ 診療場所および感染防御策については,各施設の取り決めに従うことになります。

※ 医療従事者は,各施設の感染制御部や病院執行部の院内取り決めに従います。

C. 健感発 0203第2号 令和2年2月3日  新型コロナウイルス感染症を疑うもの

1.発熱または呼吸器症状があり,新型コロナウイルス感染症が確定した人との濃厚接触歴がある場合。濃厚接触とは,①同居,②長時間接触(車内,機内),③新型コロナウイルス感染症が疑われる患者に対しての診察・看護または介護,④新型コロナウイルス感染症が疑われる患者の体液などの汚染物質に直接触れた可能性がある場合などです。これは,一般に新型コロナウイルス感染症に限らず,新型ウイルス感染症での留意事項です。

2.37.5°C以上の発熱かつ呼吸器症状があり,発症前14 日以内にWHOの公表内容から新型コロナウイルス感染症の流行が確認されている地域に渡航や居住をしていた場合。

3.37.5°C以上の発熱かつ呼吸器症状があり,発症前14 日以内にWHOの公表内容から新型コロナウイルス感染症の流行が確認されている地域に渡航や居住をしていたものと,濃厚接触歴がある場合。

4.発熱,呼吸器症状,または感染症を疑わせる症状のうち,私たち医師が医学的知見から集中治療に準ずる治療が必要な重症,かつ,直ちに特定の感染症と診断することができないと判断し(法第14条 第1項に規定する厚生労働省令で定める疑似症に相当),新型コロナウイルス感染症の鑑別を必要とする場合。

 

 かぜ症候群および急性気管支炎におけるER対応 

基本事項

1.インフルエンザ抗原チェックで陰性な患者さんには自己経過フォローの重要性を伝える。

2.qSOFAの説明をする。

 ・ 意識変容

 ・ 呼吸数 ≧ 22/分 ※ 呼吸数の数え方をお伝えする

 ・ 収縮期血圧 ≦ 100 mmHg

 以上の3項目のうち2つ以上満たす場合には,再受診して頂く。

3.その他の注意事項を説明する。

 ・ 咳の悪化

 ・ 呼吸苦:呼吸が苦しい

 ・ 熱の持続:37.5℃以上4日以上

※ 新型コロナウイルスの初期症状(鼻汁,咽頭の違和感など)が増悪する時,気道症状として急激な呼吸苦,苦しさが出てくるようです。

※ 呼吸苦が出現してきた時点の肺のCT像では,すりガラス陰影(multifocal ground-glass opacities)が進展してくる可能性があり,間質性肺炎の急性増悪や2次感染に注意が必要となります。

※ 医療従事者は,国の指針,および各施設の感染制御部や病院執行部の院内取り決めに従います。

 新型コロナウイルス感染症疑いでの院内感染対策 

基本事項

1.患者さんご本人への対策:患者さんご本人には,サージカルマスクを着用して頂く(鼻領域を十分にフィットさせること)。

2.診察における注意:診察時の標準予防策を徹底する。

3.診察場所の注意:診察室および入院病床は個室が望ましい。

4.換気の重要性:診察室および入院病床は十分に換気する。

5.標準予防策として眼防御を含めること:気道吸引や気管挿管の処置などエアロゾルが発生す可能性について,空気感染を考慮して,N95マスクの着用,眼防護(ゴーグルまたはフェイスシールド),長袖ガウン,手袋を装着すること。眼の防御にも十分に注意が必要とする。

6.感染防御具の廃棄:感染防御具の廃棄法についての取り決めを厳格に院内で定めること。使用後の手袋やガウンやフェイスシールドなどを,机上に放置してはならない。

7.患者移動制限:患者の移動は,CT検査や高次施設へなどの医学的に必要な目的に限定する。

 新型コロナウイルスの名称について 

◼️ WHO:COVID-19
新型コロナウイルスによる感染症を,COVID-19(COronaVIrus Disease 2019)と命名する。
https://www.bbc.com/japanese/51470319

◼️ 国際ウイルス分類学会:SARS-CoV-2
新型コロナウイルスを,SARS-CoV-2(Severe Acute Respiratory Syndrome CoronaVirus-2)と命名する。
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2020.02.07.937862v1

 

 本邦におけるCOVID-19の治療と管理の報告 

■ 国立国際医療研究センター http://dcc.ncgm.go.jp/core/pdf/20200221_2.pdf

際感染症センターのホームページにCOVID-19管理の報告が行われています。症例11では,人工肺(VV-ECMO)が併用されています。また,Lopinavir/Ritonavir(LPV/r)を治療薬として用いていることも記載されています。そして,胸部CT像の典型例も掲載して頂いています。

 

初版 2020年01月27日

追記 2020年01月29日,2020年01月30日,2020年02月02日,2020年02月06日,2020年02月12日,2020年02月21日,2020年02月22日,2020年02月24日,2020年02月28日


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留意共有 新型コロナウイルス感染症と集中治療 PART 2

2020年02月25日 01時12分01秒 | COVID-19の集中治療

新型コロナウイルス感染症に正しく備える PART 2

対応策:具体的内容共有の重要性

 

名古屋大学大学院医学系研究科

救急・集中治療医学分野

松田直之

 新型コロナウイルスの潜伏期間について 

新型コロナウイルスSARS-CoV-2の潜伏期間について,Ann Intern Medに報告されました。

Lauer SA, Grantz KH, Bi Q, et al. The Incubation Period of Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) From Publicly Reported Confirmed Cases: Estimation and Application. Ann Intern Med. 2020 Mar 10. 

2020年1月4日から2020年2月24日までに報告されたCOVID-19の181例の解析では,潜伏期間の中央値は5.1日(95%信頼区間:4.5~5.8日)であり,症状を発症した97.5%は感染後11.5日(信頼区間:8.2~15.6日)となります。新型コロナウイルスSARS-CoV-2に暴露された可能性がある場合,14日間の症状観察は妥当と考えられます。

 

 新型コロナウイルスの検出検査 RT-PCRについて 

【検査方法】新型コロナウイルスを評価するのRT-PCR解析の限界について

SARS-CoV-2 Viral Load in Upper Respiratory Specimens of Infected Patients.

Zou L, Ruan F, Huang M, Liang L, Huang H, Hong Z, Yu J, Kang M, Song Y, Xia J, Guo Q, Song T, He J, Yen HL, Peiris M, Wu J. N Engl J Med. 2020 Feb 19.

 新型コロナウイルスSARS-CoV-2の同定には,RT-PCR法が用いられています。中国本土では,Nタンパクの合成に関係するN遺伝子およびOrf1b遺伝子を標的とするプライマーを用いたRT-PCR法が,中国疾病管理予防センター(the Guangdong Provincial Center for Disease Control and Prevention)により開発されました。しかし,乾いた咳などの初期症状が出るまでの症状のない時期には検出できなかったとする報告もあります。

 コロナウイルスは,約 20 nm の特徴的なスパイクとエンべロープを持つウイルスです。この粒子表面にある尖ったスパイク(spike)を作るタンパクはSタンパクと命名されています。 また,エンべロープの構成タンパクとして,膜(membrane)のMタンパク,エンべロープ(envelope)のEタンパクが存在します。そして,コロナウイルスはRNAウイルスです。RNAの5‘末端には,ORF1a,ORF1abという遺伝子領域があります。そこに,核タンパク(Nタンパク)が結合し,螺旋状のヌクレオカプシドが作られます。

 中国本土では,Nタンパクの合成に関係するN遺伝子およびOrf1b遺伝子を標的とするプライマーを用いたRT-PCR法が,中国疾病管理予防センター(the Guangdong Provincial Center for Disease Control and Prevention)により開発されました。2020年1月7日から2020年1月26日までに武漢から地域に戻って発熱した17人のCovid-19患者の咽頭拭い液などの遺伝子検査の解析として,このRT-PCRでのSARS-CoV-2検出は発熱などの臨床症状が出てきた時期に検出力が高まるとしており,発熱などの症状が認められない無症候期の評価ができない可能性が指摘されています。この原因として,SARS-CoV-2は前述したACE-2などとの結合によりヒトの細胞に寄生するため,鼻腔や咽頭ではなく,細気管支以降に直接に播種する可能性があるからかもしれません。

 このため,無症状の時期に新型コロナウイルスをその方が伝播していないかどうかについては明言することができないため,新型コロナウイルスに暴露されたかどうかの接触の可能性が管理上では重要事項となると考えられます。新型コロナウイルスに暴露された可能性のある皆さんには,14日レベルの自己隔離が求められる背景となります。

※ 2020年2月21日のBai先生たちのレター(JAMA)では,症状出現(黄色)とRT-PCR検査陽性(赤色)まで,1日〜9日の時間差があります。

【RT-PCR法の国による違い】ターゲット分子と方法について

 中国,ドイツ,香港,日本,タイ,米国,これらの国々で,RT-PCRで検出しているターゲットが異なることが知られています。日本は,コロナウイルスのスパイク蛋白(S蛋白)の遺伝子をターゲットにしているようです。また,PCRの手法も国々で異なるようです。日本や米国は,ネステッドPCRやtaq man probeを用いたリアルタイムPCRを用いているようですが,中国などは一部はノーマルPCRだったり,国々でPCRの手法が異なっているようです。このため,新型コロナウイルス感染症COVID-19の診断として新型コロナウイルスのRNAを検出するRT-PCRの感度や特異度については,国々で異なると予想されます。日本においては,独自に偽陽性や偽陰性の比率を評価していくことになると思います。

米国CDCがSARS-CoV-2検出に用いているプライマー

 新型コロナウイルス関連情報について 

新型コロナウイルスについて,国立感染症研究所,国立国際医療研究センター国際感染症センター,厚生労働省より,多くの情報が公開されています。医療従事者はは,新型コロナウイルス感染確定例,あるいは新型コロナウイルス関連肺炎を疑う場合に,「新型コロナウイルス感染症患者に対する積極的疫学調査実施要領」に基づいて診療を行う指針となります。また,ジョンズホプキンス大学より,新型コロナウイルス発生のモニタリング情報が公表されています。院内感染対策についても,私の関与する領域では救急外来(ER),救命救急センター,集中治療部が感染制御部や呼吸器内科等の多くの診療科と連携して,適切な院内感染対策のもとで,救命率を高めていく方針となります。日本集中治療医学会や日本救急医学会にも,緊急な対応が迫られてきております。以下の情報などを,皆で共有するとよいでしょう。新型コロナウイルス感染症を指定感染症として定める政令(健発0128第5号)が,2020年2月7日からの施行とされていましたが,2020年2月1日に前倒しとされています。

■ 中国湖北省武漢市で報告されている新型コロナウイルス関連肺炎に対する対応と院内感染対策(PDF)(2020年1月21日改訂版)

https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2484-idsc/9310-2019-ncov-1.html

■ 新型コロナウイルス感染症患者に対する積極的疫学調査実施要領

https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2484-idsc/9323-ncov- 200121-1.html

■ 2019-nCoV (新型コロナウイルス)感染を疑う患者の検体採取・輸送マニュアル(2020年1月24日更新)

https://www.niid.go.jp/niid/images/pathol/pdf/2019-nCoV_200124.pdf

■ 203第2号 令和2年2月3日 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第 12 条第1項 及び第 14 条第2項に基づく届出の基準等について(一部改正)

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000592140.pdf?fbclid=IwAR0zgRrLaNQYVVc1jymM4v8jvxhtHl80Oama_NOb1DZOwWF7_PREBHzyPRI

■ 米国CDCの新型コロナウイルスRT-PCR情報

https://www.who.int/docs/default-source/coronaviruse/uscdcrt-pcr-panel-primer-probes.pdf?sfvrsn=fa29cb4b_2

■ タイの新型コロナウイルスRT−PCR情報

https://www.who.int/docs/default-source/coronaviruse/conventional-rt-pcr-followed-by-sequencing-for-detection-of-ncov-rirl-nat-inst-health-t.pdf?sfvrsn=42271c6d_4

 参考文献・参考資料 

1. 2020/01/24 中国武漢市における2019年12月発症の新型コロナウイルス感染症に関する調査報告

Huang C, Wang Y, Li X, et al. Clinical features of patients infected with 2019 novel coronavirus in Wuhan, China. Lancet. 2020 Jan 24. pii: S0140-6736(20)30183-5.

2.2020/01/29 中国における2019年12月発症の新型コロナウイルス感染症の対応状況

 Li Q, Guan X, Wu P,  et al. Early Transmission Dynamics in Wuhan, China, of Novel Coronavirus-Infected Pneumonia. N Engl J Med. 2020 Jan 29. 

Onset of Illness among the First 425 Confirmed Cases of Novel Coronavirus (2019-nCoV)–Infected Pneumonia (NCIP) in Wuhan, China.

3. 【総説】コロナウイルスエンベロープ蛋白について

4. 新型コロナウイルスの法政:健発0128第5号

 参考資料 ジョンス・ポプキンス大学 等 

新型コロナウイルスのリアルタイムモニタリング

https://gisanddata.maps.arcgis.com/apps/opsdashboard/index.html#/bda7594740fd40299423467b48e9ecf6

 

初版 2020年01月27日

追記 2020年01月29日,2020年01月30日,2020年02月02日,2020年02月06日,2020年02月12日,2020年02月21日,2020年02月22日,2020年02月24日,2020年02月28日,2020年03月11日


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一般の皆さま 感染防御対策 ブラッシュアップ

2020年02月24日 23時56分38秒 | 医療技術教育

情報共有 一般の皆さま

ブラッシュアップ 感染防御

感染防御策  Infection control and prevention

日本集中治療医学会・日本救急医学会・日本麻酔科学会

集中治療理事専門医・救急科指導医専門医・麻酔科指導医専門医

松田直之 MD, PhD

 

 はじめに 

 中国河北省武漢(ウーハン)市より,2019年12月,新型コロナウイルスが発生しました。この全世界的拡大の中で,ご自身や周囲への伝播を防ぐために,① 鼻を出さないマスク着用,②テーブルなどの次亜塩素酸や70%アルコールなどによる定期的な環境消毒にくわえて,③適切な手指衛生,これらの3つにご注意下さい。その上で,救急・集中治療領域では,間質性肺炎の急性増悪,ARDSおよび多臓器不全に至る早期の段階での拾い上げが重要策となります。実際の集中治療では,注意が必要ですので,この注意点や留意内容を皆で共有し,真摯に院内で討議できるようにします。そして,重篤化や死亡には,喫煙,喘息,低栄養,免疫不全や既炎症状態などのベースが強く関与するのだろうと評価されます。以上を踏まえて,本講では,手指衛生を中心として,一般の皆さまを主な対象とさせて頂き,感染防御の方法(感染防御策)について,記載します。一文一文に,「そうなの?」などの疑問を持たれて,読み進めて下さい。事実は,「断定」を疑うところから,真実を見つめる心として定着します。

 

 感染防御に関するトピックス 

・ウイルス感染症や細菌感染症は,感染部位の局所障害だけではなく,敗血症という多臓器不全状態に進展する危険性について,十分な対応が必要となります。

・世界保健機関(World Health Organization:WHO)は,2016年5月24日〜26日にドイツのイエーナで開催された World Health Assembly (WHA)において,「敗血症」を当面の解決すべき重要課題と議決しました。

・敗血症は,感染症による多臓器不全の進行する状態です。

・WHOは,2018年5月5日に手指衛生キャンペーンを国際規模で施行し,医療従事者の手指衛生の重要性を啓発しています。

・日本集中治療医学会も,手指衛生キャンペーンをクリーンハンドキャンペーンとして学術集会などで行ってきました。

・Global Sepsis Alliance(GSA:世界敗血症連盟)およびJapan Sepsis Alliance(JaSA:日本敗血症連盟)は,毎年9月3日を世界敗血症デー(World Sepsis Day)として,敗血症を認知するキャンペーンを世界レベルで施行しています。この1つの目標として,敗血症の予防を挙げています。

・感染症および敗血症の予防のためには,手指衛生が不可欠です。

 

 感染防御のポイント 

・緊急時や急いでいるときこそ,感染防御策に注意します。

 私たちの救急医療や集中治療の医療現場では,静脈路確保,緊急気管挿管(喉頭鏡,スタイレット,気管チューブの清潔性),ECMO(extra-corporeal membrane oxygenation)などの体外循環や心補助装置,中心静脈路確保などにおいて感染防御策を徹底しています。

・感染防御策は,自らへの感染防御と,患者への感染伝播阻止の2つの側面があります。

・感染防御策は,①空気感染予防策,②飛沫感染予防策,③接触感染予防策です。医療現場では,手指衛生に対して,WHOの推奨する手指衛生の5つのタイミングを遵守しています。

① 患者さんに触れる前

② 清潔で無菌の処置をする前

③ 体液に曝露されたり,体液に暴露された暴露の可能性がある場合の後

④ 患者さんに触れた後

⑤ 患者さんの周囲(ベッド,シーツなど)に触れた後

そして,診療中の手袋を外したときも,手指衛生の6つ目のタイミングとして,重視されるようになりました。

⑥ 手袋を外した後

・これらは,面会のときにも注意が必要となります。

・手袋は,裏返して外すのが正しい外し方です。

 

 手指衛生/手洗いのポイント 

手指衛生として,水道水などによる手洗い,そしてアルコール手指消毒剤による手指消毒があります。有効な手指衛生の方法に気をつけて下さい。

① 手掌

② 手背

③ 指間

④ 爪甲:爪の甲を手のひらのタコなどに当てて洗います。指先で,アルコール手指消毒剤をこするように使う場合もあります。

⑤ 母指

⑥ 手首

 

 目に見える汚染のある場合の対応 

手などが,血液や痰や汚いものなどで目に見える状態で汚染されてしまった場合,医療環境では,以下のような対応としています。

① 流水で十分に両手を洗い流す。まず,流水で洗い流します。

② 手洗い剤を用いて少なくとも15秒をかけて手掌・手背・指間・爪甲・母指,手首を洗う。手洗い剤を使います。

③ 流水でしっかりと流す。また,流水で流します。

④ ペーパータオルを用いて水分を完全に拭き取る。ペーパータオルを用います。

⑤ 使用したペーパータオルで蛇口を閉める。蛇口は,ペーパータオルで閉めます。

※ このような対応のため,蛇口の開閉は,一般に光反応でできるものに変更されています。

 

 感染防御策で知っておくこと 

感染経路を阻止するためには,1)空気感染,2)飛沫感染,3)接触感染の3経路に注意して,感染経路別予防策しています。

① 空気感染

② 飛沫感染

③ 接触感染

 

 空気感染予防策について 

・空気感染として,「飛沫核感染」と「エアロゾル感染」に注意します。

・飛沫核感染では,空気中に5μm未満の大きさとして浮遊できる,肺結核,麻疹ウイルス,水痘・帯状疱疹ウイルスに注意します。

・結核感染患者は,年間約2万人であり,今後の高齢社会において増加する可能性があります。2週間以上持続する咳や痰,また高齢者の食欲不振や体重減少において,結核に注意した空気感染予防策を考えます。

・エアロゾル感染は,ノロウイルス,レジオネラ,インフルエンザウイルス,コロナウイルスのような微生物に汚染された塵埃や気流を吸い込むことにより,気道感染症として発症します。

対策:① 咳をしている方や患者さんへの正しいマスクの着用,②医療従事者はN95 マスクの着用,③ 陰圧制御や高換気回数空調などの特殊個室管理。

・結核を疑う場合,胸部単純X線像などのX線像の評価に加えて,3日間連続で3回の喀痰培養検査を行っています。

・結核と麻疹ウイルスを疑う患者さんを救急車で搬送したり,救急外来等の外来で診療した場合には,車内や室内を外気開放としています。

・喉頭鏡や気管支鏡を使用した場合,これらは院内で再利用する重症患者用のsemi-critical instrumentsであるため,湿式低温殺菌法,化学消毒,または加熱での高レベル消毒としています。

・搬送や救急外来におけるベッド柵などの環境消毒については,次亜塩素酸やアルコール類などを用いた洗浄・清拭としています。

・陰圧室の利用に際しては,スモークテストなどで陰圧がかかるかどうかを評価しています。この空調設備には,質保証の確認と定期点検が必要です。

・N95マスクには,「折りたたみ式」と「カップキーパー式」の2種類があります。N95マスクの着用に際しては,マスクの周囲から10%以上の空気の漏出がないように,着用時に「フィットテスト」を行います。 

・救急外来診療においては,2週間以上の咳のある場合には,結核に留意して対応しています。

 

 飛沫感染予防策について 

・飛沫感染は,肺炎球菌,百日咳,インフルエンザウイルス,コロナウイルス,髄膜炎菌,マイコプラズマ,溶連菌などのように,咳をしている場合に,水分がついた飛沫として伝搬する感染です。

・飛沫の拡散範囲は,約1~2mレベルです。

・テーブルなどの定期的な環境消毒が重要です。

・対策:①咳の出る場合のマスク着用,②ベッド間隔2m,③環境の清拭。

 

 接触感染予防策について 

・接触感染は,感染者との直接接触や,病原体に汚染されたテーブルやベッド,また電車での移動では手すりや吊り革などとの間接接触により生じます。

・電車などの移動時に汚染された手で,口元や鼻を触る危険性を下げるためには,咳のない状態でもマスクを着用する利点があります。

・手袋着用としても,手袋が汚染される危険に注意します。

・触れた場合は,アルコール性手指消毒が重要です。

・テーブルなど環境は,アルコールや次亜塩素酸を用いた定期的な拭き衛生とします。

対策:①手指衛生,②環境の清拭,③スタンダードプレコーション(医療現場)。

 

 知識:スタンダードプレコーションについて 

救急外来や集中治療室などでのカテーテル挿入や緊急対応では,スタンダードプレコーションとして対応する場合が多いです。出血対応なども,このスタンダードプレコーションに準じています。

・歴史1:1985年に米国CDC(Centers for Disease Control and Prevention:疾病管理予防センター)は,医療機関などの感染管理対策として「ユニバーサル・プリコーション(universal precaution)」を提唱しました。

・ユニバーサル・プリコーションは,主にHIVなどのような血液由来の病原体から身を守るための予防策でした。

・歴史2:ユニバーサル・プリコーションをすべての患者に適用できるよう改良したものが,1996年に米国CDCによって発表された「スタンダード・プリコーション(standard precaution)」です。

・スタンダード・プリコーションでは,主に,血液,体液,分泌物,嘔吐物,排泄物,創傷皮膚,粘膜などを感染の危険性があるものとして取り扱います。

・手指衛生においては,処置前処置後の擦式アルコール製剤による手指衛生を基本とします。

・血液や体液などの目に見える汚れを,汚染状態とし,流水と液体石鹸で手指衛生します。

・スタンダード・プリコーションでは,防御具として,手袋,マスク,ガウン,ゴーグル,フェイスシールドを着用します。

・方法:① 手指衛生,② マスク,③ 手袋,④ ガウン,⑤ ゴーグル,⑥ メガネあるいはフェイスシールド

 

 例:集中治療室での面会の注意ポイント 

・面会の際には,以下の手順に注意して頂いています。

①手指衛生:アルコール手指消毒剤による手指消毒をして頂きます。

②マスク:鼻と顎までをしっかりと覆った正しいマスク着用としていただいています。

③ヘッドキャップ:頭についた細菌やウイルスなどの微生物をベッドサイドや患者さんに接触させないようにしています。

④ガウン:服類についた微生物を患者さんに伝播しないように気をつけていただいています。

⑤手袋:手を介して顔や頭や体やベット柵などの環境に微生物を運ぶ可能性に注意し,手袋を着用して頂いています。

・面会後は,集中治療室の入り口で,手袋,ヘッドキャップ,ガウン,マスクの順で廃棄します。

・手袋は,裏返しにして手から取るようにします。

※手袋を着用しない場合は,手を腕までしっかりと出すようにし,しっかりとアルコール手指消毒をして頂いています。

 

 おわりに 

 通常の通勤や通学では,新興ウイルス感染症,再興ウイルス感染症だけではなく,接触感染や飛沫感染ではインフルエンザウイルスなど,感染症空気感染症では結核に注意が必要です。新興ウイルス感染症においても,本講で記載した基本的な感染防御の理解とされて下さい。ご自宅や施設では,定期的なテーブル等の拭き衛生に留意します。

 

※ 手指消毒の重要性を,クリーンハンドキャンペーンとして,世界と連携しています。

※ 喫煙は,肺障害,急性心筋梗塞,そして手術のデメリットです。

※ 禁煙活動に,ご協力下さい。


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情報共有 厚生労働省通達 新型コロナウイルス感染症対策の基本方針の具体化に向けた見解

2020年02月24日 23時46分56秒 | COVID-19の集中治療

 情報共有 2020年2月24日 新型コロナウイルス感染症対策専門家会議 

※ 厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症について」のページをこまめにご覧下さい。

 1.緒言 

 この専門家会議は、新型コロナウイルス感染症の対策について、医学的な見地から助言等を行うため、適宜、政府に助言をしてきました。
 我々は、現在、感染の完全な防御が極めて難しいウイルスと闘っています。このウイルスの特徴上、一人一人の感染を完全に防止することは不可能です。
 ただし、感染の拡大のスピードを抑制することは可能だと考えられます。そのためには、これから1-2週間が急速な拡大に進むか、収束できるかの瀬戸際となります。仮に感染の拡大が急速に進むと、患者数の爆発的な増加、医療従事者への感染リスクの増大、医療提供体制の破綻が起こりかねず、社会・経済活動の混乱なども深刻化する恐れがあります。
 これからとるべき対策の最大の目標は、感染の拡大のスピードを抑制し、可能な限り重症者の発生と死亡数を減らすことです。
 現在までに明らかになってきた情報をもとに、我々がどのように現状を分析し、どのような考えを持っているのかについて、市民に直接お伝えすることが専門家としての責務だと考え、この見解をとりまとめることとしました。なお、この内容はあくまでも現時点の見解であり、随時、変更される可能性があります。

 2.日本国内の感染状況の評価 

 2019年12月初旬には、中国の武漢で第1例目の感染者が公式に報告されていますが、武漢の封鎖は2020年1月23日でした。したがって、その間、武漢と日本の間では多数の人々の往来があり、そのなかにはこのウイルスに感染していた人がいたと考えられます。
 既に、国内の複数の地域から、いつ、どこで、誰から感染したかわからない感染例が報告されてきており、国内の感染が急速に拡大しかねない状況にあります。したがって、中国の一部地域への渡航歴に関わらず、一層の警戒が必要な状況になってきました。
 このウイルスの特徴として、現在、感染を拡大させるリスクが高いのは、対面で人と人との距離が近い接触(互いに手を伸ばしたら届く距離)が、会話などで一定時間以上続き、多くの人々との間で交わされる環境だと考えられます。我々が最も懸念していることは、こうした環境での感染を通じ、一人の人から多数の人に感染するような事態が、様々な場所で、続けて起きることです。

 3.これまでに判明してきた事実 

(1)感染者の状況
 新型コロナウイルスに感染した人は、ほとんどが無症状ないし軽症であり、既に回復している人もいます。
 国内の症例を分析すると、発熱や呼吸器症状が1週間前後持続することが多く、強いだるさ(倦怠感)を訴える人が多いです。
 しかしながら、一部の症例は、人工呼吸器など集中治療を要する、重篤な肺炎症状を呈しており、季節性インフルエンザよりも入院期間が長くなる事例が報告されています。現時点までの調査では、高齢者・基礎疾患を有する者では重症化するリスクが高いと考えられます。
 
(2)感染経路などについて
 これまでに判明している感染経路は、咳やくしゃみなどの飛沫感染と接触感染が主体です。空気感染は起きていないと考えています。ただし、例外的に、至近距離で、相対することにより、咳やくしゃみなどがなくても、感染する可能性が否定できません。
 無症状や軽症の人であっても、他の人に感染を広げる例があるなど、感染力と重症度は必ずしも相関していません。このことが、この感染症への対応を極めて難しくしています。
 
(3)PCR検査について
 PCR検査は、現状では、新型コロナウイルスを検出できる唯一の検査法であり、必要とされる場合に適切に実施する必要があります。
 国内で感染が進行している現在、感染症を予防する政策の観点からは、全ての人にPCR検査をすることは、このウイルスの対策として有効ではありません。また、既に産官学が懸命に努力していますが、設備や人員の制約のため、全ての人にPCR検査をすることはできません。急激な感染拡大に備え、限られたPCR検査の資源を、重症化のおそれがある方の検査のために集中させる必要があると考えます。
 なお、迅速診断キットの開発も、現在、鋭意、進められています。
 
(4)医療機関の状況
 首都圏を中心とした医療機関の多くの感染症病床は、ダイヤモンド・プリンセス号の状況を受けて、既に利用されている状況にあります。感染を心配した多くの人々が医療機関に殺到すると、医療提供体制がさらに混乱する恐れがあります。また、医療機関が感染を急速に拡大させる場所になりかねません。

 4.みなさまにお願いしたいこと 

 この1~2週間の動向が、国内で急速に感染が拡大するかどうかの瀬戸際であると考えています。そのため、我々市民がそれぞれできることを実践していかねばなりません。
 特に、風邪や発熱などの軽い症状が出た場合には、外出をせず、自宅で療養してください。ただし、以下のような場合には、決して我慢することなく、直ちに都道府県に設置されている「帰国者・接触者相談センター」にご相談下さい。
 

● 風邪の症状や37.5°C以上の発熱が4日以上続いている(解熱剤を飲み続けなければならないときを含みます)

● 強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある

※ 高齢者や基礎疾患等のある方は、上の状態が2日程度続く場合

 また、症状のない人も、それぞれが一日の行動パターンを見直し、対面で人と人との距離が近い接触(互いに手を伸ばしたら届く距離)が、会話などで一定時間以上続き、多くの人々との間で交わされるような環境に行くことをできる限り、回避して下さい。症状がなくても感染している可能性がありますが、心配だからといって、すぐに医療機関を受診しないで下さい。医療従事者や患者に感染を拡大させないよう、また医療機関に過重な負担とならないよう、ご留意ください。

 教育機関、企業など事業者の皆様も、感染の急速な拡大を防ぐために大切な役割を担っています。それぞれの活動の特徴を踏まえ、集会や行事の開催方法の変更、移動方法の分散、リモートワーク、オンライン会議などのできうる限りの工夫を講じるなど、協力してください。

 以上


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