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救急一直線 講義 敗血症におけるブドウ球菌対策 〜MRSAとMSSA〜 

2018年08月30日 22時01分00秒 | 講義録・講演記録4

講義 敗血症におけるブドウ球菌対策 
〜MRSAとMSSA〜 

名古屋大学大学院医学系研究科 救急・集中治療医学分野
教授 松田直之

 はじめに 

 黄色ブドウ球菌(S. aureus)は,血流感染症および院内感染症として頻度の高い検出菌種であり,毒素を産生するために病原性が高いです。黄色ブドウ球菌に対しては,接触感染予防策を徹底するとともに,抗菌薬の使用においても適切な対応が必要です。ここでは,集中治療室や救急外来で働く医療従事者の皆さんを主な対象として,メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA:methicillin‐sensitive Staphylococcus aureus)およびメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA:methicillin‐resistant Staphylococcus aureus)の基本知識を整理させていただきます。また,本ブログは,海外の医療関係者の皆さんにもアクセスして頂いています。日本の救急・集中治療領域の感染症管理として,ご参考にされて下さい。

  ブドウ球菌属における黄色ブドウ球菌とは! 

 1980年代には,ブドウ球菌属(Staphylococcus 属)はS. aureusSepidermidis,Ssaprophyticus などの13 菌種4亜種に分類されていましたが,2010年代では36菌種19亜種の分類まで広く分類されるようになっています。これらの新たに分類されたブドウ球菌は,動物や発酵食品由来のものが大半であり,ヒトからは1998年のS. hominis subsp. novobiosepticum1)が知られています。このS. hominis subsp. novobiosepticumなどのブドウ球菌においても,MRSAなどのようにMRCNSとして抗菌薬メチシリンに耐性があり,血流感染症や敗血症性ショックなどの厄介な起炎菌となることも確認できます。

 これまで,ブドウ球菌属は,コアグラーゼ産生能により,コアグラーゼ産生力を持つS. aureusと牛などの哺乳類には感染するがヒト感染性の低いS.intermedius,そしてヒト以外の動物感染として菌株によってコアグラーゼ陽性または陰性のものであるS. delphiniS. hyicus,さらにコアグラーゼを産生しない32種類のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS:coagulase-negative Staphylococcus)に分類されてきました。このうち,ヒト感染が報告されたブドウ球菌属を表1に示しています。

 コアグラーゼ産生能の検査法の歴史は古く,Loeb2)がガチョウの血漿との混合培養液で血漿が凝固することを見出したのが1903年です。その後,本邦でも1950 年代に,試験管法,スライド法(のせガラス法),血漿平板法の3つのコアグラーゼの検査法が開発され,現在はスライドコアグラーゼ試験から発展したラテックス凝集試験試薬が数社から販売されるようになりました。

 ラテックス凝集反応でのコアグラーゼ検出は,簡便で,短時間で判定できる特徴があるために試験管コアグラーゼ試験の代わりとして使用する場合が多いようです。しかし,CNSの中でも,S.intermediusS. lugdunensisS. schleiferiS. sciuriは,コアグラーゼ検出用ラテックス試薬に凝集反応を示す可能性があることが知られています。黄色ブドウ球菌と誤って同定されることに注意が必要とされています。

 以上のように,ブドウ球菌属の中でも黄色ブドウ球菌はコアグラーゼやプロテアーゼなどのさまざまな菌体外毒素(表2)を産生するため,炎症や多臓器不全の誘発性に注意します。つまり,私たち集中治療医の専門とする敗血症の起炎菌としては,臓器傷害を器質化させやすいものとして注意しています。

 また,黄色ブドウ球菌は,免疫耐性や毒性のある莢膜を持つものが存在します。CNSの一部にも,このような細胞傷害性毒素を産生するものが存在しますので3),さらに莢膜の発現にも注意が必要となります。莢膜を持つブドウ球菌,肺炎球菌,インフルエンザ菌,髄膜炎菌などは,脾臓で破壊されます。脾臓を摘出されていたり,持続する交感神経緊張や加齢とともに脾臓の機能が低下してきている場合などでは,ブドウ球菌感染症は炎症病態を持続させる危険性があり,適切な評価が必要です。

  MSSAとMRSAの定義と検出法について 

  MRSAを評価する手法は,現在,2010年1月の米国Clinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)の臨床検査の標準法であるCLSI M100-S206に従っています。MRSAは,mecA 遺伝子の発現もしくはオキサシリンに対するペニシリン結合蛋白(PBP2a,PBP2’)の親和性が変化することで,メチシリン耐性を獲得した黄色ブドウ球菌の変種株(ModifiedSaureus 株)です。MRSAは,mecA 遺伝子を保持する黄色ブドウ球菌および,もしくはオキサシリンMIC≧4μg/mLの菌株と,CLSIにより定義されています。

 Staphylococcus属におけるMRSAの検出法には, ①薬剤感受性を用いたオキサシリン耐性の評価,②Penicillin Binding Protein 2 prime PBP2'(PBP2a)の検出,③PBP2’の遺伝子であるmecA遺伝子の検出の3つの手法があります。 

 薬剤感受性を用いたオキサシリン耐性の評価には,薬剤感受性を用いる方法としてディスク拡散法や微量液体希釈法,また,オキサシリン含有培地(MRSA 選択培地)で発育状況を観察する3種類の方法を用います。

 一方,MRSA 判定用薬剤には,薬剤安定性から,メチシリンに代わってオキサシリンが使われる傾向があります。PBP2’の検出は,培養された黄色ブドウ球菌の抽出液と抗PBP2’抗体標識ラテックス粒子を混合し,撹拌し,凝集塊が生じればMRSA と判定されます。 最終的に,培養した黄色ブドウ球菌よりDNAを抽出し,PCR法などでmecA 遺伝子が検出されれば,MRSAと同定できます。 

 ブドウ球菌感染症の疫学 

 私も関与しました日本集中治療学会Sepsis Registry委員会4, 5)の敗血症患者を対象としたSepsis Registry調査4, 5)では,内科領域より66 例,外科領域より58 例,救急領域より142 例が登録され,頻度の高い検出菌としMRSA(22.0%),大腸菌(14.0%),K.pneumoniae(11.8%),MSSA(9.7%),P. aeruginosa(9.2%),Enterobacter科(7.4%),S. pneumoniae(6.0%)が同定されました。この解析の中で,MRSAに対する抗菌薬の適正使用が期待されました。

 さらに,日本救急医学会Sepsis Registry 調査6)は,624例の血液から 検出された314 株の評価として,グラム陽性球菌が147株,グラム陰性桿菌が140株,主な検出菌は大腸菌14.0%,黄色ブドウ球菌9.9%(MSSA6.4%,MRSA 3.5%),K.pneumoniae8.6%,S.pneumoniae4.5%,P.aeruginosa3.8%,Bacteroides 属3.2%と報告しています。このように,黄色ブドウ球菌は,重症患者の多くに起炎菌として検出される傾向があります。

 当施設,名古屋大学医学部附属病院救急・内科系集中治療部では,感染制御部と連携して2011年5月の開設当初より集中治療管理における起炎菌の動向を調査し,集中治療室における全身管理の一助としています7)。上述の観察研究と同様に,ブドウ球菌属は高い検出率です。一方,大腸菌は,救急外来を経由した重症患者の敗血症に認められる傾向があります。血液検体2セット以上,またカテーテルから検出される菌種では,CNSが最多で,他にカンジダ属,K.pneumoniae,腸球菌属,MSSAとMRSAという特徴があります。

 厚生労働省院内感染対策サーベイランス(JANIS:Japan Nosocomial Infections Surveillance)で一般公開されている2017年1月~12月年報8)においても同様です。2017年には,院内感染管理として国内8,442 医療機関の21.3%にあたる1,795 医療機関が登録されていますが, 血液検体から分離された385,048株が分離のうち上位3 菌種は,E. coli 65,600 株(17.0%),S. aureus 51,748 株(13.4%),S. epidermidis 41,533株(10.8%)です。このうち,薬剤耐性菌として最も多かったのはMRSAであり,検体提出患者の6.48%にあたる182,619 名より分離され,一方,院内で問題とされる傾向のある多剤耐性緑膿菌(MDRP:multi-drug resistantP.aeruginosa)は1,410 人(0.05%)の分離状況です。

  MRSAリスクの評価の重要性 

  ブドウ球菌感染症が疑われる場合,MRSAリスクの評価が必要です。90日以内の入院歴,透析歴,カテーテル挿入歴,抗菌薬使用歴を,必ず評価するようにしています。

 一般に,MRSAについては,院内感染型として ① hospital-associated MRSA(HA-MRSA),市中感染MRSA型として ② community-acquired MRSA(CA-MRSA),③家畜関連MRSA(LA-MRSA livestock-associated MRSA)などとして, MRSAはヒトだけではなく,犬や猫などのペット,牛,豚,また鳥類などのさまざまな動物からも分離されています。

 HA-MRSAの区分については,入院48時間を超えて分離されたMRSAをHA-MRSAとしています。市中の健康人から分離されたMRSAが,CA-MRSAです。MRSAリスクとして,①90日以内の入院や手術と2日以上の抗菌薬の使用歴,②長期療養施設への入所,③透析歴,④カテーテル留置歴,⑤経管栄養歴,⑥動物飼育歴に注意しています。分離検体は,喀痰,咽頭粘液,膿,血液であり,50歳以上ではリンパ球数,好中球機能,および脾機能を含めて,易感染状態に注意しています。

 一方,CA-MRSAは,入院後48 時間以内に分離されたMRSAが対象です。CA-MRSAは,園児から大学生までの若年層にも認められます。感染リスクの高い環境として,学校,託児所,レスリングや柔道などの接触性格闘競技,災害避難民,薬物中毒,入れ墨,刑務所などが知られています。 

 ブドウ球菌感染症に対する抗菌薬の適正使用 

  抗菌薬投与の方法は,一般に大きく分けて,①経験的初期治療(empirical therapy),②最適治療(definitive therapy),③予防的治療(prophylactic therapy),④先行治療(preemptive therapy)4つの方法があります。

 1. 経験的初期治療 

 経験的初期治療は,感染症を疑う場合の初期治療です。診断の時点で起炎菌が判明していない場合,効果が期待できるように広域抗菌薬を用いる方法です。細菌培養検査の結果までの初期治療としてMRSAの関与が疑われれば抗MRSA薬を広域抗菌薬に併用します。MRSAを疑う場合として,前述のMRSAリスクを評価し,過去90 日以内に2日以上の抗菌薬使用がある場合や,経管栄養歴などに注意しています。

 2. 最適治療 

 最適治療は,細菌培養検査により原因微生物と感受性が判明した後に,適切な抗菌薬を選択する方法です。De-escalationとして,薬剤感受性に合わせて,ターゲットを絞って抗菌薬を選択します。MSSAであればセファゾリン,MRSAであれば感染部位を考慮して抗MRSA薬を適確に使用します。

 3.予防的治療 

 予防的治療は,術前・術中抗菌薬などのように,将来起こるかもしれない感染症に対して,文字通り,予防として抗菌薬を使用する方法です。皮膚常在菌をターゲットとする場合,ブドウ球菌やレンサ球菌を考慮し,主にセファゾリンを用いています。また,MSSAに対して,セファゾリン供給の問題よりセフトリアキソンで代用する場合,最小発育阻止濃度(MIC:minimum inhibitory concentration)の高い株に注意し,十分な投与量を評価します。

 手術開始時点で,十分な殺菌作用を示す血中濃度と組織中濃度が必要となるため9),皮膚切開1時間前以内に投与を開始し,手術開始のTime-Outでは投与完了を確認します。また,整形外科領域などで駆血のためにターニケットを使用する場合では,少なくとも加圧する5~10 分前に抗菌薬の投与を終了します10)。 

 長時間手術の場合には,術中の追加再投与が必要であり,これまでの臨床研究などから半減期の2倍の間隔での再投与することが推奨されています。再投与までの時間は,前回の投与終了時間からの時間とします。半減期1.5時間レベルのセファゾリンであれば3~4 時間毎の再投与とします。前回の投与終了時間から約3時間で,追加投与とします。

 腎機能低下症例では,どうするか。クレアチニンクリアランス(Ccr)がわかれば,その腎機能に応じて,再投与の間隔を延長させます。セファゾリンの場合,術中再投与はeGFR-IND(mL/分)=eGFR(mL/分/1.73 m2)×(患者体表面積/1.73 m2)が,50 mL/分以上であれば3~4 時間毎,20~50mL/分であれば8時間毎,20 mL/分未満であれば16時間などとしています。

 また,短時間に1,500 mL 以上の大量出血が生じた場合には,血中濃度が低下する可能性を考え,決められた再投与間隔を待たずに,追加投与とします。

 術後の抗菌薬投与の投与間隔は,セファゾリンであれば8 時間毎とし,術後1日を原則とします。

 さらに,各論としては,心臓手術11)においては,1日のセファゾリンとバンコマイシンの投与だけでは胸骨創感染などの術後創感染が高率となることが報告されており,抗菌薬は48時間投与が推奨されています。術後3日以上を超える予防的抗菌薬は,薬剤耐性菌の出現を増加させる危険性があることに注意します12)。

 4.先行治療 

 抗癌剤治療,免疫抑制剤の併用,末梢幹細胞移植後,臓器移植後などの易感染状態において,抗菌薬,抗真菌薬,抗ウイルス薬を,治療に合わせて併用する方法です。接触感染予防策を徹底する一方で,感染症状や監視培養のもとで,MRSAやMRCNSの検出に注意しています。

 敗血症への移行に対する注意 

 敗血症は,現在,2016年2月に公表されたSepsis-313)の定義と診断に準じて,感染症による臓器不全の進行です。キイワードは,臓器不全,多臓器不全であり,集中治療の適応となる領域です。この初期評価として用いられるquick SOFA(sequential organ failure assessment )スコアは,臓器不全と院内死亡を予測するスコアです。ブドウ球菌感染症などの感染症を疑う状態において,①意識変容,②呼吸数≧22回/分,③収縮期血圧≦100 mmHgの3項目中2つ以上を持たす場合に,敗血症を疑います。直ちに血液培養検体を採取し,MRSAのリスクを再評価して下さい。私個人としては,気管挿管されていない場合には,鼻腔の培養検査を併用しています。

 また,敗血症性ショックは,平均血圧65 mmHg以下で輸液とノルアドレナリン持続投与を必要とする病態であり,敗血症における重症度の高い病態です14)。なぜ,ショックになるのかを考える必要があります。このような状態では,ブドウ球菌感染症の重篤化として,集中治療としての厳格な全身管理が必要です。

 抗MRSA薬の適正使用 

  2018年レベルで本邦で認可されている抗MRSA 薬は,テイコプラニン(TEIC),バンコマイシン(VCM),リネゾリド(LZD),ダプトマイシン(DAP),アルベカシン(ABK)の5 種類です。 一般に,ABKとDAP は強い殺菌力,VCMとTEICは殺菌力が弱く,LZDは静菌的作用とされているが,これらの臨床効果は抗菌薬の血中濃度の管理が大切です。

 一方,現在,昭和55年9月3日保発第51号の医師の裁量権が認められて入るものの,薬機法改正に伴い,急性期医療においてはさまざまな混乱が生じています。集中治療領域のようなpharmacokinetics/pharmacodynamics(PK/PD)を考慮する超急性期の薬剤使用においても,医療用医薬品添付文書の理解や説明は不可欠であり,効能・効果,用法・容量に従わない場合は,患者さんおよびご家族に対して十分な説明と同意を得ると共に,各病院内での規約や承認のもとでPK/PDを評価して,適正投与を考じることに注意して下さい。

 また,保険収載はないが,抗MRSA活性を持ち,MRSAに感受性が認められる抗菌薬として,リファンピシン(RFP),スルファメトキサゾール/トリメトプリム合剤(ST合剤),ミノサイクリン(MINO),ホスホマイシン(FOM)があります。これらは,上述の5つの抗MRSA薬の補助として用いられる場合がありますが,十分に患者さんおよびご家族に対して十分な説明と同意を得ると共に,各病院内での規約や承認を得るようにして下さい。

 以上において,MRSA治療のファーストラインとして用いられる,TEIC,VCM,LZD,DAPについて,適切に理解しておくことが必要です。 

 1. テイコプラニンの有効利用 

 TEICの効能・効果は,MRSAのみであり,適応症は敗血症,深在性皮膚感染症,慢性膿皮症,外傷・熱傷及び手術創等の二次感染,肺炎,膿胸,慢性呼吸器病変の二次感染です。

 TEICは,グリコペプチド系抗生物質であり,細菌の細胞壁のペプチドグリカンの合成を阻害することで殺菌性を示します。しかし,このTEICの殺菌性は,トラフ濃度20 μg/mLレベルが必要です。トラフ濃度が40-60μg/mL以上では,腎障害,肝障害などの副作用が生じる危険性が報告されています。

 Rapid Priming of TEIC(RAPTE)法は,私が2003年に考案したTEICの急速導入法です。TEICの蛋白結合率は約90%レベルと高いことを考慮し,初期の血中濃度維持のための急速プライミング法として考案したものです。血清アルブミン濃度が維持されている場合,TEIC 10 mg/kg/回を8時間毎に計4回投与します。投与5回目は,4回目投与から24時間後に設計し,以後,24時間毎に1時間での再投与とします。TEICの目標トラフ濃度は20 μg/mLです。

 5回目からの1日1回投与は,腎機能Ccrに合わせて,1回投与量を8 mg/kgを最大投与量として修正しています。体表面積補正Ccr 50 mL/分であれば,半腎機能と評価して1日投与量を半減させ,4㎎/kg/日とします。TEICのトラフ濃度20 μg/mLは,最小発育阻止濃度(MIC)が2μg/mLのMRSA株までには効果がありますが,MIC≧4 μg/mLのMRSA株には臨床効果が期待できません。
 投与例です。身長170 cm,体重60kg,血清アルブミン濃度2.5~3 g/dL,腎機能正常の場合,600 mgを0時,8時,16時,翌日0時に8時間毎に投与し,その後,翌々日0時に600 mgの投与設計とします。この5回目投与の2時間前に治療薬物モニタリング(TDM:Therapeutic Drug Monitoring)を行います。TDMの結果を参照し,トラフ濃度20μg/mLを目標として投与量を調節し,以後,毎日0時などの投与開始の基準時間に1日1回維持量を投与します。

 TEICの副作用です。極めて副作用は,乏しいことが特徴です。TEICはVCMと比較して,腎機能傷害などの直接の副作用が明らかに認められにくいことが利点です15)。敗血症などとして,急性腎傷害を併発する危険性のある状態では,私は2002年よりMRSAの第1選択とし,集中治療室の安全かつ良好な治療成績としてトラフ濃度17 μg/mLを推奨していました。現在,MIC 2μg/mLまでのMRSAに対するTEICの効果的なトラフ濃度は,20 μg/mLレベルと考えています。

 2.バンコマイシンの有効利用 

 VCMの効能・効果は,MRSA,MRCNSおよびペニシリン耐性肺炎球菌

であり,適応症は敗血症,感染性心内膜炎,外傷・熱傷及び手術創等の二次感染, 骨髄炎,関節炎,肺炎,肺膿瘍,膿胸,腹膜炎,化膿性髄膜炎です。VCMは,TEICと同様に,グリコペプチド系抗生物質であり,MRSAやMRCNSの細胞壁のペプチドグリカンの合成を阻害することで殺菌性を示します。VCMを用いた治療では,急性腎傷害を併発しやすいことに注意します。

 投与においては,VCMのトラフ濃度を15μg/mLに近づけることが期待されます。しかし,MRSAやMRCNSに対するVCMのMICが2μg/mL以上である場合には,VCMの治療効果は低下します。また,敗血症,菌血症,心内膜炎,骨髄炎,髄膜炎,肺炎,重症皮膚軟部組織感染では,トラフ値15-20μg/mLが推奨されます。

 腎機能正常例においては,通常は1回15-20 mg/kg(実体重)を12時間毎に投与する方法が一般的と思いますが,重篤な感染症や敗血症では血中濃度の急速上昇を狙って,初回投与量として25-30 mg/kgのローディングを行い,その後は1回15-20 mg/kg(実体重)を12時間毎に1時間で投与し,次回投与30分前にトラフ濃度を評価するなどの方法もあります。VCMによる急性腎傷害は,トラフ濃度≧20μg/mLで急増することに注意して下さい16)。

 VCMの注意するとよい副作用は,①急性腎傷害,②第8脳神経障害(聴力障害),③Red Neck症候群,④好酸球増加などです。

 3.リネゾリドの有効利用 

 LZDの効能・効果は,MRSAとE.faeciumであり,MRSAに対する適応症は敗血症,深在性皮膚感染症,慢性膿皮症,外傷・熱傷および手術創等の二次感染と肺炎です。LZDは,オキサゾリジノン系抗菌薬であり,MRSAに対する作用機序はリボソーム30S-mRNA,50SおよびfMet-tRNAで構成される70S開始複合体形成を阻害し,MRSAの蛋白合成を阻害することにあります。臨床において,LZDが強い殺菌効果を持つように認識するのは,MRSAの毒素産生株において毒素産生(表2)を抑制する可能性が関与しているのかもしれません。また,LZDは,抗炎症作用を持つことが知られています17)。  

 LZDは,点滴静注用剤と経口剤の2剤形があり,成人への投与量はともに1 回600 mgの1日2回投与となります。 LZDの蛋白結合率は約31%であり,血漿除去半減期は約6時間です。肝臓におけるチトクロームP450(CYP)により代謝されず,主に活性酸素種などの酸化反応によりモルホリン環が開環し,2種の主要代謝物であるアミノエトキシ酢酸代謝物やヒドロキシエチルグリシン代謝物となり代謝されます。これら2種の代謝産物と未変化体LZDが,腎排泄されます。このため,腎機能低下状態では,アミノエトキシ酢酸代謝物とヒドロキシエチルグリシン代謝物の蓄積に注意しています。LZDは,CYP1A2,2C9,2C19,2D6,2E1,3A4など他の薬物代謝に関与するチトクロームP450活性を阻害しないことが知られています。

 LZDの主な副作用は,①血小板減少,②視神経障害,③骨髄抑制,④貧血,⑤好酸球増加です。

  4.ダプトマイシンの有効利用 

 DAPの効能・効果は,MRSAのみであり,適応症は敗血症,感染性心内膜炎,深在性皮膚感染症,外傷・熱傷および手術創等の二次感染,びらん・潰瘍の二次感染です。DAPは,カルシウム依存的にMRSAの細菌細胞膜をミセル化し,細胞膜を脱分極させることで強い殺菌力を示します。結果として,DAPは,MRSAの細胞膜構造に変化を与え,細胞膜を介したカリウムなどのイオン勾配に影響を与え,MRSAのタンパク合成や核酸合成を抑制します。

 敗血症および感染性心内膜炎の場合,DAPは1 日1 回6 mg/kgを24 時間毎に30 分かけて点滴静注または2分間レベルで緩徐に静脈内投与します。深在性皮膚感染症,外傷・熱傷および手術創等の二次感染,びらん・潰瘍の二次感染の場合は,1日1回4 mg/kgを24 時間毎に30 分かけて点滴静注または2分間レベルで緩徐に静脈内投与します。

 DAPの代謝は,LZDと同様に肝臓のチトクロームP450を介するものではなく, 3種の酸化代謝物と未変化体LZDの腎排泄です。腎機能が正常であれば,DAPの血漿除去半減期は約9.5時間であり,クレアチニンクリアランスが30mL/分未満であれば2日に1回の投与とします。

 海外では,DAPの9 mg/kg以上の高用量投与18)も行われています。しかし,日本ではこの容量が承認されていません。DAPの9 mg/kg以上の高用量としてMRSAやバンコマイシン耐性腸球菌による血流感染や敗血症性ショックなどの治療を期待する場合は,患者および家族への説明と同意,そして院内の承認を得ることが必要です。また,DAPは肺サーファクタント蛋白で不活性化されるため,MRSA肺炎の適応がないことに注意されて下さい。

 DAPの主な副作用として,①好酸球増加,②横紋筋融解症,③末梢性ニューロパシーに注意します。

 おわりに 

 2000年の北海道大学における救急科の立ち上げと集中治療室の運営において,MRSAの管理に着眼をおいて,多くの観察研究を行いました。本稿では,MSSAとMRSAの管理について,近年の状況に合わせて,疫学,MRSAリスク,抗MRSA薬の有効利用の観点より紹介しています。

 MRSA治療薬は,医療用医薬品添付文書の用法・容量と異なり,TDM管理を行うことで治療効果を高め,さらに副作用等の安全性に寄与できる特徴があります。このような内容は,医療の質と安全として,患者さんおよび御家族へ十分な説明と同意を得ることが大切です。そして,院内での承認のもので施行することに注意しましょう。MSSAとMRSAに対する知識と経験は,急性期管理において,不可欠の重要事項です。本稿を,合わせて参考とされてください。

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 表 

ヒト感染が報告されている主なブドウ球菌

 

黄色ブドウ球菌の産生する外毒素


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World Sepsis Day 2018 NAGOYA CBC Radio Campaign

2018年08月16日 01時05分58秒 | お知らせ 講演会・セミナー

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敗血症 SEPSIS あたたかいまち名古屋/愛知「敗血症啓発ブース」
世界敗血症デイ 2018年9月13日(木)イベントのお知らせ
感謝 海外からのたくさんのアクセス World Sepsis Day(WSD)

Appreciation:many access from overseas

09/07  2823 IP,Goo Blog 'emergency one street'  the 48th in 30,000 over active user

09/12  3392 IP,Goo Blog 'emergency one street'  the 41th in 30,000 over active user

 World Sepsis Day & Alert Cell Strategy in Sepsis

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World Sepsis Day Nagoya  2018

 敗血症(Sepsis:セプシス)とは,細菌やウイルスなどの微生物による感染症において「臓器不全」が進行する状態です。名古屋大学大学院医学系研究科 救急・集中治療医学分野は,2012年より世界敗血症連盟 Global Sepsis Allianceと連携し,敗血症の予防と診療と研究推進のための「社会活動」と「教育活動」をして参りました。世界保健機構 WHOも,敗血症を解決すべき重要な医学上の課題としています。2019年も,皆さんと力を合わせ,以下を施行しました。

 また,2019年3月30日(土)から4月7日(日)までの連続9日間,日本医学会総会2019中部の会場をお借りして,あたたかいまち「敗血症への挑戦」として,50m2を用いた「敗血症継承イベント」を「ポートメッセ名古屋」で行います。これらは,動画として編集され,YouTubeなどを介して,敗血症に関する考え方を世界に発信することを企画しています。世界と連携し,よりよい医療を共有していく語りかけとなります。

  WSD NAGOYA イベント  WSD 名古屋  

1.SEPSIS 敗血症 多職種連携フォーラム2018  

対象:医師,看護師,薬剤師,臨床工学技士,理学療法士,栄養士,医学生,看護学生
日時:2018年9月9日 15:00開演 17:00終了
場所:名古屋メルパルクホテル 
内容:
講演1:敗血症レビュー2018 15:00-15:50
名古屋大学大学院医学系研究科 救急・集中治療医学分野 松田直之

講演2:敗血症管理における鎮痛と鎮静 16:00-16:50 自治医科大学集中治療医学講座 教授 布宮 伸 先生

※ 敗血症は,現在,世界保健機構(WHO)が,解決しなけらばならない重要課題として議決しています。
※   敗血症に関する知識を共有します。皆さん,遠慮なくご来場ください。

2.CBCラジオ放送 きくラジオ 

対象:市民の皆さま,医師,看護師,薬剤師,臨床工学技士,理学療法士,栄養士,医学生,看護学生など
日時:2018年9月10日(月)~9月14日(金)12:40〜12:50
特集 世界敗血症デー パーソナリティー:松田直之

内容
9月10日(月) 敗血症ってなんですか?
9月11日(火) 敗血症の予防の最先端
9月12日(水) 敗血症の早期発見のために
9月13日(木) 世界開催 世界敗血症デイとは??
9月14日(金) 敗血症治療の方法 2018

3.4時間キャンドルキャンペーン

4 hour candle campaign in Nagoya University Emergency & Critical Care Medicine

対象:世界,日本
日時:9月13日(木) 12:00-16:00  世界開催 世界敗血症デー連携
場所:名古屋大学大学院医学系研究科 救急・集中治療医学分野 医局
Global Campaign Nagoya


 
※ CBCラジオ「きくラジオ」は,毎日10万人から15万人が聞いてくださいます。皆さん,今回も5日間,ありがとうございました。
※ 世界の皆さんと,急性期管理医学を共有しましょう。

NAOYUKI MATDSUDA MD, PhD 2018


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