救急一直線 特別ブログ Happy保存の法則 ー United in the World for Us ー

HP「救急一直線〜Happy保存の法則〜」は,2002年に開始され,現在はブログとして継続されています。

管理技術 外傷診療におけるReBOA

2012年01月01日 12時18分06秒 | 講義録・講演記録 2

オクルージョンバルーンカテーテル ReBOA

Resuscitative endovascular balloon occlusion of the aorta 

Resuscitative Endovascular Balloon Occlusion of the Aorta (REBOA) as an Adjunct for Hemorrhagic Shock 

Stannard, Adam MRCS; Eliason, Jonathan L. MD; Rasmussen, Todd E. MD

 

J Trauma. 2011 Dec;71(6):1869-72. doi: 10.1097/TA.0b013e31823fe90c.

Temporary occlusion of the aorta as an operative method to increase proximal or central perfusion to the heart and brain in the setting of shock is not new. Resuscitative aortic occlusion with a balloon was reported as early as the Korean War and has been described in more recent publications. Despite potential advantages over thoracotomy with aortic clamping, resuscitative endovascular balloon occlusion of the aorta (REBOA) for trauma has not been widely adopted. Broader application of this procedure may have lagged because of latent technology, a poorly understood skill set, or anticipated ineffectiveness of the technique. However, the recent evolution of endovascular technology and its clear benefit in managing vascular disease such as ruptured abdominal aortic aneurysm suggest that a reappraisal of this technique for trauma is needed. The objective of this report is to provide a technical description of REBOA.

Aortic Zone

Positioning of the Balloon (Zones of the Aorta)

To select the most appropriate compliant balloon, the user needs to decide which aortic zone is to be occluded. Aortic zones can be considered I, II, and III spanning from cranial or proximal to caudal or distal. Zone I is the descending thoracic aorta between the origin of the left subclavian and celiac arteries. Zone II represents the paravisceral aorta between the celiac and the lowest renal artery and zone III the infrarenal abdominal aorta between the lowest renal artery and the aortic bifurcation. In most instances of shock and pending cardiovascular collapse, the aim will be to position the compliant balloon to occlude zone I. In this case, a larger diameter balloon and a longer sheath will be advanced into the thoracic aorta. REBOA in zone I requires a longer sheath (45–60 cm) to be positioned in the descending thoracic aorta to support or hold the balloon against aortic pulsation once it is inflated. Inflation of a compliant balloon in aortic zone III may provide specific utility in cases of pelvic or junctional femoral hemorrhage.6 In this instance, a smaller diameter balloon may be sufficient. Because the aortic bifurcation will support or hold the inflated balloon against pulsation, this maneuver can be accomplished using a large diameter but shorter (10–15 cm) sheath.

 

REFERENCES

1. Hughes CW. Use of an intra-aortic balloon catheter tamponade for controlling intraabdominal hemorrhage in man. Surgery. 1954;36: 65–68. 

2. Ledgerwood AM, Kazmera M, Lucas CE. The role of thoracic aortic occlusion for massive hemoperitoneum. J Trauma. 1976;16:610–615. 

3. Gupta BK, Khaneja SC, Flores L, Eastlick L, Longmore W, Shaftan GW. The role of intra-aortic balloon occlusion in penetrating abdominal trauma. J Trauma. 1989;29:861–865. 

4. White JM, Cannon JW, Stannard A, Markov NP, Spencer JR, Rasmussen TE. Endovascular balloon occlusion of the aorta is superior to resuscitative thoracotomy with aortic clamping in a porcine model of hemorrhagic shock. Surgery. 2011;150:400–409. 

5. Avaro JP, Mardelle V, Roch A, et al. Forty-minute endovascular aortic occlusion increases survival in an experimental model of uncontrolled hemorrhagic shock caused by abdominal trauma. J Trauma. 2011;71:720–725. 


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全身性炎症反応症候群における活性酸素種の役割

2010年01月11日 23時24分28秒 | 講義録・講演記録 2

講座 

全身性炎症反応症候群における

活性酸素種の役割

京都大学大学院医学研究科 初期診療・救急医学分野
准教授 松田直之 
記載:2010年1月10日


はじめに

 活性酸素種(ROS: reactive oxygen species)の存在が分子レベルで報告されたのは1954年である1)。まさにパンドラの箱として発見されたROSも,現在までの54年の歳月を経て,老化,腫瘍,糖尿病,動脈硬化,慢性関節リウマチなどの細胞機能制御因子として詳細な検討が行われてきた。
 急性期管理医学領域のターゲットとする全身性炎症や虚血性病態においても,ROSで酸化された蛋白,脂質,DNAが主要臓器機能に影響を与えることが注目されてきた。傷害組織では,浸潤する単球や好中球などの貪食細胞からROSが多量に放出されることに加えて,組織を構成する様々な細胞が独自にROSを産生する。正常生体内ではROSは微量の調節により細胞分化,細胞増殖,免疫反応,炎症反応,酸素センサーとして機能しているが,近年特に病態時における調節機構としてNADPHオキシダーゼ(NOX)のROS産生機構の研究が進んできた。ROSには,スーパーオキシド(O2・),過酸化水素(H2O2),ヒドロキシラジカル(・OH),次亜塩素酸(HOCl),一重酸素(1O2),ペルオキシルラジカル(RO2・),アルコキシルラジカル(RO・)などが含まれるが,この産生の根底として,NOXの発現が注目されている。
 このようなROS産生に対して,生体内ではビタミンC,ビタミンE,β-カロチン,グルタチオン,尿酸,ビリルビンなどの生体内物質や,superoxide dismutase(SOD),カタラーゼ,ペルオキシダーゼ,ヘムオキシダーゼなどの抗酸化酵素が,抗酸化分子としてROSの作用に拮抗している。しかし,ROSが過剰に産生される病態においては,これらの抗酸化作用を凌駕して,ROSによる細胞機能障害が進行する。本稿では,生体内におけるROSの過剰産生機構を,重症患者管理における全身性炎症反応症候群の病態に照らして論じる。


全身性炎症反応症候群

 全身性炎症反応症候群(SIRS:systemic inflammatory response syndrome)は,1992年に米国集中治療医学会と米国胸部疾患学会により提唱された症候群であり,体温,心拍数,呼吸数,白血球数の4つのクライテリアのうち,2つ以上を満たす病態と定義されている 2)。外傷,手術,広範囲熱傷,急性膵炎,敗血症(sepsis),長期絶食,虚血,ショックなどの基礎疾患において,炎症性サイトカンの産生の表現型としてSIRSが出現する。また,これらに加えて,がん,手術後,高齢者,糖尿病,免疫膠原病,免疫抑制剤使用中,腸疾患,喫煙習慣など基礎病態において,細菌やウイルスなどの感染症は2次性侵害刺激としてSIRSを重篤化しやすく,多臓器不全を合併した重症敗血症(severe sepsis)2)を導きやすい(図1)。このよう病態では,急性肺障害,ショック,急性腎不全,播種性血管内凝固症候群(DIC: disseminated intravascular coagulation)などを同時に合併し,死亡率が高まる。

 主要臓器の様々な細胞には,Toll-like受容体(TLR),tumor necrosis factor(TNF)受容体,Interleukin(IL)受容体などの炎症性受容体が存在し,SIRSを進展させることが確認できる3~5)。このようなSIRS病態において,ROSが過剰産生され,炎症やアポトーシスが進行することが確認されている6~8)。集中治療管理を必要とする重症敗血症9),心原性ショック10),急性肺傷害11)などにおいても,様々な臓器で抗酸化分子が低下しているばかりか,ROS産生自体が亢進していることが検証されている。
 SIRS病態では,炎症性血球細胞の浸潤に加えて,様々な組織の基幹細胞で独自に炎症とアポトーシスが進行する4)。この機序として,組織一群に炎症性受容体を持つ見張り番のようなAlert細胞(警笛細胞)4, 5)が関与する。末梢組織では,同種の細胞といえどもすべての細胞が炎症性反応を惹起するわけではなく,炎症の狼煙を上げるのは一群に存在する一部の細胞に過ぎない。SIRS病態における主要臓器のAlert細胞は,転写因子nuclear factor-kB(NF-kB),activator protein-1(AP-1),cyclic AMP response element binding protein(CREB)/activating transcription factor(ATF),signal transducer and activator of transcription(STAT),interferon regulatory factor(IRF),hypoxia inducible transcriptional factor(HIF)などの様々な転写因子を活性化させ,ケモカイン,接着分子,炎症性物質の転写を高める4, 5, 12)。さらに,Alert細胞では,炎症性シグナルとしてmitogen-activated protein kinase(MAPK)やプロテインキナーゼC(PKC)などのリン酸化酵素の活性化も認められる。SIRS病態では,このような細胞内情報伝達シグナルを介してAlert細胞でROSが過剰産生され,重症度が高められる。さらに,動員された貪食細胞は,同様の細胞内シグナルを介して極めて高量のROSを放出し,組織細胞障害を広範化させる。

活性酸素種とNADPHオキシダーゼ

 ROSは,好中球,好酸球,単球,マクロファージなどの貪食細胞では細胞内でμM~mMレベルに増加し,殺菌作用をもたらすことが知られている13)。一方,主要臓器の基幹細胞や血管内皮細胞や血管平滑筋細胞でもROSは産生されるが,正常時はnM~μMレベルの低濃度に維持されている13)。ROSを産生する細胞内器官は,ミトコンドリア,小胞体,核膜,プロテアソーム,細胞膜などと様々であり,ROSはミトコンドリア電子伝達系に加えて,NOX,シクロオキシゲナーゼ,リポキシゲナーゼ,チトクロームp450,キサンチンオキシダーゼ,ペルオキシダーゼなどの酵素により産生される。このうち特に,NOXはROS産生の中心であり,スーパーオキシドの産生に重要な役割を担う。主要臓器の基幹細胞のROS産生においても,NOXが主要な役割を担うと考えられている13, 14)。
現在,NOXは,NOX1~NOX5,DUOX1~2の7つのアイソフォームが同定され,さらにNOX 作用を高める因子として,NOXと恒常的に会合しているp22phox ,2つのオーガナイザー因子(p47phox,NOXO1),2つの活性化因子(p67phox,NOXA1)およびp40phox,2つのDUOX特異的成熟因子(DUOXA1,DUOXA2)が同定されている。細胞膜上に固定化されるNOX1~NOX5は6回膜貫通型蛋白として,DUOX1/2の2つのアイソフォームは7回膜貫通型膜蛋白として,それぞれの活性化調節因子との連動によりNADPHよりスーパーオキシドを産生する。



1. NOX2
NOX2は,gp91phoxやb-245として1986年にRoyer-Pokoraら15)や1987年にTeahanら16)によりはじめて同定されたNOXである。6回膜貫通型蛋白としてN末端とC末端が細胞質内に位置するように細胞膜上に固定されるが,その活性化にはp22phoxとの会合に加えて,p47phoxの細胞膜への移動が必要とされる17)(図2A)。p47phoxの細胞膜移動により,次にp47phoxをターゲットとしてp67phoxやp40phoxの細胞膜移動が生じ,最終的にはRacがp67phox と連動してNOX2を活性化させる18)(図3)。Racは現在3種類が同定されているsmall GTPaseであり,主に末梢組織に存在するのはRac1であり,Rac2は主に骨髄系細胞,Rac3は主に中枢神経系に分布している。
NOX2は発見当初,好中球やマクロファージなどの貪食細胞に局在するものと考えられていた。確かにNOX2は貪食細胞に高発現しているものの,神経細胞や腸管,さらには心筋細胞,血管内皮細胞などの心血管系にも比較的高密度に発現している19~21)。このような組織では,p47phoxの細胞膜移動をトリガーとして,スーパーオキシドが産生される。
 このNOX2をコードするNOX2遺伝子は,X染色体q21.1に存在する。NOX2遺伝子のプロモーター領域には,NF-kB,AP-1,IRF1,IRF2,PU.1(myeloid-specific transcriptional factor),Elf-1,YY1が結合し,NOX2の転写を高めることができる。虚血,外傷,感染症などにおいては,傷害部位でNF-kBやAP-1や IRFの活性が高まるため12),NOX2発現が高まりやすい。このように炎症局所では,ROSの産生が高まりやすい。これに加えて,心血管系領域ではアンジオテンシンIIにより翻訳レベルでNOX2発現が高まることも報告されている22)。


2. NOX1
NOX1は,NOX2の次に1999年に同定されたNOX2の相同体であり,当初はMox1,NOH1と呼ばれていた23, 24)。NOX1も他のNOXと同様に単独ではROSを産生する能力は極めて低い。NOX1は,NOX2と同様にp22phox との連動が必要であり,さらにNOXO1/NOXOA1(図2B)あるいはp47phox/p67phox(図1A)との会合により活性化され,最終的にはRacにより活性化される25, 26)。NOX1は腸管上皮,肺,腎臓に多く存在するが,血管平滑筋細胞や血管内皮細胞にも発現しており21, 23),特に血管平滑筋におけるNOXの主体はNOX1である。
ヒトNOX1遺伝子はNOX2と同様に,X染色体上(Xq22)に存在する。プロモーター領域には, NF-B,AP-1,IRF,CREB,STAT,CBP/p300,GATAとの結合領域があり,これらによりNOX1は転写が高められる。虚血や炎症で活性が高まるNF-kBや,IL-6シグナルにより活性化されるSTAT3により,NOX1の発現は転写段階で高められる。血管系では,PMA(phorbol 12-myristate 13-acetate)刺激によるPKC活性やPKC-δにより,NOX1発現が高まることも報告されている27)。このようにSIRS病態では,炎症局所でNOX2に加えてNOX1の発現が高まり,ROSの産生が増加すると考えられる。

3. NOX3
NOX3は,2000年に菊池らによりヒト腸管上皮細胞で同定された28)。内耳に高密度に発現し,脳や胎児の腎臓などにも発現を認めるが,心血管系における発現は乏しく,当研究室においてもヒト血管における発現を検出できていない。NOX1やNOX2と同様の活性化分子を介してROSを産生するが,その中でもp22phox およびNOXO1の関与が大きい。しかし,RacがNOX3を活性化させるかどうかに関しては,2008年までの段階で結論が出ていない。現在,NOX3の活性化において,NOXO1存在下ではRacの会合は不必要であり,p47phox存在下ではRacを必要とするとの考えが一般的である(図1A)。NOX3は,NOXO1存在下でヒト腸管上皮細胞で恒常的にスーパーオキシドを産生していると考えられている(図2C)。

4. NOX4
NOX4は,2000年に腎臓と甲状腺で同定された29, 30)。腎臓だけではなく,心血管系の小胞体や核膜に強く発現することが知られている。NOX4が他のNOXと異なる点は,免疫沈降ではNOX4とp22phoxとの結合を確認できるが,必ずしも細胞膜でのp22phox との会合を必要としないことにある(図2D)。NOX4の活性化にはp22phoxが関与するとの報告があるが,NOX4の活性化はp22 phox欠損においても保たれる。また,NOX4の活性化には,他のp47phox やNOXO1/NOXOA1の細胞膜移動やRacの活性化などを必要としないことも報告されている31)。このように,NOX4は他のNOXと異なり,その膜発現量でROS産生を制御していると考えられている。
一方,ヒトNOX4遺伝子は11q14.2-q21に存在し,NOX4発現はTNF-α,アンジオテンシンIIシグナル,PKC活性,高血糖により高められることが確認されている。NOX4はSIRS病態の心血管系で発現が高められる可能性がある。このような状況において,Toll-like受容体4(TLR4)とNOX4は結合することが確認されており,グラム陰性桿菌感染症ではTLR4シグナルが直接にNOX4を活性化させ,ROSを産生させる可能性が示唆されている32, 33)。

5. NOX5
NOX5は,2001年に脾臓や精巣で同定された34, 35)。NOX5は,脾臓やリンパ組織に高密度で存在するが,心血管系にも確認でき,成熟段階のリンパ球には存在するが,血中のリンパ球には存在しないことが知られている。NOX5はNOX1~3と異なり,その活性化にはp47phox やNOXO1/NOXOA1の細胞膜移動やRacの活性化などを必要としない。NOX5は,N末端の細胞内領域が長く保存されているのが特徴であり,EF-hand領域と呼ばれている(図2E)。このEF-hand領域にはCa2+が結合することが知られており36),細胞内Ca2+濃度の上昇によりNOX5は構造変化を起こし,NADPHよりスーパーオキシドを産生すると考えられている36)。NOX5の発現調節については,今後の詳細な検討が待たれる。

6. DUOX1/2
 DUOX1/2は,1999年に甲状腺より同定された30, 37)。甲状腺以外には,気管支上皮細胞やLangerhans島に存在するが,心血管系には同定できない。他のNOXと異なり,7回膜貫通型蛋白であり,N末端領域が細胞外に位置する。DUOX1/2もNOX5と同様に,細胞内にCa2+結合部位を持つ。甲状腺上皮細胞では,細胞内Ca2+濃度の上昇によりDUOX1/2を活性化させ,スーパーオキシドを産生する。

7. p22phox
 p22phoxは,NOXに機能を補助する分子として,極めて重要なら区割りを担う。このp22phoxの主な機能は,①NOXの細胞膜上での安定化,②p47phox とNOXO1との結合の2つにある。一般にNOXの細胞膜分画のウエスタンブロッド解析を行う際に,そのバンド検出蛋白重量にばらつきやスメアが生じやすい理由のひとつとして,NOXとp22phoxの恒常的会合や糖鎖修飾があげられる。NOXとp22phoxは,細胞膜上で1:1の比率で会合しており38),NOXやp22phoxが会合せずに単体で存在する場合には,これらは細胞質内に陥入し,プロテアソームにより分解されやすい39)。そして第2の役割として, C末端のプロリンリッチ流域(PRR)を介して,p22phoxはp47phox やNOXO1のSH3ドメイン(Src homology 3 domain)と結合できる。このように,p22phoxは,NOXとオーガナイザー因子(p47phox,NOXO1)を橋渡しする足場蛋白としての役割を担っている。


8. NOXオーガナイザー因子(p47phox,NOXO1)
 p47phox (NOXO2)とNOXO1の役割は,p22phoxとの結合の後にNOX活性化因子(p67phox,NOXA1)を細胞膜に動員させることにある。p67phoxとNOXA1は共に,N末端領域にphoxドメイン(PXD)を保持しており,このPXDにより細胞膜リン脂質と結合できる。さらにC末端のPRRを介して,p47phoxはp67phoxと,NOXO1はNOXA1と結合できる。p47phoxとNOXO1には,PXDとPRRの間にSH3ドメインがあり,p22phoxと結合する40)。この2つのオーガナイザー因子のうち,心血管系に豊富なのはp47phoxであり,NOXO1は腸管,肝臓,腎臓,膵臓などに高密度で発現している。
 p47phoxとNOXO1の違いは,p47phoxは活性化抑制領域(AIR: autoinhibitory region)を持つ点にある。また,NOXO1は主に細胞膜上のホスホチジルイノシトール1リン酸に結合するのに対して,p47phoxはPI3キナーゼにより細胞膜で変化を受けた3’-ホスホチジルイノシトールとPXDで結合するが特徴がある41)。炎症病態の貪食細胞や血小板ではPI3キナーゼの細胞膜移動が亢進し,p47phoxの細胞膜接着が高まりやすい。さらに,虚血や炎症の過程でNF-kB活性などによりp47phoxとNOXO1の産生が高まることが知られている。このような量的活性化調節に加えて,p47phoxは即時型活性化調節を受ける。
 p47phox のAIRは,その3次構造の特徴より立体的にp22phoxとの結合領域であるSH3ドメインを遮蔽している(図3)。現在,p47phox のAIRにおいて特に,Pro299,Pro300,Arg301,Arg302,Ser303,Ser304,Ser328,Ser345,Ser359,Ser370,Ser379などが機能的アミノ酸として重要と考えられている。p47phox が構造変化を起こし,p22phoxと結合できるようになるためには,Ser303からSer379までのいずれかのリン酸化が必要であり,特にSer379とSer345の単独リン酸化や,Ser303+Ser304あるいはSer359+Ser370の重複リン酸化が必須となる42, 43)。このように,p47phox はNOXO1と異なり,AIRのリン酸化により細胞膜上のp22phoxとの結合を高める特徴がある。p47phoxのAIRのリン酸化は,TNF-αやIL-1βなどの炎症性サイトカイン,リポポリサッカライドなどのTLR刺激,G-CSF,GM-CSF,PAFなどにより,MAPキナーゼ(p38MAPK, ERK1/2)やPKCの活性化を介して生じることが確認されている44)。
 以上のように,炎症病態において厳密に機能調節されているオーガナイザー因子はp47phoxであり,SIRS病態ではp47phoxで選択的に活性化されるNOX2の調節機構がスーパーオキシドの産生に極めて重要な役割を担うと考えられる。



9. NOX活性化因子(p67phox,NOXA1)とp40phox
 p67phox(NOXA2)やNOXA1は,それぞれC末端領域のSH3ドメインでp47PhoxやNOXO1と結合する。p67phoxは,さらにC末端領域にp40phoxと結合するPhox/Bem1(PB1)ドメインをもつ。p40phoxは,p67phoxのNOX活性化作用を強化するが,siRNAを用いた培養細胞における検討などよりNOXの活性化に必要不可欠な分子ではないと考えられている。p67phoxやNOXA1は,N末端ではRacと結合し,最終的にRacのGTPase活性を介して,NOXを活性化させる。
 このような特徴を持つp67phoxは,貪食細胞に加えて,血管内皮45)や血管平滑筋46),腎臓にも発現している。NOXA1は,腸管や肺に加えて,血管平滑筋に恒常的に発現しており,血管平滑筋におけるNOX活性化因子の主体はNOXA1と考えられている。p67phoxは,NOX2と同様にIFR1やPU.1などの転写活性で増加すると共に,AP-1により発現が高まることが確認されている47)。このように,p67phoxも他のNOX活性化因子と同様に,SIRS病態で転写が高まると評価される。

活性酸素種の病態修飾

 ROSがDNAや細胞内情報伝達蛋白に障害を与えることは,これまで多くの研究で明らかとされてきた。NADPHはNOXの活性化された細胞において,図3のように,まず,スーパーオキシドに変換される。スーパーオキシドは,次に一酸化窒素(NO)との反応によりペルオキシナイトライトに変換されるとともに,SODにより過酸化水素に変換される。過酸化水素からは,ヒドロキシラジカルや次亜塩素酸が産生される。
これらのROSによるDNA障害は,適切に修復されない限り,アポトーシスを介した細胞死の誘因となる。また,ペルオキシナイトライトは,細胞内情報伝達蛋白のチロシン残基のニトロ化を介して,チロシン残基のリン酸化を障害し,正常な細胞内情報伝達を障害する48)。次亜塩素酸も極めて強い組織障害を与えることが知られており,これらのROSはインシュリン受容体の機能障害にも関与し,インスリン抵抗性高血糖の誘引として知られている49)。その他,以下のROSを介した転写因子活性化作用が明らかとされており,SIRS病態を増悪させると評価される。


参考文献

全身性炎症反応症候群における活性酸素種の役割PART2


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全身性炎症反応症候群における活性酸素種の役割 NO.2

2010年01月11日 23時10分42秒 | 講義録・講演記録 2

全身性炎症反応症候群における活性酸素種の役割

続き

 

活性酸素種の病態修飾

 ROSがDNAや細胞内情報伝達蛋白に障害を与えることは,これまで多くの研究で明らかとされてきた。NADPHはNOXの活性化された細胞において,図4のように,まず,スーパーオキシドに変換される。スーパーオキシドは,次に一酸化窒素(NO)との反応によりペルオキシナイトライトに変換されるとともに,SODにより過酸化水素に変換される。過酸化水素からは,ヒドロキシラジカルや次亜塩素酸が産生される。

これらのROSによるDNA障害は,適切に修復されない限り,アポトーシスを介した細胞死の誘因となる。また,ペルオキシナイトライトは,細胞内情報伝達蛋白のチロシン残基のニトロ化を介して,チロシン残基のリン酸化を障害し,正常な細胞内情報伝達を障害する48。次亜塩素酸も極めて強い組織障害を与えることが知られており,これらのROSはインシュリン受容体の機能障害にも関与し,インスリン抵抗性高血糖の誘引として知られている49。その他,以下のROSを介した転写因子活性化作用が明らかとされており,SIRS病態を増悪させると評価される。

1. 転写因子NF-κBの持続活性化作用
 SIRS病態で炎症性受容体を介して活性化される転写因子NF-κB12)は,上述のようにNOXやNOX活性化関連因子の転写を高め,ROS産生を誘導する。一方,産生された過酸化水素濃度がμMレベルに達すると,様々な細胞でNF-κB活性を上昇させることが知られている49~52)。この過酸化水素によるNF-κB活性化の機序としてこれまでに,①I-κB(inhibitory-κB)のプロテアソームによる分解を直接に促進させること,② I-κBキナーゼの活性化を介してI-κBの分解を間接的に促進させることが確認されている51~54)。通常,NF-κB活性は自らがI-κBの産生を高め,自らの活性に限界を持つが,DNA障害が生じない初期段階では過酸化水素の局所産生がμMレベルに高まるとI-κB発現が抑制され,NF-κB活性が持続する54)。このように,過酸化水素産生がμMレベルに高まる初期状態ではNF-κBの核内移行が持続的に高められ,炎症性サイトカイン,iNOSやCOX2,組織因子などの産生12)がさらに高められると考えられている。

2. MAPKおよびAP-1の活性化作用
 MAPKは,extracellular signal-regulated kinase1/2(ERK1/2),Jun-N-terminal protein kinase(JNK),p38 MAPK,ERK5/ big MAPK1(BMK1)の4つのサブファミリーで構成されるセリン/スレオニンキナーゼである。このうち主にAP-1領域の活性を高めるAP-1群の直接的本体は,JunとFosである。Junのホモ2量体や,FosとJunのヘテロ2量体は,リン酸化された状態でDNA上のAP-1領域として知られるphorbol 12-O-tetradecanoylphorbol-13-acetate-responsive element(TPA- responsive element:TRE)と結合し,COX-2,ICAM-1などの炎症性マーカー,matrix metalloproteinase(MMP-1,MMP-3,MMP-9)などのプロテアーゼ,アクチンフィラメントの伸展に関与するCapG,Ezrin,Krp-1,Mts-1などを転写段階で増加させる。SIRS病態のAlert細胞で活性化されるAP-1は,セリンあるいはスレオニン残基のリン酸化により活性化されたJunとFosの2量体によりもたらされる12)。当研究室では,AP-1活性によりTNF受容体1,Fas,DR4,DR5などのDeath受容体の細胞膜発現が高まり,肺や血管系のAlert細胞のアポトーシスが進行することを確認している4, 55)。
このようなMAPKおよびAP-1活性に関して,スーパーオキシドや過酸化水素は,c-Junやc-Fosを転写段階で増加させ56, 57),また100μM以上の濃度に高められた過酸化水素は主にJNKを介したJunファミリーのリン酸化によりAP-1活性を増加させる58)。さらに,nMレベルの低濃度のROS産生であっても,JNKやp38MAPKはリン酸化活性を受けることが確認されている59)。一方,ERK1/2は1mMを超える極めて高い濃度の過酸化水素においてリン酸化を受け,通常のROSの産生のレベルでは活性化されないと考えられている60)。

おわりに

 本稿では,SIRS病態に照らして,ROS産生におけるNOXおよびNOX関連因子の役割を論じた。SIRS病態におけるAlert細胞では,炎症性受容体を介して活性化されたNF-κBやAP-1などにより転写段階からNOXおよびNOX関連因子の発現が増加し,ROS産生が高まる。一方,Alert細胞で産生されたROSは,高濃度状態では近傍のnon-Alert細胞に対しても作用し,non-Alert細胞にNF-κBの活性を高め,NOXおよびNOX関連因子の発現を誘導する可能性がある。さらに,non-Alert細胞では,ROS刺激により活性化されたAP-1を介して炎症性受容体やDeath受容体の細胞膜発現を誘導し,non-Alert細胞をAlert細胞に変容する可能性がある。このように,SIRS病態の主要臓器における細胞間炎症伝播機構に対して,今後より詳細にROSの関与が明らかにされるであろう。

参考文献

全身性炎症反応症候群における活性酸素種の役割PART1

 


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全身性炎症反応症候群における活性酸素種の役割 NO.3

2010年01月11日 23時05分27秒 | 講義録・講演記録 2

文  献

1. Commoner B, Townsend J, and Pake GE. Free radicals in biological materials. Nature 1954;174: 689-91.
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 リターン 

全身性炎症反応症候群における活性酸素種の役割PART1

全身性炎症反応症候群における活性酸素種の役割PART2


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血漿分画製剤 急性期管理における使用法 NO.1

2009年03月27日 02時03分05秒 | 講義録・講演記録 2
京都大学大学院医学研究科
初期診療・救急医学分野
准教授
松田直之


はじめに
 血漿分画製剤は,血漿蛋白質を物理的かつ化学的に血漿より分離・精製した製剤であり,主にアルブミン製剤,グロブリン製剤,血液凝固因子製剤,アンチトロンビンIII製剤に大別される。このうち,血液凝固因子製剤は不安定性により採血後6時間以内に分離されるが,他の血漿分画製剤は新鮮凍結血漿より分離される。本稿では,これらの特徴や機能を実際の使用に照らしてまとめる。

【1】免疫グロブリン製剤

 免疫グロブリンは,細菌やウイルスなどの微生物や微生物の産生する異物を認識する糖蛋白であり,IgG,IgA,IgM,IgD,IgEの5種類のサブタイプとそれらの各サブクラスからなる。リンパ節,脾臓,粘膜リンパ組織などの末梢リンパ器官や骨髄由来B細胞より産生され,生体内では抗体として働き,液性免疫として機能している。健常成人より集めた血漿より,1941年に開発されたCohnの低温エタノール分画法で分離精製したものが,免疫グロブリン製剤である。現在,本邦で臨床使用されている免疫グロブリン製剤は主にγグロブリン分画中のIgGを抽出したものであり,血漿1Lより約3.3 gのIgGが精製されている。海外ではIgGにIgMとIgAを含有した製剤も臨床応用されている。このように,免疫グロブリン製剤は健康成人の血清より抽出したポリクローナル抗体として世界各国で生成されており,その世界における需要は年間90トン以上と見積もられている。これらの機能は, Cohnの低温エタノール分画法の後の主な分離方法によって影響を受けるため,臨床研究における効能の評価にはどのような製剤を用いたかを評価する必要がある。

1. 免疫グロブリン製剤の種類
 免疫グロブリン製剤は,1)筋注用免疫グロブリン製剤(IMIG),2)静注用免疫グロブリン製剤(IVIG),3)特殊免疫グロブリン製剤の大きく3つに分類される。歴史的にはIMIGがはじめに開発され,IMIGの凝集性や補体異常活性化の欠点を克服したものとしてIVIGが開発された1)。Cohnの低温エタノール分画法よる回収のみでは,IgGの凝集体が存在し,抗原と結合しない状態で補体を異常に活性化させることが知られていた。このような初期の免疫グロブリン製剤は,静注には不向きであるとされ, IMIGとして筋注に限って使用されていた。しかし,それでもIMIGは筋注局所の疼痛が強いため大量投与できないばかりか,速効性に欠けるなどの制限があり,現在では麻疹やA型肝炎などに限って使用されている。
 一方,Cohnの低温エタノール分画法での分離の後に,化学処理,ポリエチレングリコール処理,pH4処理,イオン交換樹脂処理などを行い,凝集体による補体活性化を抑制したものがIVIGである。開発当初は,ペプシンやプラスミンによる酵素処理をしたIVIGも臨床に頻用されていたが,これらの処置によりIgGのFc部分が分断されるため,細菌やウイルスなどの異物に対するオプソニン効果や補体活性化が抑制され,機能的ではない。これに代わり,スルホ化やアルキル化の化学処理により,抗体間のS-S結合を阻止し,IgG重合を抑制する手法が確立された。しかし,スルホ化されたIgGは生体内で正常機能に戻るまでに約1日を要するため,重症敗血症などの緊急時には不向きである。また,アルキル化されたIgGは生体内でもアルキル化されているため,オプソニン効果や溶菌作用が弱い。これに対して,副作用の原因となるIgG凝集体を除き,あるいは離解させる方法として,ポリエチレングリコール処理,pH4処理,イオン交換樹脂処理が用いられている。さらに, HCVやパルボウイルスやHIVなどのウイルス混入を阻止する目的で,国内産のものは平均孔径19nmのナノ膜濾過処理がなされている。しかし,未だヒトパルボウイルスB19やクロイツフェルト・ヤコブによる感染の可能性はゼロとはいえない。
 現在,IVIGとして,ポリエチレングリコール処理ヒト免疫グロブリン(polyethylene glycol treated human normal immunoglobulin;ヴェノグロブリン-IH®,献血グロベニン-I-ニチヤク®),2)乾燥スルホ化ヒト免疫グロブリン(freeze-dried sulfonated human normal immunoglobulin;献血ベニロンI®),3)pH4処理酸性ヒト免疫グロブリン(pH4 treated human acidic normal immunoglobulin;ポリグロビンN®),4)乾燥pH4処理ヒト免疫グロブリン(freeze-dried pH4 treated human normal immunoglobulin;サングロポール®),5)乾燥イオン交換樹脂処理ヒト免疫グロブリン(freeze-dried ion-exchange-resin treated human normal immunoglobulin;ガンマガード®),6)乾燥ペプシン処理ヒト免疫グロブリン(freeze-dried pepsin treated human normal immunoglobulin;ガンマベニンP®)などが臨床使用されており,1)無ガンマグロブリン血症または低ガンマグロブリン血症,2)重症感染症における抗生剤との併用,3)特発性血小板減少性紫斑病,4)川崎病の急性期に適応が定められている。これらの健常成人における半減期は約20~25日であるが,乾燥ペプシン処理ヒト免疫グロブリンの半減期にみ約9日と短いことが特徴である。これらのIVIGは,血漿IgGの4~5倍に相当する50 mg/dLに濃縮されている。
 最後に,特殊免疫グロブリン製剤として,1)抗HBsヒト免疫グロブリン製剤(B型肝炎発症予防),2)抗破傷風ヒト免疫グロブリン製剤(破傷風の発症予防や治療),3)抗Dヒト免疫グロブリン製剤(Rh血液型不適合妊娠の予防),4)抗ヒト胸腺細胞ウマ免疫グロブリン(再生不良性貧血の治療),5)抗ヒトTリンパ球ウサギ免疫グロブリン(再生不良性貧血の治療)の5種類の製剤が臨床使用されている。HBs陽性患者の血液の針刺し事故では,事故後7日以内に抗HBsヒト免疫グロブリン製剤を成人では1000~2000単位を筋注する。抗HBsヒト免疫グロブリン製剤には,ポリエチレングリコール処理をした静注用製剤(静注用ヘブスブリン-IH®)もある。また,外傷などで創部の汚染が強い場合や重症外傷では,抗破傷風ヒト免疫グロブリン製剤を投与する。テタノブリン®,テラノセーラ®,破傷風グロブリン®,テタガムP®などは,筋注として250 IUを用いる。テタノブリン-IH®は,ポリエチレングリコール処理をした静注用製剤であり,通常の破傷風予防には250 IU,重症外傷では1500 IUを静注することができる。

2. IVIGの機能と適応
 IVIGは,1951年に臨床応用され,その使用目的は,1)IgGの低下を改善させる補充療法,2)免疫変調療法の2つである。IVIG補充療法としては,原発性免疫不全症,重症感染症における抗生剤との併用,低γグロブリン血症,慢性リンパ性白血病,骨髄移植,小児HIVが保険適応である。免疫変調療法としては,自己免疫疾患に対して特発性血小板減少性紫斑病,川崎病の急性期,Guillan-Barre症候群,多巣性運動ニューロパチーを含む慢性炎症性脱髄性多発根神経炎の筋力低下の改善に用いられる。使用する製剤によっては適応が限られているため,製剤の確認が必要である。

1) 免疫不全,慢性リンパ性白血病,骨髄移植における補充療法
 X-連鎖無γグロブリン血症などの原発性免疫不全症候群においては,3~6週ごとに200~400 mg/kgの免疫グロブリン製剤を点滴静注し,血清IgG値のトラフ値を500 mg/dL以上に保つことで,感染症や慢性気管支炎や気管支拡張症の発症を軽減できる。また,小児心臓血管外科術後に乳糜胸を合併すると低γグロブリン血症となりやすい。IgG 200 mg/dL,IgA 5 mg/dL以下は,免疫低下や免疫不全を疑い,感染症罹患を予防する必要がある。また,正常血清のIgGの4つのサブクラスは,IgG1(60~65%),IgG2(20~25%),IgG3(約10%),IgG4(約5%)の存在比であるが,これらの1つあるいは2つの欠損により易感染性となる。成人ではIgG3欠乏症,小児ではIgG2欠乏症が多く,IgG値が正常域でも,IgG2,IgG3サブクラスの欠損が易感染性の原因となることもある。慢性リンパ性白血病に低γグロブリン血症を伴う場合や骨髄移植後においても,血清IgG値のトラフ値を500 mg/dL以上に保つことで感染症合併率が低下することが確認されている。

2) 重症感染症と炎症の軽減
 IVIGには多種多様なIgGが含有されており,これらは細菌やウイルスの認識抗体だけではない。Tumor necrosis factor-α(TNF-α),interleukin-1(IL-1),interleukin-6(IL-6),macrophage migration inhibitory factorなどのサイトカインや,外因系アポトーシス誘導リガンドであるFasL,さらにはTNF-α受容体などのサイトカイン受容体などの,炎症とアポトーシスに関与する分子に対する抗体が含まれている2)。これに加えて,IVIGには,サイトメガロウイルス,アデノウイルス,水痘帯状疱疹ウイルス,麻疹ウイルス,風疹ウイルス,ムンプスウイルス,インフルエンザウイルス,エンテロウイルス,コクサッキーウイルスなどの抗ウイルス抗体や,抗菌薬活性の期待しにくいメタロ-β-ラクタマーゼ産生緑膿菌,バンコマイシン低感受性メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA),バンコマイシン低感受性腸球菌属,メタロ-β-ラクタマーゼ産生セラチア,多剤耐性緑膿菌,カンジダ属などを認識する抗体が含有されている。本邦では,これらのウイルスや細菌に対する抗体価について,IVIGのロットごとに報告を受けることができる。ウイルス感染症や重症敗血症ではIVIGロットの有効性を確認し,十分に投与されれば理論的には免疫機能の補助手段となる。2006年までの敗血症患者に対するIVIGのランダム化比較試験をまとめた2007年のTurgeonら3)による報告では,20研究における2,621名が評価され,敗血症全般でIVIG療法は95%信頼区間0.62~0.89に対して相対リスクが0.74と,有意に敗血症罹患後の生存率を改善すると評価された。この敗血症における報告では,1)IVIGの投与量は1g/kg未満でも1g/kg以上でも生命予後を改善させること,2)IVIGの投与期間は2日以下では生命予後を改善させず3日以上が有効であること,3)IVIGは初病日からの投与でなくとも投与により生存率を改善させること,4)単なる敗血症ではなく,臓器不全を伴う重症敗血症や敗血症性ショックで生存率が高まることが,サブグループ解析として確認されている。しかし,海外での投与量は本邦より多いものであり,重症感染症に対するIVIGの役割は今後の本邦における十分な評価が必要である。

3) 川崎病
 川崎病におけるIVIGには,炎症症状の早期消退と冠動脈病変の併発を低下させることが確認されている。IVIGは原田スコア4)の白血球数≧12,000/mm3,Hct<35%,血小板<35万/mm3,アルブミン<3.5g/dL,CRP≧4.5 mg/dL,男児,年齢<1歳の7項目うちの4項目以上を満たすときに適応があるが,IVIGの使用には臨床症状を含めた総合的判断が必要とされる。治療開始時期は第7病日までが望ましいとされているが,使うならば早い時期からが望ましい。川崎病では,200 mg/kg/日の5日間投与が健康保険適応であるが,IVIG 400 mg/kg/日により冠状動脈病変の発生頻度が低下するとの報告も多い。米国では2 g/kg/回の投与が標準的である。IVIGの実際の投与には,半日~1日かけて緩徐に投与するのが良いとされている。

4) 慢性炎症性脱髄性多発根神経炎およびGuillan-Barre症候群
 献血ベニロンI-ニチヤク®は多巣性運動ニューロパチーを含む慢性炎症性脱髄性多発根神経炎に,献血ベニロンI®はGuillan-Barre症候群に適応を持つ。これらは,1日投与量400 mg/kgを5日間投与する。

5) 副作用に対する注意
 免疫グロブリン製剤は,IgA欠損症や抗IgA抗体を持つ患者において,アナフィラキシーを生じやすいことが知られている。血清IgAが5 mg/dL以下の日本人は0.03~0.05%の頻度と評価されており,大部分は病的な症状を呈さないため,免疫グロブリン製剤投与においては投与初期から十分に患者観察が必要である。慢性肺疾患ではIgA欠損症の合併頻度が高いことも知られている。IgA欠損症患者にIgAを含んだ血液製剤を投与すると,抗IgA抗体が産生され致死的なアナフィラキシー・ショックとなる。このような重篤な反応とはならないまでも,アレルギー反応が生じる可能性に十分に留意する必要がある。副作用の発生は,注入開始後1時間以内に起こることが多い。


【2】血液凝固因子製剤

 本邦で臨床使用されている静注用血液凝固因子製剤は,1)第VIII因子製剤,2)第IX因子製剤,3)プロトロンビン複合体製剤,4)活性化プロトロンビン複合体製剤,5)活性化第VII因子製剤,6)フィブリノゲン製剤,7)第XIII因子製剤の7種類である。これらの適応は,先天性欠損であり,第XIII因子製剤のみがシェーンライン・ヘノッホ紫斑病や外科的縫合不全および瘻孔に対しての適応を持つ。

1. 血液凝固第VIII因子製剤
 第VIII因子製剤は,遺伝子組換えによるオルトコグアルファ(コージネートFS®)とルリオクトコグアルファ(リコネイト®),および乾燥濃縮ヒト血漿製剤であるクロスエイトM®が血友病Aに使用されている。第VIII因子に加えてvon Willebrand因子(vWF)を含有した製剤として,コンファクトF®とコンコエイトHT®があり,血友病Aおよびvon Willebrand病に使用されている。
 血友病5, 6)は先天性出血病態の一つであり,第VIII因子の欠乏する血友病Aと第因子の欠乏する血友病Bがある。これらの凝固因子はX染色体上に遺伝子が存在するため,X連鎖劣性遺伝の形式をとり,保因者の女性から出生した男児の50%には血友病が発症する。血友病Aでは,隔日あるいは週に3回,25~40単位/kg/回を静注し,定期的な補充療法とする。第因子は一般に1単位/kgの投与で血中濃度が約2%増加する。また,血友病患者の外傷による出血や手術の際には,止血のための補充量法を行うことになる。第VIII因子の血漿半減期は8~12時間程度であるため,前日までの補充療法に加えて,手術中は単回補充ではなく,2~4単位/kg/hrの持続投与とする場合が多い。出血が多量となる場合は,新鮮凍結血漿で代用する場合も多い。さらには,血友病の補充療法においては血友病Aで10~20%に補充因子に対する同種抗体(インヒビター)が出現することが知られている6)。救急領域などの緊急時には,インヒビター評価が最近いつどこで行われたかを確認する必要がある。第VIII因子製剤投与後の第VIII因子活性期待値(%)は,第VIII因子投与量(単位/ kg)× 2で計算し,止血には第VIII因子活性期待値を>20%に増加させ,手術や外傷による出血症状の際は>50%を目標としている。
 von Willebrand病は,vWFの減少あるいは機能異常による血小板の粘着障害に起因する先天性出血性疾患である。この内容により,大きく1型(量的減少),2型(質的異常),3型(完全欠損)の 3 病型に分けられている。1型は酢酸デスモプレッシン(0.4 μg/kg/回)の静注で対応できるが,2型および3型では酢酸デスモプレッシンは無効であり,vWF含有第VIII因子製剤を補充療法とする。VIII因子に比較してvWFは血漿半減期が24~36時間と長いため,投与間隔は血友病Aより延長することができる。

*****************************************************************************
血友病A患者に対する第VIII因子製剤の投与例

1 慢性滑膜炎,膝関節内出血
  1回10単位/kg 1日1回静注 1~2日
2 腸腰筋内出血
  1回20単位/kg 1日1回静注 5日間
3 頭蓋内出血
  初回50単位/kg,以後1回25単位/kg 1日2回静注 1週間
4 手術に際して
  術前日50単位/kg,術中2~4単位/kg/hrの持続投与
*****************************************************************************

2. 血液凝固第IX因子製剤
 第IX因子製剤は,乾燥濃縮ヒト血漿製剤としてノバクトM®とクリスマシンM®が臨床使用されている。適応は,血友病Bに対してである。投与方法は,1回500~1000単位/kgの緩徐な静注とする。血友病Aに準ずるものであるが,第IX因子の血漿半減期は12~24時間と個体差があることに留意する。第IX因子製剤投与後の第IX因子活性期待値(%)は,第IX因子投与量(単位/ kg)×(1~1.5)で計算し,止血には第IX因子活性期待値を>20%に増加させ,手術や外傷による出血症状の際は>50%を目標とする。手術に際しては,前日までの補充療法に加えて,手術中は4~7単位/kg/hrとする。

3. プロトロンビン複合体製剤,活性化プロトロンビン複合体製剤
 プロトロンビン複合体製剤は,血友病Bの適応としてPPSB-HT®,プロプレックスST®が臨床使用されている。これらには,第IX因子以外に第II因子,第VII因子,第X因子が複合されている。投与方法は,1回50~100単位/kgの緩徐な静注であり,詳細は第IX因子製剤の投与に準じる。
 一方,活性化プロトロンビン複合体製剤(ファイバ®)は,第II因子,第VII因子,第IX因子,第X因子に加えて,それらの活性化体が含まれている。血友病Aおよび血友病Bにおいて,第VIII因子および第IX因子のインヒビターをもつ患者に適応がある。手術や多発外傷に際しては,活性化プロトロンビン複合体製剤はトロンビン活性を高め,血栓傾向や血管内皮細胞障害を増悪させる可能性があり,インヒビター保有患者以外には用いることはなく,インヒビター保有患者においても慎重投与となる。手術や多傷に際しては,保険適応量として50~100単位/kgを8時間ごとに投与し,3日間に留めた連続使用としている。

4. 血液凝固活性化第VII因子製剤
 活性化第VII因子製剤(ノボセブン®)は遺伝子組換え製剤であり,その適応は活性化プロトロンビン複合体製剤と同様に,血友病Aおよび血友病Bの第VIII因子および第IX因子の阻害物質保有患者である。保険適応は初回量が90μg/kg(4.5 KIU/kg)であり,その後,止血が得られるまで2~3時間ごとに60~120μg/kg(3~6 KIU/kg)を追加投与できる。血漿半減期が3時間レベルであるため,調節性が良いのが特徴であり,血友病Aおよび血友病Bの第VIII因子および第IX因子のインヒビター保有患者の手術や外傷における出血コントロールに用いることができる。海外の症例報告では,戦時中の負傷や腹部外傷を含む出血コントロールに優れているとの報告があるが7),海外でも未だ十分なエビデンスはなく8),本邦ではインヒビター保有の血友病患者以外に適応はない。

5. フィブリノゲン製剤
 フィブリノゲン(血液凝固第�因子)はAα鎖,Bβ鎖,γ鎖のS-S結合として存在し, N末端でさらにS-S結合した二量体として血漿分画に存在する。このフィブリノゲンの合成部位は肝臓であり,血小板凝集による一次止血やフィブリン網形成による二次止血に不可欠な凝固因子である。
しかし,現在,フィブリノゲン製剤(フィブリノゲンHT®)の保険適応は,先天性低フィブリノゲン血症の患者に限られており,肝硬変や産後出血に適応はない。さらに,保険適応量は,1回3 gまでである。先天性低フィブリノゲン血症の患者の手術では,術前より約30 mg/kgのフィブリノゲン製剤を投与し,血漿フィブリノゲン値を100 mg/dL以上に高めておく。フィブリノゲンの血漿半減期は3~4日レベルであるが,術後3日までは適時投与とし,血漿フィブリノゲン値100 mg/dLを目標とすることが望ましい。
周術期の投与に際しては,様々な血液製剤と同様にアナフィラキシーの発症に加えて,代用血漿製剤やデキストラン製剤などとの同一静脈路からの投与で沈殿が生じることや,発熱の可能性に注意が必要である。

6. 血液凝固第XIII因子製剤
 第XIII因子は,凝固反応の最終産物であるフィブリンモノマーを架橋形成することにより,安定したフィブリンポリマーを産生するための二次止血に不可欠な凝固因子である。この第XIII因子製剤(フィブロガミンP®)の保険適応は,1)先天性第XIII因子欠乏症,2)第XIII因子低下に伴う縫合不全および瘻孔,3)シェーンライン・ヘノッホ紫斑病である。
先天性第XIII因子欠乏症では1日4~20 mL,第XIII因子低下に伴う縫合不全および瘻孔では1日12~24 mLを5日まで,シェーンライン・ヘノッホ紫斑病では1日1回12~20 mLを3日までが,保険適応である。これらは,血漿第XIII因子濃度を評価しながら用い,縫合不全および瘻孔では基準値の70%以下,シェーンライン・ヘノッホ紫斑病では90%以下を投与の適応とする。

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血漿分画製剤 急性期管理における使用法 NO.2

2009年03月27日 02時01分37秒 | 講義録・講演記録 2
京都大学大学院医学研究科
初期診療・救急医学分野
准教授
松田直之


【3】アンチトロンビンIII製剤

 アンチトロンビンⅢは,肝で合成される生理的凝固阻害因子である。α2-グロブリン分画に属する分子量58 kDaレベルの糖蛋白であり,血漿濃度は約30 mg/dL,血中半減期は約60~70時間である。正常の生体内では,血中,血管内皮,血管外にそれぞれ4:1:5の比率で分布している。

1. アンチトロンビンⅢの機能
 アンチトロンビンⅢの凝固抑制は,主にトロンビンや活性化第X因子と結合し,これらの機能を失活させることにある。さらに,活性化第IX因子,活性化第XI因子,活性化第XII因子,カリクレイン,プラスミンなどの活性も阻害する。また,アンチトロンビンⅢにはペパリンによる凝固阻害を高める作用がある。アンチトロンビンⅢにはトロンビン結合部位とヘパリン結合部位があり,未分画ヘパリン存在下ではヘパリン/アンチトロンビンⅢ複合体が形成され,トロンビンや活性化第X因子を即時的に強く阻害する。一方,低分子ヘパリンやダナパロイドナトリウム(オルガラン®)の投与下のアンチトロンビンⅢは,活性化第X因子の阻害を高めるが,直接のトロンビン阻害作用は弱い。
 敗血症や外傷をはじめとする全身性炎症反応症候群では,未分画ヘパリン未使用時にのみアンチトロンビンⅢ補充の有効性が確認されており,ヘパリンとの併用によりアンチトロンビンⅢ補充の生命予後改善効果が減じることが確認されている9)。これは,①血管内皮細胞に存在するヘパラン硫酸にアンチトロンビンⅢが結合することにより,血管内皮細胞上で直接にトロンビンを阻害し,トロンビンのprotease activated receptorを介した血管内皮細胞障害を抑制し,播種性血管内凝固症候群(DIC:disseminated intravascular coagulation)の進展を抑制するためや,②未分画ペパリンとの併用を行わないことで出血合併率が減じられるためと考えられている。このため,敗血症などの先進性炎症反応症候群に合併する準DIC状態では,ペパリンによるDIC治療は望ましいものではないと評価されている。
 このような特徴を持つアンチトロンビンⅢは,トロンビン・アンチトロンビンⅢ複合体(TAT: thrombin-antithrombin Ⅲ complex;基準値3.75 ng/mL以下)を形成するため,トロンビン活性の高まる敗血症,外傷,術後,心筋梗塞,血栓症,DICなどでは,これらの補助診断やトロンビン阻害指標としてTATが有用となる。
 一方,先天性アンチトロンビンⅢ欠乏症10)は,1,000人に1人の程度で認められ,血栓症を合併しやすいことが知られている。出生児には臍帯出血などが確認される。アンチトロンビンⅢ活性値が50%程度に減少するI型はすべて常染色体優性遺伝であり,II型は①トロンビン阻害効果に異常があるもの,②ヘパリン結合に異常のあるもの,③それらの複合異常の3つに分類されている。また,後天的にアンチトロンビンⅢが減少する病態としては,①尿蛋白として消失されるネフローゼ症候群,②産生低下による感染症や肝不全,③トロンビン産生の高まる全身性炎症反応症候群,術後,心筋梗塞,血栓症,HELLP症候群,羊水塞栓症,DICなどが挙げられる。重症病態の生命予後を予測する因子として,アンチトロンビンⅢ活性値の低下が示唆されており,DICの早期診断とともに活性値70%以下を阻止するアンチトロンビンⅢ補充が必要とされる。

2. 乾燥濃縮ヒトアンチトロンビンIII製剤
 現在,本邦ではアンチトロンビンIII製剤として,ノイアート®,アンスロンビンP®,献血ノンスロン®が臨床使用できる。これらの保険適応は,①先天性アンチトロンビンIII欠乏に伴う血栓形成傾向と,②DICのみである。血栓形成傾向では,1日1000~3000単位を投与し,アンチトロンビンIII活性値を70%以上に維持する。DICにおいては,アンチトロンビンIII活性値が70%以下に低下している病態において,1日30単位/kgの投与が推奨される。産科DICおよび外科的DICにおいては,1日60単位/kgまでが保険適応として認められている。救急・集中治療領域では,急性期DIC診断基準が本邦で公表されており,全身性炎症に付随する緊急性の高い病態では,DICの早期診断が可能となっている11, 12)。ATIII製剤は,HCVやパルボウイルスやHIVなどのウイルス混入を阻止する目的で平均孔径15 nmのナノ膜濾過処理がなされている。


おわりに
 血漿分画製剤は,その分離過程においてウイルス活性の賦活化や除去などの工夫が十分になされているが,未だ完全にヒトパルボウイルスB19感染やクロイツフェルト・ヤコブ病などの可能性が残存している。実際の臨床では適応や投与量に対するさまざまな工夫が認められるが,使用に当たっては本稿で記した適応を十分に念頭に置くことが大切である。

文 献

1)Eibl MM: History of immunoglobulin replacement. Immunol Allergy Clin North Am, 28:737-64, 2008.
2)Hartung HP: Advances in the understanding of the mechanism of action of IVIg. J Neurol, 255 Suppl 3:3-6, 2008.
3)Turgeon AF, Hutton B, Fergusson DA, et al: Meta-analysis: intravenous immunoglobulin in critically ill adult patients with sepsis. Ann Intern Med, 146:193-203, 2007.
4)Harada K: Intravenous γ-globulin treatment in Kawasaki disease. Acta Paediatr Jpn, 33: 805–10, 1991.
5)Kempton CL, White GC 2nd.; How we treat a hemophilia A patient with a factor VIII inhibitor. Blood, 113:11-7, 2009.
6)Barnett B, Kruse-Jarres R, Leissinger CA: Current management of acquired factor VIII inhibitors. Curr Opin Hematol, 15:451-5, 2008.
7)Busani S, Cavazzuti I, Marietta M, et al: Strategies to control massive abdominal bleeding. Transplant Proc, 40:1212-5, 2008.
8)Squizzato A, Ageno W: Recombinant activated factor VII as a general haemostatic agent: evidence-based efficacy and safety. Curr Drug Saf, 2:155-61, 2007.
9)KyberSept Investigators: High-dose antithrombin III in the treatment of severe sepsis in patients with a high risk of death: efficacy and safety. Crit Care Med, 34:285-92, 2006.
10)Vinazzer H: Hereditary and acquired antithrombin deficiency. Semin Thromb Hemost, 25:257-63, 1999.
11)Ogura H, Gando S, Iba T, et al: SIRS-associated coagulopathy and organ dysfunction in critically ill patients with thrombocytopenia. Shock, 28:411-7, 2007.
12)Kushimoto S, Gando S, Saitoh D, et al: Clinical course and outcome of disseminated intravascular coagulation diagnosed by Japanese Association for Acute Medicine criteria. Comparison between sepsis and trauma. Thromb Haemost, 100:1099-105, 2008.

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救急一直線 講座 高山病に対する予防・診断・治療

2008年08月10日 20時05分18秒 | 講義録・講演記録 2

講座 高山病・高地障害症候群に対する予防・診断・治療

京都大学大学院医学研究科
初期診療・救急医学分野
松田直之


はじめに

  救急科医や集中治療医は,登山者における対応として,高山病,高地障害症候群(high altitude syndrome: HAS)の病態と治療を理解していることが期待されます。富士山などの高山に登った後の頭痛や倦怠感や息切れとして,救急外来を受診される患者さんや救急搬送される患者さんもいます。3名以上で登山する時には,相手のペースで対応することで,弱者が高山病となります。一番の弱者に合わせた登山が原則と言われています。登山中の自覚症状としては,軽症で「軽いふらつき」や「労作時の息苦しさ」,中等症として,二日酔いに似た症状,重症になると高地肺水腫,高地脳浮腫として,頭痛,嘔気,呼吸困難が増悪します。これらの自覚症状の出現に対して,無理は禁物です。救急領域では,高山病やHASは重症病態としてヘリ搬送などとなる場合があるため,適切な知識と理解があると良いでしょう。本稿で,急性高山病,高地肺水腫,高地脳浮腫について,理解を共有することとします。

1. 急性高山病(Acute mountain sickness:AMS)

 急性高山病は,軽症型の高山病であり,標高2,000mレベルから発症する傾向があります。通常,高度を上げて6~10時間以内に症状が現れ,手足のむくみ,頭痛,ふらつき,吐気と嘔吐,疲労,脱力,易怒性が出現します。ご自身で登山をするときは,頭痛やイライラ感が出現したときには,「高山病かな?」と考えるとよいでしょう。急性高山病の症状は,「二日酔いのようだ」と表現する人もいます。症状は,約24~48時間続きます。放置すると,急性高山病は,重症化しますので,このレベルで下山する,あるいは高度を上げないなどの適切な対応が必要です。富士山でいうと,5合目が標高2,230 m,6合目が2,325 m,7合目の「花小屋」が2,700 m,7合目「花井荘」で2,900 m,8合目「太子館」で標高3,100 mに達します。富士山5合目で,要注意,急性高山病は発症するものとして,注意した対応が必要となります。また,標高2,700 m以上では,網膜出血が起きる場合があります。網膜出血は,標高5,000 mを超えると発症率が高まります。しかし,これも早期に下山するなどの対応をすれば,網膜出血は急速に消失し,長期的問題となることが少ないとされています。

 2. 高地肺水腫 (High altitude pulmonary edema: HAPE)

  急性高山病に随伴して,高地肺水腫は約標高2500 m以上まで,急速に登った場合に24~96時間後に発症します。高山病による死亡のほとんどが,高地肺水腫です。高地で肺水腫となり,低酸素状態として,心停止します。また,高地居住者が,低地に滞在して,戻ったときにも高地肺水腫を発症することが知られています。声がれや気管支炎などの呼吸器合併症がある場合には,登山は禁止です。死亡リスクが高まる可能性があります。症状は夜に悪化し、すぐに重症化する場合があります。肺水腫として,ピンク色の泡沫状痰に注意することとなります。

 3. 高地脳浮腫(High altitude cerebral edema: HACE)

 高地脳浮腫は稀と言われていますが,高血圧や高脂血症などの既往があったり,急性高山病を放置した場合に,HACEとして脳浮腫が進行して,死に至る可能性があります。一般に,高所に至ると末梢静脈は収縮し,中心血液量(central blood volume)が増加するため,登山過程でbaroreceptorが刺激されて,下垂体後葉からのバソプレシンや副腎皮質球状帯からのアルドステロン の分泌が抑制され,利尿が生じやすくなります。つまり,登山過程では循環血液量が高浸透圧血症(290~300mOsm)として減少します。これは,高地脳浮腫を発症させる引き金となり,頭痛に加えて,錯乱,歩行時にフラフラするなどの運動失調が出現し,さらに昏睡状態に移行します。軽い症状から生命を脅かす状態までは,数時間以内とされています。フラフラ感が出現した際には,脳浮腫が急速に進行する可能性に注意します。

 4.高山病の予防指導

 高山病予防は,ゆっくりと登るということです。その日に達した一番高い地点の標高よりも,睡眠をとる地点の標高が重要です。最初の夜は,標高2,500~3,000 mより高い地点では,睡眠をとらないようにします。その後,睡眠をとる高度を1日あたり300 mずつ上げる方針が良いとされています。睡眠時に,低い所へ戻ることも考慮します。また,到着後1~2日間は激しい運動を避けることで,高山病の予防となります。頭痛などの症状が出た場合には,無理をせずに下山することです。
 また,食事について工夫ができます。食事の留意事項は,食事の回数を増やし,消化されやすい炭水化物を豊富に含む食事として少量ずつの食事が推奨されています。そして,カフェインは血圧を上げる可能性があリ,避けるべき飲みのものとなります。さらに,アルコールや鎮静薬は,急性高山病の発生リスクを増加させるために避けるようにします。コーヒーやアルコールは増悪因子として,登山者に説明します。

5.急性高山病の診断

 高山病の診断は,症状に基づいて行われます。高地肺水腫の診断は,胸部の聴診と打診,パルスオキシメータによる酸素飽和度の評価を基本とし,emergency roomへの救急搬入後は,動脈血ガス分析,胸部X線像で診断補助とします。もちろん,肺エコーも有用です。ドクターヘリや山小屋医として対応する場合などは,意識評価,神経学的理学所見,呼吸様式評価,パルスオキシメータ,聴診,打診は不可欠ですし,携帯エコーを利用することと良いでしょう。胸水は認めないのに,心嚢液の貯留した例などのケースレポートもあります。
 
6.急性高山病の治療

 手足や顔面浮腫は,数日後に自然改善するとして,患者さんや御家族に説明します。急性高山病の多くは1~2日で症状が改善しますが,症状の緩和にはアセタゾラミド,頭痛の緩和にはアセトアミノフェンやNSAIDを用います。注意すべきことは,高地肺水腫や高地脳浮腫として,救急搬送する,あるいは救急搬入された場合です。肺水腫だけであれば,ジャクソンリース回路を用いた用手的PEEP(positive endoexpiratory pressure )やNPPV(non-invasive positive pressure ventilation)の適応となりますが,脳浮腫があると疑われる場合には搬送中の用手的PEEPなどは脳浮腫を進行させる可能性があリ,要注意です。神経学的理学所見の評価が優先され,脳浮腫があると想定される場合は,まずアセタゾラミドや,グリセオールのような浸透圧利尿薬を用い,その間の酸素化は高濃度酸素投与とせざるを得ないものとします。Emergency roomに到着後,頭部CT像を評価することも必要となります。ヘリ搬送等における留意事項となります。

おわりに

 救急領域では,高山病の救急搬入に対応することがあります。高山病にならないような登山指導が,医療安全として必要です。一方で,高山病になってしまった場合には,脳浮腫を進行させないことに注意が必要です。肺水腫により肺酸素化が悪いからと言って,high PEEPで陽圧をかけることが,脳浮腫を急激に進行させることがあります。このように,気道内圧を20 cmH2Oを超えて上げにくい場合があります。高山病に対する知識の拡充にお役立てください。


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講座 Toll-like受容体と血管内皮細胞障害

2008年07月07日 04時05分26秒 | 講義録・講演記録 2
京都大学大学院医学研究科
初期診療・救急医学分野
准教授 松田直之


はじめに

 敗血症などの感染症がどのようにして臓器炎症を進展させるかの病態生理を考える際に,Toll-like receptor(TLR)は不可欠な受容体である。1996年にLemaitreら1)によりCell誌に報告されたショウジョウバエのToll受容体の自然免疫における関与などを発端として,Toll受容体に類似したTLRが哺乳類に同定されたことは,全身性炎症を病態生理学的に理解する上での大きな功績となった。現在,TLRはヒトで11種類,マウスで13種類がクローニングされ2, 3),自然免疫や獲得免疫に対する役割に加えて,臓器炎症を説明するための危機感知受容体(danger-sensing receptor)として認識されるようになった。
TLRは病原体の含有する分子パターン(PAMPs:pathogen-associated molecular patterns)を認識する受容体ファミリーの一つであり,pattern recognition receptor(PRR)である。T細胞などの免疫機構に関与する一方で,主要臓器細胞においてもnuclear factor-κB(NF-κB)やactivator protein-1(AP-1)などの転写因子を活性化させ,ケモカイン,炎症性サイトカイン,炎症性物質などを転写段階で発現調節する。主要臓器の細胞では,必ずしもすべての細胞でTLRなどのPRRが発現しているわけではないものの,TLRを細胞膜に発現する鋭敏な細胞が主要臓器の組織群に存在する。これらのTLRを発現する主要臓器の細胞は,炎症に対する危機感知に働き,ケモカインなどの炎症性警笛を発する警笛細胞(inflammatory alert cell)として機能する。本講座では,現在当分野の研究内容に側して,TLRシグナルを介した血管内皮細胞の病態生理を論じる。

Toll-like receptorとリガンド

 TLRシグナルを惹起するリガンドは,TLRのサブタイプにより異なることが知られている。図1は,これらの受容体サブタイプとリガンドの関係の一部を模式化したものである。TLRのサブタイプのすべてが細胞膜上で機能するわけではないことも知られており,細胞膜上でリポペプチドを認識するサブタイプはTLR1, 2, 4, 6である3)。グラム陽性菌やグラム陰性菌や真菌の細胞壁にはリポペプチドが存在するが,TLR2はグラム陽性菌のリポテイコ酸4),TLR4はグラム陰性菌のリポポリサッカライドを細胞膜上で認識する5, 6)。また,TLR1,TLR2,TLR6はヘテロ二量体となることで,マイコプラズマ由来のリポタンパクやリポペプチドを細胞膜上で認識する7-10)。現在,TLR1-TLR2複合体はトリアシル化リポペプチド(PAM3CSK4)を8, 9),TLR2- TLR6複合体はジアシル化リポペプチド(PAM2CSK4)を10)リガンドとすることも知られている。サルモネラ,セラチア,ヘリコバクターピロリなどの鞭毛を持つ細菌では,この鞭毛に含有されるフラジェリンが細胞膜上でTLR5により認識される11)。
 これに対して,細菌やウイルスや自己の核酸に反応するTLRとして,主にエンドソームなどの細胞内コンポーネントに局在するTLR3, 7, 8, 9が知られている。TLR3は2本鎖RNAを12),TLR7とTLR8は1本鎖RNAを13, 14),TLR9は5’-AACGTT-3’,5’-GACGTC-3’,5’-AGCGCT-3’などのCpG配列(5’-CG-3’)を15),樹状細胞などの免疫担当細胞に限らず,肺などの主要臓器の細胞内においても認識する。
 このように,TLRは,細菌やウイルスの含有成分を認識することができるが,その他の物質も認識することが知られている。フィブリノーゲン,ヒアルロナン,フィブロネクチン,タキソール,HSP60,HSP70などは,TLR4のリガンドとなる2, 3)。

Toll-like receptorを発現する警笛細胞

 緑膿菌や大腸菌などのグラム陰性桿菌は,集中治療をはじめとした重症患者管理において,重症敗血症の原因となりやすい。グラム陰性菌感染症において炎症発現のトリガーとなるTLR4の発現密度は,主要臓器では,肺,右心房,腎臓,肝臓の順に高いことが確認できる。肺や右心房にはTLR4やTNF受容体などの炎症性受容体が高密度で発現しているため,グラム陰性桿菌敗血症の初期に,肺や右心房では炎症性警笛が鳴りやすい傾向がある。また,敗血症の進展により腎臓の尿細管上皮でTLR4発現が増加する傾向がある。こうした腎臓でのTLR4の発現増加には,macrophage migration inhibitory factor(MIF)の腎尿細管再吸収が関与する可能性が確認できる。盲腸結紮穿孔やグラム陰性菌内毒素のlipopolysaccharide(LPS)などの刺激における腎尿細管レベルのTLR4の増加は,MIFノックアウトマウスで抑制される。MIFはTLR4を転写段階で増加させる物質の一つであり16),腎臓のみならず,肺17)や腸18)などにおいてもTLR4の転写を亢進させることが確認されている。このように,MIFのような炎症過程で産生される物質は,正常状態で TLR4の発現密度の高い肺などの臓器から腎臓へ,臓器炎症強度を時系列でシフトさせる作用を持つ。肺や心房筋では,TLR刺激により活性化された警笛細胞よりケモカインが産生され,白血球系細胞の浸潤が高まる。こうした白血球系細胞の浸潤の炎症増強作用を伴い,肺では誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)の産生が著明に高まり,血管透過性が亢進し,肺酸素化能が低下しやすい。心房筋では,プロスタグランジンの産生が高まり頻脈傾向が助長される。腎臓では,全身性炎症の進行とともに尿細管上皮細胞に炎症が高まり,急性腎不全が惹起される。
 一方,同種の組織群を免疫組織学的手法で評価すると,炎症の生じていない組織群では,たとえ組織学的に同一と分類される細胞であっても,TLRの発現はさまざまである。培養細胞や組織標本の免疫組織染色像では,TLR4が主要臓器において最も高い分布密度を示す細気管支レベルであっても,TLR4を細胞膜に発現するものは約35%レベルに過ぎない。気管支上皮細胞の培養細胞系においては,TLR4を細胞膜上に発現させるものは約30%を超えるレベルにすぎず,ゴルジ体周辺に発現をとどめるものが約40%レベル,核内にとどまるものや全く発現しないものが約30%近く存在する。しかし,TLR4やTLR2は,炎症性刺激によりゴルジ体から微小管を通じて,細胞膜上に移動する傾向が免疫組織染色像で観察できる19)。このTLRの細胞膜シフトは,糖鎖修飾蛋白protein associated with TLR4(PART4)などの細胞膜固定化作用以外に,ラジカルスカベンジャー,NF-κBデコイ核酸やPKC阻害薬でも抑制される。ラジカルを介したNF-κBの活性化による輸送刺激物質の産生や,PKC活性化によるキネシンモーター系の活性化などの関与が示唆される。
 このように主要臓器では,組織学的に同種の細胞と評価されても,細菌構成要素を認識するTLRを細胞膜に発現させる細胞は一部に過ぎない。この一部の警笛細胞が,転写段階からケモカインや接着分子などの産生を高めることで,好中球やマクロファージなどの白血球系浸潤細胞を炎症部位に集積させる。そして,炎症性サイトカインと炎症性受容体を介した炎症の増強によりTLRを細胞膜に発現させる「警笛細胞」が増加し,主要臓器細胞内においても炎症の場のスライドシフトが生じ,主要臓器は警笛細胞群として炎症性強度を高める19)。このような状況において,血管内皮細胞も,炎症増強の戦場となる19, 20)。

Toll-like receptorとアダプター分子

 細胞膜上に発現するTLR1/2/ 4/6などのTLRは,interleukin-1(IL-1)受容体やIL-18受容体と共通のToll-IL-1 receptor(TIR)homology domain という細胞質内ドメインを持つ。TLRの細胞外ドメインはロイシンを豊富に持つleucine rich repeat構造を基盤とし,IL-1受容体の細胞外ドメインはイムノグロブリン構造に類似したIg-like domainを持つ。両者に共通する細胞質内のTIRドメインは約160のアミノ酸で構成されており,機能面でBox1,Box2,Box3の3領域に区分されている21)。Box 1は機能的中核領域であり,Box 2はプロリンを豊富に含有するため下流の情報伝達系へのシグナル伝達やTLRの2量体化に関与する。現在,Box 3に関しては,十分な機能解析が進んでいない。このように,TLRシグナルは主にTIRドメインのBox 2領域を介して,myeloid differentiation factor 88(MyD88),MyD88 adapter like(MAL),TIR domain-containing adapter protein inducing IFN-α(TRIF),TRIF-related adapter molecule(TRAM)の4つをアダプター分子として,転写因子NF-κBやAP-1を活性化させると考えられている。現在,TIRアダプタードメインファミリーは,これら4種のほかにTIRに抑制的に作用するSIGIRR22)と ST223)が知られているが,これらの機能は十分に確定されていない。
 これら4つの促進的に作用するアダプター分子のうち,296アミノ残基で構成されるMyD88は,TLR3を除くTLRの主なアダプター分子として知られ,IL-1 receptor associated kinase 4(IRAK4)との強い会合能力を持つ24)。このMyD88は,TLRシグナルの中核を担うものではあるが,MyD88ノックアウトマウスの研究より,必ずしもTLRを介した炎症性シグナルを完全に制御するものではないことが示唆されている25)。LPS刺激によるTLR4シグナルにおいては,MyD88以外のTRAM-TRIFシグナルによりNF-B活性が遅延して上昇することが確認されている25)。
 一方,MALはTIR domain-containing adaptor protein(TIRAP)とも呼ばれ,MyD88よりN末端領域が75塩基分短い分子として知られている26)。このMALはphosphatidylinositol 4,5-bisphosphate(PIP2)により細胞膜での接着を高め,TLR4やTLR2などの細胞膜固定を高め,MyD88との会合率を高める可能性がある26, 27)。MALノックアウトマウスでは,TLR5,TLR7,TLR9のリガンド刺激には応答するものの,TLR4,TLR2,TLR1,TLR6のシグナルが損なわれることが報告されている28)。特に非炎症時にTLR2はゴルジに集積する傾向があり,必ずしも細胞膜に固定化されていない特徴があるが,MALは細胞膜へのTLR2などの細胞膜輸送や細胞膜上への固定化に関与するようだ。
 さらに,TLR4とTLR3の細胞内シグナルに関しては,MyD88を介さないTRIF29)とTRAM30)の関与が強く示唆されている。TRIFは712アミノ酸より,TRAMは253アミノ酸より構成され,TRAMはN末端がミリストイル化することで細胞膜上での安定を高め,TRIFへのシグナルを介して,MyD88に依存しない経路でIFN-αやIFN-βを産生する30)。また,TRIFはFADDを介してアポトーシスを誘導する可能性が示唆されている31)。TRIFノックアウトマウスを用いた解析では,大腸菌による肺でのNF-κB活性やMAPK活性が抑制される32)ことより,肺などの主要臓器のTLR4シグナルにおいてもTRIFは重要なアダプター分子と考えられている。また,TLR3のシグナルでは,TRAM-TRIFは主なアダプター蛋白であり,TANK-binding kinase 1やIκB kinase へのシグナルを介して,interferon regulatory factor 3(IRF3)の活性化を介して,IFN-αやinterferon activated gene-10(IP-10)を産生することが知られている33)。一方,TRAM欠損マウスでは,TLR2,TLR7,TLR9の炎症性サイトカイン産生に影響を与えないことが確認されており30),TRAM-TRIF経路がTLR2,TLR7,TLR9シグナルに関与する可能性は低いと考えられている。
 
血管内皮細胞とToll-like receptorシグナル

 ヒトの血管内皮細胞にはTLR2やTLR4のみならず34, 35),TLR136),TLR337, 38),TLR539),TLR640)が存在することが知られている。これに対して,TLR7,TLR8,TLR9はマウスの血管内皮細胞では検出できるものの41, 42),ヒト血管内皮細胞ではmRNAレベルでも検出されにくく,正常状態では存在しても微量と評価されている43)。また,TLRのアダプター蛋白であるMyD8835),TIRAP/MAL44),TRIF45)に関してはヒト血管内皮細胞に存在するが,TRAMの発現はヒト血管内皮細胞で微量であるためにヒト血管内皮細胞ではTRAM-TRIFを介したTLRシグナルは極めて微弱と考えられている45)。このように,現在,TRAM-TRIFを介したTLRシグナルは,ヒト血管内皮細胞ではTRAM発現が少ないために惹起されにくい。さらに,炎症病態において,TRAM発現が亢進し,血管内皮細胞炎症を増強させる可能性が示唆されるが,この可能性も低いようである。我々のヒト肺静脈血管内皮細胞の細胞培養系での解析では,CD14存在下に100 ng/mL レベルのLPSを3時間刺激し,NF-κB活性とAP-1活性が高まる状態を作成しても,その血管内皮細胞群にTRAM蛋白は検出されない結果を得た。一方,LPSの腹腔内投与24時間後のマウスの肺では,TRAM mRNAの軽度の上昇が認められ,これはMAPK阻害薬やAP-1デコイ核酸で抑制された。
 以上を踏まえると,血管内皮細胞では白血球系細胞や主要臓器の警笛細胞とは異なり,TLRシグナルは主にMal-MyD88を介して惹起され,TRAM-TRIFを介した経路の関与は極めて微弱であると考えられる。

血管内皮細胞のToll-like receptorを介した転写因子活性

 ヒト血管内皮細胞におけるTLRシグナルは,マウスとは異なり,上述のようにMAL-MyD88を介したTLR1/2/4/5/6シグナルが主体と考えられる。図2には,現在ヒト血管内皮細胞培養系で確認できる細胞内情報伝達をまとめた。結果的に,これらのシグナルは,少なくとも2つの転写因子NF-κBおよびAP-1を活性化することも確認できている。
 NF-κBは,RelA(p65),RelB,c-Rel,NF-κB1(p105/p50),およびNF-κB2(p100/p52)の5つで構成されるRel/NF-κBファミリーの総称である 46)。これらNF-κBの5つサブユニットは,ホモあるいはヘテロ2量体を形成し,非活性状態では主に細胞質内でinhibitory κB(I-κB)ファミリー(と結合し,核内の10塩基からなるNF-κB領域(GGGACTTTCC)との結合が阻害されている。TLRを介したNF-κB活性化は,主に図2の細胞内情報伝達を介して達成される。NF-κB活性化の結果として,血管内皮細胞で転写が亢進する物質を表に示した。Tumor necrosis factor a(TNF-α),Interleukin-1β(IL-1β),IL-2,IL-6などの炎症性サイトカイン,一酸化窒素(NO)を過剰産生させる誘導型NO合成酵素(inducible nitric oxide synthase: iNOS),プロスタサイクリンなどのプロスタノイドを産生させる誘導型シクロオキシゲナーゼ(inducible cyclooxygenase-2: COX2),ロイコトリエン産生に関与する5-lipoxygenase,白血球の遊走や浸潤に関与するケモカインや接着分子,さらにはvonWillebrand因子,tissue factor,plasminogen activator inhibitor-1などの凝固活性化物質が,NF-kB活性に依存して転写を高める。特に,血管内皮細胞においては,産生されたTNF-αやIL-1βが,それらの受容体を介してNF-κB活性をさらに高める。このように,炎症性物質産生の根源に,NF-κB活性が関与することは,血管内皮細胞炎症を理解する上でも重要と考えられる。
一方,AP-1遺伝子群は, Jun,Fos,activating transcription factor(ATF),musculoaponeurotic fibrosarcoma(MAF)の4つのファミリーで構成される。これらのAP-1遺伝子群のうち,マウスのLPS静脈内投与による大動脈などの血管内皮細胞では,特にJunがJun-N-terminal protein kinase(JNK)によりリン酸化を受けやすい。リン酸化されたJunのホモ2量体や,JunのFosとのヘテロ2量体は ,DNA上のAP-1領域として知られるphorbol 12-O-tetradecanoylphorbol-13-acetate-responsive element(TPA- responsive element:TRE)との結合を高め,また,Jun/AFT複合体はcAMP-responsive element(CRE)に結合し,COX-2,接着分子などの炎症性マーカー,matrix metalloproteinase(MMP-1,MMP-3,MMP-9)などのプロテアーゼや,アクチンフィラメント伸展に関与するCapG,Ezrin,Krp-1,Mts-1などを転写段階で増加させる47)。さらに重要な点として,AP-1活性は,血管内皮細胞においても,外因性にアポトーシスを進行させるDeath受容体ファミリーの細胞膜発現を高めることが観察できる。このようなAP-1はNF-kBより遅れて活性を高めることが観察でき,血管内皮細胞においても,NF-kB活性が鎮下する時期にAP-1活性がピークを迎え,アポトーシスが誘導されやすい。
 以上のように,TLRシグナルは血管内皮細胞においても,NF-κB活性を介してケモカインを放出するAlertシグナルとして作用し,炎症性細胞を局所誘導させる一方で,独自に炎症や凝固を高める。さらに,TLRシグナルはAP-1活性を介して,アポトーシスを惹起し,炎症性警笛を発した後に細胞死を誘導させる。以上より,血管内皮細胞の保護の観点からは,少なくともNF-κBとAP-1活性を抑制する必要があるが,血管内皮細胞はグルココルチコイド受容体の発現が乏しいため48),これら転写因子の抑制をグルココルチコイドに期待できないのが現状である。図2におけるTNF-receptor–associated factor 6(TRAF6)やtumor growth factor-α associated kinase 1(TAK1)などの選択的阻害薬の開発が期待される。

おわりに

本稿では,TLRを細胞膜上に発現する細胞を警笛細胞と定義し,この警笛細胞で惹起される細胞内シグナルを,アダプター分子の観点より論じた。ヒトの血管内皮細胞には,TLRサブタイプのうちTLR1/2/4/5/6が認められる。また,ヒトの血管内皮細胞のTLRの主なアダプター蛋白は,MALとMyD88である。これらのリガンド刺激は,主にTRAF6やTAK1を介して,転写因子NF-κBやAP-1の活性を高め,炎症,凝固,および細胞死を誘導する。TLRシグナルを介した血管内皮細胞炎症の過程において,TRAF6やTAK1をターゲットとした創薬が期待される。






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Toll-like受容体と血管内皮細胞障害 参考文献

2008年07月07日 03時40分04秒 | 講義録・講演記録 2
文  献
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診療 死体検案書と死亡診断書について

2008年06月25日 07時28分53秒 | 講義録・講演記録 2

死体検案書と死亡診断書について

 

京都大学大学院医学研究科

初期診療・救急医学分野


松田直之

医師の死亡診断書の発行

医師の死亡診断書の発行に際しては,医師法第20条により,以下の2つの規定を満たす必要があります。
 1. 最終診療後24時間以内の当該傷病や当該傷病が影響を与えた直接死因で死亡した場合
 2. 死亡に立ち会った場合
 救急医療では,突然の心肺停止として,心肺蘇生を継続された状態で患者さんが運ばれて来ます。このような来院時心肺停止(CPAOA:Cardio-pulmonary Arrest on Arrival)では,救命救急センター内で蘇生を担当する医師は24時間以内の診察がない場合や,これまで一度も診療に立ち会っていない場合がほとんどです。 

 心肺停止が最終診療24時間以内の病気に関係するものでない限り,死体検案とし,死亡診断書ではなく,死体検案書を発行することになります。必ず,外因死の可能性を考慮することになります。

 死体検案書は,自身の診療中ではない患者さんや,診療中の患者さんが診察中の病気とは異なる事由で死亡した場合に,死亡診断書に代わって発行されるものでする。このような死体検案の対象は,必ずしも異状死体ではないことにも注意が必要です。

 死体検案を行った結果,実際には心拍が一度も再開することなく死亡確認した患者さんにおいて外因か内因かを断言することは極めて難しく,不可能です。異状死体か否かは,発行される書類が死体検案書か死亡診断書かによるのではなく,純粋な病死と確定診断できるかどうかにあります。異状死でなくとも,最終診療後24時間以内の当該傷病に関する死亡でない限り,CPAOAでは死体検案書を発行することを私はお勧めしています。死因が明らかそうであっても,自身が見ていないところでの心肺停止では,薬物中毒などを含むさまざまな外因的事件性が隠れている場合があります。内因死ではなく,外因的要素が含まれる可能性には十分に留意し,死体検案とすることが望まれます。

 死体検案における異状に際しては,医師法第21条により,24時間以内に所轄警察署に届け出る義務が明記されています。しかし,未だ異状死の定義は,必ずしも明確ではありません。日本法医学会は1994年に「異状死ガイドライン」を公表し,特に外因によるものや死亡原因が明らかでないものを異状死として定義しています。診断されている病気で死亡すること以外は,異状死としての可能性が高いことに注意して下さい。

異状死に含まれるもの

 1.外因による死亡(診療の有無や診療の期間を問わない)
 2.外因による傷害の続発症,あるいは後遺障害による死亡
 3.上記1または2の疑いがあるもの
 4.診療行為に関連した予期しない死亡,およびその疑いがあるもの
 5.死因が明らかでない死亡

CPAOAにおける死体検案

 CPAOAにおける死体検案は,異状死とは区分して考える必要があり,外因による異状死である場合にのみ,死体検案をするのではありません。突然の心肺停止での救急搬入では,死因が明らかでないとして,異状死として届け出ます。院外心肺停止ては,さまざまな事件を考慮する必要があります。CPAOAにおいて死亡確認をした場合には,死体検案を行い,死体検案書を発行することが望ましいとしています。


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2008年 周術期管理と免疫グロブリン療法 NO. 1

2008年04月29日 18時49分05秒 | 講義録・講演記録 2
2008年 周術期管理と免疫グロブリン療法 NO.1

京都大学大学院医学研究科
初期診療・救急医学分野
松田直之


はじめに

 心臓血管麻酔管理や急性心不全などの心血管病態に合併する全身性炎症反応症候群(SIRS: systemic inflammatory response syndrome)に後発する抗炎症反応症候群(CARS: compensatory anti-Inflammatory response syndrome)では,免疫機能の低下が具現化し,感染症の合併により,重症敗血症や敗血症性ショックとして全身管理が複雑となる1)。現在の心臓血管麻酔は交感神経緊張に伴う急性相反応の抑制は可能であるものの,心ポンプ失調や組織虚血に伴うSIRSやCARS,随伴するショックや多臓器不全,さらには免疫機能低下の抑制には,未だ多くの課題を残しており,血管内皮細胞保護2),さらにはスタチンのSIRS抑制の可能性などは重要な論点となる3)。
 静注用免疫グロブリン(IVIG: intravenous immunoglobulin)は,川崎病,特発性血小板減少性紫斑病,重症感染症,慢性炎症性脱髄性多発根神経炎,無γ-グロブリン血症などを含むさまざまな病態で有効性が確認されている血漿分画製剤である。血漿分画製剤としての副作用や合併症に十分な注意が必要であるものの,近年では,このIVIG療法が,移植手術後や心不全の病態改善に有効であるという論文が散見される。心臓・大血管手術の術後では液性免疫の低下により,感染症罹患率が高まり,重症敗血症やウイルス感染症に移行しやすい可能性は古くから報告されている。
 本稿では,集中治療医の免疫グロブリンに対する理解を深め,IVIG療法のSIRS病態における役割を考察し,心臓血管麻酔領域を含めた周術期炎症管理に対するIVIGの応用を探ることを目的とする。


免疫グロブリンについて

 免疫グロブリンは,細菌やウイルスなどの微生物や微生物の産生する異物を認識する糖蛋白であり,主に5種類のサブタイプからなる抗体の総称である。免疫グロブリンは,リンパ節,脾臓,粘膜リンパ組織などの末梢リンパ器官や骨髄由来に存在するB細胞により産生される。こうした免疫グロブリンを含む血清蛋白の分離は,1900年まで,主に塩濃度により沈殿する蛋白が異なるという現象を応用した塩析法で行われていた。血清蛋白は,この塩析法を用いて50%飽和硫酸アンモニウムで沈殿するグロブリン,50%飽和硫酸アンモニウムで沈殿しないアルブミンに分類されていた。1929年にHeidelbergerにより免疫沈降法が公表され,さらに1930年にTiseliusにより電気泳動法が開発されると,これらの手法を用いてグロブリンはさらにα1,α2,β,γの4つの分画に分類され,このγグロブリン分画に免疫を担当する「免疫グロブリン」が存在することが明らかとされた(図1)。現在,IVIGは健康成人の血清より抽出したポリクローナル抗体として世界各国で臨床使用されており,その世界における需要は年間90トン以上と見積もられている。本邦で臨床使用されているIVIG製剤はIgG抗体を抽出したものであり,現在,血漿1Lより約3.3 gのIgGが精製されている。海外ではIgG抗体にIgM抗体とIgA抗体を含有したものも臨床応用されている。
 IVIGには多種多様な免疫グロブリンが含有されており,これらは細菌やウイルスの認識抗体だけではない。Tumor necrosis factor-α(TNF-α),interleukin-1(IL-1),interleukin-6(IL-6),macrophage migration inhibitory factorなどの炎症性サイトカインや,TNF-α受容体などのサイトカイン受容体,さらには,アポトーシス誘導リガンドであるFasなどの,炎症とアポトーシスに関与する分子に対する抗体が,IVIGには含まれている4, 5)。炎症性受容体や炎症性リガンドは,免疫担当細胞に限らず,さまざまな主要臓器の細胞で炎症を惹起し,アポトーシスを加速させることが確認できる6)。さらに,IVIGには,サイトメガロウイルス,アデノウイルス,水痘帯状疱疹ウイルス,麻疹ウイルス,風疹ウイルス,ムンプスウイルス,インフルエンザウイルス,エンテロウイルス,コクサッキーウイルスなどの抗ウイルス抗体や,抗菌薬活性の期待しにくいメタロ-β-ラクタマーゼ産生緑膿菌,バンコマイシン低感受性メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA),バンコマイシン低感受性腸球菌属,メタロ-β-ラクタマーゼ産生セラチア,カンジダ属,多剤耐性緑膿菌などを認識する抗体が含有されている。本邦では,これらのウイルスや細菌に対する抗体価がIVIGのロットごとに報告されているため,重症敗血症に移行した際にはIVIGロットの有効性が確認しやすく,理論的には十分に抗菌薬の補助手段となる可能性がある。



免疫グロブリンの作用機序

免疫は,innate immunity(自然免疫,先天免疫,非特異的免疫)と,acquired immunity(獲得免疫,適応免疫,特異的免疫)の2種に分類される。自然免疫による微生物進入の防御機構は主に上皮バリアが重要であるが,SIRS病態では,消化管,気道粘膜をはじめとするさまざまな上皮バリアが広範に傷害され,浮腫状変化をきたす。このため,自然免疫の第1関門である上皮バリアは異物に突破されやすく,これに代わりマクロファージやナチュラルキラー細胞(NK細胞)などが活性化し,自然免疫を高めようとする。一方,獲得免疫は,T細胞が担当する細胞性免疫と,B細胞が担当する液性免疫の2つに分類される。
 胸腺由来のリンパ球であるT細胞は,既に細胞内に進入した微生物の断片と自己のmajor histocompatibility complex(MHC)の複合体を認識する。HMCは,白血球の血液型として免疫学的自他の認識を担当し,ヒトでは白血球抗原(HLA:human leukocyte antigen),マウスではH-2(histocompatibility-2)とも呼ばれている。CD4を細胞膜に発現するヘルパーT細胞はHMCクラスII分子と結合し,Th1細胞としてマクロファージや樹状細胞の細胞内消化を促進させ, Th2細胞としてB細胞の抗体産生能を高める。一方,CD8を細胞膜に発現するキラーT細胞は,ウイルスなどの寄生細胞や腫瘍細胞の断片とHMCクラスI分子との複合体を認識し,それらの細胞にアポトーシスを誘導する。
 抗体産生の基盤であるB細胞は,10億を超える抗原特異的な受容体を1つのB細胞に1つだけ発現できることが知られている。抗原に反応したB細胞は,そのシグナルをB細胞内で活性化させ,同じ抗原特異性を持つクローンB細胞を増殖させる。このようなクローンB細胞群は形質細胞に分化をとげ,一つの抗体を産生する分泌細胞群として機能する。患者の罹患過程で産生される抗体産生を待つ代わりに,IVIG療法は短時間で外来的に抗体を補充する療法であり,全身性炎症反応で生体内に浸潤する微生物の浸潤を他の健常者の力を借りて抑制する可能性を持つ。集中治療管理での最も望ましいIVIG療法は,心血管イベントや心臓血管手術の後に退院した患者より精製したIVIGを,他の患者の急性期管理に用いることである。しかし,このような検討は,未だ存在しない。
血中に最も多く存在するIgGの基本構造を,図2に示した。IgGは,分子量約5~7万のH鎖(heavy chain)と分子量約2.2~2.4万のL鎖(light chain)による4本のポリペプチドであり,H鎖とL鎖はいくつものジスルフィド結合(S-S結合)で架橋されている。生体内で10億を超える抗体分子の抗原特異性は,この構造におけるvariable region(V領域)で決定され,constant region(C領域)は関与しない。IgGのH鎖のC領域は,3つのCH1,CH2,CH3のC領域ドメインで構成され,CH1とCH2の境界にヒンジ領域と呼ばれるちょうつがい構造の屈曲領域が存在し,抗原との結合に弾力性を持たせている。抗原との結合領域はL鎖のVL領域とH鎖のVH領域であり,VL領域では3箇所,VH領域では4箇所にアミノ酸ループ構造が存在し,抗原をはさむように結合することが知られている。免疫グロブリンは,血清中の量の多い順にIgG,IgA,IgM,IgD,IgEの5種類が存在するが,これらは,異なるH鎖で構成され,各々に対応するH鎖はγ鎖,α鎖,μ鎖,δ鎖,ε鎖である(表1)。各免疫グロブリンのVL領域はκ鎖かλ鎖のいずれかで構成されており,微細な構造に差があるものの,免疫グロブリンとしての種差はない。
 このような抗体のうち,特にIgGは,1)微生物や炎症性物質の作用の中和,2)微生物のオプソニン化による貪食細胞の貪食能の促進,3)NK細胞の貪食細胞への細胞傷害性の亢進,4)補体の古典的経路の活性化,5)B細胞活性化の抑制の作用を持つ。これらの機能は,上述の各細胞の細胞膜上のFc受容体(FcR)にIgGが結合することで,特異的に惹起される(表2)。抗体のCH領域には,パパインで切断されるC末端領域のFc部分(fragment of crystallizable)が存在し,この抗体のFc部分をリガンドとするのがFcRである。マクロファージや好中球は, FcRの1サブタイプであるFcRIを介してIgGと結合した微生物や炎症性物質を認識し,それらの細胞内貪食や殺菌作用を高める。これに対して,IgAは微生物や炎症性物質の作用の中和を主作用とし,IgMは補体の古典的経路の活性化作用を高めることを主作用とする。IgEは,マスト細胞に存在するFcRIを介して,ヒスタミンなどの脱顆粒を促進する。




 
小児心臓手術後の乳糜胸に伴う低γ-グロブリン血症

 ミズーリ大学Tobias JDらのグループ7)は,2001年の段階で,心臓術後の小児に乳糜胸が合併すると低IgG血症となり,感染症罹患率が高まる可能性があると報告した。さらに,彼らは,2003年までの小児ICU領域における血清IgGレベルを調査し,20症例中14例に低IgG血症が認められたと報告している8)。このうち,完全大血管転位症や心室中隔欠損症などの小児心臓手術後の4症例では,全例で血清IgGレベルが正常の33~66%レベルに低下していた。また,2003年のOrange JSらによる小児乳糜胸8例による報告9)でも,全例でリンパ球減少症を伴い,8例中4例は重症敗血症を合併し,血清IgGレベルが179±35 mg/dLレベルに低下していたという。一方,Kovacikova Lら10)は,小児心臓術後に乳糜胸を合併した16例中,4例にのみIgGレベルの低下が見られるに過ぎないと報告している。
 このように,現在のところ,乳糜胸による低IgG血症の発症率にはばらつきが認められるものの,乳糜胸では低IgG血症が生じる可能性は否定できず,定期的な血清IgG濃度の測定により,IVIG療法の施行を評価する必要がある。小児の心奇形が低ガンマグロブリン血症を合併しやすいことは,ジョージワシントン大学のOnigbanjo MTら11)のグループでも検証されている。


成人心不全に対するIVIG療法

 クリーブランドクリニックのYamani MHらによる心臓移植術後220例の報告12)では,血清IgG濃度は,心臓移植前の平均1137±353 mg/dLより,心臓移植術後に約26%で500 mg/dL未満に,約10%で350 mg/dL未満に減少している。彼らの報告では,血清IgG濃度は,心移植後に緩徐に低下し,平均約196日で最低値に達している。サイトメガロウイルス(CMV)抗体を豊富に含む150 mg/kg のCMV-IVIG(CytoGam®)を1回投与した結果,日和見感染の発症率が64%から11%に有意に減じられ,拒絶反応が有意に抑制されたという。
 一方,心臓移植に持ち込むまでのventricular assist device(VAD)の装着時期にも,IgGレベルが低下することが知られている。同じクリーブランドクリニックのYamani MHらのグループ13)は,VADを装着している76名の患者を血清IgG濃度700 mg/dL前後で2群にわけ,感染症罹患率を比較している。血清IgG濃度700 mg/dL未満では感染症罹患率が56%から95%に高まり,さらにCMV感染率が16%から45%に高まっている。Yamani MHら13)のVAD装着では,血清IgG濃度の低値を認めなくとも,50%を超える高い感染症合併率を示している。1999年のHolman WL ら14)のVAD装着患者の解析では,2年生存率が38%であり,敗血症の罹患により2年生存率が8%に減じている。2002年4月より2004年12月までVADを装着された70名のSharples Lらによる解析15)では,2005年3月までの間に心移植を受けることなく43%が死亡し,7%がVADを装着し続けていたという。44%が心移植に持ち込まれ,6%は心機能回復によりVADから離脱できたという。このSharples Lら15)の報告でも,VAD装着中の感染症罹患が,死因の上位として挙げられている。
このような心不全状態において,IVIGは炎症に付随する心臓のアポトーシスを抑制する可能性が示唆されている。うっ血性心不全では,急性期よりTNF-αやIL-1βなどの炎症性サイトカインの血中濃度が上昇し,炎症性物質が産生されるばかりか,アポトーシスが進行することが知られている16, 17)。ノルウェー大学のGullestad Lら18)は,急性冠症候群あるいは特発性拡張型心筋症でうっ血性心不全に移行した40名の患者を対象として, 5日間の0.4 g/kg のIVIG療法を行い,1ヶ月ごとに0.4 g/kgのIVIGを5ヶ月間追加するプロトコールを立てた。対象とした患者群の左室駆出率は,IVIG群で最終的に26±2%より31±3%に増加したが,プラセボ群では左室駆出率の改善が認められていない。IVIG治療により,TNF-α/可溶性TNF受容体比やIL-1βが有意に低下し,抗炎症性サイトカインであるIL-10が有意に上昇している。以上より,Gullestad Lら18)は,うっ血性心不全の増悪因子として,炎症性サイトカインが関与する可能性を示し,IVIG療法は炎症性サイトカインの有意な状態から抗炎症性サイトカインの有意な状態へサイトカインシフトさせ,心機能を改善すると結論した。また,同時期の2001年に検証されたピップバーグ大学のMcNamara DMら19)の62名の拡張型心筋症患者を対象とした研究では, IVIGの投与は1g/kgの2日間に設定されている。McNamara DMら20)のデータでは,IVIG療法による統計学的に有意な改善が認められていない。Gullestad Lら21)とMcNamara DMら19)の治療効果の違いは,うっ血性心不全の発症後の経過の違いとIVIGの投与スケジュールの違いにあるかもしれない。McNamara DMら19)のデータは症状出現より6ヶ月以内の比較的早期の拡張型心筋症を対象にしており,プラセボ群の治療成績が極めて良いために,IVIG群との差が認められなかった可能性がある。
 このような結果を検証するものとして,2003年に京都大学の岸本ら20)により,症状出現より6ヶ月以内のNew York Heart Association(NYHA)class ⅢあるいはIVの左室駆出率40%未満の9名の患者を対象として,IVIG 1~2 g/Kgの1回投与による治療効果が評価された。岸本ら20)の9症例の原疾患の内訳は,急性心筋炎6名,急性拡張型心筋症3名である。IVIG施行前の左室駆出率の平均は19.0±7.5%だったが,IVIG療法の施行後約12日で,左室駆出率が35.4±9.1%に改善し,さらに, TNF-αとIL-6の血漿濃度はIVIG療法後に患者すべてで著明に減少し,酸化ストレスのマーカーである血漿チオレドキシン濃度も有意に減少していた。この研究はプラセボ群のないものではあるが, IVIGが有害となる結果は全例に認められず,診断に用いた心筋生検の結果からすれば,心筋の炎症のみならず,心筋傷害を軽減させる可能性を示している。

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2008年 周術期管理と免疫グロブリン療法 NO.2

2008年04月29日 18時47分24秒 | 講義録・講演記録 2
2008年 周術期管理と免疫グロブリン療法 NO.2

京都大学大学院医学研究科
初期診療・救急医学分野
松田直之


成人心臓血管手術の周術期の敗血症罹患におけるIVIG療法

 Buda Sら21)によるイタリア聖オルソラ病院からの報告では,成人心臓麻酔手術後の重症敗血症罹患患者に対するIVIG療法の有効性が検討されている。Buda Sら21)は,2001年6月1日から2003年6月30日までの66名の弁置換術,冠動脈再建術,胸部大動脈置換の術後に敗血症を罹患した患者に対して,抗菌薬に加えて,5% IgM-rich IVIG(Pentaglobinⓡ)を3日間5 mL/kg/日で投与し,死亡率を解析した。66名中47名は多臓器不全を合併した重症敗血症であり,11名は敗血症性ショックである。66名全体での死亡率は31%と高く,IVIG群で死亡率は22.7%,プラセボ群で36.4%と,IVIG群で治療成績が良いように見えるものの,統計学的にはIVIGが死亡率を減少させていない。しかし,47名の重症敗血症群における多変量解析ではIVIG群に死亡率減少が認められ,70日死亡率はIVIG群で約16%とプラセボ群の約47%と比較して有意に改善していた。
 敗血症に対するIVIG療法に関しては, Buda Sら21)の解析に先駆けて,1966年から2001年までのMEDLINEおよび1988年から2001年までのEMBASEに登録されたデータ解析が,Alejandria MMら22)により2002年にCochrane Databaseに報告されている。この時期の敗血症治療は,2004年のSepsis Surviving Campaign guidelines23)の発表前のものであり,必ずしも十分に統一された敗血症治療が施行されていたわけではない。しかし,27の臨床研究よる敗血症患者8,856名の解析より,IVIGの敗血症治療に対する生存率改善効果が,95%信頼区間0.86~0.96に対して相対リスクが0.91と有意に確認されている。2007年にTurgeon AFら24)により発表された2006年までの敗血症患者に対するIVIGのランダム化比較試験では,20の研究における2,621名が解析に耐えうるものとして評価され,敗血症全般でIVIG療法は95%信頼区間0.62~0.89に対して相対リスクが0.74と,有意に敗血症罹患後の生存率を改善すると評価された。また,この解析24)では,重症敗血症と敗血症性ショックの689名に対して,95%信頼区間0.52~0.79,相対リスクが0.64と有意に生存率改善が示されている。最終的に,重症敗血症と敗血症性ショックを対象としたこの報告24)では,1)IVIGの投与量は1g/kg未満でも1g/kg以上でも生命予後を改善させること,2)IVIGの投与期間は2日以下では生命予後を改善させず3日以上が有効であること,3)IVIG投与時期は敗血症罹患初病日でなくとも投与により生存率を改善させること,4)単なる敗血症ではなく,臓器不全を伴う重症敗血症や敗血症性ショックで生存率が高まることが,サブグループ解析として示されている。この検討に含まれないものとして,2007年12月にドイツの23施設共同によるIVIGのランダム化比較試験であるSBITS試験(score-based immunoglobulin G therapy of patients with sepsis study)25)がある。しかし,彼らの研究が施行されたのは1991年1月より1995年4月までであり,653名の敗血症患者に対してIVIGを初日0.6 g/kg,第2病日0.3 g/kgのプロトコールとし,28日生存率を比較している。彼らの治療成績はAcute Physiology and Chronic Health Evaluation(APACHE)II scoreが27~28レベルであるにもかかわらず,28日死亡率がプラセボ群で37.3%,IVIG群で39.3%と死亡率が高い。ショック罹患率が73~75%レベルであり,ショックに対する対応と比較して不十分である可能性は否定できない。Turgeon AFら24)の解析結果のように,IVIG療法は3日以上で,効果を示す可能性もある。2007年12月に発表されたLaupland KBら26)の14のIVIGのランダム化比較試験の解析では, 95%信頼区間0.53~0.83に対して相対リスクが0.66と,Turgeon AFら24)の解析結果と同様に,重症敗血症と敗血症性ショックに対してのIVIGの生存率改善が確認されている。このようにIVIGが周術期敗血症に対して有効である可能性が示唆されているが,海外でのIVIG療法の投与量は,本邦よりも投与量が多いことには,留意が必要である。


結 語


 急性期病態におけるIVIG療法の役割を,近年の文献に照らしてレビューした。小児心臓領域では周術期に低γ-グロブリン血症を併発しやすく,IVIG療法は感染症合併率を低下させる可能性がある。成人のうっ血性心不全やVADの管理においても,IVIG療法が感染症合併率を低下させ,死亡率を低下させる可能性が示唆されている。重症敗血症に移行した後であっても,IVIG療法の有効性が示されてきている。周術期におけるIVIG療法は,感染症罹患率や感染症罹患期間を減少させ,重症患者の生命予後を改善する可能性がある。しかし,海外でのIVIG療法の投与量は,本邦よりも投与量が多いことには,十分に留意する必要がある。


文 献

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<医学生講義> 急性期におけるインスリン分泌と糖代謝の病態生理学

2006年02月13日 03時52分59秒 | 講義録・講演記録 2
急性期におけるインスリン分泌と糖代謝の病態生理学


京都大学大学院医学研究科
初期診療・救急医学分野
准教授 松田直之

E-mail:nmatsuda@kuhp.kyoto-u.ac.jp


はじめに
 手術,外傷,急性膵炎,重症熱傷などの生体侵襲は全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome: SIRS)を惹起し,急性相反応(acute phase response)として糖新生と高血糖をもたらす1。手術は予定された外傷であり,その侵襲の程度により炎症や急性相反応の強弱が規定される。周術期の高血糖は患者死亡のリスクファクタであり,心臓血管術後など様々な急性期患者管理において厳密な血糖調節が再認識されている2。手術中の麻酔や手術後の鎮痛・鎮静は交感神経活性を抑制することにより神経終末からのカテコラミン放出を抑制し,周術期の高血糖を軽減することができる。本稿では周術期の患者管理として,血糖調節にかかわる生理の理解を目標し,インスリン分泌と糖代謝を論じる。

糖尿病の成因
 1999年に日本糖尿病学会糖尿病診断基準検討委員会が発表した糖尿病判定基準を表に示した3。正常な状態の空腹時血糖値は110 mg/dL未満で,75 g 経口ブドウ糖負荷試験(oral glucose tolerance test: OGTT)の2時間後でも140 mg/dL未満である。空腹時血糖値が126 mg/dL以上,OGTTの2時間後で200 mg/dL以上,随時血糖値200 mg/dL以上のいずれかが,日を変えて2回確認された場合,糖尿病と診断される。この中間に位置するものが境界型である。口渇,多飲,多尿,体重減少などの糖尿病に随伴する臨床症状,糖尿病性網膜症,HbA1C値6.5 %以上のいずれかの条件を満たせば,血糖値の異常が1回でも糖尿病の診断がなされる。
 このような糖尿病の成因は,膵頭β細胞の破壊に伴うインスリン欠乏に起因するI型糖尿病,インスリン分泌低下やインスリン抵抗性を導く遺伝素因に過食,肥満,運動不足などの環境素因が付加されて発症するII型糖尿病,妊娠に附随する妊娠糖尿病,インスリン遺伝子,インスリン受容体遺伝子,ミトコンドリア遺伝子などの遺伝子異常による糖尿病,そして,周術期に合併する外科系糖尿病(surgical diabetes)などに分類される。このようにさまざまな成因で高血糖が惹起されるが,インスリン欠乏の程度はまちまちである。インスリン欠乏の強い場合はケトアシドーシスに移行しやすいため,インスリン依存状態か否かを的確に評価することが必要である。

膵Langerhans島からのインスリン分泌機構
 ヒトの膵島は100万~200万個あり,膵Langerhans島の大部分を占拠するβ細胞は1細胞あたり10,000~13,000個のインスリン分泌顆粒を持つ。この分泌顆粒の直径は150~400 nmと,他のシナプス小胞体と比較すると大きい。正常の膵β細胞では分泌顆粒内pHが5レベルに保たれており,インスリン変換酵素やカルボキシペプチダーゼなどのインスリン合成酵素の活性を保つ。また,インスリンの等電点は5.5であるために,分泌顆粒内pHが5レベルに保たれることにより,インスリンが結晶化される。
 インスリンは2本のアミノ酸連鎖が2個所でジスルフィド結合した2量体構造をとり,分子量が5,808のポリペプチドである。ヒトの第11染色体短腕のインスリン遺伝子からプレプロインスリン(preproinsulin)が転写・翻訳されると,翻訳後修飾としてプレ部分がすみやかに切り離されてプロインスリンとなる。プロインスリンは,小胞体で翻訳後修飾を受け,ゴルジ装置で濃縮され,インスリン変換酵素により分断されインスリンとなり,分泌顆粒内に貯蔵される。
 このようにして産生されたインスリンは血糖値上昇により膵β細胞の分泌顆粒から放出される(図1参照)。膵β細胞内のグルコース濃度が高まると,主にglucose transporter 2(GLUT 2)を介して細胞内にグルコースが流入し,産生されたATPによりATP感受性カリウムチャネルが閉鎖しK+の細胞外放出が抑制される。これにより細胞膜が脱分極するため,細胞膜上の電位依存性Ca2+チャネルを介して細胞内へCa2+が流入する(図2参照)。インスリン結晶を含んだ小胞体は,この細胞内Ca2+濃度の上昇に一致して細胞膜へ移動し,細胞膜上にΩ構造の融合細孔を形成し,直接に毛細血管ではなく細胞間質へインスリンを開口分泌する。インスリンの開口分泌は細胞内Ca2+濃度上昇後,約3秒で生じ,他の小胞体分泌における所要時間の0.05秒と比較すると,緩徐な開口分泌が特徴である。融合細孔の構成成分は脂質であり,融合細孔の外側を支持タンパクが支配しており,この形状の変化により融合細孔が開大する。このようなインスリン開口分泌までの過程にはGTP結合型 Rab3などの低分子Gタンパクや,そのエフェクター分子Rim,granuphilin,Noc2などの活性が関与し,その詳細は未だ解明過程にある。
 結果としてインスリン開口分泌の細胞内情報伝達に影響を与える因子は,血糖値,カリウム濃度,交感神経活性,副交感神経活性,腸蠕動などである。血糖値上昇や高カリウム血症はインスリンの開口分泌を促進させるが,交感神経緊張状態では交感神経終末よりノルエピネフリンが放出され,アドレナリンα2受容体を介してGi/oタンパクを活性化し,インスリンの開口分泌を抑制する。副交感神経系は主に右迷走神経の分枝が膵島を支配しているが,アセチルコリン放出によるムスカリン受容体刺激効果は,そのサブタイプにより異なり,M1受容体,M2受容体,M3受容体を介してインスリン分泌が亢進し,M4受容体を介してインスリン分泌が抑制される。周術期管理に経腸栄養を行うことで腸管免疫を保つ重要性が示唆されているが,腸蠕動に伴い放出されるgastric inhibitory peptide(GIP)などの消化管ホルモンにはインスリン分泌促進作用がある。

インスリンの作用機序と糖代謝
 インスリンの結合するインスリン受容体は分子量340,000の複合蛋白であり,2種の糖蛋白サブユニットαとβがジスルフィド結合し,4量体として存在する(図2参照)。インスリンはインスリン受容体のαサブユニットと結合し,細胞膜を貫くβサブユニットの細胞内ドメインのチロシンキナーゼが活性化される。このβ-サブユニットのチロシン残基の自己リン酸化により,下流のアダプタータンパクへリン酸化シグナルが伝達され,GLUT 4を最終的に細胞膜上に移動させることで糖の取り込みが促進する。
 このインスリン受容体は骨格筋,脂肪組織,肝臓のみならず,血管内皮細胞や脳にも存在するが,インスリンによる糖摂取・糖代謝の80~85%は骨格筋により,約5%が脂肪組織による。器官や部位により,インスリン受容体や細胞内情報伝達系の発現に差を認めることや,インスリン受容体を発現する細胞数の違いから,インスリン効果の差が生じる。肝臓は空腹時には2 mg/kg/minのグルコースを産生しており,生体における糖新生の85%を担う。肝臓でのグリコ-ゲン分解と糖新生をインスリンは抑制し,グルカゴンが促進させる。グリコ-ゲン分解は主にグリコ-ゲンホスホリラーゼなどの律速酵素のリン酸化・脱リン酸化反応で調節されるが,インスリンはこれらの酵素活性を減じることでグリコ-ゲン分解を抑制する。糖新生はPEPCK(phosphoenolypyruvate carboxykinase-1)やG6Pase(glucose 6-phosphatase)などの触媒酵素の転写段階からの増加が重要であり,グルココルチコイド受容体,CREB(cAMP response element binding protein),フォークヘッド型転写因子(FoxO1など)により触媒酵素の発現が増加する。インスリンはホスファチジルイノシトール-3-OHキナーゼ(PI3K)の活性化などを介してCREBをリン酸化し,CREとの結合を低下させることでCRE活性を低下させ,FoxO1などをリン酸化することで転写活性を抑制し,糖新生を減じる。また,肝臓における糖新生をインスリンが抑制する間接的機序として,膵α細胞からのグルカゴン分泌抑制,骨格筋での糖新生基質の産生抑制,脂肪組織での脂肪分解抑制による肝臓への遊離脂肪酸の供給抑制,視床下部を介した肝臓での糖放出抑制が関与する。脳における糖の取り込みはインスリン非依存的に生じるが,インスリンが視床下部に作用して末梢組織のインスリン作用調節に関与する可能性が示唆されている。

インスリンによるGLUT 4の細胞膜輸送と血糖調節機構
 骨格筋,脂肪組織,血管内皮細胞はインスリン依存的にGLUT 4の細胞膜移動を起こし糖代謝に関与する効果器である。インスリン受容体以降のGLUT 4の細胞膜への移動に関与する細胞内情報伝達は図2に示したように主に3経路に分かれる。インスリン受容体の自己リン酸化についでinsulin receptor substrate(IRS)ファミリー,APS/Cbl系,三量体GTP結合蛋白Gαq/11のチロシン残基がリン酸化され,PI3KやTC10を活性化させる。結果的には,PKCサブタイプのPKC-ζとPKC-λ,そしてAktの活性化がGLUT 4の膜輸送に必要となる。こうしたPKCやAktのリン酸化を抑制するものとしてprotein phosphatase 2A(PP2A),インスリン受容体を含めたチロシンリン酸化を抑制するprotein tyrosine phosphatase-1B(PTP-1B),PI3Kに拮抗するPTEN(phosphatase and tensin homolog)やSHIP2(SH2-contamining inositol phosphatase-2)が知られている。
 GLUT 4はインスリン刺激のない状態では核周囲の微小管末端に非特異的小胞として観察されるが,上記リン酸化酵素の活性化により,微小管上を移動するモーター蛋白であるKIF3,KIF5などのキネシンがリン酸化され,GLUT 4小胞上のRab4などの低分子GTP結合蛋白と結合して,細胞膜方向にGLUT 4小胞が牽引される。微小管の細胞膜末端は直接に細胞膜に連結しておらず,アクチンネットワークに連結しているため,アクチンネットワーク上のMyo1cなどのミオシンモーターがGLUT 4輸送を引き継ぎ,GLUT 4の細胞膜融合をもたらす。
 細胞膜上にインスリン刺激により発現したGLUT 4は,膜表面からのエンドサイトーシスを受けてインターナリゼーションや分解を起こす。細胞内取り込みにはダイナミンなどによりGLUT 4が細胞膜から切り離される必要があり,さらにインターナリゼーションには微小管の細胞中心方向に働くダイニンなどのモーター蛋白の活性化が必要となる。このようなGLUT 4のインターナリゼーションに関与する物質を活性化させるものがGSK-3β(glycogen synthase kinase-3β)であり,インスリン刺激により活性化したAktやPKCにより抑制されている(図2参照)。以上のように,インスリンシグナルはAktとPKCの活性化を介してGLUT 4の細胞膜への移動を高め,GSK-3β活性を低下させることでインターナリゼーションを抑制している4。 

手術や麻酔の影響と創傷治癒
 手術は予定された外傷であり,その侵襲の程度により強い急性相反応が惹起される5)。神経内分泌系のストレス応答によりエピネフリン,ACTH,コーチゾル,グルカゴンなどのインスリン拮抗ホルモンの分泌が亢進するため,インスリン分泌低下,インスリン抵抗性が惹起され,肝臓では糖新生が亢進し,脂肪組織では脂肪分解,骨格筋では蛋白異化が亢進する。麻酔は交感神経緊張に伴うこれらの反応を軽減することができる。一方,手術や臓器虚血により惹起された活性酸素種,小胞体ストレス,高血糖はnuclear factorkB(NF-kB)などの転写因子を活性化させ,tumor necrosis factor-α(TNF-α)などの炎症性サイトカインの産生を増加させる。こうした炎症性サイトカインはインスリン感受性を低下させることが知られているが6),その機序の詳細は,未だ十分に解明されておらず,前述の生理学的解明に追従できていない。TNF-αについては,TNF-α受容体を介してJNK(Jun N-terminal kinase)やSOCS(suppressor of cytokine signaling)を活性化し,IRS-1のセリン残基をリン酸化してIRS-PI3K系を抑制する機序やPP2Aを活性化させAkt活性を抑制する機序が知られている。高血糖が持続した状態ではPKCεとPKCδが活性化しIRS-1のセリン残基をリン酸化するほか,PTP1Bの活性化によりIRS-1が脱リン酸化してインスリン感受性が低下することが知られている。
 2004年にSociety of Critical Care Medicineより発表されたsurviving sepsis campaign guidelinesでは,2001年N Engl J Medに掲載されたvan den Berghe Gなどの報告と2003年JAMAに掲載されたFinney SJなどの報告から,インスリンを用いた厳密な血糖調節により術後血糖値を150 mg/dL以下にすることを推奨している7)。麻酔領域における人工心肺を用いた200名の糖尿病患者の前向き臨床研究では2),術中に血糖値180 mg/dL以上でインスリン静脈内投与を開始した患者数は36 %であり,全体の18 %に血糖値200 mg/dL以上のコントロール不良を認めたという。血糖値コントロール不良群では急性肺障害,感染症,神経学的異常,急性腎不全の合併率が37 %とコントロール良好群の10%によりはるかに高いと報告されている。高血糖は好中球やマクロファージなどの白血球機能を低下させるため,術後感染の罹患率を高める8)。また,高血糖自体がNF-B活性を持続させることから,創部の炎症が持続し,コラーゲン増生が遅延するため,200 mg/dLを超える高血糖状態は創傷治癒の観点からも望ましくないと考えられている9, 10)。周術期における速効型インスリンの持続投与を用いた厳密な血糖値管理には低血糖の合併が懸念されるが,周術期高血糖は患者死亡のリスクファクタと考えられている。

経口血糖降下薬の種類と作用機序
 周術期管理において糖尿病を合併している患者管理を行うことは比較的多く,1型糖尿病はインスリン注射にで治療され,2型糖尿病は経口血糖降下薬で治療されていることが多い。一般に肥満が強いbody mass index 25 kg/m2以上の糖尿病患者では,インスリン分泌は保たれているもののインスリン抵抗性が強く,一方,痩せた糖尿病患者ではインスリン分泌が低下している傾向がある。使用される経口血糖降下薬は5種類に分類される。
 スルホニルウレア薬(SU薬)とグリニド系薬は,図2におけるKATPチャネルを結合阻害することで膵β細胞内のCa2+濃度を持続的に高め,インスリン分泌を促進させるものである。グリニド薬はSU骨格を持たない点で,SU薬と区分されている。メトホルミンやブホルミンなどのビクアナイド薬は肝臓でPKA活性を高めることで糖新生を抑制するが,その詳細な機序は未解決である。ピオグリタゾンなどのチアゾリジン誘導体は主に脂肪細胞に作用し転写因子PPARγを活性化することでインスリン抵抗性を改善するが,PPARγはSIRSにおけるNF-B活性を低下させることができるため,抗炎症作用が期待できる。アカルボースやボグリボースなどのαグルコシダーゼ阻害薬は,小腸領域で2糖類を分解するαグルコシダーゼを阻害することで糖吸収を遅らせる薬剤である。このような経口血糖降下薬の使用に際しては,インスリン不足の評価とインスリン抵抗性の評価が必要である。

おわりに
 膵β細胞からのインスリン分泌機構,効果器におけるインスリン作用機構などのインスリン作用の詳細が分子レベルで解明されてきているものの,周術期の全身性炎症反応症候群がどのようにこれらを修飾するかの詳細な検討は乏しい。このような病態生理学的解析とともに,麻酔薬の分子レベルでのインスリン作用修飾を再評価する必要があり,今後の研究が期待される。


引用文献
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表の血糖値は静脈血漿のグルコース濃度を示す。随時血糖値200 mg/dL以上の場合も糖尿病とみなす。判定には別々な日に行った検査で2回以上の確認を必要とする。口渇,多飲,多尿,体重減少などの糖尿病に随伴する臨床症状,糖尿病性網膜症,HbA1C値6.5 %以上のいずれかの条件を満たせば,血糖値異常が1回でも糖尿病の診断がなされる。


図2 膵β細胞からのインスリン放出のメカニズム
 インスリン非依存的にGLUT 2を介してグルコースが膵β細胞に取り込まれるとミトコンドリア電子伝達系を介してATPが産生され,ATP/ADP比が高まる。膵β細胞のATP感受性Kチャネル(KATPチャネル)はスルホニルウレア受容体SUR1とKir6.2で構成されており,このKATPチャネルが細胞内ATP濃度の上昇により閉じるために細胞外へのK+放出が阻害される。これにより細胞膜が脱分極し,電位依存性Ca2+チャネル(VDCC)を介して細胞内Ca2+濃度が高まることで,インスリン小胞の開口分泌が促進される。高血糖ではグルコース代謝に関連してVDCCの開口率が高まることも知られている。



図3 インスリン受容体を介したGLUT 4の細胞内輸送
 インスリンによる糖代謝を担う骨格筋,脂肪組織,血管内皮細胞では,微小管輸送を介したglucose transporter 4(GLUT 4)の膜輸送が行われる。インスリン受容体はαサブユニットとβサブユニットからなる4量体であり,インスリンとの結合によりβサブユニットのチロシンが自己リン酸化され,IRS-PI3K系,Gαq/11-PI3K系,Cbl-TC10系の3系統を介してAktと atypical PKCが活性化される。これらはGLUT 4のインターナリゼーションを促進させるGSK-3βを抑制し,微小管を介した細胞膜へのGLUT 4輸送を促進させる。


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論評 ホスホジエステラーゼIII阻害薬の細胞保護作用

2005年10月14日 04時21分34秒 | 講義録・講演記録 2


ホスホジエステラーゼIII阻害薬の細胞保護作用


北海道大学大学院医学研究科
救急医学分野
松田直之


はじめに

 現在11種類が同定されているcyclic nucleotide phosphadiesterase(PDE)は,その各々が様々な細胞でMn2+存在下にcAMPとcGMPを加水分解し,プロテインキナーゼA(PKA)とプロテインキナーゼG(PKG)の活性を制御している。循環管理で使用されるPDE3阻害薬の目的はcAMP分解を抑制し心筋細胞の陽性変力作用を高めることにあるが,近年,心臓,血管,肝臓,腎臓,腸管などの様々な臓器でPDE3阻害薬の細胞保護作用が示唆されている1-4)。本稿ではPDE3阻害薬の細胞保護作用を論じる。


PDE3阻害薬の現在

 PDE3はmRNA合成過程のスプライシングによりPDE3AとPDE3Bの2つのファミリーに分類される5, 6)。PDE3Aは心臓,血管平滑筋,血小板に高濃度で存在し7),一方,PDE3Bは肝臓,脂肪組織,膵臓に分布し,ジヒドロピリダジノン8)のようなPDE3B選択的阻害薬の肝細胞保護作用やインスリン機能改善作用が期待されている。このように少なくとも2種類のファミリーに分類されているPDE3は,蛋白レベルではPDE3A1(136 kDa),PDE3A2(118 kDaおよび94 kDa),PDE3B(123 kDa)などのいくつかの細かな表現型が存在し,さらに小胞体レベルではN末端に翻訳後修飾を受け,細胞内輸送が決定されている。正常な心筋細胞ではPDE3の多くは筋小胞体膜に存在するが,一部はゴルジ体のエンドソーム9)や核10)に分布する。このPDE3の細胞内局在は,全身性炎症や小胞体ストレスにより変化している可能性があり,今後,様々な病態で検討するべき課題である。
 現在日本で臨床使用されているPDE3阻害薬は,ミルリノン,オルプリノン,アムリノン,そして,カルシウム感受性増強作用を合わせて持つピモベンダンである。多くのPDE3阻害薬はPDE3阻害薬作用を10-7-10-5 mol/ L(M)で高めるのに対して,10-5M以上の濃度よりPDE4とPDE5の阻害作用が出現する11)。PDE4阻害により抗炎症効果が得られるため12, 13),10-5Mレベル以上の高濃度のPDE3阻害薬では確実に抗炎症作用が期待できる。このようにPDE3阻害薬の細胞保護作用の検討に当たっては,作用するPDEサブタイプと投与濃度の評価を加えることも大切である。


PDE3阻害薬と心臓保護作用

 心臓におけるPDE3の作用はcAMPのみならずcGMPの加水分解にある。その解離定数はKm cAMP=0.2 μM,Km cGMP=0.1 μMと大差がないが,cAMPの分解速度はcGMPに対して約10倍早いため,PDE3阻害は陽性変力作用に働く7)。このように心筋細胞ではcAMPが有意に高まるが,cAMPとcGMPの産生バランスにより陽性変力作用が制御されていることには留意が必要である。産生されたcGMPは,0.5 μMレベルの低濃度ではPDE3を抑制しcAMP産生を高めるが,5 μMレベル以上の高濃度ではcAMPレベルを低下させる2相性の作用を持つ14)。また,NOドナーの投与により細胞内cGMP濃度が高められている場合は,PDE3阻害薬がより強く心抑制に働く。細胞内cGMP濃度に依存的してL型Ca2+チャネル電流も抑制されるため,PDE3阻害薬の投与を過剰にした場合,細胞内cGMP濃度が高まることで細胞内Ca2+過負荷が軽減されるように,cGMPが自己制御的に働く14)。
 さて,虚血心筋では細胞内Ca2+過負荷が生じるが,この虚血耐性にはミトコンドリア機能が重要である15)。これまで虚血耐性を導くミトコンドリアにはKATPチャネルの開口が必要と考えられてきたが,これに加えて,PKA活性に依存して開口するlarge conductance Ca2+ activated K+チャネル(BKCa)がミトコンドリア内膜に存在し,虚血耐性に関与することが確認された16)。PDE3阻害薬をはじめとするPKA活性化物質は虚血心筋でp38 MAPK活性により細胞保護をもたらすことが知られていたが17),その一方で,cAMP,PKA依存性BKCa開口によるミトコンドリア内膜の過分極を介してミトコンドリアへのCa2+取り込みを抑制し,ミトコンドリア機能を維持させる可能性がある16)。虚血状態のミトコンドリアからは活性酸素が放出されるため,活性酸素放出に伴う心筋細胞のアポトーシスが進行するが,PDE3阻害薬などのPKA活性化物質がミトコンドリア保護を介してアポトーシスを抑制する可能性が示唆された。これは心筋細胞において,PKA活性化に伴う細胞内Ca2+過負荷をミトコンドリアレベルに持ち込まないようにする自己防御作用かもしれないが,心筋細胞に限らず,様々な細胞のミトコンドリアに共通するPKAの作用かもしれない。


PDE3阻害薬と血管保護作用

 心筋細胞と同様に血管にはPDE3とPDE4が存在するが,PDE3は血管平滑筋細胞に多く,PDE4は血管内皮細胞にも血管平滑筋にも存在する。アドレナリンβ受容体刺激を併用している場合,PDE3阻害薬は血管平滑筋でもcAMP産生を過剰に高め,PKA活性に依存して血管弛緩作用が強まる11)。NOドナーとの併用では強い血管拡張が惹起されるが,これは血管平滑筋でのcGMP産生が高まり,細胞内Ca2+流入が抑制されるためである11)。
 細胞保護作用が期待される炎症病態の血管内皮細胞では,Toll-like受容体やtumor necrosis factor-α,interleukin-1βなどの様々な炎症性受容体刺激により,nuclear factor- κB(NF-κB)などの転写因子が活性化され,結果的に,血管内皮細胞障害が進行する18)。このような病態で血管内皮細胞機能を維持するために,特に重要な役割を担うのがAktである15)。AktはAKT8と呼ばれるレトロウイルス由来の癌遺伝子v-aktに対応する癌原遺伝子より命名され,その構造がPKAなどに類似するため,プロテインキナーゼB(PKB)と呼ばれるセリン・スレオニンキナーゼである。敗血症血管ではAkt活性が一過性に増加するものの,敗血症の進行により活性が減少する傾向があり,リン酸化されたAktの作用であるアポトーシス抑制,eNOS活性,糖代謝改善,蛋白合成などの作用が損なわれる。我々のウサギ敗血症動物を用いた基礎実験系において19, 20),PDE3阻害薬オルプリノンは肺動脈や腸間膜動脈におけるAktのリン酸化を改善させ,血管内皮細胞を保護することを確認した(Figure参照)。
 今回報告された池田らによる研究は,オルプリノンが活性酸素を直接的に消去する可能性を示すものである21)。既に2002年にヒト臍帯静脈血管内皮細胞でリポポリサッカライドにより誘発されるアポトーシスをPDE3阻害薬シロスタゾールが抑制することが示されている22)。シロスタゾールはヒドロキシラジカルをIC50 2.58±0.07 μMレベルで消去し,活性酸素で惹起される血管内皮細胞のアポトーシスを抑制している22)。オルプリノンにおいても同様な活性酸素消去能が確認されたことは貴重であり21),オルプリノンはIC50 6.10±0.44 μMのPDE4阻害作用を高めない濃度でヒドロキシラジカルを直接的に除去する可能性がある。虚血再灌流障害15),重症敗血症18),熱傷23),放射線障害24)などに合併する細胞障害やアポトーシスの進行には活性酸素が重要な役割を担う。池田らによる報告21)はex vivoの研究であるため,アポトーシスなどの機能評価ができないものの,PDE3阻害薬の細胞保護作用にヒドロキシラジカル直接消去という新たな一面を追加した。このようにオルプリノンをはじめとするPDE3阻害薬は,活性酸素直接消去,ミトコンドリア保護,Akt活性化などにより細胞保護に働く可能性があり,今後の更なる検討と臨床応用が期待される。


結 語

 循環作動物質PDE3阻害薬の新たな側面として,血管内皮細胞保護や臓器保護が期待される。この作用は末梢循環改善以外の機序により惹起される可能性がある。PDE3阻害薬により,虚血や炎症病態で導かれる活性酸素の除去,ミトコンドリア機能維持,Akt活性化などを介して,細胞機能が維持されうる。PDE3は主要臓器のどの細胞のどこで何をしているのか,細胞保護作用という新たなPDE3阻害薬の可能性に期待している。

文 献

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心肺蘇生 AHAガイドライン2000

2005年04月09日 01時43分27秒 | 講義録・講演記録 2


心肺停止の判定と治療

Evaluation and care of cardiac arrest

 

松田直之



【はじめに】AHAガイドライン2000

 American heart association(AHA)による心肺蘇生のガイドライン2000(AHAガイドライン2000)が2000年に発表され1),1992年のガイドラインと比較し,より科学的論証に基づいた心肺蘇生法が提唱されるようになった。現在,このAHAガイドライン2000を用いた心肺蘇生が世界共通に行われ,シュミレーショントレーニングも多くの医療施設で医療従事者や医学生を対象に実施されるようになり,質の高い心肺蘇生法を学び,さらにより良いものへ改良していく基盤ができつつある。


【1】BLSからACLSへのスムーズな移行

1. Chain of survival concept(救命の連鎖)
救命のためには1)early access(早い通報),2)early CPR(早い1次救命処置),3)early defibrillation(早い除細動),4)early advanced care(早い2次救命処置)の4つの医療の連鎖が重要であり,これらを的確に連結させて初めて心肺停止患者の救命が可能となり,これをAHAはchain of survival concept(救命の連鎖)と呼んでいる。院内で意識レベルの低下した患者を発見した場合であれば,すぐに人を集め,第1発見者が適切にBLSを行い,人や救急カート,背板,除細動器,心電図計が到着した際には,まず,優先して除細動の適応を評価し,必要であればACLSに移行することになる。

2. Primary ABCD surveyとsecondly ABCD survey
 心停止の評価は,BLSの手順に準じて行われる。まず,意識確認を行い,意識低下を認めた場合,「見て・聞いて・感じる」呼吸の確認(10秒間以内)を行い,気道確保(頭部後屈あご先挙上法,あるいは,下顎挙上法)の後,rescue breathingを2回行い,「息・咳・動き・脈の触知」による循環徴候の確認(10秒間以内)を行う。このようなairway(A),breathing(B),circulation(C)の評価がBLSの基本となる。次に人が集まり,救急カートや心電図計,除細動器がそろった際には,すぐに心電図を装着し,まず心電図波形を評価する。この波形が心室細動(ventricular fibrillation: VF)か無脈性心室性頻拍(ventricular tachycardia: VT)の場合のみ,除細動(defibrillation: D)の適応になる。ここまでの評価と対応をprimary ABCD surveyと呼び,VFと無脈性VTに対する早期除細動の必要性をBLSに持ち込んだ概念である。
 
3. Secondly ABCD survey
 BLSのprimary ABCD surveyに対し,ACLSではsecondary ABCD surveyへ移行する。Secondary ABCD survey はprimary ABCD surveyと対比して理解するとよい(表1参照)。

4. ACLSチームリーダーを決定することが大切
皆がばらばらに動く心肺蘇生法は混乱を招き,蘇生効率が低下するため,ACLSではチームリーダーを決定し,リーダーの指示に従い行動する。ACLSはACLSのアルゴリズムを十分に理解した者により行なわれることが望ましく,チームリーダーはACLSのアルゴリズムを十分に理解した医師とする。リーダーには患者状態評価と蘇生における問題解決能力が要求される。

5. 感染防御の重要性
 ACLSの施行にあたり,標準予防策に準じた感染防御を行うことが必要である。ACLSに参加してくる医療従事者には,手袋,マスク,ガウンの着用を推奨する。


【2】心停止の判定と心電図評価

1. Flat line protocol
 心電図を装着してまっすぐな直線(flat line)だったからといって,心停止と早急に評価してはならない。心停止の最終確認はcheck pulseであり,頸動脈触知によるcheck pulseを必ず行う。心電図波形がflat lineである場合,flat line protocol(表2)に準じた確認を行う習慣も大切である。電極装着の確認,心電図感度を上げる,心電図誘導を変えることにより,隠れたVFの発見につながる。ACLSリーダーは,心電図を装着してflat lineを見たときに,心電図誘導を変え,心電図感度を最大とするように周囲に依頼することが大切である。

2. 心停止の心電図診断と4つの波形
 心停止と評価する心電図波形は1)VF,2)pulseless VT,3)asystole(エイシストリー)(心静止),4)PEA(pulseless electrical activity)(無脈性電気活動)の4つである。このうち,除細動の適応はVFとpulseless VTであり,asystoleやPEAには除細動を行ってはならない(図1)。PEAは従来の電導収縮解離と同義であり,心電図波形が認められるものの,脈の触知ができない状態をさす。

3. Check pulseの重要性
 心電図で心停止波形を認めたときは,必ず,頸動脈を触知し,心停止の最終確認を行う。Check pulseには頚動脈触知が第1選択であり,通常,頚部は露出されているため,触知法を覚えることで素早い頸動脈触知が可能となる。頚動脈触知は,まず甲状軟骨を触知することが大切であり,次に,手前に指を滑らせ胸鎖乳突筋との間域で触知するのが原則である。

<特論:Check Pulse:MATSUDA法>

NORMAL MATSUDA法2000
a. 頸動脈を第1選択とする。
b. 甲状軟骨を第2指と第3指の2本指で触知する。
c. 指は手前にすべらせる。
d 甲状軟骨と胸鎖乳突筋の間隙で2本の指を立てる。
e. 指圧は,動脈触知に適した圧に感知調節とする。
以上を,天井を見ていても,他の皆の処置を見ていても,患者さんを見なくてもできるまでにトレーニングする。

頭部保持MATSUDA法2000
頭の側に位置して,気道確保している状態では,左の頚静脈は自分の左手で,右の頚静脈は自分の右手で触知する。私は,研修の時期に,右手でも左手でも動脈圧ライン(観血的動脈路)や静脈路を確保できるように自己トレーニングしたが,この応用である。患者さんの頭に立った場合,他の者の邪魔をしない空間管理が,多発外傷にしても,心肺蘇生においても最も重要である。50 cm2で動くなと,後輩には教えている。つまり,頭側に立った場合には,患者さんへの左側処置は全て自分の左手を使い,患者さんへの右側処置はすべて自分の右手を付けうようにトレーニングされて初めて救急科医であるのだ。
a. 患者さんへの左側頸動脈触知は,自分の左手を使う。
b. 患者さんへの右側頸動脈触知は,自分の右手を使う。

【3】心電図波形に準じた心停止治療のアルゴリズム

 心電図装着後は,ACLSチームリーダーが心電図波形を評価し,「VFのアルゴリズムで治療を開始します」などのように,治療のアルゴリズムを大きな声で宣言し,チームが同一の治療方針にあるように方向付けることが大切である。心電図波形により心停止治療のアルゴリズムが異なることに留意して治療に当たる。
また,これらの治療では,絶え間ない心臓マッサージを原則とし,不必要に心臓マッサージが中断しないように工夫する。循環の再評価は1分毎に頚動脈触知と心電図確認で行い,タイムキーパーを1人用意し,1分毎に連絡してもらうとよい。さらに,記録係を一人設けることで,処置内容や使用薬物,心電図波形の記載を残すことが可能となり,あわただしい中にあっても,記録を残すように工夫する。
1.VFとpulseless VTのアルゴリズム
VFとpulseless VTの治療のアルゴリズムを図2に示した。心電図装着後,VFとpulseless VTである場合,電気的除細動の絶対的適応となる。VFかpulseless VTが継続する限り,3回の除細動が終了するまではパドルを胸壁より離さずに200 J,300 J,360 Jの順に除細動を継続させる。この最初の3連続除細動に反応しない難治性VFやpulseless VTの場合,secondly ABCD surveyに移行する。
 まず,ACLSチームリーダーは気道確保者に気管挿管の指示を出し,次に,別な医師に静脈路確保の指示を出す。気管挿管後は気管内からエピネフリンを投与し,静脈路確保後は静脈内投与に変える。成人の場合,気管挿管完了までは心臓マッサージと人工呼吸は15:2の比率で同期させるが,気管挿管後は心臓マッサージは1分間に100回の速度とし,人工呼吸と非同期でよい。除細動を行う以外では,チームリーダーは絶え間ない心臓マッサージを指示し,1分毎に循環の再評価を行う。エピネフリンは3~5分毎の投与とし,その間1分毎の循環評価に際しては,VFやpulseless VTが継続している場合,リーダー自らが360 Jで除細動を1回のみ行う。除細動無効時には,図2のように抗不整脈薬投与を考慮し,循環の再評価にあわせてリドカイン,硫酸マグネシウム,プロカインアミドの順に選択する。この他に抗不整脈薬として推奨されているものにアミオダロンがあるが,日本では静注薬が発売されていないため,同じVaugham Williamsらの分類のIII群抗不整脈薬に分類されるニフェカラント(シンビット®)を用いてもよい。このような治療に効果を示さない難治性不整脈に対しては,心原性の心肺停止の可能性が高く,経皮的心肺補助(percutaneous cardiopulmonary assist systems:PCPS)の導入を考慮するが,AHAガイドライン2000では,明らかな余後改善の有効性は示されていない。

2.Asystoleの治療のアルゴリズム
 心電図装着後,flat lineを確認した場合,flat line protocolに基づき,隠れたVFを除外することが大切である。その上で,check pulseを行い,asystoleと確定した場合,チームリーダーは「asystoleのアルゴリズムで治療を開始する」と宣言する。直ちに,secondary ABCD surveyに移行し,気管挿管,静脈路の確保を指示し,1分毎の循環評価の際にasystoleが継続していればエピネフリン,アトロピンを順に用いる。動脈血ガス分析により代謝性アシドーシスや高K血症が高度な場合には重炭酸ナトリウムの投与も考慮するが,これはルーチンに行われるものではない。チームリーダーは絶え間ない心臓マッサージを指示することが大切である。

3.PEAの治療のアルゴリズム
 心電図装着後,心電図波形が認められるものの,脈を触知できない場合,PEAとしてsecondary ABCD surveyに移行する(図4参照)。PEAの治療はasystoleに準じるが,表3の原因検索を行うことが重要である。このために,動脈血ガス分析,エコー図が有用であり,潜在的な血流を評価するためには超音波ドプラーが鋭敏である。Asystoleと同様にPEAに対する最も重要なことは,治療可能な原因を検索し,原因を特定し,取り除くことにある。動脈血ガス分析の結果,極度なアシドーシスや高カリウム血症が存在する場合,重炭酸ナトリウムの投与を考慮し,出血や脱水による循環血液量低下に対しては急速輸液の反応をみる。

4.呼気ガス二酸化炭素モニタによる心臓マッサージの効果判定
 心停止のアルゴリズムにのっとり,治療を行う過程での有効な心臓マッサージの評価は,呼気ガス二酸化炭素モニタを用いるとよい。Secondly ABCD surveyへ移行し,気管挿管され,心臓マッサージが有効な場合には肺血流が生じるため,呼気ガス二酸化炭素モニタに呼気ガス波型が生じる。心停止のアルゴリズムにおいて,循環評価の時期以外には絶え間ない心臓マッサージを継続させることがチームリーダーの役割でもあるが,呼気ガス二酸化炭素モニタを用いて心臓マッサージの有効性を評価するとよい。


【4】心肺蘇生に用いる薬物の留意点

1.気管内投与と静脈内投与の原則
 すべての心停止波形のsecondary ABCD surveyのアルゴリズムにおいて,気管挿管は静脈路確保に優先する。蘇生に用いる薬物のうちエピネフリン,アトロピン,リドカインは気管内投与することが可能であり,静注量の2~2.5倍を10 mLの生理的食塩水か蒸留水で希釈して気管内投与できる。
 静脈路確保は正中皮静脈を第1選択とし18 Gカテーテルを留置するのがよい。正中皮静脈からの薬物投与後は,輸液剤20 mLを急速に後押しし,上肢を10~20秒間挙上させることで, 全身循環に薬物が早く到達するようにする。

2.エピネフリン(エピクイック®)
 エピネフリンは他のアドレナリン受容体作動薬よりも脳血流と心臓血流を増加させ,心停止における脳血流維持のためのカテコラミンとしてAHAガイドライン2000でも推奨されている。エピネフリンの静脈内投与量は1回1 mgが推奨されており,これ以上の多量のエピネフリン投与はむしろ心毒性として働き,有害である可能性が示唆されている。エピネフリンの血中消失半減期は3~5分であるため,1分毎の循環の再評価の際に,3~5分毎にエピネフリンを追加投与する(図5参照)。実際に,エピネフリンは社会復帰のための心肺蘇生に必要なのかどうか,この検証は重要である。社記復帰のための心肺蘇生には,アトロピンのみを用いて,心臓のムスカリン受容体シグナルM2-Giを抑制することのみが重要と考える。

3.バゾプレッシン(ピトレシン®)
 本稿の心停止波形のアルゴリズムではエピネフリン投与を第1選択として記載したが,AHAガイドライン2000ではエピネフリンの代わりに,バゾプレッシン40 Uの静脈内投与も推奨されている。バゾプレッシンは強い血管収縮作用により脳血流と心臓血流を増加させることができ,消失除去半減期が10~20分であるため,1度投与すると10~20分間は再投与を必要としない。10~20分後に治療効果が得られない場合は,エピネフリンに戻ることが容認されている。

5.アトロピン(アトクイック®)
 アトロピンはasystoleとPEAのアルゴリズムで用いられ,エピネフリンまたはバゾプレッシンの次に用いられる第2選択薬である。副交感神経遮断により交感神経緊張を高めるが,心筋酸素消費量を高める可能性や低体温での使用に注意が必要である。通常は,asystoleとPEAのアルゴリズムにおいて,エピネフリン投与1分後の循環評価の際にasystoleとPEAが継続した場合に,アトロピンを1 mgを静脈内投与する。アトロピンの血中消失半減期は10時間以上であり,極量を0.04 mg/kgとし,この量により十分な副交感神経遮断ができる。しかし,pH<7の状態では,アトロピンによる副交感神経遮断は,心筋細胞のCa過負荷を助長させるのみであり,蘇生には無効であろう。

6.リドカイン(リドクイック®)
 リドカインはVFとpulseless VTの抗不整脈治療に用いる第1選択であり,これらの治療アルゴリズムではエピネフリンの次に投与される。リドカインは心室筋の自動能を抑制しVFやVTの発生を抑制する。リドカインの推奨される1回静脈内投与量は1~1.5 mg/kgである。難治性VFに対しては5~10分ごとに0.5~0.75 mg/kgの追加静脈内投与を行うが,3 mg/kgを蘇生における投与極量とする。高齢者や肝機能障害を伴う患者ではリドカイン投与量を減じる必要があり,投与量下限値1 mg/kgの1回投与でよい。

7.硫酸マグネシウム(マグネゾール®,コンクライト-Mg®)
 VFとpulseless VTに対して,マグネシウムの有効性を示した大規模無作為試験はなく,有効性が確立されていないが,アルコール中毒や低栄養,低マグネシウム血症が疑われる患者には硫酸マグネシウム1~2 gを1~2分で静脈内投与することが推奨されている。低マグネシウム血症がなくともtorsades de pointesパターンのVFにはマグネシウム投与が有効である。心臓の刺激伝導系や心筋細胞のL型カルシウムチャネルを抑制するように働いており,低マグネシウム血症は心筋細胞の自動能を亢進させ,不整脈や突然死を惹起する誘因となる。一方,マグネシウムの急速投与はasystoleを惹起する可能性があり,投与に際しては,マグネゾール(10%)® (1アンプル:2 g/20 mL)か,コンクライト-Mg ® (1アンプル:2.47 g/20 mL)を1~2分かけてゆっくりと投与する。

8.プロカインアミド(アミサリン®)
 プロカインアミドは心筋の自動能のみならず,心室内電導を抑制するために,リドカインに抵抗性のあるVFやpulseless VT,また,非VF状態になるものの再びVFに戻る難治性VFの治療に用いる第3選択の抗不整脈治療薬である。アミサリン® 200 mg(1アンプル 100 mg/mL)を生理食塩水18 mLで希釈して総量 20 mLとし,1分毎に20~30 mg(2~3 mL)の投与とし,最大17 mg/kgまで投与する。プロカインアミド投与により不整脈が消失し心拍が再開した場合は,シリンジポンプを用いて維持量を1~4 mg/分とするが,プロカインアミドは腎排泄であるために,長期投与に際しては腎機能を十分に評価する。

9.ニフェカラント(シンビット®)
 Vaugham Williams分類ですべての群の作用を有するアミオダロンの有効性がVF治療において知られているが,Vaugham Williams分類でIII群抗不整脈薬に分類される塩酸ニフェカラント(シンビット®)を用いた有効例が報告されている。シンビット®1瓶50 mgを生理食塩水20 mLに希釈し,1回0.3 mg/kgを5分間かけて緩徐に静脈内投与することができる。私は,難治性VFであればニフェカラントを使用する。しかし,アミオダロンの静注使用が最も期待される。

10.炭酸水素ナトリウム(メイロン®)
 炭酸ナトリウムは蘇生においてルーチンに使用すべきものではなく,血液pHをアルカリ化することでヘモグロビンの組織局所での酸素放出を妨げ,組織の嫌気性代謝を促進させる可能性があることに注意する。また,換気が不十分な状態での炭酸ナトリウム投与は,組織への二酸化炭素の蓄積を促し,透過した二酸化炭素により組織のアシドーシスが助長する。よって,心肺停止で炭酸ナトリウムの投与が推奨される場合は,1)高カリウム血症,2)気管挿管が既に行われ換気が十分に行える場合,3)pH 7.2以下の代謝性アシドーシス,4)薬物中毒による心停止で尿をアルカリ化したい場合に限られる。メイロン®の初期投与量は1 mEq/kgとし,10分後に半量を投与する。一般に,pH7.2を目標として,適正換気とともに,メイロンの使用を施す。pH<7.0では,心筋細胞のCa過負荷,心拡張不全に注意する。


【5】心肺蘇生の中止

 心肺蘇生を中止する場合は,1)患者の生命反応が戻った場合,2)上級者に判断を委ねる場合,3)非可逆的な死の確認,4)医学的専門家が中止を指示する場合,5)蘇生処置を行う者が疲れたり周囲に危険が迫った場合,6)患者が蘇生を拒否していたことが判明した場合(DNAR:do not attempt resuscitate)が挙げられるが,特に,ACLSにおいては,十分な蘇生処置が行われて30分を目安に自発的な循環が再開することがない場合,CPRを中止してもよいとされている。患者の非可逆的な死の兆候として,死斑の出現は20~30分,死斑融合は1~2時間,顎硬直は2~3時間であり,蘇生処置を開始したものの,十分に効果が得られない場合は,非可逆的な死を確認することが必要である。


【おわりに】ICLSコースとACLSコース

 本稿ではAHAガイドライン2000に沿って,心停止の判定と治療の概略を述べた。心停止波形に準じた各アルゴリズムをACLSチームとして行うトレーニングは,救急領域を超えて,医療従事者の常識として重要である。現在,日本救急医学会が主催するICLS(immediate cardiac life support)コース2),日本循環器病学会の主催するACLSコース3)が,心肺蘇生のシュミレーションを提供しており,このようなコースに参加し,心肺蘇生を体得することも重要である。その一方で,頭を使って,次代を予測して,ガイドレインレベルを超えた究極の心肺蘇生理論を展開することが救急医学を教育する講座には期待される。ブログであるために,未来像を展開している記載もあるが,本稿が,新しい心肺蘇生法の手引きとなれば幸いである。心肺蘇生は,技術,つまりテクニックとして,完成される基礎がある。そのテクニックの普遍化をはかる一方で,次代を変えるための発展と創造が,この領域にも重要である。


参考文献

1. American Heart Association: Guidelines 2000 for cardiopulmonary resuscitation and emergency cardiovascular care. Circulation 102: I-1~I-252, 2000

2. 平出敦,山畑佳篤:ICLSコースガイドブック. 羊土社 p12-75,2004 

3. 岡田和夫,青木重憲,金弘 監修:ACLS プロバイダーマニュアル. 中山書店 p1-130,2004


<表と図>
表1 Primary ABCD surveyとsecondary ABCD survey

表2 Flat line protocol

表3 PEAの原因鑑別

図1 心停止の4つの心電図波形

図2 VFとpulseless VTの治療のアルゴリズム

図3 Asystoleの治療のアルゴリズム

図4 PEAの治療のアルゴリズム

図5 エピネフリン投与のタイミング


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