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新規「救急一直線」
心肺蘇生 コンセンサス2005
京都大学大学院医学研究科
初期診療・救急医学分野
准教授 松田直之
1. 心肺蘇生法の概念
心肺蘇生法(CPR: cardiopulmonary resuscitation)は,心肺停止(cardiopulmonary)を素早く診断し,全身循環を得るための手法であり,一次救命処置(BLS: basic life support)と二次救命処置(ALS: advanced life support)の2つから構成される。特に,心肺蘇生法の目的は,全身循環の中でも「脳血流の維持」にあると考えてよい。脳はすべての臓器の中で最も虚血に弱い臓器であり,心肺蘇生法で心肺循環が改善し,循環と呼吸が再起動しても,傷病者は低酸素脳症として社会復帰できない場合を多く認める。この脳虚血時間を短縮するためには,心肺停止を評価する速やかな手順と蘇生システムが必要である。倒れている傷病者をはじめて見つけた第1発見者および駆けつけた救助者は,119番救急通報あるいは院内通報を直ちに行った後に,傷病者を社会復帰させるためにbystander(立会人)として心肺停止状態にあれば心肺蘇生(Cardiopulmonary Resuscitation:CPR)を開始する必要がある。成人の心肺停止後の社会復帰は,1)early access(第1発見者による迅速な通報),2)bystander CPR(迅速な心肺蘇生),3)early defibrillation(迅速な除細動),4)early advanced care(迅速な二次救命処置)の4つのステップを必要とし,これをchain of survival(救命の連鎖)と呼んでいる。これに対して,小児の「救命の連鎖」は,1)心肺停止の予防,2)迅速な心肺蘇生,3)迅速な通報,4)迅速な二次救命処置の4つを構成要素とする。これらの上記1)~3)までのステップが一次救命処置であり,傷病者の社会復帰を最も決定する重要な処置である。しかし,心肺蘇生法はテキストを読むだけでは施行することは不可能であり,病院内実習やさまざまな心肺蘇生講習会を通して,手技として体得する必要がある。2005年以降に発表された心肺蘇生ガイドラインでは,傷病者の社会復帰に対する一次救命処置の重要性が強調されている。
2. ガイドライン2000と国際コンセンサス2005
米国心臓病学会(AHA:American Heart Society)と米国医師会(AMA:American Medical Association)は1974年より6年ごとにthe Journal of the American Medical Association(JAMA誌)に「Standards and Guidelines for Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiac Care」を発表し,心肺蘇生ガイドラインを構築してきた。以上の流れの中で,AHAは2000年8月に,国際蘇生連絡協議会(ILCOR(イルコア):International Liaison Committee on Resuscitation)と伴に,「Guidelines 2000 for Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care」をCirculation誌に発表し,心肺蘇生ガイドラインをより学術性のあるエビデンスの高いものとした。このガイドライン2000は,それまでJAMA誌に掲載された心肺蘇生指針などを,より科学的根拠に基づいて,ガイドラインとして編集したものである。一方,2003年よりILCORは,コンセンサス2005の作成に向けて,「1次救命処置」「2次救命処置」「急性冠症候群」「小児救命処置」「新生児救命処置」「教育に関する問題」の6つの作業部会を作り,2005年には国際コンセンサス2005(CoSTR(コスター): 2005 International Consensus on Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care Science with Treatment Recommendations)をCirculation誌に公表した。
この国際コンセンサス2005に基づき,本邦でも2006年6月に「救急蘇生法の指針 市民用」,2007年1月には「救急蘇生法の指針 医療従事者用2005」が,本邦の医療システムに適したガイドラインして公表された。今後は,さらにこれらの心肺蘇生法を用いた治療成績の結果を公表し,世界の蘇生指針に本邦からも新たなエビデンスを提供することになるであろう。心肺蘇生法のガイドラインは,今後もエビデンスと実用性の高いものへと進化していく。国際コンセンサス2005においては,多くの点でガイドライン2000が踏襲されている。この中で,ガイドライン2000と国際コンセンサス2005の違いを理解することにより,国際コンセンサス2005の心肺蘇生指針の着眼点が明確化するとよい。
ガイドライン2000と国際コンセンサス2005の主な変更点は,1)心肺蘇生開始のタイミングに死戦期呼吸を含めた点,2)人工呼吸の吸気時間を約1.5-2秒より約1秒に短縮させた点,3)人工呼吸の施行に難渋する場合には人工呼吸の省略を認めた点,4)胸骨圧迫・人工呼吸比率を,15:2より30:2に変更した点,5)心室細動や無脈性心室頻拍に対する除細動回数を連続3回より1回に減じた点などである。国際コンセンサス2005では,特に「絶え間ない胸骨圧迫」を重視している。国際コンセンサス2005では,一次救命処置に対するだけでなく,二次救命処置を含めて,胸骨圧迫の継続を如何に妨げないかに重点が置かれていると理解されるとよい。胸骨圧迫法に関しては,「Push hard, push fast」,すなわち,「強く,速く」が随所で強調されている。本稿では,国際コンセンサス2005に沿った心肺蘇生法を概説する。
3. 心肺蘇生に必要とされる手技
救急通報は行ったが,bystander CPRが施行されていないケースは2007年の段階でも,一般市民の多くに認められる。医療従事者である以上,bystander CPR開始のタイミングを逸してはならない。
院内発症においても,顔色が変だ,前かがみになっているなどの異常状態に気付いた場合には,まず,意識,呼吸と循環の順番で,傷病者を評価する。まず,意識を確認し,意識低下が認められた場合には,院外であれば119番通報,院内であれば,「応援要請」と「資機材の手配」を行わねばならない。交通事故や転落などの外傷では,蘇生処置に移行する際に,頸髄損傷を否定できないため,頭頚部を安易に他動的に動かしてはならないことにも留意しなければならない。
【ノート欄】
■ Phone firstとPhone fast
通常は,意識の悪い傷病者を発見した際には,すぐに緊急連絡を行い,これをphone firstと呼んでいる。これに対して,心肺蘇生を2分間施行したあとで,救急通報することをphone fastといい,溺水,薬物中毒,小児などの呼吸原性の心肺停止が疑われる場合の対応である。
■ 蘇生に必要とする資機材
院内発症の心肺停止では,応援要請とともに,バック・バルブ・マスク,背板,救急蘇生セット,自動体外除細動器(AED: automated external defibrillator)などの資機材の要請を行う。
4. 傷病者発見時の初期対応
傷病者を発見した際には,まず,意識の確認が大切である。肩を軽く叩きながら大きな声で呼びかけて反応がなければ,「意識低下」と評価する。外傷では呼びかける前に頭頚部を用手的に保持し,意識を確認する。「意識低下」と評価した場合に,次にまず行うことは,大きな声で周囲に状況を知らせ,人を集めることである。大きな声で呼んだにもかかわらず,誰も応答のない場合には,携帯電話や院内PHSなどを用いて,救助者を集めることに留意しなければならない。各医療施設では,このような緊急事態に対応する院内通報として,「コードブルー」や「DRハリー」などが設置されている。この緊急通報の後には,第1発見者や集まってきた救助者は,直ちにbystander CPRを開始する必要がある。救助者が一人しかいない場合に,緊急通報に先駆けてbystander CPRを2分間施行するphone fastの基準は,8歳未満の小児,薬物中毒,溺水などに多く認められる呼吸原性の心肺停止である。呼吸原性心停止では,気道の開通と人工呼吸により心拍が再開する可能性が高い。
【ノート欄】
■ WitnessとBystander CPR
意識を消失しそうになるところを見ていた場合,「Witness(目撃)あり」とする。また,この目撃者や集まってきた救助者により,直ちに心肺蘇生が行われた場合,「bystander CPRあり」とする。「Witness(目撃)あり」「bystander CPRあり」により,社会復帰率が高まる。「Witness(目撃)なし」「bystander CPRなし」の状況では,二次救命処置により心拍や呼吸が再開されても,低酸素脳症の可能性が高まる。
4-1. Bystander CPR
Bystanderが施行するCPRが,一次救命処置(Basic Life Support: BLS)である。国際コンセンサス2005ではBLSが重視されている。このBLSの過程で,最も留意するべき点は,胸骨圧迫法を可能な限り中断しないことである。適切な気道確保状態で,胸骨圧迫法を継続できる手技が必要とされる。
1)気道確保と呼吸・循環の確認
意識低下の発見に次いで,傷病者を心肺停止と評価するためには,適切な気道確保を行い,呼吸と循環を確認する必要がある。気道確保は,一般に,頭部後屈あご先挙上法(図3)で行う。項部挙上法は不適切な気道確保法である。一方,外傷などで頸髄損傷が疑われる場合の気道確保は,下顎挙上法(図4)が第1選択となる。気道は一般に,あごを胸壁に押し付けることで閉塞し,匂いをかぐポジション(sniffing position)で開通する。
この呼吸確認の手技は,「見て,聞いて,感じて」を中心とする5感で行い,10秒以内に評価する。呼吸確認に,10秒以上かけてはならない。すなわち,呼吸観察のためには,図3のように,観察者は同一姿勢で周囲に振り返らず,胸壁運動を見て,耳で呼吸を聞いて,頬で呼気を感じる姿勢が必要である。この際に,あわせて図5のように頚動脈を触知し,循環の有無を確認する。頚動脈触知は,手掌や多指を用いるのは不適切であり,甲状軟骨を触知した後に,示指と中指を自らの肘の方向に滑らせ,胸鎖乳突筋と気管軟骨の間で触知する。呼吸と脈が確認された場合は,呼吸と循環が保たれていると評価できる。呼吸と脈が確認され,さらに外傷でない場合は,傷病者を回復体位(図6)として,救命救急医などの蘇生専門医師の到着を待つ。
2)人工呼吸2回
次に,呼吸と循環が確認できない場合には,まず,人工呼吸を2回試みる。人工呼吸には,約1秒かけて胸の挙上を確認できるレベルまで送気する。ガイドライン2000では人工呼吸の吸気時間を約1.5-2秒に設定していたが,これらの気道確保手技に戸惑うことで,胸骨圧迫までの時間が遷延することが多く観察された。国際コンセンサス2005では,約1秒,2回の吸気吹き込みが推奨されている。人工呼吸に際しては,手元にバック・バルブ・マスクがある場合は,これを用いるべきである(図7)。人工呼吸が困難な場合は,sniffing positionで気道確保した状態で,胸骨圧迫のみを施行する。人工呼吸にとらわれて,胸骨圧迫までの中断時間が10秒を超えることを避けることに留意する。
感染防御の観点からは,傷病者がHIV,肝炎ウイルスなどの感染症罹患者である可能性もあるため,口対口,鼻対口の無防備な人工呼吸は,決して推奨されない。ベッドサイドであれば直ちに手袋を着用し,バック・バルブ・マスクを用いるべきである。感染防御体制が直ちにとれない場合には,資機材,感染防御具,蘇生熟練者などの到着まで,人工呼吸は施行せず,頭部後屈などの気道確保状態での胸骨圧迫法を優先させる。感染防御が取れない場合には,人工呼吸2回にこだわるべきではない。
3)胸骨圧迫法の開始
呼吸と循環が確認できない場合には,人工呼吸の試みに次いで,胸骨圧迫法を開始しなければならない。胸骨圧迫には,胸骨の圧迫部位,圧迫の深さ,圧迫速度,圧迫姿勢,そして圧迫解除に対する理解が必要である。
圧迫部位は,「左右の乳頭を結ぶ線の胸骨上」あるいは「胸の真中」である(図8A)。圧迫の深さは,胸骨が4~5 cm沈むのを目安とする。圧迫速度は,約100回/分の速度である。圧迫姿勢は,指先を胸壁に当てず手掌基部を用い(図8A),肘を曲げず,肩から手掌基部へ外力が垂直に加わるように行うことが大切である(図8B)。胸骨圧迫は,指先をそらすことを意識しなければならない。指先が胸壁に当たるような不適切な圧迫法では,肋骨骨折などの合併症の要因となる。圧迫部位を間違えれば,脾損傷,胃破裂,肝損傷の原因となる。絶えず手掌基部を胸骨上に接着させることに留意することが大切である。不適切な外力は,上記の外傷合併の原因となる。また,圧迫と圧迫解除の時間は,ほぼ同時間としなければならない。胸骨圧迫後の胸郭復帰(complete(コンプリート) recoil(リコイル))により心蔵内への血流が十分に確保されるため,胸骨は押すのみではなく,戻すことを意識する。圧迫解除においても手掌基部が胸骨より離れないように意識し,十分に圧迫が解除されたことを手掌基部で感知しなければならない。胸壁の戻りを確認して胸骨圧迫法が施行されれば,通常の約25%レベルの心拍出量が得られる。
このような胸骨圧迫と解除30回に対して,人工呼吸2回のリズムで心肺蘇生が行われる。しかし,人工呼吸との連動が不可能である場合には,人工呼吸2回を加えることにこだわる必要はない。この心肺蘇生は,傷病者が動き始めるまで,あるいは,AEDが到着するまで,絶え間なく継続する。傷病者が動き始めた場合,「循環徴候あり」と評価し,呼吸と循環の確認を行う。
【ノート欄】
■ 2人法による心肺蘇生
救助者が1人の場合は,胸骨圧迫と人工呼吸を30:2の比率で交互に行うことになるが,救助者が2人以上いる場合には,気道確保および人工呼吸と,胸骨圧迫を2人で分担するとよい。2人法による心肺蘇生では,互いに声を出し,胸骨圧迫と人工呼吸のタイミングを損なわないように工夫する。心肺蘇生においては,胸骨圧迫や人工呼吸を無言で行うことはなく,大きな声で回数を数えながら,周囲に蘇生動作を伝えるように施行するのが原則である。
■ 胸骨圧迫と人工呼吸の比率
蘇生に熟練した専門医を除けば,人工呼吸の手技に時間を取られ,胸骨圧迫の断続時間が長くなる傾向は否めない。このような背景より,絶え間ない胸骨圧迫を保つために,国際コンセンサス2005では胸骨圧迫と人工呼吸の比率が,15:2から30:2に変更された。しかし,この30:2を示唆する明確な根拠はない。胸骨圧迫と人工呼吸の比率として,理論値として50:2を推奨する見解も存在する。胸骨圧迫の際には,sniffing positionで気道が確保されていれば,胸腔内圧の変化により多少の換気が促される。気道確保の状態で絶え間ない胸骨圧迫が施行されるならば,胸骨圧迫と人工呼吸の比率が,50:2などに変更される可能性がある。
■ 心肺蘇生における人工呼吸の省略
1)感染防御が取れない場合,2)人工呼吸に難じた場合には,人工呼吸にこだわる必要はない。しかし,医療従事者は,人工呼吸に難じることがないように,心肺蘇生講習会を受講しておき,心肺蘇生法に精通することが大切である。感染防御に関しては,フェースシールドやハンカチなどを用いても,ウイルスや肺結核などの十分な感染防御にはならない。
4-2. 除細動の適応とAED
心電図による心停止状態は,1)心室細動(VF: ventricular fibrillation),2)無脈性心室頻拍(pulseless VT: pulseless ventricular tachycardia),3)無脈性電気活動(PEA: pulseless electrical activity),4)心静止(asystole)の4つに分類される(図9)。AEDやマニュアル除細動器による除細動の適応は,心室細動と無脈性心室頻拍の2つに限られる。AEDは,VFとVTを自動認識し,VFとVTのみを除細動の適応とする。Holter心電図の装着中に突然死した患者の心電図解析などからは,心肺停止直後の80%以上にVFが認められることが確認されている。ガイドライン2000では,除細動が1分遅延するごとに約10%の救命率低下が生じることが明記されている。以上のことなどから,心肺蘇生における早期除細動適応の評価は,「救命の連鎖」の1つとして,国際コンセンサス2005でも継承されている。心肺停止患者の発見に際しては,資機材に加えて,AEDを持ってきてもらうように具体的な指示を心がける必要がある。
1)AEDの基本原理
VFやVTでは,心臓の刺激伝導路の自動能亢進とリエントリーにより,心室筋細胞の興奮性が多様化し,有効な心拍出量が認められない。AEDは,傷病者の心電図を自動解析の後に,自動的に除細動を指示する機器である。2004年7月1日の厚生労働省医政局による「非医療従事者による自動体外式除細動器の使用」の通知より,本邦のさまざまな施設でもAEDが設置されるようになった(図10)。AEDの特徴は,傷病者に必要とする電気刺激量を自動調節し,VFとVTに対してのみ,除細動を自動的に施行する点にある。AEDは,その充電時や除細動施行時に,傷病者の胸壁抵抗を自動計測し,電流量,通電波形,位相率,および通電時間を調節し,適切な通電エネルギーを決定している。
2)AEDの使用手順と注意
AEDは,電源を入れると音声メッセージが流れ,手順を音声で解説する。使用に際しては,まず,電源を入れることが大切である。勝手に電極パッドなどを装着することは禁忌である。また,AEDが心電図解析を行う際や除細動を施行する際には,傷病者の体に触れてはいけない。それ以外では,胸骨圧迫法を途絶えさせない工夫が必要である。
2-1)AEDを持ってくる
応援要請の際にAEDを持ってくることを依頼するが,他に誰もいない状態で,AEDが近くにあることがわかっている場合は,救助者自身がAEDを取りに行くのがよい。院内などでは,AEDの設置場所をあらかじめ把握しておく必要がある(図10)。
2-2)まず,電源を入れる
AEDには,電源ボタンを押すタイプと,ふたを開けると自動的に電源が入るタイプの2種類がある。電源が入る前に,勝手にパッドなどを装着してはならない。AEDの操作は,音声メッセージと点滅ランプに従った手順で行うことが重要である。
2-3)電極パッドを貼る
音声メッセージに従い,傷病者の上半身の衣類を脱がせ,袋から取り出した電極パッドを装着する。パッドの1枚は右上前胸部に,もう1枚は胸の左下胸部に密着させるように貼る。8歳以上では,成人と同様に,成人用パッドを用いる。1歳以上8歳未満の小児には,小児用電極パッドを用いる。1歳未満にはAEDの有効性を示すエビデンスが2007年の段階では認められない。一度貼られた電極パッドは,心肺蘇生の最中にも,剥がしてはならない。
2-4)心電図の解析
電極パッドが貼られると,「患者から離れてください」という音声メッセージが流れる。この間に,AEDは心電図を自動解析するため,傷病者の体に触れていると,振動などにより心電図波形を誤認識する。心電図解析中には,傷病者の体に触れてはいけない。
2-5)電気ショックおよび心肺蘇生の再開
AEDが除細動を必要とすると評価した際には,「ショックが必要です」などの音声メッセージが流れ,AEDの充電が自動的に開始される。救助者たちが傷病者の体に触れていないことを,もう一度確認する。充電が完了すると,連続音とショックボタンが点灯し,電気ショックを行うように音声メッセージが流れる。この合図に従い,「ショックボタン」を押す。除細動により,傷病者の体が跳ね上がったり,四肢が硬直することがあるが,救助者は驚く必要はない。除細動後は,その結果を待つことなく,直ちに胸骨圧迫法を開始する。傷病者が動き始めれば,「循環徴候あり」と評価し,呼吸と循環の確認を行う。一方,AEDの音声メッセージが「ショックは不要です」だった場合には,その後の音声メッセージに従い,直ちに胸骨圧迫を開始する。
2-6)AEDと心肺蘇生の連動
初回のAED処置後,心肺蘇生を再開して2分すると,再びAEDが自動的に心電図の解析を行う。音声メッセージに従い,救助者は再び傷病者の体に触れないようにする。AEDの音声に従い,2-5)に準じてAEDに対応すればよい。
2-7)心肺蘇生の継続
AEDの心電図波形解析と除細動の時間を除いて,絶え間ない心肺蘇生が,継続されていなければならない。傷病者が動き始めた場合と呼吸が再開した場合には,一旦,心肺蘇生を中止し,呼吸と循環を評価する。呼吸と循環が開腹した際には,気道確保の状態で,蘇生専門医の到着を待つ。やむを得ず傷病者から離れる場合は,回復体位(図6)とする。脈拍はあるが呼吸がない場合は,1分間に10回の人工呼吸を行う。この際,できれば継続的に,あるいは,少なくとも2分はおかずに頚動脈触知を行い,循環の維持を確認しながら,蘇生専門医の到着を待つ。呼吸のみならず頚動脈触知が消失すれば,直ちに胸骨圧迫法を再開しなければならない。
2-8)AED使用の注意
AED使用に際しては,胸部の1)体の湿潤,2)胸毛,3)貼付剤,4)植え込み型ペースメーカ,5)酸素の5点に注意して,施行する。傷病者の体表が汗や雨などで濡れているときにはAEDの通電効果が損なわれるため,胸部を乾いたタオルや布などで拭いてから,電極パッドを貼る。胸毛が多い場合には,電極パッドが肌に密着しないため,AED効果が期待できないため,予備の電極パッドなどで胸毛を剥がした後に,電極パッドを正式に貼る。カミソリがAEDケースに入っている場合には,カミソリで胸毛をそってから電極パッドを貼るが,これらの胸毛処置は素早く行う必要がある。ニトログリセリンなどの貼付剤が胸部に貼られている場合には,発火の可能性があり,これらを剥がす必要がある。ペースメーカが埋め込まれている場合には,胸部の一部にペースメーカが突出した硬いこぶとして触知できる。AEDパッド貼付の所定の位置の場合は,ペースメーカの場所から,2-3 cm離して貼る。また,AEDを含めた除細動の際には,酸素を投与していると発火や爆発の危険性がある。周囲に酸素の流れがないことを,確認しなければならない。
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京都大学大学院医学研究科
初期診療・救急医学分野
准教授 松田直之
ー続編ー
5. 一次救命処置から二次救命処置への移行
5-1. 救命の連鎖
心肺停止の傷病者の救命のためには,1)early access(迅速な通報),2)early CPR(迅速な1次救命処置),3)early defibrillation(迅速な除細動),4)early advanced care(迅速な2次救命処置)の4つから構成される「救命の連鎖」が重要であると前述した。「救命の連鎖」では,第1発見者が迅速に連絡し,第1発見者や集まってきた救助者により適切にbystander CPRが施行され,救命に必要な資機材が到着した際にはAED処置を行い,それでも心肺停止が継続している状態であれば,適切な部署で二次救命処置(advanced life support: ALS,advanced cardiac life support: ACLS)を開始する手順となる。この4番目の最終項目に位置する二次救命処置は,二次救命処置を開始できるシステムを持った病院内の適切な場所で施行されることが望まれる。二次救命処置への搬送を必要とする場合は,搬送過程で絶え間ない心肺蘇生が継続される一方で,救急車内であれば,心電図解析,追加される気道確保(食道閉鎖式エアウエイ,食道気管コンビチューブ,あるいはラリンジアルチューブ)や,静脈路確保による輸液が,医師のオンラインメディカルコントロールのもとで,救命救急士に指示される。また,一定期間の研修や試験を通過した救命救急士には,オンラインメディカルコントロールのもとで,気管挿管やエピネフリン投与が認められている。
5-2. Primary ABCD survey
病院内の適切な部署への搬送後の二次救命処置の開始にあたっては,まず蘇生に熟練した医師による心肺停止の評価が,一次救命処置の手順に準じて行われる。意識確認と,気道(A: airway)・呼吸(B: breathing)・循環(circilation)のABCの計15秒以内の初期評価に加え,心電図を装着後は,まず心電図波形を評価し,この波形がVFかVTの場合であれば,除細動(D:defibrillation)の適応とする。これらの二次救命処置の初期評価を,ガイドライン2000では「primary ABCD survey」と呼んでおり,一次救命処置における心肺蘇生法を総括する呼称でもある。二次救命処置開始にあたっても,VFとVTに対する早期除細動の必要性を伝える呼称である。この処置の2分後にはガイドライン2000における「secondly ABCD survey」に類似する内容に移行する。
5-3. Secondly ABCD survey
Secondary ABCD survey もprimary ABCD surveyと同様に,ガイドライン2000において重視された呼称である。あくまでもガイドライン2000のものとして,secondary ABCD survey をprimary ABCD surveyと対比して理解するとよい(表1参照)。Primary ABCD surveyで心拍が確認できない場合,ガイドライン2000における二次救命処置ではsecondary ABCD surveyへ移行させていた。
このガイドライン2000におけるsecondary ABCD surveyでは,確実な気道確保として気管挿管が望ましいとしていた。しかし,現在,国際コンセンサス2005では,気道確保法として気管挿管にこだわる必要はなく,十分な換気が可能であれば,救命救急士の挿入した食道閉鎖式エアウエイ,食道気管コンビチューブ,あるいはラリンジアルチューブを用いるのでよいと考えている。しかし,気管挿管では,胸骨圧迫と呼吸の比率として,30:2の「同期」を行う必要がなく,これを「非同期」と呼ぶ。他の気道確保方法で「非同期」を行うと,誤嚥する可能性や,気道内圧の変化によりチューブ固定位置が損なわれる可能性がある。気管挿管後の呼吸は,用手換気による1回換気量6-7 mL/kg,呼吸数10/分レベルが望ましく,過度の陽圧換気は静脈還流を妨げ心拍出量を低下させることにも留意しなければならない。
また,ガイドライン2000におけるsecondary ABCD surveyにおけるBは,気管挿管後の酸素化と換気状態の確認だった。心肺停止状態では酸素運搬能が停止しているため,組織虚血より代謝性アシドーシスが進行しやすい。このため,心肺蘇生にあたっては,可能であれば100%に近い高濃度酸素を投与すべきである。
Secondary ABCD surveyにおけるCは,心電図モニタ装着と,輸液・薬剤投与による循環の評価を意味する。ガイドライン2000におけるsecondary ABCD surveyでは,二次救命処置における心停止の最終評価に,頚動脈によるcheck pulseを用いていた。しかし,3誘導レベルの心電図を装着すれば,VF,VT,asystoleの評価を持続的に行うことができる。さらに,マニュアル除細動器でも,その電極を胸部に接着させることにより,心電図波形を確認できる。このような理由から,現在,国際コンセンサス2005では,胸骨圧迫中断時間を可能な限り少なくする目的で,check pulseに代わり,心電図モニタによる「リズムチェック」が推奨されている。以上のように,国際コンセンサス2005では,ガイドライン2000における除細動前後のcheck pulseの重要性は薄れ,二次救命蘇生におけるcheck pulseの絶対適応は,心電図波形が保たれているPEAのみである。VTにおいても,ガイドライン2000ではpulselessにのみ除細動を適応していたが,国際コンセンサス2005後の本邦ではcheck pulseによるVTのpulselessの評価は行わず,VTの心電図波形を確認した際には頚動脈を触知することなく,除細動を施行する方針としている。
最後に,Secondary ABCD surveyにおけるDは,differential diagnosis(鑑別診断)である。国際コンセンサス2005では,特にPEAの鑑別診断に必要とされる重要病態として,原因検索の4H4Tをまとめている(表2参照)。
5-4. 国際コンセンサス2005に準じた成人の二次救命処置のアルゴリズム
国際コンセンサス2005に準じた本邦のガイドライン「救急蘇生法の指針 医療従事者用2005」では,上述したprimary ABCD surveyとsecondly ABCD surveyの区分をなくし,図11のような二次救命処置の簡素なアルゴリズム(一部改変)にまとめている。この二次救命処置ではチームリーダーを決定し,リーダーの指示に従い,行動することが大切である。皆がばらばらに動く心肺蘇生は,混乱を招き,蘇生効率が低下する。 このため,二次救命処置では二次救命処置のアルゴリズムを十分に理解した蘇生法に熟練した医師が,リーダーとなることが望ましい。リーダーには,患者状態評価と蘇生における問題解決能力が要求される。
1)Flat line protocol
心電図を装着してまっすぐな直線(flat line)だったからといって,早急にasystoleと評価してはならない。心電図波形がflat lineである場合,flat line protocol(表3)に準じて,心電図波形の確認が必要となる。しかし,この確認のために胸骨圧迫が妨げられる可能性があるため,flat line protocolは心肺蘇生と平行して確認される必要がある。心電図電極の装着の確認,心電図感度を上げる,心電図誘導を変えることにより,隠れたVFの発見につながる。二次救命処置のリーダーは,心電図を装着してflat lineを確認した際には,心電図誘導を変え,心電図感度を最大とするように周囲に依頼することが必要とされる。
2)心電図波形に準じた心停止治療の開始
心電図装着後は,二次救命処置チームリーダーが心電図波形を評価し,「VFのアルゴリズムで治療を開始します」などのように,治療のアルゴリズムを大きな声で宣言し,チームが同一の治療方針にあるように方向付けることが大切である。心電図波形により心停止治療アルゴリズムの詳細が異なることに留意して治療に当たる。二次救命処置においても,絶え間ない胸骨圧迫が原則であり,不用意に胸骨圧迫が中断しないようにチームリーダーが工夫する必要がある。タイムキーパーを1人用意し,循環の再評価は2分毎に心電図確認による「リズムチェック」で行い, 2分毎に大きな声で連絡してもらうとよい。さらに,記録係を1人設けることで,処置内容や使用薬物,心電図波形の記載を残すことが必要である。あわただしい中にあっても,記録を残すことができなければ,心肺蘇生の救命システムが整った施設とは評価されない。
3)VFとVTのアルゴリズム
心電図装着後,心電図がVFとVTである場合,電気的除細動の絶対的適応となる。ガイドライン2000では,VFかpulseless VTが継続する限り,3回の除細動が終了するまでは単相性除細動器のパドルを胸壁より離さずに200 J,300 J,360 Jの順に除細動を継続することを推奨していた。しかし,国際ガイドライン2005では,除細動は1回とし,除細動後はすぐに心肺蘇生に戻る「1ショックプロトコール」が推奨された。蘇生に長けている医師においては,従来のガイドライン2000に準じた「3ショックプロトコール」でもよい。
二次救命処置チームリーダーが,気道確保者に気管挿管の指示を出す際には,気管挿管に熟練したものを第1選択とする。気管挿管完了までは心臓マッサージと人工呼吸は30:2の比率で同期させるが,気管挿管後の胸骨圧迫法は1分間に約100回の速度とし,人工呼吸10 回/分の非同期でよい。原則として,気管挿管に10秒以上の胸骨圧迫中断時間を費やすようであれば,バック・バルブ・マスクによる同期換気の継続,あるいはラリンジアルマスクの挿入を考慮する。また,二次救命処置チームリーダーは別な医師に静脈路確保の指示を出す。気管挿管後は気管内からエピネフリンを投与し,静脈路確保後からは静脈内投与に変える。除細動を行う以外では,チームリーダーは絶え間ない心臓マッサージを指示し,2分毎に「リズムチェック」を行う。エピネフリンは3~5分毎の投与とし,その間2分毎の「リズムチェック」に際しては,VFやVTが継続している場合,リーダー自らが単相性除細動器であれば360 Jで除細動を1回のみ行う。それでもVFやVTが継続している場合には,抗不整脈薬投与を考慮し,「リズムチェック」にあわせてアミオダロン(アンカロンⓡ 300 mg iv),ニフェカラント(シンビット® 0.15 mg/kg iv),リドカイン(1-1.5 mg/kg iv),プロカインアミド(アミサリンⓡ 50 mg/分,最大投与量17 mg/kg)を選択する。この他に,Toresade de pointesや,低マグネシウム血症に伴うVFやVTには,マグネシウム(マグネゾール®,コンクライト-Mg®)を1-2 gを希釈し,緩徐に静脈内投与する。このような治療に効果を示さない難治性不整脈は,心原性の心肺停止の可能性が高く,経皮的心肺補助(PCPS: percutaneous cardiopulmonary assist systems)の導入も考慮する。
【ノート欄】
■ 気管挿管の必然性
気管挿管には,熟練が必要である。熟練者にとっては気管挿管を施行する際に胸骨圧迫法を中断する必要はないが,気管挿管困難患者や胸骨圧迫中断時間10秒以上を必要とする場合には,気管挿管は断念すべきである。国際コンセンサス2005では,換気が十分に可能であれば,バック・バルブ・マスク,あるいはラリンジアルマスク,救命救急士の挿入した食道閉鎖式エアウエイ,食道気管コンビチューブ,あるいはラリンジアルチューブを用いるのでよいとされている。
■呼気ガス二酸化炭素モニタによる胸骨圧迫法の効果判定
心肺蘇生を行う過程の有効な胸骨圧迫の評価として,カプノグラフによる呼気ガスモニタがある。気管挿管やラリンジアルマスクの呼吸回路より呼気ガスサンプリングを行うことで,呼気ガスがモニタできる。胸骨圧迫法がうまく施行されている場合には,肺血流が生じるため,カプノグラフに呼気ガス波形が検出される。
■ 薬剤投与経路の選択
薬剤投与経路の確保のために,胸骨圧迫の断続時間が生じてはならない。このため,薬剤投与経路は胸骨圧迫に比較的妨げとならない末梢静脈路が第1選択となる。末梢静脈路確保が難しい場合には,脛骨などの骨髄となる。末梢静脈路は,上腕正中皮静脈などの上腕の太い静脈が望ましく,薬剤投与後にはすぐに輸液20 mLを後押しするか,輸液速度を最大として,上肢を10-20秒間挙上する。心肺蘇生の過程で,胸骨圧迫の妨げとなる中心静脈路を選択する意義はない。
■ マニュアル型除細動器のショックエネルギー量の選択
マニュアル型除細動器のショックエネルギーの供給型式は,単相性と二相性の2種類に分けられることは,AEDと同様である。二相性マニュアル型除細動器では,truncated exponential(切断指数)波形であれば150-200 J,rectilinear(矩形)波形であれば120 J,波形が不明な場合には200 Jを選択することが推奨されている。2回目以降の除細動に関しては,切断指数波形であれば200 Jの最大値を用いるようにする。除細動器のエネルギー特性は,機種により異なることから,VFやVTに対する二相性除細動器エネルギーは,機種開発メーカーの推奨する量を選択するのが良い。これに対して,単相性マニュアル型除細動器では,200 J,300 J,360 Jの順に,VFやVTに対するショックエネルギー量を選択するのが一般的である。
5)Asystoleの治療のアルゴリズム
心電図装着後,flat lineを確認した場合,flat line protocol(表3)に基づき,心肺蘇生を継続させながら,隠れたVFを除外する。チームリーダーは「リズムチェック」の際に最終判断としてasystoleと確定した場合,「asystoleのアルゴリズムで治療を開始する」と宣言する。気管挿管と末梢静脈路の確保を指示し,2分毎の循環評価の際にasystoleが継続していれば,まずエピネフリン,次の「リズムチェック」の際にはアトロピンの順で用いる。初回または2回目のエピネフリンの代わりに,バゾプレッシン40単位(ピトレッシンⓡ 2 mL)を静脈内投与してもよい。動脈血ガス分析により代謝性アシドーシスや高K血症が高度な場合や,三環系抗うつ薬による薬物中毒では重炭酸ナトリウムの投与を考慮するが,重炭酸ナトリウムはルーチンに投与してはならない。Asystoleの治療においても,チームリーダーは,10秒以上の断続のない,絶え間ない心臓マッサージを指示することが大切である。
6)PEAの治療のアルゴリズム
心電図装着後,心電図波形が認められる場合には,10秒以内を限定として頚動脈触知を行う。頚動脈で脈拍を触知できない場合,二次救命処置チームリーダーは心電図波形がPEAであると評価し,「PEAのアルゴリズムで治療を開始する」と宣言する。PEAの治療はasystoleに準じるが,原因検索として表2の4H4Tを評価することが必要である。このためには,チームリーダーは患者既往歴を聴取する者を別に指定し,さらに別な医師には動脈血ガス分析,さらに別な医師にはエコー図を施行させる。しかし,これらの過程においても,胸骨圧迫を中断させてはならず,中断しても10秒以内とする。Asystoleと同様にPEAに対する最も重要なことは,治療可能な原因を検索し,原因を特定し,取り除くことにある。動脈血ガス分析の結果,極度なアシドーシスや高カリウム血症が存在する場合,重炭酸ナトリウムの投与を考慮し,出血や脱水による循環血液量低下に対しては急速輸液を行う。緊張性気胸は胸部打診で評価し,胸腔内の脱気を必要とする。低体温,急性冠症候群,肺血栓塞栓症の可能性が示唆されれば,PCPSの導入を積極的に行う施設も多い。
6. 感染防御の重要性
二次救命処置の施行に際しては,標準予防策に準じた感染防御を行うことが必修である。二次救命処置に参加する医療従事者には,あらかじめ,手袋,マスク,ガウンを着用しなければならない。処置前処置後の手指衛生も徹底する。
7. 心臓ペーシングの適応
不安定な徐脈患者には,除細動器に設置されたペーシング用パッドを用いて,経胸壁ペーシングを施行できる(図12参照)。これは,あくまでも冠動脈造影や経静脈ペーシングに移行するまでの緊急避難的な治療である。
7-1. 経胸壁ペーシングの設定
除細動器の通常の除細動パドルのコネクタを除細動器よりはずし,貼付用ペーシング電極パッドのコネクタを除細動器に装着する。電源を入れ,心電図モニタ電極を装着し,ペーシングモードに切り替える。貼付用ペーシングパッド(図12参照)を患者の心尖部と左背部に装着する。ペーシングレートを60/分,刺激電気量を0 mAに設定する。ペーシングを開始する際には,ペーシングスイッチをオンにし,心電図モニタを見ながら,刺激電気量を0 mAから上げていく。ある刺激電気量を越えた時点で。ペーシング波形のあとにQRS波形が出現する。この時点のmAをペーシング域値という。胸壁ペーシングの最終の刺激電気量は,ペーシング域値より5-10 mA高い値とする。
7-2. 経胸壁ペーシングの注意
モニタ波形が骨格筋収縮による波形である可能性があり,心室細動の発見に遅れることがある。また,PEAである可能性もあるため,ペーシングに際しては必ず,常に患者のABCの確認が必要である。このモニタリングには,パルスオキシメータが有効である。ペーシング中には,心停止となる可能性があり,その危険に備えて,酸素投与と静脈路確保が同時に行われるべきである。
8. 小児および乳児の心肺蘇生で留意すること
成人を対象とする施設では,8歳未満を小児として,成人と心肺蘇生法を区分する。小児の「救命の連鎖」は,1)心肺停止の予防,2)迅速な心肺蘇生,3)迅速な通報,4)迅速な二次救命処置の4つを構成要素とする。国際コンセンサス2005においても,8歳未満の小児の1次救命処置では,人を呼ぶ前にすぐに5サイクル(2分間)の心肺蘇生が推奨されている。成人と8歳未満の小児の心肺蘇生の違いは,以下の点に集約される。
8-1. Phone Fast
心肺蘇生を5サイクル施行したあとで,救急通報することをphone fastといい,通常の蘇生における人を集める場合のphone firstと区分している。8歳未満の小児の心肺停止では,呼吸原性心停止が多いため,発見時の蘇生を優先するphone fastとしている。
8-2. 徐呼吸と徐脈への早期対応
呼吸数10回/分未満の徐呼吸や,60/分未満の徐脈に意識障害,チアノ-ゼなどの循環障害所見を認める場合には,完全な心肺停止を待たず,心肺蘇生を直ちに開始する。8歳未満の小児や乳児は,生理学的予備力が乏しいため,人工呼吸や胸骨圧迫の開始が成人に比較して早いことに留意する必要がある。
8-3. 胸骨圧迫の深さと方法
8歳未満の小児や乳児の胸骨圧迫の深さは,胸の厚みの1/3を目安とする。乳児の場合,救助者が一人の場合は2本指で,救助者が2人の場合は胸骨包み込み母指圧迫法で,左右の乳頭を結ぶ線のやや尾側の胸骨を圧迫する。8歳未満の小児に対しては,両腕で圧迫する場合もあるが,一般に片腕で胸骨を圧迫する。
8-4. 胸骨圧迫と人工呼吸の比率
コンセンサス2005では,胸骨圧迫と人工呼吸の回数比は8歳未満の小児や乳児においても,成人と同じ30:2が推奨されている。小児は酸素化を十分に施す必要があり,医療従事者2名による心肺蘇生では,15:2が推奨されている。
8-5. AEDと除細動に対する規制
2007年現在では1歳未満の乳児へのAEDの十分なエビデンスはなく,ガイドラインに取り込まれていない。1歳以上8歳未満の小児に対しては,原則として心肺蘇生を施行した2分後に,エネルギー減衰機能を持っている専用の小児用電極パットを用いて,AEDを施行する。マニュアル除細動器では,VFとVTに対して,単相性,2相性ともに,2-4 J/kgの除細動1回が推奨されている。
8-6. 二次救命処置
小児の「リズムチェック」は成人と同様に2分毎であり,エピネフリン静脈内投与量は0.01 mg/kgである。アルゴリズムは,成人のものに類似している。
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