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提言 COVID-19の集中治療戦略と臨床研究

2020年03月26日 01時50分05秒 | COVID-19の集中治療

提言 COVID-19の集中治療方策/未承認薬への対応および臨床研究について

Recommendations

COVID-19 treatment strategies in the world

 

名古屋大学大学院医学系研究科

救急・集中治療医学分野

松田直之(Naoyuki Matsuda MD, PhD)

 

はじめに

 2020年3月11日,世界保健機関(WHO)は,SARS-CoV-2の「パンデミック宣言」をしました。東日本大震災から10年目,以前より,そしてこれからも予想される緊急事態です。現在,感染集合クラスターを作らないように,またクラスターからのSARS-CoV-2の伝播に気をつけます。多くの仕事はtele-workが推奨され,会議等の開催を避ける方針としています。潜伏中央値5.5日,定められた確定できる治療薬が存在しない状況ですので,外出に注意する一方で,日本集中治療医学会などは救命の手順を整えています。その上で,病院におけるCOVID-19の診療現場は,一つのクラスターです。病院管理について,行政は各病院の運営に任せるだけではなく,安全管理基準を明確としていく必要があります。

 COVID-19のSARS-CoV-2は,病態学的には肺胞嚢領域等の気道末端に親和性があります。ヒトのCT像や病理像を見る限りでは,SARS-CoV-2は肺胞嚢領域の末端に浸潤し,そして肺末梢領域にムチンを増生させる傾向があります。コロナウイルスの受容体は,ACE-2,CEACAM1(ミクログリア,肝細胞,腸管上皮細胞,尿細管上皮細胞などに発現),アミノペプチダーゼN受容体(APN),およびジペプチジルペプチダーゼ−4(DPP-4)の4つが知られていますが,SARS-CoV-2はACE-2との親和性が高いことが末梢気道への浸潤性に関与しているのかもしれません。このため,急激に症状が出て,息が苦しくなる,つまり低酸素血症が進行し,生命の危機が突然に訪れる可能性があると評価されます。喫煙や副流煙がリスクとなるのは,気道過敏性が亢進している状態であったり,既に肺気腫などのCOPD(慢性閉塞性肺疾患)などとして肺機能が低下しているからかもしれません。また,喫煙者では,血中ビタミンC濃度の低下の可能性があり,COVID-19において末梢気道領域で活性酸素種の暴露を受けやすい可能性もあります。高血圧や糖尿病がリスクとなる背景として,肺胞末端末端領域のACE-2の発現亢進が関与するかもしれません。

 初期に懸念した線維化が進行するなどの病態に難じるというよりは,まずは末梢気道の閉塞性病態の進行に注意します。末梢気道開放と末梢血管保存として,また,器質化を残さない長期予後を考え,リハビリテーションを考える集中治療が重要となります。

 2020年3月4日にCOVID-19管理バンドル(線維化抑制)を,ウイルス性間質性肺炎が進行する可能性としてして記載させて頂きました。薬理学的かつ病態学的に有害性が生命の危険に直結しない治療については,院内承認を得るとともに,特に患者さんに十分な解説を行い,承認を得ることを重視し,進んで加療することが期待されます。治療指針においては,医師の病態生理学的解釈と論理的思考が大切です。その上で,副作用や有害性の高い治療や,有効性が境界領域か,専門家内で意見が異なるような内容については,臨床研究に持ちこむことが必要です。

 本稿は,海外の先生に返答させて頂いた内容です。診療にあたっては,病態学を討議するとともに,薬理作用とPK/PDを考え,副作用の低い内容についてはジャストタイミングの治療が期待されます。論理的に明らかに有効で,有害性が極めて少ないものについては,生命の尊厳を損なう危険性を考慮し,臨床研究の実施については登録と観察研究が望ましいです。

 

 

出典 WEB掲載中:Inui S, et al. https://pubs.rsna.org/doi/10.1148/ryct.2020200110(感謝:参考とさせて頂いています)

 

COVID-19の診療と行政に期待されること

 2020年3月末の本邦では,科学的論拠を共有しながら,治療の1st lineを整えることが必要です。また,政府には,① COVID-19を管理する場所の整備強化,② 人工呼吸器やCPAPマスク等の備蓄(緊急時:3Dコピーの許可・承認を含む),③ 薬剤・機器承認体制の強化(薬機法の例外的緊急対応),④ ワクチンの早期開発への支援が期待されます。その上で,臨床研究では,病態学的かつ薬理学的に効果的と予測される治療においては,使用の有無による2群に分けての前向き臨床研究は,生存を損なう危険性に十分に注意します。

 

A. 気管挿管されていない場合

 

 1.吸入療法

  1st オルベスコ®(一般名:シクレソニド)

  2nd  ムコフィリン®(mucofilin,一般名:N-アセチルシステイン)

  N-アセチルシステインは,前向き臨床研究が良いかもしれません。

  検討内容/海外との共有

  □ オルベスコ®(一般名:シクレソニド)の優位性:未承認および適応外使用,2018年12月からの薬機法に準じる場合には臨床研究が必要です。

  □ ムコフィリン®(mucofilin,一般名:N-アセチルシステイン)の酸素投与時の有効性

 

 2.抗SARS-CoV-2療法

  1st 肺移行性の良い抗ウイルス薬(RNAポリメラーゼ阻害剤)の使用が重要です。理論的にはアビガン錠®(一般名:ファビピラビル)が第1推奨ですが,薬機法では未承認薬の扱いとなります。肺移行性からは,アビガン®が期待されます。

  検討内容

  □ アビガン錠®(一般名:ファビピラビル)

  □ 投与期間:アビガン®は,成人には1日目は1回1,800 mgを1日2回,2日目から5日目は1回 800 mgを1日2回の経管投与とし,総投与期間は5日間を1つの投与法としますが,院内の倫理委員会の承認(あるいは包括同意)の下で投与期間を1週間以上に延長することを検討します。肝機能低下例では,投与量を半量とし,肝逸脱酵素の動向を評価します。

  ※ 未承認および適応外使用,2018年12月からの薬機法に準じる場合,日本での臨床研究が必要です。

 

 3.急性死亡の回避:最重要課題 用手換気技術の養成

 肺胞領域および呼吸終末細気管支領域のムチン性窒息,低酸素による徐脈心停止に注意が必要です。急激に悪くなる理由は,鼻水が増加するなどの手前の気道で病変が進行するのではなく,SARS-CoV-2受容体(ACE-2など)の多い肺末端で病変が進行し,低酸素となっていくからと考えています。このため,喘息における心停止回避に準じて,open lung,ジャクソンリース回路で換気できる技術が重要です。自発呼吸に合わせることが大切ですので,アンビューバックはダメです。病院では,PPEなどの自身へのエアロゾル防御体制で赤ゾーンとしてのゾーニングの下でジャクソンリース回路で気道確保のできる指導者が緊急時の救命に必要です。人工鼻をマスク接続部につけること,用手的PEEPがポイントとなります。

※ エアロゾル拡散のためにゾーニングやPPEの厳格化などの注意が必要ですが,DRカーやERなどにおける呼吸緊急では必修技術です。胃に空気を入れない,また嘔吐に注意する指導となります(臨床指導)。

ジャクソンリース回路での救命 1 急性心筋梗塞:丹羽成彦,三木裕介,杉浦由規,森田純生,林田 竜,松田直之,近藤 和久. ドクターカーの活用により救命したLMT心筋梗塞の一例. 日本循環器学会 第154回東海・第139 回北陸合同地方会 2019年10月19日 金沢. 現着時,低酸素性心停止の直前でジャクソンリース回路を用いて約15cmH2Oの陽圧をかけ,肺水腫による低酸素性肺をリクルートメントし,会話できる状態で現地よりカテーテル室へ早急に搬送しました。

ジャクソンリース回路での救命 2 羊水塞栓症:Hosono K, Matsumura N, Matsuda N, Fujiwara H, Sato Y, Konishi I. Successful recovery from delayed amniotic fluid embolism with prolonged cardiac resuscitation. J Obstet Gynaecol Res 37:1122-5, 2011. ジャクソンリース回路を用いて約15cmH2Oの陽圧をかけ,肺水腫による低酸素肺をリクルートメントし,救命しました。

ジャクソンリース回路での救命 3 致死的肺挫傷:星野弘勝,丸藤 哲,早川峰司,亀上 隆,松田直之,南崎 哲史. 鈍的気管支損傷に対する片肺全摘術後にみられた肺高血圧症に対してPCPSを施行した1症例. 日本救急医学会雑誌15:17-21, 2004 注:2000年6月4歳の子供さんの車の挟まれ事故として,右片肺挿管として縦隔気腫を増悪させずに心停止を起こさずにECMO(PCPS)スタンバイで5~6時間用手換気で救命しました。

  日本/海外検討内容

  □ ジャクソンリース回路の有効使用の調査,ジャクソン回路での自発呼吸下CPPV

  □ たこつぼ型心筋症/心拡張不全合併の調査

  □ 心筋炎を疑う比率同定

 

 4.パルスオキシメータ管理

 モニタリングとして,パルスオキシメータの適正管理が不可欠です。パルス波形を評価することも期待されます。

  検討内容

  □ パルスオキシメータ管理の有無による死亡率調査

 

 5.PPE講習

 医療従事者は,災害医療に準じて,自らが被災者としてCOVID-19にならないことが大切です。PPE講習気道管理におけるPPE重要です。

 

B. 気管挿管されている場合

 1.大量ビタミンC投与療法

 高濃度酸素投与を行っている場合,活性酸素種の産生に注意が必要です。COVID-19でKL-6が上昇しているケースや酸素投与濃度(FIO2) 40%以上(PEEP 10 cmH2O以上)では,大量ビタミンC投与療法は抗酸化療法や相対的副腎機能低下の回避として有効かもしれません。成人の敗血症における大量ビタミンC静注療法では,ビタミンC 1,500 mg(15Aレベル)を6時間ごとに,急性期4日間,あるいは集中治療室退出までとしています。初期の救命に加えて,長期予後に関与すると考えられる全身性線維化からの器質化を抑制することを目的とします。一方,経管栄養としてのビタミンC補充は,消化管吸収や排泄促進などのために血中濃度や組織濃度を高めるための限界があり,一般には1日量1,000 mgを経管投与の最大量としています。 ビタミンC大量投与の有害作用としては,下痢症状,腎機能低下および腎結石(シュウ酸結石)です。喫煙者では,ビタミンCレベルが低い可能性がありますので,通常レベルのビタミン補充が不可欠です。

 2.Dーダイマー上昇例の対応

 肺局所のAT活性は低下していることが予想されます。KL-6が上昇していない例ではAT活性70%以上を目標としてATⅢ投与(アコアラン®),さらにKL-6が上昇している状態ではリコンビナントトロンボモジュリン(リコモジュリン®)を検討します。TEMPRSS抑制作用があるかもしれません。これは,急性膵炎に準じた毛細血管後血栓症の治療としても重要です。一方,メシル酸ナファモスタットは血液浄化法を併用する際には,私は回路内投与の1stチョイスとしています。しかし,この静注療法は線溶系を抑制しますので,COVID-19初期の線溶亢進状態では使用できるかもしれませんが,CRP上昇として線溶抑制状態に移行していく段階では線溶を過剰に抑制する可能性があり,血栓形成の危険性を高めます。また,半減期が短いので,肺内濃度は上がらないと予想します。

 肺胞嚢や呼吸終末気管支レベルの細胞障害に伴うmicroangiopathy,血管内皮症傷害と血栓形成傾向に対して,ヘパリン持続投与を検討しますが,これはECMOでヘパリンを使用している際の肺胞出血のように,肺胞出血に注意します。厳格に部分トロンボプラスチン時間(APTT)をモニタリングできることが重要ですし,TATが上昇しているにも関わらず,AT活性が維持できている場合であればリコモジュリン®が良いかもしれません。炎症期のヘパリン使用は,ヘパリンの有害性に注意が必要です。

  検討課題:D-ダイマー>基準値の4倍以上,DIC様の時系列解析(線溶亢進 OR 線溶抑制)

  □ リコモジュリン®(一般名:リコンビナントトロンボモジュリン) KL-6>500 U/Lの場合 3日〜6日間 380単位/kg

  □ アコアラン®(一般名:リコンビナントATⅢ) AT活性>70%目標のAT補充療法持続投与法の検

  ■ ヘパリン 400~600 単位/時(成人) 持続投与 APTT比 1.5目標

 

 NO吸入療法および腹臥位療法

  臨床研究:前向きランダム化試験施行中 MGH

  □ 海外施行中:COVID-19におけるNO吸入療法

 

 4.CRP波形下面積

 肺局所の炎症活性を軽減できていない場合,肝臓でのCRP産生が高まります。改善速度のアウトカム評価として,私は朝6時の採血を基準としたCRP波形下面積の最小化が大切と指導しています。炎症を如何に早く深く下げこむかが,急性期管理技能となります。

  検討課題

  □ CRP波形下面積とPICS

  □ CRP波形下面積と在院日数

 

 5.IL-6受容体抗体 ケブサラ®(一般名:サリルマブ 

      臨床研究:前向きランダム化試験

  □ IL-6受容体シグナルの抑制効果の検討

  □ CRP波形下面積へのケブラサ®の検討

 

C. ECMO管理の場合

 ECMOは,最終の救命措置です。重症化後はその後14日までのSARS-CoV−2に対する免疫の獲得まで,上述の気管挿管下での治療において細菌性2次感染のリスクを低下させる医療技術が期待されます。また,たこつぼ型心筋症やカテコラミン誘導性心筋症(Ca overload)になっている場合は,ランジオロール(オノアクト®)の併用を検討して下さい。一方,徐脈やAFでは,心房筋へのSARS-CoV-2播種COVID-19におけるアセチルコリン血症を考えます。

  検討内容

  □ ビタミンC大量療法:抗酸化療法として

  □ 細菌性感染症併発のリスク解析:皮下ポケットに注意

  □ 心拍数>100/分 → 心拍数目標 < 94/分   ランジオロール(オノアクト®)の併用 1~7μg/kg/分

  □ 唾液量増加・徐脈傾向 → アセチルコリン血症の評価,心房筋播種の評価,唾液腺播種評価(唾液評価やアミラーゼ評価を含む)

  □ 経腸栄養を続けることができるかどうかの検討

 

D. 腎機能低下例:腎不全対応

 血液浄化法として,CHDFをお勧めします。

  世界での検討内容

  □ CH(D)F vs 間欠的透析:私はCHFを選択します。

  □ 使用膜の検討:私はPMMA膜をお勧めしています。

 

E.  行政介入:医療体制の整備

 政府の指導として,COVID-19診療の場は一つのクラスターと認識し,しっかりとCOVID-19診療場を分離する体制を,超急性期病院と急性期病院に整えることが必要です。大学病院などの超急性期病院は,救急・集中治療の診療教育機関であるとともに,気管挿管,人工呼吸器の適正使用,非侵襲的人工呼吸におけるCPAPやBIPAPの有効活用,またECMO管理をルーティンに施行している状況にありますので,これらの教育と指導を地域及び国内に行うことが期待されます。

 現在,日本には約6,500床の集中治療ベッドがありますが,この一定数の集中治療ベッドは手術後,急性心筋梗塞後,脳卒中後,がん患者さんや免疫不全患者さんの急変など,通常の集中治療管理の場として残す必要があります。これらのICUベッドは,SARS-CoV-2感染の疑われる患者さん管理と分離し,クラスター分離システムとすることが必要です。COVID−19は,決して数ヶ月で収束するものではなく,また今後の大災害や新興感染症にも留意し,事前性をもって備えることが必要です。国家安全として,事前的医療対応が最も必要です。

 以上,政府の指導として,特に旧帝国大学では,がん診療などの病院内診療とは別な仕組みとして,外部から搬入されるCOVID-19等の新興感染症・再興感染症に対応する「救命救急センター設立(感染症管理陰圧個室を含む)」の仕組み化,必修化が不可欠です。既にこれまでの平成9年度勧告4(10)に基づいて,すべての国公立大学に「救命救急センター」を設置すべきでしたが,未だ必ずしも整わず,国民や救急診療教育に適切に寄与できておらず,救急・集中治療の診療・教育体制を強化する必要がありました。国公立大学に対しては,診療・入院加算の補助の中で救急医療の診療と教育を充実させ,さらに地域の救命センターや急性期病院等との連携および教育指導とし,呼吸管理,ECMOを含む呼吸循環管理,急性血液浄化,全身管理などの診療体制を充実させ,さらに診療研究の発展のために診療データベースを充実させるように指導することが不可欠です。

 今回のような急性期感染症治療を含む救急医療体制の整備が,現在から将来までの院内安全管理の一環として必要となります。大学には,空気感染やエアロゾル感染などに注意した空間配置として,救命救急センター(ICU・陰圧個室数床を含む)を設置させます。救急科指導医・集中治療専門医などの専門性の高い資格を持つ教授等の指導下で,より明確な診療と管理が国家安全管理とともに実施されることが必要です。10年以上先の緊急時医療の充実を多角的に予測し,救急領域の安全医療と医療保護を約束することが不可欠です。今回のような治療および診療体制構築のために,政府には全国公立大学病院の救命救急センター設置に補助金を支給することが期待されます。この整備ができていなかったことを,これまでの反省や責任として終えず,強い反省として,現在こそ,未来に向けて緊急性医療を基盤化させる時であると提言されます。

 

本邦での超急性期病院・救急救命センターICU増設の課題

□ 2020年秋以降のリバウンド対策:行政と連携した国立大学連携構想,感染症および集中治療に強い医師及び医療従事者の招集と育成

□ 旧帝国大学における院内ICU(定期/院内)と緊急ICU(救急ICU)の分離:敗血症管理を含む救命救急センターの整備・移送連携,救急センター内陰圧個室設置,救急センター内ICU設置,国公立大学間広域搬送システム,国公立大学間集中治療専門医共有システム等

□ 病院リーダーシップの育成:先見的病院執行部の充実(多様的結束の支持),柔軟性と決断性の推進

 

F.  行政介入:抗体治療の整備

 COVID-19から回復された患者さんの有志として,献血をお願いし,血漿を安全なものとして保存する計画を進行させることが提言されます。

 本邦での検討

 □ RT-PCR検査陰性への注意/留意:退院まで2回の陰性を確認していますが,血液にSAES-CoV-2が存在しない安全確認および明確な手法が必要です。(日赤,血液製剤管理企業等との検討)

 □ SARS-CoV-2血漿投与基準の確定:重症ARDS,免疫弱者等のSARS-CoV-2血漿を優先的に投与でる患者群を明確化する必要があります。

 □ ワクチン開発:RT-PCRと同様に,ターゲット分子のモノクローナル抗体に加えて,ポリクローナル抗体作成にも期待します。ファジーディスプレイ法などを用いるのでしょうか(検討)。

 

 留意事項

 □ 動物のコロナウイルス感染症:動物は,家畜を含めてコロナウイルス感染症に罹患しやすいことが知られています。動物では,コロナウイルスの抗原性が変化することが指摘されています。SARS-CoV-2は,ヒトで流行してしまったことから,ヒト内で抗原変異する危険性に私は留意しています。インターフェロン療法などの確立も必要かもしれません。

 

G. 留意事項の整理

 □ 喫煙

 □ COPDの既往

 □ 間質性肺炎

 □ 免疫膠原病

 □ 心機能低下(たこつぼ型心筋症,慢性心不全など):SARS-CoV-2心筋炎の個別化と比率解析

 □ 慢性透析療法あるいは慢性腎不全の既往

 □ 予後関連遺伝子解析:死亡群と生存群の集中治療室入室時の遺伝子発現形式

         ;WBC total RNAマイクロアレイ評価,olfactomedin 4 (OLFM4) の発現形式など

 □ ADL低下状態への配慮

 □ DNAR:診療の別枠で考える必要性や可能性

 

おわりに

 現在のCOVID-19,SARS-CoV-2において,世界の皆さんが感染症管理を学んでいます。世界的に共通の克服課題として,行政や国公立大学病院の役割が問われる内容です。医療活動においても,国公立大学への救命救急センター完備などの国からの多額の補助が期待されます。

 一方,ご自身は,SARS-CoV-2に暴露されず,COVID-19にならない工夫が求められます。社会的には,自己隔離に加えて,喫煙の習慣のあるものには喫煙を止めて頂き,また排ガスの仕組みを改善することが期待されます。SARS-CoV-2だけではなく,匂い,スプレー,排ガス,煙,多くの有害分子の排泄を,私たちは日常から減少させていくことが大切です。

 

初版:2020年3月26日(木),追記・修正:2020年3月29日(日),2020年3月30日(月),2020年3月31日(火),2020年4月1日(水),2020年4月23日(木)


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ミニレクチャー ホタルイカの急性腹症

2020年03月25日 20時52分25秒 | 講義録・講演記録4

講座 ホタルイカの急性腹症

ホタルイカの腹痛で注意すること

 

名古屋大学大学院医学系研究科

救急・集中治療医学分野

松田直之

 

概 説

 富山湾では,毎年3月〜6月にホタルイカを採取しています。ホタルイカの「踊り食い」は禁止,新鮮とされる未冷凍のホタルイカを食べてはいけません。激烈な腹痛として,救急対応となりますが,食あたり程度としての説明とせず,消化器内科での外来フォローなどの紹介対応が必要です。

 イカではアニサキス,ホタルイカでは「旋尾線虫(せんびせんちゅう)(Crassicauda giliakiana)」に注意が必要です。ホタルイカの内蔵には,「旋尾線虫」の約13種類のうち,タイプⅩ(テン)の幼虫がいます。タイプⅩ(テン)は,長さ約1 cm,幅約0.1 mmの糸くずのようなものなので,胃や十二指腸にいてもなかなかわかりにく,一般に内視鏡での発見や摘出が困難なのです。アニサキスはすぐに内視鏡で摘出を行いますが,ホタルイカ旋尾線虫の幼虫は内視鏡で摘出困難なのです。

 ゆでたり冷凍することなく生のホタルイカを食べると,約2%〜7%の確率で,あるいは時期により高確率で「旋尾線虫タイプⅩ」に暴露されます。ホタルイカによる急性腹症として,急激な腹痛や嘔気や嘔吐に加えて,約3日のうちに腹部などの皮膚にミミズばれができる「皮膚爬行(はこう)症」が生じたり,消化管浮腫として腸閉塞に至るケースがあることが知られています。また,血流に乗って目などに飛び火するのも困ります。クジラでは,腎障害の原因となることも知られています。

 このようなホタルイカを万が一,知らないで生で食べてしまった場合,激烈な腹痛がやってくる場合があります。注意することは,ご自身では1)排便があるかどうか,2)腹痛,3)アレルギー症状,4)息苦しさ,5)発熱,6)眼痛・目のかすみなどの注意します。救急外来では,肝逸脱酵素の評価,炎症評価,目の評価なども必要に応じて追加します。十二指腸や空腸領域の消化管浮腫が強く,入院するケースでは,イレウスに準じた絶食や減圧などの対症療法となり,重症の場合には手術を考慮します。

救急医療における注意事項

1.要注意:ホタルイカの生食

 フォロー体制が必要です。

 ・アレルギー症状:アナフィラキシーにも注意

 ・好酸球増加に注意:急性好酸球性肺炎,好酸球性心筋炎などに要注意

 ・排便確認:消化管浮腫,イレウス症状の進行

 ・急性虫垂炎:併発する急性虫垂炎の可能性

 ・眼症状

  など

 

2.検査データ等のフォロー

 ・白血球数

 ・好酸球数

 ・炎症活性

 ・肝逸脱酵素

  など

 

注意事項

1.ホタルイカの調理

 生食では1)−30 ℃で4日間以上,2)内臓を除去すること,加熱処理では1)沸騰水30秒以上,2)中心温度で60℃以上の加熱が必要とのことです。とにかく,採れたての生のホタルイカに注意され,そのままで食べないようにして下さい。

 

2.最寄りの保健所への届け出

 飲食店でホタルイカが出され,食中毒が疑われる場合は,24 時間以内に最寄りの保健所に届け出ます。旋尾線虫は,食中毒原因物質として例示はされていませんが,「食品媒介感染症の疑いの場合には,保健所長の一元的指揮のもと,現行の食中毒事件票に明示された病原体のみを対象とするのではなく,食品保健部門が一次的原因究明を行うことが効果的である」(公衆衛生審議会意見,平成9 年12 月24 日)および新しい時代の感染症対策について(公衆衛生審議会伝染病予防部会,平成9 年12 月9日)として,その後の発生を抑制するために届け出ることになります。適切な注意喚起をして頂くことになります。


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紹介 米国集中治療医学会/欧州集中治療医学会 SSCGガイドラインCOVID-19 2020年3月20日公表

2020年03月21日 12時25分37秒 | COVID-19の集中治療

米国集中治療医学会/欧州集中治療医学会 SSCGガイドラインCOVID-19

2020年3月20日公表

Surviving Sepsis Campaign: Guidelines on the Management of Critically Ill Adults with Coronavirus Disease 2019 (COVID-19)

新型コロナウイルス感染症 COVID-19

集中治療ガイドラインについて

 

名古屋大学大学院医学系研究科

救急・集中治療医学分野

松田直之

Naoyuki Matsuda MD, PhD

 

 はじめに 

 米国集中治療医学会と欧州集中治療医学会は,敗血症診療ガイドラインをSurviving Sepsis Campaign Guidelines(SSCG)として公表しています。 この内容を踏襲するものとして,米国集中治療医学会と欧州集中治療医学会は,2020年3月20日に50項目の推奨で構成される「COVID-19に対応する敗血症ガイドライン」を公表しました。本稿は,厳格な翻訳ではありませんが,推奨内容に気をつけて記載しています。また,文献索引番号や表なども併記していますが,上記英文タイトルよりリンクできるようにしていますので,文献や表については原本でご確認下さい。簡訳として,読みやすいように記載していますので,参考とされて下さい。

 

 SSCGガイドライン:COVID-19管理の推奨ポイント 

 1.気管挿管:気管挿管を行う場合,可能であればビデオ喉頭鏡を用いることを弱く推奨しています。

 2.輸液制限:ショックを併発した場合には,輸液量を過剰にしないことを弱く推奨しています。初期蘇生においてHESやアルブミンを使用しないことを弱く推移称しています。

 3.カテコラミンの使い方:カテコラミンの使い方については,不適切な記載かもしれません。ノルエピネフリンとエピネフリンを,内因性カテコラミンの適正補充療法として,鎮痛鎮静下で最小量を模索しながら,適正使用するのが良いと思います。私からのアドバイスとしては,循環作動薬については,体血管抵抗やモトリングに気をつけて病態を理解して使用することをお勧めします。

 4.腹臥位療法:Moderate ARDS(PaO2/FIO2比≦200 mmHg)およびSevere ARDS(PaO2/FIO2比≦100 mmHg)において,低い推奨ではありますが,腹臥位療法を12時間~16時間として弱く推奨しています。

 5.筋弛緩薬:人工呼吸器との同期不全が続く場合,深い鎮静を必要とする場合,腹臥位療法を併用せざるをえない場合,また高プラトー圧を必要とする場 合,最大48時間として弱く推奨しています。

 6.NO吸入療法:NO吸入療法の推奨を,重症ARDS(PaO2/FIO2比≦100 mmHg)のみとしています。

 7.二次性血球貪食性リンパ組織球症(HLH):COVID-19に二次性血球貪食性リンパ組織球症が合併する可能性について言及されています。

 8.ステロイド静注療法:ARDSを合併した時に,弱く推奨しています。低用量ステロイドを想定しているようです。

 9.抗菌薬:人工呼吸管理となった場合,抗菌薬の経験的併用を弱く推奨しています。

10.体温管理:発熱に対してアセトアミノフェンを弱く推奨しています。

11. 抗ウイルス薬:ロピナビル/リトナビルの日常的な使用を避けることを弱く推奨しています。

 

 感染管理・感染対策について 

SARSCoV-2感染のリスクについて

 中国疾病管理予防センターの最近の報告では,中国からCOVID-19の72,314症例が報告されており,44,672例が検査で確定されています。検査で確定されたCOVID-19のうち,1,716人(3.8%)が医療従事者であり,そのうち1,080名(63%)が武漢で感染しているようです。感染した医療従事者の14.8%(247名)が重度または重度の病気にかかっており,5人が死亡したと報告されています。また,イタリアでは,2020年3月15日現在,医療従事者2,026例のCOVID-19が記録されているようです。ICUでの患者から患者への感染のリスクは現在不明であるため,感染制御予防策の遵守が最重要です。医療従事者は,医療機関で既に実施されている感染制御ポリシーに従う必要があります。考慮事項として,以下の推奨事項と提案を提供します。

推奨:

1. ICUでCOVID-19に対してエアロゾルが発生する手技を行う場合,手術用/医療用マスクではなく,フィットされた呼吸用マスク(N95マスク,FFP2マスク)の使用をお勧めします。また,保護具(手袋,ガウン,顔面シールドや安全ゴーグルなどの目の保護具)も加えて下さい。(ベストプラクティス)。

2. ICUでCOVID-19に対してエアロゾルが発生する手技を行う場合,陰圧室で管理することをお勧めします(ベストプラクティス)。

3.人工呼吸管理されていないCOVID-19の通常ケアでは,個人用保護具(手袋,ガウン,および目の保護具,フェイスシールド,安全用ゴーグルなど)に加えて,外科用/医療用マスクの使用をお勧めします(弱い推奨,エビデンス低)。

4. COVID-19の人工呼吸器(閉回路)でエアロゾルを生成しない作業の医療従事者は,個人用保護具に加えて,レスピレーターマスクではなく外科用/医療用マスクを使用することをお勧めします(弱い推奨事項,エビデンス低)。

5. COVID-19患者に気管挿管を行う場合,可能であれば,ビデオ喉頭鏡を使用してください(弱い推奨,エビデンス低)。

 ※ コメント:日本では,マックグラス(McGRATH®)を用いるのがよいかもしれません。気管挿管時間を短くできる可能性があるからです。(松田直之)

  参考文献:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jshowaunivsoc/74/2/74_154/_article/-char/ja/

6.気管挿管を行う場合,気道管理の経験が最も多い医療従事者が行うことをお勧めします。(ベストプラクティス)

 

 診断と検査 

SARS CoV-2のICU患者の検査の適応

 世界保健機関(WHO)は米国時間3月11日,ジュネーブで会見を開き,新型コロナウイルス(COVID-19)を「パンデミック」だと宣言しています(3.11事例)。したがって,呼吸器感染症を疑う重症患者は,SARS-CoV-2に感染している可能性があるとみなすべきです。RT-PCR法は,SARSを含む同様のウイルス感染のゴールドスタンダードです(33)。特に,COVID-19は,潜伏期間が約2週間に延長したり,呼吸器症状が発症する前に約5日間のウイルス排出が行われるため,いくつかの診断上の課題が残されています。検査のパフォーマンスは,サンプリングの場所によって異なる可能性もあります。

推奨:

7. COVID-19の疑いが成人の気管挿管および人工呼吸器の場合:

 7.1 診断には,上気道(鼻咽頭または中咽頭)よりも下気道からサンプルを取得することをお勧めします(弱い推奨,低エビデンス)。

 7.2 下気道サンプルについては,気管支洗浄または気管支肺胞洗浄サンプルよりも気管内吸引液をお勧めします(弱い推奨,低エビデンス)。

 

 血行動態サポート 

COVID-19におけるショックと心筋傷害について

 成人のCOVID-19におけるショックの有病率は,研究対象の患者集団,重症度,ショックの定義に応じて,ばらつきが強いです(1%~35%)。 中国のCOVID-19の44,415名の疫学報告では,2,087例(5%)が重篤な低酸素血症および/またはショックを含む臓器不全の存として診断されています(12)。重症COVID-19の1,099名を対象とした別の中国の研究では,ショックを発症したのはわずか12人(1.1%)です(1)。入院患者では,ショックの発生率は高い傾向があり(42)(表3),ICU患者では20-35%に達する可能性があります(42,43)。

 中国武漢(42-45)のCOVID-19の報告では,7%から23%に心筋傷害(CKMBやトロポニンなどの心損傷バイオマーカーの上昇)が報告されています。心筋傷害の有病率はショックの有病率と相関する可能性があります。血行動態が安定した患者では,心臓機能障害に対する体系的なスクリーニングが行われておらず,関連性を確実に捉えることができていません(表3)。

 また,COVID-19およびショック患者の予後は体系的に報告されていません。中国武漢の2つの病院の150人の患者を対象とした研究では,ショックが40%の主な死因であり,少なくとも部分的には劇症心筋炎による可能性があります(46)。

 このようにCOVID-19のショックに関連する危険因子に関する研究や報告は不足しています。利用可能な報告の大部分は,推定値を報告しています(12,42,46)。方法論的な制限がありますが,高齢,併存疾患(特に糖尿病と高血圧を含む心血管疾患),リンパ球数減少,D-ダイマー増加が,おそらく心損傷を考慮すべきリスク因子であるかもしれません。

推奨:

  8. COVID-19に併発した成人のショックでは,輸液反応性を評価するために,動的パラメーター,皮膚温,毛細血管再充填時間(CRT),血清乳酸測定を用い,静的パラメーターを超えることをお勧めします(弱い推奨,低エビデンス)。

  9. COVID-19に併発した成人のショックでは,リベラルな輸液戦略よりも保守的な輸液戦略とすることをお勧めします(弱い推奨,超低エビデンス)。

  ※ コメント:輸液量を過剰とならないように工夫ができると良いです(松田直之)。

10. COVID-19に併発した成人のショックの蘇生には,コロイド液ではなく晶質液を使用することをお勧めします(強い推奨,中程度エビデンス)。

11. COVID-19に併発した成人のショックの蘇生では,バランスの悪い晶質液(unbalanced crystalloidsよりもバランスの良い緩衝晶質液(balanced crystalloids)の使用をお勧めします(弱い推奨,中程度エビデンス)。

  ※ コメント:生理食塩水ではなく,ラクテートリンゲルやアセテートリンゲルなどの緩衝液を使用してくださいという内容です。当然のことですが,カリウムには注意して下さい(松田直之)。

  ※ Balanced Crystalloids Versus Saline in Critically Ill Adults: A Systematic Review and Meta-analysis. Ann Pharmacother. 2020 Jan;54(1):5-13.

12. COVID-19に併発した成人のショックの輸液蘇生には,代用血漿製剤HESの使用を推奨しません(強い推奨,中程度エビデンス)。

13. COVID-19に併発した成人のショックの輸液蘇生には,ゼラチンを使用しないことをお勧めします(弱い推奨,低エビデンス)。

14.COVID-19に併発した成人のショックの輸液蘇生には,デキストランを使用しないことをお勧めします(弱い推奨,低エビデンス)

15. COVID-19に併発した成人のショックの初期蘇生に,アルブミンをルーティンに使用しないことをお勧めします(弱い推奨,中程度エビデンス)。

 ※ コメント:高齢者などのショックにおいて,輸液制限をするために,アルブミンを使用しても良いかもしれないと思っておりました。ルーティンな使用(ageinst routine use of albumin)がポイントなのかもしれません。ALBIOS studyのSepsis-2とSepsis-3を比較したサブ解析データなどもアルブミンを使用させる際には参考とされて下さい(松田直之)。

  血管作動薬の使用について 

推奨:

16.COVID-19に併発した成人のショックでは,ノルエピネフリンを他の薬剤よりも第一選択血管作用薬として使用することをお勧めします(弱い推奨,低エビデンス)。

17.ノルエピネフリンを使用できない場合,バソプレシンまたはエピネフリンの使用をお勧めします(弱い推奨,低エビデンス)。

18. COVID-19に併発した成人のショックでは,ノルエピネフリンが利用可能な場合,ドパミンの使用を推奨しません(強い推奨,高エビデンス)。

 ※ コメント:ウイルス性心筋炎である場合,ECMOの適応となると思います。また,細菌感染症を併発しない限り,血管拡張性のworm shock(血流分布異常性ショック)とはなりにくく,ノルエピネフリンではなくエピネフリンFIRSTでも良いかもしれません(松田直之)。

19. ノルエピネフリン単独では目標平均動脈圧(MAP)を達成できない場合,COVID-19とショックのある成人に対して,ノルエピネフリン用量の漸増薬としてバソプレシンを追加することをお勧めします(弱い推奨,中程度エビデンス)。

 ※ コメント:COVID-19におけるショックを,通常の細菌性ショックと同一視しているのかもしれません。血管が拡張する,つまり体血管抵抗が減弱している場合には,① ノルエピネフリン,② バソプレシンで対応するのが適切ですが,心筋および血管平滑筋へのSARS-CoV-2の播種によりCOLDショックとなることにも注意が必要であると考えています(松田直之)。

20. COVID-19に併発した成人のショックでは,血管作用薬を滴定して,平均血圧のターゲットを高くするのではなく,平均血圧60~65 mmHgをターゲットにすることをお勧めします(弱い推奨,低エビデンス)。

21.  COVID-19に併発した成人のショックでは,輸液蘇生法およびノルエピネフリンにもかかわらず心機能障害および持続的な低灌流の証拠がある場合,ノルエピネフリンの用量を増やしながらドブタミンを追加することをお勧めします(弱い推奨,非常に低エビデンス)。

 ※ コメント:私は,ここはエピネフリン持続投与か,VA-ECMOの適応と考えます。ドブタミン(アドレナリン受容体β刺激薬)を使用することには,反対しています。ドブタミンは,頻脈や不整脈を誘導し,血圧維持のための輸液量を増加させる可能性に注意が必要です。むしろ,頻脈を抑制することや内因性カテコラミンを制御することが,長期的には重要となります(松田直之)。

22. COVID-19に併発した成人のショックでは,コルチコステロイド療法なしで低用量コルチコステロイド療法を使用することをお勧めします(弱い推奨,低エビデンス)。

 注:敗血症性ショックの典型的なコルチコステロイド療法は,点滴または間欠投与のいずれかとして,ヒドロコルチゾン200 mg /日を静脈内投与する方法です。

 

 呼吸補助療法について 

 COVID-19患者の低酸素血症の有病率は,約19%です(12)。中国からの報告では,COVID-19の4%から13%が非侵襲的陽圧換気(NPPV)を受け,2.3%から12%が気管挿管下人工呼吸管理を必要としたとされています(表3)(1,12, 42,43,65)。 COVID-19の低酸素性呼吸不全の真の発生率は明らかではないですが,約14%が酸素療法を必要とする重度の呼吸不全を発症し,5%がICUで人工呼吸器を必要とするようです(12)。また,別の研究では重症COVID-19患者52名において,67%がARDSを発症し,63.5%がHFNC療法を受け,56%が侵襲的人工呼吸器,42%がNPPVと報告されています(42)。

 機械的換気を必要とする呼吸不全に関連する危険因子は,公開された報告書では明確に説明されていません。限られたデータから重症化や ICU入室に関連する危険因子として,① 高齢(> 60歳),② 男性,③ 糖尿病,④ 悪性腫瘍,⑤ 免疫不全などが挙げられました(1,12,42,43)。 CDC(Centers for Disease Control and Prevention)は,COVID-19の致死率(CFR:case-fatality rate)を2.3%として報告し,80歳以上の致死率は14.8%,重症化するとCFRは49.0%であり,気管挿管例では50%を超えるとしました。心血管疾患,糖尿病,呼吸器疾患,高血圧,癌などの既往がある場合,死亡リスクが高いようです(12)。

 

推奨:

23. COVID-19の成人では,酸素飽和度(SPO2)が92%未満の場合は酸素療法を開始することをお勧めします(弱い推奨,低エビデンス)。SPO2が90%未満の場合は,酸素療法を開始することをお勧めします(強い推奨,中程度エビデンス)。

24. 成人のCOVID-19による急性低酸素性呼吸不全(acute hypoxemic respiratory failure)では,SPO2を96%以下に管理することをお勧めします(強い推奨,中程度エビデンス)。

 ※ コメント:現在,高濃度酸素暴露の不適切性が,集中治療領域でも再燃されています。特に,ウイルス性間質性肺炎の危険性がある場合には,高濃度酸素投与をお勧めしていません。人工呼吸中に閉鎖式回路を用いた気管内サクションを行う場合などにも,高濃度酸素フラッシュを2分間するなどのことを止めて頂くようにしています(松田直之)。

25. 成人のCOVID-19による急性低酸素性呼吸不全において,従来の酸素療法で酸素化が得られない場合は,HFNCを使用することをお勧めします(弱い推奨,低エビデンス)。

26. 成人のCOVID-19による急性低酸素性呼吸不全では,NPPVよりもHFNCを使用することをお勧めします(弱い推奨,低エビデンス)。

27. 成人のCOVID-19による急性低酸素性呼吸不全で,気管挿管の緊急性はないけれどもHFNCが利用できない場合は,綿密なモニタリングと呼吸不全の悪化に関する短期間での評価を行いながらNPPVの試用を提案します(弱い推奨,非常に低エビデンス)。

28.マスクタイプのNPPVと比較して,ヘルメット型NPPVの使用に関しての推奨を作成できませんでした。COVID-19における安全性または有効性については確信がありません。

 ※ コメント現在,非侵襲的人工呼吸管理NPPVにおいては,マスクタイプではなく,ヘルメット型NPPVによる管理の呼吸管理状態や生命予後が良い可能性が示唆されています。このことを受けた,推奨文となっていると思います。NPPVで粘り過ぎると,エアロゾル拡散を悪化させるばかりではなく,気道狭窄や沈下性無気肺の増悪に気をつけることが期待されます(松田直之)。

29. NPPVまたはHFNCを投与されている成人のCOVID-19では,呼吸状態の悪化を綿密に監視し,悪化した場合は早期に気管挿管に移行することをお勧めします(ベストプラクティス)。

 

 気管挿管下人工呼吸管理について 

推奨:

30. 成人のCOVID-19におけるARDSで人工呼吸器を装着した場合,高い1回換気量(VT> 8 mL/kg理想体重)よりも,低い1回換気量(VT 4~8 mL/kg理想体重)を使用することをお勧めします(強い推奨,中程度エビデンス)。

31. 成人のCOVID-19におけるARDSで人工呼吸器を装着した場合,30 cmH2O未満のプラトー圧(Pplat)にすることをお勧めします(強い推奨,中程度エビデンス)。

32. 成人のCOVID-19におけるARDSで人工呼吸器を装着した場合,低いPEEPよりも高いPEEPをお勧めします(弱い推奨,低エビデンス)。

 備考:より高いPEEP(つまり,PEEP>10 cm H2O)を使用する場合,患者の圧外傷を監視する必要があります。

33. 成人のCOVID-19におけるARDSで人工呼吸器を装着した場合,リベラルな体液戦略よりも保守的な体液戦略を使用することをお勧めします(弱い推奨,低エビデンス)。

34. 成人のCOVID-19において中等~重症のARDSで人工呼吸管理をしている場合,12~16時間の腹臥位療法をお勧めします(弱い推奨,低エビデンス)。

35. 成人のCOVID-19において中等~重症のARDSで人工呼吸管理をしている場合:

  35.1. 必要に応じて,神経筋遮断薬(NMBA)をボーラス投与,また持続投与として,肺保護換気を促進することをお勧めします(弱い推奨,低エビデンス)。

 ※ コメント:ANZICSガイドラインCOVID-19と同様の推奨です。ANZICSガイドラインCOVID-19のコメントを参考として下さい(松田直之)。

  35.2. 人工呼吸器との同期不全が続く場合,深い鎮静を必要とする場合,腹臥位療法を併用せざるをえない場合,また高プラトー圧を必要とする場合,最大48時間として筋弛緩薬持続投与をお勧めします(弱い推奨,低エビデンス)。

36. 成人のCOVID-19におけるARDSで人工呼吸器を装着した場合,一酸化窒素(NO)吸入療法をルーティンな使用とすることを推奨しません(強い推奨,低エビデンス)。

コメント:ルーティンな使用を推奨しないという治療パターンに含めないことの推奨なのかもしれません。現在,MGHと西安で,COVID-19に対するNO吸入療法の臨床研究が開始されていますので,現時点では推奨できないとしているのかもしれません(松田直之)

37. 成人のCOVID-19における重症ARDSで人工呼吸器を装着し,換気などの救命戦略に反応しない場合,救命療法としての肺血管拡張薬の吸入を試用してもよいでしょう。酸素化の改善が認められない場合,治療は中止とします(弱い推奨,非常に低エビデンス)。

コメント:「we suggest a trial of inhaled pulmonary vasodilator as a rescue therapy」という記載の,吸入肺血管拡張薬は,後の解説を読む限り,一酸化窒素(NO)吸入療法を指しているようです。NO吸入療法の適応を,重症ARDS(PaO2/FIO2比≦100 mmHg)としています。(松田直之)。

38. COVID-19に人工呼吸器を使用したけれども酸素化が改善しない場合,リクルートメント手技を行うことをお勧めします(弱い推奨,低エビデンス)。

コメント:一度,Open Lungさせることが大切ですが,エアロゾル被曝手技となりますので,感染防御策に気をつけて下さい(松田直之)。

39. リクルートメントを行う場合,PEEPを段階的に上げていくなどのstaircase recruitmentとしないことをお勧めします(強い推奨,中程度エビデンス)。

40. 成人のCOVID-19におけるARDSで人工呼吸器を装着し,換気の最適化,レスキュー療法,および腹臥位にもかかわらず,酸素化が改善しない場合は,可能であればVV-ECMOを使用するか,患者をECMOセンターに紹介することをお勧めします(弱い推奨,低エビデンス)。

 

 COVID-19の追加治療オプション 

サイトカインストームについて

 サイトカインストームは,多臓器不全とサイトカインレベルの上昇を特徴とする過炎症状態です。中国の最近の研究では,COVID-19は二次性血球貪食性リンパ組織球症(HLH)を想起させるようなサイトカイン上昇プロファイルに類似することが示されています(44)。HScoreを用いて,COVID-19患者における二次性HLHをスクリーニングすることを提案されています(140)。コルチコステロイドおよび他の免疫抑制剤を,HLHの可能性が高いCOVID-19患者に使用できる可能性があります(141)。サイトカインストームの治療オプションについては,今後の多くのエビデンスが必要です。 抗ウイルス剤,免疫抑制剤,免疫調節剤,その他の治療法を含む,SARS-CoV-2とその合併症の治療オプションについて解説されています。

推奨:

41. ARDSまでには至らない呼吸不全で人工呼吸器を装着した成人では,コルチコステロイドの静脈内投与は行わないことをお勧めします(弱い推奨,低エビデンス)。

42. 人工呼吸器を装着した成人でARDSに至った状態では,コルチコステロイドの静脈内投与を行うことをお勧めします(弱い推奨,低エビデンス)。

 ※ コメント:メチルプレドニゾロン1-2 mg/kg/日を5日から7日間使用し,後にテーパリングしていく,少量ステロイド療法を弱く推奨しているようです。私は,この方法で行く場合には,24時間持続投与としていますが,血漿コルチゾル濃度を評価することもお勧めしています。測定法により,投与されたメチルプレドニゾロンが測定に反映されず,内因性コルチゾルのみの測定となる場合もありますのであわせて留意されて下さい(松田直之)。

43. COVID-19による呼吸不全で人工呼吸器を装着した成人では,抗菌薬の経験的使用をお勧めします(弱い推奨,低エビデンス)。

注:経験的抗菌薬投与を開始する場合,毎日,ディエスカレーションを評価し,培養検査結果や患者の臨床状態に基づいて,投与期間と適用範囲を再評価してください。

44. 成人のCOVID-19の発熱には,体温管理にアセトアミノフェン/パラセタモールを使用することをお勧めします(弱い推奨,低エビデンス)。

45. COVID-19の重症化した成人に対して,標準的な静脈内免疫グロブリン(IVIG)のルーティンな使用をしないことをお勧めします(弱い推奨,超低エビデンス)。

46. COVID-19の重症化した成人に対して,回復期患者の血漿をルーティンに使用をしないことをお勧めします(弱い推奨,超低エビデンス)。

47. COVID-19が重症化した場合:

 47.1. ロピナビル/リトナビルの日常的な使用を避けることをお勧めします(弱い推奨,低エビデンス)。

 47.2. COVID-19の重症患者における他の抗ウイルス剤の使用に関する推奨のためには,エビデンスが不十分です。

コメント:アビガン錠®(一般名:ファビピラビル)などの有害とはならないことのエビデンスがある場合や,有害事象が低い抗ウイルス薬は,使用することが期待されます。薬理学的に作用機序を考えて,院内等の承認を得て,応用することになります。また,単純にRNAポリメラーゼ阻害薬をまとめずに,はいい校正の高いものを期待するなら,ファビピラビルを選択することになるのだと考えております(松田直之)。

48. COVID-19の重症化した成人に対して,単独または抗ウイルス薬と組み合わせた組換えrIFNの使用に関する勧告を発行するには,エビデンスが不十分です。

49. COVID-19の重症化した成人に対して,クロロキンまたはヒドロキシクロロキンの使用に関する推奨を提示するには,エビデンスが不十分です。

50. COVID-19の重症化した成人に対して,トシリズマブの使用に関する勧告を発行するには,エビデンスが不十分です。

コメント:リウマチ治療薬である抗IL-6受容体抗体(tocilizumab,アクテムラ®)についてのコメントも最後に述べられています。COVID19バンドルを知っている先生もいらっしゃることもあるのか,海外から抗IL-6受容体抗体を応用しようと考え,コメントを求められています。2020年3月4日の段階で,CRPが高く推移する症例を選んで,ケブサラ®(一般名:サリルマブ)の併用を考慮すると良いとしていました。臨床研究が開始される予定です。COVID-19ではCRPが高く推移する例が認められ,肺などの血管透過性が亢進しやすい状態があります(松田直之)。

 

 おわりに 

 オーストラリア・ニュージーランド集中治療医学会(ANZICS)に続いて,米国集中治療医学会と欧州集中理療医学会のSSCGガイドラインメンバーによるSSCG/COVID-19ガイドラインが公表されました。このすべての内容は,既に日本で行われている集中治療を超えるものではありませんでした。一方,現時点では新型コロナウイルスSARS-CoV-2に対しての治療エビデンスはあたり前のことですが,ストロングエビデンスは存在しません。明確なエビデンスはありません。現在,NO吸入療法や吸入ステロイド療法などのいくつかの臨床研究は立ち上がっていますが,まず救命を優先し,後遺症を軽減するという観点では,有害性除去と効果性期待としての病態生理学的アプローチがとても重要となります。その上で,この多くの労力の中で作成されたSSCG/COVID-19ガイドラインに感謝の念を抱くとともに,この原本にあたって頂き,より深くCOVID-19の集中治療を洞察していただきたいと考えています。どうぞよろしくお願い申し上げます。

 

初版 2020年3月20日,追記・修正:2020年3月23日


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紹介 COVID-19の集中治療:呼吸管理法のANZICSの提案 2020.3.16

2020年03月16日 23時19分51秒 | COVID-19の集中治療

紹介 COVID-19の集中治療:呼吸管理法のANZICSの提案 Ver.1

The Australian and New Zealand Intensive Care Society (ANZICS)

COVID-19 Guidelines

Version 1 16 March 2020

Identification and Treatment of Patients with COVID-19 Infection Fundamental Principles

救急科指導医・専門医

集中治療専門医

松田直之

 

はじめに

 オーストラリア・ニュージーランド集中治療医学会(ANZICS)より,新型コロナウイルス感染症COVID−19ガイドラインが2020年3月16日付けで公表されています。本稿では,COVID-19の集中治療に関する推奨内容と私のコメントを記載しています。

 

ANZICSガイドライン2020

COVID-19における呼吸不全管理の推奨13項目

 ANZICSのCOVID-19ガイドラインVer.1では,COVID-19で呼吸機能が悪化している患者さんの早期認識の重要性を記載しています。 集中治療室(intensive care unit:ICU)では,ICUケアを必要とする患者さんの拾い上げシステムを構築するとともに,管理の早期最適化を目標とします。ANZICS は,COVID-19の呼吸管理として,13項目の治療についての記載をしています。写真をクリックすると,ANZICSホームページにも飛ぶようにしています。ANZICSは,この内容を広く世界に公表したいとされています。ここでは,ICUの医療従事者は,完全防備として,以下の適切な対応を行うことが記載されています。内容の記載の後ろに,私のコメントを付加しています。

1. HFNO療法:スタッフの最適なPPEの着用

 High flow nasal oxygen(HFNO)は,スタッフが最適な個人防御具(PPE:Personal Protective Equipment)を着用している限り,COVID-19疾患に伴う低酸素症の推奨療法である。最適なPPEや感染制御予防策が徹底されている場合,新しいHFNOシステムが適切に取り付けられていれば,新型コロナウイルのスタッフへの空中伝播のリスクは低くなる。 HFNO療法を受けている患者は,陰圧室管理が望ましい。高炭酸ガス血症,低酸素血症,呼吸疲労,循環の不安定,または精神状態が変化している場合は,気管挿管下人工呼吸管理を考慮すべきである。

私のコメント:宇宙服のようなPPEを付けた環境で,陰圧個室管理とできるのであればHFNOは利用できます。また,私は,High Flow Nasal Cannula(HFNC)とブログ内で記載しています。

 

2.非侵襲的人工呼吸:非侵襲的人工呼吸(NPPV)の日常的使用は推奨しない。

 現在までのCOVID-19の診療では,低酸素血症におけるNPPVは失敗率が高く,気管挿管の遅延,マスク適合が不十分な場合のエアロゾル化のリスク増加に関連していることが示唆されている。気管挿管までの遅延に気をつける。NPPVが閉塞性換気障害などの管理として適している場合には,HFNOと同様にPPEを使用して,感染防御を徹底する必要がある。 また,NPPVの患者は,陰圧室管理がよい。NPPVを行うすべての患者については,治療の失敗に対する次の明確な計画が必要である。

私のコメント:NPPVにおいては,エアロゾル暴露の十分に注意します。また,ARDS管理と同様に,気管挿管への以降のタイミングが重要となります。

 

3.気管挿管下人工呼吸管理:急性呼吸不全の管理として,肺保護機械換気が推奨される。

 低換気量戦略(予測体重4〜8mL/理想体重kg)を使用し,プラトー圧を30 cmH2O未満に制限した人工呼吸管理とする。高炭酸ガス血症は,permissive hypercapniaとして容認し,肺損傷を軽減する。高いレベルのPEEP(15 cmH2O)が推奨される。 APRVなどは,臨床医の好みと経験に基づいて検討する。回路にはウイルスフィルタを使用する必要があり,人工呼吸回路は定期交換しなくてもよい。

私のコメント:PEEPを15cmH20までは必要としないケースも多いようです。回路交換については,SARS-CoV-2が回路内で繁殖するわけではないので,アシネトバクター管理のような場合とは異なり,定期的交換は不要かもしれません。

 

4.筋弛緩薬(NMB):適応を定めた使用とする

 筋弛緩薬(neuromuscular blocking agents:NMB)は,悪化する低酸素症または高炭酸ガス血症,また,鎮静だけでは呼吸ドライブを管理できず,人工呼吸器と同期できない場合(dys-synchrony)やおよび肺虚脱(lung decruitment)で考慮する。

私のコメント:2007年7月31日にロクロニウムが日本でも認可/承認され,ロクロニウムを臨床で使用できるようになってから,より一層に筋弛緩薬を集中治療室の人工呼吸管理に使用しやすくなっていると思います。パンクロニウムやベクロニウムの時代とは異なる血漿除去半減期を考慮した使用となります。一方,適応・用法として,「集中治療における人工呼吸中の筋弛緩」はありませんので,こうした使用に厳しくなる傾向があります。薬剤の厳格管理として,院内承認を得てから使用されてください。

 

5.腹臥位療法:腹臥位療法は有効であるが注意が必要

 現在までの報告では,腹臥位療法がCOVID-19の低酸素血症の改善に有効であることが示唆されている。しかし,管理スタッフに適したPPEの着用とし,事故抜管などの有害事象のリスクを最小限に抑える病院ガイドラインに基づいて行われるべきである。

私のコメント:重力性にすりガラス陰影がでてくる場合,これは線維芽細胞増殖に,TGF-βなどの増殖性サイトカインの影響が出ている場合と考えられます。また,このような拡張性の損なわれた箇所に沈下性無気肺も生じてくるのだろうともいます。換気・血流比の改善など,免疫が育ってくるまでの人工呼吸中の時間稼ぎにもなるのかもしれません。一方,事故抜管などによる不幸な事例を避けるとともに,事前に院内で承認を取るとともに,患者さん,患者さん御家族に,十分な説明と同意のもとで施行して下さい。2015年までは,このような厳しい規約はなかったようにもいます。しかし,現在は,集中治療や救急医療における「院内包括的同意」として倫理審査を通しておくことも,急性期医療のルーティン管理として考慮されるとよいでしょう。また,医療スタッフの皆さんがSARS-CoV-2の自己暴露に十分に気をつけてください。

 

6.輸液管理:ドライサイド;厳格水分管理

 肺外水分量を減少させるため,輸液制限とし,経腸栄養量も高用量としないことを推奨する。

私のコメント:輸液バランスを毎日チェックし,尿量0.5 mL/kg/時レベルは必要としますが,過剰輸液に注意できると良いです。確かに,炎症に留意する一方で,輸液管理はドライサイドを皆さんが心がけていることでしょう。

 

7.人工呼吸管理からの離脱:標準的な抜管プロトコルに従う

 HFNOやNPPVは,抜管後のブリッジ療法となるかもしれないが,管理スタッフは厳密なPPEのもとで対応する。

私のコメント:余り抜管を急がないほうが良いと考えています。SAES-CoV-2に対する自己免疫ができるのは,症状発症後約14日〜21日です。抜管した後に肺線維症がでてくる患者さんにも注意します。気管挿管中は,人工呼吸関連肺炎(VAP)に注意が必要ですので,とにかく消化管免疫を維持すること,経腸栄養が必須と考えています。

 

8.気管切開:エアロゾル化対策必須

 気管切開術後のエアロゾル対策に注意し,また患者や御家族の意思決定で考慮する。常に最適なPPEを使用する必要がある。

私のコメント:気管挿管下での人工呼吸管理2週間で,一般に気管切開術を考慮しています。このタイミングを1週間,後ろにずらしても良いかもしれません。

 

9.気管内吸引:閉鎖式回路の推奨

 閉鎖式インライン吸引カテーテルが推奨される。肺虚脱(lung decruitment)とエアロゾル化(aerosolization)を避けるために,人工呼吸器から気管チューブを外さないようにする。

私のコメント:閉鎖回路を使うことは,SARS-CoV-2の管理では必須と思います。これは,このガイドラインに記載されているとおりだと思います。一方,気管内吸引において,必ず酸素濃度を上げるように指示している施設があるともいます。閉鎖式吸引カテーテルを用いる場合には,開放する場合とは異なり,回路内の酸素濃度は一定です。このため,不必要に酸素濃度を上げてはいけません。この時に注意して監視するのは,パルスオキシメータのSpO2の低下程度と心拍数です。SpO2が低下する場合は,末梢気道が収縮するためです。このANZICSガイドラインが提唱するように, PEEPレベルを15cmH2Oレベルに高めた方が良いのかもしれません。このあたりは,集中治療専門などがいらっしゃれば適切にPEEP値を設定してくれることでしょう。また,閉鎖式インライン吸引カテーテルを用いることで,循環変動は起きにくいとされていますが,頻脈傾向が出る時には,頭部後屈・顎先挙上として気管内吸引をしてください。気管チューブの咽頭や声門部への刺激を軽減して下さい。

 

10. ネブライザー:ネブライザーは推奨しない。

 吸入療法では,定量型吸入器の使用が推奨される。

私のコメント:気管挿管チューブの根本でコネクションできる良い定量型吸入器の開発が期待されます。吸入ステロイドなどの気管チューブ内投与なども,統一規格にできると良いと考えています。

 

11. 気管支鏡検査:気管支鏡検査は推奨しない。

 ウイルス性肺炎の診断には必要ではなく,エアロゾル化のリスクを最小限に抑えるためには,気管支鏡検査を避ける必要がある。COVID-19の診断のためには,気管吸引サンプルで十分であり,気管支肺胞洗浄(bronchoalveolar lavage:BAL)の必要はない。

私のコメント:現在,集中治療における気管支鏡の適応は少なくなってきています。無気肺などができるメカニズムを考慮し,その適正化が優先されるようになってきたからです。そうは言っても,昔からの名残で,気管支鏡による吸痰などをしてしまいがちですが,① 肺胞虚脱,②SARS-CoV-2への暴露のリスクに注意します。

 

12. 抗菌薬:2次感染に注意

 敗血症または敗血症性ショックである場合は,1時間以内に適切な経験的抗生物質を投与する必要がある。COVID-19感染症の一部は,二次的な細菌性下気道感染症を合併している。

私のコメント:細菌感染症の併発に,もちろん注意して対応されて下さい。CRPの再上昇がおきないように管理することがポイントです。私のCOVID-19管理バンドルにも記しています。

 

13. 救命治療:一酸化窒素(NO)吸入療法およびプロスタサイクリン

 急性呼吸不全における吸入一酸化窒素,プロスタサイクリン,または他の選択的肺血管拡張薬にはエビデンスがない。しかし,新興感染症では,腹臥位療法やECMOでも難治性低酸素血症となる場合には,NO吸入療法やプロスタサイクリン併用を一時的な対策としても良いかもしれない。一方,初期のVV-ECMOは,推奨されない。現在までの報告では,COVID-19が上述の人工呼吸器戦略で対応できるようである。VV-ECMOを使用するためには,重症呼吸不全として選択基準を確立し,十分な専門知識と経験を持つ専門センターでEVCMOを導入する必要がある。 ECMOの専門家と早期に話し合うとよい。

私のコメント:ここにプロスタサイクリンが登場するのは,疑問があります。肺における換気血流比を改善させるためのNO吸入療法は,ECMOに移行できない状況では,考慮されても良いかもしれません。一方,日本では,日本救急医学会と日本集中治療医学会と日本呼吸療法医学会が主体となり,日本COVID-19 対策ECMOnetが立ち上っています。現在,日本では300例のECMO対応ができると見積もっています。その上で,ECMOnetが,ECMO管理を指揮していることは,素晴らしい業績です。日本集中治療医学会では,このECMOnetやCOVID−19の集中治療管理の情報をWEB掲載させて頂いています。その上で,現在,COVID-19で心配されていることは,人工呼吸器の数,ECMO対応ベッド数,また集中治療管理のマンパワーです。通常の集中治療管理とCOVID-19の集中治療管理の分離形式,場としての管理区分も重要課題となっています。このような内容は,今後も大きな課題となってまいります。院内発症ではない重症感染症や傷病者管理では,「救命救急センターの充実化」が,本邦における極めて重要な管理体型です。国公立大学病院が,救命救急センターを運営し,平時より人工呼吸管理,代用腎臓管理,ECMO管理などを適切に行うことが期待されます。この指導者として,私などもしっかりと後継者を育成することが大切であると感じています。

 

おわりに

 ANZICSガイドライン「新型コロナウイルス感染症COVID−19ガイドライン」は,ANZICSにより2020年3月16日にホームページに公表されています。他の項目などを含めて,ご参照下さい。

初版:2020年3月16日


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集中治療バンドル 新型コロナウイルス感染症 COVID-19の集中治療

2020年03月04日 01時12分14秒 | COVID-19の集中治療

寄稿 新型コロナウイルスの集中治療

COVID-19の集中治療バンドル 〜病態生理学的アプローチ〜

国内および海外の皆さまへ

Critical Care against Novel Coronavirus Infection COVID-19

Pathophysiological approach:Perspective 13 bundles for COVID-19  in critical care

 

Nagoya University Graduate School of Medicine

Naoyuki Matsuda MD, PhD

 

 はじめに 

 新型コロナウイルス感染症は,敗血症の治療経過と同様に,① 1週間レベルで自然治癒していくもの,② 5日目頃から増悪して重症化するもの,③ 多臓器不全に線維化病態が混合して救命に難じるものなどがあるようです。ここには,私たちの健康状態,背景疾患,また免疫状態が関与するのかもしれません。新型コロナウイルスの重症化において,肺胞嚢などの末梢気道での炎症性病態が遷延すると,肺線維症が進行する危険性があります。集中治療に至たる重症化過程では,病態の方向性を未然に予測し,先を見ていることが大切です。新型コロナウイルスの重症化において,予測される事項や,検討項目を記載しています。救急・集中治療の管理におけるアセスメントバンドルとして,活用されて下さい。

 

 新型コロナウイルス感染症の病態学的解釈 

 新型コロナウイルス感染症(COronaVIrus Disease 2019:COVID-19)における留意事項として,末梢気道の粘液物質の貯留による換気不全,およびウイルス性間質性肺炎の進行が挙げられます。気管支上皮細胞,クララ細胞,酸素化に関与するⅠ型肺胞上皮細胞,肺胞領域細胞分裂に関与するⅡ型肺胞上皮細胞のなどに新型コロナウイルス(Severe Acute Respiratory Syndrome CoronaVirus-2:SARS-CoV-2)が生着し,細胞寄生することで,① 肺を構成する基幹細胞の機能が変化すること,② 線維芽細胞増殖への抑制が破綻すること,これらの2内容に,まず注意が必要となります。肺胞嚢の基底膜より,Ⅰ型肺胞上皮細胞が脱落してしまうと,肺の酸素化が維持できなくなるばかりか,肺胞間質に限らず,肺胞内に繊維素が蓄積しはじめる可能性があります。

 以上の過程で,Ⅱ型肺胞上皮細胞などの炎症性サイトカインの産生や,肺内での活性酸素種の産生に伴い,肺胞嚢領域などで血管内皮細胞が傷害される可能性にも注意します。SARS-CoV-2が,ACE-2やCD209Lなどの分子を介して血管内皮細胞に直接に寄生するかどうかは,今後の検討が必要ですが,診療上の表現系としては肺内でのトロンビン産生亢進や急性期DICの進行となると思います。アンチトロンビン活性が70%以下に低下することや,D−ダイマーが増加する際には,肺内などの血管内皮細胞障害の可能性として注意します。このようなケースにおいて,続発性肺高血圧症,肺胞出血,間質出血にも注意が必要です。

 このような状態において,炎症の程度がどのように推移をしているかを把握することが,急性期管理を乗り越えるために重要です。炎症の生体に与える影響,すなわち蛋白や脂質の異化を,C反応性蛋白(C-reactive protein:CRP)の波形下面積を減少させる方策として認識するとよいです。炎症期を遷延させないためにも,細菌や真菌などによる二次感染の併発,炎症性2ndアタックとして敗血症を増悪させないことに注意が必要です。

 CRPは,炎症性サイトカインの上昇に伴い,主に肝臓で産生されます。インターロイキン1-β(IL-1β),tumor necrosis factor-α(TNF-α),IL−6などの炎症性サイトカインの上昇に随伴して,tumor growth factor-β(TGF-β),platelet-derived growth factor(PDGF)やfibroblast growth factor(FGF)などの 線維芽細胞増殖因子が産生されます。全身性炎症の後の繊維化期を助長させないためにも,炎症期を単発として,さらに短く,低く抑え込むことが期待されます。このような増殖性因子の血中濃度の高まる時期には,線維芽細胞でチロシンキナーゼ活性が高まります。このような線維芽細胞増殖の過程で,筋芽線維芽細胞を増殖させず,肺を器質化させない工夫が,COVID-19の管理においても,病態学的に重要と考えています。

 

 COVID-19の集中治療における事前的13管理バンドル  

 COVID-19における間質性肺炎の増悪において,集中治療として検討するべき課題を,COVID-19管理バンドル(13項目)として記載しています。先を予測して管理するために,病態生理学的理解が必要と考えます。バンドル管理とは,パラレルな進行を同時に把握し,「束:bundle」(prospective 13 bundles in COVID-19)として並行管理する方策です。

 

 1.鎮痛・鎮静プロトコルの活用:免疫維持の重要性 

 鎮痛と鎮静(参考パターン

 現在,多くの集中治療室は,集中治療専門医の指導下で,鎮痛・鎮静のプロトコルを作成しています。鎮痛と鎮静の概念は,「痛み」の抑制という表面的解釈だけではなく,内因性カテコラミンの分泌を正常に近づけるという理解が重要です。例えば,呼吸数が早い状態や心拍数が早い状態では,交感神経緊張が高まっています。血液中の内因性カテコラミン濃度が高く推移しています。このような状態で,リンパ球はアポトーシスを起こしやすく,リンパ球の機能が低下する傾向があります。

 リンパ球の数と機能の維持として,集中治療では交感神経緊張を前提として「鎮痛・鎮静プロトコル(参考)」を実施します。このような管理の中で,血中のリンパ球数の維持,好中球/リンパ球数比≦3を目標とします。脾臓のB細胞の機能維持にも,留意しなければなりません。

 非常に複雑なサイトカインネットワークを想定しながら,とにかくコロナウイルスに対する液性免疫が育ってくるように,2週間〜3週間を耐える方策となります。その間に,肺で言えばⅡ型肺胞上皮細胞や気管支上皮細胞において,アポトーシスや細胞死をどこまで抑制できるかが,集中治療管理の最重要ポイントになります。この学術は,より一層に明確とすることが必要です。

 

 2.新型コロナウイルスの量と寄生の減少策 

 アビガン錠®(一般名:ファビピラビル)・カレトラ®(一般名:ロピナビル/リトナビル)

 新型コロナウイルスに対して,日本ではアビガン錠®(一般名:ファビピラビル)が使用されはじめています。アビガン®は,新興インフルエンザや再興インフルエンザに適応を持つインフルエンザウイルス治療薬です。

 アビガン®は日本で開発された薬剤で,富山化学の江川裕之先生と,富山大学医学薬学研究部の白木公康先生が関係しています。このアビガン®は,RNA依存性RNAポリメラーゼ阻害剤です。新興インフルエンザウイルスだけではなく,同じRNAウイルスであるコロナウイルスの増殖を抑える可能性が期待されています。アビガンを経管投与する場合は,適応外使用として各病院の倫理審査で使用許可を得ることが必要です。そして,患者さん及び患者さんご家族の同意が必要であることにも気をつけて下さい。

 その上で,すべての集中治療においては,経腸栄養を初期に完成させておくことが大切です。これは,①内服薬を多様に使えるようにするため,②2次性の人工呼吸関連肺炎を抑制するための消化管免疫維持,これら2つの基盤となります。

 アビガン®は,成人には1日目は1回1,600 mgを1日2回,2日目から5日目は1回 600 mgを1日2回の経管投与とし,総投与期間は5日間を原則とします。

 注意ポイントは,肝臓のCYP2C8阻害作用と横紋筋融解症です。代謝は,肝臓でのアルデヒドオキシダーゼとキサンチンオキシダーゼによる水酸化であり,チトクロームp450系による代謝ではないとされています。適応外使用として,吸入療法を考えられるかもしれませんが,コロナウイルスはangiotensin converting enzyme-2(ACE-2)やそれ以外の分子接着の可能性により,消化管や,肺などの破綻肺胞領域より血管内に播種し,心房や脾臓などに播種する可能性が否定できません。このため,通常の内服としての対応が望ましいと考えています。

 また,HIV(Human Immunodeficiency Virus:AIDSウイルス)の治療で用いるプロテアーゼ阻害薬であるカレトラ®(一般名:ロピナビル/リトナビル)は,新型コロナウイルス感染症COVID-19に対して広く使われているようです。成人にはロピナビル/リトナビルとして1回 400 mg/100 mg(2錠)を1日2回,または1回 800 mg/200 mg(4錠)を1日1回経口投与とされています。嘔吐,下痢などの消化器症状に留意します。

 

 3.末梢気道開放:人工呼吸の留意モニタリング・オルベスコ®吸入 

 吸入ステロイド(オルベスコ®:一般名シクレソニド)・換気血流比改善の工夫 

 SARS-CoV-2のエアロゾル拡散の危険性があるため,集中治療室における陰圧個室外でのHigh Flow Nasal Cannula(HFNC)や非侵襲的人工呼吸管理(non-invasive positive pressure ventilation:NPPV)は推奨できません。下気道の狭窄が進展する場合,気管挿管下の人工呼吸管理を原則とします。この際の酸素投与濃度は,過敏性肺臓炎や間質性肺炎の急性増悪に準じて,低濃度とできると良いです。つまり,末梢気道の開放として,Positive End-expiratory Pressure(PEEP)10 cmH2Oを基準としてPEEPを適正使用し,投与酸素濃度を可能な限り,空気レベルの21%に近づけることが期待されます。この間の管理目標は,末梢気道の開放なので,人工呼吸中では呼気フローをモニタリングし,呼気延長所見のある場合にはPEEPレベルを減少させないことをお勧めしています。また,pressure-volumeカーブにおける肺コンプライアンス,さらに無気肺の発生による一回換気量の日内変動を医療従事者間で共有して管理します。肺胞嚢領域が閉塞していくかもしれません。人工呼吸の使い方は,救急一直線「人工呼吸器の基本的使い方」を参照して下さい。

 末梢気道開放には,吸入ステロイド(オルベスコ®:一般名シクレソニド)やアドレナリン作動性β2受容体作動薬などの吸入療法も検討します。このうち,ドイツのALTANA Pharmaにより開発されたシクレソニドは,抗ウイルス活性を持つステロイド前駆体としてウイルス性の気道炎症の軽減として注目されています。シクレソニドは,肺内のエステラーゼにより加水分解を受けて活性代謝物である脱イソブチリル体に変換されると,グルココルチコイド受容体に対する結合親和性が100倍以上に高まるとされています(野中崇司先生,et al. 日薬理誌 2008;132:237-243)。また,グルココルチコイド受容体を介さない別な抗ウイルス作用や抗炎症作用が,シクレソニドに存在する可能性があります。脱イソブチリル体は,主に肝臓でチトクロームP450のCYP3A4で代謝されます。

 末梢気道閉塞,換気不全が増悪する傾向が時系列で認められる場合,人工呼吸の限界を論じ,extracorporeal membrane oxygenation(ECMO:体外式膜型人工肺)を考慮することになります。換気血流比の改善策として,① 腹臥位療法,② 一酸化窒素(NO)吸入療法を考慮します。PaO2/FIO2比<100 mmHg,すなわちsevere ARDS(acute respiratory distress syndrome)に移行していく際にECMOを考慮することになると思います。

※ 人工呼吸器がない場合のアドバイス

 SARS-CoV-2はエアロゾル拡散の危険性があるため,低酸素状態ではHFNCやNPPVではなく,気管挿管下での人工呼吸管理が推奨される傾向にあります。しかし,3月11日のWHOによるパンデミック宣言において,各国で人工呼吸器の需要が供給に追いつかない状態,また人工呼吸管理を適正にできる医師や医療従事者の問題があります。人工呼吸器を使用できない低酸素状態では,HFNCやNPPVを個室管理として使用するようにし,できるだけ投与酸素濃度を下げる工夫をし,吸入ステロイドとしてオルベスコ®,後述する抗酸化療法としてムコフィリン吸入(エビデンス小)および大量ビタミンC静注療法(エビデンス小)を考慮することになります。

 

 4.ECMO 

 人工呼吸管理で肺の酸素化を維持できない場合 

 人工呼吸管理で肺の酸素化を維持できない場合には,extracorporeal membrane oxygenation(ECMO:体外式膜型人工肺)の使用を検討します。現在,日本では,日本集中治療医学会と日本救急医学会等の学会の連動した「日本COVID-19 対応ECMOnet」が発足されています。ECMOは,① 強制換気による肺への圧負荷を軽減すること,② 肺への高濃度酸素投与を防ぐこと,この2つを可能とします。しかし,このECMOにおいても,活性酸素種の産生には,注意が必要です。デメリットは,① 体外循環としての血栓閉塞等の管理上のトラブル,② 凝固抑制による出血傾向の出現,③ 挿入部位や皮下ポケット,および血流におけるブドウ球菌等の細菌感染症の併発などです。ECMOの使用中に考慮することは,自己免疫の育成です。後述するIVIG療法なども考慮する必要があるかもしれません。また,産生される活性酸素種については,十分に注意する必要があると思います。全身性炎症状態におけるECMOによる状態改善や肺線維症の軽減化には,大量ビタミンC静注療法の臨床研究が期待されます。

 

 5.トロンビン活性に注意:AT活性のチェック 

 ATⅢ活性<70% → 検討:AT補充用法・DIC/肺線維症増悪→検討 rTM  

 アンチロトンビン(AT)活性≦70%とthrombin antithrombin III complex(TAT)の上昇に注意します。肺の毛細血管領域や腎糸球体の有窓性血管内皮の血管内皮細胞障害の可能性を懸念します。産生過剰となるトロンビンの作用に十分に拮抗できるように,アンチトロンビン補充療法(AT活性トラフ≧70%)やリコンビナントトロンボモジュリン(rTM)の投与を検討します。また,線維芽細胞にはトロンビン受容体が存在することも知られており,トロンビンによる線維芽細胞増殖にも注意します。血小板減少にも注意して下さい。血小板が沈着している箇所のPDGF活性にも注意することになります。

 

 6.サイトカイン排泄系の維持:経腸栄養と原尿利尿 

 必須:経腸栄養と原尿利尿 

 腎機能は糸球体濾過として尿量 0.5 mL/kg/時以上の維持,胆汁排泄は経腸栄養の完成として,炎症性サイトカインおよび増殖性サイトカインの排泄系の維持に注意します。集中治療では,唾液排泄や唾液性アミラーゼについても,注意して管理します。経腸栄養を早期に完成させること,原尿利尿を継続させることは,薬剤や炎症性リガンドの排泄を正常に保つために重要であり,炎症期と増殖期を短縮させるポイントとなります。

 

 7.二次感染に注意:接触感染予防策の徹底 

 必須:接触感染予防策・細菌性2次感染阻止 

 人工呼吸関連肺炎やカテーテルなどからの二次感染に注意します。38.4℃を超える発熱では,血液培養検体(2セット以上)を採取し,細菌培養検査を行います。このような場合は,敗血症に準じて抗菌薬の適正使用とします。二次感染として,細菌感染の併発にも注意が必要となります。

 また,細胞性免疫や液性免疫が低下している状態から集中治療を依頼された場合,カンジダなどの血流感染症にも注意しなければなりません。日本では血液中の (1→3) -β-Dグルカンを発色合成基質による比色法などで測定でき,深在性真菌症の評価に用いています。血液から直接に真菌が検出された場合や,肺などの1部位以上からの真菌の検出とβ-Dグルカン値の上昇を伴う場合には,抗真菌薬を併用します。カンジダは,十二指腸や消化管にも存在します。人工呼吸関連肺炎の予防も含めて,十二指腸にいる細菌やカンジダへの対応として,経腸栄養による消化管免疫の維持を重視しています。

 

 8.活性酸素種の影響の軽減 

 高濃度酸素投与/繊維化進行期/KL-6 > 500 U/mL→ 考慮:ビタミンC大量投与療法 

 人工呼吸下での高濃度酸素投与における活性酸素の影響を取り除く方策としては,ビタミンC大量投与法が期待されます。院内承認および患者ご家族への説明と同意の下で,40%以上の高濃度酸素投与をしなければならない状況では,大量ビタミンC静注療法を考慮しても良いかもしれません。一方,現在において,ARDS(acute respiratory distress syndrome)におけるビタミンC大量投与法の診療エビデンスは小さいと私は解析しています。しかし,費用以外に不利益はない療法ですので,肺線維症の進行を特徴とするARDSには選択する価値のある治療策と考えています。(救急一直線 活性酸素種の解説   1

 

 9. ムコフィリン吸入 

 繊維化進行/KL-6 > 500 U/mL→ 考慮 ムコフィリン®吸入 1日3回 

 日本では,特発性間質性肺炎や過敏性肺臓炎などの肺線維症が進行する状態の診断に,Krebs von den Lungen-6(KL-6)を用いています。ヒト由来のムチンファミリーは20種以上が知られており,MUC1,MUC2,MUC3A,MUC3B,MUC4,MUC5AC,MUC5B,MUC6,MUC7,MUC8,MUC9, MUC10, MUC11,MUC12,MUC13,MUC14,MUC15,MUC16,MUC17などとして知られています。 このうち,MUC1(Mucin1)は,クララ細胞やⅡ型肺胞上皮細胞に存在する細胞膜貫通型の分泌性ムチンであり,細胞膜上のグリコカリックスなどの形成に関与している可能性が示唆されています。KL-6は,このMUC-1が切断された分子であり,日本では抗KL-6抗体を用いて血中に回収されてくるKL-6を測定しています。一方,中国などの今回のCOVID-19に関する評価では,抵MUC-1抗体などを用いたMUC-1の上昇として報告しているものもあります。血液や気管支肺胞洗浄液におけるKL-6やMUC-1の上昇は,クララ細胞やⅡ型肺胞上皮細胞の障害を疑うものとなります。これらが傷害される過程で,線維芽細胞が増殖してくる機序については,より一層の解明が必要です。

 ムコフィリン®(mucofilin,一般名:N-アセチルシステイン)吸入液20%®1日3回(1回 2 mL) を,肺線維化抑制として施行しても良いと思います。この目的は,高濃度酸素投与における肺内の抗酸化療法です。高濃度酸素投与をしていない状態,酸素投与濃度40%以上での抗酸化療法の一つとしての検討課題かもしれません。診療エビデンスとしては,ピルフェニドンを使用する場合には,プラス効果を期待できないかもしれません。

N-アセチルシステイン(NAC)の臨床研究

 参考文献1 臨床研究 有効 IFIGENIA trial  Respir Res. 2009;10:101

  レジメ:prednisone, azathioprine and NAC VS  prednisone and azathioprine in IPF

 参考文献2  臨床研究 危険性勧告 prednisone, azathioprine and NAC(3剤療法)の危険性

   Idiopathic Pulmonary Fibrosis Clinical Research Network N Engl J Med. 2012;366:1968-77

 参考文献3  臨床研究 無効/有害性はなし Idiopathic Pulmonary Fibrosis Clinical Research Network N Engl J Med. 2014;370:2093-101. 

  60週間の観察で,有害事象の増加はありませんが,死亡率などに有意な改善を認めていないデータです。

 参考文献4 総合評価:特発性間質性肺炎におけるNACのシステマテックレビュー Medicine (Baltimore). 2016;95:e3629. 

  予測肺活量減少と6分間歩行距離に有意な改善効果があるが,強制肺活量を改善せず,死亡率には差がなかったというレビューとなっています。しかし,有害ではないとされています。

 参考文献5 総合評価:特発性間質性肺炎における抗酸化療法のシステマテックレビュー 抗酸化療法の有効性 EXCLI J. 2016 Nov 7;15:636-651.

 

 10.免疫グロブリン大量療法の可能性 

 日本では,免疫グロブリン静注用製剤(intravenous immunoglobulin:IVIG)は,IgG製剤としてIgAやIgMを含まない製剤として供給されています。このIVIGは,通常は自己免疫疾患などで大量療法として用いられていますが,様々なサイトカインやウイルス(既存のコロナウイルス;HCoV-229E,HCoV-OC43,HCoV-NL63,HCoV-HKU1を含む)に対する抗体としてIgGを含んでいます。どうにも制御できない免疫低下状態の免疫グロブリンをIVIG療法として,1g/kg/日あるいは2g/kg/日を2日間,あるいは0.5g/kg/日を8日間(合計2g/kg)は,有効となる可能性があります。ご高齢者や免疫不全などのどうにも制御できないCOVID-19では,IVIG療法を検討しても良いかもしれません。注意事項は,輸液量とIN-OUTバランスとなります。

 

 11.PMX-DHP吸着あるいはPMMA膜での持続濾過 

 TGF-βやPDGFやFGFなどの線維芽細胞増殖因子の血中濃度が高い場合には,ポリミキシンB吸着カラムを用いた血液吸着療法(direct hemoperfusion with polymyxin B immobilized fiber:PMX-DHP),またpoly methyl methacrylate membrane(PMMA膜)を用いた持続血液濾過(QF 20~30 mL/分)を用いるかどうかを検討します。日本では,このようなサイトカイン吸着効率のある血液浄化膜を利用できる可能性があります。

 

 12. 間質性肺炎の器質化抑制 

 KL−6増加例/繊維化増悪→ 考慮 ピレスパ® 

 肺線維症治療薬であるピレスパ®(一般名:ピルフェニドン)は,特発性肺線維症の治療に用いられる抗線維化薬です。肺線維症の器質化に関与するI型・II型プロコラーゲンの産生を抑制する作用として長期予後を改善させる目的で用いても良いかもしれません。そして,海外では,線維芽細胞におけるTGF-β,PDGFおよびFGF作用の阻害として,トリプルチロシンキナーゼ阻害薬(BIBF1120,Nintedanib,Ofev®)の併用を考慮されるかもしれません。COVID-19などの肺繊維化の進行する新興感染症では,このような創薬エビデンスも,必要であると考えています。

※ ピレスパ®(一般名:ピルフェニドン)の薬理作用として,TGF-β受容体シグナル抑制,アンジオテンシンⅡ受容体シグナルの抑制,NLRPインフラマソーム抑制,抵炎症作用,抗酸化作用などが知られています。

 ピルフェニドンの薬理作用について:J Respir Cell Mol Biol. 2020 Jan 22.

 臨床研究 Pirfenidone Clinical Study Group in Japan Eur Respir J 2010; 35: 821–829.

 臨床研究 CAPACITY trial Lancet. 2011 May 21; 377(9779):1760-9.

 臨床研究 ASCEBD trial N Engl J Med. 2014;370:2083-92

 臨床研究 Cochrane Database Syst Rev. 2010 Sep 8;(9):CD003134.

※ トリプルチロシンキナーゼ阻害薬(BIBF1120,Nintedanib,Ofev®)の臨床研究

特発性間質性肺炎による努力性肺活量(FVC)の減少を抑制するけれども,下痢症状が出やすいとしています。

 INPULSIS Trial N Engl J Med. 2014;370:2071-82.

 INBUILD trial Lancet Respir Med. 2020 Mar 5. 

 SENSCIS trial N Engl J Med. 2019;380:2518-2528. (Systemic Sclerosis-Associated Interstitial Lung Disease)

 

 13. 治療のアウトカム評価 

 モニタリング:CRP/LDH/KL-6 

 以上の治療策を考慮することにより,炎症をまず軽減させ,炎症性2 ndアタックも阻止し,増殖がどのように制御できるかを検討することになります。肺組織障害としては,LDHの推移のモニタリングとなるかもしれません。集中治療では,まずCRP波形下面積を最小にできるように工夫することが大切です。CRP波形下面積は,IL−6濃度波形下面積と同様に蛋白異化と炎症強度として評価します。日本ではIL-6の保険収載がありませんので,CRPで対応します。

 また,肺線維症については,① KL-6(krebs von den lungen-6),② TGF-βなどの増殖性サイトカインの評価ができると良いですが,TGF-βについては,保険収載外ですので,大学などでの公費負担となります。KL-6の上昇例では,予後が悪くなる可能性があるため,予後改善のために本バンドルも参考とされて下さい。

 以上において,肺繊維症の画像評価として,胸部単純CT像,またヘリカルCT像などのCT検査を行い,医療従事者およびご本人・ご家族との情報共有とします。この際においても,感染防御策を徹底することが必要です。

 

 00. 必要な検討事項 

 COVID-19の増悪因子として,① 喫煙,② 喘息,③ 栄養状態(BMI),④ 免疫不全,⑤ 糖尿病,⑥ 透析(慢性腎不全)などの事後解析が必要となります。特に,社会的には,現在において禁煙活動を重視することが必要かもしれません。

 また,どうしても自己免疫育成に焦点を当てた「ウイルス性間質性肺炎」をベースとする管理となりますので,①メチルプレドニゾロンパルス療法,②少量ステロイド持続投与法などの間質性肺炎の急性増悪で使用されるステロイド静注療法をあえて除いています。ステロイドを使用して集中治療管理をするとすれば,Meduriの少量ステロイド持続投与(救急一直線ARDS2017 表6)を試用するかもしれません。その一方で,内因性ステロイドの日内変動を血中コルチゾル濃度として把握しておくことが必要です。メチルプレドニゾロン持続投与法は,血中内因性コルチゾル濃度のトラフラインを高める方法ですが,院内のコルチゾル濃度としてはメチルプレドニゾロンは反映されていないかどうかについても確認されて下さい。メチルプレドニゾロン持続投与によりグルココルチコイド受容体反応は高まると考えますが,副腎皮質の抑制により血中コルチゾル濃度は低く推移するかもしれません。

 一方,COVID-19における炎症持続を低下させる方法として,リウマチやキャッスルマン病や敗血症などの応用として,IL-6受容体シグナルを抑制する方策があります。IL-6受容体抗体であるケブサラ®(一般名:サリルマブ)は,人工呼吸管理における炎症期を短くするため,反応性に高まる傾向のある増殖性サイトカインの体内産生量を減じ,炎症後の繊維化を減少させる可能性があります。

 また,線維化の進行を抑制する可能性のある薬剤として,アンジオテンシンⅡの作用拮抗(ATⅡ受容体阻害薬ARB,ACE阻害薬),スタチンの内服も期待できるかもしれません。このようなバンドルに含めていない薬剤についても,今後の検討が必要と考えています。

 ご高齢者においては,集中治療領域の加療を期待されない方もいらっしゃいます。これは,肺炎球菌やインフルエンザなどの肺炎においても認められます。このようなDNAR例が,新型コロナウイルス感染症においても増加すると予想されます。このため,高齢者や免疫弱者に新型コロナウイルスを伝播させない予防策が,とても重要な方策となると考えています。

 以上を含めて,当バンドルは,今後の後向き解析および前向き検討として,臨床テーマとなると考える内容です。

検討事項の整理

□ COVID-19などの新興ウイルス感染症の増悪因子の疫学(後向き解析の必要性):①喫煙のリスク ②糖尿病 など

□ 少量メチルプレドニゾロン持続療法の是非:Meduriの少量ステロイド持続投与(救急一直線ARDS2017 表6

  ※ 現時点では,上述のバンドル13を優先し,早い自己免疫育成のためにステロイド使用はコルチゾル濃度の低下した副腎不全状態でない限り,私はCOVID-19の管理に推奨していません。

□ 全身性繊維化抑制に作用する薬剤のポテンシャル:ARB,ACE阻害薬,スタチンの内服薬としての使用

□ 肺コンプライアンスが低下しない症例における病態生理の解明(事後検証課題)

□ 肺コンプライアンスが低下する症例の時系列解析(事後検証課題)

□ COVID-19におけるDNARの対応(事後検証課題)

 

 おわりに 

 新型コロナウイルス患者さんの診療において,集中治療室での医療従事者の保菌や感染を阻止することが必須となります。感染経路別予防策の徹底,標準予防策,接触感染予防策を原則として,また,手指衛生には通常通り,注意して頂き,厳格に対応することとなります。

 皆の共通する注意事項としては,危機的状況の患者さんの救命において集中治療領域ではさまざまな薬剤を適応外使用する必要性が出てきます。日本では,現在,「適応外使用」における規制が厳格となっています。日本では,必ず院内での承認申請を行い,また患者さんやご家族への説明と同意を文書として頂いています。アビガン錠®を使用する場合に限らず,院内での承認と,患者さんやご家族からの同意を得ることに注意して対応されて下さい。  

 本内容は,COVID-19を救命するために必要と考えられる事項を,病態生理学的あるいは薬理学的視点から整理したバンドルです。当然のことながら,新型ウイルス感染症としてCOVID-19に対する診療エビデンスの整った治療法はありません。このために,病態学的解釈を確認しなから,病態生理学的かつ薬理学的に,有害性のないものを選択し,総合的にアプローチしていくことになります。そして,後に有効性を再評価していくことになります。COVID-19の救命と社会復帰を目的とした内容としています。

 以上については,海外のCOVID-19の診療に携わっている先生にコメントした内容ですが,コメントの日本語の原本を掲載させて頂いています。COVID-19から救命する治療策は,いくつかの視点と視野のバンドルとしていくことが必要と考えています。参考とされて下さい。どうぞよろしくお願い申し上げます。

初版 2020年3月4日,追記 2020年3月8日,2020年3月9日,2020年3月10日,2020年3月11日,2020年3月13日


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文献レビュー 新型コロナウイルスの集中治療/ジャーナルクラブ PART 1

2020年03月04日 01時12分01秒 | COVID-19の集中治療

文献 新型コロナウイルスの集中治療 PART 1

COVID-19への集中治療・診療バンドル

 

救急科指導医・専門医

集中治療専門医

松田直之

NAOYUKI Matsuda MD, PhD

 

新型コロナウイルスSARS-CoV-2およびCOVID-19の管理にお役立て下さい。

救急一直線「COVID-19への集中治療・診療バンドル2020」を考える参考文献の解説とします。

 

 Bundle 0 集中治療室および救命救急センター設置拡充の必然性 

文献紹介

日本のベッド数は世界で一番 https://data.oecd.org/healtheqt/hospital-beds.htm
日本の集中治療ベッドは世界と比較して少ない:超急性期管理場が少ない https://www.statista.com/chart/21105/number-of-critical-care-beds-per-100000-inhabitants/

 COVID-19などの外来急性期を管理するには,重症化に備えた救命救急センターや集中治療室(intensive care unit:ICU)の普段からの運営が大切です。本邦は人口あたりのベッド数は世界最多ですが,術後ICU以外の救命救急センターICUや内科系ICUの設置が不十分であり,多くの方策が前向きに必要とされています。人口あたりの日本のICU設置率は,2017年から2018年の段階でCOVID-19でICU医療崩壊が報じられているイタリアより低い10万人あたり7.3ベッドです。

 日本では,COVID-19などの新興感染症や災害や救急医療としての急性外来患者さんに対応する「救命救急センターICUや内科系ICUの設置」が海外以上に遅れています。2020年3月1日の段階で日本の人口は約1億2595万人,ICUベッド総数が約6,500ベッドですので,10万人あたり約5.2ベッドとなります。10万人において2割がCOVID-19を発症するとして2万人,このうち約2%(DNARを除く)は必ず重篤化すると考えられますので,10万人あたり400ベッドが必要となります。少なくとも,今後,日本も10万人あたり約50ベッドをICUベッドの目標として,救命救急センターや内科系集中治療室を充填させることが必要と評価されます。厚生労働省や行政の皆さんには,センター構築のための補助金や診療加算をふくめて,「救命救急センターICUや内科系ICUの設置」に向けての行政指導による改善と改良を期待する案件となります。

 

 Bundle 1 鎮痛・鎮静プロトコル活用:免疫維持の重要性  

テーマ:SARS-CoV-2に対する自然免疫について

留意事項:症状が出現して約7日でIgMが産生され約10日以降でIgGが産生 

     → 思考 1:症状改善・治療の目標とする時期は14日間です。管理14日間で免疫を育てることが大切です(松田直之)。

               → 思考 2:イムノクロマト法による抗体検出試薬は早期検出に役立たないと考えます(松田直之)。

論文紹介1 Zhou P, Yang XL, Wang XG, et al. A pneumonia outbreak associated with a new coronavirus of probable bat origin. Nature. 2020 Mar;579(7798):270-273. PMID: 32015507

 新型コロナウイルスSARS-CoV-2に対して,感染後はご自身に免疫が育つまで,約2週間~3週間が必要になるかもしれません。救急・集中治療領域では,呼吸苦などの重症な状態に対して,患者さんやご家族の皆さんへの説明と合意のもとで管理バンドルに示したような支持療法を施行していくことになります。SARS-CoV-2については,2020年3月にNature誌に,武漢で初期に発症した5例のSARS-CoV-2のゲノムシーケンス,また透過型電子顕微鏡像や免疫形成パターンが記されています。この論文では,COVID-19の発病時における肺のBALF(気管支洗浄液)と咽頭ぬぐい液を比較すると,咽頭拭い液で検出できない例もあれば,完全ではないけれども咽頭ぬぐい液で新型コロナウイルスを検出できている例も示されています。そして,2019年12月23日にCOVID-19の症状が出た後の自己免疫は,IgMが1週間後ぐらいから上昇し,IgGが2020年1月10日の2週間から3週間の間に高まってくるというデータを掲載しています。リンパ球機能を正常に保つことが期待されます。リンパ球が活性化できる状態であれば,新型コロナウイルス感染の症状が出た時点より約1週間程度でまずIgMが産生され,10日以降にIgGが産生されはじめ,自己免疫が期待できるまでには呼吸器症状が出てから2週間以上かかると解釈されます。

 また,肺の透過型電子顕微鏡像では,肺胞嚢に散在する多量のコロナウイルスが拡大して示されています。そして,肺胞上皮細胞の基底膜からの脱落や,1 μmバーを示した透過型電子顕微鏡像の四角枠の左上に肺嚢胞内のムチン沈着を疑う所見も掲載されています。こうした病理組織切片で,マッソン・トリクローム染色などをすると線維芽細胞や膠原線維網の評価ができるのでしょう。2020年3月04日, 2020年3月16日 松田直之

  Bundle 2 新型コロナウイルスの量の減少:抗ウイルス薬の選択(院内承認必要) 

トピックス アビガン錠®(一般名:ファビピラビル)/ カレトラ®(一般名:ロピナビル/リトナビル)

アビガン錠の治療効果

 新型コロナウイルスに対する「アビガン錠」の中国での治療効果が発表されています。調査した母集団の確認が必要なデータですが,良好な治療経過のようです。薬理学的には,新型コロナウイルスに効果的と推測されます。ウイルス量が,Ⅱ型肺胞上皮細胞数の1/2〜同等になってしまう前に,また症状の軽いうちから,アビガン®をすることが軽症化や重症化を防ぐために重要と私は考えています。アビガンの有害性は,初期の妊婦さん以外には無いようなものですのでは,管理バンドルに記したように早く処方できることが期待されます。

アビガン®錠(一般名:ファビピラビル:favipiravir)について

 アビガンⓇ錠200 mg(一般名: ファビピラビル,favipiravir,構造式:上図 )は,富山化学工業(株)(現:富士フイルム富山化学(株))により開発された,抗インフルエンザウイルス薬です。新興インフルエンザウイルスを対象として,ウイルスのRNAポリメラーゼを阻害し,抗インフルエンザウイルス活性を示す薬剤です。インフルエンザウイルスやコロナウイルスは,ヒトに寄生して増幅する場合に使用する遺伝子がRNAだけの「RNAウイルス」です。この増幅に使用するRNAポリメラーゼを阻害する薬剤であるため,新しく抗原変異したインフルエンザウイルスなどの新興RNAウイルスへの治療に期待されます。アビガンⓇ錠は,2014年3月24日に「新型又は再興型インフルエンザウイルス感染症(ただし,他の抗インフルエンザウイルス薬が無効又は効果不十分なものに限る。)」の効能・効果として,製造販売承認を取得しています。

 アビガンⓇのインフルエンザの治験において,問題となったことは投与量設定でした。1回1,600 mgの内服により血漿除去半減期は3時間を超えるようになり,肺移行量も期待できると推測されると考えられます。この投与量をさらに増加できるかどうか,また投与期間をSARS-CoV-2に対する自己免疫ができはじめてくる2週間と延長できるかの安全性について不確定なため,慎重な対応となっていると考えられます。 

 臓器移行性は,カニクイザルで行われており,14C-ファビピラビル(アビガンⓇ)20 mg/kgの単回経口投与により,肺移行性の高さが確認されています。SARS-CoV-2の主感染部位となる肺の放射能濃度は,投与後0.5 時間に最高値に達しているようですし,血漿との濃度比は0.51と,他の治療薬以上に肺に速やかに移行する結果です。以上のような肺移行の良好性よりHIVやエボラウイルスの治療薬ではなく,アビガンⓇのPK/PDを考えた有効利用がCOVID-19の治療の鍵と考えています。救命治療バンドル(COVID-19集中治療管理バンドルVer.1)は,レムデシビルの投与量増加の危険性や無効性を考え,肺移行性の高いアビガンⓇを推奨しています。MRSA治療薬テイコプラニンの投与設計を考案した際と同様に,アビガンⓇの最大有効投与法について,PK/PDと安全性の中で考案する課題が残されています。集中治療においては,肝機能障害軽減に向けて,しっかりと経口栄養や経腸栄養を完成させながら,胆嚢駆出率,胆汁排泄性を評価して用いることが重要です。

留意事項 アビガン錠®(一般名:ファビピラビル)

 中国のデータから,アビガン錠®(一般名:ファビピラビル)を用いることで新型コロナウイルスのウイルス量を減少できる可能性が示されたことは,喜ばしいことです。一方で,実際にSARS-CoV-2に暴露された後に症状が出る期間において,ウイルスが一定量に増殖していると考えられます。SARS-CoV-2と生体の反応は,COVID-19としてファビピラビル服用後も持続し,少なくとも5日間は持続すると予想されます。そして,SARS-CoV-2に対する自己免疫が期待できるまでには2週間以上を必要とすると予想されます。必ず,生体反応が強く残存し,アビガン錠®だけでは改善しない方が残存すると予想されます。以上より,アビガン錠®を使用することで安心せず,SARS-CoV-2による感染症COVID-19の管理をアビガン錠®を加えた「全身管理バンドル」として多角的に,そして時系列で連続性を持って評価していくことをお勧めします。私は,アビガンは優れていると思います。

2020年3月17日 松田直之

Cao B, Wang Y, Wen D, et al. A Trial of Lopinavir-Ritonavir in Adults Hospitalized with Severe Covid-19. N Engl J Med. 2020 Mar 18. PMID: 32187464

 一方,HIV治療薬であるロピナビル-リトナビルは,良好な結果を得ていません。ここには,本薬の気道親和性の問題があるかもしれません。SARS-CoV-2感染症COVID-19の199例に対するロピナビル-リトナビル(400 mg/100 mg)のランダム化前向き試験では,消化管有害事象がロピナビル-リトナビル群で多く,有害事象のために13人の患者(13.8%)で早期にロピナビル-リトナビルは中止されています。その上で,ロピナビル-リトナビルの投与によるSARS-CoV-2に対する増殖抑制効果は認められない結果となっています。

2020年3月21日 松田直之

参考  レムデシビル:エボラウイルス治療薬:COVID-19の劇的改善を認めない

Grein J, Ohmagari N, Shin D, et al. Compassionate Use of Remdesivir for Patients with Severe Covid-19. N Engl J Med. 2020 Apr 10. doi: 10.

 エボラ出血熱のエボラウイルスRNAポリメラーゼ阻害薬であるRemdesivir(レムデシビル,GS-5734)(米国)は,アビガン®(ファビピラビル)(日本)と同様に,SARS-CoV-2を減量させる抗ウイルス薬として期待されています。しかし,その肺移行性や安全性を考えると,アビガン®(ファビピラビル)の方が力価が高い可能性があります。

 Remdesivir(レムデシビル)のCOVID-19のにおける治療効果について,2020年4月10日付けでNew England Journal of Medicineに報告が出されました。 レンデシビルは,初日に200 mgを静脈内投与した後,残り9日間は毎日100 mgの静脈内投与とし,10日間投与されています。本報告は,2020年1月25日から2020年3月7日までの期間にレンデシビルを投与された41歳~72歳の患者さんデータに基づいています。結果として,61例中53例を評価することが可能であり,地域は米国22名,ヨーロッパまたはカナダの22例,日本が9例です。人工呼吸管理は,53例中30例(57%)であり,ECMO管理は4例(8%)でした。 追跡期間中央値の18日間において,36例(68%)しか呼吸改善がなく,人工呼吸離脱は30人中17例(57%)です。退院は,合計25人例(47%),院内死亡は7例(13%)だったとのことです。劇的な治療効果が得られるとは考えられません。私は,肺移行性と肺胞上皮細胞等への親和性が課題かもしれません。

 開発段階における[14C]レムデシビルのラットおよびサルへの静脈投与後の放射能検出,すなわち臓器移行性の高かった部位は,動脈,肝臓,腎臓と報告されています。脳組織で放射能はほとんどまたはまったく検出されなかったことから,[14C]レムデシビルは,血管脳関門を通過しにくい,つまり脳炎の治療には用いることができないと解釈されます。結局,腎排泄と胆汁排泄がレムデシビルの主要な排泄経路であるため,肝臓と腎臓への移行性が時系列で高く,肺の集積は短時間であり,マウスの研究で認められたような肺でのSARS-CoV-2繁殖抑制作用が期待できるかどうかが今後も課題となります。臨床観察研究の治療成績として,院内死亡率は2%未満の死亡率ではなく,13%であることから,SARS-CoV-2や新興インフルエンザのようなプライマリーには肺移行性を期待したい病態では,レムデシビルは切れの良い薬剤とは評価しにくいように考えています。一方,SARS-CoV-2の血液や心臓・血管への播種は心筋炎や動脈炎の抑制として抑制できるかもしれません。

参考資料:Remdesivir Gilead,European Medicines Agency,03 April 2020

レムデシビルについて C27H35N608P 

 ギリアド・サイエンシズ(株)は,米国カリフォルニア州フォスターシティに本社を置く,世界第2位の大手バイオ製薬会社です。レムデシビルは,このギリアドにより開始されたエボラ出血熱の治療薬です。レムデシビル(GS-5734)は,生体内で代謝されてGS-441524として,RNAウイルスポリメラーゼを阻害し,エボラウイルスなどのRNAウイルスの増殖を抑制すると考えられています。安全性や有効性が確立されていません。動物研究が追加され,COVID-19に対する第III相臨床試験が行われています。アビガン®と比較すると,肺効果は低くなり,死亡率が高まる可能性があります。肝障害と腎障害(増悪)などの安全性にも気をつける薬剤です。

参考文献

動物研究:de Wit E, Feldmann F, Cronin J, et al. Prophylactic and therapeutic remdesivir (GS-5734) treatment in the rhesus macaque model of MERS-CoV infection. Proc Natl Acad Sci U S A. 2020 Mar 24;117(12):6771-6776. マウスSARS-CoV感染モデルでは,5 mg/kgのレムデシビルの肺組織改善効果が確認されています。

第III相臨床試験

1.Study title: "Study to Evaluate the Safety and Antiviral Activity of Remdesivir (GS-5734™) in Participants With Severe Coronavirus Disease (COVID-19)". (ClinicalTrials.gov Identifier: NCT04292899)

2.Study title: "Study to Evaluate the Safety and Antiviral Activity of Remdesivir (GS-5734™) in Participants With Moderate Coronavirus Disease (COVID-19) Compared to Standard of Care Treatment" (ClinicalTrials.gov Identifier: NCT04292730)

2020年4月11日 松田直之

 Bundle 3 末梢気道開放:エアロゾル拡散に注意  

テーマ1:SARS-CoV-2は環境で何時間ぐらい生存できるのか?

論文紹介1 Neeltje van Doremalen, Trenton Bushmaker, Dylan Morris, et al. Aerosol and surface stability of HCoV-19 (SARS-CoV-2) compared to SARS-CoV-1.COVID-19 SARS-CoV-2 preprints from medRxiv and bioRxivhttps://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.03.09.20033217v2.full.pdf

 SARS-CoV-2のエアロゾル拡散の危険性があるため,集中治療室における陰圧個室外でのHigh Flow Nasal Cannula(HFNC)や非侵襲的人工呼吸管理(non-invasive positive pressure ventilation:NPPV)は推奨できません。このような環境で,SARS-CoV-2は,どれぐらい環境で生存するかの理解が必要です。米国ハミルトンの国立衛生研究所のVincent J. Munster先生たちのSARS-CoV-2の報告では,① エアロゾルとして空中に3時間,② 銅表面で6時間,③ 鉄表面で13時間,④ ポリプロピレンに16時間,⑤ 段ボールに24時間,⑥ プラスチックやステンレスに2~3日と報告されています。プラスチックに注意が必要です。一方,このデータからは,人工呼吸器回路(プラッチック製:プラスチックレインフォース)として,1週間でルーチンに交換するというものではないと考えられます。一般に,CDC勧告などのように,通常の人工呼吸回路の管理においても明確な汚染がない限り,回路を交換することは義務付けられていません。人工呼吸器関連としては,ゴムについての検証もあると良いです。今後,検証が必要とされる内容です。2020年3月18日 松田直之

テーマ2:NO吸入療法は有効か?

 一酸化窒素(NO)の吸入療法は,集中治療室の重症呼吸不全や肺高血圧症の管理で,よく選択されるルーティンな治療策です。COVID-19においても,比較的早期の気管挿管されていない状態での呼吸苦,そしてPaO2/FIO2比<300 mmHgの低酸素血症,およびCT像でびまん性のすりガラス陰影が検出された際に考慮すると良いと思います。管理過程で背側無気肺が進行している際には,腹臥位で管理することも考慮しますが,沈下性無気肺とは異なるため,従来型の細菌感染症などに随伴した無気肺の管理ほど効果が期待できないかもしれません。一方,NOにはウイルスプロテアーゼの活性を低下させる作用が知られています。換気できる肺胞領域や気管支領域での新型コロナウイルスSARS-CoV-2の繁殖を抑制できる可能性があります。また,NO吸入療法は,換気されている肺胞領域の毛細血管を拡張させるため,換気されている肺胞へ血流シフトをもたらします。このため,換気血流比(V̇/Q̇ ratio)が改善して,酸素化を維持できるようになります。一方,NOの効力が低下してくる際に,血管内皮細胞,気管支上皮細胞,クララ細胞,Ⅱ型肺胞上皮細胞などの細胞内情報伝達蛋白のニトロ化に気をつけています。ウイルスにおいても,システイン残基などがニトロ化され,ウイルス活性が低下すると考えられます。ウイルス性の間質性肺炎の急性増悪ではNO吸入療法を選択しても良いと考えています。NO吸入療法で,気管挿管を回避できるかどうかを1次評価項目として,中国と米国MGHの連携としてNO吸入を30分間140-180 ppmで14日間用いる臨床研究が企画されています。記載:2020年3月19日

Saura M, Zaragoza C, McMillan A, et al. An antiviral mechanism of nitric oxide: inhibition of a viral protease.Immunity. 1999:10:21-8. 内容:NOには,アビガン錠のようにウイルスプロテアーゼを抑制する可能性がある。

Colasanti M, Persichini T, Venturini G, et al.  S-nitrosylation of viral proteins: molecular bases for antiviral effect of nitric oxide. IUBMB Life. 1999;48:25-31. Review. 内容:NOのニトロシレーションには注意をします。

 Bundle 5 末梢気道狭窄/肺線維化/血管炎が進行する可能性  

1.COVID-19の胸部CT像の特徴について

Inui S, Fujikawa A, Jitsu M, et al. Chest CT Findings in Cases from the Cruise Ship “Diamond Princess” with Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) . Radiology: Cardiothoracic Imaging 2020年3月 on line

https://pubs.rsna.org/doi/10.1148/ryct.2020200110

 大型クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」が日本の横浜港を出港したのは2020年1月20日です。乗客2,666人は,中国,ベトナム,台湾の旅をくつろごうとされていました。ダイヤモンド・プリンセスに乗船されていたCOVID-19の胸部CT像の解析などの結果を,乾先生たちが解析されています。2020年2月7日から2月28日にかけてCOVID-19と診断された症例の臨床および画像所見について,医療記録がレビューされています。

 画像解析は, 31年,19年,6年の経験を持つ胸部放射線科医3名が独立して行い,共同のコンセンサスとされています。また,胸部CT所見は,フライシュナー協会用語集(Fleischner Society)に基づいた記載とされています。

 胸部CT検査が行われたCOVID-19の112例の胸部CT所見が,表2にまとめられています。Ground-glass opacity(GGO:すりガラス陰影)やコンソリデーションなどのLung opacity(LO:肺混濁)は68例(61%),気管支拡張症や気管支壁肥厚などの気道異常(airway abnormalities)は30例(27%)に認められています。 呼吸苦などの症状のないCOVID-19罹患の82名においても,胸部CT像の肺混濁を44名(54%)に認めています。症状が出てくると,胸部CT像に肺混濁(LO)と気管支壁肥厚が目立ってくるようです。

 一般に,乾咳や呼吸苦が出てきているCOVID-19において,胸部CT像では,①すりガラス陰影(GGO),②気管支壁肥厚(airway abnormality)を予想することになります。その重症さが,PaO2/FIO2比の低下傾向に加えて,ECMO導入の一つの目安となるのだろうと思います。COVID-19の治癒後の胸部単純CT像などについても,今後,論文公表されることになることでしょう。 2020年3月20日 松田直之

出典:Inui S, et al. https://pubs.rsna.org/doi/10.1148/ryct.2020200110

2.血管炎・心筋炎が進行する可能性について:血管内皮浸潤の確認

Varga Z, Flammer AJ, Steiger P, Haberecker M, Andermatt R, Zinkernagel AS, Mehra MR, Schuepbach RA, Ruschitzka F, Moch H. Endothelial cell infection and endotheliitis in COVID-19. Lancet. 2020 Apr 20. PMID 32325026

 ATⅢ活性が正常でD−ダイマーが高値として持続するケースでは,肺毛細血管領域の血管内皮細胞障害が存在するものの,全身炎症性DICには至っていない可能性が病態学的に示唆されます。その一方で,肺線維症が進行する病態として,D-ダイマーが高値である際に肺内のマイクロサンプリングにおいて局所トロンボモジュリン濃度が低下し,血管内皮細胞障害と肺胞Ⅱ型上皮細胞障害が局所トロンビン活性により進行する可能性が想定されます。SARS-CoV-2はACE-2と結合することから,SARS-CoV-2の血管内皮浸潤や心房筋浸潤に注意が必要と考えてきましたが,サイトメガロウイルスと同様に血管内皮や心臓にSARS-CoV-2が播種することが確認されました。このような状態を避けるためには,初期のウイルス量の減量作戦が重要であり,理論的にはアビガン錠®の初期投与が重要であり,このような血管播種による重篤化が軽減できると考えています。また,肺からの血流播種として心房筋播種についてはサイトメガロウイルスなどの感染症と同様に徐脈に注意が必要となります。このような状態での肝臓や腎臓への血流播種にも注意が必要となります。肺移行性の高いアビガン錠®を症状が増悪する前から免疫ができてくる14日間まで内服することが初回のCOVID-19管理バンドルで示したように根本治療として最重要と評価しています。

Varga Z, et al. Lancet. 2020 Apr 20. PMID 32325026  記載 2020年4月23日

初版:2020年3月4日,追記:2020年3月16日,2020年3月17日,2020年3月18日,2020年3月19日,2020年3月20日, 2020年3月21日,2020年3月27日,2020年4月15日

参考 文献 新型コロナウイルスの集中治療 PART 2


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紹介 ICU・救急ナース松田塾 呼吸と循環に強くなる!

2020年03月04日 01時11分52秒 | その他のお知らせ

ICU・救急ナース松田塾 呼吸と循環に強くなる!

呼吸と循環管理について,ポイントを記載しています。


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文献レビュー 新型コロナウイルスの集中治療/ジャーナルクラブ PART 2

2020年03月04日 01時10分00秒 | COVID-19の集中治療

文献 新型コロナウイルスの集中治療 PART 2

COVID-19への集中治療・診療バンドル

 

救急科指導医・専門医

集中治療専門医

松田直之

NAOYUKI Matsuda MD, PhD

 

新型コロナウイルスSARS-CoV-2およびCOVID-19の管理にお役立て下さい。

救急一直線「COVID-19への集中治療・診療バンドル2020」を考える参考文献の解説とします。

 

 Bundle 10 免疫グロブリン大量療法の可能性/回復症例の血漿利用 

COVID-19に罹患したけれども改善された患者さんの血漿にはSARS-CoV-2に対するIgMやIgGなどの免疫グロブリンが含まれています。米国食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)

文献紹介 Covid-19: FDA approves use of convalescent plasma to treat critically ill patients BMJ. 2020 Mar 26;368:m1256

米国食品医薬品局FDAは,医師が電話で承認を得ることを条件として,COVID-19から回復した患者さんの血漿を使用してcovid-19で重症の人々を治療することを2020年3月24日の段階で承認しています。この方法は,ポリオ,はしか,おたふくや,1918年のインフルエンザ流行などのcovid-19と同様の呼吸器感染症の以前の集団発生で使用されています。FDAの決定は,ニューヨーク州知事のAndrew Cuomo氏が,ニューヨーク州保健局が回復期のCOVID-19患者さんの血漿を用いて重症患者の治療を開始すると発表した翌日に行われています。 NBCニュースでは,ニューヨーク当局はcovid-19から回復した患者を募集すると発表したそうです。FDAは,回復期の血漿の使用したい医師に,治験薬(IND)の申請のための通常システムに従うように指示しています。血漿は,14日間症状がなく,COVIF-19検査(RT-PCR)で陰性の結果が得られた回復後の患者さんから収集するとしています。適応については,公衆衛生上の緊急事態として「重篤または即時に生命を脅かすcovid-19感染症」を対象とするとのことです。重症状態の定義:呼吸困難,呼吸数30回/分以上,SaO2 93%以下,PaO2 / FIO2<300,胸部X線での肺浸潤> 50%として定義されるようです。生命を脅かす疾患とは,敗血症を意味し,呼吸不全(ARDS),敗血症性ショック,または多臓器不全として定義されています。

※ 一方,大量IVIG療法は,コロナウイルスに共通する構造に対する免疫グロブリンや抗サイトカイン抗体などの投与を期待するものですが,① 体液量のIN-OUTバランスを取る留意,② 費用/コストなどが留意事項となります。

 

 Bundle 11 PMX-DHP吸着あるいはPMMA膜での持続濾過  

COVID-19におけるPMX-DHP(ポリミキシン B 固定化線維カラム直接血液灌流法:direct hemoperfusion using a polymyxin B immobilized fiber column)の位置づけについて

US FDA Approves an Investigational Device Exemption for Spectral Medical PMX to Treat COVID-19 Patients Suffering from Septic Shock

https://spectraldx.com/us-fda-approves-an-investigational-device-exemption-for-spectral-medical-pmx-to-treat-covid-19-patients-suffering-from-septic-shock/

 COVID-19における敗血症性ショック,これは2次性に細菌感染症を併発した場合も含みますが,FDA(米国食品衛生局)はCOVID-19における敗血症性ショックの治療にPMX-DHPを認可しました。

  • PMX has successfully been used for treatment in COVID-19 patients in the U.S., Japan and Italy
  • IDE approval provides access to PMX to help clinicians treat COVID-19 patients in septic shock
  • Publications have demonstrated endotoxin removal by PMX can decrease cytokine storm and dependency on ventilators

 PMX-DHPは,集中治療領域に携わるもので知らないものはいないほど有名な血液浄化法です。グラム陰性桿菌の細胞壁成分であるエンドトキシンを吸着する血液吸着療法として開発され,1993年10月に日本で製造承認が下りています。ノルアドレナリン抵抗性の重篤な敗血症性ショックなどで,私も使用させて頂いています。このPMX(ポリミキシン吸着カラム)は,日本以外では現在,米国やイタリアのCOVID-19患者の治療に使用されていると現地の医師より聞いています。今回,米・カナダの合同声明として2020年4月14日トロントにおいて ,PMX-DHPに対するIDE(Investigational Device Exemption)の承認が得られたとのことです。

 このIDE承認は,敗血症性ショックとなったCOVID-19にPMXを使用することを認めるというものであり,さらに敗血症性ショックにPMXを使用するために米国でFDAが承認したTigris試験(チグリス試験)に取り込まれるとのことです。ショックについては,その病態を診断することが重要です。細菌性の血管拡張性ショック(血流分布異常性ショック)には,有効かもしれません。その一方で,PMXはTGF−βなどの線維芽細胞増殖因子を吸着する可能性もあり,肺線維症を予防する可能性は否定できません。極めて重症なECMO対応例についてのオプションと考えて良いかもしれません。しかし,COVID-19の治療の根底は,私のCOVID-19管理バンドルにも記載させて頂きましたように,自覚症状早期からアビガン®投与によるウイルス量減少策,オルベスコ®による末梢気道炎症の抑制,緊急時はPPE装備でのジャクソンリースを含むopen Lung治療,免疫育成までの2週間の「しのぎ作戦」,2次感染の絶対的制御が重要と考えています。

追記 2020年4月15日,ページ構成修正 2020年4月25日

参考 文献 新型コロナウイルスの集中治療 PART 1


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