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看護師さん用 DICの疑わしい症状 ―観察上の注意点ー

2006年11月27日 16時21分17秒 | 講義録・講演記録

看護師さん用DIC講座

DICの疑わしい症状 ―観察上の注意点―



京都大学大学院医学研究科
初期診療・救急医学分野
准教授 松田直之


はじめに

 播種性血管内凝固症候群(Disseminated Intravascular Coagulation: DIC)は,どうもよくわからない,難しいと考えている看護師さんが多いと聞きます。この特集では,DICに対する苦手意識を取り除き,DICのより良い観察の基盤をつくることを目的とします。DICの早期診断と治療をふまえて,DIC観察のポイントを解説します。


診断基準にそったDICの観察を行いましょう

 日本救急医学会DIC特別委員会により「急性期DIC診断基準」が2005年に発表されました1)。ここに提示されていますように,すべての侵害刺激,生体侵襲は患者さんの急性期にDICを引き起こす可能性があります。この急性期DIC診断基準を用いると,厚生労働省や国際血栓止血学会のDIC診断基準よりも,早い段階でDICを疑い,そして,早い段階からDICの診断と治療を行うことができます。
 写真(図)を御覧ください。写真はマウスが敗血症に罹患したときの肺の走査型電子顕微鏡像です。写真には肺胞と血管が写っていますが,たくさんの血小板が血管内皮細胞や肺胞に付着し,フィブリン網を形成していることがわかります。敗血症患者さんの管理では,このような肺に対して人工呼吸を行っているとイメージするとよいです。血小板やフィブリンは体表の見える創部の止血に関与するだけではなく,通常では私たちが観察できない体内の血管や組織にも集積し,創傷治癒に関与しています。外傷では体表だけではなく体内の創部へ血小板が集積しますし,敗血症では血管内皮細胞傷害の進行により血小板が血管内皮細胞に沈着するようになります。このような結果として,血液中の血小板数が低下し,些細な傷に対しても出血傾向が出現します。日本救急医学会DIC特別委員会により作成された急性期DIC診断基準では,血管内皮細胞傷害を導く可能性のある全身性炎症が存在するかどうか,そして,結果として生じる末梢血の血小板数の急激な低下があるかどうかに,観察の重きが置かれていると理解しましょう。

DICをひき起こす基礎疾患の把握が大切です

 日本救急医学会DIC特別委員会の急性期DIC診断基準では,DICをひき起こす基礎疾患を提示しています。このような基礎疾患の病態を理解しておくことでDICに対して注意深くなることができます。表1は,DICを合併しやすい基礎疾患をチェックしやすいようにまとめたものです。表1を参照して,このような病態では,DICの合併を早期から疑うように工夫してください。
 これまでDICは凝固優位型と線溶優位型に分類されていました。古い成書では,今でも,このような記載が残されています。しかし,DICの本体は凝固亢進ですから,凝固優位型という表現はふさわしくありません。このため,現在は,凝固が亢進することを前提として,凝固を溶かす線溶作用のレベルで線溶抑制型と線溶亢進型の2つにDICを分類しています。線溶抑制型DICは敗血症や外傷,術後などの全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome: SIRS)に合併し,線溶亢進型DICは急性前骨髄性白血病(acute promyelocytic leukemia: APL)などの白血病や,前立腺がんや肺がんなどの固形がんに合併します。線溶亢進型DICの代表である白血病や固形がんのケアにおいても,感染症の合併や輸血によってDICが進行する可能性に注意しなければなりません。そして,線溶抑制型のDICでは,トラネキサム酸(トランサミンⓇ)などの抗線溶療法により深部静脈血栓症を合併する危険があり,抗線溶療法には注意が必要となります。
 
SIRSに対する理解を深めましょう

 全身性炎症SIRSは,1991年に行われた米国胸部疾患学会と米国集中治療医学会の合同カンファレンスで提唱された疾患概念です2)。集中治療室や救急外来で看護にあたっている皆さんには,SIRSは聞きなれた症候群かもしれません。全身性炎症には,DICが合併しやすいことを理解しておくことが大切です。むしろ,全身性炎症がなければ,表1にあげた血管性病態,悪性腫瘍,産科疾患以外にはDICを発症しにくいと理解してよいと思います。
 このDICを合併しやすいSIRSの病態は,サイトカインストーム(サイトカインの嵐)と呼ばれています。炎症を増悪させるtumor necrosis factor(TNF)やインターロイキンなどの炎症性サイトカイン,白血球を遊走させるケモカインなどが好中球やマクロファージなどの白血球などが過剰産生されることで,SIRSが形成されます。外傷,予定された外傷である手術,広範囲熱傷,急性膵炎,長期絶食などでは,このような炎症性サイトカインが過剰産生されてSIRSが惹起されます。近年は,これらのSIRSを導く原疾患に,感染症が合併することにより,感染症が2次性侵害刺激(2nd attack,2nd hit)として働き,SIRSをより重篤な状態とすることが解明されてきました。現在,敗血症(sepsis: セプシス)は感染症を原因とするSIRSと定義されていますが,この感染の合併によりSIRSが重篤化した病態こそが重症敗血症(severe sepsis: 重症セプシス)と呼ばれている重症病態です。SIRSの重篤化の際にはDICを合併し,多臓器不全がさらに進行することに注意しなければなりません3)。以上のことから,患者さんが既にSIRS状態にある場合には感染症管理が非常に重要であり,感染防御のために,接触感染予防策を徹底することが必要です。さらに,看護に当たる皆さんも,適時,細菌培養検査結果をチェックし,どのような菌がどこから検出されているか,そして,どのような感受性のある抗菌薬が用いられているかを把握しておくことが大切です4, 5)。
 SIRSの診断は,表2に示したように,体温,心拍数,呼吸数,白血球数の4つの項目から成り立ちます。このうち,2つ以上の項目を満たす場合にSIRSと診断されます。日本救急医学会DIC特別委員会の急性期DIC診断基準では,SIRSの診断項目3つ以上でスコア1点と数えます。SIRS病態の時系列にそった申し送りが,DIC早期発見に必要となります。

カテーテル刺入部からの出血が止まらない

 先生,中心静脈カテーテルや末梢静脈カテーテルの刺入部から出血が止まらないので,止血してください・・・。カテーテル刺入部からの出血,口腔内清拭における出血,持続する鼻出血,黒色便などの下血,胃液に混入する黒色残渣,多発性皮下出血,これらは,まさに,出血徴候であり,DICの徴候とも考えられます。ここで注意すべき点は,このような出血徴候を示すDIC以外の病態を念頭に入れて,医師の治療方針を確認することです。カテーテルの刺入部を縫合し,止血にあたることは大切ですが,これが出血の原因を改善させる本質的な治療ではないことに注意しなければなりません。
 表3には,DICとの鑑別が必要な血小板減少が生じる病態,PT時間が延長する病態,フィブリン分解産物(FDP)が上昇する病態を示しました。医師がDICを診断する際に必ず評価する内容です。出血傾向を認めた際には,このような病態をDICと鑑別する必要があることを,理解しておかなければなりません。
 大量出血や大量輸血を必要とした手術後や外傷初期診療のあとでは,血小板輸血を行っていない限り,血小板数は低下しています。このような場合には,確かに,重篤な侵害刺激が加わったために炎症に伴うDICに発展する場合が多いですが,ただ単にフィブリノーゲンや凝固因子,血小板が減少しているだけでも1次止血が損なわれ,出血傾向が現れます。新鮮凍結血漿製剤や血小板製剤の輸血を予定している場合は,担当医師がプロトロンビン時間(PT時間)や血小板数をどのくらいに維持したいと考えているのかを理解する必要があります。また,ヘパリンを持続投与している場合は,それが原因で血小板数が低下してくる場合があります。ヘパリンを使用して透析や冠動脈インターベンションを行った際に,血小板数が減少してくる場合があります。このような病態はヘパリン起因性血小板減少症(heparin-induced thrombocytopenia: HIT)と呼ばれており,ヘパリン投与患者さんの約10%に認められるようです。ヘパリン投与後の患者さんで急激な血小板数の低下を認めた場合には,ヘパリン惹起血小板凝集法やELISA法でHIT抗体やヘパリン依存性抗体を検出して,DICとの鑑別を行う必要があることを記憶しておくとよいでしょう。
 
急性期DIC診断基準と診断後の観察

 日本救急医学会DIC特別委員会の急性期DIC診断基準を表4に示しました。たとえば,SIRSの診断項目が3つ以上あれば1点,血小板数が8万以下に低下すれば3点で,合計4点以上となり,DICと診断します。この診断基準では,スコア4点以上でDICと診断します。線溶抑制型DICでは凝固分解産物であるFDPやDダイマーの上昇は少ないですが,線溶亢進型DICでは25 µg/mLを超えるFDPの上昇が認められます。一般に,SIRSに伴うDICは線溶抑制型DICですから,DICの急性期にはFDPやDダイマーの上昇が軽度ですが,炎症が落ちつき,DICが改善してくると,線溶系が回復してくるので,FDPやDダイマーが上昇してきます。SIRSに伴うDICでは治療効果が得られてくると,FDPやDダイマーは上昇してくると考えてよいでしょう。DICをひき起こしやすい基礎疾患(表1参照)が存在する場合は,表4の急性期DIC診断基準を用いて,DICスコアを毎日計算することが大切です。
 DICの診断がつくと,血小板濃厚液や新鮮凍結血漿を用いた補充療法が開始されると思います。厚生労働省は,血小板濃厚液の投与目安は血小板数5万/mm3未満,新鮮凍結血漿の投与目安は,PTがINR2.0以上あるいは活性値30%未満,活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)が各施設の正常値の2倍以上の延長あるいは活性値25%未満,フィブリノーゲンが100mg/dL未満を,推奨しています6)。アンチトロンビンⅢ(ATⅢ)も活性値を70%以上に維持することが重要と考えられていますし,活性値150%以上では抗炎症効果も期待できます。主治医は, DICの改善効果を目標に,これらの投与量をさじ加減していると思います。看護に当たる皆さんも,補充療法やDIC治療薬により,DICスコアや出血傾向が改善されてきているかを観察し,評価し続けることが大切です。

DICの抗凝固療法はここに気をつけよう

 DICの治療は原疾患の治療,抗凝固療法,補充療法,感染管理の4つを柱とします。この4つに十分に対応できれば,必ずやDICの改善を確認できると思います。このうち,抗凝固療法には,いくつかの注意点があります。
 現在,抗凝固療法には,未分画ヘパリン,低分子ヘパリン(ダルテパリン:フラグミン),ヘパリノイド(ダナパロイド:オルガラン),蛋白合成酵素阻害薬(メシル酸ガベキサート:FOYⓇ,メシル酸ナファモスタット:フサン)が用いられています。また,DICでは大切なこととしてアンチトロンビン活性(AT活性>70%)の維持に注意して下さい。薬剤ですが,ダナパロイドは,腎機能障害を合併している場合にには血液浄化法で除去できないため,出血性副作用が強く現れる危険性があるため,使用しない傾向があります。未分画ヘパリンは活性化凝固時間(ACT)やAPTTで凝固抑制をモニタし,低分子ヘパリンは抗Xa活性で凝固抑制をモニタすることにより,出血性副作用を軽減させることが大切です。これらのヘパリン類は凝固系を阻害しすぎれば出血を助長させることになりますが,先に述べたHITによる血小板数を減少させる可能性もあります。ヘパリン類を使用する際には,特に,出血症状が増悪する可能性に注意して観察を続ける必要があります。また,ヘパリン類の抗凝固作用はATⅢ活性に依存して発揮されますから,炎症の強いSIRS病態でATⅢ活性が低下している場合にはヘパリン類の効果が減じ,抗凝固が十分に行われない可能性にも注意が必要です。AT製剤の使用はヘパリンと併用として添付文書に記載されていますが,実際にはヘパリンと併用しないでAT活性を70%以上に保つことで生命予後の改善が期待されます。
 一方,蛋白合成酵素阻害薬であるメシル酸ガベキサート(FOY)とメシル酸ナファモスタット(フサン)は,出血性副作用の危険性が少ないため,急性期のDICの治療に頻用されています。メシル酸ガベキサート(FOY)は抗凝固作用が期待できますが,抗線溶作用が微弱なので,SIRSに起因する線溶抑制型DICの治療に有用です。しかし,メシル酸ナファモスタット(フサン)は抗凝固作用だけでなく,抗線溶作用も強く持つために,白血病などの線溶亢進型DICには有効ですが,SIRSに起因する線溶抑制型DICでは使用しにくいのが現状です。メシル酸ナファモスタット(フサン)はショック,アナフィラキシー,高カリウム血症の合併率が高いので,投与開始後は循環変動や血液電解質を観察することが重要となります。線溶抑制が強い場合には,血栓が大量にできる可能性もあるため,肺血栓塞栓症の危険性が高まることにも留意が必要でしょう。集中治療室では血液濾過透析法における透析膜への凝固沈着を抑制する目的で,メシル酸ナファモスタット(フサン)を使用しています。病態にあわせて,蛋白合成酵素阻害薬の使用を行っていることも理解されるとよいでしょう。
 
おわりに

 DICの発症と増悪の根源となる創部は,感染源や炎症源となる部位だけではなく,血管内皮細胞です。現在,血管内皮細胞の直接的な観察は不可能ですから,患者さんの出血徴候に敏感であるとともに,医師の提出した検査データの結果を有効に活用して,DICの早期発見に努めるようにしましょう。特に,血小板数の急激な減少には,十分に注意しなければなりません。DICと診断された後には,その治療が効果的であるかを,日本救急医学会DIC特別委員会の急性期DIC診断基準を用いて,毎日,評価し続けましょう。使用されているDIC治療薬の副作用出現の早期発見も大切となります。
 DIC増悪の根源には全身性炎症が潜んでいることが多いのです。血小板が下がったというその表面的な事実でとどまらず,どこに血小板が奪われているのかをイメージし,どこで血小板が足りないかを洞察できることが大切です。脳出血,消化管出血を起こさない,未然の事前的な診療が,集中治療には内包されています。こうした全身性炎症の原因が断たれれば,凝固・線溶系の回復がもたらされることを期待して,DICの観察に当たってください。

引用・参考文献

1)丸藤 哲,ほか:急性期DIC診断基準. 多施設共同前向き試験結果報告. 日救急医会誌;16:188-202, 2005.
2)Members of the American College of Chest Physicians/Society of Critical Care Medicine Consensus Conference Committee: Definitions for sepsis and organ failure and guidelines for the use of innovative therapies in sepsis. Crit Care Med; 20: 864–74, 1992.
3)松田直之:敗血症/敗血症性ショック. 救急・集中治療; 18:840-7, 2006.
4)松田直之, ほか:ICUにおける抗菌薬サイクリング Prog Med; 25:2329-36, 2005.
5)松田直之:MRSAに対する抗菌治療. 手術部位感染(SSI)対策の実践. 医薬ジャーナル社 p138-46, 2005.
6)厚生労働省 編:血液製剤の使用にあたって. 輸血療法の指針・血液製剤の使用指針. じほう,2005.


図 SIRSの進行による肺の変化
A:正常な肺組織の走査型電子顕微鏡像。B: 敗血症における肺組織の走査型電子顕微鏡像。敗血症の進行により,血管内皮細胞傷害と血管内凝固が亢進し,血小板やフィブリンの沈着が高まります。

表1  DICをひき起こしやすい基礎疾患のチェックリスト


 すべての生体侵襲はDICをひき起こすことを念頭におきます。


表2 SIRS診断のためのチェックリスト
 全身性炎症反応症候群(SIRS)の診断項目である。人工呼吸中の患者は呼吸数が損なわれているものとして,チェックしてよいです。

表3 DICと鑑別すべき疾患と病態のチェックリスト


表4 急性期DIC診断基準


 日本救急医学会DIC特別委員会により「急性期DIC診断基準」が2005年に発表されたDICの診断基準です1)。

 スコアの合計が4点以上でDICと診断します。

注意事項
 1)血小板数はスコア算定の前後24時間以内のデータとします。
 2)PT比(検体PT秒/正常対照値)ISI=1.0の場合は,INRに等しくなります。各施設においてPT比1.2に相当する秒数の延長または活性値の低下を使用しても良いです。
 3)FDPの代替としてDダイマーを使用してもよいです。各施設の測定キットにより換算表(表5)を使用します。

表5  Dダイマー/FDP換算表

 各施設のDダイマー測定キットに準じて,FDP10µg/mLと25µg/mLに相当するDダイマー値をFDPの代わりとして,急性期DIC診断基準に用いてもよいです。


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