救急一直線 特別ブログ Happy保存の法則 ー United in the World for Us ー

HP「救急一直線〜Happy保存の法則〜」は,2002年に開始され,現在はブログとして継続されています。

救急医学 ハチ刺症 スズメバチやアシナガバチへの対応

2009年06月25日 16時10分49秒 | 講義録・講演記録4

救急医療 スズメバチ刺傷 受け入れのお願い


京都大学大学院医学系研究科
初期診療・救急医学分野
松田直之


スズメバチの集団刺傷は,救急外来では断らずに,分散搬送として,すぐに受け入れることが大切です。
スズメバチは,黒いものを攻撃する特徴があります。

スズメバチ:大きさ 3 cm, 4 cm 顔つきが悪く睨んできます。ボテッとした怖い様相です。
気をつける時期は,活動期の8月~10月です。6月そして7月でも,近くに巣があると数匹が威嚇してくる場合があります。

ズズメバチは,大きいです。頭部が目立つ,黄色で,色調がわかりやすいので,刺されないように注意してください。


刺すハチの3大注意事項

刺すハチといえば,①ミツバチ,②スズメバチ,③アシナガバチ,この3つを救急で鑑別します。

刺すハチは,メスです。働き蜂は,メスが主体であり,メスの産卵管が変化して針になっています。




アシナガバチ:大きさ 2〜3 cm, 脚が長い

スズメバチ VS アシナガバチ:凶暴なのはススメバチ

1. ススメバチ:クマンバチと言われているのは,正式名称はスズメバチです。スズメバチは大きく,4つの属,67種類が知られています。日本では,スズメバチ属7種,クロスズメバチ属5種,ホオナガスズメバチ属4種の3属16種が知られています。大きさは,3~4cm 大きいです。

2. アシナガバチ:足が長いので,ミツバチハッチのお母さんのような感じです。世界では,現在,26属,1000種が存在するとのことですが,日本では代表的なのは3属,11種とされています。スズメバチより大きくなく,2~3cmレベルです。おとなしいので,攻撃を仕掛けなければ,刺してこないと言われています。


スズメバチに刺されないための方法の共有
スズメバチは威嚇行為をすることを知っておきましょう。


1. ヒトの周りをまとわりつくように旋回する

2. 空中でホバリングのようにピタッと停止する

3. 威嚇するようにカチカチというような音を立てる

4. 黒いところを襲ってくる:頭や黒いTシャツに注意します

※ 黒いものを見に付けているときは,威嚇に気がついた段階で逃げるようにします。


救急医としての注意 残った針に注意すること

1.針が残っている場合は,ミツバチのものです。ミツバチは,一度おしりの針で刺すと,針が抜けず,腹腔内の内臓ごと抜けてしまうために死亡します。ミツバチにとっては「刺す」ということは,一度限りの最終手段となります。蜂の針は産卵管ですので,メスのハチのみに存在します。

2.民家に巣を創る3つのハチ
ミツバチ,スズメバチ,アシナガバチの3つが,3大民家バチであり,すべて刺すハチです。

3.針跡だけ残るもの:スズメバチ,アシナガバチ
スズメバチ,アシナガバチの何度でもさすハチの針の特徴は,直線的であることで,ヒトに刺したあとでもヒトから抜けます。


蜂毒に含まれる留意分子

ヒトの生体内分子と同じようなものを含んでいます

・ヒスタミン
・セロトニン
・ドパミン
・アドレナリン
・ノルアドレナリン
・アセチルコリン

蜂毒に含有される酵素

・ホスホリパーゼ
・プロテアーゼ
これらによって,アナフィラキシー反応とは異なる血管拡張性ショック(血流分布異常性ショック)などが生じます。

ハチ特有ペプチドと特徴

・ハチ毒キニン
・メリチン・・ハチの持つ溶血性毒素,強い赤血球破砕効果があります
・マストパラン
 肥満細胞からヒスタミンを遊離する作用があります。このため,通常の1型アレルギーとしてのアナフィラキシーショックとは,機序が異なる血管拡張性ショックを誘導します。
・アパミン・・Kチャネル阻害薬であり,不整脈や神経障害の原因となります。
・MCDペプチド・・肥満細胞などの末梢の白血球系細胞を破砕します。このため,一気にヒスタミンの血中濃度が上昇します。アナフィラキシーとは異なる機序です。


ショックの表現形

■ 血流分布異常性ショック:血管拡張分子の大量皮下投与,アナフィラキシー
■ 心原性ショック:心抑制分子の大量皮下投与,アナフィラキシー
■ 肺血管透過性亢進

治療

① 気道確保/酸素投与:Airway(気道)とBreathing(呼吸)の評価

② Circulation(循環)の評価:血圧・脈拍数・心機能・心嚢液;エピネフリン 0.3 mg 筋注 (☓ 皮下注)

※ 皮下注ではありません:エピネフリン最大血中濃度は,筋肉内注射で5~8分,皮下注射で20分以上です。

③ 急性期静脈路確保:輸液およびエピネフリン 0.1 mg ivの可能性を念頭におきます。

④ 心アナフィラキシー:注意 (12誘導心電図,心エコー)など。心房浮腫に注意します。

※ 国家試験および救急科専門医試験対策:ハチ毒によるショックにおいて,エピネフリンの投与法は「皮下注射ではダメ(☓)」です。皮下注射では血中濃度の最高上昇までに20分以上かかってしまうためです。筋肉注射であると,5分~8分でエピネフリン濃度はピークとなります。エピネフリンの筋肉内投与は,皮下投与よりも早く,血中濃度が上昇することが知られています。

参考文献:Simons FE, et al. Epinephrine absorption in adults: intramuscular versus subcutaneous injection. J Allergy Clin Immunol. 2001; 108: 871-873.


知っておくとよいこと

■ スズメバチ集団災害:トリアージしてください:Airway,Breathing,Circulation どこから症状が始まってもおかしくありません。また,毒素による高血圧や心原性肺水腫にも注意します。単なるアナフィラキシーにとどまらない場合があります。
■ アナフィラキシーに準じた緊急対応:ススメバチ刺傷は,直接の毒作用が強いことに留意します。サバ中毒と同様に,ステロイドは無効である理由をしっかりと説明できるようにしてください。
■ 注意点:針刺口の数を,聞かれたら,答えられるようにしておいてください。●●さんは●●ヶ所,●●さんは●●ヶ所です。
 スズメバチとアシナガバチは,針が残らないために何度でも刺します。緊急時は,ABCに注意し,バイタルの安定化をはかることに専念します。最終的には,以下もカルテに情報を残すようにして下さい。①刺しあと・刺口の数のカウント,②ハチの体格の評価:大きさの問診・毒量推定・大きいということであると3~4cmを想定,③指し場所(患者さんの頭にも注意)をカルテに記載します。重症性と緊急性をアセスメントします。

試験に出るスズメバチ

日本におけるスズメバチの特徴で,正しいものを選びなさい。
□ スズメバチ刺傷は,蛇咬傷より多い。 ○ 
□ オオスズメバチの巣の除去は,1万8,000円が相場である。○ 2万円を超えないところで交渉できます。
□ オオスズメバチ以外の巣の除去は,1万2,000円が相場である。○ 1万5,000円を超えないところで交渉できます。命がけ度が減少します。
□ ススメバチ刺傷では,アナフィラキシー以外の要因でもショックを誘発する。 ○ ヒスタミンなどの血管拡張物質をスズメバチ毒は含有しています。
□ スズメバチ刺傷では,頻脈性不整脈を合併しやすい。 ○ ヒスタミン,エピネフリン,アパミンなどの作用
□ 1匹のスズメバチは,1度のみしか刺すことはできない。 ☓ 針が直線的(写真)であり,何度でも刺しますので,ミツバチ(1度のみ)です。
□ スズメバチのオスは,メスよりも強い針毒を持つ。 ☓ 雄には針がありません。(◯ スズメバチのメスだけが刺すことができる。)

❏ エピネフリンの投与法:◯ 筋注,☓ 皮下注

❏ 細胞外液の輸液:◯ 20 mL/kgレベル以上

❏ 気道確保・気道トラブルに注意


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敗血症の病棟管理における問題点 ーSSCGの病棟運用に向けてー NO.1

2009年06月08日 04時09分54秒 | 講義録・講演記録 3
敗血症管理の現状と問題点


京都大学大学院医学研究科 
初期診療・救急医学分野

准教授 松田直之

はじめに

 セプシス(sepsis)が感染症に起因する全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome: SIRS)とAmerican College of Chest Physicians(ACCP)とSociety of Critical Care Medicine(SCCM)の合同カンファレンスで定義されたのは1991年である1)。このセプシスの定義は,現在では集中治療医をはじめとする急性期管理者に十分に認知されるものとなったが,2000年までの段階では欧米ですらセプシスの診断が不確実だった。Poezal2)の米国,イギリス,フランス,ドイツ,イタリア,スペインの1,058名の医師を対象とした2000年11月から12月までの調査では,調査対象の半数に集中治療医が含まれているにもかかわらず,ACCP/SCCMのセプシスの定義に基づいてセプシスが診断されたのは,集中治療専門医で22%,他の専門医で5%に過ぎないものだった。このような背景は未だ本邦では続いており,病棟診療などを散見する限り,セプシスの診断や治療は未だ医師全般に十分に認知されているとは言えないようである。
 Surviving Sepsis Campaign guidelines(SSCG)3)は欧米などの11学会の合同指針として重症セプシスと敗血症性ショックの治療成績の向上に向けて2004年に発表され,2008年には日本集中治療医学会や日本救急医学会も加わり,15の国際学会の合同指針として改訂された4)。この2008年改訂版SSCG(SSCG2008)4)では,エビデンスの質によるA(高)-D(低)の4段階評価に加え,ガイドライン作成委員の推奨度として1(強い),2(弱い)の2つに分類され,重症セプシスと敗血症性ショックの管理の推奨がまとめられている。このうち,推奨度1Aの記載は,①ハイドロコルチゾンを併用する場合には1日量を300 mg以下とすべきである,②重症セプシスでも致死率が低いと考えられる症例では活性化プロテインCを投与すべきではない,③深部静脈血栓症予防として禁忌でなければ未分画ヘパリンか低分子ヘパリンを投与する,④深部静脈血栓症予防としてペパリン禁忌であれば圧迫ストッキングか間歇的空気圧迫装置を併用する,⑤ストレス潰瘍予防にH2ブロッカーを併用する,という5項目のみである。これらに関しても,例えば重症セプシス病態でアンチトロンビンIIIの効果を保つためにヘパリンを用いてよいのか5, 6),28日死亡率に差を認めないグルココルチコイド併用に意義があるのか7)などの議論が未だに残存している。推奨度1Dの記載は,輸液療法や感染コントロールなどに散見されるが,本邦でもこれらの検証を十分に行う必要がある。
 SSCG2008は,あくまでも集中治療室や救命救急センターでは,そのままのガイドラインとして採用しやすい。しかし,現在,一般病棟の重症個室ですぐに適応できるほどに,本邦のさまざまな施設の病棟管理が向上しているとは評価できない。本稿では,SSCG2008 4)の要点に即して,SSCG2008を振り返り,本邦における現在のセプシス治療の実状と問題点を探る。


セプシスの診断の迅速性と抗菌薬の適正使用

 セプシスを初期より評価するためには,セプシスの定義を十分に理解し,その観察を一般病棟でも徹底する必要がある。現在,セプシスが本邦の一般病棟で診断される場合,その多くは既にセプシスがショックや急性呼吸不全や急性腎不全などの臓器不全を合併した重症セプシスに移行している傾向がある。このため,感染症合併の初期より,セプシスの早期診断に留意し,セプシス重症化を念頭に置いた観察や治療が必要とされる。SSCG2008は,セプシスの診断基準を集中治療専門医以外の一般医やコ・メディカルの共通認識とし,セプシス早期からの適切な治療を開始する意義を喚起する側面を持つ。
 セプシスは,感染症状態を基盤とし,表1のように,①体温,②心拍数,③呼吸数,④白血球数の4項目のうち2つ以上を満たす場合と定義される1)。1989年にRoger Boneらは,セプシスを的確に診断する目的でsepsis syndrome8)という概念(表2)を提唱し,この概念が1991年のACCP/SCCM合同カンファレンスに持ち込まれ,セプシスの定義が定められた。このRoger Boneらの191症例を対象とした報告8)では,sepsis syndromeの後にショックを合併すると死亡率が13%から43.2%に上昇することが示されている。如何に早い時期にセプシスを診断し,抗菌薬の適正使用とともに,適切な輸液などの補助療法を開始するかがセプシス重症化阻止のために必須と考えられる。しかし,現在も一般病棟では,呼吸数や脈拍数が十分に観察されていないなどの問題が散見され,まず,各診療科のセプシス診断に対する理解を高める必要が残存している。
 一方,近年,本邦の各病院で院内感染制御チームの貢献により,院内感染予防策や抗菌薬のpharmacokinetics(PK)/pharmacodynamics(PD)に基づいた使用が指導されるようになり,本邦でもセプシスの治療成績が向上すると予想される。セプシス治療における最重要点は,起炎菌の除去にあることは言うまでもない。SSCG20084)では,抗菌薬投与を開始する直前に細菌培養検査を提出すること(1C)や,まず2セットの血液培養検体を提出すること(1C)を推奨している。感染巣に対しては積極的に画像評価をし,抗菌薬に加え,ドレナージやデブリドマンを考慮する必要もある(1C)。また,感染が疑われる血管内カテーテルは直ちに抜去する必要がある(1C)。カテーテル感染症では,Candida属などの深在性真菌症も念頭に置く必要がある。その上でPK/PDを考慮し,抗菌薬投与法を決定する必要がある。
 一般に,ペニシリン系抗菌薬,カルバペネム系抗菌薬,セファロスポリン系抗菌薬は菌体細胞壁に作用し効力を発揮するため,time above MIC(minimum inhibitory concentration)を維持することが必要であり,1日3~4回投与を原則とする。キノロン系抗菌薬とアミノグリコシド系抗菌薬は菌体内で効果を示すため,血中濃度のピーク値(Cmax)とAUC(aria under the curve)を十分に高めることが必要であり,分割投与ではなく1日1回投与が望ましい。アミノグリコシド系抗菌薬は適切に使用すれば有用な抗菌薬であるにもかかわらず,残念ながら添付文書通りに少量分割投与した場合には,Cmaxが高まらず,有効な殺菌効果が期待できない。アミカシンは7-7.5mg/kgの短時間投与でピーク濃度56-64 μg/mLを目標とし,トラフ濃度は10 μg/mL以下に持ち込み,ゲンタマイシンやトブラマイシンでは3 mg/kgの短時間静脈内投与でピーク濃度を16-24 μg/mLを目標とし,トラフ濃度を2 μg/mL以下に持ち込むことにより,緑膿菌感染症などの治療成績を向上させることができる。また,MRSA治療では,バンコマイシン(トラフ濃度10-15µg/mL),テイコプラニン(トラフ濃度 17 µg/mL以上),アルベカシン(ピーク濃度12 µg/mL)が必要であり,添付文書や従来の投与法では殺菌効果が期待できないのが実状である。本邦においては,このように培養感受性試験レベルでは効力があると評価されても,実際の不適切な抗菌薬投与法により殺菌効果が期待できず,セプシス治療成績が向上しない実状が存在した。
 現在,薬剤感受性検査に基づき,抗菌スペクトルを広域のものから狭いものに代えてゆく抗菌薬使用法をde-escalationと呼び,セプシスにおいても有効な抗菌薬投与法と考えられている。敗血症性ショックの治療開始の抗菌薬は広域スペクトラム抗菌薬を用いたempiric therapyとし,起炎菌同定後にdefinitive therapyとして狭域なものに変更する。このように,まずはグラム染色による早期評価も加え,グラム陽性菌,グラム陰性菌,緑膿菌,MRSAを念頭に入れ,広域スペクトラム抗菌薬を用いて,敗血症性ショック(1B)や重症セプシス(1D)では,診断後1時間以内に抗菌薬の投与を開始することが必須と考えられている。
 今後,抗菌薬を適切に用いた治療の中で,本邦のセプシス患者の治療成績を解析することが重要とされている。これまでのセプシス治療では,上述のようにセプシス診断の遅れと,セプシスと診断した際の抗菌薬の適正使用の2点が問題と考えられ,治療法の詳細な個別評価が十分にできなかったと評価される。


Early goal -directed therapyの実状

 Early goal-directed therapy(EGDT)9)は,敗血症性ショック初期における十分な輸液を推奨したショック蘇生のプロトコールである。SSCG20084)でも初版と同様に,敗血症性ショックの初期の輸液療法がEGDTという名称で強く推奨されている(1D)。この原典となるRiversらが2001年に報告したEGDT 9)は,救急初療の段階で敗血症性ショックと評価された対照群133症例,EGDT群130症例を前向き検討したものであり,カテコラミン投与に優先して十分な輸液を行うことで,虚血に伴う代謝性アシドーシスと血清乳酸値上昇を有意に軽減させ,院内死亡率を46.5%から30.5%に減じている。Riversら9)は,敗血症性ショックにおいて,①初期輸液により院内死亡率を低下させる可能性と,②輸液の治療目標を具体的に定める必要性を提示した。
 EGDT4, 9)は,敗血症性ショックにおいて,まず,晶質液であれば30分で1 L,コロイド液であれば30分で1 Lの速度で輸液負荷を開始し(1D),中心静脈圧8~12 mmHgを目標として輸液により心前負荷を高めること(1B)を原則としている。結果として,平均血圧≧65 mmHg,尿量≧0.5 mL/kg/h,中心静脈酸素飽和度≧70 %を,ショック出現の6時間以内に達成させることを目標としている(1B)。上記の輸液前負荷でも十分な結果が得られない場合には,Hb <7 g/dLであれば赤血球輸血を行ない(1B),敗血症性ショックの初期の体血管抵抗減弱を特徴とするwarm shockの補助療法としてノルエピネフリンを推奨している(1C)。しかし,このようなEGDTは集中治療室ではたやすく施行できるものの,一般病棟に応用するためには,いくつかの問題点が挙げられる。  このような一般病棟レベルでの敗血症性ショックの治療では,むしろ,①末梢路からの輸液療法開始,②エコー図による下大静脈径の評価(図1),③パルスオキシメータの波形観察(図2)を優先させるとよい。さらに,中心静脈酸素飽和度以上に,代謝性アシドーシスと血清乳酸値の評価は必修であり10, 11),これらの改善を評価する指針こそが重要と考えられる。現在,多くの一般病棟では,まず,代謝性アシドーシスと血清乳酸値の評価がルーティンに行われていない実状を改善する必要がある。
 このような現状において,一般病棟における敗血症性ショック患者の管理初期には,循環血液量が相対的に不足しているにもかかわらず,ドパミンとドブタミンが早期より併用される傾向がある。セプシスではアドレナリンβ1受容体を介した陽性変力作用が障害されることが知られている12-14)が,ドパミンやドブタミンは刺激伝導系や血管平滑筋に存在するアドレナリンβ2受容体を介して頻脈や血管拡張を誘導しやすく,むしろ昇圧を妨げる傾向がある。結果として,敗血症性ショック初期においては,可能な限りドパミンやドブタミンを併用することなく,輸液により適切な心前負荷を施すことにより,速やかに昇圧される場合が多い。
 さらに,一般病棟での敗血症性ショックの管理では,集中治療管理と異なり,適切な鎮静がなされていないことが特徴である。このような状態の血漿カテコラミン3分画を測定すると,ドパミン,ノルエピネフリン,エピネフリンの何れもが,正常状態より有意に高いことが観察される。セプシスの進行過程では交感神経緊張が高まるが,この破綻期に敗血症性ショックと診断される場合も散見される。このように交感神経緊張によりアドレナリン受容体が刺激されている敗血症warm shockの状態では,バゾプレシン0.03単位/minの持続投与が有効となる場合も多い。
 Russellら15)の米国,カナダ,オーストラリアの27施設の集中治療室における779症例を対象とした前向き臨床試験は,重症度の低い敗血症warm shockでは,バゾプレシンはノルエピネフリンと比較して28日死亡率を35.7%から26.5%に低下させると報告している。ノルエピネフリンやバゾプレシンは腸管虚血や尿量減少を導く可能性があるため,これまで多くの診療医がセプシス治療に避けてきたと推測される。しかし,敗血症性ショックにおけるRussellら16)の報告では,急性腸間膜動脈虚血の発生頻度はノルエピネフリン投与で3.4%,バゾプレシン投与で2.7%であり,水中毒や腎機能増悪も認められていない。現在,本邦においてバゾプレシンは下垂体尿崩症と食道静脈瘤の保険適応に限られるが,ノルエピネフリン0.1μg/kg/minあるいはバゾプレシン0.03単位/minは,中心静脈圧8 mmHgを目標とした輸液療法との併用において,初期の敗血症性ショックの離脱に有効と評価される。
 以上のように,病棟レベルでショック管理を行う際には,必ずしもEGDTをそのまま採用することはできない実状がある。当院救急科では,他科より診療応援を求められた敗血症患者の診療において,まずパルスオキシメータ波形やエコー図を有効に用い,EGDTに準じて適切な輸液量とカテコラミンの適正使用を指示するとともに,その後に必要であれば観血的動脈圧測定や持続的中心静脈圧測定に移行している。これにより,2008年から現在までにコンサルトを受けた10症例のすべてが,敗血症性ショックより離脱し,28日生存を達成できている。


Resuscitation BundleとManagement Bundle

 SCCMは,重症セプシスと敗血症性ショックに対して,治療の中隔としてのbundle(束)を制定している。SCCMのウエブサイトであるhttp://ssc.sccm.org/では,左バーの目次のsevere sepsis bundleを選択することで,このbundleの詳細が確認できる。SCCMは,このbundleによりセプシスの包括的治療指針を与え,治療成績を向上させようとしている。
 このbundle の構成は,resuscitation bundle とmanagement bundle の2つである。Resuscitation bundleの中には,①血清乳酸値測定,②抗菌薬投与前の血液培養検体2セットの採取,③抗菌薬の1時間以内の投与,④低血圧あるいは血清乳酸値>4 mmol/Lの場合のEGDTが含まれており,これらを6時間以内に達成することが目標とされている。一方,management bundleでは,①ショック持続における少量ステロイド療法,②活性化プロテインCの投与基準,③血糖値<150 mg/dL,④人工呼吸管理における最大吸気圧<30 cmH2Oの4つが基盤である。活性化プロテインCを除いた項目は,既に本邦の集中治療室の多くで,概ね施行されていると評価される。
一方,既にスペインの59の集中治療施設より,重症敗血症と敗血症性ショックに対するSSCG2008のbundleに対する検証が多施設共同研究として報告されている17)。SSCG2008のbundleを遵守して治療するように介入した介入前854症例と介入後1,465症例の比較では,院内死亡率は介入前後で44.0%と39.7%であり,院内死亡率とICU死亡率に有意な改善が認められたが,介入後であってもresuscitation bundleの遵守率は10%,management bundleの遵守率は15.7%に過ぎない結果となっている。
 今後,本邦においても,このようなSSCG2008のbundleの理解を一般に広めるとともに,特に集中治療における実際の遵守率と治療成績の関係を評価する必要がある。2007年4月に発足された日本集中治療医学会Sepsis Registry委員会は,本邦に即した敗血症管理ガイドラインを作成することを目的とし,2009年10月から6ヶ月間,本邦の重症セプシスおよび敗血症性ショックの治療方法と治療成績の再調査を予定している。この際に,SSCG2008のbundleの実際の遵守率と治療成績の関係が再評価されるであろう。

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敗血症の病棟管理における問題点 ーSSCGの病棟運用に向けてー NO.2

2009年06月08日 04時01分24秒 | 講義録・講演記録 3
おわりに

 セプシス治療の根底は,抗菌薬の適正使用と感染創管理にある。この前提において,セプシスを遷延させないためのmanagement bundleの詳細は,本邦においても近い将来に再評価されるであろう。播種性血管内凝固症候群に対する予防策18)や早期経腸栄養19)は,現在もさまざまな施設で検証されており,そのエビデンスにより今後management bundleに含まれる可能性がある。私自身の治療では,既に経腸栄養は胆嚢炎を除いたショック症例のすべてでショック離脱直後より開始しており,血小板減少が進行してくる場合には血管内皮細胞保護として迷わずメシル酸ガベキサート39 mg/kg/dayの経中心静脈持続投与を開始している。一方,敗血症管理が遷延した際には血管内皮細胞障害が必ず合併してくる20)ため,血管内皮細胞の再生療法が新規に考案されなければならない。SSCGは,集中治療医や救急科専門医のみならず,一般病棟を管理する幅広い専門医に理解される必要がある。セプシスを重症化させない早期の工夫として,本稿を記載させていただいた。

文 献
1. Bone RC, Balk RA, Cerra FB, et al: Definitions for sepsis and organ failure and guidelines for the use of innovative therapies in sepsis. Chest 1992; 101:1644-1655.
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図表の解説


図1 パルスオキシメータや動脈圧の波形から観察できること
パルスオキシメータや観血的動脈圧の測定では,酸素飽和度や血圧の絶対値のみではなく,波形を観察することが大切である。循環血液量が相対的に低下した敗血症warm shockでは,波形のピーク値の呼吸性変動が強まる。心拡張期に形成されるdicrotic wave(重複波)は,体血管抵抗(心後負荷)の強い際に高まり,体血管抵抗の低い敗血症warm shockでは消失する。また,波形の立ち上がり角(dp/dt)は心収縮性を示し,波形下面積(AUC: area under curve )は心拍出量に比例する。輸液療法においては,この呼吸性変動が軽減され,dp/dtが高まることを確認するとよい。輸液による心前負荷やノルエピネフリンやバゾプレシンンの使用に際しては,以上の基礎知識をもとにdicrotic waveやdp/dtの変化を時系列で評価する習慣が大切である。


図2 下大静脈径のエコー図による観察
 中心静脈圧を連続モニタリングしていない場合には,下大静脈径を評価するとよい。敗血症warm shock では,early goal-directed therapyに準じた治療として,下大静脈径は15 mm以上を目標とし,22 mmを超えないように輸液負荷をし,その結果をパルスオキシメータや観血的動脈圧の波形で評価するとよい。


表1 全身性炎症反応症候群の定義

 表の4つのクライテリアのうち,2つ以上を持たす場合に,全身性炎症反応症候群と診断される。全身性炎症反応症候群の原因が感染症である場合,セプシスと診断される。

表2  Sepsis Syndromeの特徴

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<研究> Western Blotにおけるバンドの白化・中抜け・色調反転について

2009年06月05日 04時48分21秒 | 研究指針
当研究室の研究生のcaspase3のウエスタン・ブロットで,ECLプラスで露光されたバンドが黒ではなく白く反転される現象が観察され,彼は黒く出ている他のバンドをcaspase3と評価し,悩んだようです。このような現象は,caspase3の限らず,アクチンなどでも時折,認められます。黒いnon-specificなバンドの評価は,別にしなければなりませんが,まず,以下の3点を評価する必要があります。


1. レーンにアプライした蛋白量が飽和している
2. 2次抗体濃度が高い
3. ECLの反応性が良すぎる

僕の場合は,通常,少ない細胞質蛋白の検出には20μg/Line,アクチンなどの多い蛋白の検出には5μg/Lineのレーンアプライとしています。

これに対して,低蛋白量のアプライでも反転現象が生じたり,レーンマーカーまでも反転する場合は,2次抗体濃度をさらに希釈しています。一部の反応性の良い2次抗体以外は,2次抗体は通常1/5000希釈としていますが,これを1/10000希釈にしています。また,作成したECL自体を蒸留水で3倍に希釈し,発色させるのも綺麗なバンドを得るための裏技となります。ECLプラスなどは,マニュアル通りには必ずしも使用していません。

いずれにしても,ウエスタンブロット解析では,検出バンドの相対的な密度解析に先立って,レーンへの適切な投与量を評価することが大前提です。論文査読などでレーンが飽和されたウエスタンブロットデータを見ることがありますが,蛋白量がレーンに飽和されないレベルでの適切なデータとして論文提出することが必要と思います。


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