救急一直線 特別ブログ Happy保存の法則 ー United in the World for Us ー

HP「救急一直線〜Happy保存の法則〜」は,2002年に開始され,現在はブログとして継続されています。

お知らせ 世界敗血症デー World Sepsis Day 9/13/2019

2019年08月27日 12時16分25秒 | お知らせ 講演会・セミナー

    セプシス フォーラム in 東海  2019     
 
日時:9 6日(金)19時~21
場所:ホテル メルパルク NAGOYA

敗血症の認知や治療成績は,この10年間において,とても良くなってきました。

これには,多くの研究会での情報交換,そしてガイドラインの普及,集中治療医学の発展などが関係していると考えています。
敗血症の治療を皆さんが真剣に考えるようになってきたことは,多くの病気の周辺管理がより良くなることに結びついていることでしょう。
このような敗血症に特化したフォーラムを,これまで13年に渡り企画して参りました。

本フォーラムは,Global Sepsis Allianceおよび世界敗血症デーと連動するものです。
皆さま,ご参加頂き,敗血症管理の情報共有の場として下さい。
当日 メルパルクNAGOYA にいらして頂くので大丈夫です。

当日は,遠慮なくご質問ください。
どうぞよろしくお願い申し上げます。
 
開会の辞
三重大学医学部附属病院 救命救急センター
教授 今井 寛 
 
講演1 『世界敗血症DAY ~ 全身管理の動向 2019 ~』
 
座長 浜松医科大学医学部附属病院 集中治療部
部長・特任准教授 土井 松幸 
 
演者 名古屋大学大学院医学系研究科 救急・集中治療医学分野
教授 松田 直之 
 
講演2 『敗血症ガイドラインを展望する:ショック・DICへの最新アプローチ』

座長 三重大学医学部附属病院 救命救急センター
教授 今井 寛 

演者 大阪大学医学部附属病院 高度救命センター
准教授 小倉 裕司 
 
閉会の辞
名古屋大学大学院医学系研究科 救急・集中治療医学分野
教授 松田 直之 

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文献レビュー 敗血症の診断と治療 2019

2019年08月23日 20時59分23秒 | 講義録・講演記録4

文献レビュー 

敗血症の診断と治療 2019

名古屋大学大学院医学系研究科

救急・集中治療医学分野

松田直之

 

2019年までの敗血症診療の方向性を2017年レベルの文献を中心としてまとめています。ご参照下さい。

医療従事者でない皆さまは,敗血症の基本的知識の拡充のために敗血症YouTubeと合わせて御覧ください。

 

 敗血症の定義と診断に関する進展 

  敗血症は,感染症による臓器不全の進展である。感染症と区分する目的は,がん,脳卒中,急性心筋梗塞,重症糖尿病,急性肺炎,高齢などのもととなる状態に感染症がやってきたときに,元の病気と生じてくる臓器不全を分けて診療する提案をするためのクリニカルターム(clinical term:診療管理用語)である。

 Sepsis-31)の定義が,2016年に世界の敗血症の中心人物たちにより公表され,全身性炎症反応(systemic inflammatory response syndrome:SIRS)2)の基準を敗血症診断に用いない方針となったが,これは正しいとか間違っているを超えた世界的な保健政策である4-8)。全身性炎症という概念と病態は,依然として学術として追求される領域であることは正しい。Sepsis-3では,「敗血症は感染によって引き起こされる生命を脅かす臓器機能不全」と定義されたが,SIRSは敗血症を進行させる病態概念して重要であり,再評価が必要とされている。Fang等8)は,21,491例の感染症患者のデータベースより,Sepsis-1に合致する敗血症でSepsis-3に合致しないものの21日死亡率は約6.96%と報告している。すなわち,Sepsis-3では早期診断よりもむしろ臓器障害としての死亡予測に重点が置かれているため,敗血症の発見が遅れて死亡する可能性が指摘されている。2015年に公表されたANZICSのデータでは集中治療室(intensive care unit,ICU)における臓器不全を伴う敗血症においてSIRS基準を満たさない患者は約1/8,SIRSによる敗血症の診断感度は約88%だったが9),Sepsis-3により臓器不全の進行として敗血症を診断することで,敗血症の早期診断と早期治療を遅らせる可能性がある。このように,SIRSは敗血症の一般的な特徴であり,早期診断のプロセスとしては重要という考えが残存している4-8)。 

 このように,Sepsis-31)の発表後のSepsis-3に対する問題を提起する論文が,投稿されたのが2017年からである。救急外来における成人の敗血症性ショックとして対応したAustralasian Resuscitation in Sepsis Evaluation (ARISE) trial10)のポストホック解析では,SIRS基準を満たし,血液分布異常性ショックとして乳酸値上昇を認めた1,591例において,qSOFAを満たしたのは1,139例(約71.6%),また,qSOFAおよびSepsis-3の敗血症診断に合致したのは1,010例(約63.4%),さらにSepsis-3の敗血症性ショックの診断に合致したのは203例(約12.8%)という結果である。ここでは,SOFAスコアや乳酸値≧2mmol/Lを用いるSepsis-3では,敗血症性ショックの早期診断を損ねている可能性が指摘された。

 また,成人の敗血症を対象とした過去の2つの臨床研究11)の解析としてSepsis-12)による敗血症性ショックの470例が評価され,このうち約57%がSepsis-3の敗血症性ショックの基準を満たしていないと報告された。このデータにおいても,Sepsis-31)の診断基準では臓器不全および死亡率の増加した敗血症性ショックが同定され,Sepsis-3を満たさずにSepsis-1の基準のみを満たした例でも約10%を超える死亡率を認めている。このようなSepsis-3を用いた診断に関する報告が,2020年までに一定数の集積が見込まれ,この解析を本邦でも行う必要がある。

 一方,電子記録システム(Millennium:Cerner Corporation,Kansas City,Missouri),クラウドベースの敗血症サーベイランス,CDS(St. John Sepsis Surveillance Agent:Cerner Corporation、Kansas City,Missouri)を用いた8施設の共同解析12)では,Sepsis-3の早期診断に用いqSOFAスコアと,聖ヨハネ敗血症サーベイランスエージェント(SIRSアラート:体温>38.3℃または<36℃,心拍数>90回/分,呼吸数>20回/分,白血球数>12,000/ mm3または<4000/mm3または幼若球>10%,血糖値140~200mg/dLのうち3つ以上を満たす)が比較された。17,044例の入院患者のうち5,992例(35%)が感染疑いとして評価されたが,感染症発症,ICU内死亡,院内死亡のすべての予測において,聖ヨハネ敗血症サーベイランスエージェントがqSOFAに勝る結果だった。感染症の臓器不全への移行における初期評価として,白血球数や血糖値などの血液・生化学検査や心拍数変動などの理学所見は,qSOFA以上に院内における早期診断として有用である可能性が指摘された。qSOFAは,検査ができない状態での敗血症の簡易スクリーニングとしての役割に限定される可能性がある。

 さらに,SOFAスコアを用いたSepsis-31)による最終診断が臓器不全の進行する重篤な患者群を検出できることがSepsis-3公表後に検証されたが13-17),臓器障害の臨床情報や予後改善においてはSepsis-218)の24の評価項目の有用性が指摘されてきた19, 20)。これらの評価からは,院外ではなく,院内の敗血症管理においては,SIRSの概念と定義の再構築や新たなバイオマーカーを含めて,敗血症の早期診断と早期治療の達成をターゲットとする課題が提起されている。日本版敗血症診療ガイドライン20163)の4年後の改訂予定では,これらのエビデンスを統合的に評価することとなる。 

 敗血症および敗血症性ショックにおける疫学と生命予後  

 敗血症の疫学においては,これまで1991年から2009年までの評価可能な36の臨床研究データとして,28日死亡率の年次推移がStevenson等21)の論文にまとめられている。1991年から1995年における平均死亡率約46.9%から,2006年から2009年の平均死亡率約29%まで,年間約3%ずつの敗血症による死亡率低下として評価されている。これに対して2017年には,韓国からは韓国ショック学会の2015年10月から2016年6月までの19歳以上を対象とした敗血症性ショックのレジストリ22)のAcute Physiology and Chronic Health EvaluationⅡ(APACHEⅡ)スコア平均18.5の468例の結果として,院内死亡率22.9%, 28日死亡率21.8%,90日死亡率27.1%が報告されている。また,台湾からの報告23)では,2002年から2012年までの11年間で診療データベースよりSepsis-3に合致する1,259,578例が抽出され,2002年の638例/10万例より2012年では772例/10万例に敗血症罹患率は年あたり約1.9%に増加しているが,敗血症の院内死亡率は年間あたり0.45%の割合で27.8%から22.8%に減少していることが報告されている。

 敗血症の予後に関する報告は,2017年においても多くの論文が検出できる。Leisman等24)の敗血症3,686例を解析した報告では,心不全 (オッズ比1.43; 信頼区間1.20-1.72),低体温(オッズ比1.37; 信頼区間1.10-1.69),低酸素血症(オッズ比1.33; 信頼区間1.12-1.57), 乳酸値≧4.0 mmol/L(オッズ比 1.28; 信頼区間1.08-1.52), 免疫不全(オッズ比1.23; 信頼区間1.03-1.47),および凝固障害(オッズ比1.23; 信頼区間1.03-1.48)が危険因子として挙げられている。 2011年1月から2015年6月までの6施設の後方視的解析25)では,Surviving Sepsis Campaign guideline 201226)における3時間以内の達成を目標とした3時間管理バンドルの4内容が評価され,1)抗菌薬投与前の1時間以内の血液培養検査が50分,2)乳酸値評価が20分,3)広域抗菌薬投与が125分,4)平均血圧低下(≦ 65 mmHg)と乳酸値上昇(≧ 4 mmol/L)に対する30mL/kgの晶質液投与が100分を閾値として,死亡率が上昇するとした。この研究における院内死亡は1,412例(27.8%)であり,3時間より早く対応する必要性が言及されている。この3時間バンドルに含まれる乳酸値については,Oh等27)は18歳以上の1,043例の敗血症患者の解析として,乳酸値が2mmol/L以下の369例(35.4%)に対して,28日死亡率にAPACHEⅡスコア,C反応性蛋白,慢性心不全の既往が関係するとしている。また,Driessen等28)は敗血症性ショックのICU死亡率増加の閾値として血清乳酸値は6mmol/Lを報告しており,一方で日本救急医学会のSepsis Registry Study Group29)は敗血症の院内死亡率増加は血清乳酸値4mmoL/Lを閾値とすると報告している。日本救急医学会のSepsis Registry Study Group30)は,さらに敗血症の生命予後の危険因子として低体温を指摘している。

 敗血症のバイオマーカーへの注目 

  バイオマーカー(Biomarker:生物指標化合物)とは,疾患の存在や進行度を反映する血液中分子である。敗血症の病態生理学的特徴からは,微生物の含有作動分子(リガンド)や,白血球系細胞や上皮系細胞と反応して新たに産生された分子群がバイオマーカーとして期待できる。Sepsis-218)における診断補助として挙げられたもの以外のバイオマーカーとして2017年には,pentraxin-3(PTX3),cytosolic heat-shock protein 90 kDa alpha class B member 1 (HSP90AB1),soluble triggering receptor expressed on myeloid cells-1s(TREM-1),CD64(Fcγ受容体1A), suPAR(可溶性ウロキナーゼ受容体),老化阻止分子α-Klotho,インスリン抵抗性分子Fetuin-Aなどが認められる。

 PTX3は,リポ多糖体(リポポリサッカライド:LPS)に反応して特に血管内皮細胞と血管平滑筋細胞から多く産生されるため,interleukin-6(IL-6)などの刺激により肝臓で産生されるCRPと比べれば鋭敏に,敗血症における血管局所の炎症を反映すると考えられる。敗血症におけるアルブミンの有効性を評価したALBIOS研究31)では,958例で切断率の低いlong PTX3を計測しており,PTX3の第1病日値は72(33-186)ng/mLであり,臓器障害の重症度と相関していた。PTX3濃度は,敗血症の第1病日から第7病日で低下したが,敗血症性ショックをでは減少率が有意に低下していた。PTX3を,敗血症罹患のリスク因子としての新たなバイオマーカーとして推奨する論文32, 33)は増加傾向がある。

 また,敗血症性ショックにおける小児の血液を用いたprotein-protein interaction network解析34)では,lysine (K)-specific demethylase 6B(KDM6B), histone deacetylase 2(HDAC2), V-Myc avian myelocytomatosis viral oncogene homolog (MYC),HSP90AB1,poly (A)-binding protein cytoplasmic 1 (PABPC1)が,正常小児と強い差を検出できるトップ5として検出されている。これらは,2018年までに炎症病態で上昇することが確認されており,転写因子nuclear factor-κBなどで制御される分子群である。HSP90AB1に関する文献が一定数で存在する。2017年までのデータを振り返る限り,TREM-1については敗血症における感度はCRPやIL-6と同等かもしれない。 

 敗血症における抗菌薬の有効利用 

  敗血症は,微生物の持つ炎症性分子とToll-like受容体などの反応による炎症病態を基盤とする。敗血症治療の長期化,免疫膠原病などの慢性炎症病態,がん病態,免疫不全などでは,抗炎症性サイトカインや増殖性サイトカインが複雑に病態を修飾する。病態生理学的には,微生物リガンドを低下させるようにできるだけ早期に抗菌薬を投与することが期待される。また,ドレナージが可能であれば,ドレナージのタイミングを逸しないことが期待される。

 敗血症性ショックにおける抗菌薬の投与においては,メチシリン耐性ブドウ球菌における投与としてバンコマイシンを選択する場合には初期投与量を通常より減少させないこと35),Acinetobacter baumanniiやPseudomonas aeruginosaなどを対象としたメロペネムの使用においてもaugmented renal clearanceを考慮して開始初期の投与量を減少させないこと36)が,2017においても薬物動態(pharmacokinetics:PK)と薬力学(pharmacodynamics:PD)の観点より報告されている。Sherwin等37)は,1,552文献の中から14の文献のレビューとして,抗菌薬投与開始までの時間を1時間以内として推奨している。

 以上のような抗菌薬の適正管理として,本邦でも薬剤師の関与が期待されている。敗血症76例のコフォート研究38)では,薬剤師の介入により抗菌薬適正使用の割合が約66%から80%に有意に増加した。最初の抗菌剤投与までの中央値が43分であり,適切な抗菌治療までの時間はコホート全体で1時間34分であるとしている。敗血症管理における薬剤師評価は,一般病棟管理における薬剤師レスポンダーとして強く期待される。

 敗血症性ショックにおける血圧管理と血管作動薬 

 敗血症性ショックにおける血圧管理の目標について,これまで2つの大規模臨床研究39, 40)に準じて,平均血圧65mmHgを超える高い血圧を期待する必要はないとする報告が散見される。これらを含めて,2017年11月までの成人敗血症性ショックのデータ解析41)として,MEDLINE,EMBASE,Controlled TrialsのCochrane Central Registerより解析可能な894例が抽出され,高い血圧管理(約75–80 mmHg)は低い血圧管理(約60–65 mmHg)と比較して28日死亡が高まる傾向をが示され(オッズ比1.15,95%信頼区間 0.87-1.52),平均血圧65mmHgレベルを推奨することが確認されている。この解析41)では,昇圧薬を用いて6時間を超えて平均血圧が高い群では有意に死亡リスクが高まるという結果も示されている(オッズ比3.00,95%信頼区間1.33-6.74)。現時点においても,平均血圧65mmHgを目指す血圧管理が推奨され,適時,血管作動薬を適切に減量していくことが必要である。

 昇圧に関する2019年までのトピックスとしては,既に1990年代までに循環薬理領域で討議されたアンジオテンシンⅡアナログの再燃である。Angiotensin II for the Treatment of High-Output Shock(ATHOS-3)42)は,ノルアドレナリン0.2μg/kg/分以上や同等に血管作動薬を投与されている血液分布異常性ショックをランダム化し,主要評価項目をアンジオテンシンⅡアナログ投与開始3時間後における10 mmHgの血圧上昇や平均血圧75mmHgの維持とした。本研究は,合成ヒトアンジオテンシンⅡ(LJPC-501)の市販に向けた研究でもある。ATHOS-3の結果は,アンジオテンシンII群161例とプラセボ群158例の解析として,アンジオテンシンII群(163例中114例,69.9%),プラセボ群(158例中37例,23.4%)として,LJPC-501で高い血圧管理ができたという結果だった(オッズ比7.95,95%信頼区間4.76~13.3; p<0.001)。 重度な有害事象は,LJPC-501で60.7%でありプラセボ群の67.1%より低い結果だったが,28日死亡はアンジオテンシンII群で163例中75例(46%),プラセボ群で158例中85例(54%)であり,28日死亡率の低下傾向を認めるものの統計学的有意差を認めなかった(ハザード比0.78; 95%CI 0.57~1.07; P = 0.12 )。

 敗血症性ショックにおける平均血圧65mmHgを目指す血圧管理としてのアンジオテンシンIIの臨床研究,すなわち平均血圧65mmHgを目指したノルアドレナリンとアンジオテンシンⅡの比較臨床研究が期待される。敗血症性ショックを対象として2013年2月から2015年5月まで施行されたバゾプレシンとノルエピネフリンの前向き臨床研究VANISH試験43)では,平均血圧65~75mmHgを目標としてバゾプレシンとノルアドレナリンが比較されたが,28日死亡率および急性腎障害の改善に有意差が認められなかった。これに対して,平均血圧60mmHgを超えることを目標としたバソプレシンV1A受容体に選択性の高いセレプレシンの臨床研究が継続されている44)。アンジオテンシンⅡアナログの産業については,アンジオテンシンⅡの学術的背景や病態生理学を重視することが大切であり,日本への導入においては安全性確認として臓器不全を残さないように,また長期予後を慎重に評価していくことが必要な検討内容の一つと評価された。 

 敗血症性ショックにおける心機能抑制という留意事項 

 敗血症は,交感神経緊張などのアドレナリン作動性β受容体作用,アシデミア,低体温,サイトカイン受容体シグナルなどにより心筋細胞内で細胞内カルシウム濃度が高まりやすい病態であり,心拡張不全や不整脈の誘引となり,β受容体刺激は原則として禁忌に近い。これらの影響により,敗血症では特に右心系の細胞内カルシウム過負荷が生じやすく,右心不全が生じやすい。

 2017年に報告されたメイヨークリニックからの2007年1月から2014年の12月までの388例の敗血症症例の解析45)では,214 例(55.2%)が敗血症に右心不全を合併しており,右心不全と左心不全を合併しているのは100例(25.8%)だった。ドブタミンなどのアドレナリン作動性β受容体刺激は,診療における不整脈発生や免疫抑制等の弊害である一方で,敗血症性ショックの予後を改善するという臨床研究は完全に認められない。

 一方,慢性的にβ遮断薬を服用している患者群では敗血症の予後が良好であること46)や,敗血症におけるβ受容体遮断薬が敗血症の予後を改善することは臨床研究や症例報告などで示唆されている。エスモロールの5つの臨床研究のレビュー47)では,エスモロールは生存率を有意に高め,心拍数とトロポニンIを有意に低下させ,血圧,中心静脈圧および中心静脈酸素飽和度を悪化させないことが示めされている。

 敗血症において,心筋細胞内カルシウム過負荷は,心房筋,そして心室筋に生じる。緊張の強い状態で救急外来に搬入されるなどの内因性カテコラミンに暴露され,心過収縮をカルシウム代謝の改善まで心刺激を休ませ,体血管抵抗管理と輸液調節で待機するのが最良かもしれない。随伴する敗血症性ショックを対象としたカルシウム感受性増強薬リボシメンダンに関する10の臨床研究について48),588例が解析され,乳酸値を低下させるが,死亡率改善には有意差が認められないという結果だった(リスク比0.96,95%信頼区間0.81-1.12)。このような病態における苦肉の策としては,アドレナリン持続投与あるいは経皮的心肺補助(ECMO)であるが,診療エビデンスは2017年においても不十分である。

 敗血症性ショックにおける輸液と輸血について 

 敗血症性ショックの蘇生におけるearly-goal directed therapy(EGDT)は,日本版敗血症診療ガイドライン3)の通り,その詳細な蘇生プログラムは否定されている。従来,このブログ「救急一直線」でも,EGDTの最も重要な功績は敗血症性ショックの血管拡張性病態における輸液療法の積極性を輸液安全性のモニタリングとともに推奨したことにあると考えている。PRISMグループの解析49)では,2016年までの138施設3,723例の解析として,90日死亡率はEGDTで24.9%,通常治療で25.4%と報告され,あたかもEGDTを否定しているが,EGDTは敗血症性ショックの初期輸液の重要性を2001年に再提起し,2001年以降の通常治療の質を改善させたとものである。

 一方,敗血症性ショックの管理の質の高まりにより,初期からノルアドレナリンを併用することにより輸液量を減少させることができることや,結果的に敗血症性ショックにおける輸液量が少ないほうが生命予後が良いことが知られている。Marik等50)は,プレミア病院データベースを用いて,救急外来からICUに入室した連続した敗血症および敗血症ショック症例23,513例の第1病日の体液を1Lの幅に分類し,1-1.99Lから9Lまでとして1L毎に輸液量で患者群を分類した。第1病日の輸液量は人工呼吸を受けていない群で平均4.4Lであり,非ショックで人工呼吸のない郡で3.6Lレベルだった。このMarik等50)の報告は,コホート全体の院内死亡率は25.8%であり,輸液量5Lを超える追加リットルにつき死亡率が2.3%ずつ増加するとし,より少ない輸液管理を推奨する内容である。

 また,9施設合同の観察コフォート研究51)として,成人敗血症11,182例を対象として,敗血症の同定から30分以内,31~120分未満,120分以上における輸液開始までの時間の3群が評価され,輸液開始が早いのは低血圧,発熱,尿路感染症,軟部組織感染症,輸液開始が遅いのは心不全と腎不全として確認された。30分以内にクリスタロイドが開始されたのは530例(36%),31-120分が2,388例(21%),120分以上が3,458例(31%)であり,30分以内の輸液開始は120分を超える場合と比較して院内死亡率を有意に改善していた(オッズ比0.76,信頼区間0.64-0.90)。このような輸液開始までのタイミングの研究も散見される。

 輸液量を減少させせる工夫として,3%食塩水を用いた研究が報告されているが,REVA research network52)からは,敗血症性ショックにおいて3%食塩水は生命予後を改善しないことが報告されている。この研究は,2012年11月3日から2014年6月13日まで,18歳以上の成人敗血症性ショックを対象としてフランスの22施設で施行された434例の報告であり,酸素化管理をSaO2 88-95%の正常酸素群とFIO21.0の高酸素群,また3%食塩水による蘇生群と,0.9%生理食塩水による蘇生群の4群が評価された。しかし,この研究では,FIO21.0の高酸素群で死亡率が高まる可能性が認められたため,安全性の理由から予定より早めに中止された。敗血症性ショックの管理においても,本研究のように高濃度酸素暴露の危険性が示唆されている。解析された434例における28日死亡は,高酸素で217例中93例(43%),正常酸素群217例中77例(35%),一方,蘇生に用いる食塩水においては高張群で214例中89例(42%),等張群で220例中81例(37%)であり,統計学有意差を認めなかった。敗血症性ショックにおいて,3%食塩水を用いて輸液総量を減少させる成果としては,REVA research network52)を超えた十分なエビデンスが認められない。以上のような,輸液の適正化を探る研究は,2018年移行もTrialなどに報告され,企画されている。

 最後に,敗血症性ショックにおける赤血球輸血による酸素運搬の改善として,日本版敗血症診療ガイドライン20163)のCQ.9-1に記載されているようにHb≧7.0 g/dLが推奨され,心血管系イベントのある場合ではHb.10g/dLを考慮する。このデータに補綴する内容としては,UTCOMEREA Study Group53)のデータとして,フランスのマルチセンターデータベースを用いた敗血症6,016例の前向き解析研究がある。本研究53)では,赤血球輸血の有無は死亡率を統計学的には増加させないが(ハザード比1.07,95%信頼区間 0.88-1.30),新たな感染症発症(ハザード比2.77,95%信頼区間2.33-3.28)および低酸素血症の増悪(ハザード比1.29,95%信頼区間1.14-1.47)を認め,ヘマトクリット値26%レベルの管理を適正とし,ハザード比を0.72(95%信頼区間0.55-0.95)に減少できると報告している。

 文 献 

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