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講座 救急・集中治療領域における抗菌薬使用の留意点

2012年06月27日 06時42分11秒 | 薬物情報

講座 救急・集中治療領域における抗菌薬使用の留意点

名古屋大学大学院医学系研究科

救急・集中治療医学分野
松田直之


【1】重症患者における抗菌薬投与で気を付けること

1. PK/PDの変化
 感染症を伴う重症患者は,重症敗血症として臓器障害や血管内皮細胞傷害を併発した病態であり,抗微生物薬の投与においては,ドレナージを含めた感染源の除去と迅速かつ適切な抗菌薬治療を念頭に置く。また,重症病態の制酸剤としてプロトンポンプ阻害薬やヒスタミンH2ブロッカーを服用させている場合には,十二指腸に存在する菌の口腔内や気道,また,ベッドサイドへの移動に注意が必要である。このような状況において,ショックを合併している際には,循環低下により抗微生物薬の組織移行性が低下しており,十分な投与量を必要とする。抗菌薬,抗真菌薬,抗ウイルス薬などの抗微生物薬の使用にあたっては,薬物動態(PK:pharmacokinetics)と薬力学(PD:pharmacodynamics)を重症病態に合わせて考慮しなければならない。重症敗血症などの重症患者では,血流分布異常や血管透過性亢進などにより水溶性の抗微生物薬の分布容積(Vd)が増大する一方で,腎機能低下により水溶性抗微生物薬のクリアランス(CL)が低下するため,PK/PDが変化していることに注意する(図1)。また,脂溶性薬物では,分布容積は脂肪の異化により減少傾向を示し,さらに肝機能低下により血中濃度が高まる可能性がある。このように,肝腎機能の評価の下で,水溶性か脂溶性の種類によって,抗微生物薬のPK/PDを評価しなければならない(表1)。

メモ 分布容積とクリアランス
 薬物の排出半減期(T1/2)は,分布容積とクリアランスで決定でき,次の式であらわされる。
 T1/2=(0.693×Vd)/CL
 分布容積が増えれば排出半減期は延長し,クリアランスが増加すれば排泄半減期は短縮する。

2. De-escalation
 敗血症における治療には,起炎菌同定と抗菌薬の適正使用が不可欠である。抗菌薬投与を始める前に,直ちに細胞培養検査を提出し,敗血症診断の1時間以内に,広域の抗菌薬の投与を開始する。抗菌薬は,細菌培養検査結果に基づいて狭域スペクトルの抗菌薬へ変更する。このようなde-escalationが重症患者の感染症の治療的抗菌薬投与の基本であり,さらにPK/PDを踏まえて,抗菌薬の特性を最大に引き出すように工夫する。






【2】重症病態における腎機能を考える

1. 感染症における腎傷害
 感染症管理に難じていると,尿量が低下してくる傾向がある。これにより,水溶性薬剤の排泄量は減少するが,輸液量増加による分布容積増加を同時に評価しなければならない。このような感染病態では,初期にToll-like受容体(TLR)を介して,tumor necrosis factor-α(TNF-α)やinterleukin-1β(IL-1β)などの炎症性サイトカイン,IL-8などのケモカインや接着分子の転写段階からの産生が高まり,炎症局所だけではなくTLR,TNF受容体などの炎症性受容体の存在する細胞近傍に,好中球などの白血球系細胞が集積する1)。組織因子の産生を介してトロンビンの産生が高まり,トロンビン受容体を持つ血管内皮細胞では細胞障害や血小板沈着が進行する。糸球体の有窓性血管内皮細胞も感染症における炎症のターゲットであり,さらに尿細管障害を合併する。 このような重症化を抑制するために,適切な輸液管理や循環管理が不可欠となる。
 
2. 腎機能維持のための輸液と血圧管理
 利尿を得るためには,適切な輸液と血圧管理が必要である。感染症初期の血圧は,腎血流の自動調節の下限である平均血圧65 mmHg以上を維持することが大切であり,血管拡張に伴うショックを併発している場合はノルエピネフリン(> 0.05μg/kg/分)の持続投与が有効である。輸液はearly goal-directed therapy(EGDT)2)に準じて平均血圧65 mmHg以上を目標とし,尿量0.5 mL/kg/時以上を維持できるように,ノルエピネフリンと並行して行われるべきであり,ショックを1時間以上放置してはいけない。ドブタミンの併用は危険である。輸液は,生理食塩水やリンゲル液などの晶質液を中心としてアルブミンの適正補充を考慮するべきであり,代用血漿製剤は腎機能障害や凝固障害を導く可能性があるために使用しない。ヘモグロビン濃度は,心血管系合併症のない場合には最低でも7g/dL以上,心血管系合併症のある場合は10 g/dL以上を目標とし,赤血球輸血を併用する。このような状況において,フロセミドを頻回に用いて利尿を得ることは禁忌であり,フロセミドは尿量が得られ,循環が安定化した後の炎症の回復期において循環血液量を減少させる目的のみの適応とすると良い。

3. 腎機能低下時の抗菌薬の使用方法
 重症患者では,初期には血管拡張に伴う血流分布異常や血管透過性亢進のために,水溶性の抗微生物薬では分布容積が増加するため,水溶抗菌薬は初期に十分量を投与する必要がある。腎機能障害が軽度であれば,重症患者の腎血流量は輸液や血管作動薬の影響により増加している場合が多く,クリアランスが増加し,水溶性抗菌薬の排泄が亢進している可能性がある。重症患者では,血清クレアチニン濃度が正常でもクレアチニンクリアランスが上昇している場合があることが明らかとされている3)。この場合,腎排泄性薬剤のクリアランスが上昇し,半減期が短縮する可能性がある。重症患者では,クレアチニンクリアランスを指標として水溶性抗菌薬の投与量を適切に調節することができる4)。

メモ 腎機能低下でもクリアランスが変わらないことがある? 腎機能によって投与量を調節しなくてよい抗微生物薬がある。代表的なものは,アジスロマイシン,クリンダマイシン,セフトリアキソン,リネゾリド,アンフォテリシンB,ミカファンギン,ボリコナゾールである。また,ピペラシリンは,腎機能低下時に胆汁排泄が増加し,クリアランスが維持されることが知られている。ペニシリンなどのβ-ラクタム系薬が腎障害を起こす場合は,アレルギー性間質性腎炎を特徴としており,この可能性がある場合は減量ではなく,中止としなければならない。また,キノロン系抗菌薬であるシプロフロキサシンは,腎機能が低下しても腸管クリアランスが増加し,クリアランスが低下しにくい。

4. 維持透析中の患者ではどうするか
 持続濾過透析を併用し,腎機能を代償する。持続濾過透析を併用した際の,抗菌薬使用量5)は表2を参考とするとよいが,施設により持続濾過透析の方法が異なるために,PK/PDに対しての独自のデータを持つことが期待される。一時的に,尿量が減少し,持続濾過透析を併用している場合は患者の腎機能に相当する抗菌薬量を追加する。




【3】重症病態における肝機能を考える

1. 重症病態における肝機能を維持するために
 抗微生物薬の副作用として,肝障害をきたす症例は消化器障害に次いで多く,トランスアミラーゼ(GOT,GPT),アルカリフォスファターゼ(ALP),ビリルビンの血中濃度上昇で評価する。βーラクタム系薬の使用でみられるGOT,GPT,ALPの上昇した際の肝機能障害は過敏反応が主体であり,用量調節ではなく,中止と変更を必要とする。また,抗微生物薬による肝障害は,一般に胆汁うっ滞型を呈する場合が多く,GOT,GPTの上昇に比べてALPなどの胆道系酵素の上昇が特徴となりやすい。抗微生物薬による薬疹症例では,約30%に肝機能異常が認められる。

2. 肝機能低下における脂溶性薬物のクリアランス低下
 レボフロキサシン,パズフロキサシンなどのキノロン系,アジスロマイシンなどのマクロライド系,クリンダマイシンなどのリンコマイシン系抗菌薬,ミカファンギン,キャスポファンギンなどのキャンディン系抗真菌薬,メトロニダゾール,スルファメトキサゾールなどは脂溶性抗微生物薬であり,肝機能低下時にクリアランスが低下する可能性があり,用量調節が必要である。

3. 重症病態における低アルブミン血症の影響
 重症患者の急性期では,蛋白異化亢進,血管透過性亢進,肝機能低下の影響により,血中アルブミン濃度が低下しやすい。抗微生物薬を含めた多くの薬物の分布容積とクリアランスは,タンパク結合率に影響を受ける。アルブミンとの結合率の高いことで知られているセフトリアキソン(約95%),テイコプラニン(約90%),ダプトマイシン(約90%),イトラコナゾール(約99%)などは,低アルブミン血症で血中濃度が増加しやすい。セフトリアキソンは,低アルブミン血症の際には,1日1回の投与量を3分割して投与すると良い。一方,タンパク結合率が低いメロペネム(約2%)などは,低アルブミン血症に血中濃度が影響されにくいため,腎機能が維持されている際には分布容積増大に対して増量する必要がある。

【4】多剤耐性菌への対策と治療

1. 薬剤耐性菌に対する注意
 重症患者は,好中球やリンパ球などの白血球の機能低下を特徴とする。このような免疫低下病態では,2次性侵害刺激として院内感染を合併しやすく,敗血症として全身性炎症が再燃する傾向がある。現在,院内感染の起炎菌として,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA: Methicillin-resistant Staphylococcus aureus),基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL: extended-spectrum β-lactamase)産生菌,バンコマイシン耐性腸球菌(VRE: Vancomycin Resistant Enterococci),多剤耐性緑膿菌(MDRP: multi-drug resistant Pseudomonas aeruginosa),そして多剤耐性アシネトバクター(MDRA: multi-drug resistant Acinetobacter baumannii)やNew Delli Metallo-β-Lactamase-1(NDM-1)産生腸球菌などに注意が必要である。
 Klebsiella pneumoniae や Escherichia coli など菌種は,β-ラクタマーゼ産生遺伝子を突然変位させ,ESBLを産生することにより,β-ラクタム系抗菌薬のβ-ラクタム構造を加水分解する能力を持つ。このようなESBLは第三世代セフェム系抗菌薬を分解するものとして知られてきたが,ESBLは伝達性プラスミドでコードされるため,同一菌種間だけではなく,異なる菌種間にも伝達される特徴がある。ESBL産生菌はK.pneumoniae,E.coliに加えてSerratia marcessense,Enterobacter cloacae,Proteus mirabirisなどの菌種に拡大している。また, NDM-1産生腸球菌やKlebsiella pneumoniaecar bapenemase(KPC)産生肺炎桿菌は,免疫低下病態に対する日和見感染だけではなく,健常成人にも発症する。NDM-1やKPCは,カルバペネム系薬を分解するばかりではなく,キノロン系薬やアミノグリコシド系抗菌薬にも薬剤耐性を示す。
 一方,バンコマイシンに耐性を獲得したVREが検出されている。VREに対する抗菌薬としてリネゾリドが本邦でも臨床使用されているが,リネゾリドはMRSAにも抗菌活性を持つためにMRSA治療にも用いられている。しかし,2008年には,スペインでリネゾリド耐性MRSA(LRSA: Linezolid-resistant Staphylococcus aureus)が院内感染の原因菌となり,本邦におけるリネゾリド使用に対してもより一層の注意が必要である。
 このような多くの多剤耐性菌に対する対応の背景の中で,MDRPの管理に留意しなければならない。2008年以降,本邦でも,アモキシシリンおよびクラブラン酸,第3セフェム系,キノロン系,カルバペネム系,アミノグリコシド系などの抗菌薬に耐性を獲得したMDRAが院内感染の起炎菌として問題化された。

2. 多剤耐性グラム陰性菌に対する治療
 カルバペネム系,フルオロキノロン系,アミノグリコシド系のすべての抗菌薬に感受性が認められない場合,多剤耐性菌と定義される。このうち,MDRPやMDRAに対して,アンピシリン/スルバクタムが効果的となる可能性がある。カルバペネムに耐性を持つMDRPやMDRAの検討では,アンピシリンではなく,スルバクタムをカルバペネムに併用することに有効性が認められている。このような観点より,アンピシリン/スルバクタムをカルバペネム系抗菌薬に併用する治療が,MDRPやMDRAに効果を示す可能性がある。
 一方,多剤耐性菌はポリミキシン感受性を維持する傾向があり,ポリミキシンBやコリスチン(ポリミキシンE)が有効となる可能性がある。しかし,コリスチンは,本邦で開発されたものの,吸入で用いると急性肺傷害,さらに静脈内投与で用いても容量依存性に腎毒性や神経毒性など臓器毒性に注意が必要である。また,チゲサイクリンがMDRPやMDRAに感受性を持つ。
 以上のように,現在のMDRPやMDRAの治療にはカルバペネム系抗菌薬とアンピシリン/スルバクタムを併用が推奨される。このような状況において,コリスチンやチゲサイクリンの本邦での導入が期待されている。

文 献

1. 松田直之. 敗血症の病態生理学. Intensivist 2009;1:203-16.
Lipman J, Gous AG, Mathivha LR, et al, Ciprofloxacin pharmacokinetic profiles in paediatric sepsis: How much ciprofloxacin is enough? Intensive Care Med 2002; 28:493–500
2. Rivers E, Nguyen B, Havstad S, et al. Early goal-directed therapy in the treatment of severe sepsis and septic shock. N Engl J Med 2001;345:1368-77.
3. Lipman J, Gous AG, Mathivha LR, et al. Ciprofloxacin pharmacokinetic profiles in paediatric sepsis: How much ciprofloxacin is enough? Intensive Care Med 2002; 28:493–500.
4. Herrera-Gutierrez ME, Seller-Perez G, Banderas-Bravo E, et al. Replacement of 24-h creatinine
clearance by 2-h creatinine clearance in intensive care unit patients: A single-center study. Intensive Care Med 2007; 33:1900–6.
5. Trotman RL, Williamson JC, Shoemaker DM, et al. Antibiotic dosing in critically ill adult patients receiving continuous renal replacement therapy. Clin Infect Dis 2005;41:1159-66.


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薬剤情報 不眠症 毎日 ハルさん ルネスタ5時間

2012年06月21日 18時28分15秒 | 薬物情報

睡眠に対する集中治療

名古屋大学大学院医学系研究科

救急・集中治療医学分野

松田直之

 

 救急・集中治療領域を含めて,睡眠の質を改善することはとても大切ですが,まず意識することは,① 炎症活性,② 呼吸数,③ 脈拍数です。交感神経緊張の高い場合に,不穏やせん妄は起きやすく,一般に言われる「眠剤」,GABA作動薬では対応できないことが多いです。メラトニンアナログであるロゼレム®(ラメルテオン)を用いて,メラトニン補充をすることも必要となる場合が多いです。その上で,夜間の眠剤について,半減期を理解して使用することをお勧めします。単に,眠れないというのではなく,なぜ夜間覚醒しているのかの原因を評価することが大切です。新しい感染症が隠れているときもあるのです。患者さんに対して,眠剤についての使い方,そして目的を明確として下さい。

 ルネスタ錠(エスゾピクロン)は,ゾピクロンの鏡像異性体であり,入眠と中途覚醒を改善できます。作用機序は,従来のものと同様で,GABAa受容体複合体のベンゾジアゼピン結合部位への結合により,Cl-イオンを神経細胞内に流入させるものです。GABAa受容体サブタイプのα1~α5のうち,α1は催眠作用を,α2~5は抗不安作用があります。このような不眠症治療薬の超短時間作用の定義は,消失半減期2~4時間です。ルネスタは消失半減期5時間であり,超短時間作動薬と短時間作動薬(t1/2:6~10時間)の中間型タイプです。超短時間作動薬に分類されます。

 病棟で眠れない患者さんがいると,看護師さんに呼ばれることが多いのは,医師の宿命かもしれません。その上で,看護師さんに夜間覚醒の下人をアセスメントしてていただくような教育体制も必要となります。眠剤の適正使用をしっかりと教育することが重要です。そ従来は,マイスリー(ゾルビデム,消失半減期約2時間),ハルシオン(トリアゾラム,消失半減期約3時間),アモバン(ゾピクロン,半減期3.7時間)などが,超短時間作動薬として使用されています。ルネスタ(エスゾピクロン,消失半減期5時間)は,高齢者で1回1mg,一般成人で1回2mgあるいは3mgが推奨されています。ロゼレムは,メラトニン補充としてメラトニン受容体(MT1R/MT2R)作用として使用します。半減期は1時間から2.6時間です。一浪から二浪の受験生は,眠らないで勉強するとよいのですが,免疫が落ちますので,睡眠は規則正しくし,朝日とともに起きて,勉強をしましょう。

※ 睡眠導入薬 松田式 消失半減期の覚え方(少し どもるように 話してみて下さい)   

     ♪ 毎日 ハルさん ♪ あもばん さいなら~~♪ ルネスタ5時間 ねむれんね〜〜♪ 

   2時間ハルシオン   アモバン 3.7時間             ルネスタ5時間   

※ メラトニン 

 メラトニンは,松果体で産生されます。明るい状態だと松果体でのメラトニンの産生が抑制されて眠たさがなくなります。夜になったり,部屋を暗くするとメラトニンが産生されて眠くなります。さて,朝日があたる部屋では,松果体のメラトニン産生がだんだん抑制されて,つまりメラトニンの半減期に合わせて覚醒します。「朝日が登る時間」と「自身が起きる時間」,この時間差をチェックして健康管理として下さい。また,メラトニンは,ラジカルスカベンジャーです。脳内での活性酸素種を消去する作用がありますし,さまざまな臓器の炎症を抑制する「抗炎症効果」があることが知られています。

初版 2012年6月12日 追記修正 2019年3月20日,2020年4月8日


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