概 要
南海トラフ大地震(M9クラス)では,名古屋愛知の中部ブロックでの死者は,最大で約13万3,000名,救助を要するものは最大で約1万2,000人と推定されています。沿岸部で停止した,東海道新幹線や東海道本線などで約70万人/日の乗客に盈虚が出ると推定されています。日本最大の濃尾平野は,長期間にわたって浸水し,東海の社会経済活動に大きなダメージとなります。このような状況において,国土交通省は道路計画を立てるとともに,医療領域はDMAT連携を含めて,平時からしっかりとした急性期医療を展開する必要があります。さて,災害医療における災害本部立ち上げと,その際のクロノロは大切です。クロノロとは,クロノロジー(chronology)のことであり,過去の出来事を時系列に並べたものを指します。災害時などは,ホワイトボードに,出来事を時系列で記載します。現在はこれをプリントアウトしたり,USBメモリーに電子記録として残せるようになっています。また,災害医療の際には,「CSCATTT」,「HeLP-SCREAM」,「REMEMBER」,「METHANE Report」,「引き継ぎと撤収のTHANK you」などの皆が知っている共有事項があります。このようなトレーニングを,皆が受けて共有しています。
6Rs 災害マネージメントにおけるビジョン
詳 細
災害時におけるクロノロの注意
・ 汎用性のある記録ツール
・ 本部を通り過ぎていく情報を時刻とともに記載
・ 本部に入った情報および指示事項を記載する
・ 発信元と発信先:明記すること
・ 記録員に対して,本部長やリーダーが書くことを指示する
・ 定期的に本部要員で共有、見直しを行う。
・ 予定については、予定が立った時刻を記載し、その横に予定事項、予定時刻を記載する。
・ 速やかに電子化:記録としてのホワイトボードがいっぱいにならないように工夫する
ホワイトボードで共有すべき情報
・ 問題・解決リスト
・ 活動方針
・ 指揮系統図と活動部隊・人員と現在の活動
・ 主要連絡先
・ 患者・患者数一覧表
・ 被災状況・現場状況(地図)
・ その他
陸路での搬送調整手順
・ 搬送手段の確保
・ DMAT車両の活用:管下のDMATに指示
・ 消防車両の活用:消防署、緊急消防援助隊指揮支援本部に依頼
・ 自衛隊車両の活用:同じレベルの本部に依頼
・ 搬送先医療機関の確保
・ 搬送先:災害拠点病院、SCU
・ 圏内災害拠点病院:災害拠点病院へ連絡
・ 圏外災害拠点病院:管轄DMAT活動拠点本部へ連絡
・ SCU:SCU本部へ連絡
空路での搬送調整手順
・ 搬送手段の確保
・ ドクヘリの活用:ドクヘリ司令部に直接依頼
・ その他のヘリ(自衛隊,消防など)の活用:都道府県DMAT調整本部にEMISにて依頼(意思表示)
※電話は不要
・ 搬送先医療機関の確保
・ 原則陸路と同様
都道府県DMAT調整本部に依頼
DMATとしての活動パターン
❏ HeLP-SCREAM 立ち上げ 活動開始
❏ HeLP-DMAT 本部活動 統括任務
❏ REMEMBER 活動中の留意内容
❏ THANK you 引き継ぎと撤収
※ 活動開始時から撤収を念頭に置く
※ 災害医療コーディネータ・コーディネートチームの重要性
活動開始・本部立ち上げにおける原則
HeLP-SCREAM (英語 助けてと叫ぶ)
Hello カウンターパートへの挨拶
Location 本部の場所の確保
Part 初期本部人員の役割分担
Safety 安全確認
Communication 連絡手段の確保
Report 上位本部への立ち上げの連絡
Equipment 本部機材の確保
Assessment アセスメント
METHANE 状況の評価と情報発信
統括DMAT 本部立ち上げにおける原則
HeLP-DMAT (英語 助けてDMAT)
Hello DMATの登録
Liaison 他機関現地本部との連携
Plan 作戦イメージの共有
Direction DMATへの指揮系統の指示、役割の付与
METHANE 被災情報の把握
Allocation ニーズに応じて資源を再配分
Transceiver 各部署との連絡体制の確立
災害時に収集すべき情報について ~METHANE Report~
M Major incident:大事故災害 「待機」または「宣言」
E Exact location:正確な発生場所 地図の座標
T Type of incident:事故・災害の種類 鉄道事故、化学災害、地震など
H Hazard:危険性 現状と拡大の可能性
A Access:到達経路 進入方向
N Number of casualties:負傷者数 重症度、外傷分類
E Emergency services:緊急対応すべき機関
-現状と今後必要となる対応
災害本部立ち上げにおいてREMEMBER 忘れない基本事項
Report regularly 定期的に報告を「させる、する」
Equipment 資機材に不足はないか
Medical needs 医療需要はどうなっているか
Effect and Exchange 救援効果判定と適切な交代
Member and Meeting 参集DMAT数は、会議は
Balance 各拠点におけるDMATのバランスは
Ending 活動終了に向けたThank you
Removal 撤収
引き継ぎと撤収のTHANK you
Timely 適切な時期に
Hand over 引き継ぎを
Appoint 選任してもらう(都道府県)
Number 必要な人数(医療班)
Kind of medical needs 医療ニーズを伝え
you 君にお願い ありがとう
DMAT本部活動チェックリスト
1.本部の立ち上げ
1.1 Hello
❏ 院長に立ち上げの連絡を入れた
1.2 Location
❏ 病院と話し,本部の場所を確保した
1.3 Part
❏ 本部要員の指揮系統図を完成させた
❏ 副本部長を4分野に置けた
❏ 記録,連絡,資材準備係を置けた
❏ 本部要員の役割分担は適正であった
1.4 Safety
❏ 本部の場所の安全確認ができた
1.5 Communication
❏ 衛星電話,優先電話,無線などの連絡手段を確保できた
❏ 統括IDでEMISにログインできた
1.6 Report
❏ DMAT都道府県調整本部に立ち上げの連絡をした
1.7 Equipment
❏ 本部機材(コンピューター,プリンタ,ホワイトボード)を確保した

2. 情報処理
2.1 クロノロ
❏ クロノロをもれなく記載できた
❏ クロノロを定期的に見直し,問題リストが作成し,本部で共有できた
❏ クロノロを定期的に見直し,活動方針を明示し,本部で共有でした
❏ 本部長はクロノロを基に決断できた
❏ クロノロをEMISに反映できた
2.2 資源
❏ 資源の情報を指揮系統図にまとめた
❏ 指揮系統図はEMISに反映できた
❏ 主要連絡先リストがもれなく作成できた
2.3 需要
❏ 需要の情報を一覧表(EMIS)にまとめられた
2.4 地図
❏ 地図にDMATの活動状況を反映できた
❏ 地図に病院などの医療ニーズの情報を反映できた
❏ 地図に被害情報,ロジ情報を反映できた
❏ 地図を基に資源と需要のギャップの大きい地域が特定できた
3.情報収集
3.1 病院
❏ すべての災害拠点病院の情報を確認できた
❏ すべての病院の情報を確認できた
❏ 保健所に病院の情報把握を依頼した
❏ 情報収集目的でDMATを病院に派遣した
❏ 病院の情報を電話で確認した
❏ 得られた情報をEMISに代行入力できた
3.2 現場・施設・孤立集落
❏ 大規模な災害現場はないか確認した
❏ 救助困難事案等の現場活動のニーズを確認した
❏ すべての施設の状況を確認できた
❏ 孤立集落における医療ニーズの有無を確認した
3.3 避難所
❏ 避難所のリストを入手した
❏ 保健所に避難所情報を確認した
❏ 避難所へのDMATの派遣を行った
❏ 避難所の情報収集項目をEMISによるよう指示した

4.DMATの管理
4.1DMATの登録
❏ DMATを登録する場所を確保できた
❏ 到着予定のDMATをEMIS等で把握できた
❏ 到着したDMATに隊の情報を確認し、登録できた
❏ 到着したDMATの隊の情報を紙ベースでは把握できた
4.2 DMATの派遣
❏ DMATを情報収集に派遣できた
❏ DMATを集中的に派遣する場所を特定できた
❏ その場所に集中的に派遣できた
❏ 集中的に派遣する場所の選定は適切であった
❏ DMATの待機は最小限に抑えることができた
❏ EMISに管轄する活動場所を登録した
❏ EMISで、登録した活動場所へのDMAT派遣指示を反映できた
4.3 DMAT活動状況の把握
❏ 管下のDMATの活動状況をEMISで把握できた
❏ 管下のDMATの活動状況を地図に反映できた
❏ 管下のDMATの活動状況をリアルタイムで把握できた
4.4 DMATへの連絡
❏ 派遣したDMATから活動場所到着の報告を受けられた
❏ 管下のDMATと適時連絡ができた
❏ EMISのDMAT本部連絡メール送信機能によりDMATに連絡した

5.搬送調整
5.1 搬送ニーズの把握
❏ 管下の病院の搬送ニーズをEMISで把握した
❏ 管下の病院から搬送依頼を受けた
5.2 搬送手段の確保
❏ 管下のDMATに指示し、DMAT車両を陸路の搬送手段として活用した
❏ 消防署、緊消隊指揮支援本部に依頼し,陸路の搬送手段として消防車両を活用した
❏ 同じレベルの自衛隊本部に依頼し,陸路の搬送手段として自衛隊車両を活用した
❏ ドクターヘリ本部にヘリ搬送を依頼できた
❏ DMAT都道府県調整本部から,消防・自衛隊などの搬送計画を入手した
5.3 搬送先の確保
❏ 搬送先として,災害拠点病院,SCUをDMAT都道府県調整本部等と連携し確保できた
❏ 災害拠点病院へ連絡し,圏内災害拠点病院へ搬送した
❏ 管轄DMAT活動拠点本部へ連絡し,圏外災害拠点病院へ搬送した
❏ DMAT・SCU本部へ連絡し,SCUへ搬送した
5.4 搬送経路
❏ どこから分散搬送を行うか決めることができた
❏ 集中させる拠点を策定した
❏ 搬送経路は適正であった
5.5 病院避難
❏ 病院避難の情報を把握できた
❏ DMAT都道府県調整本部に病院避難の支援依頼を行えた
5.6 搬送調整結果
❏ 優先順位に従った搬送が行えた
❏ 搬送需要には応需できた
衛生通信機器
❏ BGAN 上り速度 492 kbps 下り速度 492 kbps 重量 3.2 kg
❏ ワイドスターⅡ 上り速度 144 kbps 下り速度 384 kbps 重量 1.3 kg
❏ IPSTAR 上り速度 4 Mbps 下り速度 4 Mbps 重量 40 kg(アンテナ設置機材を含む)
❏ JAXAきずな 上り速度 6 Mbps 下り速度 155 Mbps 重量 100 kg(アンテナ設置機材を含む)
❏ スカパーJSAT 上り速度 256 Mbps 下り速度 2 Mbps 重量 40 kg(アンテナ設置機材を含む)
災害活動整備:情報共有
1.災害拠点病院の整備 平成24年規約
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/iryou_keikaku/dl/shiryou_a-4.pdf
災害時に備えて,普段の診療においても,多発外傷,熱傷の適切な受け入れと診療体制の整備が不可欠として運用されます。これは,特に国立病院においても,国を支える上で重要となります。超急性期においては,救急科専門医の育成と整備も必要になります。
【内容】災害拠点病院においては、多発外傷、挫滅症候群、広範囲熱傷等の災害時に多発する重篤救急患者の救命医療を行うための高度の診療機能を有し、被災地からのとりあえずの重症傷病者の受入れ機 能を有するとともに、DMAT等の受入れ機能、傷病者等の受入れ及び搬出を行う広域搬送への対応機能、DMATの派遣機能、地域の医療機関への応急用資器材の貸出し機能 を有する「地域災害拠点病院」を整備し、さらにそれらの機能を強化し、災害医療に関して 都道府県の中心的な役割を果たす「基幹災害拠点病院」を整備することが必要である。
2.南海トラフ地震に対する指針
http://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/
3.中央防災会議 首都直下地震対策検討ワーキンググループ資料
内閣府対応HP http://www.bousai.go.jp/jishin/syuto/taisaku_wg/
http://www.bousai.go.jp/jishin/syuto/taisaku_wg/pdf/syuto_wg_report.pdf
以上,ご参考とされて下さい。
統括DMAT 松田直之