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HP「救急一直線〜Happy保存の法則〜」は,2002年に開始され,現在はブログとして継続されています。

セプシスにおけるステロイド治療 2006年版

2006年03月19日 21時16分20秒 | 講義録・講演記録
セプシスにおけるステロイド治療
―古い薬に対する新たな概念―



京都大学大学院医学研究科初期診療・救急医学分野
准教授 松田直之


はじめに

 セプシス(sepsis)が感染症に起因する全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome: SIRS)と定義されたのは1992年である1)。合成ステロイドの開発により1940年代にはステロイドが臨床応用されており,セプシス治療においてもステロイドのさまざまなトライアルが行われてきた。かつてはショックにたいしてルーティンに行われていたメチルプレドニゾロン大量療法も,1995年にはセプシス患者の生命予後を改善しないことが指摘され2),近年はセプシスへのグルココルチコイド(glucocorticoid: GC)投与は縮小傾向にあった。これに対し,2004年に公表されたSurviving Sepsis Campaign guidelines3)は,大量メチルプレドニゾロン療法を否定する一方で,2002年にJAMAに掲載されたAnnaneの報告4)などからseptic shockにおける少量GC投与を肯定し,セプシスに合併する副腎機能不全5)という視点を再起させた。GC投与における,その適応,タイミング,投与量,投与期間の臨床研究は,現在もさまざまな施設で継続されている。基礎研究においてもステロイド受容体やその細胞内情報伝達機構の解析が分子レベルで進み,今後はより一層,セプシス病態における詳細なシグナル解析も行われるであろう。本稿ではGCの細胞内情報伝達を整理するとともに,Surviving Sepsis Campaign guidelinesに照らしてセプシスにおけるGCの役割を再考したい。

グルココルチコイド放出に対するセプシスの影響

 GCはコレステロールより生合成される副腎皮質ホルモンである。視床下部から放出されるコルチコトロピン放出ホルモン(corticotrophin-releaseing hormone: CRH)により下垂体前葉が刺激されると,adrenocorticotrophic hormone(ACTH)が下垂体前葉より放出され,副腎皮質束状帯のACTH受容体に作用してコルチゾル(cortisol)が分泌される。分泌されたコルチゾルの90-95%は血中でコルチコステロイド結合グロブリンやアルブミンと結合した非活性体として存在し,5-10%の遊離型コルチゾルがさまざまな細胞に入りこみ,GC受容体(GR)と結合し生体の恒常性に関与する。また,コルチゾルは肝臓や腎臓などの鉱質コルチコイド受容体陽性細胞で11β-hydroxysteroid dehydrogenase type2(11β-HSD2)によりコルチゾンに変換され,GR作用が減じる。外来的に投与されたヒドロコルチゾンは11β-HSD1でコルチゾルに変換されることでGR作用を高める6)(図1参照)。これらの11β-HSD活性は炎症性サイトカイン(TNF-α,IL-1,IL-2,IL-6など)により減じられる。
視床下部―下垂体―コルチゾル産生系は,コルチゾルによる負のフィードバックや日内リズムに制御されているが,全身性炎症にも制御される。セプシスが惹起された急性期では高カテコラミン状態や産生された炎症性サイトカインにより直接に視床下部でのCRHの産生が高まり,一時的に下垂体前葉からのACTH放出が促進するが,炎症性サイトカインの長期曝露によりCRH産生が減弱し,視床下部―下垂体―副腎皮質ネットワークが障害される。また,炎症性サイトカインは直接に副腎皮質におけるコルチゾル産生を低下させるばかりか,セプシスの持続により副腎でも血管内皮細胞障害,微小血栓症が認められ,副腎皮質機能が低下し,コーチゾル分泌が低下する。セプシス発症の急性期には,GCシグナルが副腎を含めたさまざまな細胞で転写因子nuclear factor-kB(NF-kB)やactivator protein-1(AP-1)の活性を抑制し,炎症性サイトカインや,組織因子などの凝固促進因子の過剰産生を抑制するが,セプシスの持続によりGCシグナルが減弱し,これによる防御機構が破綻する。

グルココルチコイド受容体の産生機構
 
 ヒトのGR遺伝子はクロモゾーム5q31-32に位置し,Nuclear Receptor Subfamily 3, Group C, member1(NR3C1)に分類されている。GRのDNAは図2に示すように9つのエクソンから構成され,GR mRNAへの転写段階でエクソン9の選択的スプライシングのために9αと9βの2つのバリアントが生じ,翻訳後のC末端領域のの違いからリガンド結合活性を持つGRαと活性とリガンド結合活性を持たないGRβが生成される。エクソン1などのスプライシングを加えるとGRには少なくとも7種類以上のmRNAが存在し,翻訳開始点の選択などにより,蛋白レベルではGRαA,GRαB,GRβA,GRβB,GRγなどの表現形が存在する7)。
 このGRのうち核内へ移行してさまざまな物質の転写活性を直接に調節するのはGRαである。GRβはGCと結合できないため直接の転写調節作用を持たず,GRαと結合することでGRαによるGCシグナルを抑制する。GRγはさまざまな腫瘍細胞に発現が増加することが知られており,GCと結合するものの,その作用力価は弱い。GRは脳(大脳皮質,視床背側核,海馬,嗅覚皮質,小脳扁桃,縫線核),肺,心臓,肝臓,腎臓,膵臓,骨格筋,脂肪組織,血管内皮,免疫担当細胞,炎症性細胞などのさまざまな細胞に発現しており,各細胞におけるGC作用の強弱はGRサブタイプの細胞質内分布比に規定される。
 GR自体の転写にはいくつかのプロモータ領域が確認されており,GR遺伝子のエクソン1に対しては3つのプロモータ領域が知られている。これらのプロモータ領域の活性を高める転写因子としてNF-κB,AP-2(activator protein-2),Sp1,Yin Yang 1 (YY1)などが報告されている8)。セプシスでは特にNF-κBの活性が高まるためGR の転写活性が高まるが,未だ詳細は不明であるがGRβへの転写が高められやすい傾向があり,相対的にGRαとGRβの複合体比率が増加し,GRαによる抗炎症作用が抑制される。
 翻訳後のGRαはmitogen-activated protein kinases(MAPKs)やcyclin-dependent kinases などにより,113位,141位,203位,211位,226位の5箇所のセリン残基で細胞種特異的にリン酸化を受け,特に211位のセリン残基のリン酸化を受ける細胞ではGR作用が高まりやすい9)。セプシスの急性期では主要臓器のさまざまな細胞でMAPK活性が高まりGRαを介した抗炎症作用が期待されるが,主要臓器のどの細胞でMAPK活性が高まるかが重要である。リン酸化されたGRαはポリユビキチン化を受けプロテアソームで分解されるため,GRαの蛋白レベルでの代謝回転が速まる。長期化したセプシスに低栄養が合併している場合,MAKP活性化細胞ではGRαの発現が低下し,GC作用が損なわれやすい可能性がある。

セプシスにおけるグルココルチコイド受容体αを介した抗炎症作用

 セプシスではさまざまな炎症性物質や炎症性サイトカインが転写段階で過剰産生されるが,これらの産生には炎症性受容体発現と,転写因子NF-κBやAP-1の活性が強く関与する10-12)。GRαシグナルはこうした炎症を惹起する転写活性を制御し,抗炎症作用を示す。
 通常GRαは細胞質内でHSP90,HSP70,イムノフィリンなどと結合することでGCとの結合ポケット構造を形成している。このリガンド結合領域にGCが結合するとGRα-GC複合体となり,核内へ約30分以内に移行する。GRα-GC複合体はNF-κBと直接に結合し,NF-κB活性を減じることで炎症性メディエータの産生を抑制する(表1参照)。また,GRα-GC複合体はFosファミリーやJunファミリーと結合することで,それらが結合するDNA上のAP-1転写活性領域phorbol 12-o-tetradecanoate-13-acetate-responsive element(TPA- responsive element:TRE)や cAMP-responsive element(CRE)の活性を抑制する。
 核内へ移行したGRα-GC複合体はさらにホモ2量体として直接にDNA上のglucocorticoid response element(GRE)と結合し,直接にMAPK phosphatase 1(MKP-1),inhibitory-κB(I-κB),IL-1 receptor antagonist,lipocortin-1などの転写を高めることができる。MKP-1の産生によりMAPKs活性が抑制されるため,結果的にAP-1やCREの活性が減じる。また,I-κBの産生によりNF-κBの核移行が細胞質内で抑制され,NF-κBの転写活性が減じられる。その他,lipocortin-1はホスホリパーゼA2阻害物質であるためアラキドン酸産生を抑制し,プロスタグランジンやロイコトリエンの産生を減じる。
 以上の機序をふまえると,合成GC投与により,GRα-GC複合体の抗炎症作用をセプシスに期待できるが,これはセプシスの原因菌を消失させる根治治療ではないことに留意するべきである。

セプシス救命ガイドラインにおけるステロイド治療の位置付け

 セプシスに対するGC治療には,いくつかの転換と流れが存在する。1980年代にはメチルプレドニゾロン1日量30 mg/kgに対する2つの多施設前向き研究が報告され,セプシスにおけるステロイド大量療法の有効性が否定された。Veterans Administrationトライアル13)では233名の無作為試験で14日後の死亡率を改善させなかったとし,Bornらの報告14)では381名の無作為試験で2次感染による死亡率が増加していた。これについで1995年には2つのメタ解析が報告され2, 15),メチルプレドニゾロン大量投与はセプシス患者の生命予後を改善しないばかりか,有害である可能性が示唆された。このようなセプシス救命におけるステロイド投与の危険性が示唆される中で,septic shock患者がACTH負荷試験でコルチゾル分泌が低下していることをBriegelらは提起し16),さらに,Bollaertらは41名のseptic shock患者を対象に1日量100 mgのヒドロコルチゾンを5日間静脈内投与することで28日後の死亡率を対照群の63%から32%へ低下させるとするデータを公表した17)。そして,2002年にはAnnaneらにより1995年10月から1999年2月までに行われたフランスの19施設のICUにおける前向き臨床研究が報告され18),ACTH負荷試験によりコルチゾルレベルが9 μg/dLまでしか上昇しないseptic shick患者229名では,ヒドロコルチゾン1日量200 mgの4分割静脈内投与と1日量50 mgのフルドロコルチゾンの1回内服を7日間行うことで,死亡率が63%から53%に改善すると結論された。
 結果として,2004年に米国集中治療医学会より公表されたSurviving Sepsis Campaign guidelines3)では,1日量300 mgを超えるヒドロコルチゾンの投与は行うべきでないと結論され,輸液やカテコラミンで昇圧できないseptic shockに対してのみヒドロコルチゾン200-300mg/日を3-4分割あるいは持続投与で7日間の投与とすることが推奨され,septic shockでない場合にはステロイド投与の既往や内分泌異常が指摘されない限り,ステロイド投与を行うべきではないとされた。さらに,Annane らの報告18, 19)に準じてACTH負荷試験の有用性が提示されているが,ACTH負荷試験の結果が出るまでヒドロコルチゾン投与を待機する必要はないとしている。ACTH 250μgの負荷30-60分後に,負荷前より9μg/dLを超える血漿コルチゾン濃度の上昇が生じれば,ヒドロコルチゾン投与を中断する指針としている(図3参照)。現在日本で臨床使用できる静注用合成GCを表2に示した。

おわりに 
 Surviving Sepsis Campaign guidelines3)により,セプシス管理におけるさまざまな治療の視点とその基準が示されたことは,今後,さまざまなエビデンスを発展させる基盤となるであろう。通常のセプシス治療においては,セプシスは原疾患に付随した合併症であり,増悪因子という背景がある。このため,実際のセプシス患者の治療には,原疾患の治癒期間を考えることが大切であり,長期展望で原疾患の治療に当たる場合には,ステロイドによるインスリン抵抗性や易感染性,創傷治癒遅延などはリスクとなる可能性が大きい。ステロイドはGRαによる抗炎症作用を示すものの,セプシスにおいては補助療法に過ぎないものであり,根治療法ではないことに留意しなければならない。セプシスの原因菌を定期的に探り,効果的に抗菌薬や抗真菌薬を用いることがステロイドを使用する絶対条件である。手術や外傷に合併したセプシスにおいても患者の創傷治癒力に差があるため,適切な感染防御が行われない限りセプシスが再燃し,原疾患の治癒が遅延する可能性が常に存在する。長期的な患者管理においては栄養,免疫,血糖値管理という視点は特に重要であり,重症セプシスの管理においても炎症制御とともに原疾患の治癒に配慮しなければならない。
 炎症は細胞や臓器のアラームである。ステロイドは菌との闘争を放棄させ,細胞を低迷させるアルコールに過ぎない。セプシス救命においては3日単位で治療戦略を建て直し,7日で勝負をつける姿勢が大切である。ステロイド治療には,適切な抗菌戦略・抗ウイルス戦略が不可欠となる。


引用文献

1)Members of the American College of Chest Physicians/Society of Critical Care Medicine Consensus Conference Committee: Definitions for sepsis and organ failure and guidelines for the use of innovative therapies in sepsis. Crit Care Med 1992; 20: 864–74.

2)Cronin L, Cook DJ, Carlet J, et al. Corticosteroid treatment for sepsis: a critical appraisal and meta-analysis of the literature. Crit Care Med. 1995; 23:1430-9.

3)Dellinger RP, Carlet JM, Masur H, et al. Surviving Sepsis Campaign guidelines for management of severe sepsis and septic shock. Crit Care Med. 2004; 32:858-73. Review.

4)Annane D, Sebille V, Charpentier C, et al. Effect of treatment with low doses of hydrocortisone and fludrocortisone on mortality in patients with septic shock. JAMA. 2002; 288:862-71.

5)Gonzalez H, Nardi O, Annane D. Relative adrenal failure in the ICU: an identifiable problem requiring treatment. Crit Care Clin. 2006; 22:105-18. Review.

6)Latif SA, Pardo HA, Hardy MP, et al. Endogenous selective inhibitors of 11beta-hydroxysteroid dehydrogenase isoforms 1 and 2 of adrenal origin. Mol Cell Endocrinol. 2005; 243:43-50.

7)Lu NZ, Cidlowski JA. The origin and functions of multiple human glucocorticoid receptor isoforms. Ann N Y Acad Sci. 2004; 1024:102-23. Review.

8)Webster JC, Oakley RH, Jewell CM, et al. Proinflammatory cytokines regulate human glucocorticoid receptor gene expression and lead to the accumulation of the dominant negative beta isoform: a mechanism for the generation of glucocorticoid resistance. Proc Natl Acad Sci U S A. 2001; 98:6865-70.

9)Wang Z, Frederick J, Garabedian MJ. Deciphering the phosphorylation "code" of the glucocorticoid receptor in vivo. J Biol Chem. 2002; 277:26573-80.

10)Matsuda N, Hattori Y, Takahashi Y, et al. Nuclear Factor-kB decoy oligonucleotides prevent acute lung injury in mice with cecal ligation and puncture-induced sepsis. Mol Pharmacol. 2005; 67:1018-25.

11)Matsuda N, Hattori Y, Takahashi Y, et al. Role of MIF in acute lung injury in mice with acute pancreatitis complicated by endotoxemia. Am J Respir Cell Mol Biol, 2006, in press

12)松田直之. 講座:全身性炎症反応症候群とToll-like受容体シグナル -Alert Cell Strategy- . 循環制御 2004; 25: 276-84.

13)The Veterans Administration Systemic Sepsis Cooperative Study Group. Effect of high-dose glucocorticoid therapy on mortality in patients with clinical signs of systemic sepsis. N Engl J Med 1987; 317,659-65.

14)Bone RC, Fisher CJ, Clemmer TP, et al. A controlled clinical trial of high-dose methylprednisolone in the treatment of severe sepsis and septic shock. N Engl J Med 1987; 317, 653-8.

15)Lefering R, Neugebauer EA. Steroid controversy in sepsis and septic shock: a meta-analysis. Crit Care Med 1995; 23,1294-303.

16)Briegel J, Schelling G, Haller M, et al. A comparison of the adrenocortical response during septic shock and after complete recovery. Intensive Care Med. 1996; 22:894-9.

17)Bollaert, PE, Charpentier, C, Levy, B, et al. Reversal of late septic shock with supraphysiologic doses of hydrocortisone. Crit Care Med 1998; 26,645-50.

18)Annane D, Sebille V, Charpentier C, et al. Effect of treatment with low doses of hydrocortisone and fludrocortisone on mortality in patients with septic shock. JAMA. 2002; 288:862-71.

19)Cooper MS, Stewart PM. Corticosteroid insufficiency in acutely ill patients. N Engl J Med. 2003; 348:727-34. Review.







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救急 集中治療 カプノグラム/カプノグラフィの有効利用

2006年03月01日 05時13分29秒 | 急性期管理技術

  カプノグラム/カプノグラフィの有効利用 

京都大学大学院医学研究科
初期診療・救急医学分野
准教授 松田直之


 要 点 
・ メインストリーム方式のカプノメータの長所と短所
・ サイドストリーム方式のカプノメータの長所と短所
・ カプノグラフィを構成する4つの相の生理学的解釈
・ カプノグラフィから読み取ること

 概 説 
 カプノグラフィ(カプノグラム)は麻酔における呼吸管理の必須のモニタであり,呼気ガスの二酸化炭素分圧(end-tidal partial pressure of CO2: PETCO2)を知るばかりではなく,呼吸の有無や呼吸状態を知ることができる。カプノグラフィの利用は気管挿管された患者における調節呼吸管理に限られるものではなく,ラリンジャルマスクでの自発呼吸管理,マスクや鼻カヌラを用いた呼吸管理においても利用できる。


① カプノメータの測定方式

カプノメータのCO2測定方式は2種類ある

 カプノメータによるPETCO2の測定方式は,メインストリーム方式とサイドストリーム方式の2種類がある。メインストリーム方式は呼吸回路内に組み込まれる方式であり気管挿管やラリンジャルマスクでの気道確保が行われている際に使用できる。一方,サイドストリーム方式は必ずしも気道確保を必要とせず,マスクや鼻カヌラでの酸素投与であっても,内腔1.5mm程のサンプリングチューブを介して呼気ガスを採取し,PETCO2を測定できる。

【メインストリーム方式で気を付けること】

 メインストリーム方式の回路接続を図1に示した。呼気ガスサンプリングでは計測センサーに重量があるため,気道確保された気管チューブやラリンジャルマスクと麻酔回路の間で荷重がかかる。蛇管固定具で蛇管をしっかりと固定しなければ,チューブが抜ける可能性がある。ラリンジャルマスクでの気道確保においても,その位置のずれに気をつける必要があり,メインストリーム方式の計測センサーの荷重とテンションに気をつけなければならない。そして,測定チャンバーの装着によりこの部分が死腔となる。

☆ メインストリーム方式の2大利点
・ PETCO2の測定が速やかであること
・ 呼気ガスを吸引する必要がないため低流量麻酔に適していること

☆ メインストリーム方式の4大欠点
・ センサーが熱を持ち熱傷の危険があること
・ 荷重が回路にかかること
・ 死腔が増加すること
・ 気道確保を必要とすること

⇒ ラリンジアルマスクは胸元に固定するのが良い
⇒ メーンストリーム方式では熱傷防止に留意する
⇒ メインストリーム方式ではセンサーの加重に気をつける。

【サイドストリーム方式で気を付けること】

 サイドストリーム方式では,人工鼻やサンプリング用アダプターからサンプリングチューブを介して呼気ガスを吸引してPETCO2を計測する(図2参照)。サンプリングする位置が患者側より離れるほど,PETCO2が低く算出されるため,通常は気管チューブと接続した人工鼻よりサンプリングする。呼気ガスのサンプリングには約50~500 mL/minを必要とし,場合によっては約2L/minまで必要とするため,新鮮ガス流量の少ない低流量麻酔には適さない。また,サンプリングチューブの材質や長さに留意する必要があり,長いほどPETCO2が低くなりやすい。サンプリングチューブの材質はナイロン製のものが望ましく,ポリエチレンやテフロン製のものはCO2透過性が高いため,PETCO2が低く出やすい。サイドストリーム方式ではサンプリングチューブからCO2が拡散する可能性に留意し,呼気には水蒸気が含まれるため水滴がサンプリングチューブを閉塞しないように気を付ける必要がある。計測器内へ蒸気や水滴が混入しないようにするためにwater trapが付けられているが,回路組立にあたっては,患者側に人工鼻をつけるとよい(図3参照)。人工鼻に側孔のついたものを利用することにより,サンプリングアダプタを使用する必要がなくなるため,死腔を減少できる。

☆ サイドストリーム方式の2大利点
・ ガス吸引部に荷重が加わらないこと。
・ 気道確保を必要としないためすべての患者に使用できること。

☆ サイドストリーム方式の4大欠点
・ CO2のサンプリングチューブなどからの拡散によりPETCO2が低く出やすい。
・ 水摘によるサンプリングチューブの閉塞の可能性がある。
・ 呼出開始より測定の応答時間が若干遅れる。
・ 低流量麻酔に適さない。

⇒ 業者の指定するサンプリングチューブを使用する。
⇒ 低流量麻酔では使用しない。

➁ サイドストリーム方式の有効利用
 脊椎麻酔や硬膜外麻酔で鎮痛を施し,プロフォフォールやミダゾラムで鎮静を行うような場合,呼吸の確認にサイドストリーム方式のカプノメータを利用するとよい。鼻前庭に装着する専用のものが市販されているが,これがない場合は内径14 Frの吸引チューブを先端より3 cm切断しサンプリングチューブの先端に接続して,テープで鼻に測定する(図5参照)。PETCO2は低く示される傾向があるが,呼吸様式を観察することができるため,呼吸抑制や無呼吸の評価に役立つ。


③ カプノグラフィの4相の生理学的意味

カプノグラフィ波型は横軸が時間経過,縦軸がPCO2を示し,4相から成り立つ(図6参照)。カプノグラフィ波型は吸気と呼気の流量波型とあわせて考えると理解しやすい。
1) 第Ⅰ相:吸気終末からまさに呼期が開始されようとした時期に形成され,チューブやマスクなどの死腔のガス排泄で形成される相であり,PCO2の上昇が生じない。
2) 第Ⅱ相:末梢気道より呼気ガスが排泄されることで,その呼気流量にしたがってPCO2の上昇が形成される。第Ⅱ相から第Ⅲ相への変化は呼気流量の急激な増加によって形成されるものであり,この流量の大半は気道レベルおよび気管チューブやマスク内のガス排泄により生じる。
3) 第Ⅲ相:alveolar plateauと呼ばれており,肺胞気が回路内に排泄され始める時期であり,気道内ガスとゆっくりと交じり合うことでPCO2がなだらかに上昇し,最終点がPETCO2となる。
4) 第Ⅳ相:吸気開始によりPCO2が低下するのが第4相である。

⇒ 第Ⅰ相は死腔ガス排泄,第II相は末梢気管支レベルの呼出,第Ⅲ相は肺胞レベルの呼出,第Ⅳ相は吸気相と覚えよう!


④ カプノグラフの波型解析
 カプノグラフィの波形を十分に理解することにより,呼吸状態の変化の理解に役立てるとよい。

1)2相の遅れと3相の傾きの急峻化(図7)
 呼気延長の所見である。肺気腫など閉塞性肺疾患や喘息の呼気延長所見として,出現する。

2)第3相の2峰性化・多峰性化(図8)
ボリュームコントロールやプレッシャーコントロールによる人工呼吸の最中で第3相の2峰性化や多峰性化が認められた場合,自発呼吸が出現してきたか,術野での横隔膜圧迫を考える。自発呼吸下での管理では喀痰量の増加により,このような波形を呈することがある。

3)第3相終末の上昇化(図9)
 第3相のPCO2の低下と,終末上昇化(tails-up pattern)は,サンプリングチューブの損傷とリークで生じる。調節呼吸時には回路内よりサンプリングチューブを介して一定量のガスを採取するため,その陰圧によりサンプリングチューブ外の空気が混入し,第3相が低下する。自発呼吸下ではこのようなパターンは見られにくい。

4)第2層の低下と第3相の短縮(図10)
 第3相の短縮は十分に肺胞気が排出されていないことを示す。すなわち,浅呼吸により有効な換気がなされていないことに注意する。ラリンジアルマスクを挿入し,プロポフォールの持続投与やでミダゾラムなどのマイナートランキライザーで鎮静を行う場合,このような波形が呼吸抑制の特徴となる。これを有効な換気とするためには,一定の気道内圧を目標に用手的にプレッシャーサポートを行うことが必要であり,肺胞レベルを十分に拡張させる必要がある。
⇒ プロポフォールは浅呼吸となるため,用手的pressure supportで対応する。

5)第3相の延長(図11)
 第3相の延長はフェンタニールなどの麻薬による吸気ドライブの抑制で生じやすく,呼吸数低下の所見である。呼吸数を増やすよう用手的にsynchronized intermittent mandatory ventilation(SIMV:同期的間欠的強制換気)を行うことが必要である。
⇒ フェンタニールは呼吸数を減らすので,用手的SIMVで対応する。

6) 第3相初期のノッチ(図12)
第3相初期に形成されるinitial notchは片肺のみの挫傷が強い場合や,片肺の気管支内分泌が多い場合や,肺移植後などで観察され,左右の肺コンプライアンスに差が生じていることを意味する。コンプライアンスの低い肺からの呼出が遷延するために第3相後半の傾きが急峻化する。

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コラム ラリンジアルマスクとカプノメータの固定

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 ラリンジアルマスクで気道確保され,サイドストリーム方式でカプノグラムをモニタリングする場合の固定例を図13に示した。ラリンジャルマスクは,そのチューブの形状から胸元方向にチューブ遠位端をもってくるように固定するのが望ましい。頭部方向にラリンジャルマスクがS字を描くように固定しているケースをよく見かけるが,マスクの位置がずれやすい。ラリンジャルマスクを胸方向に正しく固定している場合は,メインストリーム方式の計測センサーであれば胸に乗るように設置されることになるため,計測センサーの発する熱に留意し,乾ガーゼなどを下に敷くことで熱傷を起こさぬよう気をつけなければならない。メインストリーム方式では加重によるラリンジャルマスクの位置のずれと熱傷の危険あるため,サイドストリーム方式のほうが望ましい。



図の表題と説明


図1 メインストリーム方式の回路接続


図2 サイドストリーム方式の回路接続


図3 人工鼻を用いたサイドストリーム方式
 写真は気管挿管された患者における気管チューブ,コネクタ,人工鼻,サンプリングチューブの接続例である。人工鼻にサンプリングチューブを接続することで,水蒸気や水滴のサンプリングチューブへの流入を減少できる。


図4 吸引チューブを用いた経鼻式サンプリングチューブの作成


図6 カプノグラフィは4つの相で構成される


図7 閉塞性換気障害パターン


図8 自発呼吸出現パターン


図9 サンプリングチューブの破損パターン


図10 マイナートランキライザーパターン
マイナートランキライザは,1回換気量を低下させ,呼吸数を早める。さらに,血中濃度が高まると,換気量低下と呼吸が消える傾向を示す。


図11 麻薬による呼吸抑制パターン
フェンタニルは呼吸数を減らします。


図12 片肺挫傷パターン


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救急 集中治療 分離肺換気のテクニック 

2006年03月01日 04時56分29秒 | 急性期管理技術

分離肺換気のテクニック


京都大学大学院医学研究科
初期診療・救急医学分野
准教授 松田直之


要 点
・ 分離肺換気の4つの方法
・ ダブルルーメンチューブの選択と挿入法
・ ユニベントチューブの選択と挿入法
・ bronchial blockerを利用した小児の分離肺換気

概 説
 肺切除術や食道全摘術などの麻酔管理では,分離肺換気とし片肺を虚脱させる技術が必要である。この分離肺換気の手法は,1)タブルルーメンチューブを利用した方法,2)ユニベントチューブを利用した方法,3)Fogartyカテーテルなどのbronchial blockerを利用した方法,4)ノーマルチューブの片肺挿入の4つの手法に大別される。予定手術においては,その手術内容の確認に加えて,胸部単純X線像やCT像で十分な画像評価を加え,分離肺換気の技法を吟味するとよい。


分離肺換気のための基礎知識

☆ 右上幹の位置に注意 
左上葉気管支へ移行する左上幹は気管分岐部から3~5 cmに位置するのに対して,右上葉気管支へ移行する右上幹は気管分岐部から1~2 cmである(図1参照)。このため,右主気管支挿入用ダブルルーメンチューブでは右上葉の換気が損なわれることが多い。

<気管か右主気管支か左主気管支か>
 分離肺換気を確実に行うためには,挿入されたチューブの先端やブロッカーの位置を気管支鏡で確認することが必要である。このため,気管,右主気管支と左主気管支を気管支鏡で判別できることが要求される。気管は前方と側方が気管軟骨に囲まれており,後壁は平滑筋で形成されるため縦走するヒダとして観察される。このように見える気管分岐部(Carina)の形状を理解しておくことが大切である(図2参照)。

分離肺換気のための準備
□  分離肺換気のための計画と打ち合わせ
□ 胸部単純X線像と胸部CT像
□ 分離肺換気用チューブあるいはブロッキングバルーンカテーテル
□ クランプ鉗子(鉤なし)(ダブルルーメンチューブ挿入の場合)
□ チューブ接続用専用コネクター(ダブルルーメンチューブ挿入の場合)
□ 気管支鏡と観察用専用コネクター。
□ 潤滑油,医療用ゼリー(気管チューブカフなどへ使用できるもの)(リドカインゼリー)
□ 喀痰吸引システム。
□ チューブ固定専用テープと蛇管立て。
□ 乾ガーゼ。
□ 麻酔導入と十分な麻酔モニタリング(SpO2とカプノグラフィを含む)

【A】ダブルルーメンチューブの選択と挿入
 ダブルルーメンチューブは一般に左主気管支挿入用チューブを選択する。適切な位置に固定する技術が必要である。ダブルルーメンチューブとして,よく選択されるマリンクロット社の商品は,2006年の段階で第3世代となっており,1990年レベルの第1世代,1995年レベルの第2世代とは異なる。このために,適切な片肺チューブ固定位置が変化していることに注意する。

ダブルルーメンチューブの選択について

1)第1選択は左主気管支挿入用チューブ
左主気管支挿入用チューブを第1選択とするのがよい。左主気管支のスリーブ切除などで左気管チューブが術野の邪魔となる場合に右主気管支挿入用チューブを用いることがあるが稀である。

2)右主気管支挿入用チューブを用いる場合の注意
右主気管支挿入用チューブを用いる場合,気管分岐部からどれぐらいの距離で右上葉気管支が分岐するかを胸部単純X線像と胸部CT像で確認するとよい。この距離が1 cm以上なければ,右主気管支挿入用チューブの適切な留置が期待できない。

3) チューブサイズ
ダブルルーメンチューブは外径が41 Fr,39 Fr,37 Fr,35 Fr,32 Fr,28 Fr,26 Frの7種類があり,28 Frと26 Frは左主気管支挿入用のみで右用がない。成人男性には一般に39~37 Fr,成人女性には37~32 Frを選択し,太いサイズとすることで換気や気管支鏡検査が行いやすい。12~15歳レベルの小児には32 Fr,10~12歳は28 Fr,8-10歳は26 Frを目安としダブルルーメンチューブを選択するが,25 kg以下の10歳以下の小児や乳児に対してはユニベントチューブ®やブロッカーを用いた分離肺換気を考慮するとよい。

左主気管支挿入用ダブルルーメンチューブの挿入
常にパルスオキシメータの音を聞きながら処置を行う。

1)チューブ先端は挿入気管支方向に曲がっている
ダブルルーメンチューブの先端は挿入気管支方向に曲がっているため,チューブ先端が声門部を通過した際には,左主気管支挿入用チューブであれば,反時計回りに90度回転させてから気管内にチューブを進める(図3参照)。

2)スタイレット抜去に対する注意
スタイレットはチューブ先端が声門部に位置した際に介助者に抜去してもらう。気管挿管者はtracheal cuff(白カフ)が声門を通過するまで声門に外力が加わらないように観察を続けることが大切であり,目をそらしてはいけない。スタイレットを抜去してもらう際に外力が加わらないようにするためには,スタイレットに専用の潤滑剤やリドカインゼリーを塗布し,摩擦力が軽減されていることをあらかじめ確認しておく。
⇒ スタイレットを挿入したままチューブを気管内に進めれば,声門損傷,披裂軟骨脱臼,気管裂傷などを起こす可能性がある。

3)チューブの固定
チューブの最終固定は気管支鏡下に行う。しかし,側臥位で行う肺切除術の場合,正確にチューブ固定しても,その位置がずれてしまうことが多い。左右すべての肺野の呼吸音が正常に聴診できれば,チューブの簡易固定を行い,側臥位変換を行ってから正確な固定を施すほうが手術開始までの時間を十分に短縮できる。しかし,上葉の呼吸音が弱い場合は,気管支鏡でチューブ先端が主気管支の左右どちらかに深く陥入している可能性があり,チューブの適切な位置を気管支鏡で必ず評価する。気道内分泌物がある場合は放置せずに,十分に吸引する。気管挿管後はエアリークの無いようにtracheal lumenの白カフを適切に膨らませるが,bronchial lumenの先端カフ(青カフ)は分離肺換気を行うまでは脱気しておく。
⇒ チューブ先端の青カフは脱気しておく。
⇒ 肺野の聴診を重視する。
⇒ 気管挿管後はカプノグラフィで呼気波型を評価する。
⇒ 体位が固定されないまでは,酸素濃度を上げておく。

左主気管支挿入用ダブルルーメンチューブの最終固定
 チューブの最終固定は気管支鏡を用いて純酸素下で直視下に行う。口腔内分泌物を吸引した後に,2つのカフが脱気されていることを確認し操作にあたる。

1)Tracheal lumenの先端孔(白ライン)からの観察
チューブ固定のための気管支鏡操作は白ラインからの観察が基本である。チューブ先端が気管内にある場合,通常はそのまま進行させれば先端が左主気管支に陥入する(図4A参照)。気管分岐部が観察されず,気管壁に気管支鏡が接した状態で気管内がよく観察できない場合は,チューブ挿入が深すぎる場合であり,1.5 cmずつチューブを引き戻し(図4B参照),tracheal lumenを適切な位置に設置した時点で止める。先端部の青カフを1~2 mLで膨らまし,気管分岐部に青カフが見え隠れするぐらいの位置でチューブを固定することが,第2世代までのマリンクロット社チューブで推奨されていた(図5参照)。しかし,現在の第3世代マリンクロット社ダブルルーメンチューブは,青カフが見えなくなるまで挿入するのが良い。気管支側ルーメンから見て,分岐部が約1.5 cmレベルで見える位置が,おおよその適正な固定位置である。第3世代マリンクロット社ダブルルーメンチューブでは,青カフ後端と気管支ルーメン間の距離が短縮していることに注意する。初めて使用する初心者は,不潔にならないように注意が必要であるが,ダブルルーメンチューブの先端,青カフ先端,青カフ後端,白カフ先端,白カフ長,白カフ後端度の各パート間距離を測定し,記憶するように努めると良い。

2)Bronchial lumenの先端孔(青ライン)からの観察
 チューブがどうしても望む方向に進まない場合,気管支鏡をbronchial lumenに挿入し,チューブ先端を左主気管支に陥入させる。
⇒ 手術開始までの待ち時間には気管支鏡ですべての気管支の状態を評価しておく。

注釈:右主気管支挿入用ダブルルーメンチューブの挿入

 チューブサイズの選択や挿入手順は,左主気管支挿入用チューブとほぼ同様である。注意点は,図6のように気管支鏡を介して bronchial lumenのventilation slotから右上幹を確認することである。この確認ができない場合でも右上葉の呼吸音が聴取されることがあるが,右側臥位で手術が長時間におよぶ際には,右上葉の無気肺に移行しやすいので,ventilation slotと右上幹を合わせるように工夫する。

ダブルルーメンチューブを用いた分離肺換気の実際
 分離肺換気に際しては,先端の青カフを1~2 mLで膨らます。鉗子を用いたクランプは接続コネクター部位で行い,閉塞側のコネクターをチューブからはずすことで,脱気が行われる(図7参照)。開胸前に脱気されていることを評価する際には,無換気側のチューブ口にカプノメータを接続することで,呼吸音を聴取する代わりに換気遮断ができているかどうかを知ることができる。

【B】ユニベントチューブ
 ユニベントチューブ(Fuji Systems Corp)はノーマルチューブの気管挿管に準じて,気管挿入する。気管挿管後は図8のようにチューブ内に気管支鏡を挿入し,気管支鏡で直視下にbronchial blocker(BB)を主気管支に挿入する。BBカフを膨らませることにより,挿入側を無換気とすることができるが,気管の石灰化やリンパなどによる圧迫により気管支を閉塞できないことがある。
⇒ BBによる気道裂傷を防ぐためは気管支鏡下に適切なカフ空気量を評価しておくのがよい。カフ内圧を過度に上げることにより気管支裂傷を合併する危険がある。

<小児分離肺換気におけるユニベントチューブ>
 6~10歳レベルの25kg以下の小児の分離肺換気には内径3.5 mmか内径4.5 mmのユニベントチューブを用いることができる。

【C】Bronchial blockerとしてのForgarty®カテーテル
 血栓除去カテーテルとして知られているForgarty®カテーテルを用いて,分離肺換気を行うことができる。乳児や小児の場合は5 FrのForgarty®カテーテルを用いるが,低酸素と声門下の腫脹に留意しなければならないため,挿入する気管チューブの内径を一つ下げた細いものとするとよい。小児の場合は先に気管挿管し,換気を整えてから,再度,喉頭展開し気管チューブに平行してForgarty®カテーテルを挿入したほうが安全である。
⇒ Forgarty®カテーテルが声門を通過しにくい場合は内径がワンサイズ低いものに気管挿管チューブを入れ替える。無理に挿入してはいけない。

 

【D】COOK社のAmdtブロッカー

 小児では5Fr,一般に5Fr ,7Fr,9Frを用意しておくと良い。片肺挿管として,Amdtブロッカーを挿入してから,チューブのみを引き抜いてくることができる。固定は最終的に,2股のコネクションを用意する必要がある。



【その他】

ミニ知識 ダブルルーメンチューブの固定技


 歯がない患者の場合はチューブの位置がずれやすい。このため,両側の頬と歯肉の間域にガーゼを1枚ずつ球形に丸めて挿入するとダブルルーメンチューブの固定が安定する。さらに,側臥位になる場合は,口腔内に1~2枚の乾いたガーゼを挿入し,そのガーゼの先端を口腔外に出しておくことで,唾液をゼリー状にできるため,口腔内分泌物に邪魔をされず,チューブ固定やチューブ位置変更の際のスピードアップができる。チューブ位置を定めた正式な固定としない場合は,太目のテープで簡易固定とすると,側臥位となった後の正式な固定が行いやすい(図10参照)。側臥位になった際にチューブ固定位置が上方になるように,左側臥位の場合は右口角固定,右側臥位の場合は左口角固定としている。


ミニ知識 気管の炎症性浮腫とコブラヘッド

 食道腫瘍手術後などの全身性炎症の強い時期には血管透過性亢進のために気道浮腫が強い場合がある。再手術に際して気管支鏡で気管内を観察すると,毒蛇コブラのように膜様部がチューブ先端に覆いふさがるように膨隆し,気管分岐部を気管支鏡で確認しづらい。用手換気で吸気保持することにより,主気管支が観察しやすくなる。人工呼吸下では,一時的にPEEPを10 cmH2Oレベルで併用し,換気量を下げるか中断することで,気管支レベルの観察が容易となる。ダブルルーメンチューブの適切な位置決定が行いにくいばかりでなく,自発呼吸出現により膜様部肥厚が増強しチューブ閉塞が生じる可能性があるので,慎重に対応されたい。


ミニ知識 気管分岐の先天的変異と無気肺

 左下葉切除を予定されていた症例に左主気管支挿入用ダブルルーメンチューブを挿入後,チューブが適切な位置にあるにもかかわらず,右上葉の換気が障害された経験がある。この症例では右上葉支が気管分岐部の約3 cmの声門側寄りに位置していた。ユニベントチューブに入れ替えを行い,チューブを浅く固定することで右上葉の換気を得ることができ,分離肺換気も施行できた。転移性気管支分岐異常の約70 %は右上葉に関連するとされている。



図の表題と解説


図1 成人の気管と主気管支
右上幹は気管分岐部より1~2 cmで分岐する。左主気管支は3~5 cmと右に比べて長い。気管支の分岐角度は3歳頃までは左右に差がなく55°レベルだが,成人では右が25°と左に比べて急峻となる。


図2 気管分岐部
 気管分岐部はかまぼこのように見える。


図3 ダブルルーメンチューブの形状と挿入法

左主気管支挿入用ダブルルーメンチューブを上方から観察した図である。ダブルルーメンチューブには2つの弯曲があり,bronchial lumenの先端は主気管支に陥入しやすいように適切に弯曲している。A:挿入時は左側に位置するbronchial lumenが上方になる。B:左主気管支挿入用ダブルルーメンチューブの気管挿管では,bronchial lumenが声門に位置した時点でスタイレットを抜去し,チューブを進める。チューブを反時計周りに90°回転させることで図Bのようになり,bronchial lumenが左主気管支に陥入できる。右主気管支挿入用であれば時計回りに90°回転させてチューブを進行させることになる。



図4 ダブルルーメンチューブの挿入位置の決定
 ダブルルーメンチューブの挿入位置をすばやく決定するためには,tracheal lumenの側孔(白ライン)からの観察が原則である。Aは気管へのチューブ挿入が浅い場合,Bは深すぎる場合である。


図5 ダブルルーメンチューブの適切な位置
青カフが見え隠れするぐらいの位置でチューブを固定する。


図6 右主気管支挿入用ダブルルーメンチューブ
 Bronchial lumenのventilation slotから右上幹を確認する。右上葉の換気に難渋するために,まず,使用しない。


図7 カプノグラムを用いた肺虚脱の確認
 図ではチューブコネクターの左換気用側を鉗子でクランプし,左肺を虚脱させる設定とした。左肺が換気されないことを確認するためには,左胸部の聴診のほかに,14Fr以上の吸引用カテーテルの尾側にカプノメータのサンプリングチューブを接続し,カプノグラフィから呼気ガスの有無を知る方法がある。


図8 ユニベントチューブとbronchial blocker
 ユニベントチューブを気管挿管した後は,気管支鏡下でbronchial blocker(BB)を主気管支に留置する。BBのカフを膨らませることで,分離肺換気が可能となる。


図9 Bronchial blockerとしてのForgarty®カテーテルの応用 
 救急外来で対応する喀血において,大動脈瘤と左気管支,肺動脈と左気管支などの際には,右片肺挿管で左へのForgarty®カテーテルという緊急対応がある。また,腺癌などからの出血に対して,救急外来で気管挿管プラス出血部のForgarty®カテーテルで対応した経験がある。長期的予後は厳しいが,緊急対応におけるバイタルサイン安定化の一工夫となる。もちろん,慣れた看護体制があれば,救急外来といえども分離換気で対応することもできる。


図10 チューブの簡易固定
 側臥位に体位変換される場合の仰臥位状態でのダブルルーメンチューブの簡易固定を図に示した。側臥位となる場合には,上になる方の口角にテープ固定をすると,最終的な位置固定合わせをしやすい。ガッツと両側から止める先生もいるが,僕は上となる口側に固定する方法を得意としている。重症肺挫傷などにおける仰臥位や側臥位をローテーションさせるICU管理では,2000年頃は両側からの固定としていたが,専用の固定器具を使う場合が多い。A:用いるテープは太いものとし,図Aのように中央線上に切開を加える。①をチューブ下端にあわせ➂方向にチューブを巻く。次に,④をチューブ下端にあわせ➅までチューブを巻く。⑦を頬部に張り,その上をさらにテープで補強する。図は左側臥位におけるチューブ固定の例である。この固定では側臥位でチューブが上方に位置するため,次の正式な固定を行いやすい。


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