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研修医教育 骨盤骨折の合併 骨盤固定に対する対応について

2009年09月23日 21時35分22秒 | 救急医療

研修医教育 骨盤骨折に対しての骨盤固定

 

名古屋大学大学院医学系研究科

救急・集中治療医学分野

松田直之

 

骨盤骨折

 骨盤骨折は,側方からのLateral Compression(LC),前方からのAP Compression(AP)/(Open Bookタイプ:OB),垂直方向のVertical Shear(VS)の3型に単純X線写真から分類しています。外傷の加わった方向から名前を付けられます。LCは側面からの衝突,APは正面からの衝突,VSは上下方向からの衝撃として認識します。しかし,単純X線写真からLC,AP,VSを正確に判断することは難しいです。現在は,CT像での評価を組み合わせて,AO/OTAの分類が用いられます。この分類は,骨盤輪の前方・後方の安定性に評価としてType A,Type B,Type Cに分けています。 Type Aは骨盤輪安定,Type Bは前方の破綻があるけれども後方の靭帯結合は維持,Type Cは前方だけではなく後方も不安定な骨盤骨折です。シーツラッピング,そしてPelvic Sling Ⅱ・サムスリングⅡの使用方法は知っておきましょう。


骨盤と下肢のシーツラッピング

手順

1.シーツを骨盤の下に敷く

2.シーツを骨盤前方でクロスする

3.シーツを180度くるりと回す

4.鉗子で左右を止める

5.シーツを両膝の下に敷く

6.両下肢を内転させる

7.シーツを両膝前方でクロスする

8.シーツを180度くるりと回す

9.鉗子で左右を止める

 

Pelvic Sling Ⅱ・サムスリングⅡの利用

Pelvic Sling Ⅱ(アコードインターナショナル),サムスリング(トーハツ株)を用いて,骨盤固定を簡単にできます。

  

手順

1.  大転子の位置の確認

2.  サムスリングを下に敷く

3.サムスリングを左右から締める

4.  マジックテープに押し付けて止める。

以下を参考としましょう。

追記:2016年11月13日

 

PTLS (Primary-care Trauma Life Support)

骨盤骨折合併外傷シナリオ

 

OSCE 家屋の下敷きから救出された

背景:震災後によるJMATとして,被災地の中学校に特設された救護所に到着した。消防団が,家屋の下敷きになった傷病者を運んできた。災害時身体所見のとり方と,消防団からの受傷機転の報告などを聞くタイミングを評価する。酸素投与や静脈路確保など行なう処置に対しては,シナリオ実行者が口に出し言わなかぎり,実行したという評価としない。10分シナリオである。

消防団長より通報あり

40歳代男性。倒壊した家屋により,両側下腿を挟まれて受傷した。約1日後の救出である。片言の言葉を発するが,声量は微弱で,顔面蒼白,バイタルサインは不確定であり,皮膚は極めて冷たい。同じ質問を繰り返している。頭部,骨盤および両側下腿に痛みがあり,歩行できない。これから,救護所に連れていく。

 

骨盤骨折:救護所バージョンのシナリオ

トリアージタグの確認:赤

A(気道)の確認

B(呼吸)の確認:酸素投与

C(循環)の確認:COLD Tachycardiaのシナリオ

 皮膚所見の確認,網状皮斑,静脈路確保,外出血の確認,FAST(両胸部を含める),腹部触診(腹膜刺激症状の有無に特化),骨盤用手診察,両側大腿診察,輸液に反応のない場合に気管挿管を考慮する。

D(中枢神経障害)の確認:Dysfunction of Central Nervous Systemの評価。GCS評価を残すことができるか。気管挿管のタイミングの評価。

E(体温)の確認

 

模擬患者役への演技指導

 

頚椎カラーを装着されての搬入・全脊椎固定はされていない設定

前頭部と両下腿に持続性の静脈性出血あり

前頭部が打撲血腫および挫傷あり

A 気道:声を弱く出すこと。同じことばかり,タイミングを見て聞くこと(イヌの太郎はどこですか?など)。

B 呼吸:時折咳き込む。頻呼吸などは無理のないところで演技。

C 循環:皮膚に網状皮斑のメーク。顔面蒼白メーク。下腿に水疱と発赤のメーク。

D 意識:呼びかけで開眼する。20秒異常続けて開眼していないこと。名前を答えるが,日時は言えない。他の質問については,「イヌの太郎はどこですか?」を繰り返す。

E  体温:時折ブルブルブルと身震いをする。

その他:骨盤を非常にいたがる。下腿は動かさず,膝を曲げることができない。

病名としてのイメージ:①重症骨盤骨折(OB),②前頭部挫傷,③両下肢クラッシュ症候群

 

OSCE 骨盤骨折シナリオのチェック項目

 

収容前準備

□ 感染対策をしたかどうか

□ モニター,US,などの備品を準備したかどうか

□ スタッフ招集を行ったかどうか

 

Primary Surveyができているかどうかのチェック

※ 傷病者の生理学的安定のための診断と治療

 

Primary Survey Step 1


□ Quick Survey 15秒以内

□ 話しかけながら呼吸と意識の確認ができているかどうか

□ 脱衣しつつ胸郭お動きを観察しているか

□ 皮膚と脈の触知をしているかどうか

□ 外出血の有無をチェックしているかどうか

 

Primary Survey STEP 2


A:気道

□ 気道確認:見て,聞いて,感じての3つを実践しているかどうか

□ SpO2の確認:SpO2 93%(R/A)

□ 酸素投与の必要性:ここでは10 L/分リザーバ付き酸素マスクでの酸素投与とする

□ 気管挿管に必要について言及できるかどうか

□ 頚椎固定の継続の評価を行ったかどうか

 

B:呼吸

視診・触診・聴診の3つを駆使しているかどうか

□ 頚胸部の視診:損傷の有無,気管の変異,頸静脈怒張の有無の評価

□ 胸部の聴診

□ 頚部と胸部の触診:

  ◯ 気管の変異の有無を伝えたか

  ◯ 皮下気腫の有無を伝えたか

□ 呼吸数をチェックしたかどうか:呼吸数 38回/分の設定

□ SpO2:SpO2をチェックしたかどうか SpO2の確認:SpO2 100%(FIO2 100%)

 

C:循環

□ ショック症状の有無を伝えたかどうか

□ 外出血についてガーゼを当てて圧迫止血をするように伝えたかどうか(前頭部)

□ 頸静脈怒張に対する評価

□ 血圧と脈拍数のチェック:血圧 70/40 mmHg,心拍数 140回/分の設定

□ 持続心電図モニタリングの指示出

□ 輸液確保:2本とするかどうか

□ 輸液速度:全開とするかどうか

□ 輸液:加温しているかどうかの確認をしたかどうか

□ FASTの施行:今回は胸部を含める設定

□ 骨盤触診:これまでに触診されておらず,骨盤同様の確認ができていない設定,骨盤動揺あり

□ シーツラッピング:施行したかどうか

※ 血圧がさらに下がっていることを伝える

□ 重症なショックとして気管挿管をするかどうか

 

D:中枢神経

□ GCSの評価:切迫するDがあるかどうかの評価,GCS E3V4M6(13)としての設定

□ 瞳孔径・対応反射の確認

 

E:脱衣と体温のチェック

□ 脱衣を完了:被覆しているかどうかの確認

□ 体温チェック:体温 34.2℃

□ 体温管理:加温の指示を出すかどうか

PS STEP3 Primary Surveyの総括

 

Secondary Survey

できているかどうかのチェック

身体所見を中心とした傷病部位の同定

 

Secondary Survey STEP1 AMPLEの確認

□ AMPLEの聴取:家族や搬送者からの情報入手

 A(アレルギーの有無),M(薬物の服用歴),P(既往歴),L(最後の食事内容),E(受傷の内容)

 

Secondary Survey STEP2 切迫するDでの頭部CT評価

全身の詳細評価

 

頭・顔面

□ 視診と触診:頭部と顔面の視診と触診ができているかどうか

□ バトル兆候の確認

□ 耳漏の確認

□ 鼻漏の確認

 

頚部

□ 視診と触診:皮下気腫,頚静脈,気管偏位など,頚部の視診と触診が再びできているかどうか

 

頚椎・頸髄

□ 触診:頚部の触診(棘突起含む)ができているかどうか

□ 神経学的異常の評価

 

胸部

□ 12誘導心電図の評価

□ PAFBED2Xの評価

Pulmonary contusion, Aortic rupture, Tracheobronchial rupture, Blunt cardiac contusion, Esophageal rupture, Diaphragmatic rupture, Pneumothorax, Hemothorax

 

腹部

□ FAST再検

□ 胃管挿入:適応か禁忌かの評価,本シナリオでは頭蓋底骨折なし

 

骨盤

□ 直腸診:以下4つを口に出して言えるかどうか

  ◯ 前立腺高位浮上

  ◯ 肛門括約筋機能

  ◯ 出血の有無

  ◯ 骨盤骨折触知の有無

□ 会陰部:以下の2つの確認と膀胱バルーンカテーテル挿入の指示の有無

  ◯ 外尿道口の出血

  ◯ 会陰の皮下出血

□ LOG LIFTの施行:本シナリオでは,骨盤骨折としてLOG ROLLを禁忌とする

 

四肢

□ 下腿骨折の有無の触診:本シナリオでは骨折はないとして対応 

□ 四肢の運動の評価

□ 四肢の知覚の評価

□ 神経学的評価:骨折がある場合は骨折末梢の神経と血管(脈)の評価

神経学的観察

□ 深部腱反射

感染症対策

□ 破傷風トキソイド

□ テタノブリン(Clostridium Tetani)に対する免疫グロブリン)

※ FIXES:Finger and tubes into every orifice,IV/IM(抗生物質,破傷風トキソイド), X 線評価,エコー評価,ECG,Splint

 

Secondary Survey STEP3 Secondary Surveyの総括

 

受講生の最終評価:4段階評価

□ Excellent

□ Good

□ Fair

□ Poor

 

診療上に骨盤骨折が搬入されてきたときの一つのシナリオです。

成人教育として,内容を個々人にフィードバックします。

(愛知県医師会JMAT PTLSコースより)

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