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HP「救急一直線〜Happy保存の法則〜」は,2002年に開始され,現在はブログとして継続されています。

2009年 ASPEN/SCCMの急性期栄養ガイドラインの概要 早期経腸栄養

2010年03月07日 02時56分10秒 | 講義録・講演記録 3
2009年 ASPEN/SCCMの急性期栄養ガイドラインの紹介

名古屋大学大学院医学系研究科 救急・集中治療医学分野
教授 松田直之

 外科手術後の早期経腸栄養の有用性に関する最新のmeta-analysisでは,外科手術後24時間以内に経腸栄養(経口栄養)を開始した群と古典的な絶食群とを比較した13のRCTの1,173例を検討した結果,早期経腸栄養群で死亡率が有意に低く,有意差にはないものの,肺炎,SSI,腹腔内膿瘍,縫合不全,在院日数が早期経腸栄養群で少ないという結果となっている。早期経腸栄養は,肌のつやを改善し,ムチン性汗からは炎症性サイトカインを対外放出し,さらに副交感神経活性化よりニコチン受容体を介して免疫維持に働き,さらに外科吻合部等の組織回復に骨髄由来多能性幹細胞を招聘する可能性をもち,良いことばかりでやみつきになる治療のはずである。しかし,成功するすべを知らないものも多い。1日,2日と経腸栄養を遅らせることで,外科領域の多くの患者を救命できないでいる可能性がある。
 外科領域では,開腹術後には腸管麻痺が生じ,経腸栄養を行うのは好ましくないとか,消化管吻合があれば吻合部の安静を保つのが重要で吻合部を食物が通ると縫合不全の危険性が増すなどという古くからの外科的慣習により,開腹手術後の早期経腸栄養は未だに浸透していない。Rothnieのデータ(Lancet 1963, 2:64-67)では,開腹手術後の腸管蠕動回復に要す時間は小腸で6~12時間,胃で12~24時間,大腸で48~120時間である。炎症の程度が高まる前に経腸栄養を開始することで,こ腸管蠕動回復時間が短縮されるのは,腸蠕動が消化管における炎症性サイトカインの産生を抑制するからである。腸管麻痺の観点からは,小腸内であればほぼ手術当日から,胃内であっても術後24時間以降に流動食が入っても問題がない。
 また,消化管吻合がある場合に,早期経腸栄養を行って吻合部を栄養剤が通ったからといって縫合不全が増えるというエビデンスは見つけられない。一方,Tadanoら(J Surg Res 2010.)の動物実験では,消化管吻合部の創傷治癒プロセスを促進するためには,絶飲食は消化管治癒に望ましくなく,吻合部治癒を妨げる。血流の多いところに多能性幹細胞が応援に来るにくることからも自明である。さらに,この研究では,早期経腸栄養で機械的な荷重が加わることで,消化管吻合部の創傷治癒が促進すると結論している。古くは,Khaliliら(Am J Surg 2001;182:621-624)の動物実験も,早期の栄養が吻合部の耐圧強度を大きくすると報告している。
 一方,Lewis SJらの臨床研究のメタ解析(J Gastrointest Surg 2009;13:569-575.)では,外科手術後24時間以内に経腸栄養を開始した群を古典的な絶食群とを比較すると,早期経腸栄養群で有意差はないものの縫合不全発生率は低くなっていることが確認されている。これらの栄養は,吻合部の上流から投与されており,吻合部の上流から,早期経腸栄養を行っても通常は問題になることはないと評価される。
 以上の状況において,何か問題かというと,患者に低タンパク状態と組織脆弱性を進行させないことである。そして,細胞膜を維持するための必要不可欠なリン脂質をどのように維持するかである。このような中で,創傷治癒に関与する亜鉛(ココア)などの微量元素と,ビタミンの補充が不可欠に注意する。早期経腸栄養は,患者さん自身のホメヲスタシスに合わせた原始的な栄養法であり,経腸栄養の成功なきところに「生」はない。ならば,はじめから経腸栄養をという観点が,私自身が推奨する「早期経腸栄養」の展開である。集中治療と対峙している専門医は,おそらくは私のような経腸栄養推進派であろう。2009年に発表されたASPEN/SCCMの急性期栄養ガイドラインを紹介する。


紹介文献
■ McClave SA, Martindale RG, Vanek VW, et al : Guidelines for the Provision and Assessment of Nutrition Support Therapy in the Adult Critically Ill Patient: Society of Critical Care Medicine (SCCM) and American Society for Parenteral and Enteral Nutrition (A.S.P.E.N.). J Parenter Enteral Nutr 33:277-316, 2009.
■ Martindale RG, McClave SA, Vanek VW, et al : Guidelines for the provision and assessment of nutrition support therapy in the adult critically ill patient: Society of Critical Care Medicine and American Society for Parenteral and Enteral Nutrition: Executive Summary. Crit Care Med 37:1757-61, 2009.


はじめに
 2009年に発表されたASPEN/SCCMの急性期栄養ガイドラインは,重症症例の栄養管理に関するエビデンスに基づくガイドラインである。集中治療室(ICU)滞在日数が2-3日以上と予測される内因性および外因性成人重症患者を対象としており,一時的な管理を目的とした術後回復室としてのICU入室などの軽症患者は対象としていない。また,重症患者の栄養療法にかかわる全ての医療者を対象としており,医師をはじめコ・メディカルに向けた内容となっている。A-Lの計12項目,および49の推奨項目が記載され,項目ごとに推奨グレードが付記されている。エビデンス レベルIを保証する大規模研究は,100症例以上,あるいはpower analysisで事前に決定されたエンドポイントを満たすものと定義され,非ランダム化比較試験のエビデンス レベルは,同時対照試験(レベル),過去症例比較試験(レベル),専門家意見と同等の非コントロール試験(レベル)を含むかどうかにより決定されている。このようにして,それぞれの文献の質が評価され,エビデンス レベルがガイドラインに付記されている。推奨グレードは,個々の研究のエビデンス レベルに基づいて決定されている。推奨グレードAは少なくとも2つ以上の大規模陽性ランダム化試験(レベルI),Bは1つの大規模陽性ランダム化試験,グレードCは少なくとも1つ以上の小規模ランダム化試験(レベル)に基づいて決定されている。本ガイドラインでは,経静脈栄養の開始について,経腸栄養がうまくいかない場合として経腸栄養開始7日以降を推奨していることが特徴である。以下を,参考とされたい。


A. 経腸栄養の開始

A1. 集中治療においては,従来の栄養評価法(アルブミン,プレアルブミン,身体計測)は正確ではない。これは,急性相反応により影響を受けるためである。栄養を開始する直前評価には,体重減少の評価,入院前の栄養摂取,疾患の重症度,合併症,消化管の機能等を含むべきである。(Grade E)
A2. 随意摂取の維持できない重症患者においても,経腸栄養が開始されるべきである。(Grade C) 
A3. 経腸栄養法は経静脈栄養法よりも好ましい投与経路である。(Grade B)
A4. 経腸栄養法は,入院後24~48時間以内の早期に開始されるべきである。(Grade C) そして次の48~72時間にかけ,目標に向かって進められるべきである。(Grade E)
A5. 血行動態が不安定な状態(高容量のカテコラミン投与および高容量の輸液など)では,血行動態の安定化まで,経腸栄養は差し控えるべきである。(Grade E)
A6. ICU患者における経腸栄養の開始に際し,腸蠕動音や腸内ガス・便の通過の有無の確認は,不必要である。(Grade B)
A7. ICUでは,経胃栄養あるいは経小腸栄養が好ましい。重症患者では,誤嚥の危険性が高い場合や,経胃栄養が困難であった場合には,小腸に留置された経腸チューブを用いて栄養されるべきである。(Grade C) 胃内残量が多いことを繰り返すために経腸栄養法を中断せざるを得ないだけでも,経小腸栄養に切り替える十分な論拠となる。(Grade E)

B. 経静脈栄養の開始

B1. ICU入室後7日間に渡り,早期経腸栄養法が適さないあるいは開始できない場合は,低栄養を放置すべきではない。(Grade C) ICU入室7日までに経腸栄養が不十分である場合に,7日以降の低栄養に備えて経静脈栄養が開始されるべきである。 (Grade E)
B2. 入院時に蛋白とエネルギーの欠乏を認めた場合には,経腸栄養法が実現不可能であれば,経静脈栄養法をできる限り早期に開始することが適切である。(Grade C)
B3. 上部消化管手術施行予定患者で経腸栄養法が行いにくい場合には,以下の特殊な状況下で,経静脈栄養法が行われるべきである。

栄養失調状態にある場合,経静脈栄養法を術前5~7日前より開始し,術後にかけ継続すべきである。(Grade B)
経静脈栄養法は術直後に開始すべきではなく,経腸栄養法が行えない状態が続く場合に,術後5~7日以降より開始されるべきである。 (Grade B)
術後5~7日間以内の経静脈栄養法は予後の改善が期待できず,感染症などのリスクが増加するかもしれない。経静脈栄養法は,7日間以上の治療期間が見込まれる際にのみ,開始されるべきである。(Grade B)

C. 経腸栄養の投与法

C1. 栄養必要量に従う目標経腸栄養量は,開始時点で明確に決定されるべきである。(Grade C) 栄養必要量は予測式によって算出するか,間接熱量測定により測定する。予測式は間接熱量測定よりも栄養必要量の評価が不正確であるため,予測式は注意して用いられるべきである。肥満患者における予測式は,間接熱量測定を用いなければ,より不正確となる。(Grade E)
C2. 入院第一週目に経腸栄養法の臨床効果を高めるためには,目標カロリーの50~65%以上を投与しようと努めるべきである。(Grade C)
C3. 経腸ルートのみで7~10日後に栄養必要量(目標摂取カロリー100%)を満たすことができない場合には,経静脈栄養による栄養補足を考慮する。(Grade E)  7~10日間経腸栄養法を行う前に経静脈栄養法による補足を開始することは,予後を改善しないどころか,有害となるかもしれない。(Grade C)
C4. 適切な蛋白投与量の時系列評価が重要である。標準的な経腸栄養製剤は糖質や脂肪などで供給される非蛋白熱量 (NPC: non-protein calorie)と蛋白質に含まれる窒素 (N: nitrogen)との比率NPC/Nを高くする傾向にあり,通常,蛋白を追加補足する。BMI (body mass index)が30未満の患者では,蛋白必要量は実体重に応じて1.2~2.0 g/kg/日を必要とし,熱傷や多発外傷患者ではさらに高くなるであろう。(Grade E)
C5. 肥満の重症患者では,経腸栄養法を用いた低栄養療法が推奨される。BMIが30をこえる肥満患者では,経腸栄養の目標は目標栄養必要量の60~70%,あるいは実体重に対して11~14 kcal/kg/日,あるいは理想体重に応じ22~25 kcal/kg/日を超えるべきではない。蛋白は,BMI 30~40のクラス�・�患者に対しては理想体重で2.0 g/kg/日以上,BMI 40以上のclass�患者に対しては理想体重で2.5g/kg/日以上に,投与されるべきである。(Grade D)

D. 経腸栄養適正化のモニタリング

D1. ICUにおける経腸栄養の開始にあたり,消化管運動(臨床上の腸閉塞の回復)の確認は,必ずしも必要ではない。(Grade E)
D2. 経腸栄養耐性(患者の腹痛や腹満の訴え,身体所見,腸内ガスや便の滞留,腹部X線像所見)は,監視されるべきである。(Grade E) 不適切な経腸栄養の中断は避けるべきである。(Grade E) 胃内残量が500 mL未満で,耐性兆候がなければ,経腸栄養を中断するべきではない。(Grade B) 診断目的の検査や処置のために患者を絶食にすることは,栄養素の不適切な供給や腸閉塞の長期化を防ぐために,最小限にとどめるべきである。腸閉塞は絶食により増悪するかもしれない。(Grade C)
D3. 経腸栄養プロトコールは,目標栄養量を達成させるために,施行されるべきである。(Grade C)
D4. 経腸栄養を施行されている患者では,誤嚥の危険を評価するべきである。(Grade E) また,誤嚥の危険性を減らすための手段を考慮すべきである。(Grade E) 誤嚥の危険性を減らすために以下の手段がある。
経腸栄養中のすべてのICU挿管患者において,ベッドの頭側を30~45°挙上するべきである。(Grade C)
誤嚥の高危険患者あるいは経胃栄養に耐えられない患者に対して,経腸栄養は持続輸液に切り替えられるべきである。(Grade D)
腸管運動促進薬(メトクロプラミドやエリスロマイシン)や麻薬拮抗薬(ナロキソン等)のような,消化管運動を促進させる薬剤を併用すべきである。(Grade C)
幽門より肛門側へチューブを留置することにより,経腸栄養注入量を再評価すべきである。(Grade C)
人工呼吸器関連肺炎の危険性を減少させるために,クロルヘキシジンによる口腔内洗浄を2回/日行うことを考慮すべきである。(Grade C)
D5. 誤嚥のマーカーとして,経腸栄養剤の青色着色やグルコースオキシダーゼ法は,重症患者管理において使用するべきではない。(Grade E)
D6. 経腸栄養に関連した下痢の増悪は,その原因の精査を必要とする。(Grade E)

E. 適切な経腸栄養剤の選択

E1. 免疫調節経腸栄養剤(アルギニン,グルタミン,核酸,ω-3脂肪酸,抗酸化物質)は,適切な患者群(定時の大手術,外傷,熱傷,頭頸部癌,人工呼吸を要する重症患者)において,重症敗血症に注意しながら使用されなければならない。(重症敗血症ではアルギニンによりNO産生が高まる可能性がある) (外科系ICU患者に対してGrade A),(内科系ICU患者に対してGrade B) 免疫調節製剤の適応を満たさないICU患者群では,標準的な経腸栄養製剤を投与すべきである。(Grade B)
E2. ARDS (acute respiratory distress syndrome)や重症急性肺傷害の患者では,抗炎症脂質(ω-3魚油,サラダオイル等)や抗酸化物を含有する経腸栄養剤を投与すべきである。(Grade A)
E3. 免疫調節製剤から最適な治療効果を得るには,少なくとも必要栄養量の50~65%が投与されるべきである。(Grade C)
E4. 下痢を認める場合には,可溶性繊維や小ペプチド含有製剤を使用してもよい。(Grade E)

F. 補助療法

F1. プロバイオティクス製剤の投与は,移植,腹部大手術,重症外傷のような重症患者群において,感染を減少させることにより,予後を改善することが示されている。(Grade C) しかし,現在,一般的ICU患者群では,予後改善効果が一貫しないため,プロバイオティクスを使用することは推奨されない。プロバイオティクス製剤の種類により効果が異なり,広く断言的にプロバイオティクス製剤の推奨を行うことは困難である。現在,同様に重症急性壊死性膵炎患者に対するプロバイオティクスの使用は,文献エビデンスの相違と細菌株の不均質性に基づき,推奨されない。
F2. 抗酸化ビタミンと微量ミネラルの組み合わせ(特にセレン)は,特殊栄養療法を受けている重症患者全てに投与されるべきである。(Grade B)
F3. 熱傷,外傷や混合ICU患者において,グルタミンが含まれていない経腸栄養製剤には,グルタミンを加えることを考慮すべきである。(Grade B)
F4. 経腸栄養を受け下痢が増悪している血行動態が安定した重症患者に対しては,可溶性繊維が有益かもしれない。不溶性繊維は,全ての重症患者において,避けるべきである。腸管虚血や腸蠕動異常の危険性が高い患者に対しては,可溶性繊維や不溶性繊維は避けるべきである。(Grade C)

G. 経静脈栄養の適応

G1. 経腸栄養がうまくできない場合,経静脈栄養の必要性を評価すべきである。(Grade C) 経静脈栄養が必要と評価される場合,量,内容,モニター,補助的添加物の選択を考慮し,効果を最大に高めるように進めるべきである。(Grade C)
G2. 経静脈栄養を受けている全てのICU患者において,少なくとも初期には,許容範囲内の低栄養療法が考慮されるべきである。いったん栄養必要量が決定されると,栄養必要量の80%が最終目標あるいは経静脈栄養の投与量として投与されるべきである。(Grade C) 患者状態の安定により,栄養必要量を満たすために経静脈栄養を増量してもよい。(Grade E) 肥満患者(BMI≧30)に対しては,経静脈栄養は,本ガイドラインC5における経腸栄養での推奨量に従うべきである。(Grade D)
G3.  ICU入室の最初の1週間において,経腸栄養が適さず経静脈栄養が必要な際は,大豆油を含まない経静脈栄養とするべきである。(Grade D)
G4. 栄養支持療法では,血清グルコース濃度を適切にコントロールするべきである。(Grade B) 血清グルコース濃度は110~150 mg/dLが最適かもしれない。(Grade E)
G5. 経静脈栄養を重症患者に用いる際,グルタミンを経静脈的に補足することを考慮すべきである。(Grade C)
G6. 経静脈栄養により安定化した患者において,繰り返し経腸栄養を開始する努力をすべきである。経腸栄養の耐性が改善し,経腸投与されるカロリー量が増加するにつれ,経静脈投与の栄養量を減量すべきである。目標栄養必要量の60%以上が経腸投与されるまでは,経静脈栄養を終了すべきでない。(Grade E)

H. Pulmonary Failure (呼吸不全)

H1.  急性呼吸不全のICU患者において,高脂質低炭水化物製剤をCO2産生減少のために,ルーチンに使用することは推奨されない。(Grade E)
H2. 急性呼吸不全の患者では,水分が制限された高濃度栄養製剤を考慮すべきである。(Grade E)
H3. 血清リン酸塩濃度を厳重にモニターし,必要に応じて適切に補正すべきである。(Grade E)

I. Renal Failure (腎不全)

I1. 急性腎障害を合併したICU患者にも,標準的な経腸栄養製剤を投与すべきであり,標準的なICUの蛋白と栄養量投与に従うべきである。電解質異常を伴う場合には,電解質制限のある腎不全のための特殊製剤を考慮するとよい。(Grade E)
I2. 血液浄化法を受けている患者では,最大2.5 g/kg/日まで蛋白を投与すべきである。腎不全患者において,透析療法の開始を避けるあるいは遅らせる目的で,蛋白投与量を制限すべきではない。(Grade C)

J. Hepatic Failure (肝不全)

J1. 肝硬変および肝不全患者においては,腹水,循環血液量減少,浮腫,門脈圧亢進,低アルブミン血症などの合併症のため,従来の栄養評価法は正確性や信頼性に欠けるので,注意して使用すべきである。(Grade E)
J2. 急性・慢性肝疾患のICU患者において,経腸栄養は栄養療法の好ましい投与経路である。肝不全患者の栄養において,蛋白制限は避けるべきである。(Grade E)
J3. 急性・慢性肝疾患ICU患者では,標準的な経腸栄養製剤を使用すべきである。標準治療に抵抗性である脳症患者に対しては,腸管作用性抗生剤とラクツロースに抵抗性のある場合,分枝鎖アミノ酸製剤(BCAA: balanced chain amino acid formulation)を用いるべきである。(Grade C)

K. Acute Pancreatitis (急性膵炎)

K1. 急性膵炎患者は,入院時に重症度を評価すべきである。(Grade E) 重症急性膵炎では,経鼻腸管チューブを留置し,輸液蘇生が完了するやいなや経腸栄養を開始すべきである。(Grade C)
K2. 軽症~中等症急性膵炎患者は,予期しない合併症が増悪するか,7日以内に経口摂取に進むことができない場合以外には,栄養補助療法を必要としない。 (Grade C)
K3. 重症急性膵炎では,経胃あるいは経空腸による経腸栄養を行う。(Grade C)
K4. 重症急性膵炎では,以下の方法により経腸栄養の併用効果を高めることができる。
経腸栄養の早期開始により,入院後の腸閉塞の期間を最小限とする。(Grade D)
消化管における経腸栄養注入位置を,より肛門側に変更する。(Grade C)
投与される経腸栄養の内容を,蛋白質から小ペプチドに,また長鎖脂肪酸から中鎖脂肪酸あるいはほぼ脂肪分のない製剤に変更する。(Grade E)
ボーラス注入から持続注入に切り替える。(Grade C)
K5. 重症急性膵炎患者に対して,経腸栄養が不可能であれば,経静脈栄養が考慮されるべきである。(Grade C) 入院後最初の5日間が経過するまで,経静脈栄養を開始すべきではない。(Grade E)

L. 終末期栄養療法

L1. 終末期症例では,特殊な栄養療法は必ずしも必要ではない。栄養療法を行うかどうかの判断は,患者およびその家族との十分なコミュニケーションや現実的な目標に基づいて,また患者自身の意思を尊重して決断されるべきである。(Grade E)


おわりに
 集中治療の専門医によるしっかりとした急性期管理体制が必要でもあるにかかわらず,本邦における集中治療医学の学術的基盤は,一部の施設や一部の医師を除いて乏しい。これは,まだまだ救急・集中治療を担う専門医としてのマンパワーが本邦に足りないためと考えている。世界はすこぶる治療成績の良い我々の集中治療管理のエビデンスを待っているようにも思われる。急性期集中治療の発展に夢を持つ若い皆さんの参入を期待してやまない。急性期栄養管理においても,本稿で紹介したASPEN/SCCMの急性期栄養ガイドラインを踏まえて,これからの5年で本邦のエビデンスをまとめていくことが必要と考えている。少なくとも,既に汎発性腹膜炎や重症敗血症では,死亡することない治療成績を得ている。これが達成できないときは,栄養管理と免疫管理と感染症管理ができていないときである。

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