救急一直線 特別ブログ Happy保存の法則 ー United in the World for Us ー

HP「救急一直線〜Happy保存の法則〜」は,2002年に開始され,現在はブログとして継続されています。

手技 緊急時のマスクの作り方

2020年02月26日 07時17分02秒 | 医療技術教育

手技 緊急時のマスクの作り方

留意 布マスクで気をつけること

〜 一般の皆さまへ 〜

日本集中治療医学会/日本救急医学会/日本麻酔科学会

集中治療専門医/救急科指導医/麻酔科指導医

医師 松田直之

 

はじめに

 COVID-19関連,新型コロナウイルスSARS-CoV-2感染症において,マスク不足が問題となっています。コロナパニックにならないように,私たちは平穏な心でいるようにすることに気をつけましょう。一方で,電車などの移動中に,花粉症で困ったり,悪臭に悩まされたりすることもあります。マスクをしていても,匂いが伝わってくることがあります。こういう時に,自身のタイプに合わせて,緊急マスクを作成することができます。

 マスクの重要なメリットは,手すりや座席などから自身の手についてしまった新型コロナウイルスを自身の鼻や口を触って付けてしまわないようにすることこと,鼻や口に手を運ぶ機会を減少させてくれること,そして接近距離からの飛沫感染を防いでくれることです。私は,花粉症の時期に,ハンカチとゴムを持参しています。参考として下さい。

 

必要なもの(鞄の中)

□ 気に入ったハンカチ 1枚〜3枚

□ 小さなポーチ:写真のポーチは,タイ集中治療医学会で頂いたものです。ゴム紐や裁縫セットを入れて持ち歩いています。

□ 乾ガーゼ(必ずしも必需品ではありません)

□ 輪ゴム・ゴム紐:使用し終わったマスクのゴム紐1セット

□ 廃棄用袋:洗濯や消毒をするまで,ここにしまってかばんで持ち帰ります。

 

 

緊急マスク作りの手順

A.  ハンカチを使った方法

 1.ハンカチを折る

  

  

  

  

 2.ゴムを用意する

  

 3.ハンカチの両端にゴムを通す

  

 4.さり気なくかける:ポイントは鼻・頬・顎から息が漏れにくくすることです。

  

※ 裏技:このマスクの裏に,ハンカチや乾ガーゼなどを,2段重ね,3段重ねできます。

 

B. ペーパータオルを使用したマスク作成法

 

 ペーパータオルを,ハンカチのときと同じように折ります。

 

 

 

 両端にゴムを掛けます。

 

 テープで止めても良いです。

 

 ※ このマスクの内側に,乾ガーゼを置きます。

 

さいごに

 マスクを着用することに加えて,その取外しにおいて手が汚染されます。取り外しの際には,衛生的手洗いを敢行して下さい。また,取り外したマスクは不潔であると認識してください。私は,耳から外したハンカチなどの部分を持って,持ち運び袋に収納して,消毒や選択の対象としています。手洗いを励行します。マスクを縫って作らなくても対応できる方法をお伝えしました。どうぞよろしくお願いします。 松田直之

考察 布マスクの有効な利用法について

 

名古屋大学大学院医学系研究科

救急・集中治療医学分野

松田直之

 

はじめに

 布マスクは危険性があるという報告があります。これは,比較的簡単な話であり,マスクをしたときとしないとき,ポリエステルマスクと布マスク,ハンカチ充填マスクと布マスクなどを比べるものとして,コロンの匂いがするかを試すとよいのです。コロンはデパートなどのように,試用ペーパーにふりかけておいて顔前30 cmレベルで比較すると良いです。鼻が詰まっている方は,実は深吸気で息を吸う可能性がありますので,SARS-CoV-2を肺の末梢まで吸い込んでしまう危険性がありますのでご注意下さい。

 

論文紹介

 

A cluster randomised trial of cloth masks compared with medical masks in healthcare workers.

MacIntyre CR1Seale H1Dung TC2Hien NT2Nga PT2Chughtai AA1Rahman B1Dwyer DE3Wang Q4.

BMJ Open. 2015 Apr 22;5(4):e006577. doi: 10.1136/bmjopen-2014-006577.

1 Faculty of Medicine, School of Public Health and Community Medicine, University of New South Wales, Sydney, Australia.

2 National Institute of Hygiene and Epidemiology, Hanoi, Vietnam.

3 Institute for Clinical Pathology and Medical Research, Westmead Hospital and University of Sydney, Sydney, New South Wales, Australia.

4 Beijing Centers for Disease Control and Prevention, Beijing, China.

 病院の医療従事者(Health Care Worker:HCW)で,布マスクと医療マスクと比較することを目的として,ベトナムのハノイの急性期対応の14病院で行われた多施設共同前向き臨床研究です。

 研究方法:フルタイムで勤務している18歳以上の1,607名の医療従事者を,1)医療用マスク着用必須,2)布製マスク着用必須,3)対照の通常群(通常のマスク着用を含む標準装備)の3つに無作為に分けます。そして,臨床的に呼吸器病態と診断(clinical respiratory illness:CRI),インフルエンザ様病態と診断(influenza-like illness:ILI),およびインフルエンザやSARS-CoVなどのRT-PCR検査で確認された呼吸器ウイルス感染症(laboratory- confirmed respiratory virus infection)になったかどうかが評価されています。

 結果:すべての感染の発生率は布マスクで最も高く,布マスクで統計的に有意にインフルエンザ様病態の発症が高かい結果でした(相対リスク:13,95%CI 1.69〜100.07)。粒子の浸透性は,布マスクで97%レベルであり,医療マスクでは44%とされています。医療用マスクが,最もインフルエンザ様症状の出現を抑制している結果となっています。

 結論:マスクは,インフルエンザ様症状の出現を抑制する可能性があります。しかし,布マスクの場合は,その布密度に注意が必要です。布マスクの着用や再利用は,インフルエンザウイルスなどの感染のリスクを高める可能性に注意します。

 

布マスクで注意すること:一般の皆さまへ

 マスクをしていて線香の香りがしたり,体臭に気づくような場合には,花粉が通過する可能性もあります。そして,エアロゾル感染にも気をつけます。一方,マスクは自身の手から鼻や口への自己接触感染を予防してくれます。手作りマスクにおいては,まず,布などの密度に注意します。

 そして,重要なポイントは,布マスクは汚いものと認識して,使用後はしっかりと洗う,または消毒することを徹底して下さい。マスクをしていて,最も注意することは,マスク着脱前後の衛生的手洗いです。手洗いや手指消毒を徹底することに注意されてください。エビデンスというのは,事象や事実です。これをどのように改善するかを,次の研究に結びつけることもできます。その上で,どう工夫するとよりよく防御できるのかを考えることも大切かもしれません。皆さまが,SARS-CoV-2感染症,COVID-19に罹患しませんよう祈念しております。どうぞよろしくお願いします。

BMJ Open. 2015 Apr 22;5(4):e006577より

留意:インフルエンザ様病態(influenza-like illness:ILI)の出現率は,医療用マスクで0.2%ですが,布マスクで2.3%と10倍の発症となります。この理由を洞察できると良いでしょう。上述の記載を読まれて下さい。


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一般の皆さま 感染防御対策 ブラッシュアップ

2020年02月24日 23時56分38秒 | 医療技術教育

情報共有 一般の皆さま

ブラッシュアップ 感染防御

感染防御策  Infection control and prevention

日本集中治療医学会・日本救急医学会・日本麻酔科学会

集中治療理事専門医・救急科指導医専門医・麻酔科指導医専門医

松田直之 MD, PhD

 

 はじめに 

 中国河北省武漢(ウーハン)市より,2019年12月,新型コロナウイルスが発生しました。この全世界的拡大の中で,ご自身や周囲への伝播を防ぐために,① 鼻を出さないマスク着用,②テーブルなどの次亜塩素酸や70%アルコールなどによる定期的な環境消毒にくわえて,③適切な手指衛生,これらの3つにご注意下さい。その上で,救急・集中治療領域では,間質性肺炎の急性増悪,ARDSおよび多臓器不全に至る早期の段階での拾い上げが重要策となります。実際の集中治療では,注意が必要ですので,この注意点や留意内容を皆で共有し,真摯に院内で討議できるようにします。そして,重篤化や死亡には,喫煙,喘息,低栄養,免疫不全や既炎症状態などのベースが強く関与するのだろうと評価されます。以上を踏まえて,本講では,手指衛生を中心として,一般の皆さまを主な対象とさせて頂き,感染防御の方法(感染防御策)について,記載します。一文一文に,「そうなの?」などの疑問を持たれて,読み進めて下さい。事実は,「断定」を疑うところから,真実を見つめる心として定着します。

 

 感染防御に関するトピックス 

・ウイルス感染症や細菌感染症は,感染部位の局所障害だけではなく,敗血症という多臓器不全状態に進展する危険性について,十分な対応が必要となります。

・世界保健機関(World Health Organization:WHO)は,2016年5月24日〜26日にドイツのイエーナで開催された World Health Assembly (WHA)において,「敗血症」を当面の解決すべき重要課題と議決しました。

・敗血症は,感染症による多臓器不全の進行する状態です。

・WHOは,2018年5月5日に手指衛生キャンペーンを国際規模で施行し,医療従事者の手指衛生の重要性を啓発しています。

・日本集中治療医学会も,手指衛生キャンペーンをクリーンハンドキャンペーンとして学術集会などで行ってきました。

・Global Sepsis Alliance(GSA:世界敗血症連盟)およびJapan Sepsis Alliance(JaSA:日本敗血症連盟)は,毎年9月3日を世界敗血症デー(World Sepsis Day)として,敗血症を認知するキャンペーンを世界レベルで施行しています。この1つの目標として,敗血症の予防を挙げています。

・感染症および敗血症の予防のためには,手指衛生が不可欠です。

 

 感染防御のポイント 

・緊急時や急いでいるときこそ,感染防御策に注意します。

 私たちの救急医療や集中治療の医療現場では,静脈路確保,緊急気管挿管(喉頭鏡,スタイレット,気管チューブの清潔性),ECMO(extra-corporeal membrane oxygenation)などの体外循環や心補助装置,中心静脈路確保などにおいて感染防御策を徹底しています。

・感染防御策は,自らへの感染防御と,患者への感染伝播阻止の2つの側面があります。

・感染防御策は,①空気感染予防策,②飛沫感染予防策,③接触感染予防策です。医療現場では,手指衛生に対して,WHOの推奨する手指衛生の5つのタイミングを遵守しています。

① 患者さんに触れる前

② 清潔で無菌の処置をする前

③ 体液に曝露されたり,体液に暴露された暴露の可能性がある場合の後

④ 患者さんに触れた後

⑤ 患者さんの周囲(ベッド,シーツなど)に触れた後

そして,診療中の手袋を外したときも,手指衛生の6つ目のタイミングとして,重視されるようになりました。

⑥ 手袋を外した後

・これらは,面会のときにも注意が必要となります。

・手袋は,裏返して外すのが正しい外し方です。

 

 手指衛生/手洗いのポイント 

手指衛生として,水道水などによる手洗い,そしてアルコール手指消毒剤による手指消毒があります。有効な手指衛生の方法に気をつけて下さい。

① 手掌

② 手背

③ 指間

④ 爪甲:爪の甲を手のひらのタコなどに当てて洗います。指先で,アルコール手指消毒剤をこするように使う場合もあります。

⑤ 母指

⑥ 手首

 

 目に見える汚染のある場合の対応 

手などが,血液や痰や汚いものなどで目に見える状態で汚染されてしまった場合,医療環境では,以下のような対応としています。

① 流水で十分に両手を洗い流す。まず,流水で洗い流します。

② 手洗い剤を用いて少なくとも15秒をかけて手掌・手背・指間・爪甲・母指,手首を洗う。手洗い剤を使います。

③ 流水でしっかりと流す。また,流水で流します。

④ ペーパータオルを用いて水分を完全に拭き取る。ペーパータオルを用います。

⑤ 使用したペーパータオルで蛇口を閉める。蛇口は,ペーパータオルで閉めます。

※ このような対応のため,蛇口の開閉は,一般に光反応でできるものに変更されています。

 

 感染防御策で知っておくこと 

感染経路を阻止するためには,1)空気感染,2)飛沫感染,3)接触感染の3経路に注意して,感染経路別予防策しています。

① 空気感染

② 飛沫感染

③ 接触感染

 

 空気感染予防策について 

・空気感染として,「飛沫核感染」と「エアロゾル感染」に注意します。

・飛沫核感染では,空気中に5μm未満の大きさとして浮遊できる,肺結核,麻疹ウイルス,水痘・帯状疱疹ウイルスに注意します。

・結核感染患者は,年間約2万人であり,今後の高齢社会において増加する可能性があります。2週間以上持続する咳や痰,また高齢者の食欲不振や体重減少において,結核に注意した空気感染予防策を考えます。

・エアロゾル感染は,ノロウイルス,レジオネラ,インフルエンザウイルス,コロナウイルスのような微生物に汚染された塵埃や気流を吸い込むことにより,気道感染症として発症します。

対策:① 咳をしている方や患者さんへの正しいマスクの着用,②医療従事者はN95 マスクの着用,③ 陰圧制御や高換気回数空調などの特殊個室管理。

・結核を疑う場合,胸部単純X線像などのX線像の評価に加えて,3日間連続で3回の喀痰培養検査を行っています。

・結核と麻疹ウイルスを疑う患者さんを救急車で搬送したり,救急外来等の外来で診療した場合には,車内や室内を外気開放としています。

・喉頭鏡や気管支鏡を使用した場合,これらは院内で再利用する重症患者用のsemi-critical instrumentsであるため,湿式低温殺菌法,化学消毒,または加熱での高レベル消毒としています。

・搬送や救急外来におけるベッド柵などの環境消毒については,次亜塩素酸やアルコール類などを用いた洗浄・清拭としています。

・陰圧室の利用に際しては,スモークテストなどで陰圧がかかるかどうかを評価しています。この空調設備には,質保証の確認と定期点検が必要です。

・N95マスクには,「折りたたみ式」と「カップキーパー式」の2種類があります。N95マスクの着用に際しては,マスクの周囲から10%以上の空気の漏出がないように,着用時に「フィットテスト」を行います。 

・救急外来診療においては,2週間以上の咳のある場合には,結核に留意して対応しています。

 

 飛沫感染予防策について 

・飛沫感染は,肺炎球菌,百日咳,インフルエンザウイルス,コロナウイルス,髄膜炎菌,マイコプラズマ,溶連菌などのように,咳をしている場合に,水分がついた飛沫として伝搬する感染です。

・飛沫の拡散範囲は,約1~2mレベルです。

・テーブルなどの定期的な環境消毒が重要です。

・対策:①咳の出る場合のマスク着用,②ベッド間隔2m,③環境の清拭。

 

 接触感染予防策について 

・接触感染は,感染者との直接接触や,病原体に汚染されたテーブルやベッド,また電車での移動では手すりや吊り革などとの間接接触により生じます。

・電車などの移動時に汚染された手で,口元や鼻を触る危険性を下げるためには,咳のない状態でもマスクを着用する利点があります。

・手袋着用としても,手袋が汚染される危険に注意します。

・触れた場合は,アルコール性手指消毒が重要です。

・テーブルなど環境は,アルコールや次亜塩素酸を用いた定期的な拭き衛生とします。

対策:①手指衛生,②環境の清拭,③スタンダードプレコーション(医療現場)。

 

 知識:スタンダードプレコーションについて 

救急外来や集中治療室などでのカテーテル挿入や緊急対応では,スタンダードプレコーションとして対応する場合が多いです。出血対応なども,このスタンダードプレコーションに準じています。

・歴史1:1985年に米国CDC(Centers for Disease Control and Prevention:疾病管理予防センター)は,医療機関などの感染管理対策として「ユニバーサル・プリコーション(universal precaution)」を提唱しました。

・ユニバーサル・プリコーションは,主にHIVなどのような血液由来の病原体から身を守るための予防策でした。

・歴史2:ユニバーサル・プリコーションをすべての患者に適用できるよう改良したものが,1996年に米国CDCによって発表された「スタンダード・プリコーション(standard precaution)」です。

・スタンダード・プリコーションでは,主に,血液,体液,分泌物,嘔吐物,排泄物,創傷皮膚,粘膜などを感染の危険性があるものとして取り扱います。

・手指衛生においては,処置前処置後の擦式アルコール製剤による手指衛生を基本とします。

・血液や体液などの目に見える汚れを,汚染状態とし,流水と液体石鹸で手指衛生します。

・スタンダード・プリコーションでは,防御具として,手袋,マスク,ガウン,ゴーグル,フェイスシールドを着用します。

・方法:① 手指衛生,② マスク,③ 手袋,④ ガウン,⑤ ゴーグル,⑥ メガネあるいはフェイスシールド

 

 例:集中治療室での面会の注意ポイント 

・面会の際には,以下の手順に注意して頂いています。

①手指衛生:アルコール手指消毒剤による手指消毒をして頂きます。

②マスク:鼻と顎までをしっかりと覆った正しいマスク着用としていただいています。

③ヘッドキャップ:頭についた細菌やウイルスなどの微生物をベッドサイドや患者さんに接触させないようにしています。

④ガウン:服類についた微生物を患者さんに伝播しないように気をつけていただいています。

⑤手袋:手を介して顔や頭や体やベット柵などの環境に微生物を運ぶ可能性に注意し,手袋を着用して頂いています。

・面会後は,集中治療室の入り口で,手袋,ヘッドキャップ,ガウン,マスクの順で廃棄します。

・手袋は,裏返しにして手から取るようにします。

※手袋を着用しない場合は,手を腕までしっかりと出すようにし,しっかりとアルコール手指消毒をして頂いています。

 

 おわりに 

 通常の通勤や通学では,新興ウイルス感染症,再興ウイルス感染症だけではなく,接触感染や飛沫感染ではインフルエンザウイルスなど,感染症空気感染症では結核に注意が必要です。新興ウイルス感染症においても,本講で記載した基本的な感染防御の理解とされて下さい。ご自宅や施設では,定期的なテーブル等の拭き衛生に留意します。

 

※ 手指消毒の重要性を,クリーンハンドキャンペーンとして,世界と連携しています。

※ 喫煙は,肺障害,急性心筋梗塞,そして手術のデメリットです。

※ 禁煙活動に,ご協力下さい。


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会議 テーブルディスカッション手法

2016年03月29日 07時08分43秒 | 医療技術教育

新しい提案を考えるための

テーブルディスカッションの手法

 

名古屋大学大学院医学系研究科

救急・集中治療医学分野

松田直之 

 

 テーブルディスカッションにおけるブレインストーミング(Brain Storming:BS)は, 5 - 7名,場合によっては10名程度による討議として,アイデアを出し合うことによって相互交錯の連鎖反応や発想の誘発を期待する技法です。新しい提案を行なうために,BSが用いられるようになっています。BSには,4つの原則があります。そして,KJ法などを用いて,内容の島を作り,ポイントをまとめていきます。

 

ブレインストーミング BSの4原則

1.批判しないこと:他人の意見を批判しないようにします。批判がすぐに出るようですとアイデアが出にくくなりるためです。

2.自由奔放:思いついた考えを積極的に言うことを歓迎するようにします。

3.質より量:出てくる量を重視します。できるだけ多くのアイデアを出すことに専念します。

4.連想と結合:他人の意見を聞いて,触発されるかもしれません。何も変化がないかもしれません。連想を働かせて,他の意見に自分の発想・アイデアを加えて,新しい意見を提示します。

 

教育の目標の区分 1 2 3コントロールについて

 知識 1.想起 2.解釈 3.問題提起

 技能 1.模倣 2.コントロール 3.自動化

 態度 1.受け入れ 2.反応 3.内面化

 

 新しいテーマに対する見解をグループで討議し,提案をまとめる方法として,文殊カード(1枚の紙が3列に区切れるもの;中川米造先生が開発したもので,ミシン目で3つに切り離せるカード)を用いるKJ法があります。KJ法は,川喜田二郎先生が考案した方法です。このKJ法においては,司会者と記録者が重要です。

 

K-J法について

 アイデア:量が多ければ多いほうが良いです。

 アイデアを記載したカードと同等の群として5枚ぐらいを「島」としてまとめていきます。

 

1.文殊カードにテーマに関する記載を行なう。

例)医局員を元気にするために何をするか?

   ■ 飲み会をする

   ■ できるだけ救急を断る

   ■ どんどん救急を受け入れる

   ■ ボーナスを上げる

   ■ 教授の当直回数を減らす

   ・・・・・

2.カードをちぎって大きな紙上に置く

3.関連性のあるカードをまとめます。

4.小グループ(小さな島)から中グループにカードをまとめます。

5.まとまった「島」に空間配置をします。

6.関係性の記載:図解

――:関係あり

→:原因・結果

←→:互いに因果的

>――<:互いに反対・対立

7.点数評価:すべてのグループのうちどれが重要と思うか,各自最高5点から1点の順で点数をつけます。


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教育 医療技術教育

2016年01月01日 02時17分55秒 | 医療技術教育

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医療技術教育において考えること

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 医療技術教育,例えば中心静脈カテーテル挿入,気管挿管,PCPS,縫合などの医療技術の習得においては,現在はSee One,Simulate One,Do One,Teach One,この4つのステップを経るようにします。私が研修を受けた1993年のレベルでは,1度見てできるようにと指導されましたが,できるようになるには,それぐらい注意深く,医療行為一つ一つを観察することも大切です。その上で,しっかりと実演できる先生,さらに,実技においては「作業分解」ができている先生,作業分解における連続性を語ることができる先生から教えていただくとよいです。救急領域そして集中治療領域における技術,病態,治療において,このような教育者を育成しようとしています。

 

技能の進歩に対する対応

 

1.認知領域:お手本を真似している段階

2.制御領域:個々の動作を一連として体系化できている段階,忘却曲線の緩和が大切であり,忘れないレベルまで達していない段階

3.自動化: 完全に体得されている段階

※ 救急医療においては,技術,病態,治療における自動化の領域までは,疾患や病態の分野が広いですので,10年かかると思います。

※ 専門医や指導医を目指す過程で,一定以上の症例を経験しますので技能は自動化されます。一方で,教えることは,自分の技能を分解し(作業分解し),解釈して伝えることを意識します。教えているものに対して,導入(認知),実演(デモンストレーション),練習(フィードバック)として,自己の技術の歴史を振り返る工夫が必要となります。1つの実技については,作業分解できるようにします。

 

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実技実演に対する留意事項

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・実技については,まず,その実技のポイントについて説明します。

・作業分解 task description:実技指導で大切なことは,実技を構成する一つ一つの作業を分解して,時空間感覚の説明とともに解説できるかどうかです。

・各作業ステップを,口に出して説明できるようにします。

・実技に関しては,自分の肩越しから見てもらうようにします。

・実技の評価:task descriptionとして,一つ一つのステップに漏れがないかを評価していき,最終評価として,それらの作業分解項目の連続性の評価を最終とします。

※ 医学領域の技術習得におきましても,その評価が必要です。評価は,形式的評価と統括的評価に区分します。

・形成的評価:formative evaluation:ポートフォリオの作成

・総括的評価:summative evaluation:最終評価;合格か不合格か

・Multi-force evaluation:同僚などからも評価してもらうようにして頂きます。

 

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フィードバックの原則

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F  Frequent:その都度その都度の解析フォードバック

A Accurate:推測ではない客観的な情報を与える

S   Specific:良い所と悪いところを明確に表現する

T Timing:一番よいタイミングを選ぶ

※ サンドイッチ法:改善すべき悪い部分に対して,前後を必ず,ポジティブな内容で挟むようにします。否定だけでは,拡大や成長は生まれませんので,医療のすべての場においてポジティブを提案できるように自己トレーニングできると良いでしょう。

 

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救急・集中治療領域の教育姿勢として

医学生・研修医・大学院生/指導医等に期待されること

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医学教育にあたっては,方向性を皆で確認しておく必要があります。

以下の4つについて意識して,私は医学生や研修医,そして救急科専門医を目指す皆さんの教育にあたっています。救急領域は,活動していませんと,彼らに教える基盤にのりません。このため,しっかりと一定の救急医療を行ない,しっかりとした治療を継続していくことが大切となります。

 

1.メタ認知能力

・自己を振り返る能力を高める:自己モニタリング力

・自分自身を客観視できる能力を高める

・時間感覚を高める

2.教えすぎないこと

 質問された時に急ぐ内容でない場合には,安易になんでも教えることが良いとは限りません。まず,その相手にじっくりと調べてもらうように,入り口だけでも一緒に考えるようにします。最近は私も手取り足取り教え内容になりました。感じ取る力に加えて,調べる力,考える力,自己解析する力をつけることが相手の成長に繋がると思います。

3.一つ一つの事象

 知識として知っておいても良いことは,伝えるようにしています。

4.指摘内容の選択

 間違いを指摘するのではなく,どのようにすれば成功できるのかを教えるようにしています。フィードバックは,受けてのニーズに合わせて行いますので,きく耳,聞くタイミングを意識しています。一般に言われるように,フィードバックは,教育を受けるものにメタ認知を高めることを目標とします。「教える」ためというよりは,「考えるきっかけ」として指摘します。

 

皆が,それぞれに成長できるように支援させていただいています。医療を通して,自己成長すること,そして自己を振り返る精神を鍛え,ネガティブをポジティブに替え,社会に広がりを提供できることが,医療人にも期待されます。


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