救急一直線 特別ブログ Happy保存の法則 ー United in the World for Us ー

HP「救急一直線〜Happy保存の法則〜」は,2002年に開始され,現在はブログとして継続されています。

NICE-SUGAR Study の結果が報告されました

2009年03月28日 04時46分37秒 | 論文紹介 臨床研究
NICE-SUGAR Study Investigators, Finfer S, Chittock DR, Su SY, Blair D, Foster D, Dhingra V, Bellomo R, Cook D, Dodek P, Henderson WR, Hébert PC, Heritier S, Heyland DK, McArthur C, McDonald E, Mitchell I, Myburgh JA, Norton R, Potter J, Robinson BG, Ronco JJ.

Intensive versus conventional glucose control in critically ill patients.
N Engl J Med 2009;360:1283-97

BACKGROUND: The optimal target range for blood glucose in critically ill patients remains unclear. METHODS: Within 24 hours after admission to an intensive care unit (ICU), adults who were expected to require treatment in the ICU on 3 or more consecutive days were randomly assigned to undergo either intensive glucose control, with a target blood glucose range of 81 to 108 mg per deciliter (4.5 to 6.0 mmol per liter), or conventional glucose control, with a target of 180 mg or less per deciliter (10.0 mmol or less per liter). We defined the primary end point as death from any cause within 90 days after randomization. RESULTS: Of the 6104 patients who underwent randomization, 3054 were assigned to undergo intensive control and 3050 to undergo conventional control; data with regard to the primary outcome at day 90 were available for 3010 and 3012 patients, respectively. The two groups had similar characteristics at baseline. A total of 829 patients (27.5%) in the intensive-control group and 751 (24.9%) in the conventional-control group died (odds ratio for intensive control, 1.14; 95% confidence interval, 1.02 to 1.28; P=0.02). The treatment effect did not differ significantly between operative (surgical) patients and nonoperative (medical) patients (odds ratio for death in the intensive-control group, 1.31 and 1.07, respectively; P=0.10). Severe hypoglycemia (blood glucose level, <or = 40 mg per deciliter [2.2 mmol per liter]) was reported in 206 of 3016 patients (6.8%) in the intensive-control group and 15 of 3014 (0.5%) in the conventional-control group (P<0.001). There was no significant difference between the two treatment groups in the median number of days in the ICU (P=0.84) or hospital (P=0.86) or the median number of days of mechanical ventilation (P=0.56) or renal-replacement therapy (P=0.39). CONCLUSIONS: In this large, international, randomized trial, we found that intensive glucose control increased mortality among adults in the ICU: a blood glucose target of 180 mg or less per deciliter resulted in lower mortality than did a target of 81 to 108 mg per deciliter. (ClinicalTrials.gov number, NCT00220987.) 2009 Massachusetts Medical Society -->

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講義 手術管理における術後感染予防策

2009年03月27日 03時12分24秒 | 講義録・講演記録 3

手術管理において気をつける感染対策について


京都大学大学院医学研究科

初期診療・救急医学分野

松田直之

 

留意事項のポイント


 集中治療室,術前および術後に免疫機能を維持するためのモニタリングは,未だ不十分な状況にあります。このため,院内診療の際と同様に,手術管理においても院内感染を考慮し,細菌感染症を阻止するための接触感染予防が大切となります。術後の起炎症菌として問題となるのは,黄色ブドウ球菌,MRSA,大腸菌,緑膿菌などの一般細菌であり,必ずしもA群β溶連菌のような病原性の強いものではありません。これらは,医療従事者の手を介して伝播することに注意が必要です。

 呼吸器感染,カテーテル感染,創感染などは,丁寧な接触感染予防策によって発症率を低下させることができます。注意すべきこととして,①処置前処置後のアルコール性手指消毒(手掌,指間,手背,爪床,たこ,親指,手首),②静脈留置針や動脈留置針のライン接合部などを素手で触らないこと,③気管チューブやスタイレットを手指消毒していない素手で触らないこと,④吸引チューブ挿入部を素手で触らないことなどが挙げられます。麻酔導入において研修医の動作を観察すると,実に多くの研修医がアルコール性手指消毒剤による手指消毒をすることなく,また手袋をすることなく,静脈路や動脈路を確保したり,喉頭鏡に触れています。手袋は,自らの手指の汚染を防ぐためのものです。さらに,静脈路や動脈路の確保の際には,環境や挿入者の手を汚染させない技術が要求されるとともに,接続部に血液汚染培地を作らない技術も必要です。気管内吸引においても,同様の接触感染予防に対する配慮が必要です。これらが徹底して注意されている手術室は,極めて感染症管理ができていると評価できます。接触感染を抑制する習慣が,一般細菌や多剤耐性菌の術後感染症の予防となります。気管挿管においては,喉頭鏡ブレードやスタイレットを素手で触ることは禁忌です。ブレードを滅菌袋に入れずに管理することも禁忌と考えています。

 一方,手袋を装着していれば,接触感染を抑制できるかといえば,必ずしもそうとは言えません。静脈路確保や気管内吸引など一般手技では,滅菌手袋を着用しているわけではありません。昨今,院内感染対策により院内での手袋の使用が増加しているため,多くの病院は安価な手袋を購入し,日本製ではないものを購入しています。これらの製造過程は必ずしも明らかではなく,製造過程で微量な泥などの不純物が混入するケースも確認されています。通常の手袋は必ずしも無菌ではないことに注意します。さらに大切なことは,手袋は処置直前に着用し,処置後にはすぐに廃棄することです。手袋を長期に着用することにより発汗が高まり,手指の細菌数が増加します。塩化ビニル製の手袋は安いものであれば1枚2.7円程度,アルコール性手指消毒剤は1プッシュ1.6円程度です。

 そして,最後の注意点としては,活動期の細菌は20分レベルで分裂することです。これは非常に重要な事項であり,1時間で8倍,2時間で64倍,4時間で4,096倍,5時間で32,768倍,6時間で262,144倍になるということです。手袋を4時間以上に渡り,つけっぱなしでいることは危険と考えています。手指に細菌増殖をさせる可能性が高いことになります。


Standard PrecautionsとMaximum Barrier Precautions

標準感染予防策(standard precautions)は,汚染が予想される際に必要な感染予防策です。①手洗い,②手袋,③マスク,④ガウン,⑤ゴーグルあるいは眼鏡により,患者への汚染と患者からの汚染を予防します。また,中心静脈カテーテルや肺動脈カテーテルの挿入では,血流感染症が生じ易いことが知られています。通常の手洗いに加えて,maximum barrier precautionsとして滅菌手袋および長袖ガウンを着用し,非滅菌マスクおよび非滅菌帽子を着用し,十分なサイズの滅菌覆布を行う必要があります(Raad II, Hohn DC, Gilbreath BJ, et al: Prevention of central venous catheter-related infections by using maximal sterile barrier precautions during insertion. Infect Control Hosp Epidemiol 15:231–238, 1994)。カテーテル感染の起炎菌としては,①ブドウ球菌属,②カンジダ属,③大腸菌,④腸球菌属などが高頻度に検出されています。


抗菌薬の適正使用について

 感染症が同定されている場合には,抗菌薬を適切に用いる必要がありますが,抗菌薬は漫然と使用することを避ける必要があります。すなわち,抗菌薬にはカテコラミンのように徐々に強度を高めるとか,徐々に離脱するという概念はなく,用いる際には最大効力を期待し,最大量を投与するようにし,不必要であれば潔く投与を中止します。これにより,十分な治療効果が得られるばかりか,薬剤耐性菌の出現を防ぎます。抗菌薬が周術期に用いられる場合には,①予防的投与,②治療的投与の2つの側面で考える必要があります。

 一般に,「予防的抗菌薬投与」は,手術部位感染を予防することにあり,組織の無菌化を目的とするものではありません。術野での汚染菌量を患者が防御できる範疇に減量することを目的としています。ヘルニア,乳腺,甲状腺,心臓・血管などの清潔創では,黄色ブドウ球菌や連鎖球菌などの皮膚常在菌をターゲットとし,まずは術野消毒を適切に行い,抗菌薬としては第1世代セファロスポリン系薬(セファゾリンなど)やペニシリン系薬(クロキサシリン/アンピシリン)を用います。しかし,これらの抗菌薬はMRSAに対して抗菌活性を持たないので,胸骨縦切開を行う心臓・大血管手術では,MRSA縦隔炎の発症に留意する必要があります。このように,すべての手術において,予防的抗菌薬はMRSAに対する対応が未然であることを念頭に置き,皮膚消毒や術野洗浄を重視する必要があります。

 一方,食道,肝臓などの開腹を伴う準清潔手術では,予防的抗菌薬として大腸菌や肺炎桿菌に抗菌活性を持つ第1世代セファロスポリン系薬(セファゾリンなど)や第2世代セファロスポリン系薬(セフォチアムなど)を用います。結腸や直腸などの下部消化管や虫垂(非穿孔)の手術では,バクテロイデス・フラジリス(Bacteroides fragilis)などの嫌気性菌への抗菌活性も必要となるため,第2世代オキサセフェム系薬(フロモキセフ)や第2世代セファマイシン系薬(セフメタゾールなど)を用います。下部消化管には,バクテロイデス・フラジリスが常在していることに注意が必要です。さらに注意点として,フロモキセフはEnterobacter cloacae,Enterobacter aerogenes,Enterococcus facecalisに抗菌活性を持ちませんので,特にプロトンポンプインヒビターなどで術後の胃酸分泌を抑制した状態では,フロモキセフの3日を越える長期投与によりこれらが胃内や口腔内に逆行性感染し,人工呼吸器関連肺炎の原因となります。しかし,一般的には,人工呼吸器関連肺炎の最大の問題点は,不潔な気管挿管(気管チューブの不潔取扱,喉頭鏡の不潔管理,スタイレットの不潔管理)および気管挿管前を含む患者さんの口腔内および鼻腔内の不潔環境によると考えています。

 このような予防的抗菌薬の投与タイミングは,いつがよいのでしょうか。Classen等の1708名の手術患者解析によると,術前2時間前から執刀直前までの間に投与することで創感染率が0.6%レベルに低下でき,皮膚切開より3時間以上遅れると極めて高い創感染率となると報告されています(N Engl J Med 326:281-286, 1992)。一般に,抗菌薬の皮下脂肪組織濃度を考慮しますと,半減期の2倍の時期に抗菌薬を再投与すると皮膚常在菌などのMIC(minimum inhibitory concentration)を超える抗菌薬濃度が十分に維持できると考えられています。臨床研究のデザインも,抗菌薬の半減期の2倍の時間での再投与をプロトコールとされました。現在用いられている主な予防的抗菌薬の半減期は,セファゾリン(約1.6時間),フロモキセフ(約50分),セフォチアム(約50分),セフメタゾール(約1時間)であり,セファゾリンは3時間で再投与,その他は2時間で再投与が望ましいと考えられます。もちろん,ここに患者の腎機能を考慮する必要があります。しかし,一般に予防的抗菌薬は腎機能が正常域にあれば3時間毎の再投与とし,現在,創感染の発症率を評価しているのが現状です。また,こうした予防的抗菌薬の再投与には,出血量や輸液量が影響を与えます。たとえば1.5Lを超えるような短時間の出血では,予防的抗菌薬の血中濃度が輸液や輸血により低下します。出血では再投与間隔を短くする必要があると思いますが,このような臨床評価も必要とされています。そして,セファゾリンなどの腎排泄で代謝される薬剤では,予防的抗菌薬投与においても腎機能を評価して,クレアチニンクリアランスに合わせて,投与間隔を延長します。

 以上の予防的抗菌薬投与に対して,感染症が明確である場合は,「治療的抗菌薬投与」が必要となります。治療的抗菌薬の選択に当たっては,①グラム陽性菌が原因なのか,②グラム陰性菌が原因なのか,③嫌気性菌が原因なのか,④グラム陽性菌であればMRSAの可能性があるのか,⑤グラム陰性菌であれば緑膿菌の可能性があるのかの5点を考慮することにより,選択する抗菌薬の大筋が決定できます。このためにグラム染色は不可欠ですし,抗菌薬を再開する前に,細菌培養検査の提出も不可欠となります。

 さらに,実際の抗菌薬の使用に当たっては,抗菌薬の薬理学的特性を尊重することが重要です。ペニシリン系抗菌薬,カルバペネム系抗菌薬,セファロスポリン系抗菌薬は,細菌細胞壁に作用するため,起炎菌のMICを血中濃度が超える時間が重要であり,time above MICを十分に長く取るために,1日3~4回の投与が原則となります。キノロン系抗菌薬とアミノグリコシド系抗菌薬は,菌体細胞内に入ることにより殺菌効果を示すため,最大血中濃度が重要となります。キノロン系抗菌薬とアミノグリコシド系抗菌薬の最大血中濃度を高め,AUC(aria under the curve)を大きくするためには,分割投与ではなく1日1回の投与が原則となります。アミドグリコシド系抗菌薬であれば,アミカシンは7-7.5mg/kgの短時間投与でピーク濃度56-64 μg/mLを目標とし,トラフ濃度は10 μg/mL以下に持ち込み,ゲンタマイシンやトブラマイシンでは3 mg/kgの短時間静脈内投与でピーク濃度を16-24 μg/mLを目標とし,トラフ濃度を2 μg/mL以下に持ち込みます。これにより,腎機能障害や第8脳神経障害を軽減させます。また,MRSA治療では,バンコマイシン(トラフ濃度10-15µg/mL),テイコプラニン(トラフ濃度 17 µg/mL以上),アルベカシン(ピーク濃度12 µg/mL)が必要であり,添付文書や従来の投与法では菌体数減少が期待できないのが現状です。真菌感染では,血漿(1→3)-β-D-glucan値の上昇が認められる場合は,抗真菌薬の投与を開始します。血液培養検査で真菌が検出された場合は,眼内炎の合併にも留意しなければなりません。

 現在,起炎菌が明確ではない敗血症性ショックなどでは,血液培養2セットに加え,喀痰,尿,胃液,便の細菌培養検査を提出し,広域スペクトラムの抗菌薬を選択し,細菌培養検査の結果に基づき,抗菌薬のスペクトルを狭いものに変更しています。この抗菌薬使用戦略をde-escalating strategyと呼び,敗血症性ショックや重症敗血症に有効な抗菌薬投与法となります。

 以上のように,手術中や術後には,特に細菌感染症や真菌感染症が生じ易いことに留意し,適切な抗菌薬の使用により患者の免疫機能低下を補助しています。あわせて,周術期の免疫管理が重要です。私自身は,術後24時間以内の経腸栄養開始や血糖コントロールに加えて,免疫機能のモニタリングの考案も必要と考えています。


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血漿分画製剤 急性期管理における使用法 NO.1

2009年03月27日 02時03分05秒 | 講義録・講演記録 2
京都大学大学院医学研究科
初期診療・救急医学分野
准教授
松田直之


はじめに
 血漿分画製剤は,血漿蛋白質を物理的かつ化学的に血漿より分離・精製した製剤であり,主にアルブミン製剤,グロブリン製剤,血液凝固因子製剤,アンチトロンビンIII製剤に大別される。このうち,血液凝固因子製剤は不安定性により採血後6時間以内に分離されるが,他の血漿分画製剤は新鮮凍結血漿より分離される。本稿では,これらの特徴や機能を実際の使用に照らしてまとめる。

【1】免疫グロブリン製剤

 免疫グロブリンは,細菌やウイルスなどの微生物や微生物の産生する異物を認識する糖蛋白であり,IgG,IgA,IgM,IgD,IgEの5種類のサブタイプとそれらの各サブクラスからなる。リンパ節,脾臓,粘膜リンパ組織などの末梢リンパ器官や骨髄由来B細胞より産生され,生体内では抗体として働き,液性免疫として機能している。健常成人より集めた血漿より,1941年に開発されたCohnの低温エタノール分画法で分離精製したものが,免疫グロブリン製剤である。現在,本邦で臨床使用されている免疫グロブリン製剤は主にγグロブリン分画中のIgGを抽出したものであり,血漿1Lより約3.3 gのIgGが精製されている。海外ではIgGにIgMとIgAを含有した製剤も臨床応用されている。このように,免疫グロブリン製剤は健康成人の血清より抽出したポリクローナル抗体として世界各国で生成されており,その世界における需要は年間90トン以上と見積もられている。これらの機能は, Cohnの低温エタノール分画法の後の主な分離方法によって影響を受けるため,臨床研究における効能の評価にはどのような製剤を用いたかを評価する必要がある。

1. 免疫グロブリン製剤の種類
 免疫グロブリン製剤は,1)筋注用免疫グロブリン製剤(IMIG),2)静注用免疫グロブリン製剤(IVIG),3)特殊免疫グロブリン製剤の大きく3つに分類される。歴史的にはIMIGがはじめに開発され,IMIGの凝集性や補体異常活性化の欠点を克服したものとしてIVIGが開発された1)。Cohnの低温エタノール分画法よる回収のみでは,IgGの凝集体が存在し,抗原と結合しない状態で補体を異常に活性化させることが知られていた。このような初期の免疫グロブリン製剤は,静注には不向きであるとされ, IMIGとして筋注に限って使用されていた。しかし,それでもIMIGは筋注局所の疼痛が強いため大量投与できないばかりか,速効性に欠けるなどの制限があり,現在では麻疹やA型肝炎などに限って使用されている。
 一方,Cohnの低温エタノール分画法での分離の後に,化学処理,ポリエチレングリコール処理,pH4処理,イオン交換樹脂処理などを行い,凝集体による補体活性化を抑制したものがIVIGである。開発当初は,ペプシンやプラスミンによる酵素処理をしたIVIGも臨床に頻用されていたが,これらの処置によりIgGのFc部分が分断されるため,細菌やウイルスなどの異物に対するオプソニン効果や補体活性化が抑制され,機能的ではない。これに代わり,スルホ化やアルキル化の化学処理により,抗体間のS-S結合を阻止し,IgG重合を抑制する手法が確立された。しかし,スルホ化されたIgGは生体内で正常機能に戻るまでに約1日を要するため,重症敗血症などの緊急時には不向きである。また,アルキル化されたIgGは生体内でもアルキル化されているため,オプソニン効果や溶菌作用が弱い。これに対して,副作用の原因となるIgG凝集体を除き,あるいは離解させる方法として,ポリエチレングリコール処理,pH4処理,イオン交換樹脂処理が用いられている。さらに, HCVやパルボウイルスやHIVなどのウイルス混入を阻止する目的で,国内産のものは平均孔径19nmのナノ膜濾過処理がなされている。しかし,未だヒトパルボウイルスB19やクロイツフェルト・ヤコブによる感染の可能性はゼロとはいえない。
 現在,IVIGとして,ポリエチレングリコール処理ヒト免疫グロブリン(polyethylene glycol treated human normal immunoglobulin;ヴェノグロブリン-IH®,献血グロベニン-I-ニチヤク®),2)乾燥スルホ化ヒト免疫グロブリン(freeze-dried sulfonated human normal immunoglobulin;献血ベニロンI®),3)pH4処理酸性ヒト免疫グロブリン(pH4 treated human acidic normal immunoglobulin;ポリグロビンN®),4)乾燥pH4処理ヒト免疫グロブリン(freeze-dried pH4 treated human normal immunoglobulin;サングロポール®),5)乾燥イオン交換樹脂処理ヒト免疫グロブリン(freeze-dried ion-exchange-resin treated human normal immunoglobulin;ガンマガード®),6)乾燥ペプシン処理ヒト免疫グロブリン(freeze-dried pepsin treated human normal immunoglobulin;ガンマベニンP®)などが臨床使用されており,1)無ガンマグロブリン血症または低ガンマグロブリン血症,2)重症感染症における抗生剤との併用,3)特発性血小板減少性紫斑病,4)川崎病の急性期に適応が定められている。これらの健常成人における半減期は約20~25日であるが,乾燥ペプシン処理ヒト免疫グロブリンの半減期にみ約9日と短いことが特徴である。これらのIVIGは,血漿IgGの4~5倍に相当する50 mg/dLに濃縮されている。
 最後に,特殊免疫グロブリン製剤として,1)抗HBsヒト免疫グロブリン製剤(B型肝炎発症予防),2)抗破傷風ヒト免疫グロブリン製剤(破傷風の発症予防や治療),3)抗Dヒト免疫グロブリン製剤(Rh血液型不適合妊娠の予防),4)抗ヒト胸腺細胞ウマ免疫グロブリン(再生不良性貧血の治療),5)抗ヒトTリンパ球ウサギ免疫グロブリン(再生不良性貧血の治療)の5種類の製剤が臨床使用されている。HBs陽性患者の血液の針刺し事故では,事故後7日以内に抗HBsヒト免疫グロブリン製剤を成人では1000~2000単位を筋注する。抗HBsヒト免疫グロブリン製剤には,ポリエチレングリコール処理をした静注用製剤(静注用ヘブスブリン-IH®)もある。また,外傷などで創部の汚染が強い場合や重症外傷では,抗破傷風ヒト免疫グロブリン製剤を投与する。テタノブリン®,テラノセーラ®,破傷風グロブリン®,テタガムP®などは,筋注として250 IUを用いる。テタノブリン-IH®は,ポリエチレングリコール処理をした静注用製剤であり,通常の破傷風予防には250 IU,重症外傷では1500 IUを静注することができる。

2. IVIGの機能と適応
 IVIGは,1951年に臨床応用され,その使用目的は,1)IgGの低下を改善させる補充療法,2)免疫変調療法の2つである。IVIG補充療法としては,原発性免疫不全症,重症感染症における抗生剤との併用,低γグロブリン血症,慢性リンパ性白血病,骨髄移植,小児HIVが保険適応である。免疫変調療法としては,自己免疫疾患に対して特発性血小板減少性紫斑病,川崎病の急性期,Guillan-Barre症候群,多巣性運動ニューロパチーを含む慢性炎症性脱髄性多発根神経炎の筋力低下の改善に用いられる。使用する製剤によっては適応が限られているため,製剤の確認が必要である。

1) 免疫不全,慢性リンパ性白血病,骨髄移植における補充療法
 X-連鎖無γグロブリン血症などの原発性免疫不全症候群においては,3~6週ごとに200~400 mg/kgの免疫グロブリン製剤を点滴静注し,血清IgG値のトラフ値を500 mg/dL以上に保つことで,感染症や慢性気管支炎や気管支拡張症の発症を軽減できる。また,小児心臓血管外科術後に乳糜胸を合併すると低γグロブリン血症となりやすい。IgG 200 mg/dL,IgA 5 mg/dL以下は,免疫低下や免疫不全を疑い,感染症罹患を予防する必要がある。また,正常血清のIgGの4つのサブクラスは,IgG1(60~65%),IgG2(20~25%),IgG3(約10%),IgG4(約5%)の存在比であるが,これらの1つあるいは2つの欠損により易感染性となる。成人ではIgG3欠乏症,小児ではIgG2欠乏症が多く,IgG値が正常域でも,IgG2,IgG3サブクラスの欠損が易感染性の原因となることもある。慢性リンパ性白血病に低γグロブリン血症を伴う場合や骨髄移植後においても,血清IgG値のトラフ値を500 mg/dL以上に保つことで感染症合併率が低下することが確認されている。

2) 重症感染症と炎症の軽減
 IVIGには多種多様なIgGが含有されており,これらは細菌やウイルスの認識抗体だけではない。Tumor necrosis factor-α(TNF-α),interleukin-1(IL-1),interleukin-6(IL-6),macrophage migration inhibitory factorなどのサイトカインや,外因系アポトーシス誘導リガンドであるFasL,さらにはTNF-α受容体などのサイトカイン受容体などの,炎症とアポトーシスに関与する分子に対する抗体が含まれている2)。これに加えて,IVIGには,サイトメガロウイルス,アデノウイルス,水痘帯状疱疹ウイルス,麻疹ウイルス,風疹ウイルス,ムンプスウイルス,インフルエンザウイルス,エンテロウイルス,コクサッキーウイルスなどの抗ウイルス抗体や,抗菌薬活性の期待しにくいメタロ-β-ラクタマーゼ産生緑膿菌,バンコマイシン低感受性メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA),バンコマイシン低感受性腸球菌属,メタロ-β-ラクタマーゼ産生セラチア,多剤耐性緑膿菌,カンジダ属などを認識する抗体が含有されている。本邦では,これらのウイルスや細菌に対する抗体価について,IVIGのロットごとに報告を受けることができる。ウイルス感染症や重症敗血症ではIVIGロットの有効性を確認し,十分に投与されれば理論的には免疫機能の補助手段となる。2006年までの敗血症患者に対するIVIGのランダム化比較試験をまとめた2007年のTurgeonら3)による報告では,20研究における2,621名が評価され,敗血症全般でIVIG療法は95%信頼区間0.62~0.89に対して相対リスクが0.74と,有意に敗血症罹患後の生存率を改善すると評価された。この敗血症における報告では,1)IVIGの投与量は1g/kg未満でも1g/kg以上でも生命予後を改善させること,2)IVIGの投与期間は2日以下では生命予後を改善させず3日以上が有効であること,3)IVIGは初病日からの投与でなくとも投与により生存率を改善させること,4)単なる敗血症ではなく,臓器不全を伴う重症敗血症や敗血症性ショックで生存率が高まることが,サブグループ解析として確認されている。しかし,海外での投与量は本邦より多いものであり,重症感染症に対するIVIGの役割は今後の本邦における十分な評価が必要である。

3) 川崎病
 川崎病におけるIVIGには,炎症症状の早期消退と冠動脈病変の併発を低下させることが確認されている。IVIGは原田スコア4)の白血球数≧12,000/mm3,Hct<35%,血小板<35万/mm3,アルブミン<3.5g/dL,CRP≧4.5 mg/dL,男児,年齢<1歳の7項目うちの4項目以上を満たすときに適応があるが,IVIGの使用には臨床症状を含めた総合的判断が必要とされる。治療開始時期は第7病日までが望ましいとされているが,使うならば早い時期からが望ましい。川崎病では,200 mg/kg/日の5日間投与が健康保険適応であるが,IVIG 400 mg/kg/日により冠状動脈病変の発生頻度が低下するとの報告も多い。米国では2 g/kg/回の投与が標準的である。IVIGの実際の投与には,半日~1日かけて緩徐に投与するのが良いとされている。

4) 慢性炎症性脱髄性多発根神経炎およびGuillan-Barre症候群
 献血ベニロンI-ニチヤク®は多巣性運動ニューロパチーを含む慢性炎症性脱髄性多発根神経炎に,献血ベニロンI®はGuillan-Barre症候群に適応を持つ。これらは,1日投与量400 mg/kgを5日間投与する。

5) 副作用に対する注意
 免疫グロブリン製剤は,IgA欠損症や抗IgA抗体を持つ患者において,アナフィラキシーを生じやすいことが知られている。血清IgAが5 mg/dL以下の日本人は0.03~0.05%の頻度と評価されており,大部分は病的な症状を呈さないため,免疫グロブリン製剤投与においては投与初期から十分に患者観察が必要である。慢性肺疾患ではIgA欠損症の合併頻度が高いことも知られている。IgA欠損症患者にIgAを含んだ血液製剤を投与すると,抗IgA抗体が産生され致死的なアナフィラキシー・ショックとなる。このような重篤な反応とはならないまでも,アレルギー反応が生じる可能性に十分に留意する必要がある。副作用の発生は,注入開始後1時間以内に起こることが多い。


【2】血液凝固因子製剤

 本邦で臨床使用されている静注用血液凝固因子製剤は,1)第VIII因子製剤,2)第IX因子製剤,3)プロトロンビン複合体製剤,4)活性化プロトロンビン複合体製剤,5)活性化第VII因子製剤,6)フィブリノゲン製剤,7)第XIII因子製剤の7種類である。これらの適応は,先天性欠損であり,第XIII因子製剤のみがシェーンライン・ヘノッホ紫斑病や外科的縫合不全および瘻孔に対しての適応を持つ。

1. 血液凝固第VIII因子製剤
 第VIII因子製剤は,遺伝子組換えによるオルトコグアルファ(コージネートFS®)とルリオクトコグアルファ(リコネイト®),および乾燥濃縮ヒト血漿製剤であるクロスエイトM®が血友病Aに使用されている。第VIII因子に加えてvon Willebrand因子(vWF)を含有した製剤として,コンファクトF®とコンコエイトHT®があり,血友病Aおよびvon Willebrand病に使用されている。
 血友病5, 6)は先天性出血病態の一つであり,第VIII因子の欠乏する血友病Aと第因子の欠乏する血友病Bがある。これらの凝固因子はX染色体上に遺伝子が存在するため,X連鎖劣性遺伝の形式をとり,保因者の女性から出生した男児の50%には血友病が発症する。血友病Aでは,隔日あるいは週に3回,25~40単位/kg/回を静注し,定期的な補充療法とする。第因子は一般に1単位/kgの投与で血中濃度が約2%増加する。また,血友病患者の外傷による出血や手術の際には,止血のための補充量法を行うことになる。第VIII因子の血漿半減期は8~12時間程度であるため,前日までの補充療法に加えて,手術中は単回補充ではなく,2~4単位/kg/hrの持続投与とする場合が多い。出血が多量となる場合は,新鮮凍結血漿で代用する場合も多い。さらには,血友病の補充療法においては血友病Aで10~20%に補充因子に対する同種抗体(インヒビター)が出現することが知られている6)。救急領域などの緊急時には,インヒビター評価が最近いつどこで行われたかを確認する必要がある。第VIII因子製剤投与後の第VIII因子活性期待値(%)は,第VIII因子投与量(単位/ kg)× 2で計算し,止血には第VIII因子活性期待値を>20%に増加させ,手術や外傷による出血症状の際は>50%を目標としている。
 von Willebrand病は,vWFの減少あるいは機能異常による血小板の粘着障害に起因する先天性出血性疾患である。この内容により,大きく1型(量的減少),2型(質的異常),3型(完全欠損)の 3 病型に分けられている。1型は酢酸デスモプレッシン(0.4 μg/kg/回)の静注で対応できるが,2型および3型では酢酸デスモプレッシンは無効であり,vWF含有第VIII因子製剤を補充療法とする。VIII因子に比較してvWFは血漿半減期が24~36時間と長いため,投与間隔は血友病Aより延長することができる。

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血友病A患者に対する第VIII因子製剤の投与例

1 慢性滑膜炎,膝関節内出血
  1回10単位/kg 1日1回静注 1~2日
2 腸腰筋内出血
  1回20単位/kg 1日1回静注 5日間
3 頭蓋内出血
  初回50単位/kg,以後1回25単位/kg 1日2回静注 1週間
4 手術に際して
  術前日50単位/kg,術中2~4単位/kg/hrの持続投与
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2. 血液凝固第IX因子製剤
 第IX因子製剤は,乾燥濃縮ヒト血漿製剤としてノバクトM®とクリスマシンM®が臨床使用されている。適応は,血友病Bに対してである。投与方法は,1回500~1000単位/kgの緩徐な静注とする。血友病Aに準ずるものであるが,第IX因子の血漿半減期は12~24時間と個体差があることに留意する。第IX因子製剤投与後の第IX因子活性期待値(%)は,第IX因子投与量(単位/ kg)×(1~1.5)で計算し,止血には第IX因子活性期待値を>20%に増加させ,手術や外傷による出血症状の際は>50%を目標とする。手術に際しては,前日までの補充療法に加えて,手術中は4~7単位/kg/hrとする。

3. プロトロンビン複合体製剤,活性化プロトロンビン複合体製剤
 プロトロンビン複合体製剤は,血友病Bの適応としてPPSB-HT®,プロプレックスST®が臨床使用されている。これらには,第IX因子以外に第II因子,第VII因子,第X因子が複合されている。投与方法は,1回50~100単位/kgの緩徐な静注であり,詳細は第IX因子製剤の投与に準じる。
 一方,活性化プロトロンビン複合体製剤(ファイバ®)は,第II因子,第VII因子,第IX因子,第X因子に加えて,それらの活性化体が含まれている。血友病Aおよび血友病Bにおいて,第VIII因子および第IX因子のインヒビターをもつ患者に適応がある。手術や多発外傷に際しては,活性化プロトロンビン複合体製剤はトロンビン活性を高め,血栓傾向や血管内皮細胞障害を増悪させる可能性があり,インヒビター保有患者以外には用いることはなく,インヒビター保有患者においても慎重投与となる。手術や多傷に際しては,保険適応量として50~100単位/kgを8時間ごとに投与し,3日間に留めた連続使用としている。

4. 血液凝固活性化第VII因子製剤
 活性化第VII因子製剤(ノボセブン®)は遺伝子組換え製剤であり,その適応は活性化プロトロンビン複合体製剤と同様に,血友病Aおよび血友病Bの第VIII因子および第IX因子の阻害物質保有患者である。保険適応は初回量が90μg/kg(4.5 KIU/kg)であり,その後,止血が得られるまで2~3時間ごとに60~120μg/kg(3~6 KIU/kg)を追加投与できる。血漿半減期が3時間レベルであるため,調節性が良いのが特徴であり,血友病Aおよび血友病Bの第VIII因子および第IX因子のインヒビター保有患者の手術や外傷における出血コントロールに用いることができる。海外の症例報告では,戦時中の負傷や腹部外傷を含む出血コントロールに優れているとの報告があるが7),海外でも未だ十分なエビデンスはなく8),本邦ではインヒビター保有の血友病患者以外に適応はない。

5. フィブリノゲン製剤
 フィブリノゲン(血液凝固第�因子)はAα鎖,Bβ鎖,γ鎖のS-S結合として存在し, N末端でさらにS-S結合した二量体として血漿分画に存在する。このフィブリノゲンの合成部位は肝臓であり,血小板凝集による一次止血やフィブリン網形成による二次止血に不可欠な凝固因子である。
しかし,現在,フィブリノゲン製剤(フィブリノゲンHT®)の保険適応は,先天性低フィブリノゲン血症の患者に限られており,肝硬変や産後出血に適応はない。さらに,保険適応量は,1回3 gまでである。先天性低フィブリノゲン血症の患者の手術では,術前より約30 mg/kgのフィブリノゲン製剤を投与し,血漿フィブリノゲン値を100 mg/dL以上に高めておく。フィブリノゲンの血漿半減期は3~4日レベルであるが,術後3日までは適時投与とし,血漿フィブリノゲン値100 mg/dLを目標とすることが望ましい。
周術期の投与に際しては,様々な血液製剤と同様にアナフィラキシーの発症に加えて,代用血漿製剤やデキストラン製剤などとの同一静脈路からの投与で沈殿が生じることや,発熱の可能性に注意が必要である。

6. 血液凝固第XIII因子製剤
 第XIII因子は,凝固反応の最終産物であるフィブリンモノマーを架橋形成することにより,安定したフィブリンポリマーを産生するための二次止血に不可欠な凝固因子である。この第XIII因子製剤(フィブロガミンP®)の保険適応は,1)先天性第XIII因子欠乏症,2)第XIII因子低下に伴う縫合不全および瘻孔,3)シェーンライン・ヘノッホ紫斑病である。
先天性第XIII因子欠乏症では1日4~20 mL,第XIII因子低下に伴う縫合不全および瘻孔では1日12~24 mLを5日まで,シェーンライン・ヘノッホ紫斑病では1日1回12~20 mLを3日までが,保険適応である。これらは,血漿第XIII因子濃度を評価しながら用い,縫合不全および瘻孔では基準値の70%以下,シェーンライン・ヘノッホ紫斑病では90%以下を投与の適応とする。

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血漿分画製剤 急性期管理における使用法 NO.2

2009年03月27日 02時01分37秒 | 講義録・講演記録 2
京都大学大学院医学研究科
初期診療・救急医学分野
准教授
松田直之


【3】アンチトロンビンIII製剤

 アンチトロンビンⅢは,肝で合成される生理的凝固阻害因子である。α2-グロブリン分画に属する分子量58 kDaレベルの糖蛋白であり,血漿濃度は約30 mg/dL,血中半減期は約60~70時間である。正常の生体内では,血中,血管内皮,血管外にそれぞれ4:1:5の比率で分布している。

1. アンチトロンビンⅢの機能
 アンチトロンビンⅢの凝固抑制は,主にトロンビンや活性化第X因子と結合し,これらの機能を失活させることにある。さらに,活性化第IX因子,活性化第XI因子,活性化第XII因子,カリクレイン,プラスミンなどの活性も阻害する。また,アンチトロンビンⅢにはペパリンによる凝固阻害を高める作用がある。アンチトロンビンⅢにはトロンビン結合部位とヘパリン結合部位があり,未分画ヘパリン存在下ではヘパリン/アンチトロンビンⅢ複合体が形成され,トロンビンや活性化第X因子を即時的に強く阻害する。一方,低分子ヘパリンやダナパロイドナトリウム(オルガラン®)の投与下のアンチトロンビンⅢは,活性化第X因子の阻害を高めるが,直接のトロンビン阻害作用は弱い。
 敗血症や外傷をはじめとする全身性炎症反応症候群では,未分画ヘパリン未使用時にのみアンチトロンビンⅢ補充の有効性が確認されており,ヘパリンとの併用によりアンチトロンビンⅢ補充の生命予後改善効果が減じることが確認されている9)。これは,①血管内皮細胞に存在するヘパラン硫酸にアンチトロンビンⅢが結合することにより,血管内皮細胞上で直接にトロンビンを阻害し,トロンビンのprotease activated receptorを介した血管内皮細胞障害を抑制し,播種性血管内凝固症候群(DIC:disseminated intravascular coagulation)の進展を抑制するためや,②未分画ペパリンとの併用を行わないことで出血合併率が減じられるためと考えられている。このため,敗血症などの先進性炎症反応症候群に合併する準DIC状態では,ペパリンによるDIC治療は望ましいものではないと評価されている。
 このような特徴を持つアンチトロンビンⅢは,トロンビン・アンチトロンビンⅢ複合体(TAT: thrombin-antithrombin Ⅲ complex;基準値3.75 ng/mL以下)を形成するため,トロンビン活性の高まる敗血症,外傷,術後,心筋梗塞,血栓症,DICなどでは,これらの補助診断やトロンビン阻害指標としてTATが有用となる。
 一方,先天性アンチトロンビンⅢ欠乏症10)は,1,000人に1人の程度で認められ,血栓症を合併しやすいことが知られている。出生児には臍帯出血などが確認される。アンチトロンビンⅢ活性値が50%程度に減少するI型はすべて常染色体優性遺伝であり,II型は①トロンビン阻害効果に異常があるもの,②ヘパリン結合に異常のあるもの,③それらの複合異常の3つに分類されている。また,後天的にアンチトロンビンⅢが減少する病態としては,①尿蛋白として消失されるネフローゼ症候群,②産生低下による感染症や肝不全,③トロンビン産生の高まる全身性炎症反応症候群,術後,心筋梗塞,血栓症,HELLP症候群,羊水塞栓症,DICなどが挙げられる。重症病態の生命予後を予測する因子として,アンチトロンビンⅢ活性値の低下が示唆されており,DICの早期診断とともに活性値70%以下を阻止するアンチトロンビンⅢ補充が必要とされる。

2. 乾燥濃縮ヒトアンチトロンビンIII製剤
 現在,本邦ではアンチトロンビンIII製剤として,ノイアート®,アンスロンビンP®,献血ノンスロン®が臨床使用できる。これらの保険適応は,①先天性アンチトロンビンIII欠乏に伴う血栓形成傾向と,②DICのみである。血栓形成傾向では,1日1000~3000単位を投与し,アンチトロンビンIII活性値を70%以上に維持する。DICにおいては,アンチトロンビンIII活性値が70%以下に低下している病態において,1日30単位/kgの投与が推奨される。産科DICおよび外科的DICにおいては,1日60単位/kgまでが保険適応として認められている。救急・集中治療領域では,急性期DIC診断基準が本邦で公表されており,全身性炎症に付随する緊急性の高い病態では,DICの早期診断が可能となっている11, 12)。ATIII製剤は,HCVやパルボウイルスやHIVなどのウイルス混入を阻止する目的で平均孔径15 nmのナノ膜濾過処理がなされている。


おわりに
 血漿分画製剤は,その分離過程においてウイルス活性の賦活化や除去などの工夫が十分になされているが,未だ完全にヒトパルボウイルスB19感染やクロイツフェルト・ヤコブ病などの可能性が残存している。実際の臨床では適応や投与量に対するさまざまな工夫が認められるが,使用に当たっては本稿で記した適応を十分に念頭に置くことが大切である。

文 献

1)Eibl MM: History of immunoglobulin replacement. Immunol Allergy Clin North Am, 28:737-64, 2008.
2)Hartung HP: Advances in the understanding of the mechanism of action of IVIg. J Neurol, 255 Suppl 3:3-6, 2008.
3)Turgeon AF, Hutton B, Fergusson DA, et al: Meta-analysis: intravenous immunoglobulin in critically ill adult patients with sepsis. Ann Intern Med, 146:193-203, 2007.
4)Harada K: Intravenous γ-globulin treatment in Kawasaki disease. Acta Paediatr Jpn, 33: 805–10, 1991.
5)Kempton CL, White GC 2nd.; How we treat a hemophilia A patient with a factor VIII inhibitor. Blood, 113:11-7, 2009.
6)Barnett B, Kruse-Jarres R, Leissinger CA: Current management of acquired factor VIII inhibitors. Curr Opin Hematol, 15:451-5, 2008.
7)Busani S, Cavazzuti I, Marietta M, et al: Strategies to control massive abdominal bleeding. Transplant Proc, 40:1212-5, 2008.
8)Squizzato A, Ageno W: Recombinant activated factor VII as a general haemostatic agent: evidence-based efficacy and safety. Curr Drug Saf, 2:155-61, 2007.
9)KyberSept Investigators: High-dose antithrombin III in the treatment of severe sepsis in patients with a high risk of death: efficacy and safety. Crit Care Med, 34:285-92, 2006.
10)Vinazzer H: Hereditary and acquired antithrombin deficiency. Semin Thromb Hemost, 25:257-63, 1999.
11)Ogura H, Gando S, Iba T, et al: SIRS-associated coagulopathy and organ dysfunction in critically ill patients with thrombocytopenia. Shock, 28:411-7, 2007.
12)Kushimoto S, Gando S, Saitoh D, et al: Clinical course and outcome of disseminated intravascular coagulation diagnosed by Japanese Association for Acute Medicine criteria. Comparison between sepsis and trauma. Thromb Haemost, 100:1099-105, 2008.

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2009年度 敗血症研究の当教室の指針

2009年03月21日 03時52分28秒 | 研究指針
私の専門する全身性炎症に対する当教室の研究班は,
敗血症や急性膵炎などの全身性炎症反応症候群の新規治療概念の樹立を目標とし,
本年度は特に敗血症病態に絞り,以下の研究活動を致します。
京都大学医学部の学生さんで,研究に興味のある方は,御連絡ください。
http://kuhp.kyoto-u.ac.jp/~qqigaku/
本年度は,研究体制がより一層に充実できるように予定しております。

主な新規研究内容(2009年4月~2010年3月)
1. 敗血症におけるcAMP response elementの機能解析 別府 賢
2. 敗血症におけるcirculating endothelial cellの機能解析 二木元典
3. LPS刺激による単球機能維持とその分化制御(ヒト培養細胞研究) 松田直之
 3-1 アドレナリン受容体の発現変化と遺伝子治療
 3-2 ニコチン受容体の発現変化と遺伝子治療 
 3-3 ステロイド濃度による修飾作用 医学生研究
4. 敗血症における骨髄由来多能性分化細胞の解明 山本誠士(富山大学共同研究),松田直之
5. 敗血症におけるTNF受容体の発現制御 寺前洋生
 5-1 膵臓におけるTNF受容体の役割
 5-2 視床下部ー下垂体ー副腎におけるTNF受容体の役割
6. 敗血症における血管内皮細胞の発芽構造物の解明 寺前洋生
 6-1 微小循環障害の電子顕微鏡による病態解明
 6-2 敗血症における血管内皮細胞の栄養源の解明
 6-3 CEC化阻止のための構造学的分子ストラテジーの確立
7. 敗血症における小胞体ストレス蛋白の遺伝子治療 鈴木崇夫
8. 敗血症における腸管機能と経腸栄養(初期解析まで)二木元典

総合指導 松田直之
研究室管理補助 寺前洋生

その他 共同研究
富山大学医学薬学研究部 分子医科薬理学講座
富山大学医学薬学研究部 麻酔科学講座
星薬科大学 薬品毒性学教室

2009年度も,御指導頂けますよう,よろしくお願い申し上げます。

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遺伝子分子量

2009年03月10日 17時37分19秒 | 研究指針
siRNAやデコイ核酸などの量はmol(モル)で記載されていますが,
当研究室では,投与効果を導入重量(μg)で評価しています。
モルは小中学校時代に習うものですが,
重量を化学式の分子量で割ったものです。
外科系の医術はmEqはわかってもmolと基本的には関係ない世界ですので,
時がたつと忘れてしまう先生もいるようです。
以下を参考とされてください。

U ウラシル 分子量 約112 (g)
A アデニン 分子量 約135 (g)
G グアニン 分子量 約151 (g)
C シトシン 分子量 約111(g)
T チミン  分子量 約126 (g)

●● nmolの作成したsiRNAに対して,以下を確認してください。
1.組成式;21塩基の配列の確認
2.分子量;組成式より分子量を計算します
●●×分子量=▲▲ng=▲▲÷1000 μg
敗血症病態のin vivo遺伝子治療には,
20μg以上のsiRNAの導入を必要としています。


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