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HP「救急一直線〜Happy保存の法則〜」は,2002年に開始され,現在はブログとして継続されています。

研修医の皆さんへ 生体侵襲後の栄養管理  NO.1

2008年05月25日 09時44分22秒 | 講義録・講演記録 3
生体侵襲後の栄養管理

京都大学大学院医学研究科
初期診療・救急医学分野
准教授 松田直之


【はじめに】救急・集中治療領域の代謝・栄養管理には,患者さんの生体のホメオスタシス(生体の恒常性)がどのように変化しているかを考えることが大切です。生体侵襲を受けた直後では血糖コントロールに難渋しますが,生体侵襲からの回復期に蛋白異化を放置しているとアルブミンが減少し,脾腫や腹水を合併し,急性衰弱(クワシオコア:Kwashiorkor),創傷治癒の遅延を起こします。本講では,生体侵襲急性期のacute phase reaction(急性相反応)をまず理解していただき,そして,中心静脈栄養の組み立て方を概説し,あわせて,経腸栄養を推奨する根拠を理解していただこうと思います。


【1】急性相反応 acute phase reaction
 生体が侵襲にさらされると生体の神経内分泌,免疫機構,代謝に影響を与える急性の生体反応が出現します。これを急性相反応と呼んでいます。Moore(ムーア)はこの反応を1952年に報告しています。

1)Moore説・急性相反応の流れ
 ムーアは侵襲に対する生体反応を4期に分類しています。
①障害期:侵襲後2-4日,生体侵襲後の高カテコラミン期です。
②転換期:侵襲後4-7日 ,副腎皮質ホルモン分泌レベルが正常化し,尿中への窒素排泄量が正常化し,筋蛋白合成が開始される時期です。
③同化期:侵襲後1-数週間,タンパク異化亢進がおさまり,窒素バランスが負から正に戻り,筋力回復が起こり始めます。
④脂肪蓄積期:侵襲後数週間から数ヶ月,侵襲後のホルモン変動が消失し,脂肪が蓄積し体重が増加してくる時期です。

2)生体侵襲の極期に何が起こるのか?
 急性相反応の特徴は高カテコラミン状態で説明されてきましたが,現在は,侵襲後のサイトカイン濃度の推移によっても説明されるようになってきました。カテコラミンやサイトカインによるインスリン抵抗作用により,血糖値が高くなり,タンパク異化,脂肪分解が亢進しています。術後や外傷,重症感染症の極期には血糖値が高くなり,栄養に難じることを経験すると思います。この時期に必要な栄養をどのように評価し,与えるかが,重要な課題となります。具体的に急性相反応の特徴を示します。

<急性相反応の特徴>
①頻脈と高血圧(hyperdynamic state)
 末梢血管抵抗が増大し,心収縮性も増加し,心拍数も増加します。この状態は,まさに頑張っているという交感神経緊張で説明できますが,医療介入としては適切な鎮痛・鎮静が有効です。高齢者では特に心臓への負担を軽減させることも大切となる時期です。

②高血糖
 痛みや苦痛により放出されるカテコラミンはインスリン作用を抑制します。すなわち,筋肉や肝臓や脂肪にグリコ-ゲンを蓄積させようとするインスリンの作用を抑制し,高血糖状態を作ります。また,中枢からのACTHの分泌が亢進するため,副腎皮質でコーチゾルの放出が高まり,糖新生,脂肪分解が亢進し,更に高血糖が助長されます。適切な鎮静や鎮痛は,このような急性相反応を根源的に抑制するためにも,必要不可欠なのです。グルカゴンの分泌も亢進するために,グリコーゲン分解が促進され,高血糖が更に助長されます。生体侵襲後は数日間,血糖値が上がりやすくなります。これに対して,いくつかの大規模臨床研究は,インスリンの持続静注により血糖値を150 mg/dl以下に下げるほうが,いや,タイトに血糖値を正常域にとどめるほうが,死亡率を低下させることができるとしています。

③タンパク異化の亢進
 副腎皮質でコーチゾルの放出が高まり,骨格筋を中心としてアミノ酸放出・蛋白異化が亢進します。尿中の窒素代謝産物が増加し,負の窒素バランスとなります。放置すれば,手足が細く,腹部が膨らんだクワシオコア(Kwashiorkor)となります。よって,これをできるだけ防ぐためにインスリンの持続投与が有効であるとする考え方もあります。

④脂肪分解の亢進
 交感神経緊張に伴うカテコラミンやグルカゴンの作用で脂肪組織中のホルモン感受性リポプロテインリパーゼ(LPL)の活性が高まり,トリグリセリドが脂肪酸とグリセリドに分解されます。生体侵襲の急性期にはタンパクだけでなく脂肪も分解されるのです。インスリンはこのLPL活性を抑制する作用を持っています。

⑤尿量減少
 生体侵襲の程度に応じて下垂体後葉から放出されるADH(バゾプレッシン)が過剰に分泌されることが知られています。これにより利尿がつきにくくなります。また,発熱・出血などの理由で循環血液量が減少していると,レニンーアンジオテンシン系が亢進するため,腎尿細管でのNa+と水の再吸収が促進されます。詳細は腎不全の別講も参照していただくとよいですが,利尿がつきにくくなるのが特徴です。

⑥凝固亢進
 交感神経緊張によりアドレナリンα2受容体を介して血小板が凝集しやすくなります。また,トロンボキサンA2,セロトニンなどの凝固促進因子の産生が高まり,凝固が亢進します。凝固抑制因子であるアンチトロンビンIII,プロテインC,プロテインSは,主に肝で産生されているため,タンパク異化が亢進すると,これらの産生量が減少し,凝固が亢進します。結果的に,生体侵襲が強いとその急性期は血液が固まりやすくなり,血栓塞栓症の危険が高まることを知っておくとよいです。これに対して,回復期に入りますと,血栓を溶かす線溶系が亢進してきますので,ここでの再手術などは止血に難渋することになります。
 
⑦発熱反応
 発熱は主に中枢でプロスタグランジンE2の産生が高まるために生じます。生体侵襲後は,炎症性サイトカインが脳血管関門に作用して,脳内でプロスタグランジンE2の産生を高めます。過度の交感神経緊張により末梢循環が損なわれると,体温の逃げ場がなく,核温(中枢温)の上昇が起こります。発熱時の体温管理は,すぐに薬物に頼るのではなく末梢から熱を逃がしてやる工夫が大切です。

⑧急性炎症蛋白の上昇
 生体侵襲により上昇した炎症性サイトカイン(IL-1,TNFα,IL-6)は急性炎症反応蛋白(CRP,血清アミロイドA,α1-acid glycoprotein,フィブリノーゲン,ハプトグロビン,セルロプラスミン,α1-antitrypsinなど)を産生させます。主にCRPや白血球数の推移を見て,炎症の程度と推移を評価するとよいでしょう。2次感染のない場合は,これらのデータは3-4日で落ち着きます。


【2】創傷治癒の流れ
 創部の治癒は,①凝固・止血期②炎症期③増殖期④組織再構築期⑤成熟期の5つの流れとなります。受傷3日後以降は2次感染が生じてこない限り,増殖期に入りますので,十分な蛋白の補充が必要になってきます。術後や外傷後を例にとり解説します。

①凝固・止血期(1-2日)
 受傷組織の細血管は収縮し凝固活性があがり,止血されます。
②炎症期(1日-1週間)
 凝固を受けた局所に,多核白血球,マクロファージや肥満細胞が集結してきます。局所で炎症が遷延する一方で,フィブリン網が形成されます。
③増殖期(3日-2週間)
 線維芽細胞が増殖し,コラーゲン合成が促進し,細胞外基質の合成が高まる時期です。
④組織再構築期(5日-3週間)
 細胞外基質の蓄積が高まっていきます。
⑤成熟期(2週間-2年)
血管系は最終的には退縮して,表面平滑な瘢痕となります。


【3】栄養スクリーニングとアセスメント
 入院患者さんの栄養不良は,比較的多いようです。その原因として,体重・身長測定を定期的に行わず無頓着であること,特に医師がカルテに体重変化を記載しないことが指摘されています。栄養不良は,増殖期以降の創傷治癒を遅延させ,合併症発生率を高め,入院期間を延長させます。栄養管理が適切であるかを評価するシステムをもつとよいでしょう。そこで,まず,入院前と入院時の栄養状態の評価が大切となります。

(1)体重評価
 体重減少は栄養状態の重要な指標となります。入院前情報として①通常の体重 ②過去6ヶ月の体重変化(慢性的低栄養:マラスムス) ③過去2週間の体重変化(急性低栄養:クワシオコア)をまず把握します。入院時に必ず体重測定を行い,その後の体重変化を定期的に調べることが大切です。

(2)食物摂取パターンの把握
 入院前の食物摂取パターンを認識しておくことが大切です。救急患者さんの中には非常に栄養状態の悪い患者さんがいるものです。①食習慣の変化やその期間 ②食物の好み ③固形食をきちんと食べていたか ④食事量 ⑤絶食経験の有無 ⑥アルコール摂取量などにより,入院後の栄養組み立てに役立てます。

(3)消化器症状の有無
 下痢・便秘の有無と持続期間の確認は大切です。

(4)生活活動性
 日常の活動レベルの低下があれば,必要栄養量が低下していた可能性があります。

(5)身体ストレスの評価
 救急搬入・集中治療管理される患者さんの身体ストレス(生体侵襲の程度)はまちまちですので,搬入時にまず,大きく①軽症 ②中等度症 ③重症のように主観的に分類します。この生体侵襲の程度により,急性相反応の程度に差が出ます。回復期に必要とするエネルギー量にも差が出ますので注意が必要です。

(6)身体計測で注意すべきこと
 入院時より毎日定期的に評価するのが望ましいです。
 ①上腕三頭筋部皮下脂肪厚:脂肪量と相関します。
 男性:8.3mm,女性:15.8mmを基準としますが,変化を観察することが大切です。
 ②上腕筋周囲:骨格筋量(蛋白量)と相関します。
 男性:24.8cm,女性:21.0cmを基準としますが,変化を観察することが大切です。
 ③ウエスト・ヒップ比:るいそうの進行がわかります。
④浮腫の評価:炎症の極期は血管透過性が亢進します。低タンパク血症でも血管透過性が亢進し,浮腫が生じます。浮腫は,踵部・仙骨部で評価します。腹水・胸水の貯留は定期的にエコー図を行うことになります。



(7)低栄養で推移する血液・生化学検査データ
低栄養のマーカーとして以下を用います。
① 血清アルブミン減少:半減期は約21日です。長期的な栄養評価に有用です。急性期に低下するのは血管透過性亢進のためです。
② 血清コレステロール低下
③ 血清プレアルブミン低下:半減期約2日です。低栄養を鋭く示唆してくれます。
④ 血清トランスフェリン低下:血清トランスフェリンは血中半減期が約3-4日です。下がってくれば低栄養です。
⑤ 総リンパ球数減少
⑥ 補体・免疫グロブリンの低下:感染がおきやすくなります。

(8)呼吸商:何を栄養源にしているかを知る指標
 呼吸商(RQ)は単位時間あたりのCO2排泄量(VCO2)をO2消費量(VO2)で割ったものです(RQ=VCO2÷VO2)。呼気ガス分析装置を用いて,VCO2やVO2は簡便に測定できますが,備えていない施設も多いかと思います。脂肪,タンパク,糖の呼吸商はそれぞれ0.7,0.8,1.0ですが,この呼気ガス分析装置で測定した呼吸商が1に近ければ糖を多く利用した代謝であることがわかり,0.7に近ければ脂質の燃焼・代謝が栄養の主体であると評価できます。1を超える場合は糖質が脂質合成に使われており,0.7以下であれば脂肪からの糖新生が生じていると評価します。

(9)タンパク異化の評価:尿中3-メチルヒスチジン
 タンパク異化の評価には上腕筋周囲の変化を見ることが大切ですが,尿中3-メチルヒスチジンは骨格筋の代謝産物ですので,骨格筋タンパク異化の評価に用いることができます。急性相反応の増殖期以降には,とにかくタンパク異化を起こさないように注意することが大切です。

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研修医の皆さんへ 生体侵襲後の栄養管理  NO.2

2008年05月25日 09時40分13秒 | 講義録・講演記録 3
生体侵襲後の栄養管理<続編>

京都大学大学院医学研究科
初期診療・救急医学分野
准教授 松田直之


【4】中心静脈栄養:栄養必要量と水分必要量の決定
生体侵襲の急性期は血糖コントロールに難じることが多いため,カロリー補充を一般にひかえていますが,生体侵襲後3日目ぐらいからは,十分な栄養管理を行うのが一般的であると思います。中心静脈栄養を具体的に組み立てられるように考えてみましょう。

(1)水分必要量
 最低限必要な水分量の決定には,少なくとも以下3つの方法があります。
① 30 ml × 体重(kg)
② 1 ml × 栄養摂取量(kcal)
③ 1500 ml × BSA(m2)
 これに,分泌物・発汗などを考慮に入れて,1日水分量を設定します。状況に応じての必要な輸液は,これ以外に追加します。

** 水分最低必要量 ********************************************************
具体的患者さん例:体重50kgの右半結腸切除術後の患者さん
水分最低必要量の算定:必要最低水分量は上記①より約1500 mlとします。
**************************************************************************

(2)エネルギー必要量
①基礎エネルギー消費量を求めます。
 基礎エネルギー消費量の算出はHarris-Benedict(ハリス・ベネディクト)の公式が有名です。
Harris-Benedictの式(kcal/日)
男性:66.5 + 13.8W + 5.0H – 6.8A 
女性:655 + 9.6W + 1.9H – 4.7A 
W=体重(kg),H=身長(cm),A=年齢(年)

また,Weirの消費熱量式を用いた間接熱量測定法は,生体侵襲後の必要エネルギーを的確に示すことができ,特に,侵襲直後にエネルギー利用効率が減じている時の基礎エネルギー消費量の決定に有用です。VCO2とVO2は呼気ガス分析装置を用いて,測定します。

Weirの消費熱量式(kcal/日)
  基礎エネルギー消費量=3.96×VO2 + 1.11×VCO2-2.17×尿中窒素排泄量(g/日)



②総エネルギー必要量
 総エネルギー必要量=基礎エネルギー消費量×活動指数×障害係数
  活動指数:寝たきり状態(1.2),ベット外での活動あり(1.3)
 障害係数:手術(軽度:1.1,中等度:1.2,高度: 1.8),外傷(1.2-1.4)
       感染症(軽症:1.2,中等度:1.5),広範囲熱傷(1.2-2.0)

③総エネルギー必要量の簡易計算:25-30 kcal/kg

**総エネルギー必要量***************************************************
具体的患者さん例:体重50kgの右半結腸切除術後の患者さん
総エネルギー必要量は,③より約1500kcalとします。***********************************************************************

(3)エネルギー源
 タンパク,炭水化物,脂肪がエネルギー源となります。炭水化物とタンパク:4 kcal/g,脂肪:9 kcal/gです。

(4)アミノ酸の補給はどれぐらいがよいのでしょう?
 アミノ酸の補給の適切な量は,ストレスなし(0.6-1 g/kg体重/日),軽度ストレス(1-1.2 g/kg体重/日),中等度ストレス(1.2-1.5 g/kg体重/日),高度ストレス(1.5-2.0 g/kg体重/日)を目安とし,決定します。タンパク合成を施したい時期には,総カロリー摂取量(kcal)と窒素(g)との比(カロリー/N比)は100-200レベルであると,蛋白合成の効率が最もよいとされています。ストレスの程度が強いものほど,糖の利用効率が悪いため,タンパクを十分に補い,カロリー/N比を100に近づけるのが望ましいとされています。
アミノ酸はどれも約16%の窒素を含有しているので,およその窒素量(g)は,アミノ酸投与量(g)×0.16(あるいは÷6.25)で求められます。このようにして,まず,アミノ酸の投与量を決定し,そのエネルギー(投与量×4 kcal)を計算します。
重度のストレスにある50kgの患者さんを例にあげれば,最低75g のアミノ酸の補充が望ましいです。これは10%アミノ製剤(0.1g/mlのアミノ酸製剤)ならば,750mlになります。アミノ酸を投与した1日の結果として,尿素代謝産物(BUN)などの尿中排泄量や血中BUNを調べ,アミノ酸代謝を毎日,再評価することが大切です。

<注意点1>急性肝不全ではアミノ酸補給量を制限して,肝性昏睡を防ぎます。また,腎不全では窒素代謝産物の排泄が低下するため,血液浄化法を併用していない場合は,必要最低限の必須アミノ酸の投与とします。
<注意点2>窒素平衡
 タンパクが同化する(体に取り込まれてゆく),あるいは,異化する(体から減ってゆく)ことを評価することが大切です。蛋白質はアミノ酸の集合体ですので,やはり約16%の窒素を含有しています。尿中窒素代謝物(UUN)とアミノ酸投与量を比較して,排泄量が多い場合,負の窒素平衡,異化が亢進している状態であると評価します。窒素平衡を把握する場合は,尿のみならず便,ドレーン,胃管などへの排泄もありますので,総合的に評価することが大切です。

**アミノ酸製剤の投与量****************************************************
具体的患者さん例:体重50kgの右半結腸切除術後の患者さん
中等度ストレスと評価して1.5 g/kg体重/日,すなわち,75gのアミノ酸を付加することにします。10%アミノ酸製剤では750mlとなります。投与カロリーは4kcal/g×75g=300kcalとなります。
**************************************************************************

(5)脂肪の補給はどうしますか?
総カロリー摂取量(kcal)の20%レベルのエネルギーとして,脂肪補給を計画します。必修脂肪酸(リノール酸)の補充目的だけであれば,総エネルギー必要量の1-3%で十分とされています。イントラリピッド®,イントラファッド®,イントラリポス®の10%あるいは20%製剤が静注用脂肪製剤として知られていますが,20%製剤で敗血症が生じたという報告もあり,濃度の低い10%製剤を使用することが推奨されています。10%脂肪製剤には0.1 g/mlの脂肪が含まれており,厳密には0.9kcal/mlですが,市販の製剤により多少差があり,約1 kcal/mlに調節されています。1日1500kcalを補う場合は,通常はその20-30%を脂質で補いますので,10%脂肪製剤であれば200-300kcal分である約200-300mlを少なくとも2-3時間以上かけて補います。
鎮静薬として用いられているデュプリバン®は水に溶けにくいプロポフォールを1%脂肪性剤で乳化させていますので約1.1 kcal/mlです。1%デュプリバン®10ml/hで鎮静している場合は,11 kcal/hの脂質投与をしていることになり,約264 kcal/日の脂質を補ったことになります。
脂質投与量をあげてエネルギー補給を増やす場合は,人工呼吸中の呼吸不全の患者さんです。呼吸不全患者の多くは CO2の蓄積が認められますが,脂肪製剤は糖やアミノ酸に比較してCO2産生量が少なく抑えられるので,1日量2 g/kgを上限として脂肪補給を投与予定カロリーの30-40%レベルに上げます。しかし,脂肪製剤の過量投与は,脂肪滴をマクロファージが貪食することにより,肺での炎症を促進させるとする可能性も示唆されています。

**脂肪製剤の投与量********************************************************
具体的患者さん例:体重50kgの右半結腸切除術後の患者さん
総エネルギー必要量は,この患者さんでは約1500kcalとしました。脂肪製剤は総エネルギー必要量の30%として約450kcal,10%脂肪製剤で約450mlを4時間以上かけて補う方針とします。**************************************************************************

(6)糖の補充量は最後に決定される

 今まで,50kgの中等度呼吸器感染症の患者さんを例として,投与水分量は1500ml,総エネルギー必要量1500 kcalと設定し,10%アミノ酸製剤750 ml (アミノ酸75g)で約300kcal,10%脂肪製剤約500 ml(脂質50g)で約450 kcal(実際は製品の都合で約500kcal)とカロリー分担をさせてきました。以上の流れから最終的に糖の補充量を決定します。この患者さんの中心静脈栄養の献立では,最終的に糖液が負担する輸液量は約350 ml,エネルギー量で700 kcalとなります。
 そこで,糖液の話ですが,50%糖液とはブドウ糖0.5 g/ml液のことです。ブドウ糖は1 g=4 kcalですので,50%糖液=0.5 g/mlの糖液=2 kcal/mlで計算します。同様にして,20%糖液は0.8 kcal/ml,10%糖液は0.4 kcal/ml,5%糖液は0.2 kcal/mlです。つまり,この場合は50%ブドウ糖液を350ml加えることで,ちょうど700kcalを糖で補うことができることになります。実際の臨床では,多少の誤差がでることがありますが,このようにして,中心静脈栄養の組成を決定していると理解してください。

**糖液の投与量********************************************************
具体的患者さん例:体重50kgの右半結腸切除術後の患者さん
総エネルギー必要量は,この患者さんでは約1500kcalとしました。蛋白製剤,脂肪製剤の投与量を決定した後,最後に残ったカロリーを糖に負担させます。50%ブドウ糖液を350ml加えることで,ちょうど700kcalを糖で補うことができることになります。**************************************************************************

(7)電解質+総合ビタミン剤+微量元素

 必要水分量とエネルギーの分担ができた次に,電解質とビタミンと微量元素の補充を評価します。

① 電解質:1日当たりに必要な電解質量は,ナトリウム 60-80meq,カリウム 30-60meq,塩素 80-100meq,カルシウム 4-10meq,マグネシウム 8-20meq,リン 12-20mmolを基準とし,増減させます。はじめから糖液に適切な電解質が含まれているものもあります。カリウムを補いたくない腎不全などの場合は,糖液と電解質を別に調整します。
② 総合ビタミン剤:脂溶性および水溶性ビタミンともに生体維持に不可欠なものです。
③ ミネラル・微量元素:鉄,亜鉛,セレン,クロム,モリフデンなど微量元素の欠乏を避けることが大切です。

** まとめ ****************************************************************
体重50kgの右半結腸切除術後の患者さんの中心静脈栄養
**************************************************************************

① 水分量の算定:1500 ml(簡易計算 体重×30 mlより)
② 総エネルギー必要量の算出:1500 ml(簡易計算 体重×25-30 kcalより)
③ アミノ酸投与量の決定:中等度ストレスがあると評価して1.5 g/kg体重/日。この75 gは,10%アミノ酸製剤なら750 ml。カロリーは4 kcal/g×75 g=300 kcalです。
④ 脂質投与量の決定:総エネルギー必要量の30 %として約450 kcal,10 %脂肪製剤450 mlを4時間以上かけて,中心静脈栄養とは別ルートで補います。
⑤ 糖投与量の決定:残り350 ml分,700 kcal分を50%ブドウ糖液350mlで補う。
⑥ 電解質・ビタミン・微量元素を加える。
⑦ 脂質を抜かしたものをすべてミックスして,中心静脈栄養液のパックとします。投与速度は投与水分量を24時間で割ります。1500 ml÷24 (h),約62 ml/hとなります。


【5】経腸栄養の重要性

 今や救急・集中治療では腸を使える状態では積極的に初病日より経腸栄養を開始することが常識となりました。この考えの基本として,腸管免疫に大切さが強調されています。私は,初病日から炎症の落着する時期までは,持続投与で20 mL/hのラコールⓡかオキシーパⓡを用いています。6時間毎に胃内容物を吸引して,胃液生産量とともに,経腸栄養吸収量を評価しています。炎症の落着とともに,投与量を10 mL/ずつ増量させ,50~60 mL/hを完成状態と評価しています。病棟移行に合わせて,経腸栄養を1日3回の間歇的投与へ変更するか,軟食開始としています。

(1)Bacterial Translocation(BT)―サイトカインストーム―
 Bacterial Translocationは腸内細菌や真菌が腸管壁を通過して,腸間膜リンパ節や門脈などに侵入する現象のことです。通常は胃液,膵酵素,胆汁,腸粘膜上皮細胞,腸管粘液,腸管運動,腸管付属リンパ節装置が,消化管からのBacterial Translocationを抑制しています。絶食が3日を越えるとBacterial Translocationが生じてくるといわれています。Bacterial Translocationを予防するには,腸を蠕動運動させることが大切です。腸を動かすためには,交感神経緊張を適度に緩和すること,経腸栄養を可能な限り早期から開始することが大切です。

(注)腸管付属リンパ節装置:GALT(gut associated lymphoid tissue)
 パイエル板,孤立リンパ小節,粘膜固有層,上皮細胞間に存在して,消化管免疫に関与しています。消化管運動により,液性免疫IgAを産生し,分泌しています。この腸管免疫は腸管局所だけではなく,全身性に免疫機能をもたらすことが知られており,肺炎を起こしにくくなるという報告があります。腸を可能な限り早くから使うほうがよいとする根拠となっています。

(2)Immunonutrition:免疫賦活のための栄養剤
 グルタミンは小腸上皮細胞や腸管付属リンパ節装置の重要なエネルギー基質であり,腸虚血で産生されるフリーラジカルを除去するグルタチオンの合成に必修なアミノ酸です。グルタミン12-20g/日以上の経腸投与が腸管免疫の賦活化に有効であるといわれています。また,ω-3系脂肪酸投与による抗炎症作用,粘膜下血流増加作用,腸上皮増殖促進作用が注目されているほか,アルギニンによる免疫力増強作用などが知られています。現在は,これらを含有するラコール®やインパクト®が経腸栄養剤として利用されています。

(3)食物繊維
 食物繊維は腸内細菌叢の維持,糞便量増加,耐糖能改善,コレステロール上昇抑制機能があります。


【6】急性期の血糖コントロール

重症病態の急性期は生体侵襲に対する急性相反応,カテコラミン投与,インスリン抵抗性により高血糖となりやすいことを既に記載しました。この高血糖をどこまで容認するかに対して,アメリカ集中治療医学会(Society of Critical Care Medicine)は,Surviving Sepsis Campaign guidelinesを公表しています。インスリンを積極的に用いて血糖値を150mg/dl(8.3 mmol/L)以下に調節するのがよいとしています。適切な血糖値調節により重症患者の死亡率を軽減できることが報告されています。これは,別講を参考としてください。

【おわりに】
 重症病態であっても,腸が使用できる状態であれば可能な限り早期から経腸栄養を導入することが望ましいと考えられています。私は,初病日の6時間以内から経腸栄養を併用しています。生体侵襲の急性相反応においては,炎症性サイトカインの影響により,血糖値があがりやすい傾向があります。このような反応は,十分な輸液と利尿により軽減できます。特に,侵襲の第5病日から炎症の落着を得た状態からは,経腸栄養により十分なタンパクを補充することが,不可欠と考えています。不十分な栄養投与とすることは,2次感染の原因となるばかりか,さまざまな細胞の細胞内情報伝達の2次性修飾を加え,望ましくないと考えられるようになっています。重症病態といえども,十分な栄養により免疫力を守り,痩せを防ぎ,生体の感染防御を整え,早期離床を心がけることになります。このタイミングを立案し,計画を遂行することにより,重症病態が再び重症にいたることを軽減できます。本講を,栄養評価の基本的な考え方,中心静脈栄養の組み立て方,経腸栄養の有効性の理解にお役立てください。研修の皆さんからは,栄養は謎だというお話をよく聞きます。こういう治療の成功を実感する場所が,集中治療室です。

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講義 術後創感染に予防と栄養管理

2008年05月25日 04時16分11秒 | 講義録・講演記録 3
京都大学大学院医学研究科
初期診療・救急医学分野
准教授
松田直之


1. はじめに

 術後創感染(SSI: surgical site infection)を予防するために,栄養管理や血糖管理は重要な意義を持つ。手術による急性相反応は,術中より始まり24時間~48時間までは干潮相(ebb phase)と呼ばれ,その後,満潮相(flow phase)に移行し,代謝亢進や窒素排泄が増加する(図)1, 2)。このような急性相反応におけるエネルギー需要は,手術侵襲に伴う交感神経緊張と炎症性サイトカインにより導かれる。術後満潮相に合併するSSIは,生体に2次的侵害刺激(2nd hit, 2nd attack)として働き,干潮相を再燃させ,敗血症として創傷治癒を遷延させる。本稿では,SSI対策を栄養管理と血糖管理の側面より論じる。




2. 術前の栄養状態の見直し

 術前栄養管理は,特に低栄養患者のSSI発症の軽減に重要な意義を持つ。低栄養患者が胃切除術,肝切除術,食道切除術,膵頭十二指腸切除術,頭頚部癌切除手術などの中等度以上の炎症性手術を受ける場合,術後には蛋白異化亢進と免疫低下を伴い,SSIを発症しやすい。古くは,1970年代にLongらにより急性期のさまざまな病態における蛋白異化が報告されており,炎症性サイトカインの上昇が少ないと考えられる待機的手術であっても,術後14日までは満潮相として1日窒素排泄量が正常範囲の8 g/日を越えて高められる結果となっている2)。このような待期的手術に術前低栄養が誘因となり,感染症が2nd hitとして付加されると,1日窒素排泄量は15g/日を超えてさらに高められる2)。術前の栄養状態の改善は,このような術後に生じる急性衰弱に対する蛋白蓄積の予備を与え,術後の免疫低下やイオンチャネル発現や細胞内情報伝達減弱に伴う細胞死を抑制する意義を持つ。
 現在,やせの栄養評価としては,主観的包括的評価(SGA: subjective global assessment)と客観的栄養評価(ODA: objective data assessment)が用いられている。SGAでは,患者病歴として体重変化,食物摂取変化,消化器症状,身体機能,疾患と栄養量の評価をもとに,身体所見として皮下脂肪消失(上腕三頭筋,側胸筋),筋肉消失(大腿四頭筋,三角筋),浮腫(踝部,仙骨部)および,胸水と腹水の有無を評価し,最終的にA~Cの3段階でSGAグレードを定める(表)3, 4)。SGAは,病歴や理学所見より得られる主観的評価であるものの,習熟によりODAと一致するようになり,術前栄養評価に優れている4)。欧州静脈経腸栄養学会(ESPEN)は,術前栄養管理を必要とするリスク因子として,①SGA グレードC,②体重減少率>10-15%/6ヶ月,③body mass index(BMI)<18.5 kg/m2,④肝不全や腎不全を認めない血清アルブミン濃度<3.0g/dLの4項目を挙げている5)。
一方,ODAとしては,①クレアチニン,②アルブミン,③コレステロール,④コリンエステラーゼ,⑤rapid turnover protein(トランスフェリン,プレアルブミン,レチノール結合蛋白),⑥窒素バランス,⑦総リンパ球数などの臨床検査が有用である。血清クレアチニン値は腎機能が正常である場合に筋肉量を反映し,血清アルブミン値は半減期21日レベルの栄養状態,血漿コリンエステラーゼ濃度は半減期7日レベルの栄養状態を反映する。肝硬変を認めない場合には,蛋白合成の指標として血漿コリンエステラーゼ濃度,脂質栄養状態として総コレステロール濃度が利用できる。また,急性衰弱の評価には,rapid turnover proteinとして,半減期約7日のトランスフェリン(正常値:190-340 mg/dL),半減期約3-4日のプレアルブミン(正常値:22-42mg/dL),半減期約半日のレチノール結合蛋白(正常値:3.6-7.0mg/dL)が有用である。術後は,尿中尿素量を測定することにより,窒素バランス=アミノ酸投与量(g/日)÷6.25-尿中窒素(g/日)×1.25が負であれば蛋白異化亢進,正であれば蛋白同化優位と評価できる。結果として,免疫能の評価には,総リンパ球数を評価するとよい。
 このようなSGAやODAを用いて,術前栄養状態の改善は包括的に行われるべきであり,SGA グレードCレベルの栄養状態の回復には2週間ほどを必要とするものの,十分な術前栄養補正により術後SSI発症を抑制できる6, 7)。ESPENの栄養ガイドラインでは,栄養不良のリスクのない患者においても,術前5-7日のω3系脂肪酸を含む経腸栄養をSSI発症予防として推奨している5)。経腸栄養が施行できない場合には,中心静脈から十分なアミノ酸を供給することで,術前栄養状態を整え,SSI発症の予防とするとよい。




3. 術後栄養管理とSSI

 術後24時間~48時間までの干潮相では,グルカゴン上昇とインスリン分泌低下に加え,インスリン抵抗性が惹起されるため,グルコース負荷により外科的糖尿病(surgical diabetes)となり,高血糖となりやすい。この時期の外来的インスリン投与は,炎症性修飾によりインスリン受容体シグナルが減弱しているため,必ずしも有用ではない8, 9)。干潮相を過ぎると,満潮相としてエネルギー需要が高まるため,手術侵襲にあわせたエネルギー投与が必要となる(図参照)。
 中等度侵襲では基礎エネルギー消費量の1.4倍にあたる約30 kcal/kg/日,高度侵襲手術では基礎エネルギー消費量の1.6倍にあたる35 kcal/kg/日が術後3日レベルより推奨されている。しかし,実際には,アミノ酸補充を中等度外科侵襲で1.0-1.4 g/kg/日,高度外科侵襲で1.5-2.0 g/kg/日とし,脂質補充を10-20%の基準より30%に高めても,理想通りの栄養負荷を行うと高血糖となる場合が多く認められる。外科的侵襲後の満潮相といえども,その初期にはグルコース利用が低下しており,糖質としてはグルコースの次にフルクトースやマルトースの利用効率が低下する。しかし,キシリトールやソルビトールは利用効率に影響を受けにくいことが知られている。このような観点より,術後や糖尿病病態の耐糖能改善にはグルコース:フルクトース:キシリトールを4:2:1あるいは2:1:1に配合した混合糖質液(GFX)が有効する報告がある10, 11)。
 このように,術後満潮相の栄養としては,筋で主に代謝される分枝鎖アミノ酸を30-36%程度含むアミノ酸をまず十分に補充し,筋のやせを減少させる一方で,脂肪乳剤投与を10-30%レベルの範囲で調節し,高血糖合併に留意しながら糖質投与量を決定する。高血糖持続は,SSI合併の誘因となる可能性があり,安易にグルコース負荷を高めないことに留意しなければならない。


4.術後早期経腸栄養のすすめ

 中心静脈栄養に比較して,経腸栄養により2次性感染症の合併率が低下し,死亡率が低下することが多くの臨床研究で検証されている12)。現在,早期経腸栄養は,急性期病態の24時間以内と定義されているが,経腸栄養を開始するにしても,急性期の24時間以内の早期に開始することで,感染症合併率が低下し,院内死亡率も低下することが検証されている13)。直腸切除術後などの腸管損傷がある場合でも,24時間以内の経腸栄養により肺炎などの感染症リスクが低下し,死亡リスクは41%に減少すると報告されている14)。
 術後急性期管理における実際の経腸栄養管理は,間欠的投与ではなく持続的投与が一般的である。経腸栄養剤を持続投与することにより,急性期のインスリンを用いた血糖管理が安定しやすい。我々は急性期患者管理において,中心静脈栄養と平行し,経腸栄養剤を初病日より20 mL/hで開始している。腸蠕動音が確認できない場合でも,経腸栄養を開始することで,腸蠕動が確認できるようになる場合が多い。また,経腸栄養チューブは可能な限り12指腸に留置することにより,嘔吐の危険を減じている。6時間ごとに栄養チューブの吸引により貯留液量を確認し,回収量の減少により段階的に経腸栄養剤投与を増量させている。経腸栄養剤20 mL/hの持続投与の6時間後に回収液量が120 mLを超える場合も散見されるが,このようなケースでは胃酸分泌が亢進しており,プロトンポンプインヒビターを併用するようにしている。経腸栄養の進み方と栄養担当量を1日ごとに評価し,1日ごとに中心静脈栄養速度を10 mL/hずつ増加させ,中心静脈栄養を減量している。
 このような経腸栄養において,特に炎症期にエイコサペンタエン酸やγ-リノレン酸の功能が期待されている。Arrudaら15, 16)は,ブラジルの3つのICUにおけるsequential organ failure assessment(SOFA)スコア8.6~8.8レベルの重症敗血症患者165名を対象とした前向き臨床研究により,エイコサペンタエン酸とγ-リノレン酸を含有する経腸栄養剤が,炎症を軽減し,ARDS罹患期間を短縮し,人工呼吸管理日数を減じ,死亡率を67.3%から47.3%に高めたと報告している。一方,耐糖能異常の強い場合は,脂肪含有の多い経腸栄養剤や食物繊維含量の増加により,血糖値を正常化させやすい。術後SSIを阻止するに当たり,早期経腸栄養と経腸栄養成分にも十分に留意する必要がある。


おわりに

SSIを予防するために,栄養管理や血糖管理は重要な意義を持つ。手術にあたっては,術前に栄養状態を十分に評価し,低栄養を改善することが必要である。免疫力を維持することで,SSI発症が低下する。術後は,干潮相から満潮相へ移行する術後3日レベルから,十分なカロリーとアミノ酸を補うことが必要だが,高血糖はSSI発症の単独リスクとして働く可能性がある。SSI発症の予防には24時間以内に開始される早期経腸栄養が有効であり,術後早期からの経腸栄養開始が期待される。経腸栄養は1日でも早く開始することで,腸管蠕動を容易に回復させることができるとともに,SSI発症を低下できる。


文献

1. Cuthbertson D, Tilstone WJ: Metabolism during the postinjury period. Adv Clin Chem, 12:1-55, 1969.
2. Long CL, Schaffel N, Geiger JW, Schiller WR, Blakemore WS: Metabolic response to injury and illness: estimation of energy and protein needs from indirect calorimetry and nitrogen balance. JPEN J Parenter Enteral Nutr, 3:452-456, 1979.
3. Detsky AS, McLaughlin JR, Baker JP, Johnston N, Whittaker S, Mendelson RA, Jeejeebhoy KN: What is subjective global assessment of nutritional status? JPEN J Parenter Enteral Nutr, 11:8-13, 1987.
4. Barbosa-Silva MC, Barros AJ : Indications and limitations of the use of subjective global assessment in clinical practice: an update. Curr Opin Clin Nutr Metab Care, 9:263-269, 2006.
5. Weimann A, Braga M, Harsanyi L, Laviano A, Ljungqvist O, Soeters P; DGEM (German Society for Nutritional Medicine), Jauch KW, Kemen M, Hiesmayr JM, Horbach T, Kuse ER, Vestweber KH; ESPEN (European Society for Parenteral and Enteral Nutrition): ESPEN Guidelines on Enteral Nutrition: Surgery including organ transplantation. Clin Nutr, 25:224-244, 2006.
6. Figueiredo F, Dickson ER, Pasha T, Kasparova P, Therneau T, Malinchoc M, DiCecco S, Francisco-Ziller N, Charlton M: Impact of nutritional status on outcomes after liver transplantation. Transplantation, 70:1347-1352, 2000.
7. Pham NV, Cox-Reijven PL, Greve JW, Soeters PB: Application of subjective global assessment as a screening tool for malnutrition in surgical patients in Vietnam. Clin Nutr, 25:102-108, 2006.
8. 松田直之: 敗血症における遺伝子発現変化―主要臓器の警笛細胞を標的とした遺伝子治療―. 麻酔, 57:327-340, 2008.
9. 松田直之: 全身性炎症反応症候群とインスリン受容体シグナル. ICUとCCU, 32:833-844, 2008.
10. Nakai T, Tanimura H, Mori K, Yamoto H, Sahara M, Shimomura T: Total parenteral nutrition in posthepatectomy patients. Nutrition, 9:323-328, 1993.
11. Ahnefeld FW, Bässler KH, Bauer BL, Berg G, Bergmann H, Bessert I, Dick W, Dietze G, Dölp R, Dudziak R, Förster H, Geser CA, Grunst J, Halmagyi M, Heidland A, Heller L, Horatz K, Kuhlmann H, Kult J, Lutz H, Matzkies F, Mehnert H, Milewski P, Paulini K, Pesch J, Peter K, Rittmeyer P: Suitability of non-glucose-carbohydrates for parenteral nutrition. Eur J Intensive Care Med, 1:105-113, 1975.
12. Peter JV, Moran JL, Phillips-Hughes J: A metaanalysis of treatment outcomes of early enteral versus early parenteral nutrition in hospitalized patients. Crit Care Med, 33:213-220, 2005.
13. Marik PE, Zaloga GP: Early enteral nutrition in acutely ill patients: a systematic review. Crit Care Med, 29:2264-2270, 2001.
14. Andersen HK, Lewis SJ, Thomas S: Early enteral nutrition within 24h of colorectal surgery versus later commencement of feeding for postoperative complications. Cochrane Database Syst Rev, CD004080, 2006.
15. Pontes-Arruda A, Aragão AM, Albuquerque JD: Effects of enteral feeding with eicosapentaenoic acid, gamma-linolenic acid, and antioxidants in mechanically ventilated patients with severe sepsis and septic shock. Crit Care Med, 34:2325-2333, 2006.
16. Pontes-Arruda A, Demichele S, Seth A, Singer P. The use of an inflammation-modulating diet in patients with acute lung injury or acute respiratory distress syndrome: a meta-analysis of outcome data. JPEN J Parenter Enteral Nutr, 32:596-605, 2008.

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鳥インフルエンザ対策

2008年05月21日 10時31分47秒 |  ひまわり日記
 昨日,秋田県内で病原性の高い鳥インフルエンザの発生があったことを受けて,文部科学省より注意喚起がありました。鳥インフルエンザの感染を防ぐため,各自が下記のように対応していますので,ご注意下さい。京都市内は,鴨川に野鳥が生息しています。この界隈には,ホームレスも宿を設ける傾向があります。こうしたホームレスへの行政介入も必要でしょう。救急部には,ホームレスの上気道炎や呼吸不全の搬入の依頼もありますので,病院前トリアージの段階で十分に注意して対応することが必要となります。安易に病院内に持ち込まないことが,院内の重症患者さんの保護のつながると評価しています。本年は,京大病院救急部においても,この対策会議を多く設け,外来トリアージシステムの確立を完了させる方針です。

京都には野鳥が生息している。鳥を飼育しているものは,さらに注意が必要である。

1.野鳥への対応
(1)野鳥にはなるべく近づかない。近づいた場合には,手洗いを徹底し,うがいを十分にする。
(2)死んだ複数の野鳥を発見した場合には,手で触らず,学校や教育委員会、獣医師,家畜保健衛生所又は保健所に連絡する。
※病院構内や学内で死んだ野鳥を発見した場合は,総務掛まで連絡する。

2.飼育動物の適切な管理
鳥や動物を飼育している場合には,それらが野鳥に接触しないようにする。このため,放し飼いはしない。野鳥の侵入や糞尿の落下などを防止するために,飼育施設にトタン板等の屋根を設けるなどの適切な措置を講じる必要がある。

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症例 百日咳を考える

2008年05月15日 00時02分47秒 | 救急医療

 百日咳への罹患を心配して,1985年生まれ23歳の患者さんが,受診した。咳が2週間止まらないという。そして,百日咳と診断された30才の同僚のそばにいたという。1985年,この時期は,DPT三種混合ワクチンが再開されている時期であるが,1970年代生まれの方は「百日咳ワクチン」を受けていない。また,ワクチンを受けていたとしても,軽症として百日咳に罹患する可能性はある。既に他界した私の父は小児科医であり,九州帝国大学医學部の小児科で,百日咳毒素やβガラクトシダーゼの研究,百日咳ワクチンの開発を行っていた。彼の学位は,「百日咳の病態に関する研究」である。僕は,子供の頃,百日咳の研究や乳糖の話をよく聞いたものだった。


百日も咳をするのか?

 百日咳(pertussis, whooping cough )は,グラム陰性桿菌である百日咳菌(Bordetella pertussis )の感染による気道感染症である。コンコンコンコンコン,連続した短い咳がスタッカート様に連続的に起こり,さらに吸気時に笛のようなヒューという笛音(whoop)が聴取でき,この様な繰り返される咳嗽発作が「レプリーゼ」と呼ばれている。感染経路は,飛沫感染と接触感染である。マスクと手洗いで予防可能である。大人の場合は通常見過ごされることが多く,定型的な症状を示さぬ場合のほうが多いようだ。百日咳菌は,1906年にJules-Jean-Baptiste-Vincent Bordet とOctave Gengou が発見したため,Bordet-Gengou 菌( ボルデ・ジャング菌; Bordet-Gengou bacillus; bacillus of Bordet and Gengou )とも呼ばれている。
 百日咳の発症機序には,百日咳菌の細胞構成成分や生物活性物質が関与している。線維状血球凝集素(FHA),パータクチン,凝集素(アグルチノーゲン2・3)などのアンカー蛋白,百日咳毒素(pertussis toxin),気管上皮細胞毒素などが,気道攣縮作用を惹起するようである。しかし,この詳細については,より理解を深めていかねばならない。


【百日咳の疫学とワクチン】 

 WHO の発表では,世界の百日咳患者数は年間2,000ー4,000 万人レベルであり,その約90%は発展途上国の小児であり,死亡数は約20ー40 万人である。1歳以下の乳児,特に生後6 カ月以下では死に至る危険性も高く,現在は,百日咳ワクチンを含むDPT 三種混合ワクチン接種(ジフテリア・百日咳・破傷風)が,本邦でも実施されている。
 本邦における百日咳(P)ワクチンは,1950年からの予防接種法でワクチンに定められた時点から始まり,1958年の予防接種法改正ではジフテリア(D)との混合のDP 二種混合ワクチンとなり,さらに1968(昭和43)年からは破傷風(T)を含めたDPT 三種混合ワクチンとして,定期接種として広く施行されていた。しかし,1970年代からは,DPT ワクチンのうち,百日咳ワクチンによる脳症などの重篤な副反応が問題となり,1975年2月に百日咳ワクチンを含む予防接種は中止となった。これにより,1979年には百日咳の年間の届け出数は約13,000 例に増加し,死亡者数は約20~30例に増加した。この当時の百日咳ワクチンは全菌体ワクチンであり,これが,髄膜炎や脳症の誘因となることより,無細胞ワクチン(acellular vaccine)の開発が急がれた。1981年より無細胞ワクチン(Pa)が臨床使用されるようになり,現在は生菌ではないワクチンが利用できるようになり,本邦における百日咳による幼児の罹患率と死亡数が激減した。さらに,これら現行のDPaT ワクチンの安全性の確認の後,1994年10月からはDPaT ワクチンの接種開始年齢が,以前の2歳から3カ月に引き下げられた。
 標準的なワクチン接種は,第Ⅰ期初回接種として,生後3か月から12か月までの間に3-8週間隔で三種混合ワクチン(DTaP)を3回,接種する。さらに,第Ⅰ期初回接種を終了してから12-18か月後に第Ⅰ期追加接種として,三種混合ワクチン(DTaP)を1回接種する。すなわち,4回の三種混合ワクチン(DTaP)が推奨されている。

【臨床症状】

臨床経過は,3期に分けられる。

1.カタル期(約2週間持続)
通常7~10日間程度の潜伏期を経て,普通のかぜ症状で始まり,次第に咳の回数が増えて程度も激しくなる。

2.痙咳期(約2~3週間持続)
発作性けいれん性の咳(痙咳)が出現する。発熱はあっても微熱程度であり,38度を超えにくい。息をつめて咳をする傾向があり,顔面の静脈圧が上昇し,顔面浮腫,眼球結膜出血,鼻出血などが見られることもある。非発作時は無症状であるが,何らかの刺激が加わると発作が誘発される。また,夜間に発作が多い。年令が小さいほど症状は非定型的であり,乳児期早期では特徴的な咳がなく,単に息を止めているような無呼吸発作からチアノーゼ,けいれん,呼吸停止と進展することがあるので,百日咳を念頭に入れた注意が必要である。

3.回復期(3 週~)
激しい発作は次第に減衰し,2~3週間で認められなくなるが,その後も時折忘れた頃に発作性の咳が出る。全経過約2~3カ月で回復する。

 
【診 断】

 確定診断のためには,鼻咽頭からの百日咳菌の分離同定が必要である。ボルデ・ジャング(Bordet ‐Gengou)培地やCSM (cyclodextrin solid medium )などの特殊培地での培養が必要である。菌はカタル期後半に検出され,痙咳期に入ると検出されにくくなるため,菌の分離同定が得られない場合もある。血清診断では百日咳菌凝集素価の測定が行われることが多く,ペア血清(2 週間以上の間隔)で4 倍以上の抗体価上昇があるか,シングル血清で40 倍以上であれば診断価値は高いと考えられている。また,現在は,ELISA 法による抗PT 抗体,抗FHA 抗体の測定や,PCR 法による検出も可能である。血液分画では,リンパ球が増加する。

【治 療】

1. 抗菌薬の選択
 百日咳菌の治療には,エリスロマイシン,クラリスロマイシン,アジスロマイシンなどのマクロライド系抗菌薬が用いられる。これらは特にカタル期に有効とされている。患者からの菌の排出は咳の開始から約3週間持続するが,エリスロマイシンやクラリスロマイシンによる適切な治療により,服用開始から5日後には菌の分離は,ほぼ陰性となる。しかし、再排菌などを考慮すると、抗生剤の投与期間として2週間は必要であると思われる。年齢や予防接種歴に関わらず,家族や濃厚接触者にはエリスロマイシンかクラリスロマイシンかアジスロマイシンを,10~14日間予防投与する。疑わしき場合は,呼吸器内科でのフォローを依頼することが望ましい。一般医に,咳喘息と診断されて,きちんと調べられていない場合も認められる。

2.鎮咳
痙咳に対しては,去痰剤や気管支拡張剤などが使われる。

3.IVIG
重症例では抗PT 抗体を期待してガンマグロブリン大量投与も検討する。

集中治療の適応として,理解を深めておきたいところである。


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