救急一直線 特別ブログ Happy保存の法則 ー United in the World for Us ー

HP「救急一直線〜Happy保存の法則〜」は,2002年に開始され,現在はブログとして継続されています。

2022年(令和4年)10月4日 医師届出票「集中治療科」追加について

2022年10月08日 06時47分45秒 | 救急医療

診療科名としての「集中治療科のお知らせ

 "Intensive Care Department/Critical Care Department" as a clinical department name

 

日本集中治療医学会 

名古屋大学大学院医学系研究科 救急・集中治療医学分野

松田直之

Naoyuki Matsuda MD, PhD

 

 医師届出票(医師法施行規則第2号書式)において,「従事する診療科名等」の欄に「集中治療科」が追加されることが,2022年10月4日付けで厚生労働省より発出されました。

2022年10月4日付の「医師法施行規則等の一部を改正する省令の公布等について(通知)」

(内容の一部抜粋)
2.改正の概要
(1)医師法施行規則の一部改正について
○ 新型コロナウイルス感染症拡大下において,集中治療に従事する医師の重要性が認識される中,地域における集中治療提供体制を適切に把握するため,「従事する診療科名等」の欄について、「集中治療科」を追加する。

(私のコメント)
 集中治療室(Intensive Care Unit:ICU)の運営と管理は,高度急性期病院また急性期病院において不可欠となっています。また,今後,欧州の高度急性期病院のようにICUの病床数が増加することにより,集中治療医や集中治療関連職種の専門性を育成することが不可欠となります。集中治療医学も,急性期管理医学として専門性の高い高度な学術として発展し,更に発展すると予想されます。

 救急科,麻酔科,多くの専門診療科の皆さんが,後に高度急性期病院で集中治療専門医として勤務される場合,「集中治療科」を運用されることになることでしょう。本邦における「集中治療科」の益々の発展に向けて,日本集中治療医学会,集中治療専門医の皆で尽力させていただきます。


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救急医療 手指衛生レベルを高めるための工夫 〜直接観察法〜

2022年09月01日 08時11分19秒 | 救急医療

手指衛生レベルを高めるための実践的工夫

~手指衛生:「直接観察法」の活用の薦め~

 

名古屋大学医学系研究科 

救急・集中治療医学分野

松田直之

 

はじめに

 救急初療室(Emergency Room:ER)や集中治療室(Intensive Care Unit:ICU)における診療では,「感染防御策」が,感染症による2nd アタックや院内感染防御としてとても大切です。通常の診療時から,適切に手指衛生を意識して活動する習慣を大切にしています。救急科専門医,集中治療専門医,そしてスタッフの皆さんには,手指衛生の適切な指導を行うようにします。ERやICUでは,普段から適切に手指衛生を行なう教育が必要です。

 手指衛生におけるキィ・ワードとしては,まず,世界保健機関(World Health Organization:WHO)の「5 moments:5つの瞬間」があります。この「5 moments:5つの瞬間」を知識として知るだけではなく,実施できる環境を目標とすることが期待されます。

 「5 moments:5つの瞬間」では,手指衛生ができているかの評価者として「直接観察法」を体得し,ERやICU内で定期的に「直接観察法」を実施し,評価者となることをお薦めします。心肺蘇生,外傷診療,心筋梗塞診療,敗血症診療,さまざまな救急・集中治療診療と同様に,手指衛生のタイミングと実技を観察し,評価してあげ,ポジティブかつ適切にフィードバックされて下さい。

 

WHOの提唱する手指衛生の5 moments(5つの瞬間)

 WHOは,2005 年にグローバル患者安全チャレンジ(Global Patient Safety Challenge)を開始し,その一貫として2009 年に「手指衛生の 5 つの瞬間」を導入しています。2009 年に5月に,「SAVE LIVES ーClean Your Hands」を公表しました。

 手指衛生は,適切な方法で行う「医療技術」です。つまり,テクニックです。まず,擦式アルコール手指消毒の適切な方法として,① 手のひら,② 指間,③ 手背,④ 母指,そして手掌はタコを含めてなど,アルコール手指消毒は感染防御のための重要な「医療技術」でした。⑤ 手首を私は含めていますが,WHO自体は手首は重視していないようです。その一方で,擦式アルコール手指消毒を行う瞬間の教育,手指消毒のタイミングに対する「確認&いいね&フィードバック教育」が,とても大切と考えられています。WHOの提唱する手指衛生の5 moments(5つの瞬間),ここをしっかりできているかどうかを,救急初療,集中治療管理の中でも確認し,評価し,より良くなるためのポジティブフィードバックとして参りましょう。 

 手指衛生の5 moments(5つの瞬間)は,私たちが「患者ゾーン」と呼ぶ,1)患者さん,2)患者さんのベッド・テーブル・周辺・物品,3)カーテン,4)移動場所において実施されます。お手洗いやリハビリ等で移動するスペースも患者ゾーンとなります。ERやICUにおいて,医療従事者の皆が「患者ゾーン」を理解していることが大切です。ICUの個室以外ではベッド入り口に70 cm幅ブルーラインを設置する工夫を私は以前に提案しました。また,床の色調替えなどは施設内での工夫となります。患者ゾーンの把握と区分けという意味として,「ゾーニング」の理解も大切となります。

※ 5 momentsは「にまえ・さんご(2つの前・3つの後)」(と私は覚えています)

 □ 1の瞬間:患者さんに接する「前」

 □ 2の瞬間:清潔/無菌操作の「前」

 □ 3の瞬間:体液暴露リスクの「後」

 □ 4の瞬間:患者さんに触れた「後」

 □ 5の瞬間:患者さんの周囲環境に触れた「後」

 

手指衛生の5 moments(5つの瞬間)の診療教育

 実際の診療において定期的に,手指衛生の5 moments(5つの瞬間)ができているかどうかを観察し,評価してあげる「直接観察」,「直接評価」を実施できるとよいです。「直接観察」のチェックシートの例(図1/図2),「直接観察」の時系列記載用チェックシートの例(図3)などをご参照下さい。ERやICUのベッドサイドにおいて,このような「評価シート」を用いて接触感染予防の適正診療をクロスモニタリングします。手指衛生のタイミングの遵守のために,重要な教育になります。

 ERやICUでは,1人の評価者は,理想は2名の診療者の評価までとしますが,最大で3名の診療者の評価までとします。評価表(図2など)の□(四角)にチェックを入れ,手指衛生の未実施においては手袋を着用したままでの診療であれば◯(丸)にチェックします。

 1~5までの瞬間の評価において,1&4,1&2&5などのように,2重,3重,4重の複数のチェックとなる場合があります。その上で,4&5の重複評価はありません。4&5については患者さんに触れる際には患者さんに先に触れたことを優先し,そこで約束事として患者さんに接触した後の「4の瞬間」のみの評価とします。

 評価者の役割は,評価される診療者が,5 moments(5つの瞬間)を意識しているかどうかを評価することと,ポジティブにフィードバックすること,次の診療にプラスに生かされることを目標とします。

 

ERおよびICUにおける手指衛生のタイミングの5本ノック

□ 患者さんに接する直前に手指消毒をする。

□ 患者診療で体液暴露リスクがある場合は手袋を着用する。

□ 患者さんに触れた直後に手指消毒をする。

□ カーテンを閉めた後に手指消毒をする。

※ カーテンは周囲環境に含まれます。一生懸命仕事をしている時に,「カーテンをジャーとしめる」ことを慎みましょう。カーテンは丁寧にゆっくりと閉め,その後に「5の瞬間」として,手指消毒することに注意しましょう。加速度を付けてカーテンを閉めることは,患者さん,ご家族,他の医療従事者に不快な印象を与える場合がありますので,すべて「所作」に注意して診療する訓練をしましょう。一方で,カーテンを閉める前に手指衛生をし,患者さんの診療に当たるのは不適切です。5 moments(5つの瞬間)の規則では,カーテンを閉めた後に手指消毒をすることになります。

※ 患者周囲環境に触れる前の手指衛生は不要です。

□ 2名を連続で診療する場合は,1人目の患者さんへの接触前後で手指衛生し,2人目の患者さんの診察前にカーテンを触れたなどの環境接触の危険があれば手指衛生します。

 

おわりに

 ERは院外からの多剤耐性菌や新興感染症を持ち込むリスクのある部門です。そして,ICUは院内外の重症患者さんの診療部門として,院内外の薬剤耐性菌が持ち込まれ,また医療従事者を介して院内へ播種させる可能性のある部門です。この感染予防策として,手指衛生の徹底がとても大切です。WHOは,手指衛生の多角的戦略として,「5 compornants:5つの要素」と「 5 morments:5つの瞬間」を掲げています。本稿では,「 5 morments:5つの瞬間」を充実させるためのERとICUにおける工夫について解説しました。病原微生物の伝播阻止として,「5 compornants:5つの要素」という医療技術の安定を考えましょう。

※ 日本環境感染学会と日本集中治療医学会はWHOの指導下で,このような指導者養成コースをTrain the Trainers in Hand Gygiene(TTTコース)として開催しています。TTTコース,ご参加につきましても,ご検討下さい。

  図(参照) 

図1.手指衛生 直接観察 評価フォーム(ER/ICU)

 

図2.手指衛生 直接観察 評価フォーム(記入例)

 

図3.手指衛生 直接観察 連続評価フォーム


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救急外来 小児感染症 感染症の登校基準

2022年04月01日 18時35分55秒 | 救急医療

救急外来 小児感染症 感染症の登校基準

救急科指導医・専門医/集中治療科 専門医

松田直之

 

【はじめに】感染症の登校基準として,救急外来での参考とします。

 

【病名】

□ インフルエンザウイルス

  □ 潜伏期間 :1-4日

  □ 登校基準:発熱後5日経過,そして解熱後2日経過

    例)◯ 発熱後3日後に解熱し,さらに2日経った場合:発熱後5日ですが,解熱後2日が経過ししているので6日目に通学した。

 

□ 百日咳

  □ 潜伏期間 :7-10日

  □ 登校基準:特有の咳が消失するまで,または抗菌薬の5日間投与の終了日まで

  □ 知識:遅延生咳嗽:グラム陰性細菌である百日咳菌(Bordetella pertussis)の感染により主に小児あるいは学童に発生します。上気道感染症状が出現した後に,長い吸気性笛声(whoop)や痙攣性咳嗽(痙咳)を特徴とします。診断は,上咽頭液細菌培養検査,ポリメラーゼ連鎖反応検査(PCR検査)です。治療は,マクロライド系抗菌薬です。咳として,理解しておく用語は,急性咳嗽と遅延性咳嗽です。一般に,発症後3 週間以内までを「急性咳嗽」,3 週間以上 8 週間以内を「遷延性咳嗽」,8 週間以 上を「慢性咳嗽」と定義しています。百日咳は,遅延生咳嗽の代表的な疾患です。慢性咳嗽で注意が必要なものは,1)薬剤:ACE阻害薬,2)逆流性食道炎,3)副鼻腔炎気管支症候群,4)呼吸器疾患既往歴,5)結核です。

 

□ 麻疹ウイルス

  □ 潜伏期間 :8-12日

  □ 登校基準:発疹に伴う発熱が解熱して3日後

  例)◯ 夜に解熱して次の朝から3日が経過したので4日後に通学した:◯

 

□ 風疹(rubella:ルベラ)

  □ 潜伏期間 :16-18日

  □ 登校基準:発疹が消失するまで

  例)◯ 発疹が消失した次の朝に微熱があったが通学した:◯

    ※ 微熱があり,体調が悪いようであれば,クリニックを受診するなど,通学せずに様子を見ることをおすすめします。1)リンパ節腫脹,2)肝機能,3)脱水症,4)電解質異常などに注意します。

 

□ 水痘(水ぼうそう)水痘帯状疱疹ウイルス

  □ 潜伏期間 :14-16日

  □ 登校基準:すべての水疱が痂皮化するまで

  例1)水疱が潰れて皮が向けたので通学した:✗

  例2)水疱がすべてカサブタになったので通学した:◯

  □ 知識:水痘は,水痘帯状疱疹ウイルス(varicella zoster virus:バリセロ・ゾスター ウイルス)による伝染性疾患です。空気感染もするので,注意が必要です。治療には,抗ウイルス薬(アシクロビル,バラシクロビル,ファムシクロビルなど)を使用します。

 

□ 流行性耳下腺炎(おたふく)ムンプスウイルス

  □ 潜伏期間 :16-18日

  □ 登校基準:頸部腫脹の出現後5日が経過し,体調が回復している場合

  例)頸部腫脹があるが5日が経過して学校に行きたい:◯

    ※ 微熱や体調不良がある場合は,通学せずに様子を見ることをお勧めします。1)肝機能,2)脱水症,3)電解質異常などに注意します。

  □ 知識:ムンプスウイルスは,パラミクソウイルス科のウイルスです。4歳が最も多く,続いて5歳と3歳です。

 

□ RSウイルス(respiratory syncytial virus)

  □ 潜伏期間 :4-6日

  □ 登校基準:症状が軽減した場合

  例)微熱があるけれども症状が軽減したので学校に行きたい:◯

    ※ 体調不良が残っている場合は,通学せずに様子を見ることをおすすめします。1)肝機能,2)脱水症,3)電解質異常などに注意します。

  □ 知識:Respiratory syncytial virus(RSV)は年齢に関係なく,生涯にわたって発熱や咳などを起こします。典型パターンは,4~6日間の潜伏期間の後に,発熱、鼻汁などの上気道症状が3日間ほど続くことです。注意しないといけないケースは乳幼児であり,声門下に浮腫や気管支炎をおこし,呼吸困難,低酸素血症となり,未然の救命対応が必要となることです。お母さんからの移行抗体が存在するはずなのですが,生後数週から数カ月の期間にもっとも重症な症状となる可能性があります。

 

□ 咽頭結膜熱(プール熱)(アデノウイルス)

  □ 潜伏期間 :2-14日

  □ 登校基準:発熱と結膜炎の症状が消失して2日経過した場合

  例)発熱と目の症状がなくなり3日が経過したので登校したい:◯

    ※ 体調不良が残っている場合は,通学せずに様子を見ることをおすすめします。1)肝機能,2)脱水症,3)電解質異常などに注意します。

 

□ ヘルパンギーナ(コクサッキーウイルスA群)

  □ 潜伏期間 :3-6日

  □ 登校基準:全身状態が安定した場合

  例)発熱がなくなり,体調も良いので登校したい:◯

  □ 知識:ヘルパンギーナは,夏風邪の代表です。発熱に加えて,口腔粘膜に水疱性の発疹が出現します。3~6 日の潜伏期を経て,突然に発熱と咽頭痛が出現し,咽頭粘膜が発赤します。口腔内の観察が重要であり,軟口蓋から口蓋弓にかけての直径1~2 mmから,5 mm程度の紅暈(こううん)に囲まれた小水疱が観察できます。小水疱の周りを取り囲むような充血所見(紅暈)が水疱の周りに観察できます。

 

□ 流行性角結膜炎(アデノウイルス D/E)

  □ 潜伏期間 :2-14日

  □ 登校基準:目の症状を眼科に評価してもらった後

   例1)目の腫れがひいたので通学した:✗

   例2)眼症状が消失した後に眼科を受診して通学許可をもらった:◯

  □ 知識:流行性角結膜炎(epidemic keratoconjunctivitis:EKC)は,主にD種およびE種のアデノウイルスによる眼症状が出現する疾患です。手で目をこすったりなどの接触感染として,眼瞼浮腫,眼瞼腫脹,流涙が発症します。感染力が強いので,片眼にとどまらずに,両眼に感染し,視界がなくなることにも注意が必要です。


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留意事項 アビガン錠® 催奇形性の適正理解

2020年05月22日 05時16分52秒 | 救急医療

留意事項 アビガン® 催奇形性に対する適正理解:妊婦さんの救急医療

 

名古屋大学大学院医学系研究科 救急・集中治療医学分野

救急科指導医・専門医,麻酔科指導医・専門医,集中治療専門医

松田直之

 

はじめに

 新型コロナウイルスの関連で,薬剤の催奇形性について,救急外来で質問を受けることがあります。妊婦さん,また妊婦さんではない方から催奇形性の質問を受けられた場合は胎盤通過性催奇形性,または神経発達障害などの胎児毒性として,正しく説明することが必要です。その上で,救急領域における妊婦さんの急変対応で胎児毒性や催奇形性として注意するものは,解熱鎮痛薬(インドメタシン,ロキソプロフェン,ジクロフェナク,アセトアミノフェンなど)てんかん治療薬(バルプロ酸),抗凝固薬などです。また,生活習慣としては,タバコ,ニコチン,アルコールは危険であることを,妊婦さんに説明させていただいています。また,新型コロナウイルスSARS-CoV-2やおたふく風邪などのウイルス感染症では,使用する薬剤とは関係なく,精巣や副睾丸や卵巣に病巣を作る可能性がありますので,罹患時には妊娠しにくくなったり,流産や催奇形性などの危険性があります。催奇形性という言葉は,薬剤開発の上で私たちは,とても気をつけなければならない事象なのですが,多くを正しく理解することが必要です。催奇形性の説明として,以下のような説明としていますが,参考とされてみて下さい

 

催奇形性について:具体的説明例として

説明例 1:一般のみなさんへ「多くの薬物は胎盤を通過しますので,妊婦さんでは,薬やその代謝産物が胎児の血液中に入ることによる影響や,催奇形性に注意しています。胎盤を通過しやすいのは,特に分子量が300〜600程度の分子量の小さな薬物です。そして,血漿蛋白との結合率が低い薬物(蛋白結合率の低い薬物)や塩基性薬物は,服用後に血中濃度が高くなりやすいために,胎盤濃度も高くなる可能性があることに注意しています。一般の知識としては,受精後19 日から37日,つまり妊娠約2カ月までは子供さんの臓器などが作られる時期ですので,まず,この妊娠2ヶ月までは胎盤を通過する薬剤はすべて,救急・集中治療では原則として使用していません。」

説明例 2:女性の皆さんへ「皆さんが胎児毒性や催奇形性で一番気をつけるべきものは,タバコ,アルコール,そして頭痛や解熱などに用いる消炎鎮痛薬や解熱薬です。頭痛がするからと妊娠したことを知らないで解熱鎮痛薬を飲むことに注意して下さい多くの解熱鎮痛薬は胎盤を通過するので,胎児に影響が出る可能性が高いのです。妊娠初期に,不注意に解熱薬や鎮痛薬を服用すると子供さんの催奇形性や流産の可能性があります。今は,薬局でロキソニン®やイブ®などの市販薬を,頭痛薬や解熱剤として簡単に購入できます。こうした解熱剤は,非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs:non-steroidal anti-inflammatory drugs)という名目で分類されています。妊娠初期には流産を増加させ,妊娠中期以降は子供さんの動脈管を閉鎖させてしまう危険性があるために,妊娠中の使用は禁止です。39℃とどうしても熱が高く,解熱薬として使用したほうが良い場合,解熱鎮痛薬ではアセトアミノフェンを私たちは処方しますが,アセトアミノフェンですら胎盤通過性があり,子供さんへの影響が完全に否定できるものでもありません。このため,妊娠の可能性がある場合は,妊娠反応検査をさせて下さい。最終月経なども,お聞きするようにしています。」

説明例 3:おじいさんやおばあさんへ「催奇形性というのは,私たちが服用して,私たちが1ヶ月後や10年後に奇形になるというものではありません。催奇形性というのは,まだ生まれてこない子供ちゃん,胎盤通過性と胎児への影響,つまり妊婦さんや女性への薬剤注意喚起の用語と考えて下さい。妊婦さんが周りにいる場合には,気をつけてあげてください。妊婦さんがお腹が痛いとして,お腹を巻くようにたくさんの鎮痛系の湿布薬を貼っている場合があります。痛み止めの湿布は,妊婦さんでは要注意または禁止です。さらに,熱があるからなどと心配して,妊婦さんに市販の熱冷まし,解熱鎮痛薬を買ってきてあげないで下さい。おでこや首のクーリング,アイスノンは大丈夫です。解熱薬や鎮痛薬は,お腹の中にいる赤ちゃんに有毒であること,つまり有害性がわかっていますので,妊婦さんには解熱・鎮痛薬はだめです。催奇形性というのは,妊婦さんに対しての注意事項ですから,おじいちゃんが妊娠していない限りは安全です。」

以上などとして,妊婦さんやご高齢者に説明を加えると良いかもしれませんが,それでも理解が難しいかもしれません。

 

まとめ

 COVID−19が疑われる女性に対して,解熱鎮痛薬を催奇形性や胎児毒性として,絶対に服用して服用してはいけないという報道が期待されます。アビガン®というレベルの問題ではないと評価されます。さらに,妊婦さんが,「便秘のために下剤を処方して欲しい」と救急外来を受診される場合があります。刺激性下剤プルセニドは,流産の危険性があるために禁忌です。妊婦さんの便秘に対しては食物繊維の多い食品を取るように指導しながら,適度な運動と十分な水分補充と食事療法として対応します。救急外来で,一時的に補助的なものとして処方する場合は,マグネシウム塩類下剤,ビタミンB5(パントテン酸)としています。入院中には,ラキソベロンなどを使用しますが,急激な下痢により水分体液バランスが崩れることに注意し,救急外来ではラキソベロンを処方することはしていません。

 また,バルプロ酸テトラサイクリンは,催奇形性があるために妊婦さんには禁忌に準じるものです。バルプロ酸が二分脊椎の原因となることは,医師国家試験などとして知らなければならない常識的範疇です。しかし,バルプロ酸に催奇形性があることが明確とされているのに,妊婦さんに禁忌としていないのは,てんかんの治療(ご自身と胎児への低酸素化等の影響)と催奇形性(胎児)をどちらを優先するか,うまく調節できると必ずしも催奇形とならない可能性が残されているからです。このバルプロ酸ように,催奇形性があっても妊婦さんに禁忌ではない薬剤もあります。また,蕁麻疹で,クロルフェニラミンを処方することがありますが,ペポスタチンなども含め抗ヒスタミン薬(ヒスタミンH1受容体拮抗薬)も胎盤移行性がありますので,できれば自家感作性湿疹対策を含めた皮膚局所の軟膏にとどめ,抗ヒスタミン薬は処方しないことをお勧めします。胎児への中枢作用については,未だ不明瞭な領域です。

 2019年12月より,新型コロナウイルス,およびその感染症であるCOVID-19が問題となりました。アビガン®には催奇形性があるなどとして,適切な臨床研究が必要などの安全性と有効性を混同したコメントなどが認められます。丁寧に運用されている薬剤は,既に安全性試験としてルーティンに胎盤通過性や乳汁分泌性が評価されており,インタビューフォームに安全性と危険対象が明記されています。催奇形性についても,明確な理解として説明することが必要です。COVID-19においては,解熱鎮痛薬の催奇形性にも注意していることは医師の常識の範疇です。

 そこで,確かにいらっしゃるのです。「先生さあ,アビガン®を飲むと指が取れたり,なくなったりするの?」。催奇形性を誤って理解している場合があります。催奇形性とは,「妊娠中における胎児への催奇形性」として,正確にお伝えすることが大切です。「催奇形性」や「胎児毒性」という言葉は,サリドマイド時代の怖いイメージを持つ用語,恐怖=注意の時代の用語かもしれません。現在は,妊娠の時期に合わせての薬剤の説明として,「胎児影響性」などとして優しく丁寧に説明するように,用語の修正が必要かもしれません。催奇形性という専門用語に対して,現在,適切な用語変換が期待されます。催奇形性や胎児毒性については,生活環境におけるタバコ,アルコールおよび化学汚染等についても,お気をつけ下さい。

 

医師国家試験 予想問題 胎児毒性・催奇形性・流産の危険性のある薬剤と生活習慣

□ 非ステロイド性抗炎症薬 NSAIDs:ロキソニン,イブプロフェン,ボルタレン,モービック,ロピオン静注

□ 高血圧治療薬:アンギオテンシン変換酵素阻害薬,アンギオテンシンII受容体拮抗薬

□ 血栓症治療:ワルファリン:ワルファリン胎芽病,点状軟骨異栄養症,中枢先天異常

□ 喫煙・ニコチン:子宮内胎児発育遅延

□ アルコール:胎児アルコールスペクトラム障害

※ 成人における副作用として知られている薬剤で胎盤を通過するもの(分子量300~600)は,胎児にも同様の副作用が出る危険性に注意して下さい。

  例:抗がん剤,アミノグリコシド系抗菌薬(聴力障害,腎機能障害)など

※ アミカマイシンの分子量は,残念ながら585(<600)であり,胎盤を通過します。


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救急医療 急性アルコール中毒:血中アルコール濃度の予測

2017年10月11日 10時13分00秒 | 救急医療

留意事項 血中エタノール濃度の予測

急性アルコール中毒:血中アルコール濃度の予測について

〜自転車事故との関連にも注意〜

 

名古屋大学大学院医学系研究科

救急・集中治療医学分野

教授 松田直之

 

【はじめに】救急外来( ER:emergency room)に,急性アルコール中毒で搬入される患者さんがいらっしゃいます。アルコールについては,過剰摂取に注意することが大切です。また,現在は,アルコール摂取後の自転車運転(自動車運転はもちろん犯罪です)による路上ひき逃げ事件などもあり,自転車運転前の飲酒も厳禁として対応されてください。2016年の日本の自転車乗車中の事故負傷者は90,055名であり,そのうち死者は509名です(総務省消防庁データ)。自転車運転は,路上交通事故,刑事犯罪の可能性として,厳格に評価される傾向があります。ここでは,ERに搬入された傷病者の血中アルコール濃度予測について記載します。

 

【血中アルコール濃度と症状の関連性】

 血中アルコール濃度と症状(参考:個人差あり)

 □   20~  40 mg/dL:気分爽やか,活発傾向

 □   50~150 mg/dL:ほろ酔い

 □ 160~300 mg/dL:酩酊状態(千鳥足や運動障害の出現)

 □ 310~400 mg/dL:泥酔状態(歩行困難および意識混濁の出現)

 □ 400 mg/dL 以上:昏睡状態(舌根沈下,心肺停止の可能性の考慮)

 

【血中アルコール濃度の予測式】

血中エタノール濃度(予測値)= 血漿浸透圧ギャップ(測定血漿浸透圧値 ‐ 予測血漿浸透圧(計算:2Na + BUN/2.8 + Glu/18))mOsm/L x 46(エタノールの分子量 46.07)g/Osm ÷ 10 (dLへの換算)= 〇〇 mg/dL 

解説:血中アルコール濃度の予測には,血液・生化学検査として,① 血漿浸透圧,② 電解質(Na+),③ BUN,④ 血糖値,この4つを用います。エタノールの分子量は46.07ですので,血中アルコール濃度の算出(概算)には46という数字も用います。以下が予測式となります。事故との関連性,覚醒までの時間の予測などの参考値として,私は使用する場合があります。

【おわりに】急性アルコール中毒では,A(Airway)のトラブルとして舌根沈下,B(Breathing)のトラブルとして誤嚥(ごえん)に注意します。また,C(Circulation)のトラブルや心停止の関連として,低体温に注意します。意識の評価においては,低血糖(血糖値< 50 mg/dL)にも注意します。ERへの急性アルコール中毒の搬入では,心電図波形ではオスボーン波(J波)(早期脱分極波)やAFをすぐに感知し,体温計で体温を計り終えるまでの間に,触診で体幹や四肢の温度を予測するようにします。最後に,医療従事者,医学生さん,消防関連,教育者,行政の皆さんにおいては,急性アルコール中毒は起こり得ないようにいたしてください。


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2017/9/13 世界敗血症デー World Sepsis Day Campaign in NAGOYA; Stop Sepsis, Save Lives in NAGOYA, JAPAN

2017年09月14日 02時16分32秒 | 救急医療

WORLD SEPSIS DAY in NAGOYA 2017


9月13日は,世界敗血症DAY World Sepsis DAY(WSD)です。
2017年5月26日,ジュネーブでの世界保健機構(WHO)の会議で,敗血症は世界における当面の解決されるべき主病態として認可されました。
敗血症は,治る病態です。敗血症の理解を,広めましょう。

September 13 is World Sepsis DAY (WSD).
Let's spread the understanding of sepsis.

 World Sepsis Day 2017

ポスター:https://cloud.med.uni-jena.de/index.php/s/EhZHpk2oI1ZeVAk#pdfviewer

CBC「きくラジオ」と連携して「敗血症キャンペーン」を5年間継続しています。
本年も,世界敗血症デーに合わせてラジオ放送・ラジオキャンペーンを行いました。

WSD in Nagoya, Japan
CBC Radio WSD Campaign MATSUDA  13/09/2017 JAPAN

On the World Sepsis Day 2017 (WSD 2017), CBC Radio joined and invited me to promote World Sepsis Day and to publicize the concept of saving lives from sepsis. WSD was introduced to listeners in Japan. The recognition and prevention of sepsis would be widely disseminated through the WSD campaign to over 10 million civilians from the radio-campaign on 9/13/2017 in Japan.

2007年より敗血症フォーラム・敗血症セミナーを開催し,敗血症治療の先端を論じてきました。
本年も,世界敗血症デーに合わせて,敗血症管理フォーラム(講演会)を開催しました。
WSD Forum in Nagoya, Japan 9/10/2017

Global Sepsis Allince Meeting at Vienna on October, 2017


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講座 2017 集中治療管理のバンドル化と仕組み化について

2017年06月01日 01時40分35秒 | 救急医療

集中治療のバンドル化と仕組み化 2017

名古屋大学大学院医学系研究科

救急・集中治療医学分野

教授 松田直之

はじめに

 集中治療(intensive care,critical care)は,急性期全身管理である。本邦では,心臓血管外科手術,食道切除術などの術後に重篤化が予想される外科術後として発展してきた経緯がある。一方,集中治療は,救急・内科系領域としても院内外の急変に対する対応として,救急医療に組み込まれるものとして発展してきた。現在は,院内外の心肺停止,内科系病態の急変,がん病態の急変(oncological emergency)などの管理も含まれるものとなった。このような集中治療のマネージメントについては,現在,多職種連携として,医師,看護師,薬剤師,臨床工学技士,理学療法士,栄養士などが,共に急性期病態を学び,基礎研究および臨床研究を遂行し,急性期管理として協調して担当するように発展してきている。集中治療領域の病態生理学的理解も進むようになった。

 急性期病態生理学的理解としては,特に① 自律神経バランス,② 炎症と増殖,③ ホルモンの3つの観点より学術の進展が認められ,多くの基礎研究が施行されている。また,診療面では管理内容をテーマとして多くの多施設共同研究が行われ,個々の経験的な治療の領域を超えて,臨床エビデンスに基づいた診療が提案されるようになっている。これらをまとめたガイドラインも,日本集中治療医学会,米国集中治療医学会,ヨーロッパ集中治療医学会などより出されるようになり,定期的な改定が予定されている。

 本稿で取り上げる「ハンドル」は,診療エッセンスの個々を「束」としてまとめる手法であり,必要とされる診療エッセンスを同時に管理することで診療成績を高めようとする試みである。例えば,管理目標を人工呼吸管理,ショック管理などの個々の内容や目立つ内容に目を向けるのではなく,さまざまな臓器を多臓器並行管理として,一定の着眼内容を含んだものとして管理する方策である。また,集中治療においても,管理に携わる個々の力量を高めることに加えて,ガイドライン教育等を含めて場のシステムとしてのより良い「仕組み」を目指すとよい。本稿では,集中治療管理のバンドルとしての工夫を紹介し,今後の集中治療管理の仕組み化を提案する。

 

集中治療における重症度評価

 集中治療における重症度評価として,現在,APACHE(Acute Physiology and Chronic Health Evaluation)スコア, SAPS(simplified acute physiology score),MPM(mortality probability model)など1, 2)が,生命予後の予測との関連として使用されている。また,臓器不全の評価については,SOFA(Sepsis-related Organ Failure Assessment)3)スコアが一般に用いられている。このSOFAスコアは,2016年からの敗血症の新しい診断であるSEPSIS-3においても,使用が推奨されているものである。

 SOFAスコア3)は,1996年に公表されたものであり,以後21年に渡って集中治療室における重症度評価として用いられてきた。SOFAスコアの評価項目は,意識,呼吸,循環,肝機能,腎機能,凝固機能の6項目であり,各内容は0点(最良)〜4点(最重症)の4点評価であり,最重症で合計24点となる。集中治療室における申し送りは,概ね,この順番で行われるが,対症療法を超えて,管理している病態に対しての前向きな診療目標(ビジョン形成),そのためのアセスメントおよび治療指針の討議が必要となる。SOFAスコア(表1)については,injury(臓器障害)をfailure(臓器不全)として器質化させないことに管理上の細心が存在する。

 

集中治療における診療ガイドライン

 日本集中治療医学会は,集中治療教育の基盤統一の概念のもとで,さまざまな専門診療領域学会と連携し,集中治療領域のガイドラインが作成されている。現在,日本版・集中治療室における成人重症患者に対する痛み・不穏・せん妄管理のための臨床ガイドライン4),ARDS診療ガイドライン5),日本版敗血症診療ガイドライン6),急性腎障害診療ガイドライン7),日本版重症患者の栄養療法ガイドライン8)などが公表されている。一方で,集中治療領域の学術進展のために多施設共同研究の遂行の中で,必要とされる診療エビデンスを確認していかねばならない。今後は,ショック管理ガイドライン,リハビリテーションガイドライン,集中治療看護ガイドラインなどの作成が必要とされている。診療ガイドラインを集中治療室に定着させる仕組み作りや,診療データベース管理,その上で足りない内容についての多施設共同前向き研究の指導が必要である。

 

集中治療における off-the job トレーニングの重要性

 集中治療領域の診療の質の向上のために,日本集中治療医学会を始めとして,off-the job教育コースが広く行われている。このようなoff-the jobトレーニングコースには,2000年初頭より広く行われるようになった心肺蘇生のImmediate Cardiac Life Support(ICLS)コース9)やJapan Trauma Evaluation and Care(JATEC)コース10)などがある。このようなoff-the job教育活動に加えて,集中治療領域では,エコーハンズオンセミナー11)や集中治療シミュレーションコースなどが企画されている。臨床に準じたシミュレーション実地教育により,実際の診療に役立つ技術や考え方を習得できるように工夫されるようになってきている。

 

集中治療におけるバンドル化システム 

 集中治療における治療成績向上を目標として,診療内容を束としてまとめるバンドル化の概念が導入されるようになった。現在,人工呼吸管理,鎮痛・鎮静,敗血症管理などにバンドル管理が応用されている。このような観点のように,集中治療管理は,臓器別診療や病気による分類を超えて,独自の学術と診療として総合的に発達してきている。集中治療管理において注意するべき病態学的内容をバンドルとして整理し,集中治療に役立てる方法もある。

 1.人工呼吸管理におけるバンドル

 人工呼吸管理期間を短縮する試みとして,Awakening(覚醒)および Breathing(自発呼吸)のCoordination(調整), Delirium(せん妄対策),Early mobility/exercise (運動・リハビリテーション)の5つからなるABCDEバンドル12)が知られている。集中治療管理におけるデクスメデトミジン,プロポフォールなどの鎮静薬の投与を一日の中で必ず中止する時期を設け,一日の中で必ず覚醒を施し,その間に人工呼吸管理においては強制換気ではなく自発呼吸管理とし,覚醒と呼吸の調整を確認するようにする。その上で,せん妄を評価するとともに,リハビリテーションを行う。

 集中治療領域では,深鎮静状態で寝たきり状態を続けることにより,集中治療域に随伴する虚弱としてICU-acquired weakness(ICU-AW)やpost intensive care syndrome(PICS)が生じることに注意している13)。ICU-AWは,集中治療室において左右対称性の四肢筋力低下が生じる病態である。また,PICSは,集中治療室に在室中や退室後に生じる運動機能低下や認知機能低下の病態である。このようなICU-AWおよびPICSに対する人工呼吸中の管理として,ABCDEバンドル12)が用いられるが,ABCDEバンドルを施行するための障壁は,患者と診療者の両サイドに存在し,現時点で適切なエビデンスとしては確認されていない状況にある14)

 2.鎮痛・鎮静・せん妄に対するケアバンドル

 集中治療では,交感神経緊張の適正緩和として,フェンタニルなどのオピオイド,デクスメデトミジン,プロポフォールなどを用いている。このような,鎮痛,鎮静,せん妄に対する管理として,「日本版・集中治療室における成人重症患者に対する痛み・不穏・せん妄管理のための臨床ガイドライン」4)においても,American College of Critical Care Medicine15のPAD(pain/agitation/delirium:疼痛/不穏/せん妄)に対するPADケアバンドルを踏襲している。PADケアバンドル(表2)4)は,評価,治療,予防で構成されている。このような管理対応を集中治療看護師が行うことで,集中治療における疼痛・不穏・せん妄の発症を低下させようとしている。

 

 3.敗血症管理におけるバンドル

 敗血症は,2016年2月に新しいSepsis-316の定義が発表され,この世界的動向に合わせて,日本版敗血症診療ガイドライン20166においても敗血症の定義と診断をSepsis-3に準じたものとした。このSepsis-3では,敗血症を感染症による臓器不全が進行する病態と定義し,重症度を敗血症と敗血症性ショックの2つに分類した。

 2016年には,このSepsis-3による敗血症の定義の修正に加えて,Surviving Sepsis Campaign guidelines(SSCG)が米国集中治療医学会,欧州集中治療医学会などの25の国際学会の共同として改定された。SSCG2016は,Grading of Recommendations Assessment, Development, and Evaluation(GRADE)システムによる臨床研究Aの初期蘇生からUの治療目標の設定までの21項目で構成されており,これらの総和として治療していくスタンスはバンドル診療となる。

 SSCG2012では,診療開始3時間までに①血清乳酸値測定,②抗菌薬投与前の血液培養検体採取,③広域抗菌薬投与,④血圧低下や血清乳酸値≧4 mmoL/Lにおける晶質液30 mL/kgの投与がSurviving Sepsis Campaign bundleという名目で提示されていた。また,SSCG2016では,グレード評価できない強い推奨について,Best Practice Statement (BPS)として記載されている。このような留意事項をまとめて診療に当たるスタンスが形成されてきている。

 

集中治療における病態学的バンドル

 日本集中治療医学会の認可する集中治療専門医認定施設は,以上のような診療エビデンスを取り込むように,またガイドラインや教育コースを利用して,集中治療の質の向上に努めている。一方,集中治療に必要な病態理解として,幾つかの留意事項を病態学的バンドルとしてまとめることができ,これからの評価が必要となる内容が存在する。当教室は,このようなバンドルの構成成分として,各ブランチ(枝)についての診療エビデンスを含めて,勉強会を行うようにし,診療内容の洞察に加えている。そのようなブランチの一部を紹介する。

 1.接触感染予防ブランチ

 感染管理は,集中治療管理における重要項目である。検出される菌種と薬剤感受性の推移について,時系列でモニタリングするようにし,抗菌薬の適正使用を院内および集中治療室内でも考える必要がある。

 また,当集中治療部では,アルコール手指消毒を推進するクリーンハンドキャンペーンを定期的に行うことで,接触感染予防に対する啓蒙を行っている。各ベッド前には,ブルーラインを設置し,ブルーラインを超える際の入る時と出る時の2回,ブルーライン上で手指消毒を行うことを徹底している。

 2.鎮痛・鎮静・カテコラミンのブランチ

 集中治療における急性期管理における,ドパミン,ドブタミン,ノルアドレナリン,アドレナリンなどのカテコラミン類の使用や,内因性カテコラミン制御については,その規約を設けるようにしている。心機能が極めて悪い場合には,大動脈内バルーンパンピング(IABP:intra aortic balloon pumping)および経皮的心肺補助(PCPS:percutaneous cardio-pulmonary support)の適応を考慮する。一方で,アドレナリンβ受容体刺激による心拡張不全,血管拡張作用,免疫抑制作用,線維芽細胞増殖作用などに留意している。ガイドラインとしては,「日本版・集中治療室における成人重症患者に対する痛み・不穏・せん妄管理のための臨床ガイドライン」4を活用する。

 3.肺胞換気・Open Lungブランチ

 集中治療領域の呼吸管理として,現在は,必ずしも気管挿管が推奨されるわけではなく,① high flow nasal cannula(HFNC),② BiPAPマスクによる非侵襲的人工呼吸管理を選択する場合も多い。末梢気道浮腫が生じやすい病態に対しては,初期から肺胞換気ブランチを適応し,HFNCやBiPAPの適応がないかどうかを検討する。気管挿管においては,positive endexpiratory pressure(PEEP)の適正化に重点を置き,酸素投与濃度を下げる工夫を重視する。急性期管理においては,① 肺胞換気ブランチ,② 肺エコーの有効利用:無気肺の監視,③ 肺理学療法,④ 日中の活動性の維持を原則として,無気肺を作らないように,また無気肺が生じた場合には無気肺の早期改善を目標とする。

 4.虚血解除ブランチ

 虚血は,組織の必要とする酸素需要に,酸素供給が満たない病態である。嫌気性代謝の進行に加え,虚血性に一酸化窒素などの産生が亢進する。虚血の残存は,炎症や血管拡張に繋がるために,早急に虚血を回避できるようにする。特に,循環に依存する虚血として,ショックの診断と治療に留意する。

 5.原尿管理ブランチ

 集中治療領域における急性期管理では,糸球体濾過量(GFR)を一定以上に維持することが大切である。全身性炎症に随伴して,急性腎障害が生じやすいことの注意する7)。尿量は,0.5 mL/kg/時以上の利尿薬を使用しない利尿を目標として,必要であれば輸液療法を併用する。また,適切な輸液療法にも関わらず平均血圧≦65 mmHgの血圧低下では,体血管抵抗をパルス波などで評価し,体血管抵抗減弱時にはノルアドレナリン持続投与(0.05 μg/kg/分〜)を併用する。平均血圧が維持されている場合にはヒト心房性ナトリウム利尿ペプチド(hANP:human atrial natriuretic peptide)を持続投与(0.02 μg/kg/分〜)の併用を考慮する。輸液療法や血圧管理などにもかかわらず,6時間以上に渡り0.5 mL/kg/時以上の利尿が得られない場合には,持続血液濾過の開始を検討する。

 この原尿管理ブランチは,ベッドサイドの「ダイナミックモニタリング」により支えられている。時系列における推移として,データを変化率として評価し,ダイナミックモニタリングとする。急性期は,3時間あるいは6時間毎の時系列において,① 尿量の変化と絶対量を評価すること,② 平均血圧の推移と絶対値(平均血圧 65 mmHgあるいは70 mmHg以上)を評価すること,③ 輸液量の推移と絶対値を評価すること,④ エコー図で評価を加えること(下大静脈径,stroke volume variation,左心機能,右心機能,腎血流など)の4つをブランチに含ませている。

 6.経腸栄養ブランチ

 集中治療において,経腸栄養の完成と経口食の開始は,病棟管理の平易さや,早期退院のために極めて重要である。経腸栄養の早期開始に向けて,当教室は早期経腸栄養管理ブランチを定めている。集中治療開始初病日から,① 経口食が開始できるかどうかのアセスメント,② 消化管炎症の状態評価,③ 最終排便の確認のもとで,できるだけ早急に経口食か経腸栄養を開始することを原則としている。この管理ブランチは,early goal-directed nutrition(EGDN)プロトコルとして表3のようにまとめている。消化管免疫の維持による感染症罹患率の低下と,退院に向けての消化管栄養の完成を目的としている。

 7.血管内皮細胞保護ブランチ

  播種性血管内凝固は,集中治療における重症炎症病態に合併しやすい。血中ATⅢ活性を70%以上に維持することで,播種性血管内凝固の抑制と血小板輸血を減少させる工夫をしている。血小板数の著しい減少においては,遺伝子組み換えトロンボモジュリン製剤を使用している。これらは,血管内皮細胞の保護作用を期待するものである。

 8.急性期免疫管理ブランチ

 炎症病態においては,免疫が低下することが知られている。また,ステロイドや免疫抑制剤などの併用がある場合は,免疫改善の計画を持つ必要がある。免疫モニタリングとして,① 好中球/リンパ球比,② リンパ球数,③血液像,④ グロブリン分画の評価を重視している。

 9.早期リハビリテーションブランチ

 救急・集中治療領域では,炎症の進展によって,蛋白異化が亢進することに注意することが不可欠である。これは,後向き解析ではCRP波形下面積(CRPAUC),などでも推定できる。現在,早期リハビリテーションブランチとして,72時間以上の集中治療患者を対象とし,午後1時を目標として鎮痛と鎮静のレベルを最適化させ,理学療法士の指導で他動的運動から開始し,自動運動へ展開する工夫をしている。評価過程では,握力および下肢筋力に注意している。

 

集中治療管理の現在と未来

 集中治療室を管理することにより,集中治療期間を減少させ,さらにより高い活動性に回復させることができると良い。現在,集中治療においては,特定集中治療室管理料として平成26年度より,特定集中治療室管理1と特定集中治療室管理2(広範囲熱傷特定集中治療管理を含む)に分かれて集中治療管理料が設定されている。どちらも7日までは管理料として13,500点が加算される。

 この特定集中治療室の施設基準としては,4項目が定められており,①専任医師の特定集中治療室内における勤務および,そのうち特定集中治療経験を5年以上有する医師を2名以上含むこと,② 特定集中治療室管理を行うのにふさわしい専用の特定集中治療室を有しており,特定集中治療室の広さは1床当たり20 m2以上であること,③専任臨床工学技士が常時,院内に勤務していること,④ 特定集中治療室における重症度および医療・看護必要度を評価し,A項目3点以上(表4)かつB 項目3点以上(表5)が9割以上であることが定められている。

 集中治療領域の管理成績は,集中治療室における集中治療専門医の在中と専従システム,すなわちクローズICU(closed ICU)のシステムにより治療成績が高まることが確認されている18。また,コンピュータ管理システム,遠隔情報システム,個人情報管理における安全管理システムの構築のもとで,集中治療専門医が集中治療室内に不在であっても,集中治療患者のバイタルサインや診療状況をオン・タイムで評価できるtele-ICUシステム19の導入が開始されている。従来は,患者ベッドサイドに24時間体制で座り,患者状態を絶えず評価することが大切とされた集中治療であったが,現在は画像所見や検査所見を重視し,さらに臨床研究エビデンスを一層に重視する仕組み化された診療スタイルに変化している。その一方で,集中治療室における医療従事者の理学所見を含めた診断能力のトレーニングを,集中治療教育として尊重しなければならない。

 

おわりに

 本稿では,集中治療における診療のバンドル化と仕組み化に対する構想と有効性を解説した。日本集中治療医学会は,集中治療の標準化や教育に貢献するものとして活動している。集中治療室のあり方については,診療報酬改定を含めて,急性期管理部門としての適正を一層に充実させるとともに,専門医および認定看護師,臨床工学技士,薬剤師,理学療法士等それぞれの実力が育成できる場を作成することに努めることになる。

 

文 献

  1. Breslow MJ, Badawi O. Severity scoring in the critically ill: part 1--interpretation and accuracy of outcome prediction scoring systems. Chest. 2012;14:245-252.
  2. Breslow MJ, Badawi O. Severity scoringin thecritically ill: part 2: maximizing value from outcome prediction scoringsystems. Chest. 2012;141:518-27. 
  3. Vincent JL, Moreno R, Takala J, Willatts S, De Mendonça A, Bruining H, Reinhart CK, Suter PM, Thijs LG. TheSOFA(Sepsis-related Organ Failure Assessment) score to describe organ dysfunction/failure. Intensive Care Med. 1996 Jul;22(7):707-10. 
  4. 日本集中治療医学会 J-PADガイドライン作成委員会. 日本版・集中治療室における成人重症患者に対する痛み・不穏・せん妄管理のための臨床ガイドライン. 日集中医誌 2014;21:539-79.
  5. 一般社団法人日本集中治療医学会 / 一般社団法人日本呼吸療法医学会ARDS 診療ガイドライン作成委員会. ARDS 診療ガイドライン2016. 日集中医誌2017;24:57
  6. http://www.jsicm.org/pdf/haiketu2016senkou_01.pdf
  7. AKI(急性腎障害)診療ガイドライン作成委員会. AKI(急性腎障害)診療ガイドライン2016. 東京医学社
  8. 日本集中治療医学会重症患者の栄養管理ガイドライン作成委員会. 日本版重症患者の栄養療法ガイドライン.日集中医誌2016;23:185-281.
  9. https://www.icls-web.com
  10. http://www.jtcr-jatec.org/index_jatec.html
  11. http://www.jsicm.org/seminar/hands-on/
  12. Vasilevskis EE, Ely EW, Speroff T, et al. Reducing iatrogenic risks: ICU-acquired delirium and weakness--crossing the quality chasm. Chest. 2010;138:1224-33.
  13. NeedhamDM,Davidson J, Cohen H, et al. Improving long-term outcomes after discharge from intensive care unit: report from a stakeholders' conference. Crit Care Med. 2012;40:502-9.
  14. Costa DK, White M, Ginier E, et al. Identifying barriers to delivering theABCDEbundle to minimize adverse outcomes for mechanically ventilated patients: A systematic review. Chest. Chest. 2017;152:304-311.
  15. Barr J, Fraser GL, Puntillo K, et al. Clinical practice guidelinesfor themanagement of pain, agitation, and delirium in adult patients in the intensive care unit. Crit Care Med. 2013;41:263-306.
  16. Singer M, Deutschman CS, Seymour CW, et al. The Third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock (Sepsis-3). JAMA. 2016;315:801-10.
  17. Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al. SurvivingSepsisCampaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock: 2016. Intensive Care Med. 2017;43:304-77.
  18. van der Sluijs AF, van Slobbe-Bijlsma ER, Chick SE, et al. The impact of changes in intensivecareorganization on patient outcome and cost-effectiveness-a narrative review. J Intensive Care. 2017;5:13.
  19. Reynolds HN, Bander J, McCarthy M. Different systems and formats for tele-ICUcoverage: designing a tele-ICUsystem to optimize functionality and investment. Crit Care Nurs Q. 2012;35:364-77.
  20. 東 倫子,松田直之. 経腸栄養における超音波の役割. INTENSIVIST 2017;9:144-7.

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留意事項 集中治療におけるDo Not Attempt Resuscitation(DNAR)のあり方についての勧告

2016年12月20日 17時09分51秒 | 救急医療

急性期医療におけるDo Not Attempt Resuscitation(DNAR)のあり方

名古屋大学大学院医学系研究科

救急・集中治療医学分野

松田直之

 Do Not Attempt Resuscitation(蘇生を試みない:DNAR) 

 患者さんやご家族に,救命のための適切な説明は大切です。患者さんやご家族に対しての説明について,例えば「●●という方法がありますが,施行したとしても30日での死亡率は50%ぐらいです。どうしますか?」,またある先生は「●●という方法がありますが,●●を施行すると30日での生存率は50%以上です。どうしますか?」,またある先生は「●●という方法があります。まず,今を乗り越えるためには,この方法が必要です。もう一度会話をする可能性が残されます。施行したならば,30日での生存率は50%として期待できます。」と説明します。その上で,説明の大半がリスク説明となってしまう場合などもあります。残念ながら,医療現場における医師の説明には,残念ながら,ばらつきがあります。このような側面を,しっかりと改善して,適切な説明とは何かを提案し,よりよく皆で改善していくことが期待されます。

 日本集中治療医学会倫理委員会は,この度,DNAR指示は,心停止時のみに有効である,Partial DNAR指示は行うべきではないとするDNARに対する「勧告」を作成し,2016年12月16日の日本集中治療医学会理事会での承認の後に,2016年12月20日にホームページに公開しました(https://www.jsicm.org/news-detail.html?id=7)。蘇生には,心肺蘇生はもとより,呼吸管理の人工呼吸器の使用,輸液蘇生,カテコラミン類による昇圧効果を期待した蘇生,腎機能低下における血液浄化法の併用,細菌感染症における抗菌薬の適正使用など,全身状態を改善させる段階で用いる補助的な治療が含まれます。この内容は,医療従事者の皆さん,そして患者さん,そしてご家族の皆さん,これからの若い皆さんなど,皆が考えるべき内容とまります。集中治療室は,治療を前提として使われる診療の場であるとして,深いご理解が大切です。

 救急医療および集中治療においては,世界,日本,地域,社会,医療機関,医学教育,時代に照らして,医の倫理を深く考え続けることが大切です。結果として,皆で自身の考え方を深めていくことが大切なのでしょう。2016年8月には,NEJMに「DNAオーダー」についてのperspectiveも掲載されています。以下を,参考とされて下さい。皆でこの深みを,患者さんやご家族とともに考えて参りましょう。

初稿 2016年12月20日,追記 2020年03月10日

 

 Do Not Attempt Resuscitation(DNAR)指示のあり方についての勧告 

日本集中治療医学会

HPアドレス https://www.jsicm.org/news-detail.html?id=7

2016年12月16日 勧告


 2007年に厚生労働省「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」が公表され、患者本人による決定を基本としたうえで、患者と医療・ケアチームの話合いに基づく意思決定プロセスを重視する考え方が終末期医療の主流となった。2014年に日本集中治療医学会は「救急・集中治療における終末期医療に関するガイドライン~3学会からの提言~」を発表したが、この年は2007年版ガイドラインを改定した厚生労働省「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」が公表された年でもある。
 この十数年間で終末期医療(人生の最終段階における医療)のあり方に関する理解が深まり、患者の尊厳を無視した延命医療の継続は大きく減少していると私どもは信じている。しかし、DNAR指示のもとに基本を無視した安易な終末期医療が実践されている、あるいは救命の努力が放棄されているのではないかとの危惧が最近浮上してきた。日本集中治療医学会理事会ならびに倫理委員会は、DNARの正しい理解に基づいた実践のためには下記の諸点に留意する必要があることを勧告する。


日本集中治療医学会からの勧告


1. DNAR指示は,心停止時のみに有効である。心肺蘇生不開始以外は,集中治療室入室を含めて,通常の医療・看護については別に議論すべきである(注1)。

2. DNAR指示と終末期医療は同義ではない。DNAR指示に関わる合意形成と終末期医療実践の合意形成はそれぞれ別個に行うべきである(注2)。

3. DNAR指示に関わる合意形成は,終末期医療ガイドラインに準じて行うべきである(注3)。

4. DNAR指示の妥当性を患者と医療・ケアチームが繰り返して話合い評価すべきである(注4)。

5. Partial DNAR指示は行うべきではない(注5)。

6. DNAR指示は日本版POLST - Physician Orders for Life Sustaining Treatment - (DNAR指示を含む)「生命を脅かす疾患に直面している患者の医療処置(蘇生処置を含む)に関する医師による指示書」に準拠して行うべきではない(注6)

7. DNAR指示の実践を行う施設は、臨床倫理を扱う独立した病院倫理委員会を設置するよう推奨する(注7)。


注1
心停止を「急変時」の様な曖昧な語句にすり変えるべきではない。DNAR指示のもとに心肺蘇生以外の酸素投与、気管挿管、人工呼吸器、補助循環装置、血液浄化法、昇圧薬、抗不整脈薬、抗菌薬、輸液、栄養、鎮痛・鎮静、ICU入室など、通常の医療・看護行為の不開始、差し控え、中止を自動的に行ってはいけない。

注2
終末期医療における治療の不開始、差し控え、中止に心停止時に心肺蘇生を行わない(DNAR)選択が含まれることもある。しかし、DNAR指示が出ている患者に心肺蘇生以外の治療の不開始、差し控え、中止を行う場合は、改めて終末期医療実践のための合意形成が必要である。各施設倫理委員会がDNAR指示と終末期医療に関する指針(マニュアル)を明確に分離して作成することを強く推奨する。

注3
厚生労働省「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」、あるいは日本集中治療医学会・日本救急医学会・日本循環器学会「救急・集中治療における終末期医療に関するガイドライン~3学会からの提言~」の内容を忠実に踏襲すべきである。

注4
DNAR指示は患者が終末期に到る前の早い段階に出される可能性がある。このため、その妥当性を繰り返して評価し、その指示に関与する全ての者の合意形成をその都度行うべきである。

注5
Partial DNAR指示は心肺蘇生内容をリストとして提示し、胸骨圧迫は行うが気管挿管は施行しない、のように心肺蘇生の一部のみを実施する指示である。心肺蘇生の目的は救命であり、不完全な心肺蘇生で救命は望むべくもなく、一部のみ実施する心肺蘇生はDNAR指示の考え方とは乖離している。

注6
日本版POLST (DNAR指示を含む)は日本臨床倫理学会が作成し公表している。POLSTは米国で使用されている生命維持治療に関する医師による携帯用医療指示書である。急性期医療領域で合意形成がなく、十分な検証を行わずに導入することに危惧があり、DNAR指示を日本版POLST準じて行うことを推奨しない。

注7
日本集中治療医学会倫理委員会が評議員を対象に施行した「臨床倫理に関する現状調査」では、臨床倫理を扱う独立した倫理委員会が設置されている施設は67.1%である。DNAR指示は臨床倫理の重要課題であり、終末期医療の実践とともにDNAR指示を日常臨床で行う施設は独立した臨床倫理委員会を設置するよう推奨する。

 

 DNRについて 

The DNR Order after 40 Years

Jeffrey P. Burns, M.D., M.P.H., and Robert D. Truog, M.D.

N Engl J Med 2016; 375:504-506

 

Forty years ago, on August 12, 1976, the Journal was among the first to report hospital policies on the process for making and communicating decisions about a patient’s resuscitation status.1 Today, the do-not-resuscitate (DNR) order has become a part of our society’s ritual for dying, and DNR is one of the most widely recognized medical abbreviations.

The DNR order marked a transformation in the traditional scope of informed consent. As originally conceived, seeking the patient’s informed consent for treatment was eliciting permission to be touched. By extending this concept to include permission not to be touched, the DNR order became the first directive to withhold treatment. But as it did in 1976, the concept of the DNR order today evokes controversy regarding the larger issue of appropriate care for dying patients.

First described in the medical literature in 1960, cardiopulmonary resuscitation (CPR) by closed-chest massage seemed miraculous in its effectiveness and simplicity. The initial case series describing the efficacy of CPR in restoring spontaneous circulation focused primarily on patients who had a witnessed, anesthesia-induced cardiac arrest. But the authors noted the apparent ease of mastering the closed-chest message technique: “Anyone, anywhere, can now initiate cardiac resuscitative procedures. All that is needed are two hands.”2 Before long, resuscitation attempts extended beyond the operating suite to patients who had had a cardiac arrest from any cause.

The problems associated with routine application of CPR to any patient at the end of life rapidly became evident. Reports described the suffering inflicted on many terminally ill patients by repeated resuscitation attempts that only prolonged death. In response, hospital staff devised ad hoc procedures to delay or deny resuscitation attempts in situations in which they believed CPR would not be beneficial. Hospital personnel had adopted the shorthand “code” to refer to a cardiac arrest, which triggered the arrival of a “code team” to attempt resuscitation; soon, terms such as “slow code,” “chemical code,” “show code,” and “Hollywood code” entered the hospital vocabulary to describe — and implicitly condone — less-than-full resuscitation attempts. Many institutions developed their own peculiar, and typically surreptitious, means of communicating that a given patient would not receive a full resuscitation attempt. These decisions were often relayed orally from team to team at the end of a shift or indicated by a symbol, such as a purple dot, in the patient’s chart.3

Many physicians became increasingly concerned that the absence of an established policy and a procedure for transparent decision making about resuscitation prevented them from obtaining adequate informed consent from the patient or the patient’s family — and meant that hospitals and clinicians were failing to provide and document a sufficient rationale and accept accountability for what did or did not transpire. By the early 1970s, orders not to resuscitate had evolved into a more formal advance decision-making process. In 1974, the American Medical Association proposed that the decision not to resuscitate a patient be formally documented in the medical record and communicated to the medical staff.4 This recommendation was followed in 1976 by the DNR policies at two Boston hospitals that were described in the Journal, which were soon replicated or adapted at other hospitals.

By providing a formal framework for the decision-making process and the communication of these decisions, DNR policies filled a void at health care institutions. Medical staff could now discuss DNR decisions with the patient or family well before they were likely to be needed. Equally important, the upshot of these discussions could then be communicated in a standard fashion to potential responders on cross-covering shifts, many of whom might have only limited personal knowledge of a patient’s case but who could now feel more confident about the integrity of the decision.

The DNR order thus represented an important advance in decision making at the end of life. But the concept has undergone considerable evolution over the past 40 years. Today, the decision about whether to attempt resuscitation is just one of many salient decisions that physicians are encouraged to discuss with patients and their surrogates with regard to desired end-of-life care. As originally conceived, DNR status distinguished patients whose deaths were deemed imminent, in whom CPR was not medically indicated, from those who would not otherwise soon die, in whom CPR should be performed. The palliative care movement has helped us to see that this distinction is overly simplistic. Dying is a process; cardiac arrest is only the final event. Clinicians are tasked with helping patients and families define the trajectory of the overall process so that it is consistent with their values and preferences. Decisions about what to do at the moment of cardiac arrest are therefore often not the most important considerations regarding the arc of that trajectory. Indeed, in many cases, the decision about whether or not to attempt to resuscitate a patient may be only a footnote to the overall plan for end-of-life care.

Yet significant controversies remain. Whereas the right of patients to refuse unwanted treatment is well established in law and ethics, the right of patients to demand treatments that clinicians believe are inadvisable remains contentious.5 The question of whether patients and families can demand CPR has been particularly problematic, since CPR is not a purely medical procedure, but one in which many laypeople have been trained and that can be at least partially performed without medical assistance. Furthermore, although CPR has historically been the method of last resort to prolong life, today we have even more advanced procedures, such as extracorporeal membrane oxygenation, that can be successful in resuscitating patients when CPR has failed. If patients and families can demand CPR, can they demand these more advanced technologies as well? Recognizing that CPR is just one of many options on the spectrum of end-of-life care may be a useful framework for developing a unified approach to resolving these questions.

Finally, some observers have helpfully suggested that “DNR” be changed to “do-not-attempt-resuscitation,” or DNAR, since CPR can only ever be an attempt, in which the chance of success is sometimes vanishingly small. Yet for some patients and families, the symbolic meaning of this attempt can be critical, for a variety of cultural, religious, or personal reasons. Are there ever times when we should be willing to offer this treatment for the symbolic comfort it may provide, particularly when there is evidence that the patient would want that, regardless of the potential pain and suffering involved? Perhaps by the time we can look back on a half-century of DNR orders, we will have answers to some of these lingering questions.

文 献

1. Rabkin MTGillerman GRice NR. Orders not to resuscitate. N Engl J Med 1976;295:364-366

2. Kouwenhoven WBJude JRKnickerbocker GG. Closed-chest cardiac massage. JAMA1960;173:1064-1067

3. Burns JPEdwards JJohnson JCassem NHTruog RD. Do-not-resuscitate order after 25 years. Crit Care Med 2003;31:1543-1550

4. American Medical Association. Standards for cardiopulmonary resuscitation (CPR) and emergency cardiac care (ECC). V. Medicolegal considerations and recommendations. JAMA 1974;227:Suppl:864-868

5. Bosslet GTPope TMRubenfeld GD, et al. An official ATS/AACN/ACCP/ESICM/SCCM policy statement: responding to requests for potentially inappropriate treatments in intensive care units. Am J Respir Crit Care Med 2015;191:1318-1330


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日本救急医学会第19回中部地方会 総会・学術集会

2016年11月08日 22時19分15秒 | 救急医療

はじめに

 日本救急医学会中部地方会は、1984年10月に基盤団体が発足し、その後2005年に東海甲信地方会と北陸地方会の合併により、救急医療を支える地方会として発展してまいりました。この度、第19回日本救急医学会中部地方会学術集会の会長を務めさせて頂くこととなり、これまでの歴史を鑑み、一層の進展に尽力させていただきたいと考えております。救急医療の専門性を、医師、看護師、救急救命士、薬剤師、臨床工学技士、理学療法士等で広く共有し、より質の高い救急医療への先進を目標とします。


 第19回日本救急医学会中部地方会学術集会は、テーマを「救急医療の伝承と躍進」とさせて頂きました。参加される皆さまが、多くの視点を獲得し、開かれた視野を共有し、拡大、発展、成長を目指すものとします。日常の発展を感知し、伝えたい躍動と再発見を維持することを提案します。「伝承」という名目で「パターン」あるいは「論」を投げかけ、救急領域に「躍進」のきっかけをもたらすことが期待されます。

 さて、救急領域はさまざまなパートにおいて、「躍進」の時期にあります。医師領域では、一般社団法人「日本専門医機能」の主導のもとに新しい専門医制度が検討され、現在、「社会が求める救急科専門医像」を確認する状況にあります。一方、救急救命士領域では、ショック、低血糖、心肺停止、高エネルギー外傷など、さまざまなプレホスピタル領域に進展があります。そして、看護領域では、特定看護、トリアージ、急性期初期評価などを含めて、救急専門看護領域が一層に進展しようとしています。その上で、薬剤師、臨床工学技士、理学療法士の救急領域への連携と参加が、多職種連携として一層に期待されています。

 本学術集会では、救急医療を中部地方会として、伝承し、躍進することを目標とします。救急医療領域の診療・教育・学術のシステム化と発展に向けて、皆さまのご参加とご協力を頂戴したいと考えております。中部地方の救急医療の安定と丁重を祈念して、開催の挨拶とさせていただきました。どうぞよろしくお願い申し上げます。

2016年9月13日 松田直之

 

教育講演について


モーニングセミナー 

1.急性期栄養ガイドライン2015 〜多職種連携に向けて〜

2.Teaching is learning:教えることは学ぶこと ~インプットとアウトプットの力学~

 

ランチョンセミナー

1.心肺蘇生ガイドライン2015 〜多職種連携に向けて〜

2.ARDSガイドライン2016 〜多職種連携に向けて〜

 

イブニングセミナー

ボイストレーナーから学ぶプレゼンテーションと発声法

※ イブニングセミナー「ボイストレーナーから学ぶプレゼンテーションと発声法」では,表情筋トレーニングを行いますので,手鏡をご持参下さい。

 

教育講演

1.外傷初期診療の工夫とポイント 

2.IVRのコツとポイント  

3.骨折および四肢切断の診療

4.学会特別企画:救急科専門医育成の新システム

5.脳卒中の診療と管理

6.消化器内視鏡の適応と実践 

7.循環器領域の救急診療のコツとポイント

8.Sepsis-3:敗血症性ショックの診断と治療

9. 救急診療における感染症対策

10. ERにおけるエコー活用術 

11. 精神科救急医療 

12. 救急医療の活性化と手術室連動システム

13. ERトリアージの理解を深める

14. 早期リハビリテーションの理解を深める

15. 看護特定行為の実践と課題

16. 救急看護部門のシミュレーション教育システム

17. 多職種連携 高齢者救急医療の現状と未来

 

CPRコンテスト in 中部

  

※ 心肺蘇生選手権 金・銀・銅 賞   採点基準はパンプレットを確認して下さい。

学生さん,医療従事者の皆さん,一般の皆さん,遠慮なく2名一組でご参加下さい。 

皆さまと連携して,充実した内容を提供できるように尽力させて頂きます。多くの皆さまに演題登録を頂きました。

当日は,モーニングセミナーもあります。当日は,多くの皆さまにお集まりいただきたいと考えております。


※ 医学生さん,看護学生さんも,どうぞ遠慮なく,ご参加下さい。

たくさんの教育講演,シンポジウム,一般演題を揃えております。

皆さん,どうぞよろしくお願い申し上げます。


※ 学術集会ポスター http://plaza.umin.ac.jp/jaam-chubu19/overview.html

 

追記 2016年9月27日,2016年10月18日,2016年10月20日,2016年11月08日(ポスター修正), 2016年11月28日 松田直之

後期 第17回日本救急医学会中部地方会 中部地域の救急医療に携わる皆さんの連携と連動として,「救急医療の伝承」そして「躍進する時代の救急医療」を,皆で考える1日となったように思います。教育講演,シンポジウムに加えまして,一般演題におきましても,素晴らしい報告をいただきました。中部地方,日本に,多くの救急科専門医が育つことを祈念しております。救急医療を教えることができるまでに先進するには,とても大変な力量や専門性が必要とされます。これからもどうぞよろしくお願い申し上げます。 松田直之 2016年12月10日(土)

※ 本ブログは,救急一直線「グローバル化への道」より,2016年12月10日より「救急医療の社会との融和」として開始します。


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iJMAT 台湾熱傷診療支援活動

2016年10月18日 01時02分13秒 | 救急医療

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2016/10/17 iJMAT 2015/06/27 台湾熱傷診療支援活動報告
   〜 The Joint Burn Care Assistance:JMAT in Taiwan 〜
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The International Activities in Taiwan by the Joint Burn Care Assistance Team of Physicians from Japan Medical Association and Three Medical Societies 

Matsuda N, Yamada S, Hinoshita T, Sasaki J, Ikeda H, Harunari N, Sakamoto T.

 

内容:2015年6月27日午後8時頃,台湾新北市のウォーターパーク「八仙楽園」において,カラーパウダーを使用した野外コンサートにおいて,カラーパウダーが発火し,粉塵爆発事故が発生しました。2015年6月30日において,熱傷受傷患者数は498名(最終499名),うち入院患者数は398名,うち集中治療管理患者数は277名,平均熱傷面積は44%と報告されました。私達は,日本医師会JMATとして,台湾政府からの要請に基づき,2015年7月12日(日)〜15日(水)の4日間,台湾衛生福利部(厚生労働省)および台湾医師会と連動して5つの主要施設を訪問し,熱傷診療支援を展開しました。この活動記録を,英文にまとめさせていただきました。その後,日本医師会と台湾医師会は,2015年7月30日に台北市内で「災害時の医療連携協定」を締結しました。アジアで初めての「災害医療における医療協力体制」を締結できております。

名古屋大学大学院医学系研究科 救急・集中治療医学分野 松田直之

 

Introduction

 Cross-border medical support activities began with the Committee of Five, the predecessor of the International Committee of the Red Cross, which was established in 1863.1 In Japan, in addi- tion to the Japanese Red Cross Society, the Japan Medical Association Team (JMAT)2,3 is relied on for medical support in disaster-affected areas. JMAT was active in providing aid in the aftermath of the Great East Japan Earthquake, which struck on March 11, 2011.

 Around 8 pm on June 27, 2015, a dust explo- sion occurred at a water park called Formosa Fun Coast in New Taipei City, Taiwan, when ammable colored powder used at an event exploded. On June 30, the number of burn patients totaled 498 (ultimately there were 499 patients), of which 398 were hospitalized. Of these, 277 were intensive care patients and the average burn coverage was reported to be 44% of total body surface area.

 At the request of the Taiwan Medical Asso- ciation (TMA) and the NGO Taiwan Root Medical Peace Corps (TRMPC), the Japan Medical Association (JMA) dispatched six burn experts recommended by the Japanese Society of Inten- sive Care Medicine (JSICM), the Japan Associa- tion for Acute Medicine (JAAM), and the Japanese Society for Burn Injuries (JSBI). This Joint Burn Care Assistance Team of Physicians by JMA and Three Medical Societies was in Taiwan for the four days from Sunday, July 12 to Wednesday, July 15, 2015 to collaborate with the Taiwanese government, especially Taiwan’s Min- istry of Health and Welfare, in assisting with burn treatment. This report discusses the activities of the team in Taiwan. 

Preparations Leading Up to Burn Treatment Support

 On June 30, JSICM began considering transport- ing burn patients by air to intensive care units in Japan. By July 7, JMA had coordinated with the TMA and Taiwan’s Ministry of Foreign Affairs, and had also brought together the JSICM, JAAM and JSBI to select six members for the team and set the procedures for sending the team. The four days from July 12 to July 15 were designated for activities, with the members serving as advisors on burn treatment but not providing direct medical treatment.

 At 10:30 am on July 12, the members met at the Chubu Centrair International Airport in Nagoya, shared information on the current sta- tus of burn treatment in Taiwan, and conrmed the guidelines for their activities. On arriving at the Taiwan Taoyuan International Airport on China Airlines, representatives from Taiwan’s Ministry of Foreign Affairs and the TRMPC and reporters from many news outlets were waiting. The team then went to Taiwan’s Ministry of Health and Welfare and received information about the burn treatment following the water park accident in New Taipei City. The Ministry and the TRMPC explained the support system and schedule for the team’s stay in Taiwan (Fig. 1). The current status of the 498 burn patents (the nal count was 499) was also reviewed (Table 1).

Visits to Hospitals in Taiwan

 On July 13, the team visited the Tri-Service General Hospital and the Shin Kong Wu Ho-Su Memorial Hospital, followed by the Cheng Hsin General Hospital on July 14 and the Linkuo Chang Gung Memorial Hospital and Cathay General Hospital on July 15. The team visited the ve hospitals in total that the Taiwan’s Ministry of Health and Welfare had readied for their arrival, and shared information on treatment.

 Each hospital had prepared presentations on severe cases that had been difcult to manage. They shared patient information and discussed treatment and management (Fig. 2). Subsequently, the team went on hospital rounds for the burn center (Fig. 3), the critical care unit, and the hospital wards and toured the operating rooms (Fig. 4), and then thoroughly discussed the management and treatment guidelines for each patient in terms of the management of the burn wound, consciousness, breathing, circulation, infection, nutrition, regeneration and reha- bilitation. The team recognized the advanced burn treatment available at each hospital and tried to share good treatment guidelines among them. The team gave computer presentations of the burn treatment guidelines used in Japan, infection management and skin grafting with articial dermis and cultured epidermal auto- graft (CEA), and then discussed these approaches at each hospital. 

 All of the hospitals that the team visited were treating more burn patients than normally expected, given this emergency situation result- ing in a large number of burn patients. They all faced difculties in ensuring a sufcient number of health care providers, treatment centers for whole body management, local wound management and infection prevention. 

Taiwan’s Medical Volunteer System

 Regarding medical manpower, retired doctors and doctors who had started their own practices returned to the medical center as medical volun- teers to help with the treatment. In addition to these volunteers in Taiwan, if the dispatch of doctors and nurses from Japan were possible, the burden on critical care doctors could be reduced. It was determined that transporting burn patients to Japan, as considered by the JSICM, was not applicable due to the high standard of treatment in Taiwan and the strong desire and expectations of patients and their families to be treated in their own country, as well as the risks associated with wide-area transport. 

Bedside Discussions on Whole-body Management

 All of the ve hospitals used the same approach to whole-body management as Japan uses in its burn treatment. However, not all of the doctors treating patients with multiple burns were expe- rienced in burn treatment. The team was thus able to serve as intermediaries between doctors specializing in burn treatment and doctors with other specialties.

 First, the team gave a presentation on the effective use of dexmedetomidine (DEX) for pain relief and mitigation, and shared informa- tion on the relationship between pain manage- ment and maintaining immunity. DEX4,5 is an α2 adrenoreceptor agonist widely used in Japan during the intensive care phase. In addition to a sedative effect via the locus ceruleus, DEX is effective in easing pain in the trunk of the body. The team discussed the effect DEX could have in easing sympathicotonia, as well as stabilizing circulation.

 As regards respiratory care, the dust explo- sion caused by the corn starch used in the col- ored powder resulted directly in airway burns, lung injuries and accompanying respiratory infections in some patients. The inhalation burn injury6 caused by the dust explosion required attention and careful follow-up. As a result of the respiratory tract injuries caused by burning corn starch adhering to the trachea, extracorpo- real membrane oxygenation (ECMO) was intro- duced. There have been cases in which patients could be removed from ECMO. There were over 20 cases in each hospital of patients requiring articial respirators for pulmonary edema as a result of this kind of airway burn and mass trans- fusions required to manage extensive burns.

 In cardiovascular management, there was a general understanding about the difculty of managing the initial transfusions in the many symptoms present when burns cover more than 40% of the body. The team discussed manage- ment guidelines for uid therapy in the case of severe inammation, as seen with sepsis and burns, including an approach to restoring uid balance using pulse pressure variation (PPV) and stroke volume variation (SVV) for wave- form analysis of pulse waves,7-9 and circulation management through ultrasound scans. In addi- tion, we discussed treatment guidelines for cases in which cardiac tamponade and large-volume pleural effusion, which can occur with transfu- sions in extensive burns, function as restrictive factors for the heart and thus impede circulation. In conrming these individual cases, treatment guidelines were discussed at the bedside and treatment guidelines were shared.

Management of Burn Wounds

 Even 16 days after patients had rst received the burns, there were several cases in which debride- ment of the burn wounds was not yet complete. Since the objective was to save the lives of the many patients with extensive burns, an approach was used in which debridement in a small area was carried out over several days and repeated while the patient was under general anesthesia. There were several severe cases, which were required escharotomies due to circumferential deep burns.

 At each hospital, the team explained the gen- eral process for burn treatment, the target time for completion of debridement, wound treat- ment, methods for cleaning wounds, and the use of topical agents, and shared information on treatment management. The team also gave pre- sentations using computers on the use of cul- tured epidermal autograft (CEA) combined with auto 6 to 1 meshed split thickness skin graft called hybrid method in Japan. In these presen- tations, the method using CEA, which is not yet approved in Taiwan, the “sandwich” method in which articial dermis and autologous skin are combined, negative pressure wound therapy, and a method using silver sulfadiazine were dis- cussed, and treatment guidelines were shared.

Management of Infection and Sepsis

 There were cases in which local infection and respiratory tract infections resulted in sepsis. In addition to enteric bacteria, pathogenic bacteria such as Acinetobacter baumannii, Methicillin- resistant Staphylococcus aureus, Pseudomonas aeruginosa and Candida spp. were causing prob- lems, and multi-drug-resistant Acineobacter infections were conrmed in particularly high numbers. The team shared information about the status of the management of multi-drug-resistant bacteria in Japan and effective monitoring of bactericide blood concentration levels, as well as the effectiveness of measuring plasma (1→3)-β-D-glucan10 in managing fungi and the appropriate use of antifungal agents.

Coordination with Taiwan’s Ministry of Health and Welfare

 After visiting the hospitals, the team stopped by the Ministry of Health and Welfare every day to report on the status of burn management at the hospitals and share information on its activities. The Ministry considered the use of CEA, which was approved for manufacture by Japan’s Ministry of Health, Labour and Welfare as Japan’s rst human cell/tissue-engineered medical device (product name: JACE®, Japan Tissue Engineering Co., Ltd., Japan)11 on October 29, 2007. In addi- tion to describing the characteristics of CEA and the pros and cons of its use, the team provided specic information on whole-body management, such as the exact skin grafting methods for burns (burn management using articial dermis and CEA that has been preserved), optimizing debridement, wound management using negative pressure wound therapy, methods for clean- ing wounds, infection and sepsis management, and pain management and mitigation. Files of the presentations given by the team were pro- vided to the Ministry of Health and Welfare and the respective hospitals via the TRMPC.

In Closing

 The Joint Burn Care Assistance Team’s work in Taiwan conrmed the need for medical collabo- ration between Taiwan and Japan in accidents resulting in multiple casualties. The visits to the ve representative hospitals—the Tri-Service General Hospital, the Shin Kong Wu Ho-Su Memorial Hospital, the Cheng Hsin General Hospital, the Linkuo Chang Gung Memorial Hospital and Cathay General Hospital—afrmed the effectiveness of treatment collaborations in emergency situations. The team informed the JMA and Taiwan’s Ministry of Health and Welfare of the need to establish a mutual sup- port system in both countries to respond to multi-casualty events in Taiwan and Japan. Discussions with medical professionals from Taiwan’s Ministry of Foreign Affairs, Ministry of Health and Welfare, the TMA, the TRMPC and others (Fig. 1) demonstrated the importance of medical interaction between the two countries.

Acknowledgments

 We would like to express our deep gratitude to Yoshitake Yokokura (JMA), Masami ISHII (JMA), Tetsuo Yukioka (JAAM), Yoshihito Ujike (JSICM), Hiroaki Nakazawa and Hajime Matsumura (JSBI), the JMA, JSICM, JAAM, JSBI, TMA, the Taiwanese government, especially the Ministry of Health and Welfare, and TRMPC for the support given during our stay in Taiwan. We are grateful for the opportunities to exchange views with representatives from the TMA and Taiwanese government and the chance to give an optimistic report on the direction of joint medical support. Moreover, we are sincerely grateful to everyone at the Tri-Service General Hospital, the Shin Kong Wu Ho-Su Memorial Hospital, the Cheng Hsin General Hospital, the Linkuo Chang Gung Memorial Hospital and Cathay General Hospital, and Yen Ta Huang (Tzu Chi University), who took time from their busy schedules to have such fruitful discussions with us. We are praying for the recovery of ev- eryone hurt in this incident. 

 

References

1. International Committee of the Red Cross. https://www.icrc.org/ eng/who-we-are/history/overview-section-history-icrc.htm.

2. Ishii M. Activities of the Japan Medical Association Team in response to the Great East Japan Earthquake. JMAJ. 2012; 55(5):362-367.

3. Ishii M, Nagata T. The Japan Medical Association’s disaster pre- paredness: lessons from the Great East Japan Earthquake and Tsunami. Disaster Med Public Health Prep. 2013;7:507-512.

4. Hoy SM, Keating GM. Dexmedetomidine: a review of its use for sedation in mechanically ventilated patients in an intensive care setting and for procedural sedation. Drugs. 2011:30;71:1481- 1501.

5. NelsonS,MuzykAJ,BucklinMH,BrudneyS,GagliardiJP.Den- ing the role of dexmedetomidine in the prevention of delirium in the intensive care unit. Biomed Res Int. 2015;2015:635737.

6. Beausang E, Herbert K. Burns from a dust explosion. Burns. 1994;20:551-552.

7. Pinsky MR. Functional haemodynamic monitoring. Curr Opin Crit Care. 2014;20:288-293.

8. Hofer CK, Cannesson M. Monitoring uid responsiveness. Acta Anaesthesiol Taiwan. 2011;49:59-65.

9. Matsuda N. Treatment strategy for sepsis and septic shock. The Journal of the Japan Medical Association. 2016;144:2031-2035. (in Japanese)

10. Weiss E, Timsit JF. Management of invasive candidiasis in non- neutropenic ICU patients. Ther Adv Infect Dis. 2014;2:105-115.

11. Japan Tissue Engineering Co., Ltd. http://www.jpte.co.jp/english/. 

 

Figures & Table

 
Figure 1. Coordination with Taiwan Medical Association and Taiwan’s Ministry of Foreign Affairs

The Joint Burn Care Assistance Team’s visit to Taiwan was carried out in collaboration with the Taiwan Medical Association (TMA) and Taiwan’s Ministry of Foreign Affairs. The need to set up a medical system for emergencies, such as wide-area disasters was discussed. In addition, it was confirmed that there is the need to establish legislation through collaboration between the TMA and JMA for emergency medical support systems.

 

Figure 2. Presentations and discussions on severe symptoms

This is an image of discussions of cases at the Shin Kong Wu Ho-Su Memorial Hospital on July 13, 2015. The situation was tense as the patient’s symptoms were extremely severe. In addition to presentations on cases of severe burns using computer projections and discussions of treatment guidelines, the team visited the rooms of patients with severe injuries and reviewed treatment guidelines on an individual basis in conjunction with the symptoms in each case.

 

Figure 3. Making the rounds of the burn management unit

This is a picture of the team making the rounds of the burn center and the beds in the intensive care unit at the Tri-Service General Hospital on July 13, 2015. The treatment guidelines for individuals were discussed in conjunction with their symptoms, and treatment information was shared.

 

Figure 4. Tour of operating room and specific advice on operations

At the Cheng Hsin General Hospital on July 14, 2015, the team discussed surgical guidelines in the operating room. Debridement of burn wounds, cleaning of wounds and infection management were discussed in full to arrive at management guidelines.

 

Table 1. Number of burn victims in Formosa Fun Coast dust explosion accident

This is the breakdown of the injured as announced by Taiwan’s Ministry of Health and Welfare on June 30, 2015. Initially, 277 patients were in intensive care units. Subsequently, one more person was added and the number of injured was revised to 499. The average burn coverage was about 44%. Of these, 11 people (2.2%) had died as of August 13, 2015, which is an extremely high rescue rate.

 

JMAT Agreement 日本医師会による日台医療連携締結 2015/07/30

 


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救急医療 血液ガス分析:代謝性アシドーシスでの留意事項

2016年09月13日 06時26分14秒 | 救急医療

留意事項 血液ガス分析

血液ガス分析における代謝性アシドーシスの評価

〜急性アルコール中毒にも要注意〜

 

名古屋大学大学院医学系研究科

救急・集中治療医学分野

教授 松田直之

 

【はじめに】救急外来( ER:emergency room)でルーティンに血液ガス分析が行われる傾向がありますが,血液ガス分析は,考えて行うようにしましょう。酸素を投与している場合は,必ず,投与量やFIO2を併記するようにします。血液ガス分析の測定の理由は,① 呼吸数の異常(22回/分を超える,10回/分未満である,乱れがある),② 呼吸のリズムの乱れ(例:Kussmaul呼吸),③ 酸素投与の適正化(SpO2低下),④ 電解質評価,⑤ Hb確認を基本にします。ここに加えて,最近は,ARDSの評価(ICU入室前のSOFAスコア確認),クレアチニン(糸球体濾過)の確認などとしても使用される傾向があります。しかし,特に,①呼吸数の異常(22回/分を超える,10回/分未満である,乱れがある),ここは,つまり呼吸数の早い場合や乱れのある場合は代謝性アシドーシスが隠れている可能性を考えます。呼吸数の遅い場合は,代謝性アルカローシスが隠れている可能性を考えます。代謝性アシドーシスでは,電解質評価としてアニオン・ギャップ(AG)も加えるようにしましょう。

【留意事項】アニオンギャップ AG = Na+  ー(Cl- + HCO3-)(正常:8~16 mM)

代謝性アシドーシス(Base Excess低下)では,アニオン・ギャップ(AG)を評価してください。

 

代謝性アシドーシス パターン1:AG 正常 & Cl- 正常

 □ 敗血症初期

 □ ショック初期

 

代謝性アシドーシス パターン2:AG正常 & Cl- ↑

AG正常 & クロール上昇で考える鑑別疾患

 □ 下痢の存在:問診で確認,BUN/Crea>20(?)

 □ 尿細管アシドーシス

 □ ICU管理での注意:① 膵液瘻,② 生理食塩水過剰投与(ショック蘇生等)

 

代謝性アシドーシス パターン3:AG↑ & Cl- 正常

 AG上昇 & クロール正常で考える鑑別疾患

 □ 糖尿病性ケトアシドーシス

 □ 乳酸アシドーシス(ER搬入前の痙攣やてんかん,メトホルミン内服,ビタミン欠乏(ビタミンB1),ショックや虚血の持続など)

 □ 尿毒症

 □ サリチル酸中毒

 □ シアン中毒

 □ 鉄剤中毒

 □ アルコール中毒:血漿浸透圧ギャップを測定します。測定血漿浸透圧 ‐ 予測血漿浸透圧(2Na + BUN/2.8 + Glu/18)>10 mOsm/kg

【補足事項】アルコール中毒における血中アルコール濃度の予測

 急性アルコール中毒における血中アルコール濃度の予測式

 血中アルコール濃度と症状(参考:個人差あり)

 □   20~  40 mg/dL:気分爽やか,活発傾向

 □   50~150 mg/dL:ほろ酔い

 □ 160~300 mg/dL:酩酊状態(千鳥足や運動障害の出現)

 □ 310~400 mg/dL:泥酔状態(歩行困難および意識混濁の出現)

 □ 400 mg/dL 以上:昏睡状態(舌根沈下,心肺停止の可能性の考慮)

血中エタノール濃度(予測)血漿浸透圧ギャップ測定血漿浸透圧値 ‐ 予測血漿浸透圧(計算:2Na + BUN/2.8 + Glu/18))mOsm/L x 46(エタノールの分子量 46.07)g/Osm ÷ 10 (dLへの換算)= 〇〇 mg/dL 


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救急外来 小児 救急外来における感染症の登校基準

2015年01月01日 05時48分52秒 | 救急医療

救急外来 小児救急外来における感染症の学校登校の説明

名古屋大学大学院医学系研究科 救急・集中治療医学分野

松田直之

 

小児領域の感染症で学校に通って良いとされる標準的な基準を聞かれることがあります。参考とされてください。

 

□ インフルエンザ

潜伏期間:1〜4日,登校基準:解熱後2日完了まで。幼稚園児や保育園児は,解熱後3日まで登校させずに自宅待機させる。解熱後2日を基準とする。

 

□ 百日せき

潜伏期間:7〜10日,登校基準:咳が消失するまで。抗菌薬が処方された場合は,投与後5日を経て投稿可能かどうかの再評価とする。咳消失を目安とする。

 

□ 麻疹(両親への説明:空気感染への注意)

潜伏期間:8〜12日,登校基準:発疹後の発熱が解熱して3日を経過してから登校させる。解熱後3日間。

 

□ 風疹

潜伏期間:8〜12日,登校基準:発疹後の発熱が解熱して3日を経過してから登校させる。解熱後3日間。

 

□ 水痘(両親への説明:空気感染への注意)

潜伏期間:14〜16日,登校基準:発疹が痂皮化するまで。

 

□ 流行性耳下腺炎

潜伏期間:16〜18日,登校基準:耳下腺の腫脹が出現してから5日間が経過し,発熱などがなく全身状態が落ち着くまで。耳下腺腫脹出現後5日間を目安。

 

□ 溶連菌感染症

潜伏期間:2〜10日,登校基準:抗菌薬が内服されはじめ,発熱や咽頭痛などの症状が落ち着いた状態を目安。

 

□ 咽頭結膜熱(プール熱)

潜伏期間:2〜14日,登校基準:発熱や結膜炎などの症状が落ち着いてから2日間後。

 

□ 流行生活結膜炎

潜伏期間:2〜14日,登校基準:眼症状が消失しても,一度,眼科で評価してもらってからの登校とする。眼科専門医の最終評価に基づくようにする。

 

□  手足口病

潜伏期間:3〜6日,登校基準:解熱後1日間以上が経過し,全身状態が落ち着き,本人が登校できるとする場合。

 

□ ヘルパンギーナ

潜伏期間:3〜6日,登校基準:全身状態が落ち着いている場合。

 

□ ロタウイルス感染症

潜伏期間:1〜3日,登校基準:下痢や嘔吐などの消化器症状が落ち着き,本人が登校できるとする場合。

 

(注)初版:2015年1月1日,適時,追記します。


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救急医療 嚥下機能リハビリテーション Shaker exercise

2012年06月27日 06時52分10秒 | 救急医療

 嚥下リハビリにおけるShaker exerciseの方法は,臥位から頸部を重力に逆らうようにまっすぐに挙上し,1分間そのポジションを維持させる方法である。しかし,1分間維持できない場合はできる時間までとしています。その後に頸部をおろし,1分間,頤位のまま休憩します。 これを1日3回施行し,6週間連続で行うと嚥下機能の回復が認められるという報告があります。老齢者の救急医療では,搬入時から嚥下機能が低下している場合も多く認めます。救急科患者の病棟管理において,Shaker exerciseを導入し,嚥下機能を衰えさせない工夫などを考えています。こうした内容は,状況に応じて,さまざまに変法を考案できるでしょう。敗血症をはじめとするSIRS/CARSでは,回復期に廃用性変化を起こさないように,嚥下関連筋群の機能低下に対しても,適切な嚥下訓練法を指導していく必要があると考えています。参考文献を下につけておきます。

<参考文献> Shaker exercise
1. Shaker R, Kern M, Bardan E, Taylor A, Stewart ET, Hoffmann RG, Arndorfer RC, Hofmann C, Bonnevier. Augmentation of deglutitive upper esophageal sphincter opening in the elderly by exercise. J. Am J Physiol. 1997;272(6 Pt 1):G1518-22.

Earlier studies have shown that the cross-sectional area of the deglutitive upper esophageal sphincter (UES) opening in healthy asymptomatic elderly individuals is reduced compared with healthy young volunteers. The aim of this study was to determine the effect of a head-raising exercise on swallow-induced UES opening and hypopharyngeal intrabolus pressure in the elderly. We studied a total of 31 asymptomatic healthy elderly subjects by videofluoroscopy and manometry before and after real (19 subjects) and sham (12 subjects) exercises. A significant increase was found in the magnitude of the anterior excursion of the larynx, the maximum anteroposterior diameter, and the cross-sectional area of the UES opening after the real exercise (P < 0.05). These changes were associated with a significant decrease in the hypopharyngeal intrabolus pressure studied in 12 (real-exercise) and 6 (sham-exercise) subjects (P < 0.05). A similar effect was not found in the sham-exercise group. In normal elderly subjects, deglutitive UES opening is amenable to augmentation by exercise aimed at strengthening the UES opening muscles. This augmentation is accompanied by a significant decrease in hypopharyngeal intrabolus pressure, indicating a decrease in pharyngeal outflow resistance. This approach may be helpful in some patients with dysphagia due to disorders of deglutitive UES opening.

2. Logemann JA, Rademaker A, Pauloski BR, Kelly A, Stangl-McBreen C, Antinoja J, Grande B, Farquharson J, Kern M, Easterling C, Shaker R. A randomized study comparing the Shaker exercise with traditional therapy: a preliminary study. Dysphagia. 2009;24:403-11.

Seven institutions participated in this small clinical trial that included 19 patients who exhibited oropharyngeal dysphagia on videofluorography (VFG) involving the upper esophageal sphincter (UES) and who had a 3-month history of aspiration. All patients were randomized to either traditional swallowing therapy or the Shaker exercise for 6 weeks. Each patient received a modified barium swallow pre- and post-therapy, including two swallows each of 3 ml and 5 ml liquid barium and 3 ml barium pudding. Each videofluorographic study was sent to a central laboratory and digitized in order to measure hyoid and larynx movement as well as UES opening. Fourteen patients received both pre-and post-therapy VFG studies. There was significantly less aspiration post-therapy in patients in the Shaker group. Residue in the various oral and pharyngeal locations did not differ between the groups. With traditional therapy, there were several significant increases from pre- to post-therapy, including superior laryngeal movement and superior hyoid movement on 3-ml pudding swallows and anterior laryngeal movement on 3-ml liquid boluses, indicating significant improvement in swallowing physiology. After both types of therapy there is a significant increase in UES opening width on 3-ml paste swallows.


3. White KT, Easterling C, Roberts N, Wertsch J, Shaker R. Fatigue analysis before and after shaker exercise: physiologic tool for exercise design. Dysphagia. 2008 Dec;23(4):385-91.

Recent studies suggest that the Shaker exercise induces fatigue in the upper esophageal sphincter (UES) opening muscles and sternocleidomastoid (SCM), with the SCMs fatiguing earliest. The aim of this study was to measure fatigue induced by the isometric portion of the Shaker exercise by measuring the rate of change in the median frequency (MF rate) of the power spectral density (PSD) function, which is interpreted as proportional to the rate of fatigue, from surface electromyography (EMG) of suprahyoid (SHM), infrahyoid (IHM), and SCM. EMG data compared fatigue-related changes from 20-, 40-, and 60-s isometric hold durations of the Shaker exercise. We found that fatigue-related changes were manifested during the 20-s hold. The findings confirm that the SCM fatigues initially and as fast as or faster than the SHM and IHM. In addition, upon completion of the exercise protocol, the SCM had a decreased MF rate, implying improved fatigue resistance, while the SHM and IHM showed increased MF rates, implying that these muscles increased their fatiguing effort. We conclude that the Shaker exercise initially leads to increased fatigue resistance of the SCM, after which the exercise loads the less fatigue-resistant SHM and IHM, potentiating the therapeutic effect of the Shaker exercise regimen with continued exercise performance.


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救急医療 愛知県における周産母子救急患者受入れシステムの紹介

2012年05月30日 12時19分07秒 | 救急医療
 愛知県では,2010年7月1日より名古屋大学医学系研究科で独自に開発した電子システム「ホスピタルナビ」を導入し,周産期母子の救急要請に対して速やかに対応できるシステムを稼動させた。現在,県から割り当てられた18か所の周産期母子医療センターと,県下110か所の分娩施設に,iPHONE®を設置し,周産期母子の救急患者受入れ要請メールを一斉配信している。メールの返信により,搬送先施設が決定となり,一度決定されると次施設の受付ができないように設定されている。
 2010年7月1日から2012年5月18日までの約1年11か月の期間において,総件数は72件であり,その内訳は産褥婦67件,新生児5件だった。受入れ決定までの時間は,中央値3分であり,極めて速やかに応需が達成されていた。
 現在,このようなホスピタルナビシステムを用いて,急性薬物中毒を含めた「精神科救急」への応用を検討している。さらに,急性薬物中毒においては,その精神フォローを行って頂く連携病院を探すGPネットが愛知県医師会に立ち上がった。

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救急医療 名古屋大学MTASSトリアージボード 

2012年05月30日 12時06分46秒 | 救急医療
 名古屋大学医学部附属病院は,2011年度には救急外来受診者数が12,024名,救急搬入台数が3,130台へ増加し,さらに関連連携病院との医療連携システムを充実させ,より広く救急医療を教育し,救急医療の質と救命率を高めるために寄与しています。この当院の3次医療機関/災害拠点病院としての役割の中で,災害モード以外は,病院統合情報システムが採用され,救急外来診療を含めた全ての診療システムが電子化されていることが特徴です。
 これまで,救急外来を受診した患者さんに対しては,紙ベースでトリアージを行なっていましたが,私の着任後,救急外来でのトリアージを電子化することを目的として,名古屋大学医学部附属病院メディカルITセンターと看護部と共同し,独自にiPad®伝送電子トリアージシステムMTASS(Meidai Triage and Acuity Scale System)とトリアージ電子ボード(MTASS-B)を開発し,これらを2011年10月1日より稼働させました。さらに,現在,平成24年度診療報酬改定による院内トリアージ実施料請求に向けて,当院の電子カルテシステムに統合できるようにアップデートしています。第40回日本救急医学会(京都)では,この当院独自のシステムであるMTASSの特徴を紹介し,そして今後の課題と展望について論じさせて頂こうと思います。

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