救急一直線 特別ブログ Happy保存の法則 ー United in the World for Us ー

HP「救急一直線〜Happy保存の法則〜」は,2002年に開始され,現在はブログとして継続されています。

二重投稿に対する注意 バンクーバースタイル2007年度版

2008年01月17日 03時35分41秒 |  ひまわり日記
私のところにも国内外の原著論文の査読依頼が,多くあります。
このような中に,二重投稿原著論文が含まれていることがあります。
以下に,バンクーバースタイル2007年度版の二重投稿に関係する内容を記載します。
十分に注意されるよう,よろしくお願い申しあげます。

京都大学大学院医学研究科初期診療・救急医学分野
准教授 松田直之


バンクーバースタイル2007年度版

III.D. 重複掲載

III.D.1. 二重投稿

 ほとんどの生物医学雑誌は他誌で同時に査読されている原稿を受理しません. 主な理由は, 1) 雑誌間で同時投稿された原稿の出版権を争う可能性があるため, また2) 複数の雑誌が同じものと気付かず査読と編集作業を行い, 論文を発表する可能性があるためです. ただし, 各雑誌の編集者が論文の同時発表が公衆衛生上の利益になると判断した場合, 同時発表を行う場合があります.

III.D.2. 重複掲載

 重複 (二重) 掲載とは, 既に印刷物や電子媒体として出版された論文と実質的に同じ論文の掲載を意味します.
 一次情報源として定期刊行物を読むものは, 印刷物であるか電子出版物であるかにもかかわらず, 著者や編集者が再掲載である旨を記載しない限り, 原著論文だと判断します. このような背景には, 国際著作権法に加え, 倫理観や資源の有効利用といった考え方が根本にあります. 原著論文の二重掲載は特に問題があります. 1つの研究が2重に集計され, 結果が不適切に重み付けされることで, エビデンスが歪曲されるためです.
 発表済みの論文でほぼすべての内容が既に報告されている研究や, 印刷物や電子媒体での出版を目的に投稿された, あるいは既にアクセプトされた別の論文に含まれている研究の場合, ほとんどの雑誌が受け取りを拒みます. ただし, これは他の雑誌でリジェクトされた論文や予備報告 (専門家会議の抄録やポスターなど) の続報を排除するものではありません. また, 学術会議では既に発表されているもののフルペーパーでの出版は行われていない論文や, プロシーディングスなどで出版が考えられている論文の検討を妨げるものでもありません. 開催が予定されている会議のプレスレポートは通常このルールに抵触するとは判断されないものの, 追加のデータや図表を使って内容を詳細に説明することは避けるべきです. 臨床試験登録機関に掲載された結果について, ICMJEは内容が簡単な抄録や表であった場合, 発表済みの論文とはみなしません. なお, 臨床試験登録機関への掲載では, フルペーパーの発表先を引用するか, 査読を必要とする雑誌では未発表であることを記載するべきです.
 論文を投稿する場合, 著者は同じ (またはほぼ同じ) 論文の重複 (二重) 掲載と見なされる可能性のある論文や過去の報告 (学会発表や登録機関での結果掲載を含む) をすべて編集者に説明します. 過去に発表した報告や別の雑誌に投稿した関連報告の題材が含まれている場合, 著者は編集者に注意を喚起しなければなりません. 過去の発表は今回の論文中で引用し, 参考文献として記載します. 編集者が対処を判断する上での材料にできるよう, このような資料は投稿論文に含めます. 告知せずに重複 (二重) 掲載をしようとした場合, 編集上の対抗措置が行われます. 少なくとも投稿した原稿は即刻却下されます. 編集者が違反に気付かず論文が発表された場合, 著者による説明や承認を待たずに, 重複 (二重) 掲載が行われた旨の発表がまず間違いなく行われます.
 アクセプトされた未掲載の論文やLetter to the Editorに記載された科学情報を一般メディア, 政府機関, 製造業者へ事前に報告する行為は多くの雑誌の方針に抵触します. ただし, 論文やレターの報告内容が, 重大な治療上の進歩を述べている場合, あるいは薬剤, ワクチン, その他の生物学的製品や医療機器に関連する重篤な有害作用や報告義務のある疾病といった公衆衛生上の重大な事故について述べている場合は, 事前の報告であっても正当化されます. このような報告で出版が拒否されることはありません. ただし前もって編集者と協議を行い, 承諾を得る方がよいでしょう.

III.D.3. 二次掲載

 政府機関や専門機関が制定したガイドラインなどは幅広い読者に読まれる必要があります. こういったものの場合, 編集者は他誌に掲載されている資料であっても, 著者と掲載誌の編集者から同意を得て掲載することがあります.
 上記以外の二次掲載 (同一言語の場合もあれば他言語の場合もある) , 特に他国での発表については, 以下のすべての条件を満たせば正当化され, 有益な場合があります.

1.著者が両雑誌の編集者から承認を得ている場合. 二次掲載版の編集者が一次掲載版のコピー, 別刷, あるいは原稿を入手する.
2.一次掲載の優先権が最低でも1週間出版をずらすことで尊重される場合 (両編集者間で別途協議する場合を除く) .
3.二次掲載の論文が一次掲載と異なる読者層を対象とする場合. 要約で十分な場合もある.
4.二次掲載版が一次掲載版のデータの解釈を忠実に反映している場合.
5.二次掲載版のタイトルページの脚注に, 読者や査読者, 文書保管機関に向けて, 論文の一部もしくは全部が過去に発表されていることが記載され, 一次掲載を参考資料とした場合. 適当な脚注の例は次のとおり:「本論文は[省略していない完全な照会先]で最初に報告された研究に基づいている」上記のような二次掲載の許可は無償で行われるべきである.
6.タイトルに二次掲載 (完全な再出版, 要約した再出版, 完全な翻訳, 要約した翻訳) である旨が示されている場合. なお, 米国国立医学図書館では翻訳版を「再出版」とはみなしておらず, MEDLINEに索引される雑誌で原著が掲載された場合, 翻訳版を引用・索引することはないので注意が必要である.

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講義 パルスオキシメータおよびA-lineの圧波形の読み方

2008年01月03日 23時18分15秒 | 講義録・講演記録4

パルスオキシメータおよびA-lineの圧波形の読み方

京都大学大学院医学研究科
初期診療・救急医学分野
准教授 松田直之

キィワード:パルスオキシメータ,動脈圧波形,A-line,呼吸性変動,奇脈,逆奇脈,ショック


解 説

 ショック初期の理学所見として,従来,爪床圧迫によるcapillary refill test(CRT)が用いられてきた。CRTは,爪床の圧迫後の爪床毛細血管再充填に2秒以上かかる場合にショックを疑うという検査である。これは,ベッドサイドでのショック治療として,当たり前の評価手技である。その一方,CRTに代わって指先に装着したパルスオキシメータや橈骨動脈に留置した観血的動脈圧ライン(artery line:A-line)による動脈圧波形をショックの病態評価に利用できる。A-lineによる持続血圧モニタリングは,急性期医療の基本技であり,橈骨動脈あるいは大腿動脈へ5分以内の短時間でカテーテル留置できるようにトレーニングされなければならない。このA-line設置までの間は,パルスオキシメータの圧波形を観察し,心収縮性,体血管抵抗,循環血液量を評価するとよい。
 知っておくべき知識として,パルスオキシメータや観血的動脈圧の圧波形は,①循環血液量(呼吸性変動で評価),②心収縮性(dp/dt: percussion waveの立ち上がり角で評価),③心拍出量(波形下面積で評価),④体血管抵抗(dicrotic waveの有無で評価),⑤脈圧(波形幅で評価)などを連続して提示してくれることである(図1)。
 まず,循環血液量のモニタとして,これらの波形観察が有効である。心タンポナーデや緊張性気胸は,呼吸による脈圧変動が‘奇脈(pulsus paradoxus)’として得られる代表病態だが,循環血液量低下状態でも‘奇脈’が観察される。さらに,心収縮性低下状態ではdp/dtの低下が認められ,さらにdicrotic waveが存在すれば体血管抵抗は高く,dicrotic waveが存在しなければ体血管抵抗は低いと評価できる。注意するべきポイントとして,大動脈弁狭窄症がある。大動脈弁狭窄症では,第1波形下面積が小さく,輸液により大きくならない。これは,1回拍出量が弁口面積の狭小化により限られているためであり,輸液不可における波形観察で最も注意するべき観察ポイントである。このように,パルスオキシメータやA-lineの波形観察は,鎮静薬や血管拡張薬の導入にも利用でき,dicrotic wave や呼吸性変動の程度,dp/dtの変化を観察するとよい。測定された血圧の脈圧を,パルスオキシメータやA-lineの脈高とし,最大の呼吸変動をmmHgとして記載に残すとよい。波形の呼吸性変動は,最大気道内圧とともに評価する。
 このような波形管理は,アナフィラキシー,敗血症,神経原性ショックなどの血流分布異常性ショックの評価にも有効である。血管拡張により体血管抵抗が減じた際には,dicrotic waveが消失し,呼吸性変動が強まり,dp/dtが低下し,波形下面積が減少する。ノルエピネフリンなどのアドレナリン作動性α1受容体作動薬,またはバゾプレシンなどの血管収縮薬を使用する際には,体血管抵抗をdicrotic waveの回復でモニタする(図2)。また,輸液によるショック治療の反応性評価として,輸血や急速輸液の際には波形の呼吸性変動とdp/dtの改善を観察する(図2)。心機能が悪い場合や血管拡張が極めて強い場合には,輸液によるdp/dtの上昇が得られにくく,心原性ショックなどの要因をエコーで評価する。

追記 奇脈と逆奇脈

 ‘奇脈’は,吸気時に脈圧が10 mmHg以上低下する現象である。1669年にRichard Lowerが収縮性心外膜炎で発見し,1873年にAdolf Kussmaulが吸気時に心尖拍動は触知できるが脈が触知できなくなる病態を奇妙であるとして命名した。吸気時に左室容量が減少し,頚静脈が怒張する現象は‘Kussmaul徴候’として知られているが,一般に吸期初期には血圧上昇,吸期を長く保つと血圧が低下する現象が生じる。これは,吸期初期は心肺循環が高まり,吸期を長くとると拡張した肺に血流が貯留し,さらに拡張した肺により心室中隔が左方に偏位し,左心拡張障害が生じることによる。一方,呼期では肺内血液が左心系にしぼり出され,さらに肺による右方からの心嚢圧排が緩和されるため,左室拡張能が高まり,血圧が上昇する。 このような奇脈は,心タンポナーデに限らず,強度の脱水所見である。
 これに対して,‘逆奇脈’とは,呼期に血圧が低下し,吸期に血圧が上昇する所見であり,閉塞性肥大型心筋症や左心不全で観察される。左心不全では,1拍ごとに脈波の大小が繰り返される‘交互脈’を認める場合もある。収縮性の低下した心臓では,吸気時間を短くとると吸気時に左心室が圧迫されるために,血圧が一瞬上昇する。このような逆気脈を認める場合には,ほぼ同時に施行される心エコーとともに,輸液方法に注意が必要である。いずれにしても,循環血液量の減少した状態では,末梢の脈波は呼吸性に強く変動することに注意するとよい。パルスオキシメータやA-line波形は,画面を触れるとストップできるように工夫されている。これを図3のようにトレースして,収縮期圧や脈圧の呼吸性変動値として説明できるようにするとよい。深吸気で約20cmH20の胸腔内圧,中等度の深吸気で15cmH2Oの胸腔内圧と予測して,各々の脈波の呼吸性変動を収縮期圧や脈圧の呼吸性変動値として●●mmHgと記載できるとよい。これは,敗血症性ショックの管理や鎮静鎮痛薬などを使用する時の血行動態解析で極めて有用なテクニックである。






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あけましておめでとうございます

2008年01月01日 12時17分27秒 |  ひまわり日記

あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。

2008年 元旦
松 田 直 之

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