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総説 敗血症における免疫不全とアジュバンド療法の可能性

2021年12月04日 06時00分51秒 | 論文紹介 敗血症性ショック・重症敗血症

総説 敗血症における免疫不全とアジュバンド療法の可能性

Global Sepsis Alliance

名古屋大学大学院医学系研究科 救急・集中治療医学分野

松田直之

 

はじめに

 2016年よりSepsis-31)として国際的に,敗血症(sepsis)は「感染症や感染症が疑われる状態における臓器不全の進行」と定義されています。1992年に公表されたSepsis-12)では,感染症における全身性炎症の進行として敗血症を定義することで血液中での微生物の検出としての菌血症と区分し,2003年に公表されたSepsis-23)では敗血症診断のために観察事項が24項目として整理されました。現在のSepsis-3の定義では感染症に随伴する特徴を「全身性炎症(サイトカインストーム)」から「臓器不全」に変更し,これは臓器不全の進行を阻止するための集中治療管理と関連するものとしています。

 Japanese Sepsis Alliance(JaSA)による日本のDiagnosis Procedure Combination(DPC)のデータの解析4)では,2010年から2017年の間に入院した50,490,128名の成人患者のうち,2,043,073名(約4.0%)が敗血症に罹患していました。入院患者全体に対する敗血症患者の年間割合は,敗血症の認知と診断の向上により0.30%/年の正の傾きとして大きく増加し,2017年では入院患者全体の約4.9%が敗血症に罹患したと評価されます。2017年の本邦の敗血症による院内死亡率と入院期間の中央値は,約18.3%と27日でした。

 このような敗血症において,意識障害,急性呼吸促迫症候群(acute respiratory distress syndrome: ARDS),ショック,肝機能障害,急性腎障害(acute kidney injury:AKI),播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC),さらに消化管,末梢神経,骨格筋,耐糖能などにおけるさまざまな障害が導かれます。多臓器障害から多臓器不全に進行しやすいなかで,免疫細胞にも異常が生じています。敗血症に合併する免疫麻痺(immune paralysis)について理解を共有するものとします。

 

敗血症における病原体関連分子パターン

 PAMPs(pathogen-associated molecular patterns:病原体関連分子パターン)およびDAMPs(damage-associated molecular patterns:傷害関連分子パターン)という名称を用いることで,敗血症や多臓器障害を説明しやすくなりました5)。病原微生物の含有する内毒素によるPAMPs反応は,Toll-like受容体,TNF受容体,インターロイキン受容体などの受容体を介して,多臓器障害を進行させます。また,私たちの細胞障害は,DAMPsとして組織細胞障害を進行させます。このようなPAMPs/DAMPs反応は,免疫細胞や血管内皮細胞や臓器を構築する主要な細胞にも認められます6)。結果として,これらの細胞内で多くの転写因子が活性を変化させ,例えばnuclear factor-κB(NF-κB),activator protein-1(AP-1),signal transducers and activator of transcription-3(STAT-3),interferon regulatory factors(IRF)などの転写因子の活性化を介して6-10),誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)やプロスタノイドなどの炎症性分子,TNF-α,IL-1β,IL-6などの炎症性サイトカイン,ケモカイン,接着分子,C反応性蛋白(CRP)などの転写が促進され,症状として発熱,意識障害,呼吸数増加,頻脈,血圧低下,耐糖能異常,血液凝固線溶異常などの全身性炎症および急性相反応が形成されます。

 

敗血症における好中球/リンパ球比の変化

 敗血症,特に細菌敗血症において,好中球/リンパ球比(neutrophil/lymphocyte ratio:NLR)が増加し, CRPなどの炎症値と共にNLRが変動します。敗血症におけるNLRに関するシステマテックレビュー11)では,2019年3月までのものとして9件の研究より10,685例が抽出され,NLRのカットオフ値を10として敗血症の死亡率が高まり,敗血症の改善とともにNLRが低下することが確認されています。

 正常状態における好中球は,24時間以内にカスパーゼ依存性にアポトーシスを起こします12)。しかし,好中球は上述のPAMPs/DAMPs刺激下では, Myeloid Cell Leukemia-1(Mcl-1)やサイクリン依存性キナーゼなどの抗アポトーシス因子を一時的に活性化させることで,アポトーシスに抵抗性を示す傾向があります。そのような敗血症病態において,転写段階で新たにされたG-CSFとIL-8が好中球や幼若球を炎症局所へ動員し,末梢血に好中球数を増加させます10)。末梢に出現した好中球は,血管内皮上などでローリングしている過程で活性酸素種などの産生を高めるため,結果的には細胞質内でカスパーゼの活性が高まり,アポトーシスやピロトーシス(pyroptosis)13)を起こす傾向があります。

 このように敗血症の初期段階では,好中球のアポトーシスは抑制されるが,生体末梢への浸潤局所においてはアポトーシスやピロトーシスにより細胞死が加速されるとともに,細胞性免疫としての貪食能が低下しています。

 

敗血症における免疫系細胞の変化

 敗血症においては,自然免疫系では単球,樹状細胞,natural killer(NK)細胞,γδ型T細胞,獲得免疫系細胞ではCD4+T細胞,CD8+T細胞,B細胞などがPAMPs/DAMPs反応およびDeath受容体作用などによるアポトーシスとして減少することが知られています。単球,マクロファージ,樹状細胞およびNK細胞の減少や機能不全は,生体内での微生物の消去を遅延させ,敗血症を進展させます。また,制御性T細胞(Treg)の増加,ペルパーT細胞のTh2優位などの変化が,敗血症における免疫麻痺に関与することが知られています。

 まず,敗血症患者の単球に関する臨床研究では,単球細胞膜上のHLA-DRの発現低下により院内死亡率が高まることが示されています14, 15)。敗血症の成人患者79名の単球HLA-DR発現を調べた臨床研究14)では,ICU入室後0,3,7日目において生存群では単球のHLA-DRが高まる傾向がありましたが,死亡群では低下傾向にあることが確認されています。敗血症性ショック3日目に,単球のMHCクラスII関連遺伝子(CD74,HLA-DRA,HLA-DMB,HLA-DMA,CIITA)のmRNA発現を評価した臨床研究15)では,CD74 mRNAレベルの低下が敗血症性ショックの死亡と関連していました。単球において,HLA-DRの発現低下により,ヘルパーT細胞との免疫連携が障害される可能性が示唆されています。

 樹状細胞においては,classical DC(cDC),ウイルス感染などで大量のⅠ型IFNを産生するplasmacytoid DC(pDC),炎症時の末梢血液中の単球から分化する単球系樹状細胞(moDC)において,敗血症の血中で減少することが知られています。DCの生体内での寿命は約4日とされているが, 敗血症ではDCの寿命がアポトーシスとして短縮し,DCの減少は敗血症の臨床転帰の悪化と関連していることが示唆されています16, 17)

 また,NK細胞においても,敗血症でアポトーシスを加速し,減少することが知られています。CD3-NKp46+CD56+細胞として組織中に発現するヒトNK細胞はIFN-γを産生する主要な細胞ですが,敗血症では細胞膜上のCD56が減少し,NK細胞の機能が低下していることも知られています18)。一方で,NK細胞にはPD-1が発現してNK細胞の機能を抑制していますが,NK細胞の機能維持のためにPD-1阻害が有効かどうかについては敗血症の時系列におけるNK細胞膜上のPD-1発現を評価する必要があります。敗血症におけるPD-1阻害薬の効果については,CD4+T細胞での発現を含めて,臨床試験としての詳細な検討が必要な状況です。

 γδT細胞は,IFN-γ,IL-17やケモカインを放出することが知られていますが ,敗血症で減少することも示唆されています19)。さらに,CD4+T細胞,CD8+T細胞,B細胞は敗血症で減少し,Treg細胞は敗血症で増加することが示唆されています20)。敗血症におけるTreg細胞の増加は自然免疫細胞と獲得免疫細胞の両方に免疫力低下として関与し,敗血症の増悪と死亡につながるのかもしれません。Treg細胞は,敗血症におけるアポトーシスに耐性があり,またエフェクターT細胞の減少によって増加する可能性がありますが,マウスを用いた基礎研究では抗CD25モノクローナル抗体によるTreg細胞の制御ではマウスの生存率を改善しておらず,リンパ球全体のアポトーシス制御が重要なのかもしれません20, 21)。敗血症におけるリンパ球のアポトーシスの進行には,Fas/FasL経路などのDeath受容体シグナルの活性化が関与する可能性があります。私たちの研究グループでは,盲腸結紮穿孔によるマウス敗血症モデルにおいて,脾臓のB細胞などのアポトーシスにFADDの活性化が関与することを確認しています22)

 このような敗血症における免疫担当細胞の機能低下と免疫麻痺は,がん,移植後などの免疫状態と異なるものであり23),臨床では敗血症罹患後のリンパ球の変化は基礎疾患により修飾される可能性があります。抗微生物薬および臓器不全を進行させないための全身管理に加えて,免疫の改善を目的としたアジュバント療法が期待されています。敗血症におけるリンパ球の減少と機能低下の分子メカニズムについても,細胞内情報伝達や転写因子活性などを含めて,一層に解明することが期待されています。

 

おわりに

 本稿では,敗血症に合併する免疫麻痺について概説しました。敗血症では,炎症期に好中球/リンパ球比が増加すること,NK細胞およびCD4+T細胞の機能低下の可能性,Treg細胞以外のリンパ球のアポトーシスによる減少について,臨床研究などの結果を紹介しました。また,これからも多くの関連研究が期待されます24-31)。敗血症に合併する免疫麻痺について,リンパ球のアポトーシスの抑制や機能正常化などとして,免疫システムを維持・増強をするための「アジュバント療法」が期待されます。

 

文 献

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  2. American College of Chest Physicians/Society of Critical Care Medicine Consensus Conference: definitions for sepsis and organ failure and guidelines for the use of innovative therapies in sepsis. Crit Care Med 20: 864-874, 1992.
  3. Levy MM, et al. 2001 SCCM/ESICM/ACCP/ATS/SIS International Sepsis Definitions Conference. Crit Care Med 31:1250-1256, 2003
  4. Imaeda T, et al. Trends in the incidence and outcome of sepsis using data from a Japanese nationwide medical claims database-the Japan Sepsis Alliance (JaSA) study group. Crit Care 2021;25:338, 2021
  5. Rittirsch D, et al. Harmful molecular mechanisms in sepsis. Nat Rev Immunol 8:776-787, 2008
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  12. Summers C, et al. Neutrophil kinetics in health and disease. Trends Immunol 31:318-324, 2010
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