救急一直線 特別ブログ Happy保存の法則 ー United in the World for Us ー

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研修医・看護師さん・救急救命士さん パワーアップ 末梢静脈路 Vライン

2009年10月25日 03時08分21秒 | 急性期管理技術

  末梢静脈留置針を使いこなす V-line エイト・ポイント  


京都大学大学院医学研究科初期診療・救急医学分野
准教授 松田直之

 はじめに 

 医療従事者は,末梢静脈路(Vライン,V-line)を確実に確保できる適切な方法を学ぶ必要があります。さまざまな状況において末梢静脈路確保の裏技はいくつもありますが,まずは基本が何かを皆さんに説明できるように,自己評価,自己トレーニングしてください。そして,その次には,いろいろな状況における技術を,イメージのなかで高めていくとよいでしょう。そして,すべての手技は,親指を曲げないことから始まります。親指が立つと,指全体が曲がりやすいのです。指が立つことは,ばらつきや乱雑を生みます。親指を曲げない,完全な等速直線運動の手技を体得されてください。加速度をつけると,痛みが残る可能性があります。点滴において,痛みや炎症を最小限とするためには,痛点をさけ,そして等速直線運動での留置針挿入を意識してください。

 さて,末梢静脈路留置の基本技術を,以下にスライドで示しました。絶えず,留置針の針先と自身の指先が同一の感覚となるように意識して,実際の穿刺を行うことが大切です。皮下に留置針が到達するまでは針先を見つめていますが,針先が皮下に到達した後には,既に方向が定まっていますから,血液の逆流が来ることを信じて,目線は血液の逆流のみの観察とし,丁寧に針先を進めて行きます。静脈路確保,スピード,急ぐことがすべてではありません。できるようになってから,必要に応じてスピードを高めていくので良いでしょう。

 カテーテルの持ち方として,極めて多くの研修医や看護師の皆さんは,血液逆流確認部位を指で覆ってしまっています。持ち方を,誤って教えている指導者もいます。また,静脈路確保は痛いという先入観を強く持った看護師さんも多いです。22G留置針なのに,「痛いですよ~」という掛け声をかける。痛くないように穿刺に工夫することが大切なのです。

 また,ぺんぺんぺんぺん,腕をたたいている看護師さんもいます。虐待です。叩いて手を充血させるのは不適切なのです。腕を心臓の高さより落として,もちろん肩関節脱臼などを起こさないように工夫して,穿刺腕に血液を貯留させて,駆血します。「ぺんぺんぺんぺん」と手を叩いたほうが,穿刺より痛いです。松田式「温点歩かせ法」を見た研修医の先生もいると思います。これは,私が独自に発見した方法ですが,大切なことは「痛点を穿刺しないこと」です。1994年,医師2年目の砂川市立病院時代に確立した手法です。個人差や刺入部位による差はありますが,温点を穿刺し,カテーテルを皮下に留置することで22G留置針レベルであれば,痛みを最小限として留置するができます。また,血管内にプラスティック針が入る際の感触を必ず,指先で感じ取れるようにしましょう。人差し指の母子側の知覚力を磨きます。

 金属針の先端が少しだけ曲がっていて,静脈の後壁への先あたりを防ぐようになっているカテーテルが出てきていますが,これは,側方支持法で10度レベルにまでやや角度をつけることができ,まず,血液逆流を確認することを目標とした静脈路カテーテルです。通常用いている留置針の先端の形状も説明できるようにし,各施設での最良の静脈路確保法をマニュアルとして整備する必要があります。以下のスライドを参考にして,技術習得の参考とされてください。

 松田式 末梢静脈路確保プロトコール 

1.カテーテル:使用する自施設静脈路カテーテルの特徴を調べて,同僚に伝えられるようにしましょう。このブログでは,ブラウン社製の留置針で解説しています。参考として下さい。

2. 感染防御:手指消毒・手袋,感染防御に徹して下さい。

3. 刺入部位:1st choiceは分岐部をねらう。血管が逃げません。

4. 消毒:アルコール消毒は刺入部とその手前を広く含む。カテーテル接続部の動線を丁寧に消毒することが大切です。カテーテル感染,菌血症の可能性を阻止しましょう。

5. 刺入点の選択:温点の多い部位を選び,温点を確認し,温点に刺入する。痛いという迷信を捨てて下さい。その脇で,「いたいですよ~~」と声をかけている看護師さんがいますが,痛みを誘発することは間違いであると考えています。「穿刺します」というように私はしています。患者さんへの静脈路留置は,痛くないように刺入点を選ぶ必要があります。温点の確認は,カテーテル先端の金属心を皮膚に比較的平衡に押し当てるようにして圧迫して確認しています。痛いと感じるならば,その周辺に1-2 mmずらしたところに温点を探すことができます。痛いと感じる痛点付近を,絶対に刺入しないようにします。この,痛点が多い場所は,確かに前腕橈側部ですので,緊急時の前腕橈側部の静脈穿刺には注意が必要かもしれません。

6. カテーテル挿入:カテーテルの特徴をつかむことが大切です。その上で,針先と指先が同一の感覚となるように意識します。針先が指先が同一感覚を保てているかどうかを意識します。

7. 姿勢:刺入時は脇を閉めます。私の薦めるカテーテルの持ち方は,比較的遠方を持つ方法です。この方法では,金属針先端のブレが生じやすいです。このため,脇をシメることで刺入方向の安定性を高めます。接続部付近を持つ先生がいますが,接続部にグローブが触れることは望ましくありません(不潔になるかもしれません)。接属部には,手が触れないことが,末梢静脈路挿入で心がける基本です。

8.刺入時最大のコツ:一滴の血液逆流を見逃さないことです。これは,小児の静脈路留置でも,とても大切な事項となります。皮下に金属部が刺入された後は,目線は血液の逆流部の確認のみに集中されます。針が刺さった状態で,皮膚の刺入部を見ているようではダメです。皮下までカテーテルが入った後の,私たちの目線は,カテーテル内の血流部分として下さい。

原則:① 血液汚染の阻止:接続時に血液をこぼさない,② カテーテル接続部に指で触れない

 留置に困ったとき 

1.血管が見えない

 腕を下げた状態で血管が見えてくるかを確認します。血管が見えてくるような状態で,駆血します。それでもだめなときは,暖かいタオルなどを握って頂いた状態で,手を下げた状態で,駆血します。通常,上半身を起こして頂き手を下げた状態では手掌に血管が見えてくるものです。

2.肥満

 最大の難関です。駆血は腕を下げた状態で行い,血管が見えればよいですが,見えないときには人差し指を用いた触診で血管の走行を探ります。エコーを用いることもありますが,盲目的に穿刺するときも,皮下に留置針が到達するまでは針先を見つめ,針先が皮下に到達した後には,血液の逆流が来ることを信じて,目線は血液の逆流のみの観察として留置針を慎重に進めることが大切です。また,光で透過させる「血管可視化装置」については,各施設で有効な利用方法をマニュアルとしていくと良いでしょう。

3.小児の静脈路確保

 動いてしまうと,どうしても留意の失敗率が高まるため,ご両親などに十分な説明をさせていただき,① 巻ネット,② 巻タオルなどを使用するのが一般的だと思います。「点滴音頭」などの開発により,歌いながら静脈を留置させて頂くとか,これまでの「痛い」とか「縛られる」という恐怖感を和らげる工夫を提案しています。そして,医療従事者自身が,「痛いですよ」という「先入感」や「失敗するかもしれない」という「恐怖感」を和らげる工夫が必要です。痛くないように,暖かく,成功するように留置する成功が大切です。困難な場合は,① 極度の脱水,② 肥満となります。

















末梢静脈路確保は,とても重要な基本手技です。
この技術には,いろいろな応用技法がありますが,技術を崩す前にまず,基本技法を確認しましょう。

 大切なこと 
1.感染防御策,2.疼痛対策 3.手法のイメージ化
現在は医療が標準化されています。安全管理の標準化に注意する一方で,より高い技術として,指の知覚や姿勢,そしてセンスを意識します。


友情出演 山畑佳篤先生(京都府立医科大学)

(注)記事修正 2018年5月14日 研修の先生に指導する過程で,部分修正しています。

(注)記事修正 2019年9月13日 要望があり,フォントサイズを大きくしています。

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