敗血症の定義と診断 2016 〜Sepsis-3〜
名古屋大学大学院医学系研究科 救急・集中治療医学分野
教授 松田直之
はじめに
敗血症(Sepsis)の定義と診断が,2016年にSepsis-31)として変更され,そろそろ国内でも,新しい定義が定着してきています。Sepsis-31)の定義のキーワードは,臓器不全です。感染症あるいは感染症が疑われる状態で,臓器不全が進行する場合,ただの感染症ではなく,敗血症と定義し,感染症管理以上の治療を行っていきましょうという理念です。現在,敗血症は,感染症により臓器不全が進行する病態と理解して下さい(図1)。
敗血症の学術の進化は,振り返れば1992年にSepsis-12)として,Roger C. Bone達により,敗血症の定義と診断が発表されたことによります。このSepsis-1の定義では,全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome:SIRS)という概念が重要であり,感染症による全身性炎症を敗血症と定義したものでした。以後,全身性炎症の病態が,学術として解明されてきました。
一方,現在のSepsis-31)の定義は,「臓器不全の進行」をターゲットとしています。Sepsis-1では,全身性炎症の感染症(敗血症:sepsis),臓器不全を合併した感染症(重症敗血症:severe sepsis),ショックを合併した感染症(敗血症性ショック:septic shock)の3段階分類としていましたが,Sepsis-3では,全身性炎症の感染症がなくなってしまいました。すなわち,Sepsis-3では敗血症の治療ターゲットを,臓器不全を合併した感染症,そしてショックを合併した感染症(敗血症性ショック:septic shock)に絞り込んだわけです。そのため,重症敗血症(severe sepsis)の重症度区分が削除されました。
現在,敗血症は,Sepsis-3により,感染症による重篤な臓器傷害と定義されています。そして,敗血症性ショックは,輸液と血管作動薬に反応しない急性循環不全として乳酸値≧2mmoL/Lの細胞障害および代謝異常であると定義されています。日本集中治療医学会敗血症診療ガイドライン20163)も,このSepsis-3の定義に準じています。以上のように,敗血症を「感染症により進行する臓器傷害」と定義することで,原疾患ではなく,感染症により臓器不全が進行することを広く医療従事者や国民に伝えるための「言葉の戦略」となります。私は,このような意図として,敗血症を教えていますが,一方で「全身性炎症」は「臓器不全」を進行させるという病態生理学的理解も極めて重要なものとなります。
敗血症の概念の変遷
敗血症(sepsis)は,「崩壊」や「腐敗」を意味するギリシャ語のseptikosを語源としています。必ずしも菌が血液中に存在しなくとも,菌体成分がToll-like受容体などと反応として全身性炎症が進展し,サイトカイン血症として敗血症病態が形成されます。
1990年レベルでは,Schottmüllerら4)のように,敗血症は「微生物が局所から血流に侵入した病気」と捉えられていました。血液における微生物の検出が,敗血症の確定診断と考えられていたのです。しかし,1989年にBone達5)によりseptic syndrome(セプシス症候群)という概念が提唱され,この頃から感染症による感染部位局所炎症反応の全身性波及,すなわちサイトカインストームの概念が生まれ始めました。
そして,1992年に米国集中治療医学会と米国胸部疾患学会によるSepsis-12)がBone達の独創性の下で公表されたのです。ここに,炎症性サイトカイン血症や高C反応性蛋白血症すると伴走する「全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome:SIRS)(表1)」の概念が導入されたわけです。SIRSは,呼吸,脈拍,体温,白血球数で規定される4つのクライテリアのうち,2つ以上を満たす症候群です。敗血症を,感染症によるSIRSと定義したのが,はじめての敗血症の国際的定義Sepsis-1でした。Sepsis-1による敗血症の重症度は,①全身性炎症のみの敗血症,②臓器不全を伴う重症敗血症,③ショックを伴う敗血症性ショックの3つでした。
しかし,SIRSの診断基準を用いたSepsis-12)による敗血症診断は感度は高いけれども,敗血症の重症化に対する特異度が低いことから,2003年にSepsis-26)(表2)として,バイオマーカーや理学所見の追加による24項目で構成される敗血症診断が提案されました。Sepsis-2においても,敗血症の定義はSepsis-1と変わるものではなく,敗血症は感染症に伴うSIRSと定義していました。しかし,結果としてSepsis-2の診断はSepsis-1と比較して,敗血症診断や敗血症重症化の特異度を高めませんでした7-9)。
このような過程において,敗血症管理の対象を全身性炎症とするのではなく,臓器傷害の進展とするという概念が集中治療との関連としてクローズアップされてきました。SIRS基準(表1)2)は,敗血症における制御不能に陥った致命的状態を示すものではなく,多くの入院患者で陽性となり,感染症を併発しない患者や良好な転帰をとる患者にも認められるとするSIRSに対する疑義です10)。
□ オーストラリアとニュージーランドにおいて2000年から2013年まで172の集中治療室(intensive care unit:ICU)において後向きに解析した研究11)において,全1,171,797例が解析されました。このデータにおいて,約9.4%にあたる109,663例が感染症と主要臓器傷害を合併していたが,このうちの12.1%にあたる13,278例にSIRS兆候を認めなかったというものです。SIRSの診断が必ずしも臓器傷害の進行を示すものではないことが世界レベルで注目されました。
以上の背景の中で,2016年2月にSepsis-31)(表3)が,公表されました。Sepsis-3は,敗血症を感染症による臓器傷害の進行する病態として定義した。重症度は,敗血症と敗血症性ショックの2つとし,臓器傷害の進行はqSOFAとSOFAを用いることが提案されました3)。
敗血症の診断 Sepsis-3
Sepsis-31)は,臓器傷害の進行に治療の照準をあわせています。臓器傷害の進行にあたって,病院前救護体制,救急外来,一般病棟における場合と,集中治療室などの重症管理をしている場合で分けて行うことを推奨しています。
病院前救護,救急外来,一般病棟では,感染症あるいは感染症が疑われる場合に,quick sequential (sepsis-related)organ failure assessment score(quick SOFA,qSOFA)を用います。qSOFAは,①呼吸数 ≧ 22回/分,②意識変容,③収縮期血圧 ≦ 100 mmHgの3項目で評価し,2項目以上が存在する場合に敗血症を疑うこととします。
このSepsis-3 1)およびqSOFAの導入には,Seymourらの原著論文12)が用いられています。Seymourら12)は,ペンシルバニア州南西部にある12の病院で2010~2012年の間に記録された約130万件の電子カルテより,感染を疑う148,907例を抽出し,SIRSスコア,SOFAスコア,ロジスティック器官機能障害スコア(logistic organ dysfunction system score:LODS)を比較し,さらに多変量ロジスティック回帰を用いて,新たな基準としてqSOFAを提案しました。感染を疑ってからの72時間における,SIRS,SOFA,そしてLODSの最悪値,さらに感染発症の48時間前から24時間後までの,2点以上のSOFAスコアの変化値が評価されました。qSOFAとして,①呼吸数 ≧ 22回/分,②Glasgow coma scale ≦ 13(意識変容),③収縮期圧 ≦ 100 mmHgの3項目のうち2項目以上を満たすとした場合,集中治療室外の約89%の症例において,qSOFAはSOFAスコアやSIRSスコアより優れた臓器傷害の予測を示すものでした。qSOFA 2項目以上では,1項目以下に比べて,院内死亡率が3~14倍に増加していたというものです。
最終的に,ICUなどの重症管理では感染症あるいは感染症の疑いにおいて,SOFAスコア合計2点以上の上昇により敗血症と診断します(表4)。SOFAの測定のためには,glasgo coma scale(GCS)による意識評価,動脈血ガス分析,および血液生化学検査に血小板,総ビリルビン,クレアチニンを含むものとします。救急外来や病棟等での緊急検査項目に,これらを含めることで,SOFAスコアの変動を早期に評価します。敗血症の確定診断は,感染症や感染症の疑いにおいて, SOFAスコアの2点以上の上昇となります。
敗血症性ショックの診断 Sepsis-3
Sepsis-31)における敗血症性ショックの診断は,平均動脈血圧65 mmHg以上を保つために,十分な輸液と血管収縮薬(ノルアドレナリンアリン持続投与など)を用いることが前提となっています。2L/時を超えるような輸液と血管収縮薬の持続投与を開始して,平均動脈血圧65 mmHg以上を維持する,あるいは維持できない場合,敗血症性ショックを疑います。その上で,敗血症性ショックの確定診断には,さらに,血液ガス分析などで血清乳酸値 > 2 mmol/L(18 mg/dL)を必要とします。
Shankar-Heriら13)は,Surviving sepsis campaignデータベース28,150例より,敗血症性ショックと血中乳酸値を評価できる18,840例を抽出し,血清乳酸値>2 mmoL/L(18 mg/dL)を敗血症性ショックの閾値として定めました。Sepsis-31)では,このShankar-Heriら13)の評価基準を採用し,敗血症性ショックを細胞代謝異常をさせ,死亡率を高める重症病態として区分しています。
敗血症の定義と診断における注意事項
敗血症の定義を,感染症から全身性炎症から臓器傷害に移行した場合,敗血症の初期病態をスクリーニングしにくくなります。これは,感染症から臓器傷害が進行する可能性のある状態を見逃す可能性があるため,敗血症を疑うような初期病態の感度が低下します。つまり,SIRSスコアは炎症に関する「感度」が良い,qSOFAは臓器傷害の進展に対する「特異度」が高いと考えて良いと思います。このような論文が,2018年には約100編ほど出ていますので,2019年にはqSOFAの特徴を整理していくことになります。
また,SOFAスコアは,意識,循環,腎機能,血液凝固線溶などの評価において,このスコアリングが現在の臓器傷害の評価に適しているとは限らないことです。意識では,気管挿管されている場合にGCSの評価が難しいこと,腎機能についてはKDIGO分類14),血液凝固線溶系では急性期DIC診断基準15)などに注意が必要です。循環の評価においても,SOFAスコアは現在のカテコラミンの使用にそぐわないため,ノルアドレナリンを使用することでプラス3点となり,敗血症の確定診断がついてしまうことになります(表4)。
Sepsis-31)における問題点として,1)Seymourら12)の論文では敗血症発症の予測ではなく院内死亡を評価基準としていること,2)SOFAスコアは古く現在の診断基準としては鋭敏ではないこと(SOFAの陳旧性),3)qSOFAとSOFAとの診断基準値の解離(収縮期血圧 ≦ 100 mmHg,平均血圧 ≦ 65 mmHg,平均血圧 ≦ 70 mmHgなどの不統一性),4)感染症を疑う基準の不明瞭性,5)SOFAスコアや血中乳酸値測定のルーティン化などの実行的問題,6)全身性炎症の新定義の必要性などの課題が残されています。以上を含めて,日本版敗血症診療ガイドライン20163)を手に取られて,知識の整理とされて下さい。
文 献
1. Singer M, Deutschman CS, Seymour CW, et al. The Third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock (Sepsis-3). JAMA 315:801-10, 2016
2. American College of Chest Physicians/Society of Critical Care Medicine Consensus Conference: definitions for sepsis and organ failure and guidelines for the use of innovative therapies in sepsis. Crit Care Med 20: 864-74, 1992
3. 日本版敗血症診療ガイドライン2016. http://www.jsicm.org/pdf/jjsicm24Suppl2-2.pdf
4. Budelmann G. Hugo Schottmüller, 1867-1936. The problem of sepsis. Internist (Berl) 10: 92-101, 1969
5. Bone RC, Fisher CJ Jr, Clemmer TP, et al. Sepsis syndrome: a valid clinical entity. Methylprednisolone Severe Sepsis Study Group. Crit Care Med 17: 389-93, 1989
6. Levy MM, Fink MP, Marshall JC, et al. 2001 SCCM/ESICM/ACCP/ATS/SIS International Sepsis Definitions Conference. Crit Care Med 31:1250-6, 2003
7. Weiss M, Huber-Lang M, Taenzer M, et al. Different patient case mix by applying the 2003 SCCM/ESICM/ACCP/ATS/SIS sepsis definitions instead of the 1992 ACCP/SCCM sepsis definitions in surgical patients: a retrospective observational study. BMC Med Inform Decis Mak 9: 25, 2009
8. Zhao H, Heard SO, Mullen MT, et al. An evaluation of the diagnostic accuracy of the 1991 American College of Chest Physicians/Society of Critical Care Medicine and the 2001 Society of Critical Care Medicine/European Society of Intensive Care Medicine/American College of Chest Physicians/American Thoracic Society/Surgical Infection Society sepsis definition. Crit Care Med 40: 1700-6, 2012
9. Vincent JL, Opal SM,Marshall JC, et al. Sepsis definitions: time for change. Lancet 381:774-5, 2013.
10. Churpek MM, Zadravecz FJ, Winslow C, et al. Incidence and prognostic value of the systemic inflammatory response syndrome and organ dysfunctions in ward patients. Am J Respir Crit Care Med 192:958-64, 2015
11. Kaukonen K-M, Bailey M, Pilcher D, et al. Systemic inflammatory response syndrome criteria in defining severe sepsis. N Engl J Med 372:1629-38, 2015
12. Seymour CW, Liu VX, Iwashyna TJ, et al. Assessment of Clinical Criteria for Sepsis: For the Third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock (Sepsis-3). JAMA 315:762-74, 2016
13. Shankar-Hari M, Phillips GS, Levy ML, et al. Developing a New Definition and Assessing New Clinical Criteria for Septic Shock: For the Third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock (Sepsis-3). JAMA 315:775-87, 2016
14. Kidney Disease: Improving Global Outcomes (KDIGO) Practice Guidline for Acute Kidney Injury. Kidney Int Suppl 2:1-138, 2012
15. Japanese Association for Acute Medicine Disseminated Intravascular Coagulation (JAAM DIC) Study Group.Natural history of disseminated intravascular coagulation diagnosed based on the newly established diagnostic criteria for critically ill patients: results of a multicenter, prospective survey. Crit Care Med 36:145-50, 2008
図と表の解説
図1 敗血症の定義の変化
解説:Sepsis-31)の定義では,重症敗血症という区分がなくなり,臓器不全の進行する感染症を敗血症(感染症+臓器傷害)と定義しました。敗血症としての治療範疇が,塗られた範囲として変更されました。SIRS(Systemic Inflammatory Response Syndrome)2)という概念は,早期発見と早期治療の観点において病態学的に重要と考えますが,定義及び治療の概念領域として用いなくなりました。
図2 Sepsis-3:感染症における臓器傷害の進行
解説:敗血症の新定義Sepsis-31)は,全身性炎症反応症候群(SIRS)2)の基準を満たさない感染症を,敗血症に取り込もうとしたものです。Sepsis-3は,感染症により進行する「臓器傷害」を,敗血症と定義しました。
表1 Sepsis-1における全身性炎症反応症候群
解説:Sepsis-12)では,表の4つのクライテリアのうち2つ以上を満たす場合に,全身性炎症反応症候群(SIRS:Systemic Inflammatory Response Syndrome)と診断されます。Sepsis-12)では感染症或いは感染症を疑う場合のSIRSを,敗血症と定義しました。現在のSepsis-31)は,臓器不全の進行や臓器傷害をターゲットとしているので,Sepsis-12)における重症敗血症以上の重症度を治療の対象としていることになります。
表2 Sepsis-2における敗血症を疑う所見
解説:Sepsis-26)では,24項目の所見の追加により,Sepsis-12)の敗血症診断の特異度を高めようとしました。
表3 SOFAスコア
解説:感染症あるいは感染症が疑われる状態において,SOFAスコア3)の合計点数(最重症点:24点)が2点以上,急上昇することで,敗血症の確定診断とします。