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講義 パルスオキシメータおよびA-lineの圧波形の読み方

2008年01月03日 23時18分15秒 | 講義録・講演記録4

パルスオキシメータおよびA-lineの圧波形の読み方

京都大学大学院医学研究科
初期診療・救急医学分野
准教授 松田直之

キィワード:パルスオキシメータ,動脈圧波形,A-line,呼吸性変動,奇脈,逆奇脈,ショック


解 説

 ショック初期の理学所見として,従来,爪床圧迫によるcapillary refill test(CRT)が用いられてきた。CRTは,爪床の圧迫後の爪床毛細血管再充填に2秒以上かかる場合にショックを疑うという検査である。これは,ベッドサイドでのショック治療として,当たり前の評価手技である。その一方,CRTに代わって指先に装着したパルスオキシメータや橈骨動脈に留置した観血的動脈圧ライン(artery line:A-line)による動脈圧波形をショックの病態評価に利用できる。A-lineによる持続血圧モニタリングは,急性期医療の基本技であり,橈骨動脈あるいは大腿動脈へ5分以内の短時間でカテーテル留置できるようにトレーニングされなければならない。このA-line設置までの間は,パルスオキシメータの圧波形を観察し,心収縮性,体血管抵抗,循環血液量を評価するとよい。
 知っておくべき知識として,パルスオキシメータや観血的動脈圧の圧波形は,①循環血液量(呼吸性変動で評価),②心収縮性(dp/dt: percussion waveの立ち上がり角で評価),③心拍出量(波形下面積で評価),④体血管抵抗(dicrotic waveの有無で評価),⑤脈圧(波形幅で評価)などを連続して提示してくれることである(図1)。
 まず,循環血液量のモニタとして,これらの波形観察が有効である。心タンポナーデや緊張性気胸は,呼吸による脈圧変動が‘奇脈(pulsus paradoxus)’として得られる代表病態だが,循環血液量低下状態でも‘奇脈’が観察される。さらに,心収縮性低下状態ではdp/dtの低下が認められ,さらにdicrotic waveが存在すれば体血管抵抗は高く,dicrotic waveが存在しなければ体血管抵抗は低いと評価できる。注意するべきポイントとして,大動脈弁狭窄症がある。大動脈弁狭窄症では,第1波形下面積が小さく,輸液により大きくならない。これは,1回拍出量が弁口面積の狭小化により限られているためであり,輸液不可における波形観察で最も注意するべき観察ポイントである。このように,パルスオキシメータやA-lineの波形観察は,鎮静薬や血管拡張薬の導入にも利用でき,dicrotic wave や呼吸性変動の程度,dp/dtの変化を観察するとよい。測定された血圧の脈圧を,パルスオキシメータやA-lineの脈高とし,最大の呼吸変動をmmHgとして記載に残すとよい。波形の呼吸性変動は,最大気道内圧とともに評価する。
 このような波形管理は,アナフィラキシー,敗血症,神経原性ショックなどの血流分布異常性ショックの評価にも有効である。血管拡張により体血管抵抗が減じた際には,dicrotic waveが消失し,呼吸性変動が強まり,dp/dtが低下し,波形下面積が減少する。ノルエピネフリンなどのアドレナリン作動性α1受容体作動薬,またはバゾプレシンなどの血管収縮薬を使用する際には,体血管抵抗をdicrotic waveの回復でモニタする(図2)。また,輸液によるショック治療の反応性評価として,輸血や急速輸液の際には波形の呼吸性変動とdp/dtの改善を観察する(図2)。心機能が悪い場合や血管拡張が極めて強い場合には,輸液によるdp/dtの上昇が得られにくく,心原性ショックなどの要因をエコーで評価する。

追記 奇脈と逆奇脈

 ‘奇脈’は,吸気時に脈圧が10 mmHg以上低下する現象である。1669年にRichard Lowerが収縮性心外膜炎で発見し,1873年にAdolf Kussmaulが吸気時に心尖拍動は触知できるが脈が触知できなくなる病態を奇妙であるとして命名した。吸気時に左室容量が減少し,頚静脈が怒張する現象は‘Kussmaul徴候’として知られているが,一般に吸期初期には血圧上昇,吸期を長く保つと血圧が低下する現象が生じる。これは,吸期初期は心肺循環が高まり,吸期を長くとると拡張した肺に血流が貯留し,さらに拡張した肺により心室中隔が左方に偏位し,左心拡張障害が生じることによる。一方,呼期では肺内血液が左心系にしぼり出され,さらに肺による右方からの心嚢圧排が緩和されるため,左室拡張能が高まり,血圧が上昇する。 このような奇脈は,心タンポナーデに限らず,強度の脱水所見である。
 これに対して,‘逆奇脈’とは,呼期に血圧が低下し,吸期に血圧が上昇する所見であり,閉塞性肥大型心筋症や左心不全で観察される。左心不全では,1拍ごとに脈波の大小が繰り返される‘交互脈’を認める場合もある。収縮性の低下した心臓では,吸気時間を短くとると吸気時に左心室が圧迫されるために,血圧が一瞬上昇する。このような逆気脈を認める場合には,ほぼ同時に施行される心エコーとともに,輸液方法に注意が必要である。いずれにしても,循環血液量の減少した状態では,末梢の脈波は呼吸性に強く変動することに注意するとよい。パルスオキシメータやA-line波形は,画面を触れるとストップできるように工夫されている。これを図3のようにトレースして,収縮期圧や脈圧の呼吸性変動値として説明できるようにするとよい。深吸気で約20cmH20の胸腔内圧,中等度の深吸気で15cmH2Oの胸腔内圧と予測して,各々の脈波の呼吸性変動を収縮期圧や脈圧の呼吸性変動値として●●mmHgと記載できるとよい。これは,敗血症性ショックの管理や鎮静鎮痛薬などを使用する時の血行動態解析で極めて有用なテクニックである。





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