救急一直線 特別ブログ Happy保存の法則 ー United in the World for Us ー

HP「救急一直線〜Happy保存の法則〜」は,2002年に開始され,現在はブログとして継続されています。

エッセイ 敗血症/敗血症性ショックの診療・教育体制 2018

2018年09月13日 20時08分16秒 | 講義録・講演記録4

エッセイ 敗血症/敗血症性ショックの診療・教育体制 2018

名古屋大学大学院医学系研究科

救急・集中治療医学分野

教 授 松田直之

 

はじめに

 2016年に敗血症の定義がSEPSIS-31)として変更され,敗血症は「感染症による臓器不全の進行」として定義されるようになりました。救急領域や集中治療領域の重要な診療ターゲットは「臓器障害」を「臓器不全」として器質化させないことです。既存の臓器障害があるとします。これを「多臓器不全」として器質化させてしまう可能性の一つとして,「感染症に対する適切な管理」,これを私たちは2000年代よりムーブメントとしてきました。そして,2015年の世界集中治療医学会では,集中治療のアイデンティとして,「多臓器障害の管理」が掲げられました。「Injury」なのか「Failure」なのか,ここにこだわった「Injury」を「Failureと区分する「重症度評価」も開始されています。

 

World Sepsis Day

 2012年5月,日本集中治療医学会にドイツのKonrad Reinhart先生より,日本集中治療医学会にメールが届きました。2012年から2020年までを目標に,毎年9月13日をWorld Sepsis Day(WSD)として定め,世界規模で敗血症キャンペーンを行いたいというものでした。

 この提案に対して,当時,私も委員であった日本集中治療医学会国際交流委員会において,国際交流委員会がWSDを運用するのではなく,新たに Global Sepsis Alliance委員会(GSA委員会)を作成するのが良いと,委員会内で議決され,2013年の日本集中治療医学会総会の終了後に日本集中治療医学会GSA委員会が発足しました。私も,初代のGSA委員会に私も参加し,世界に先駆けて学会内で「Clean Hands Campaign」などを行いました。これにより,2010年にニューヨークで開催されたMerinoff Symposiumで結成されたGlobal Sepsis Alliance(GSA)2)と連携する体制が,日本でも開始されました。

 

Global Sepsis Alliance委員会の活動

 GSAは2012年9月13日より毎年,世界敗血症デーを9月13日に設定し,敗血症に関する5つの世界的到達点(Global Goals)を設定し,これらを2020年までに達成させることを目標としました。2020年までの到達目標は,① 効率的な予防策により敗血症発症率を低化させる,② 成人,小児,新生児での敗血症の救命率を上昇させる,③ 世界中のどこにおいても適切なリハビリテーションを受けられるようにする,④ 非医療従事者と医療従事者の敗血症に対する理解と認知度を高める,⑤ 敗血症がもたらす負の効果と敗血症予防と治療の正の効果が正しく評価される,これらの5つでした。敗血症診療の標準化,診療レベルの底上げとして,私たちは「日本版敗血症診療ガイドライン」を作成し,その後,「日本版敗血症診療ガイドライン」はレベルアップされることになります。そして,GSAは世界保健機構に働きかけ,2017年5月26日のWorld Health Assembly(世界保健総会)で「敗血症を当面の解決すべき重要な医療課題」として議決しました。2018年5月5日より,毎年,5月を手指衛生の日,クリーンハンドの日などとして,接触感染予防策の徹底として手指衛生キャンペーンが実施されることとなりました。

 

日本版敗血症診療ガイドラインの歴史

 日本版敗血症診療ガイドライン初版は,日本集中治療医学会Sepsis Registry委員会により2007年から2008年までに施行された2回のSepsis Registryの調査結果に基づいて,2011年4月より作成が開始され,2012年に日本集中治療医学会より発表されました。Sepsis Registry委員会は,当時,日本における敗血症の疫学データが認められなかったこと,海外と比較して実際の敗血症診療が異なることを予想して,集中治療専門施設の敗血症管理状況を前向きに観察評価し,ガイドラインに取り込もうとしたものでした。このようにして,日本ではじめての日本版敗血症診療ガイドライン20123が作成されました。

 一方,敗血症診療に関する臨床研究エビデンスの整理と,日本版敗血症診療ガイドライン20123の改訂のために,日本集中治療医学会と日本救急医学会の合同特別委員会が組織されました。日本版敗血症診療ガイドライン20164は,単なる初版の改訂版ではなく,一般にも理解しやすいものとして,そしてMinds診療ガイドラインの手引に準じた「質の高いガイドライン」として,広い普及を目指す方針となりました。

 日本版敗血症診療ガイドライン初版に対して,小児領域が新たに追加され,19領域89の臨床課題として「クリニカルクエスチョン(CQ)」として挙げられた。日本版敗血症診療ガイドライン2016は,臨床に直結したCQに答えるものとしてまとめられている。また,中立的な立場として,各CQグループで横断的に活躍するアカデミックガイドライン推進班が組織され,ガイドラインの質の担保と作業過程の透明化が行われています。最終的に,日本版敗血症診療ガイドライン2016は,19領域の臨床課題を89の「クリニカルクエスチョン(CQ)」としてまとめ,合計3回のパブリックコメントに応えています。敗血症診療のための基礎として,機会がある毎に,参照されることをお薦めします。日本版敗血症診療ガイドラインは,4年毎に改定されている方針となると思います。日本における「敗血症/敗血症性ショックの診療・教育体制」が,整えられてきました。

 

おわりに

 2011年から7年間ほどの短期間において,敗血症および集中治療の診療レベルが国内外で高まりました。日本集中治療医学会,日本救急医学会,日本感染症学会などは,学会間での適切な連携を育て,より一層に多くの医学会や学術分野,また医療従事者と連携し,より一層に敗血症診療や全身管理を充実させることに尽力することが必要です。

 さて,日本医学会総会において,2019年3月30日(土)から2019年4月7日(日)までの連続9日間,朝9時より夕方5時まで,ポートメッセ名古屋で50m2の広いスペースを用いて「あたたかい街:敗血症診療ステージ」を展開します。私たちは,ここにおいて,約60枠の講演を予定しています。多職種連携特別シンポジウムなども企画しています。内容は,You TubeにもUPされ,世界に発信するものとします。敗血症/敗血症性ショックの診療・教育体制の基盤が形成されてきました。敗血症の知識を高めるなどの機会として,世界発信の一人として,是非,ご参加ください。

 

文 献

1.Singer M, Deutschman CS, Seymour CW, et al. The Third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock (Sepsis-3). JAMA 2016;315:801-10.

2.Czura CJ. "Merinoff symposium 2010: sepsis"-speaking with one voice. Mol Med. 2011;17:2-3.

3.日本集中治療医学会 Sepsis Registry 委員会. 日本版敗血症 診療ガイドライン,The Japanese Guidelines for the Management of Sepsis. 日集中医誌 2013;20:124-73.

4.日本版敗血症診療ガイドライン2016. http://www.jsicm.org/pdf/jjsicm24Suppl2-2.pd


この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 救急一直線 講義 敗血症に... | トップ | International Sepsis Forum ... »
最新の画像もっと見る

講義録・講演記録4」カテゴリの最新記事