NO1ヘルス嬢オリーブのこと
昭和58年9月はほぼ1ヶ月東京にいた
新宿コマの下にあるシアターアプルという劇場で行われてた桜田淳子主演の「アニーよ銃を取れ」というミュージカルの稽古と本番に演出助手として就いたからだ
スタッフ
台本 ハーバード・フィールズ ドロシー・フィールズ
作詞・音楽 アーヴィング・バートン
翻訳 倉橋健
訳詞 中村メイ子
演出 岡田敬二
音楽監督 甲斐正人
出演 桜田淳子
井上純一
中村晃子
花王おさむ
荒井注
中日あたりだろうか衣装スタッフのAという女性と親しくなった
もちろんお互いにその公演期間だけの関係ということは承知していた
千秋楽近くなった時「相談があるの」と云われ戦々恐々として喫茶店で話を聞くと
今舞台衣装の仕事をしているがもっともっと勉強をしたいのでブロードウェイに行きたい、ついてはその費用を稼ぐのと英語の勉強をするのを手伝ってほしい、
てっとり早く稼ぐにはヘルス嬢にでもなるしかない東京でもいいが顔をさすので嫌だ 吉村さんは遊び人らしいから大阪でいい店を知ってる筈だしこの公演終わりに大阪に行くので探しておいてくれないか
と、一気にいわれ面くらったがその志は気に入ったので 手伝うことにした
大阪に帰り、その道に詳しいTという役者に頼んで働き口を見つけて貰った
やがて彼女が大阪に来た
Tに紹介するとTも気に入り これだったら売れっ子になると太鼓判を押した
英会話教室も決め昼間は真面目に通って
夜は源氏名「オリーブ」として仕事を始めた
新しく出来た名刺を見せ「どうぞ御贔屓に」とニッコリ笑った
ひと月ほどしてTに呼び出された
あのオリーブがよく働いて店のナンバーワンになった いい娘を紹介してくれたとこれは紹介料として雇い主から貰ったので半分取っておいてくれと断る僕に無理矢理5万円を渡したのでビックリした 思うにそんなテクニックもないのに彼女のキャラがナンバーワンにさせるんだなと思った
そして半年が過ぎた
彼女から電話で
予定額が稼げたので東京に帰って渡米の準備をします、色々ありがとう
とのことだった
彼女が務めていた衣装会社はミュージカルもやる大きな会社だったので向こうでの勉強先もキチンと決めることが出来たらしい
そして彼女は衣装デザインの勉強の為ブロードウェイに旅立った
それ以降の彼女の消息は一切知らない
ブロードウェイ帰りの新進デザイナーが現れた話も聞かない
それから30年はゆうに過ぎたのに何の手掛かりもない
だけど僕は偶にこんな夢をみる
ブロードウェイの夜 芝居帰りの細い道で日本人らしい女に声を掛けられる
「遊ばない 私しゃ昔はオーサカじゃナンバーワンだったのよ」
よく顔を見るとそれはA の30年後の姿なのだ