ヒトリシズカのつぶやき特論

起業家などの変革を目指す方々がどう汗をかいているかを時々リポートし、季節の移ろいも時々リポートします

人気作家の原田マハさんの新刊「暗幕のゲルニカ」を読み終えました

2016年09月21日 | 
 人気作家の原田マハさんの新刊「暗幕のゲルニカ」をやっと読み終えました。何回か中断し、最初から読み直しました。

 この単行本「暗幕のゲルニカ」は、2016年3月25日に新潮社が上梓し、その後は版数を重ねるほど、ヒットしているものです。



 この小説は、二組の主人公が登場し、時代を超えて交互に話が進行します。片方の主人公は、米国ニューヨーク市のニューヨーク近代美術館(MoMA)の絵画・彫刻部門のキュレーターを務めている新進気鋭の若い女性の瑶子さんです。

 東京生まれの瑶子さんは、ニューヨーク大学大学院で美術史修士を、コロンビア大学大学院で美術史の博士号を取得し、その後にピカソ研究のためにスペイン留学し、プラド美術館でインターンを振り出しに、美術関係の階段を上っていきます。

 彼女は、世界中に顧客を持つアートコンサルタントのイーサンと結婚します。このスペイン人のイーサンも、ハーバード大学大学院で美術史修士を取ってから、順調に出世していました。この二人は、ピカソ研究によって親しくなります。

 話は飛んで、この幸せいっぱいの二人は、2001年9月11日に起こったアメリカ同時多発テロ事件によって崩壊したニューヨーク市のワールド・トレーニング・センターに、イーサンが勤務していて、亡くなったことから話が人間が戦争を止めない話に進みます。

 前半部の本当の主人公は、1937年4月にフランスのパリで暮らす、パブロフ・ピカソとその愛人のドラの二人です。ピカソは正妻と離婚協議を続けながら、若いマリー・テレーズと親しくなり、娘を設け、さらに第二の女性のドラと暮らし始めています。ピカソの女好きは有名なようです。

 この1937年4月時点は、5月に開催されるパリ万博のスペイン館を飾る目玉作品をピカソが制作を引き受けた時でした。なかなかキャンバスに絵を描き始めないピカソは、母国スペインでの内戦の結果、スペイン内戦を仕掛ける反乱軍を支援するドイツのヒットラーとイタリアのムッソリーニが派遣した空軍機が、バスク地方の古都のゲルニカを焼夷弾で焼き尽くします。

 この悲惨な事件を知ったピカソは、あの有名な作品「ゲルニカ」を一気に書き上げ、後日、パリ万博のスペイン館で展示します。戦争そのものではなく、殺し合いを止めない、愚かな人間達に突きつけたのが,作品「ゲルニカ」でした。

 ピカソと暮らす愛人ドラは、優秀なカメラマンとして、ピカソが「ゲルニカ」を書き上げる工程を写真に残します。このころのカメラは機械式(?)で、カラーフォルム「コダクローム」の登場前のころです。

 話は進んで、1939年9月のヒットラー率いるドイツ軍がポーランド侵攻をきっかけに、フランスはドイツに宣戦布告します。しかし、ドイツ軍は周囲の国々を侵略し、支配下に置き続けます。

 1940年6月10日に、フランスは猛進撃してきたドイツ軍に、パリの「無防備都市宣言」をし、ドイツに降伏します。この結果、ナチスの無差別殺人を描いた作品「ゲルニカ」を、進行してきるドイツ軍が破壊する危機に陥ります。

 そのため、紆余曲折があって、「ゲルニカ」は英国国内を巡回して公開された後に、秘密裏に米国に船で送られます(「ゲルニカ」を亡命させます)。この辺のエピソードが小説としてはとても面白いです。架空のスペイン人主人公が活躍します。

 その一方で、2001年9月11日に起こったアメリカ同時多発テロ事件に対して、米国はイラクが大量破壊兵器を所有するとの言いがかりで、イラク侵攻を始めます。無差別殺戮(さくりく)に対して、大国の米国も無差別攻撃で答えます。

 こうした人類の戦争を止めない愚かさに立ち向かうには、無差別殺戮に抗議したピカソの作品「ゲルニカ」でした。

 途中の話を飛ばして、現在のスペインのレイナ・ソフィア芸術センターに展示され、その後は門外不出になっていたピカソの作品「ゲルニカ」を、再び、ニューヨーク市のニューヨーク近代美術館(MoMA)で開催する「ピカソ展」で展示許可を得るまでの苦労談が続きます。

 いくつかの奇跡の積み重ねで、ニューヨーク近代美術館(MoMA)で開催する「ピカソ展」に展示することが許されます。

 この小説では、1937年4月以降の創造主ピカソの行動の話が面白いです。常人ではない、ピカソの行動はエピソードとして文句なく面白いからです。

 この小説は、ニューヨーク近代美術館(MoMA)キュレーターを務めるている瑶子さんのピカソ愛を示す行動が骨格です。

 しかし、小説としては、傍若無人に振る舞う、偉大なピカソの行動・行為のエピソード部分がとても面白いのです。