「童子」の先輩、大野朱香さんの訃報が届きました。9月にお亡くなりになられて、お身内だけで葬儀も全て済まされた後の報告でした。朱香さんは、私が俳句を始めたころ、俳壇のアイドルのような存在の方でした。句集『嗚呼』、『はだか』、『反物』、『一雫』という4冊の句集を出されています。『嗚呼』の句は、鮮烈でした。
さうじやないクロールはかうやるんだと 朱香 (『嗚呼』)
こぎやすいブランコこぎにくいブランコ 朱香 (『嗚呼』)
春燈をともせば嗚呼と二十人 朱香 (『嗚呼』)
第2句集『はだか』
これはもう裸といへる水着かな 朱香
ここ数年は、お仕事の他、ご両親の介護でお忙しく、ほとんど句会にはいらっしゃらず、昨年は編集者としてお勤めの通信販売会社であるK社を定年を待たず退社されたという風の噂も聞いていました。でもご病気だったことは、全く知らず、突然の訃報が飛び込んできたのでした。
第3句集『反物』
女湯に女ぎつしり豊の秋 朱香 (『反物』)
詩人の宋左近さんが、栞文を書いてらっしゃいます。「俳句って、こういうのでもいいんだ」と思わせるような新らしさから、型をしっかりとふまえた、伝統的な深い世界の句まで詠み続けてくださいました。
私は、『童子』2009年6月号誌上で、高杉空彦さんと『一雫』を読むという対談をさせていただいています。それを今さっき読み返しましたが、句集の一句一句が「一雫」であり、その一雫の中に広い世界が映し出されているような深いものを感じる。でもそれはほとばしるような激流ではない。句が多くて、どれも水準が高いから突出してはいないが、どの句でも抜き出して、句会に出せば、大人気になる。なんて、ことを言っています。
園長は園児ひきつれ神の留守 朱香 (『一雫』)
あこがれの俳人、大先輩が、またひとりあちらの世界へ行ってしまわれたと思うと、胸が苦しくなります。三上冬華さん、富山いづこさんと、童子の先輩がすでにあちらへ行っておられます。(しかもみなさん、まだお若いうちに、突然に) しばらく『一雫』をバッグに入れ、電車などで読みたいと思います。朱香さん、お疲れ様でした。安らかにお休みになってください。