報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「高橋正義の消息」 2

2020-07-27 12:14:39 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月22日12:30.天候:晴 東京都墨田区菊川 珈琲館]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 消息を絶った高橋の行方を知っているという彼の友人で、木村という男が私達に情報提供をしてくれるという。
 私は霧崎さんを伴って、待ち合わせ場所の珈琲館に向かった。

 愛原:「いいかい?高橋の友人ということは、もしかしたら君の敵だったかもしれない男だ。しかし、揉め事は勘弁してくれよ?」
 霧崎:「それは相手の出方によります」

 もしかして霧崎さんがメイド服を着ているのは、敵方が、『まさか、あの切り裂きパールがメイド服を着ているわけがない』というのを狙ってのことだったりして?

 店長:「いらっしゃいませー」
 愛原:「すいません、待ち合わせです」
 店長:「あ、はい、どうぞ」

 ワイシャツ姿の私よりも、当然メイド服姿の霧崎さんの方が目立つ。

 愛原:「木村さん?」
 木村:「あ、はい。そうっス」

 喫煙席に木村という男は座っていた。
 渋谷辺りを屯してそうな、遊び好きの若者といった感じだ。

 愛原:「探偵をやっている愛原学です」

 私は一応名刺を木村という男に渡した。

 木村:「マサの友達で木村っス。……えー」

 当然ながら木村は霧崎さんに目をやった。

 愛原:「あー、気にしないで。この人が高橋の新しい彼女さんなんだ。高橋が行方不明となっちゃ、当然彼女さんとしては心配ってわけだ。分かるだろ?」
 木村:「あ、ハイ。そうっスね。マサのヤツ、メイドさんと付き合ってるんスか」
 愛原:「まあ、そういうことだな。ま、それはそれとして……。すいません、アイスコーヒー2つとホットドッグください」

 ついでに私は昼食を食べることにした。

 愛原:「情報提供の御礼に、ここの会計は私が持つから」
 木村:「マジっスか。あざっす!」
 愛原:「だから、好きなもの食べていいよ」
 木村:「じゃあ、俺もセンセーと同じので」

 私は店員に注文した。

 霧崎:「先生、私もいいですか?」

 霧崎さんはメイド服からタバコを取り出した。
 そうだった。
 霧崎さんも高橋と同様、喫煙者だったな。
 この場で禁煙者は私だけだ。

 愛原:「ああ、どうぞ。ここは喫煙席だからね」

 木村は普通のタバコだったが、霧崎さんはアイコスだ。

 木村:「タバコを吸うメイドさん……」

 アイスコーヒーとホットドッグが来てから話をした。

 愛原:「まあ、食べながら話しましょうか。まずは、高橋がいなくなった経緯についてから」
 木村:「あ、はい」

 何かに追われているので、しばらく逃げる必要があると高橋に打ち明けられたそうだ。
 ここにいる木村以外、他の友人数人にも高橋は言ったらしい。

 愛原:「誰に追われてるって?警察?ヤクザ?それとも半グレ?」
 木村:「マサはサツやヤーさんくらいで怯えるヤツじゃないっス。半グレなら、むしろいいケンカの機会なんで、俺達でボコしますよ」

 霧崎さんはアイスコーヒーを口に運びながら大きく頷いた。

 愛原:「じゃあ、一体誰だ?」
 木村:「それが、いくら聞いても教えてくれないんス。で、ただ単に逃げても時間稼ぎにもならないから、ちょっと八百長手伝ってくれって言われました」
 愛原:「八百長?」
 木村:「そうっス。要は俺達がマサとケンカになって、マサをどっかへ拉致ったっていう八百長っス」
 愛原:「あ?もしかして、コンビニの前で高橋を拉致した奴らって……!?」
 木村:「俺達のことっス」
 愛原:「拉致される高橋の動きがどうも不自然だと思ったら……そういうことか」
 木村:「普通に乗ったんじゃ時間稼ぎにもならないし、かといってあんま騒ぐとサツ呼ばれるんで、それも気ィ使わなきゃいけないってんで、結構難しかったっスね」
 愛原:「なるほど。まあ、確かに時間稼ぎにはなったな。おかげで未だに高橋の行方が分からない」
 木村:「本当はこのことも黙ってろって言われたんスけど、やっぱどうしても心配なんで……」
 愛原:「高橋もいい友達を持ったな。あ、大丈夫。このことは俺が探偵として調べて知ったということにして、木村君から聞いたってことは黙ってておくから」
 木村:「サーセン」
 霧崎:「それで、マサは今どこにいるの?」

 それまで黙っていた霧崎さんが口を開いた。

 木村:「それが、どこに行くかも教えてくれなかったんス。電話も着信拒否で」

 高橋のヤツ、友達の電話も着信拒否にしたか。
 しかし、肝心の行き先が分からないと、あんまり意味が無いな……。

 愛原:「車でどこへ行ったんだい?」
 木村:「羽田空港です」
 愛原:「羽田!?……本当に旅立ったか。どこのターミナルだ?国際線じゃないよな?高橋はパスポート持ってないし……」
 木村:「えっと確か……第2!第2ターミナルっス!」
 愛原:「第2か。ANAに乗ったか?でも、それだけじゃなぁ……」

 ANAの国内線といったところで、ごまんとあるぞ。

 霧崎:「見送りはしたの?」
 木村:「見送りしたかったんスけど、マサが『見送りはいい』ってんで……。あ、でも、グッさんなら……」
 愛原:「グッさん?」
 木村:「もう1人、車を運転していたヤツっス。せめてマサがどこ行きの飛行機に乗ったか確認くらいしておこうってんで、ゲートまでこっそり付いていったらしいんスよ。そいつに聞けば分かるかも」
 愛原:「聞いてもらえないか?」
 木村:「いいっスよ。ちょっとラインしてみます」

 木村は自分のスマホを取り出した。
 すぐに返信が来たようだ。

 木村:「あー、分かんないみたいッスね」
 愛原:「そうなのか」
 木村:「手荷物検査場に入って行く所は確認したみたいなんスけど、結局それだけじゃ、どこ行きの飛行機かって分かんないんで」
 愛原:「ああ、そうか。因みに、因みにだよ?高橋が手荷物検査場に入ったのは、何時何分?」
 木村:「ちょっと待ってください。……ああ、6時半くらいっスね」
 愛原:「6時半か……」

 国内線でも大体離陸時間の1時間前には手荷物検査場に入る。
 私はそれを高橋に教えたことがある。
 高橋が律儀にそれを守ってくれたのであれば、それから1時間後。
 7時半くらいに離陸するANA機を調べれば分かるはずだ。

 愛原:「ありがとう。もし他に何か分かったことがあったら連絡よろしく。ここの名刺の番号にね。御礼はするからね」
 木村:「了解っス」

 幸いにも、最後まで霧崎さんの正体が木村にバレることはなかった。
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“私立探偵 愛原学” 「高橋正義の消息」

2020-07-26 19:43:42 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月22日12:00.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 助手の高橋が行方を眩ませてしまったので、高橋のスマホをGPSで追おうとしている現在。

 愛原:「おっ!?」

 私が自分のスマホで位置情報を検索しようとしていたら、そこに電話が掛かって来た。
 相手は斉藤秀樹社長だ。
 我が事務所の大口契約先でもあるから、失礼の無いようにしなければならない。

 愛原:「はい、愛原でございます」
 斉藤秀樹:「ああ、愛原さん、お昼休み中に失礼します」
 愛原:「いえ、いつもお世話になっております」
 斉藤秀樹:「急な事で申し訳ないんですが、ちょっと仕事の依頼がありまして、引き受けてもらえませんか?」
 愛原:「いいですよ」

 斉藤社長の依頼はおよそ探偵とは関係の無い仕事が多いのだが、うちのような弱小事務所は大きくなるまでは、『何でも屋』に徹しなければならない。

 愛原:「どんな仕事でしょう?」
 斉藤秀樹:「明日から4連休に入るじゃないですか。娘を旅行に連れて行ってもらいたいのです」

 またか。
 何でこの社長は家族旅行まで外注委託するかね。
 ま、そのおかげでこちらは儲けさせて頂いているのだが。

 愛原:「分かりました。ちょうど私達も出掛ける予定が入りそうなので、そのついででよろしければお引き受け致します」
 斉藤秀樹:「おお、助かります。コロナウィルスの最中、社員達に外出自粛を求めている中、言い出しっぺが家族旅行なんて示しが付きませんからなぁ……ハッハッハッ!」
 愛原:「だったら、それでいいと思いますが……」
 斉藤秀樹:「娘にはなるべく外の世界を体験してもらいたいのです。それに……ここだけの話、うちの娘はコロナウィルスに感染することはありません。そちらのリサさんと同じですよ」

 斉藤絵恋さんやリサの抗体をワクチン化して世界中に売り出せば、大日本製薬は世界企業へと伸し上がれるだろうに、それはできないのだそうだ。
 何でも、『コロナウィルスを撃退する代わりに、ゾンビになってもいいのなら売り出しますよ』とのこと。
 もちろん、そんなことは許されない。
 国連組織BSAAが知ったら、即座に斉藤社長は摘発されるだろう。
 つまり、わざわざ神奈川県の山奥にまで行って私達がしてきたことは、殆ど無駄になってしまったということだ。
 リサの抗体を持ってすれば、コロナウィルスなど赤子の手をひねるも同然。
 しかしその為には人間を辞めなくてはならない。

 斉藤秀樹:「コロナ禍の中の旅行なので危険な仕事です。旅費はもちろん、報酬も弾みます」
 愛原:「そうですか。行き先に指定はありますか?」
 斉藤秀樹:「なるべくなら国内がいい。もっとも、今の国際航空便の運航状況は【お察しください】。国内であれば、愛原さんにお任せします」
 愛原:「娘さんはどこに行きたがってます?」
 斉藤秀樹:「『リサさんの行く所へならどこへでも』だそうです」
 愛原:「寅さんに付いて行く、某自殺志願者のサラリーマンみたいこと言いますなぁ……。そんなこと言って、本当はリサと一緒に行きたい場所とかあるんじゃないですか?」
 斉藤秀樹:「あることはあるようですが、少し遠いんですよ」
 愛原:「構わないですよ。教えてください」
 斉藤秀樹:「ウィーンだそうです」
 愛原:「ああ、湯布院ですか。東京からだと、それは遠いですな」
 斉藤秀樹:「いえ、湯布院じゃなく、ウィーンなんです」
 愛原:「知ってますよ。九州で温泉が有名な所でしょ?昔、JR九州で“ゆふいんの森”なんて列車を走らせてましたけど、今でもあるんですかね」
 斉藤秀樹:「あ、いえ、だから……。ま、いいです。どうせ今回は無理ですから。行き先は愛原さんにお任せします。条件はリサさんも一緒に行ってくださいということですね。後で依頼書をファックスで送りますので、よろしくお願いしますよ」
 愛原:「了解しました」

 私は電話を切った。

 高野:「先生こそ、寅さんみたいなやり取りをしてましたね?」
 愛原:「ん?何のこと?」
 高野:「いいえ……」
 愛原:「おっと、そんなことしてる場合じゃない。高橋の位置情報を……」

 と、また電話が掛かってきた。
 何だか急に忙しくなったなぁ。
 スマホの画面を見ると、『公衆電話』になっていた。
 んっ?もしかして高橋か!?

 愛原:「も、もしもし!?」
 男:「さ、サーセン!これ、愛原先生のケータイっスか!?」

 電話の向こうからは、聞き覚えの無い若い男の声がした。

 愛原:「そうですけど、どちら様?」
 男:「お、俺、マサの友達で木村って言います!あの、本当はこれ、マサから黙ってろって言われたんスけど、黙ってらんなくなって……」

 高橋の友人の木村を名乗る男は、少し慌てた様子だった。

 愛原:「高橋を知ってるのか!?今どこにいるんだ!?」
 木村:「俺は今、菊川駅ん中の公衆電話っス。ケータイはあるんスけど、それだと履歴とか残っちゃうじゃないスか。マサから電話番号は聞いてたんで、それで電話してるんスけど……」
 愛原:「いや、そういうこと聞いてるんじゃない!高橋が今どこにいるか……」

 そこで私はハッとした。
 私は今、『公衆電話』だから電話に出た。
 もしかしたら、高橋に対して『非通知』や私のケータイとかだと着信拒否にしているかもしれないが、『公衆電話』なら繋がるんじゃないか!?

 木村:「……もしもし?もしもし?聞こえますか?」
 愛原:「あ、ああ。聞こえてる。それで、高橋は今どこにいる?」
 木村:「多分あいつ、東京脱出してますよ」
 愛原:「東京脱出したか!」
 木村:「いや、正確には脱出してないんスけど……」
 愛原:「ちょっと詳しい話、聞かせてもらえるかな!?うちの事務所まで来れる?……ムリ?ああ、分かった。じゃあ、俺から行こう。菊川駅の近くに珈琲館がある。そこで話を聞かせてもらおうか!」

 私はそう言って電話を切った。

 愛原:「高野君、高橋の友達から有力な情報を聞き出せそうだ!今からちょっと会いに行ってくるよ!」
 高野:「でも先生、そろそろ斉藤社長から依頼書が来るんじゃないですか?」
 愛原:「兎にも角にも、高橋の居場所を知らない限り、行き先なんか決められないよ。取りあえず行ってくるから!」
 霧崎:「私も御一緒に……」
 愛原:「霧崎さんは……ああ、分かったよ!勝手にしろ!」

 ここで断っても、霧崎さんがナイフを出してくるのは目に見えていた。
 メイド服は目立つが、取りあえず一緒に来てもらうことにした。
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“私立探偵 愛原学” 「高橋正義の逃亡」 3

2020-07-23 18:33:11 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月22日09:00.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 休暇を取って霧崎真珠さんと婚前旅行に行くはずの高橋が、何と行方不明になってしまった。
 私は取り合えずリサを学校に行かせると、霧崎さんを事務所に呼んだ。

 高野:「ええっ、マサが行方不明!?」
 愛原:「そうなんだ。俺からの電話も着信拒否だよ」
 高野:「マサのヤツ、『俺のケータイは先生との運命の赤い糸だ』なんて言ってたのに……」
 愛原:「あ、ああ、そうだな……。とにかく、これから霧崎さんがこっちに来るから」
 高野:「分かりました」

 その時、事務所のインターホンが鳴った。
 エレベーターのドアが開いたら、自動でチャイムが鳴るようにしている。

 霧崎:「愛原先生、おはようございます」

 霧崎さんはメイド服を着ていた。
 リサの返り血が付いていないから着替えたのだろうが、それにしても普段からメイド服を着ているとは……。

 愛原:「あ、ああ。よく着てくれた。高野君、お茶を出してあげてくれ」
 高野:「分かりました」

 高野君と霧崎さん。
 どちらもショートボブでスマートな体型だ。
 霧崎さんの方がベリーショートか。

 高野:「応接室ですか?」
 愛原:「あ……ええっと……そこの談話コーナーで話そう。いいかな?」
 霧崎:「先生のご随意に」

 応接室で2人きりになり、機嫌を悪くしてナイフを振り回されたんじゃたまらん。
 談話コーナーなら高野君の目の届く場所だから、何かあってもすぐに対応してくれるだろう。

 愛原:「それじゃ霧崎さん、高橋と旅行の約束をした時の状況を教えてもらえるかな?」
 霧崎:「はい……」

 霧崎さんは今朝とは打って変わって、しおらしい感じだった。
 感情の起伏の激しいコなのだろう。
 性格的にはメイドに向いていなさそうなのだが、斉藤絵恋さん曰く、とても上手くこなしているのだという。
 そして普段からメイド服を着ているのも、これが『娑婆世界における自分の囚人服』とか言っていた。
 まだ二十歳過ぎたばっかりだというのに、これも地獄のような10代を送ったからか。

 愛原:「……なるほど。霧崎さんは高橋から旅行の行き先だけでなく、そのヒントすら聞いていなかったわけか」
 霧崎:「はい。彼、何かに怯えているようでした。もしかしたら、誰かに狙われているのかも……」

 それは霧崎さん、あんたのことかもしれないよ。
 もちろん、そんなことは面と向かって言えない。
 言ったりしたら、私が『流血の惨を見る事、必至であります』。

 愛原:「ふ、フム……。私達はバイオテロとも戦っている。今は殆ど日本じゃナリを潜めているが、そっち側の組織から見れば私達は目の上のたん瘤同然だろう。或いはヤンチャしてた頃の敵対半グレ、もしくは暴力団から目を付けられたことも考えられる。霧崎さんはどう思う?」
 霧崎:「マサはそんなことで怯える男ではありませんよ」

 霧崎さんは笑いながら答えた。
 しかもその笑い方が、まるで私を嘲るような感じだった。
 まるで、『愛原先生はマサのこと分かってないんですね』とでも言いたげだ。

 愛原:「そ、そうか。それじゃ一体、高橋は何に怯えてたんだろうな」

 霧崎さんだとしても、ちょっとおかしいな。
 行方を眩ませたところで、結局はまた戻ってこなきゃいけないんだから無意味なことをする。

 高野:「先生。マサが事件に巻き込まれた可能性は無いですか?」
 愛原:「ええっ?」
 高野:「本当にサプライズで霧崎さんを迎えに行こうとして、突然どこかに連れ去られたとか……」
 愛原:「ま、まさか……」
 高野:「まずは駅までのマサの足取りを追ってみてはいかがでしょうか?
 愛原:「そ、そうだな。やってみよう」
 霧崎:「私も一緒に……」
 愛原:「いいよいいよ。霧崎さんは帰ってて。高橋の足取りが分かったら教えるから」

 すると霧崎さんはメイド服のスカートの裾を捲り上げた。
 ロングスカートだが、その中からジャックナイフを取り出す。

 霧崎:「マサがいない今、先生の護衛ができるのはボクだけだよ、先生?」

 そして再びあの冷たい目を私に向けてきた。
 ここで逆らうと、きっと私は『流血の惨を見る事、必至であります』。

 愛原:「わ、分かった。取りあえず、行こう」

 私は席を立った。

 高野:「先生、どうかお気を付けて」
 愛原:「御本仏日蓮大聖人に祈っててくれ」

 それから2時間後、何とか情報を集めることができた。
 まず、高橋は菊川駅には行っていないようだ。
 そこでの目撃情報は得られなかった。
 有力な情報を得られたのは、近所のコンビニだった。
 そこの店長が、黒いワンボックスに乗せられる高橋を見たという。

 高野:「ええっ?それもう警察案件じゃないですか!?」
 愛原:「店長が見た限りじゃ、確かに嫌々乗せられていると言った感じだったけど、力づくで無理やり乗せたというわけでもなかったそうだ。もしそうなら、店長から通報したってさ」
 高野:「ナンバーは?」
 愛原:「ああ。コンビニの防犯カメラに映ってたの、見せてもらったよ」

 車は黒塗りのハイエースで、品川ナンバーの4ナンバーだった。
 そして注目すべきは、平仮名。

 愛原:「『わ』なんだよ。てことはレンタカーだ。誰かが高橋をさらうためにわざわざ借りたとしか思えない」
 高野:「男達は目出し帽にサングラスですけど、若いですよ。多分、マサや霧崎さんとそんなに変わらないと思います」
 愛原:「やっぱりアレか?敵対勢力にケンカ売られて、取りあえずケンカ祭り会場まで車で向かおうってことか」
 高野:「あのマサなら、ボコボコにしてそのうち帰って来そうですけどね」
 愛原:「それは俺も同意見だ。霧崎さんはどう思う?」
 霧崎:「もしケンカなら、むしろ私を連れて行くと思います」
 愛原:「う……霧崎さんもそりゃ強いだろうけどさ……」

 高橋より重い罪状で収監されてたくらいだからな。

 高野:「先生、マサのケータイの電源は切れてないんですよね?」
 愛原:「そのようだ」
 高野:「GPSで追うことはできませんか?」
 愛原:「それだ!」

 私はすぐに彼のスマホの位置情報を検索した。
 するとその結果は……。

 1:位置が特定できた。
 2:位置が特定できなかった。
 3:検索中に電話が掛かってきた。
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“私立探偵 愛原学” 「高橋正義の逃亡」 2

2020-07-22 16:49:25 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月22日07:00.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原学のマンション]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。

 愛原:「おはよう」
 リサ:「おはよう、先生」

 私が起きてダイニングに行くと、リサは既に制服に着替えていた。
 ブレザーは夏なので着ないが、東京中央学園のシンボルカラーである緑色のブラウスに、胸ポケットや左腕の部分には校章のワッペンが縫い付けられている。

 リサ:「兄ちゃん、朝ご飯用意して出て行った」

 リサはそれを温め直していた。
 もちろん、私の分もやってくれている。

 愛原:「そうか。高橋は随分朝早くに出発したみたいだな?」
 リサ:「うん。5時過ぎ」
 愛原:「そんなに!?」
 リサ:「何か、始発電車に乗るって言ってた」
 愛原:「そうなんだ」

 確か菊川駅の始発電車は、上下共に5時21分だったから、確かにちょうどいい時間だな。

 リサ:「兄ちゃん、どこに行ったの?」
 愛原:「内緒だって」
 リサ:「ええ?」
 愛原:「何しろ、あの霧崎さんと一緒だからな、照れ臭くて言えないんだよ」
 リサ:「ふーん……?」

 リサは首を傾げた。

 愛原:「ま、リサにはちょっと難しいかもしれないな」

 私はそう言って、温め直した朝食を食べ始めた。
 今朝は高橋が用意してくれたからいいが、昼食以降は何とかしないといけない。

 愛原:「リサ、今日学校は何時頃終わるんだ?」
 リサ:「今日は6時限目まで」
 愛原:「すると、15時過ぎか。じゃあ、弁当がいるな」
 リサ:「お弁当なら兄ちゃんが作ってくれた。先生の分も」

 リサはそう言って冷蔵庫を指さした。

 愛原:「何だ、そうか。それなら昼飯までは、何の心配も無いわけだ」

 私は安心した。

 リサ;「夜はカレーとハンバーグだって」
 愛原:「高橋のヤツ、気が利いてるな!」

 じゃあ、食事の心配は明日からでいいわけだ。

 リサ:「それにしても、サイトーはメイドさんがいなくて大丈夫かな?」
 愛原:「霧崎さんが留守の間は、代理のメイドさんが……あ、いや、どうせ明日から休みだろう?埼玉の実家に帰ればいいじゃん」
 リサ:「県を跨いでの旅行はダメだって学校で言われた」
 愛原:「京浜東北線の北の終点まで行くだけなのに、それは大丈夫だろ。フツーにサラリーマンは通勤してるぞ」
 リサ:「そうかな?私もサイトーの家に行きたい」
 愛原:「それはサイトーさんにお願いしないと。リサの口から頼めば、きっと喜んで大歓迎してくれるよ」
 リサ:「おー!……でも、兄ちゃんは遠くに旅行行ったの?」
 愛原:「別に『旅行するな』ってわけじゃないからな。それに、多分近場だぞ。あいつ昨日、『Go Toキャンペーン、東京は除外されましたからね。空気は読みますよ』なんて言ってからな」
 リサ:「ふーん……」

 朝食を食べ終わる頃、部屋のインターホンが鳴った。

 愛原:「ん?誰だ?」

 私がモニターを見ると、そこにはメイドさんが映っていた。
 言わずとしれた霧崎さんである。

 霧崎:「おはようございます。マサを迎えに来ましたー」

 霧崎さんは満面の笑みをモニターの向こうで浮かべていた。
 ん?てか、あれ?

 愛原:「高橋?あれ?キミと一緒に出発したはずじゃ?高橋、早朝に出発したってよ?」

 すると霧崎さん、いきなりインターホンに頭突き!
 画面に砂嵐が走り、その後暗くなる。

 霧崎:「どうしてよ……!?一緒に旅行行って、そこで婚姻届書くって言ってたのに……!」

 画面は暗くなったがマイクは壊れていないのか、霧崎さんの声だけは聞こえる。
 明らかに殺意と呪いの籠った声だ。

 霧崎:「ひどいよ……!もしかして、先生が逃がしたの……?」
 愛原:「なワケないだろ!俺も一体全体どうなってるのか知りたいくらいだよ!と、とにかくそこじゃアレだから、中に入ってくれ」

 私はリサに玄関を開けさせた。

 リサ:「!!!」

 玄関の向こうには無表情のまま涙を浮かべ、冷たい目をした霧崎さんが立っていて、右手に大型ナイフを持っていた。
 それをリサに振り下ろす。
 リサはそれを咄嗟に右手で防いだ。
 ナイフがリサの右手を貫通し、リサの右手から血が噴き出す。

 愛原:「リサ!」

 だが抜けたナイフの右手から噴き出ていた血が、まるで水道の蛇口を閉めるかのように止まっていき、完全に血が止まると、今度は傷口が見る見るうちに塞がって行った。
 そして最後には傷跡すら無くなった。
 これがBOWが不死身とされる所以である。

 斉藤絵恋:「パール!やめなさい!リサさんに何てことするの!」
 霧崎真珠:「御嬢様、申し訳ございません」

 霧崎さんはリサの血を拭うと、それをメイド服のスカートの中に隠した。

 斉藤:「ごめんなさい、リサさん!」
 リサ:「サイトー、いい。大したことない」

 普通の人間なら出血多量で死亡確実の案件なんだがな。

 斉藤:「リサさん、一緒に学校行きましょう」
 リサ:「ん。行ってきます」
 愛原:「あ、ああ、行ってらっしゃい。霧崎さんは、ちょっと事務所で話そうか。俺だって高橋は、キミととっくのとうに婚前旅行に出発してるもんだと思ってたんだ。……ていうか、その返り血のついたメイド服、着替えてきなさい。話はそれからだ。分かったね?」
 霧崎:「かしこまりました」

 全く。
 何の躊躇も無くナイフを振り回すとは、高橋のヤツ、実は逃げたんじゃないか?
 何だか、そんな気がした。
 私は霧崎さんがマンションから出るの確認してから、部屋に戻った。
 そして朝食の後片付けをした後、高橋に電話してみた。

〔「お掛けになった番号は、現在、お客様の都合により、お繋ぎできません」〕

 相変わらずの着信拒否か。
 逆に非通知設定だと出るかな?……無理か。
 しかし一体こいつは何処に行ったんだ?
 とにかく、まずは高橋と旅行に行く約束をしていた霧崎さんから話を聞いてみることにしよう。
 事務所なら高野君もいるしな。
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“私立探偵 愛原学” 「高橋正義の逃亡」

2020-07-20 19:22:11 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月20日12:00.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。

〔「新型コロナウィルスの感染者が毎日3ケタを超えております。このウィルスの猛威は留まることを知りません」〕

 昼休みに入り、私と高野君は高橋が作ってくれた冷やし中華を食べていた。
 事務所内にあるテレビを点けると、毎日コロナウィルスのことばかりだ。

 愛原:「今日は晴れて暑いから、冷やし中華はいいね!」
 高野:「ホント。今年初めて食べたわ」
 高橋:「ありがとうございます。先生」

 高橋は喜んでいた。
 給湯室が高橋の厨房になってるの、このビルじゃうちのフロアくらいだろう。
 因みにリサは学校に行っている。
 彼女ら、修学旅行に行けるのだろうか?
 リサは新型コロナウィルスなど、モノともしないだろうけどな。
 その時、事務所に電話が掛かってきた。

 高野:「あら?電話だわ」

 高野君はすぐに電話に出た。

 高野:「お電話ありがとうございます。愛原学探偵事務所でございます。……霧崎さん?」
 高橋:( ゚Д゚)
 高野:「マサですね。ちょっと待ってください」

 高野君は電話を保留にした。

 高野:「マサ、彼女さんから電話よ」
 高橋:「お、おう」

 何故か狼狽している高橋。
 で、何故か電話に出ることを躊躇している。

 愛原:「おい、どうしたんだ?早く電話に出ろよ」
 高橋:「あ、はい……」

 高橋は自分の机の上の電話機に手を伸ばした。

 高橋:「お、おい。仕事中だぞ?事務所に掛けんなよ。私用電話で、先生に怒られちゃうじゃねーか」

 何だ。
 そんなこと気にしてたのか。
 どうせ今は昼休みだし、向こうから掛けてくる分には私も目を瞑るよ。

 高橋:「そ、そうなのか?悪ィ。さっきケータイいじくってたから、変なとこ押しちゃったのかもな。あ、ああ、分かってるよ。後で直しとくから」

 んん?
 何の話をしている?

 高橋:「分かってるって。今度は必ず俺から電話するからよ。だから、もう事務所に掛けてくんな。……ああ、分かってるから!」

 ここ最近、霧崎さんが事務所に掛けてくることがあった。
 それも、こうやって昼休みの時間中が多い。
 霧崎さんも、きっと私用電話を業務中に掛けるのはマズいと思い、昼休みを狙って掛けてくるのだろう。

 高橋:「ああ、それじゃーな」

 高橋は急ぐように電話を切った。

 愛原:「よっ、色男!女の子に追い掛けられて、羨ましいじゃないか!」
 高橋:「俺は先生一筋なんです。一流の探偵になる為、昼夜問わず、如説修行に明け暮れなくてはなりません。今、女にうつつを抜かすわけには……。南無一閻浮提広宣流布、法統相続対象外、六波羅蜜……」
 愛原:「おい、坊さんになる修行してるんじゃないぞ。恋愛と結婚は自由だ。そこは好きにしていい」
 高野:「霧崎さんもマサのスマホに掛ければいいのに、どうして事務所に掛けてくるんだろうね?」
 高橋:「何か、いつの間にか、あいつの番号、着信拒否設定してたみたいで……」
 愛原:「何やってんだよ!それじゃ霧崎さんもびっくりして事務所に掛けてくるだろうが!」
 高橋:「サーセン」
 高野:「ていうか霧崎さん、昨日も一昨日も事務所に掛けてきたよね?もしかして、何日も着信拒否状態だったの?」
 高橋:「い、いや、そうじゃねぇ!たまたま電話に出れなかっただけだよ!」
 高野:「ここ最近、忙しくなかったでしょ?すぐに折り返せばいいじゃない!」
 高橋:「だから忘れてたんだよ!」
 愛原:「そういえば高橋、オマエ最近、霧崎さんと会ってるか?」
 高橋:「い、いや、それは……アレですけど……」
 愛原:「ほら、それだよ。霧崎さんも高橋に会えなくて寂しいんだよ」
 高橋:「いや、その……アレですよ。ここ最近また、コロナとか凄いじゃないですか。しかも、感染者の殆どが俺達みたいな20代とか30代とか……。なもんで、自粛してるんです」
 愛原:「別にオマエも霧崎さんも、『夜のお店』とか、行ってないだろ?歌舞伎町とか錦糸町とか行かなければ大丈夫だよ」
 高野:「先生、秋葉原のメイドカフェもバイオハザード発生地帯です」
 愛原:「別に霧生市みたいにゾンビが出たわけじゃないんだから……」
 高野:「もしかしてマサ、霧崎さんに飽きたってわけじゃないだろうね?」

 高野君は高橋に冷たい目を向けた。

 高橋:「んんんなワケない!ヤツの性欲の強さに負けかけてるだけだ!」
 愛原:「そうなのか?」
 高橋:「あ……」
 高野:「自白したw そりゃ20代だもの。性欲は強くて当然よ。ねぇ、先生?」
 愛原:「高橋、これで分かったか、俺の気持ちが?」
 高橋:「サーセン」
 高野:「何の話ですか?」
 愛原:「20代の性欲も強いけど、10代の性欲も留まることを知らないってことだ」

 私はリサの顔を思い浮かべた。

 高野:「先生。いくらリサちゃんがBOWだからって、アラフォーが手を出したら犯罪ですからね?リサちゃんは普段、曲がりなりにも人間の姿をして、知性も理性も人間同然なんですから」
 愛原:「だからそれはリサ本人に言ってくれないかな?俺はリサの父親代わりになるつもりでいるのに……あいつと来たら、『先生の奥さんか性奴隷になる』なんて言ってやがるんだぜ?」
 高野:「お幸せに。JC萌えのロリコン先生」
 愛原:「俺のせいじゃないって言ってんだろ!善場主任に報告したら、『彼女の機嫌を損ねて暴走させては問題です。彼女の望みを叶えて暴走が抑えられれば、多少の違法行為は特例としますよ』って言ってくる始末だし!」
 高野:「良かったじゃないですか。政府特務機関公認のロリコンになれて」
 愛原:「アホか!」
 高橋:「先生。俺、有給何日かありますよね?」
 愛原:「おう!何日どころか、何週間もあるよ」
 高橋:「ちょっと使わせてもらっていいですか?理由は真珠絡みです。これ以上、先生に御迷惑は掛けられませんので」
 愛原:「おう、いいぞいいぞ!パーッと旅行にでも行ってこい!あいにくと、Go toキャンペーンは東京は除外されてしまったがな」
 高橋:「ありがとうございます」
 高野:「先生にお土産忘れるんじゃないよ?」
 高橋:「分かってるって」

 私は、高橋は霧崎さんを連れて『婚前旅行』に行くものと思っていた。
 2人はもう体の関係であるし、結婚まで考えている旨をボンヤリ聞いたからだ。
 高橋のゲイが治って、ノーマルになってくれることを期待していた。
 だが、高橋は思わぬ行動に出る。
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