[7月22日12:30.天候:晴 東京都墨田区菊川 珈琲館]
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
消息を絶った高橋の行方を知っているという彼の友人で、木村という男が私達に情報提供をしてくれるという。
私は霧崎さんを伴って、待ち合わせ場所の珈琲館に向かった。
愛原:「いいかい?高橋の友人ということは、もしかしたら君の敵だったかもしれない男だ。しかし、揉め事は勘弁してくれよ?」
霧崎:「それは相手の出方によります」
もしかして霧崎さんがメイド服を着ているのは、敵方が、『まさか、あの切り裂きパールがメイド服を着ているわけがない』というのを狙ってのことだったりして?
店長:「いらっしゃいませー」
愛原:「すいません、待ち合わせです」
店長:「あ、はい、どうぞ」
ワイシャツ姿の私よりも、当然メイド服姿の霧崎さんの方が目立つ。
愛原:「木村さん?」
木村:「あ、はい。そうっス」
喫煙席に木村という男は座っていた。
渋谷辺りを屯してそうな、遊び好きの若者といった感じだ。
愛原:「探偵をやっている愛原学です」
私は一応名刺を木村という男に渡した。
木村:「マサの友達で木村っス。……えー」
当然ながら木村は霧崎さんに目をやった。
愛原:「あー、気にしないで。この人が高橋の新しい彼女さんなんだ。高橋が行方不明となっちゃ、当然彼女さんとしては心配ってわけだ。分かるだろ?」
木村:「あ、ハイ。そうっスね。マサのヤツ、メイドさんと付き合ってるんスか」
愛原:「まあ、そういうことだな。ま、それはそれとして……。すいません、アイスコーヒー2つとホットドッグください」
ついでに私は昼食を食べることにした。
愛原:「情報提供の御礼に、ここの会計は私が持つから」
木村:「マジっスか。あざっす!」
愛原:「だから、好きなもの食べていいよ」
木村:「じゃあ、俺もセンセーと同じので」
私は店員に注文した。
霧崎:「先生、私もいいですか?」
霧崎さんはメイド服からタバコを取り出した。
そうだった。
霧崎さんも高橋と同様、喫煙者だったな。
この場で禁煙者は私だけだ。
愛原:「ああ、どうぞ。ここは喫煙席だからね」
木村は普通のタバコだったが、霧崎さんはアイコスだ。
木村:「タバコを吸うメイドさん……」
アイスコーヒーとホットドッグが来てから話をした。
愛原:「まあ、食べながら話しましょうか。まずは、高橋がいなくなった経緯についてから」
木村:「あ、はい」
何かに追われているので、しばらく逃げる必要があると高橋に打ち明けられたそうだ。
ここにいる木村以外、他の友人数人にも高橋は言ったらしい。
愛原:「誰に追われてるって?警察?ヤクザ?それとも半グレ?」
木村:「マサはサツやヤーさんくらいで怯えるヤツじゃないっス。半グレなら、むしろいいケンカの機会なんで、俺達でボコしますよ」
霧崎さんはアイスコーヒーを口に運びながら大きく頷いた。
愛原:「じゃあ、一体誰だ?」
木村:「それが、いくら聞いても教えてくれないんス。で、ただ単に逃げても時間稼ぎにもならないから、ちょっと八百長手伝ってくれって言われました」
愛原:「八百長?」
木村:「そうっス。要は俺達がマサとケンカになって、マサをどっかへ拉致ったっていう八百長っス」
愛原:「あ?もしかして、コンビニの前で高橋を拉致した奴らって……!?」
木村:「俺達のことっス」
愛原:「拉致される高橋の動きがどうも不自然だと思ったら……そういうことか」
木村:「普通に乗ったんじゃ時間稼ぎにもならないし、かといってあんま騒ぐとサツ呼ばれるんで、それも気ィ使わなきゃいけないってんで、結構難しかったっスね」
愛原:「なるほど。まあ、確かに時間稼ぎにはなったな。おかげで未だに高橋の行方が分からない」
木村:「本当はこのことも黙ってろって言われたんスけど、やっぱどうしても心配なんで……」
愛原:「高橋もいい友達を持ったな。あ、大丈夫。このことは俺が探偵として調べて知ったということにして、木村君から聞いたってことは黙ってておくから」
木村:「サーセン」
霧崎:「それで、マサは今どこにいるの?」
それまで黙っていた霧崎さんが口を開いた。
木村:「それが、どこに行くかも教えてくれなかったんス。電話も着信拒否で」
高橋のヤツ、友達の電話も着信拒否にしたか。
しかし、肝心の行き先が分からないと、あんまり意味が無いな……。
愛原:「車でどこへ行ったんだい?」
木村:「羽田空港です」
愛原:「羽田!?……本当に旅立ったか。どこのターミナルだ?国際線じゃないよな?高橋はパスポート持ってないし……」
木村:「えっと確か……第2!第2ターミナルっス!」
愛原:「第2か。ANAに乗ったか?でも、それだけじゃなぁ……」
ANAの国内線といったところで、ごまんとあるぞ。
霧崎:「見送りはしたの?」
木村:「見送りしたかったんスけど、マサが『見送りはいい』ってんで……。あ、でも、グッさんなら……」
愛原:「グッさん?」
木村:「もう1人、車を運転していたヤツっス。せめてマサがどこ行きの飛行機に乗ったか確認くらいしておこうってんで、ゲートまでこっそり付いていったらしいんスよ。そいつに聞けば分かるかも」
愛原:「聞いてもらえないか?」
木村:「いいっスよ。ちょっとラインしてみます」
木村は自分のスマホを取り出した。
すぐに返信が来たようだ。
木村:「あー、分かんないみたいッスね」
愛原:「そうなのか」
木村:「手荷物検査場に入って行く所は確認したみたいなんスけど、結局それだけじゃ、どこ行きの飛行機かって分かんないんで」
愛原:「ああ、そうか。因みに、因みにだよ?高橋が手荷物検査場に入ったのは、何時何分?」
木村:「ちょっと待ってください。……ああ、6時半くらいっスね」
愛原:「6時半か……」
国内線でも大体離陸時間の1時間前には手荷物検査場に入る。
私はそれを高橋に教えたことがある。
高橋が律儀にそれを守ってくれたのであれば、それから1時間後。
7時半くらいに離陸するANA機を調べれば分かるはずだ。
愛原:「ありがとう。もし他に何か分かったことがあったら連絡よろしく。ここの名刺の番号にね。御礼はするからね」
木村:「了解っス」
幸いにも、最後まで霧崎さんの正体が木村にバレることはなかった。
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
消息を絶った高橋の行方を知っているという彼の友人で、木村という男が私達に情報提供をしてくれるという。
私は霧崎さんを伴って、待ち合わせ場所の珈琲館に向かった。
愛原:「いいかい?高橋の友人ということは、もしかしたら君の敵だったかもしれない男だ。しかし、揉め事は勘弁してくれよ?」
霧崎:「それは相手の出方によります」
もしかして霧崎さんがメイド服を着ているのは、敵方が、『まさか、あの切り裂きパールがメイド服を着ているわけがない』というのを狙ってのことだったりして?
店長:「いらっしゃいませー」
愛原:「すいません、待ち合わせです」
店長:「あ、はい、どうぞ」
ワイシャツ姿の私よりも、当然メイド服姿の霧崎さんの方が目立つ。
愛原:「木村さん?」
木村:「あ、はい。そうっス」
喫煙席に木村という男は座っていた。
渋谷辺りを屯してそうな、遊び好きの若者といった感じだ。
愛原:「探偵をやっている愛原学です」
私は一応名刺を木村という男に渡した。
木村:「マサの友達で木村っス。……えー」
当然ながら木村は霧崎さんに目をやった。
愛原:「あー、気にしないで。この人が高橋の新しい彼女さんなんだ。高橋が行方不明となっちゃ、当然彼女さんとしては心配ってわけだ。分かるだろ?」
木村:「あ、ハイ。そうっスね。マサのヤツ、メイドさんと付き合ってるんスか」
愛原:「まあ、そういうことだな。ま、それはそれとして……。すいません、アイスコーヒー2つとホットドッグください」
ついでに私は昼食を食べることにした。
愛原:「情報提供の御礼に、ここの会計は私が持つから」
木村:「マジっスか。あざっす!」
愛原:「だから、好きなもの食べていいよ」
木村:「じゃあ、俺もセンセーと同じので」
私は店員に注文した。
霧崎:「先生、私もいいですか?」
霧崎さんはメイド服からタバコを取り出した。
そうだった。
霧崎さんも高橋と同様、喫煙者だったな。
この場で禁煙者は私だけだ。
愛原:「ああ、どうぞ。ここは喫煙席だからね」
木村は普通のタバコだったが、霧崎さんはアイコスだ。
木村:「タバコを吸うメイドさん……」
アイスコーヒーとホットドッグが来てから話をした。
愛原:「まあ、食べながら話しましょうか。まずは、高橋がいなくなった経緯についてから」
木村:「あ、はい」
何かに追われているので、しばらく逃げる必要があると高橋に打ち明けられたそうだ。
ここにいる木村以外、他の友人数人にも高橋は言ったらしい。
愛原:「誰に追われてるって?警察?ヤクザ?それとも半グレ?」
木村:「マサはサツやヤーさんくらいで怯えるヤツじゃないっス。半グレなら、むしろいいケンカの機会なんで、俺達でボコしますよ」
霧崎さんはアイスコーヒーを口に運びながら大きく頷いた。
愛原:「じゃあ、一体誰だ?」
木村:「それが、いくら聞いても教えてくれないんス。で、ただ単に逃げても時間稼ぎにもならないから、ちょっと八百長手伝ってくれって言われました」
愛原:「八百長?」
木村:「そうっス。要は俺達がマサとケンカになって、マサをどっかへ拉致ったっていう八百長っス」
愛原:「あ?もしかして、コンビニの前で高橋を拉致した奴らって……!?」
木村:「俺達のことっス」
愛原:「拉致される高橋の動きがどうも不自然だと思ったら……そういうことか」
木村:「普通に乗ったんじゃ時間稼ぎにもならないし、かといってあんま騒ぐとサツ呼ばれるんで、それも気ィ使わなきゃいけないってんで、結構難しかったっスね」
愛原:「なるほど。まあ、確かに時間稼ぎにはなったな。おかげで未だに高橋の行方が分からない」
木村:「本当はこのことも黙ってろって言われたんスけど、やっぱどうしても心配なんで……」
愛原:「高橋もいい友達を持ったな。あ、大丈夫。このことは俺が探偵として調べて知ったということにして、木村君から聞いたってことは黙ってておくから」
木村:「サーセン」
霧崎:「それで、マサは今どこにいるの?」
それまで黙っていた霧崎さんが口を開いた。
木村:「それが、どこに行くかも教えてくれなかったんス。電話も着信拒否で」
高橋のヤツ、友達の電話も着信拒否にしたか。
しかし、肝心の行き先が分からないと、あんまり意味が無いな……。
愛原:「車でどこへ行ったんだい?」
木村:「羽田空港です」
愛原:「羽田!?……本当に旅立ったか。どこのターミナルだ?国際線じゃないよな?高橋はパスポート持ってないし……」
木村:「えっと確か……第2!第2ターミナルっス!」
愛原:「第2か。ANAに乗ったか?でも、それだけじゃなぁ……」
ANAの国内線といったところで、ごまんとあるぞ。
霧崎:「見送りはしたの?」
木村:「見送りしたかったんスけど、マサが『見送りはいい』ってんで……。あ、でも、グッさんなら……」
愛原:「グッさん?」
木村:「もう1人、車を運転していたヤツっス。せめてマサがどこ行きの飛行機に乗ったか確認くらいしておこうってんで、ゲートまでこっそり付いていったらしいんスよ。そいつに聞けば分かるかも」
愛原:「聞いてもらえないか?」
木村:「いいっスよ。ちょっとラインしてみます」
木村は自分のスマホを取り出した。
すぐに返信が来たようだ。
木村:「あー、分かんないみたいッスね」
愛原:「そうなのか」
木村:「手荷物検査場に入って行く所は確認したみたいなんスけど、結局それだけじゃ、どこ行きの飛行機かって分かんないんで」
愛原:「ああ、そうか。因みに、因みにだよ?高橋が手荷物検査場に入ったのは、何時何分?」
木村:「ちょっと待ってください。……ああ、6時半くらいっスね」
愛原:「6時半か……」
国内線でも大体離陸時間の1時間前には手荷物検査場に入る。
私はそれを高橋に教えたことがある。
高橋が律儀にそれを守ってくれたのであれば、それから1時間後。
7時半くらいに離陸するANA機を調べれば分かるはずだ。
愛原:「ありがとう。もし他に何か分かったことがあったら連絡よろしく。ここの名刺の番号にね。御礼はするからね」
木村:「了解っス」
幸いにも、最後まで霧崎さんの正体が木村にバレることはなかった。