報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「しおさい14号」

2019-02-23 10:11:14 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月20日19:10.天候:晴 千葉県銚子市 JR銚子駅→JR総武本線4014M電車2号車]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 前半は純粋な慰安旅行だったのだが、後半は急きょ入った仕事の依頼のおかげで、BOWに追い回されることとなった。
 しかしその仕事も無事に終わり、私達は帰途に就こうとしている。

〔「1番線に停車中の列車は19時15分発、特急“しおさい”14号、東京行きです。東京行きの最終列車です。ご利用のお客様は、お乗り遅れの無いようご注意ください。……」〕

 市街地の寿司屋で夕食を取った後、私達は駅に向かった。
 ま、何だかんだ言って、仕事終わりの一杯は最高である。
 特急“しおさい”号には車内販売が無い為、駅構内のコンビニで酒やら何やら買い込んでいたら高野君に窘められた。
 寿司屋で散々っぱらビール飲んでいたのに、まだ飲むのかと。
 こういうツッコミを入れてくれる人物は貴重である。

 愛原:「キップは1人ずつ持とう」
 斉藤:「私、リサさんの隣でお願いします!」
 高橋:「俺は先生の隣で」
 愛原:「はいはい」
 リサ:「サイトーは窓側でいい」
 斉藤:「いいの?」
 リサ:「うん」

 自動改札機を通ると、目の前の1番線には往路と同じ電車(JR東日本255系)が停車していた。
 往路と違うのは、今回は指定席だということ。
 だから席にあぶれることは無い。
 日曜日夜の上り電車ということもあって、そんなに車内は混んでいるわけではないのだが。
 グリーン車に至ってはガラガラだ。
 斉藤絵恋さんは大企業家の御嬢様だから、本来彼女はそこに乗るべき人間なのだろう。
 私達は普通車指定席の2号車に乗り込んだ。

 愛原:「ほら、高野君も飲みなよ」

 私はコンビニで買った缶ビールを高野君に渡した。

 高野:「電車の中で二次会ですか?」
 愛原:「それが慰安旅行の醍醐味ってもんだよ」
 高野:「あまり騒ぎ過ぎてはダメですよ」

 高野君は苦笑しつつ、取りあえず私の缶ビールを受け取った。

 高野:「いくら後で報酬が入るからといって、無駄遣いはダメですよ」
 愛原:「分かってるって」

 寿司代は全部で5ケタに達してしまったが、予想外の出費になってしまったのは私のビール代ではなく、育ち盛りが2人もいたことに起因するとしておこう。
 え?なに子供に責任転嫁してるのかって?それは【お察しください】。

〔「ご案内致します。この電車は19時15分発、総武本線回りの特急“しおさい”14号、東京行きです。銚子を出ますと飯岡、旭、八日市場、横芝、成東、八街、佐倉、千葉、錦糸町、終点東京の順に止まります。尚、この電車には車内販売はございません。車内に自動販売機等もございませんので、ご注意ください。まもなくの発車となります。ご乗車になりまして、お待ちください」〕

 発車の時間が迫り、駅のホームからは発車メロディが聞こえて来た。
 今や地方の駅でも、発車ベルはベルではなく、メロディの時代だ。
 駅の放送も乗り遅れ防止の呼び掛けをしているのは、この電車が東京行きの終電だからか。
 千葉県内が終点の普通列車だったら、この後も何本かあるのだろうが。
 しばらくして、車内にインバータのモーター音が響いて来た。
 時計を見ると定刻通りだから、ギリギリの客はいなかったもよう。
 そこは空いている日曜日夜の上り電車だからか。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は総武本線、特急“しおさい”14号、東京行きです。……〕

 車内に自動放送が流れている間も、私のビールとおつまみは止まらない。
 やはり、あれだけ命懸けの仕事を終えると腹が減るものだな。
 そもそも、よくよく考えてみれば昼食は抜きだった。
 ま、探偵稼業では調査の為に一食抜くくらいは当たり前だ。

 愛原:「あーあ。飲んだら眠くなってきた」
 高橋:「先生。どうぞ、休んでてください。俺が起こしますから」
 愛原:「と言いつつ、お前も寝るんじゃないのか?」
 高橋:「いや、それは……気を付けます」

 前に一回、高橋やらかしたからな。

 愛原:「行きと違って、帰りは錦糸町で降りるからな、それで寝過ごすわけにはいかんのだよ」

 この電車で帰京しようとすると、都内に入るのは21時過ぎになるだろう。
 私達はともかく、まだ中学1年生の彼女らは早く帰宅させる必要がある。
 特に、斉藤さんは。
 ぶっちゃけリサはBOWだから、そこまで気を使う必要も無いのかもしれない。
 ただ、あまり夜遅くまで連れ回していると、後で善場さんに何言われるか分からんからなぁ……。
 一応、この慰安旅行については話は通してあるので、これについては何も言われないはずだ。

 高野:「いざとなったら、私が起こしますよ」
 愛原:「そう?それは助かる」

 やっぱこういう時、高野君の方が頼りになるな。

[同日20:34.天候:晴 千葉県千葉市中央区]

 愛原:「ん……?」

 私はふと目が覚めた。
 窓の外を見ると、ちょうど電車が駅を発車する所だった。
 過ぎ去って行くホームに目を凝らし、駅名看板を何とか読み取ると、千葉駅を発車したようだ。
 千葉駅でもなかなか乗降があるだろうから、その雰囲気で目が覚めたのかもしれない。

〔この電車は特急“しおさい”14号、東京行きです。【中略】次は、錦糸町です〕

 ここから電車は総武快速線と呼ばれる線路の上を走ることになる。
 窓の外には、総武緩行線と呼ばれる各駅停車の通勤電車が並走するのが見える。
 つまり、ここから先、総武本線は複々線になるということだ。
 私はここでトイレに立った。
 幸い、2号車にはトイレがある。
 ふと通路を挟んだ隣の席を見ると、すっかり眠り込んだJC2人の姿があった。

 愛原:「この分なら、起こされなくても大丈夫みたいだな」

 用を足した後、洗面台でちゃんと手を洗っていると……。

 リサ:「愛原さん」
 愛原:「!」

 背後からリサに声を掛けられた。

 愛原:「おっ、リサ。どうした?トイレか?」
 リサ:「タイラント君、どうだった?」
 愛原:「あ、ああ。リサのおかげで、立ち去ってくれたよ。さすが、リサ・トレヴァーは強いな」
 リサ:「タイラント君がいた所に、私の『友達』はいた?」
 愛原:「いや、いなかったな。いた痕跡はあったんだが……」
 リサ:「そう……」

 リサは肩を落とした。
 その姿がまるで、アメリカのオリジナル版のように見えた。
 ここにいるリサ達の生い立ちが、まるでそのリサ・トレヴァーに似ているから便宜上そう呼ばれているだけで、彼女らのBOWとしての正式名称は不明だ。
 何しろ開発した旧・日本アンブレラ社が既に倒産しているからだ。
 こういうのは極秘事項であるからして、直接研究・開発に携わっていた関係者にしか知られていなかっただろうし。

 リサ:「皆、外国に連れて行かれたのかな……」
 愛原:「それは分からんよ。仙台にはお前の仲間がいたじゃないか」

 それは完全にクリーチャーと化して、BSAA極東支部に退治されてしまったが。
 リサが本当に暴走するとああなるということを見せつけられた。
 衣裳部屋で見つけたあのUSBメモリーに、何か重大な情報が入っているといいのだが……。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“私立探偵 愛原学” 「脱出後」

2019-02-21 18:52:38 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月20日16:00.天候:晴 千葉県銚子市]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 いやはや、とんだ慰安旅行になってしまったものだ。
 霧生市のは堂々たる旧・日本アンブレラ社の開発センターとして営業していたが、仙台と銚子に地下秘密研究所があったとは。
 この分だと『二度あることは三度ある』で、他にもありそうだな。

 高橋:「先生、ここどこなんですかね?」
 愛原:「銚子市のどこかには間違い無いさ」

 地下秘密研究所のトロッコは自動運転だった。
 それで上手く脱出したはいいものの、肝心の研究所は自爆装置が作動して跡形も無くなってしまった。
 あの様子だと、地上にあるホテル旧館も危ないんじゃないか?
 で、ついでに今営業中の新館もヤバかったりしてな。
 地上に出た途端、線路はプッツリと切れており、雑木林の中に生えている立木に激突してトロッコは止まった。
 幸い私達にケガは無く、仕方が無いので線路が続いていたであろう方向に歩いているわけだ。

 愛原:「ん?」

 しばらく歩くと、私達の前を電車が通り過ぎて行った。

 愛原:「銚子電鉄だ!」
 高橋:「あの線路はこの線路に繋がっていたわけですか?」
 愛原:「分からんな……」

 試しに銚子電鉄の線路を見てみたが、どこにも分岐器は無く、さっきのトロッコの線路と繋がっていた形跡は見当たらなかった。

 愛原:「とにかく、電車が行った方向に行こう。向こうに駅があるはずだ」
 高橋:「はい!」

 急いで電車の後を追うと、すぐに駅が現れた。
 それは銚子電鉄線の終点駅、外川駅だった。
 木造の古めかしい佇まいの駅だ。
 東京住まいの私達からすれば、これだけで非日常の光景だが、もっと非常識な非日常を体験した身とあれば、こういうのも日常の光景に感じてしまう。

 高橋:「先生、これに乗れば帰れますよ。早いとこ乗りましょう」
 愛原:「待て待て。その前に、高野君達がどこにいるかだ。途中の駅の近くにいるのなら、連絡しておかないと」

 私はスマホを取り出して、それで高野君に連絡してみた。
 すると、高野君達は銚子ポートタワーの後で銚子駅に向かう所だという。

 愛原:「そうか。俺達も今、外川駅にいるんだ。今、電車で俺達も銚子駅に向かうよ。……ああ、それじゃ」

 私は電話を切った。

 高橋:「銚子駅までっスね!キップ買ってきます!」

 高橋は急いで出札窓口へ向かった。
 そう、自動券売機ではなく、駅員が配置されている窓口で購入するタイプだ。
 これもまた昔懐かしい。
 尚、JR線連絡乗車券も発売しているらしいが、さすがに特急券までは販売していないようだ。
 それは銚子駅で購入することになる。

 高橋:「先生、すぐに発車するみたいです」
 愛原:「おっ、そうか」

 しかもキップは往路の車補と違い、これまた懐かしい硬券であった。
 自動改札が無いわけだ。
 電車は往路と同じく、京王井の頭線で走行していた中古車。
 私達が最後の乗客らしく、私達が乗り込むと、車掌が笛を吹いてドアを閉めた。
 電車が走り出すと、ここで私はようやく日常に戻ったような気がした。
 だが、後ろの車両に乗っている私はどうしても後ろが気になった。
 後ろを見ると、静態保存されている旧型電車がまず目につく。
 それを破壊し、死に切れなかったタイラントがまた追って来そうな気がして……。
 リサに言わせれば、量産型のタイラントは基本的に走らないという。
 暴走を抑える為に、走らないよう設定されているのだそうだ。
 だからリサも、滅多なことでは走らない。
 学校の体育の授業の時くらいだそうだ。
 つまり、電車の速度には追い付けないということだ。
 例えゆっくり走る銚子電鉄線(営業最高速度、時速40キロ)であっても。

[同日16:35.天候:晴 同市内 JR銚子駅]

 私達を乗せた電車は無事に銚子駅に着いた。
 ここまで来れば、いくら何でももう安全だろう。
 硬券なので、JRの改札口は有人改札口を出なければならない。
 で、1番線には特急列車が停車していて、銚子電鉄線からの乗り換え客に急ぐよう何度も放送が流れていた。
 同じホームから出るわけじゃないから、本当に乗り換えようとすると大変だな。

 高橋:「先生、アネゴ達はどこで?」
 愛原:「駅の待合室で待っているそうだ」
 高橋:「でも東京行きの電車、出ちゃいますよ」
 愛原:「あれが終電ってわけじゃないだろ。次の電車でいい」
 高橋:「はあ……」

 跨線橋を渡り、1番線ホームに足を付けると同時に特急“しおさい”号が発車していった。
 なるほど。
 本当に乗り換えようとするならば、少し走るくらいの勢いでないとダメなようだな。
 有人改札口にいるJRの駅員に、銚子電鉄の硬券を渡すと素直に受け取ってくれた。
 尚、JR銚子駅のキップ売り場は、さすがに“みどりの窓口”以外は自動券売機になっていて、そこで銚子電鉄線のキップも買えるようだ。
 そこで買ったキップは、この駅の自動改札機を通れるらしい。

 愛原:「あれ?どこにいるんだ?」
 高橋:「全く。素直に改札の前で先生をお出迎えしろってんだ」
 高野:「悪かったね」

 と、そこへ高野君がやってきた。

 愛原:「おっ、高野君」
 高野:「お疲れ様です。先生」
 愛原:「何とか無事に終わったよ。で、リサ達は?」
 高野:「あっちです」
 愛原:「ん?」

 私達が高野君について行くと、ピアノの音色が聞こえて来た。
 それと歌声も。
 実はこの駅、改札外通路にアップライトピアノが置かれていて、誰でも弾くことができるのである。
 そこに斉藤絵恋さんが座っていてピアノを弾いていた。
 それに合わせて歌っているのはリサ。
 何だか、聴いていてとても心地良い。

 斉藤:「リサさん、歌がとても上手いんですよ」

 ピアノを弾き終わった斉藤さんが私にそう言った。

 愛原:「へえ……。ってか、斉藤さんもピアノが上手じゃない」
 斉藤:「私は小さい頃から習ってましたから」
 愛原:「空手だけじゃないんだね」
 斉藤:「護身術として空手、文科系としてピアノを習いました」
 愛原:「それは凄い」
 リサ:「お仕事、終わった?」
 愛原:「ああ、何とかな。それより、帰りの電車のキップをゲットしよう」

 指定席券売機の所に行き、それで帰りの特急“しおさい”号のキップを購入する。
 次の電車が東京行きの終電であった。

 愛原:「19時15分発、しおさい14号が最終か。結構ギリギリだったんだな」
 高橋:「指定席にするんですか?」
 愛原:「斉藤社長からの報酬が期待できるからな、帰りは少し奮発しよう」

 日曜日夜の上り電車ということもあって、指定席は空いていた。

 愛原:「これで良し」
 高橋:「先生、俺は先生の隣に!」
 斉藤:「私はリサさんの隣でお願いします!」
 愛原:「分かってる。分かってるから」
 高野:「19時15分発では、まだ時間がありますね」
 愛原:「早めに夕食でも取って、それから帰るか」
 高橋:「仕事の打ち上げっスね!さすがっス!」

 そういうつもりではないのだが、実質的にそうなるわけか。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“私立探偵 愛原学” 「地下研究所からの脱出」

2019-02-21 10:10:56 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月20日15:00.天候:不明 千葉県銚子市 旧アンブレラコーポレーション・ジャパン地下研究所]

 アンブレラコーポレーション・インターナショナルが正式名称で、日本法人名がアンブレラコーポレーション・ジャパンなのだが、長いので『日本アンブレラ社』と呼んだり、『アンブレラ日本支部』と呼んだりと的を得ない。
 彼らの名刺には実際何て書いてあったのだろう。
 正規・非正規問わず、日本法人だけで何百人もの社員がいたはずだが、彼らはどこに行ったのやら。
 斉藤社長が経営する全日本製薬(ゼンニチ)で再雇用しているのなら、是非とも彼らから話を聞きたいものだ。

 高橋:「ダメですね。資料らしい物はさっぱり」
 愛原:「やっぱり世の中そんなに甘くなかったか」

 衣装部屋らしき部屋で、リサがかつて着ていた服と同じものが見つかった。
 それはどこかの学校の制服のようなセーラー服であったが、リサに言わせれば、リサを含む彼女の仲間全員がまるで学校の制服のようにこれを着させられていたのだそうだ。
 因みにリサのそれも未だに家に保管してある。
 リサにとっては辛い研究所生活の嫌な思い出の服なので、2度と着たくないらしい。
 だから、今通学している東京中央学園の制服がブレザーであることに安心しているわけだ。

 高橋:「服だけ置いて行っても、何の証拠にもならないから放置したのでしょうか?」
 愛原:「そうかもしれないな。いっそのこと、リサの仲間も捜してみるか?」
 高橋:「それは危険ですよ。基本、あいつらは俺達の敵でしょう?あのリサだけが特別で」
 愛原:「それもそうか」

 彼女らはタイラントと同様、侵入者は即殺するようにインプットされている。
 霧生市で会ったリサだけはある意味で暴走状態だったので、却って私達のことをただの侵入者と捉えず、違った意味で『遊び相手』のように思ったわけだ。

 高橋:「仮にいたとしても、あのカプセルの中にいたと思います。もうここにはいないですよ」
 愛原:「そうか。そいつは残念だ」
 高橋:「それより早く脱出を……」
 愛原:「待て。もう少し探してみよう」
 高橋:「ええっ?」
 愛原:「探偵というのはな、証拠集めに貪欲でないとダメなんだ。どこかに忘れられた物的証拠があるかもしれない」
 高橋:「! メモっておきます!……でも、タイラントが……」
 愛原:「分かった。じゃあ、お前は廊下で見張ってろ。どうせトロッコの乗り場は、あの先だ。タイラントがやってきたら、全力ダッシュで逃げるぞ」
 高橋:「分かりました」

 見取り図だけで分からない、『これ何の部屋?』的なところがあるんだよなぁ。
 衣装部屋だって、ただの『倉庫』ってしか書いてなかったし。
 クロゼットを開けると……うん、やっぱりここにリサの仲間がいたんだろうなぁというものがある。
 それは10代前半の少女が着るであろう下着。
 リサもこういうショーツをはいてるなぁというのが結構入っている。
 最初はこんな所にあるわけないと思い、すぐにクロゼットを閉めたのだが、どうも怪しい。
 いや、変な意味じゃないよ。
 やはり、ここの研究所の関係者は慌てて出て行ったのだろうと思うところがある。
 で、タイラントの服が衣装部屋にあるということは、それ用の下着も無いとおかしいんだ。
 しかし、それは無く、恐らくリサの仲間の少女が着ていたと思われる下着だけが雑多にしまってある。
 そう、雑多に。
 他の服はちゃんとハンガーに掛けてあるのに、下着だけが雑多にしまわれていたのだ。

 高橋:「先生!何か、向こうのドアがブチ破られる音がしました!」
 愛原:「マジか!」
 高橋:「……って、何やってるんスか、先生!」
 愛原:「証拠探しに決まってんだろ!」
 高橋:「見た目だけなら下着ドロですよ?」
 愛原:「悪かったな!」

 そして、私は見つけた。
 白いショーツが何枚も重ねてしまわれている段の1番下に……。

 愛原:「おい、これ!」
 高橋:「あっ!」

 それはUSBメモリー。
 下着の中にわざわざ隠すようなことをしているくらいだから……。

 愛原:「これ、いい証拠じゃないか!?」
 高橋:「……かもしれませんね!」

 中身を確認したいところだが、衣装部屋の外に出るとタイラントが向こう側から歩いて来るのが分かった。

 愛原:「取りあえずこれだけ持って帰るぞ!」
 高橋:「先生、パンツは置いてって下さいよ!?」
 愛原:「おおっと!?」

 私達がトロッコの乗り場に向かうドアに走った時だった。

 愛原:「あれ!?……おい、開かないぞ!?」
 高橋:「ええっ!?電子ロックは解除したはずじゃ!?」
 愛原:「だよな!どうなってんだ、おい!?」
 高橋:「ロックが途中で引っ掛かってますね、これ!」
 愛原:「何だって!?」
 高橋:「このボロドアが!ちょっと待ってください!今、バールで……!」
 愛原:「そんなことしてる場合じゃない!一旦逃げるぞ!」
 高橋:「クソがっ!!」

 ムカついた高橋、ドアを思いっきり蹴っ飛ばす。
 私達は一旦、タイラントから逃げる為にドアから離れた。
 タイラントはあちこち破壊しながら私達を追い回す。

 愛原:「メチャクチャだな、おい!」

〔緊急連絡!所内の自爆プログラムが作動しました。当研究所は、あと10分で爆発します。所内の関係者は、直ちに避難してください〕

 今頃、自爆装置作動かよ!?
 と、その時だった。

 愛原:「!?」

 私のスマホに着信が入った。
 え?なに?ここ電波入るの?
 画面を見ると、リサからだった。
 そういえば中学校の入学祝に、スマホを持たせてあげたんだっけ。
 もっとも、私達が使うものと違って随分とシンプルなヤツだが。
 中学1年生に持たせるヤツだからな。

 愛原:「も、もしもし!?」
 リサ:「愛原さん、今どこにいるの?一緒に観光してくれないとつまんないよ〜」

 ブーたれているリサが電話の向こうにいた。
 で、私は閃いた。

 愛原:「リサ!ちょうどいい!お願いがある!」
 リサ:「お願い?」
 愛原:「俺達、タイラントに追われてるんだ!俺達の追撃をやめるよう言い付けてくれたら助かる!」
 リサ:「タイラント君が!?」

 私はスマホをスピーカーモードにした。

〔「タイラント君!そこの2人を追うのをやめなさい!!」〕

 タイラント:「!」

 タイラントはピタッと足を止めた。

〔「元の場所に戻りなさい!」〕

 タイラント:「御嬢……様……」

 タイラントは目を丸くすると、クルッと踵を返した。

 愛原:「おおっ、さすがだ!」
 高橋:「とんでもないですね……」

〔爆発まで、あと6分……〕

 愛原:「感心してる場合じゃない!早く行くぞ!」
 高橋:「はい!」
 愛原:「リサ、ありがとう!もうちょっとで仕事終わるから!!」
 リサ:「……一体、どこでお仕事してるの?」

 次の問題はトロッコ乗り場に行くドアが開かないことだ。
 だが……。

 高橋:「あれ?開いてる?」
 愛原:「マジか!やったやった。……あれか?さっきお前、思いっ切りガンッて蹴っ飛ばしただろ?」
 高橋:「は、はい」
 愛原:「そのショックで開いたんじゃないか?」
 高橋:「おおっ!」

〔爆発まで、あと5分〕

 愛原:「急ぐぞ!」
 高橋:「はい!」

 私達はトロッコの乗り場へ急いだ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“私立探偵 愛原学” 「地下研究所」

2019-02-19 18:53:10 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月20日13:30.天候:不明 千葉県銚子市 ニューグランドホテル犬吠・旧館地下4F] 

 見取り図にあった古いエレベーターに乗って地下深くまで下りると、無機質なコンクリート壁がまず目に付いた。
 そして、また階段があって更に下る。
 下りると左に鉄製のドアがあり、そこを開けると……。

 愛原:「あー、あった。これが旧アンブレラの秘密研究所か……」

 意外なことに、中の造りは意外と秘密めいてはいない。
 普通の製薬会社の研究所を訪れると、中はこんな感じ的な……。

 愛原:「総合受付がある。すいませーん!見学希望の者ですがぁ!」
 高橋:「誰もいませんよ、先生」
 愛原:「それもそうだな」
 
 この研究所も停電はしておらず、ちゃんと照明が点いていた。
 まるで、つい最近まで活動していたかのようだ。

 愛原:「誰もいないのなら、ちょっと家探しさせてもらうか」
 高橋:「うっス!」

 本当はホテル旧館地下の旧アンブレラの秘密研究所を見つけたら、それでもうミッションは終了だ。
 後は手持ちのデジカメで証拠の写真でも撮れば良い。
 さすがにタイラントそのものと、タイラントに追われている最中に写真は撮れなかったがな。
 あとは何かこう……証拠となるようなものを手土産に持ち帰ればいいだろう。
 だが、引っ越しする気は満々だったようで、受付の周りも、その奥の事務室もすっかり片付けられていた。
 使われなくなった事務机や椅子などが放置されているだけで、書類などは1枚も無い。

 愛原:「さすがは世界的なバイオテロ組織。そう簡単に尻尾は掴ませないってか」
 高橋:「その割にはタイラントなんて御大層なモノ、放置して行きましたよね」
 愛原:「それな」

 ここの旧アンブレラの関係者達は慌てて出て行ったのか、或いは計画的に出て行ったのか分からんな。
 まあ、計画的に出て行ったのだが、一応慌てて出て行ったかのようなフリをした?
 いや、誰得だよそれ?って感じだな。
 総合受付のあるレセプションホールには警備室もある。
 そこに入ると、警備システムはまだ稼働していた。

 愛原:「ここの警備室で電子ロックを解除できるな」
 高橋:「でも、やっぱりカードが必要みたいですよ」

 私は無言で先ほどのカードキーを取り出した。
 で、それを端末横の穴に差し込むと、操作できるようになった。

 愛原:「後で新館のホテルマンをボコして、どういうことだかゲロさせましょう」
 高橋:「いや、普通に聞こうよ」

 所内の監視カメラを見てみたが、人影など全く映っていなかった。
 ゾンビもいないし、ハンターやリッカーもいなさそうだ。
 じゃあ、あのタイラントはどうしてあそこにいたんだ?
 私はついここから脱走したのだろうと思っていたのだが……。

 愛原:「よし。電子ロックは全て解除したぞ」
 高橋:「さすがです」
 愛原:「ついでにタイラントが来られないよう、ここからあのエレベーターの電源を切っておく。あとは入口の鉄扉も電子ロックだ」

 あの馬鹿力でブチ破られそうな気はするが、足止めさせておく時間は必要だ。

 愛原:「あとは別の脱出経路の確保だな」
 高橋:「えっ?」
 愛原:「だって今来た道は戻れないだろ?タイラントが張ってるんだから……」
 高橋:「あっ、そうか……。でも、都合良くありますかね?」
 愛原:「こういう秘密の施設ってもんは、ヤバくなった場合、自爆装置でも付いているものだ。で、関係者まで巻き込まれるわけには行かないから、関係者だけでも助かる方法が確保されているはずなんだ。例えば脱出ポッドとかな」
 高橋:「なるほど」

 私は室内にあった所内の見取り図を引っ張り出した。

 愛原:「あった!この研究所の最深部に、何かトロッコのようなものがあるみたいだぞ。これを使えば脱出できる」
 高橋:「どうやって行きますか?」
 愛原:「エレベーターを起動させて、それから……。高橋、お前も手伝え」
 高橋:「はい」

 脱出経路を確保するのに30分以上は要した気がする。
 だが、これで安全に脱出できるはずだ。

[同日14:00.天候:不明 同市内 旧アンブレラコーポレーション・ジャパン地下秘密研究所]

 脱出経路を確保した私達は、脱出用のトロッコがある最深部へ向かうことにした。
 幸いゲームや映画のように、ゾンビが徘徊していたり、クリーチャーが跋扈しているというようなことは無かった。
 一応、タイラントが追って来る気配は無いものの、入口は塞いでいるが、それでも万が一ということがある。
 ボヤボヤはできなかった。

 愛原:「ん!?」

 途中の部屋に、この研究所で研究されていたであろう物があった。
 「ある」のではなく、「あった」だ。
 何故過去形かというと、それが入っていたと思われるカプセルが見るも無残に破壊され、いなくなっていたからである。
 かなり大きなカプセルだ。
 私はもちろん、高橋が入ってもまだ余りそうな……って!

 高橋:「先生!これ、あのタイラントが入っていたカプセルじゃ!?」
 愛原:「やっぱり脱走していたのか!」

 私はもちろんこのカプセルについても写真を撮った。
 他にもカプセルがあったが、それらはもぬけの殻だった。
 最初から無かったのか、或いは移設されただけなのかは分からない。

 愛原:「ああ、なるほど。そういうことか」

 何で秘密研究所がここにあるのか分かったような気がした。
 千葉県銚子市は太平洋に面している。
 で、この研究所も、すぐそこが海のはずだ。
 アメリカのアンブレラ本体からタイラントなどを船で移送する為なのではないか?
 脱出用のトロッコも、普段は船の『積み荷』を研究所に移送する為に使用されていたのではないかと推理する。
 ま、確たる証拠は無いがな。

 高橋:「ん?こっちのドアは?」
 愛原:「見取り図によると、ただの倉庫らしいな。多分そこももぬけの殻だろう」

 高橋が開けてみると……。

 高橋:「先生、何か服とか掛かってますけど?」
 愛原:「ん?」

 ハンガーラックがあり、そこにタイラントが着ていたコートとか帽子とかが掛けてあった。
 他にも服飾関係のものがある。
 ここは衣裳部屋か何かか?

 高橋:「先生、これ見覚えありませんか!?」

 高橋はラックに掛かっている服から、セーラー服を取り出した。
 サイズ的には女子高生よりも、女子中学生とか……或いは私立の女子小学生が着るような……。

 愛原:「リサだ!リサの服だ!!」

 霧生市でリサと初めて会った時、彼女はセーラー服を着ていた。
 そして仙台市郊外の廃校地下に建設された秘密研究所で再会した時も、彼女は同じ服を着ていた。

 高橋:「仮面もあります!」

 霧生市で初めて会った時、リサは目の部分しか開いていない白い仮面を着けていた。
 今となっては、それがリサ・トレヴァーの暴走を防止する為の装置であったと思われる。

 愛原:「ここにリサがいたのか!?」
 高橋:「……か、或いはリサの仲間か……」

 そう言えばリサはタイラントと一緒にいた。
 ここにもタイラントがいるということは、リサの仲間もいるということだ!

 愛原:「さっき監視カメラで見た時、それらしい姿は無かったぞ?」
 高橋:「カメラの映らない所に隠れているか、或いはどこかに連れて行かれたのかもしれませんね」

 或いは、私達と今一緒に暮らしているリサ本人がここに……。
 いや、それは無いな。
 彼女の記憶が無いのは、人間だった頃のみ。
 リサ・トレヴァーとなってからの記憶ははっきりしているので、もしここにいたことがあるのなら、とっくに私にその話をしていても良いはずだ。

 愛原:「高橋君、この辺りをもう少し詳しく調べてみよう。もしかしたら、リサのことがもっとわかる何かがあるかもしれない」
 高橋:「はい!」
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“私立探偵 愛原学” 「アンブレラの秘密施設」

2019-02-19 10:11:07 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月20日13:00.天候:曇 千葉県銚子市 ニューグランドホテル犬吠・旧館2F]

 愛原:「マジかよ……」

 私と高橋は旧館のエントランスホールにいる。
 新館と同様、ここも2階までの吹き抜けロビーになっており、フロントもある。
 新館と違うのは、その中央には銅製の女神像が鎮座していることだ。
 台座には掌サイズのメダルを嵌め込む穴が3つあり、つまりメダルを3個集めると銅像の下に隠されている秘密の隠し通路が現れる仕掛けのようである。
 ところが途中、侵入者などを追い回して殺す人型クリーチャー『タイラント』が現れて、私達はその追跡を交わしながらメダルを集めていたというわけだ。
 あいつはリサ・トレヴァー同様、生半可な銃器による攻撃は効かない。
 リサと違うのは、コルトパイソン辺りくらいの大型拳銃まで行けば、何とかダメージを与えられるようなのだ。
 で、ロケットランチャーがあれば完全に倒せる。
 もちろん、そんなもの自衛隊や米軍の施設にでも行かなければ無いだろう。
 で、私が絶望している理由というのは……。

 高橋:「タイラントのヤツ、番張ってやがりますよ?」
 愛原:「うん……」

 そうなのだ。
 あの銅像の前で、タイラントは『立哨』を開始した。
 どうやら私を捜し回り、追い掛けるのは不毛だと判断したらしい。
 そして私達があの銅像の仕掛けを解こうとしているのに気づき、そこで待っていれば必ず私達が現れると踏んだのだろう。
 最近の人型クリーチャーというのは、本当に狡賢くなったものだ。

 高橋:「ロケランで体バラバラにしてやりてぇ……!」
 愛原:「どこにそんなものがあるんだよ?」

 このままでは埒が明かない。

 愛原:「リサを呼ぶか?タイラントはリサの言う事を聞くはずだ」
 高橋:「たまたま霧生市のヤツがそうだっただけで、あいつは聞きますかね?」
 愛原:「リサも人型クリーチャーだ。もしかしたら、代わりにタイラントを倒してくれるかもしれんぞ?霧生市のヤツが言う事を聞いていたのも、リサの方が強かったからだろ?」
 高橋:「あ、そうか。ヤツの気を引かせるのはリサくらしいかいないってことですね。こういう時にしか役に立たないんだから、さっさと呼びましょう」
 愛原:「こらこら、そういう言い方するな。……ん?お前、今何て言った?」
 高橋:「は?ヤツの気を引かせるのはリサだけって話ですか?」
 愛原:「そうだよ!ヤツの気を引かせればいいんだ!」
 高橋:「だからリサを……」
 愛原:「いや!気を引かせるだけなら、他にも方法はある!」
 高橋:「???」
 愛原:「お前、タバコとライター持ってるよな?」
 高橋:「俺の初期アイテムですから。でも先生の前では吸いませんよ?」
 愛原:「分かってる。俺は作者と同様、嫌煙者だからな」

 雲羽:「インフルエンザ発症前は別に横でトチロ〜さんが吸っていても全然平気だったのですが、発症後は喘息の症状も併発し、今もそれが残っているので、喘息が治るまで受動喫煙は勘弁してください」

 愛原:「俺にいい作戦がある。タバコとライター持って来い」
 高橋:「はい」

 私達は一旦その場から離れた。

[同日13:15.天候:曇 同ホテル旧館1F・男子トイレ→2F・エントランスホール]

 

 高橋:「先生、一体何をするつもりですか?」

 私は天井を見上げた。

 愛原:「うん、やっぱりある」
 高橋:「何がですか?」
 愛原:「あそこに何か書いてあるだろ?何て書いてある?」
 高橋:「『トイレ内は禁煙です。もし喫煙された場合、警報器が鳴ります』……あっ、そうか!」
 愛原:「そういうことだよ。早いとこ、タバコに火を点けろ」
 高橋:「はい!」

 高橋はタバコを取り出した。

 高橋:「先生にアイコス勧められて、そうしようかと思っていた矢先だったんですよ」
 愛原:「加熱式の方が煙が出にくいからな。そうしてもらえると助かるということだったんだ」

 しかし今、高橋が持っているのは普通のタバコ。
 高橋は煙草に火を点けた。

 愛原:「吸うなよw」
 高橋:「え?」
 愛原:「センサーの真下に今火を点けたタバコを置くんだ」
 高橋:「は、はい」

 高橋は感知器の真下にタバコを置いた。

 愛原:「よし、さっきの場所に戻るぞ」
 高橋:「はい!」

 私達は階段を駆け登り、2階へと戻った。
 すると!

〔ビーッ! 火災警報器が作動しました。直ちに現場を確認してください。ビーッ! 火災警報器が作動しました。直ちに現場を確認してください〕

 タイラント:「!?」

 タイラントはハッとフロントの奥の事務所の方に目をやった。
 そして私の目論見通り、ヤツはフロントの奥へと歩いて行った。

 愛原:「今だ!」

 私達は吹き抜け階段を駆け下りると、最後の1つを台座の穴に嵌め込んだ。
 そして、階段を下りた先の扉が自動で開いた。

 高橋:「やりました、先生!」
 愛原:「行くぞ、早く!」

 入口の高さは1.5メートルほどの高さしか無い。
 長身の高橋はもちろんのこと、中肉中背の私でも屈まないと入れないほどだ。

 タイラント:「!!!」

 気づいたタイラントが戻って来て、私達を追い掛け始めた。
 だが、タイラントは高橋よりも20cm以上高い。
 タイラントにとっては小さな穴だ。
 それでも体をねじ込ませて、私達を追おうとする。
 階段を駆け下りると、あの見取り図の通り、古めかしいエレベーターがあった。
 何しろ外側も内側も、引き戸式の鉄格子の扉だぞ。
 確か、日本橋高島屋だか三越のエレベーターもこんな感じじゃなかったか?
 これは手動式だ。
 私は手で鉄格子を開けようとしたが、何故か開かない。
 このままではタイラントに追いつかれてしまう!

 高橋:「先生、先生!」
 愛原:「あ?何だ?」
 高橋:「これ、何ですかね?」

 高橋が指さしたのは、ドアの横にある穴。
 カードを差し込む穴のようだ。

 高橋:「カードか何かを差し込まないと開かないんじゃないですか?」
 愛原:「マジかよ!?そんなもの持ってないぞ!」

 だが、その装置をよく見ると、何のカードを差し込めば良いのかのイラストが描いてある。
 そしてそのイラストに、私は見覚えがあった。

 愛原:「これか!?」

 それは新館の客室ドアのカードキー。
 試しにそれを差し込んでみた。

 ピー!……ガチャ。

 高橋:「あ、ロックが解除されました」
 愛原:「マジかよ!?何だこのカードは!?」
 高橋:「それより早く!」
 愛原:「お、おう!」

 私はすぐに鉄格子のドアを開けた。
 ドスッドスッとタイラントの重厚な足音がもうすぐそこまで来ている。
 外側の鉄格子と内側の鉄格子をちゃんとガチャンとロックが掛かるまで閉めないと、このエレベーターは動かない。
 そして、ボタンを押すと同時にタイラントが向こう側から現れた。

 愛原:「おい、タイラント!いい加減にしないとリサ・トレヴァーを呼ぶぞ!!」

 下降を始めたエレベーター。
 私は鉄格子越しにタイラントに怒鳴り付けた。
 すると、タイラントはピタッと歩みを止めた。

 タイラント:「リサ……トレヴァー……?」

 ゆっくり下降するエレベーター。

 高橋:「あんなんで脅しになりますかね?」
 愛原:「だが一瞬あいつ、止まったぞ?」
 高橋:「早く着いてくれないと、あいつのことだからドアぶち破って追い掛けて来ますよ」
 愛原:「そうだな」

 だが、エレベーターが到着するまでそんなことは無かった。
 一応、私の捨て台詞は効いたのだろうか?
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする