報恩坊の怪しい偽作家!

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“ユタと愉快な仲間たち” 「地獄界の狭間で」

2015-01-06 02:21:19 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[2015年1月1日11:00.地獄界・叫喚地獄 蓬莱山鬼之助&稲生ユウタ]

 キノの大きな背中の後ろをついていくユタ。
 黒い羽織りの背中には、巴の紋のような刺繍が入っている。
 1時間は歩いているのだが、疲れが無い所を見ると、やっぱり自分が死んでしまったのだと薄々感じて来る。
 キノが真新しい羽織りを着ている理由が、途中で分かった。
 それはキノの同僚と思しき、同じ羽織りを着た鬼と会った時のこと。
 同じ階級のせいなのか気さくに話し掛けてきたが、その中に、
「今日から復帰か?おめでとさん」
 とか、
「復帰後の初仕事がこんなんじゃ、先が思いやられるなー」
 とか言っていた。
 それで、その羽織りが幹部クラスのユニホームのようなものだと分かったのである。

「獄卒に復帰したんだね?」
「ああ。今日からな。初仕事が、お前の相手だ。まあ、亡者いじめは一張羅のやることだが……」
 大きな家屋敷は再建中だ。
「魔族どもに、ここをやられてよ。ま、半壊半焼で済んだだけありがたく思わないとな」
「なるほど……」
 無事だった正門には、仁王像の如く鬼門の左右の2人が立っていた。
 人間界に来る時でも大柄な体付きだが、ここでは3メートルくらいの高さがある。
 キノの身長も180センチを超えているが、それが小柄に見えるくらいだ。
「鬼門の2人も無事だったんだね」
 もっと小さいユタは、まるで大仏を見上げるかのように鬼門達を見た。
「おう、稲生か」
「そういうオマエは死んでしまったか」
 左右は笑みを浮かべて答えた。
「まあ、とにかく入れや。再建中で、ちょっとゴタついてるけどな」
「お邪魔します」

 純和風の屋敷の再建に亡者を駆り出しているのかと思いきや、そうではなかった。
 普通に下級の鬼達だけが作業に当たっていた。
 確かに賑やかなものだが、母屋のとある和室に通されると、意外に静かなものだった。
「まあ、座れや」
「うん……」
 ユタが正座すると、キノも腰から刀を外して、こちらはあぐらをかいた。
「もう1度言うが、オマエはもう死んで魂だけの状態だ。本来ならここじゃなく、一張羅どもに相手される立場だ。オレは江蓮に頼まれて、オマエをここに連れて来ただけに過ぎねぇ。だから、チョーシ乗んなよ」
「分かった」
「で、まあ、オマエも寺に出入りしていたくらいだから、叫喚地獄とやらがどういう所かは知ってんだろ」
「まあ、何となくは……」
「オマエがこの地獄を出る方法は3つある。まず1つは、ここにいる期間も未来永劫というワケじゃねぇ。フツーにしてても、いずれここを出れる時は来る。まあ、その期間とやら、どれくらいかは言う必要は無ェな。それが1つ。もう1つは生きてる人間に卒塔婆を立ててもらうことだが、オマエの家族の信仰状況じゃムリポだな。そもそも、今の人間界の状況からして、すぐに卒塔婆を立てれる状況じゃねぇ」
「そんなに凄いの?」
「日本だけじゃなく、世界中の大都市が魔族どもの奇襲で大変なことになってるぜ。おかげで冥鉄も地獄界もウハウハだけどな」
「えー……」
 そしてキノは眉間にシワを寄せた。
「オマエ、どうしてそもそも魔界から指名手配食らってる魔女なんかに会おうとしたんだ?あ?大都市でもねぇ静岡のあの町がやられたのも、それが原因みてーなもんだよ。直弟子なんか、最重要参考人だからなー」
「ぼ、ボクはただ……藤谷班長に誘われて……富士宮に着いたら、マリアさんがいて……」
「ま、とにかく、オマエも原因の一端になったってことで、地獄行きになったんだろう」
「そんな……」
「それほどまでに、大魔王の怒りや執念深さは凄いってことだよ。……ああ、まだ3つ目を言ってなかったな。3つ目は、その魔女達に生き返らせてもらうことだよ」
「は!?そんなことができるの!?」
「ああ。オマエもゲームやってりゃ分かるだろ?そういう魔法があるってことをよ。だからこっちじゃ、あいつらは嫌われ者だぜ」
「うーん……」
「多分やるな。その魔女達はよ」
「やって……くれるのか」
「やるさ。高い確率で。それまでは、ここでおとなしくしてろ。……ああ、ただ一応罪人だからな、座敷牢には入ってもらう」
「どうしてキノはここまでしてくれるの?」
「言っただろ。江蓮に頼まれたんだって」
 するとキノは長く尖った耳を少し下げ、ニンマリと笑った。
「実を言うと、オレはオマエに感謝しなくちゃなんだ。何しろ、オマエが死んでくれたおかげで、ようやっとオレは江蓮の処女もらうことができたんだからな」
「……そうなの!?」
「ああ。オマエを特別扱いさせる代わりの条件として提示してみたら、意外とあっさり股開いてくれた。オレに取っては、かなりラッキーな話だった」
「そうなんだぁ……」
 まあ、キノは江蓮にベタ惚れで、そもそもキノが無期限停職食らったのも、獄卒には大厳禁の亡者との情交がバレた上に、勝手に転生させたからである。
 本来ならもっと厳罰に処されるところで、そこは家の力によるものだろう。
 そこまでするくらいの一途な性格だ。
 普段は飄々としていても、そこはちゃんとしてるから、ヤり捨てることはないだろう。
「人間界では今、何が起きてるの?」
「今は……」

[同年同日同時刻 静岡県富士宮市・市街地付近 威吹邪甲、威波莞爾、マリアンナ・スカーレット、イリーナ・レヴィア・ブリジッド]

「これで、モンスター共も一掃かしら?」
 粗方魔族達を倒した威吹達の前に現れたのは、バァルから憤怒の矛先を向けられているイリーナだった。
「イリーナ!」
「マリア、何を泣いてるの。まだ泣くには早いわよ。早いとこ、蘇生魔法の準備をしなさい。いくら真冬とはいえ、魂の抜けた死体をそのままにしては悪くなる一方だからね」
「は、はい……」
 マリアはヨロヨロと立ち上がると、ユタの遺体の所へ歩いて言った。
「こちとら世界の垣根を越えて指名手配中なんだから、新手が来る前にズラかるよ」
 イリーナがそう言ってマリアの後ろから魔法を唱えると、ユタの遺体が5分の1サイズの木偶人形に姿を変えた。
「お、おい!」
 威吹が驚いて、イリーナに駆け寄る。
「大丈夫。あくまで、肉体の保存の為だから。あとは……」

 ザシャアアアアアッ!

「いたぞー!大魔王バァル様を唆した罪で指名手配の元宮廷魔道師、イリーナ!」
 馬頭が特徴の魔族が、新たな軍勢を引き連れてやってきた。
「あら?もう新手がやってきちゃった。じゃあ、逃げましょうか。……ル・ウラ!」
 イリーナほどのベテランになると、そこそこ高度な魔法でも呪文の詠唱無しで、いきなり魔法が使えるらしい。
「って、オレ達もかよ!?」
 一緒に空間を飛ぶ威吹とカンジだった。

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