報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“ユタと愉快な仲間たち” 「魔界編突入」

2015-01-06 15:13:57 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[2015年1月1日22:00.長野県北部 マリアの屋敷 イリーナ・レヴィア・ブリジッド、マリアンナ・スカーレット、威吹邪甲、威波莞爾]

「ものの見事に荒らされてるわねぇ……」
 洋館は魔王軍襲撃に遭い、略奪された後だった。
 やはり直接指名手配は受けなくても、秘匿先としての弟子の住まいはターゲットになったらしい。
「だけど、連中は魔法には疎いから、魔法具は持ってかれてないね」
 倉庫に行くと、魔法具は手つかずのままだった。
「蘇生魔法に使う道具は……これとこれ……それに、あれ……」
「早くしろよ。もしかしたら、新手が来るかもしれんぞ?」
 威吹が言った。
「多分来るよ」
「なに!?」
「だから、威吹君達も連れて来たの」
「いたぞ!指名手配の魔道師達だ!!」
「マジかよ……」
「先生、行きましょう」
「いいように使われてるなぁ……」
 2人の妖狐は抜刀すると、新たな魔王軍の追っ手に斬り込んで行った。

[同年月日同時刻 地獄界・叫喚地獄 蓬莱山家 蓬莱山鬼之助&稲生ユウタ]

「どーれ……。ちょっくら行ってくるかぁ……」
 キノはバキボキと手の指を鳴らした。
「栗原さんの所?」
「それもあるし、魔界に抗議に行ってくる。どうせイブキ達も行くだろうからな」
「獄卒の仕事は?」
「これが仕事だ。魔界からの脅威を何とかしねーと、仕事になんねぇ」
 座敷牢にいるのは夜中の間だけで、それ以外の時間帯は無理に入っている必要は無いらしい。
 美味しそうな人間というだけで、ユタは長姉の美鬼(みき)に気に入られ、更なる厚遇を受けることになった。
「じゃあな。この家じゃ、姉貴が法律だ。そこんとこ忘れるなよ?」
「分かった。ありがとう」
 キノが外に出ると、奥から美鬼がやってきた。
「んー?鬼之助はもう行ったん?」
「ええ。今しがた……」
「あのコも言い出したら聞かんき、好きにさせとくがな」
「はあ……」
「ところでこのゴタつき片付いたらな、獄卒採用試験を大幅に行うっちゅう話あるんやけど、受ける?何なら、ウチの顔で一次試験免除くらいにはしはったるよ?日本の国家公務員以上の厚遇やで?
「いえ、結構です」
 魔道師の誘いだの、引く手数多のユタだった。

[1月2日00:02.長野県北部 マリアの屋敷 イリーナ、マリア、威吹、カンジ]

「……気配が無くなったな」
「ええ」
 2人の妖狐達は魔王軍の新手数十名を2人で倒してしまった。
「お見事。せっかく攻撃魔法の用意してたんだけど、アタシの出番は無かったね」
 イリーナは驚いたような、感心したような顔をした。
「少し休んでから魔界に行きましょう」
「ユタを生き返らせないのか?」
「あともう1つ道具がいるんだけど、それが何と魔王城にあるの」
「魔王城だ!?」
「しかも今、魔界は内戦の場。正念場になるわ。ここは結界を張るから、一晩くらいゆっくりできるわよ」
「そんなヒマは無い。ユタを一刻も早く生き返らせるのが最優先だ」
「それに、バァルも何とかしませんと。安全を確保しないことには、また元の木阿弥です」
「食事とお風呂くらい入ったら?随分着物も汚れてるよ?」
 イリーナは溜め息をついて言った。

[同日01:00.埼玉県さいたま市大宮区 大宮公園駅 キノ&栗原江蓮]

 もうとっくに終電の出たホーム。
 何故かそこにキノと江蓮がいた。
「誰かを守りながらの戦いはキツいって前に言わなかったか?」
 不機嫌そうな顔で言うキノ。
「聞いてない。てか、私だけのうのうとしてるわけにはいかないっての」
 まだ被害の無い大宮区。
 そこへ終電も行ったというのに、踏切の鳴る音が聞こえて来た。
「ったくよォ……。帰ったら、またヤらせろよ?」
「帰りは夜中にならない時間でね。てか、この恰好じゃ補導されるっての」
 江蓮はコートの下に着ている制服を見ながら答えた。
 キノが望んだ恰好である。
 そこへ電車が入線してきた。
 見た目は普段運行している8000系の旧型車に見えるが、チラッと見える車体番号の1000の位は5になっていた。
 車体の塗装はくすみ掛かり、行き先表示も『臨時』としか表示されていない。
「ちょうどこの日、魔界行きの電車が走ってるなんて都合良過ぎない?」
「偶然だよ」
 ゴタついている魔界に行く者は誰1人おらず、6両編成の中間車に乗り込んだ2人以外に乗客の姿は無かった。
 東武鉄道から除籍されて廃車になり、冥界鉄道公社に引き取られた元5000系は2人を乗せると柏方面に向かって走り出した。
 付近住民からは時折、野田線を幽霊電車が走行するという噂が絶えず流れているらしい。
 真偽のほどは、【お察しください】。

[現地時間2015年1月2日07:00.魔界アルカディア王国・魔王城 塔屋部分 ルーシー・ブラッドプール1世]

 城の塔部分と言えば、高貴な罪人が収監される牢屋があるという。
 魔王城も例外ではなく、ここにもそういった施設があった。
 そこに収監されているのは、かつて代行統治委任とはいえ、少なくとも国民や議会からは女王陛下と万歳され、そして自身もそれに手を振って応えていたルーシー・ブラッドプールその者であった。
 ウェーブの掛かった金髪に透き通るようなブルーの瞳、肌も雪のように白いが、変に青白くない所が高貴の出であるとされている。
 大魔王バァルから代行者にあるまじき越権行為の数々を断罪され、収監されてここに至る。
「お食事の時間ですよ」
 そんなルーシーの看守を務めるのは、人型の妖怪。
 見た目は人間とよく似ているが、種族までは分からないものの、妖怪の臭いがする。
「ルーシー様はO型の血液がお好きでしたね」
 西洋の鎧兜に身を包んだ看守が持ってきたのは、血液パック。
 ルーシーはヴァンパイアが出自である。
「私は……処刑されるのだろうか……」
「私は一介の看守ですので何とも……。ただ、皇帝陛下は相当お怒りの御様子です。そのお怒りが鎮まられるのを願うしかないでしょう」
「ハルアキはどうしてる?」
「元総理なら、地下牢の方に収監されてます。ルーシー様におかれましては、この通りただの拘置ですが、元総理に対する尋問は相当なものだと伺っております」
 例えバァルに対する目に余る越権行為の数々とはいえ、そこはあまり強くはできないのだろう。
 バァル本人の任命責任にも関わってくるし、ルーシーはヴァンパイアの貴族の娘である。
 無碍な扱いをしようものなら、そこから魔界に流れて来る資本(ルーシーの一族は人間界でも屈指の大富豪)がストップする恐れがある。
 それだけなく、反旗を翻して、また国に内乱が起こるとなるともっと面倒臭い。
 そういうことだろう。
「そうか……」
「元総理は皇帝陛下を唆した魔道師達とも繋がりがありましたので、尚更ですね」
(この国を救ってくれる勇者は、もういないのだろうか……)
 太陽の無い世界、魔界。
 王都も霧に包まれている日が多い“霧の都”だが、牢の窓から差し込む明かりは自然の光である。
 ルーシーは看守が持って来た、あまり新鮮とは言えない血液パックから吸血しながら窓を眺めた。
(実家にこの現状が分かってくれれば……でも……)
 一時期、皇太后として辣腕を振るったルーシーの母。
 普段はニューヨークで大企業の役員をしている。
 ワガママで出来の悪い娘に対しては厳しかった。この現状も自業自得だとされてしまうだろうか。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« “ユタと愉快な仲間たち” 「... | トップ | 小説の途中ですが、ここで本... »

コメントを投稿

ユタと愉快な仲間たちシリーズ」カテゴリの最新記事