[5月5日10:00.天候:曇 魔界王国アルカディア王都アルカディアシティ デビル・ピーターズ・バーグ魔道士ギルド]
イリーナ:「ありゃ?」
イリーナ組が魔法陣から出ると、そこは確かに魔界であった。
魔界であり、魔界屈指の王国アルカディアであり、そしてその王都アルカディアシティの中心街に他ならなかった。
それはいい。
イリーナが目を丸くしたのは、直で魔王城に到着するはずだったのに、何故か少し離れたデビル・ピーターズ・バーグ地区であった。
そしてそこは魔道士ギルド。
要は魔道士専用の“ルイーダの酒場”のような所である。
主にダンテ一門とは違い、魔界を拠点にしている魔道師の小さな私塾の協同組合事務所のような所である。
もっと言えば、『魔界魔道士協会』みたいな感じ。
人間界を拠点にし、そこで一際大きな集まりを成すダンテ一門はあまり用の無い場所であった。
魔法を使えない冒険者が魔法使いを味方にする為、ここにやってくることが多い。
イリーナ:「ここはギルドじゃない!え?何でここに着いたの?誰か呼んだ?」
マリア:「師匠の読みが外れたんじゃないですか?日にちも1週間以上経過してますよ?」
イリーナ:「ええ~?そんなはずないんだけどなぁ……」
マリア:「でも、現に場所ズレてるし、日にちも想定内の1週間以内を過ぎてるし、どう見ても誰かのせいでなければ師匠のミスですよ」
稲生:「でも、あれですよね?いきなり敵の本拠地に迷い込んだってわけじゃないですよね?」
マリア:「一応、同業者の集まりの場所だから、敵扱いされることはないよ」
稲生:「なら、いいじゃないですか。ここは何番街になるんですか?」
イリーナ:「デビル・ピーターズ・バーグよ」
稲生:「東京で言えば池袋に値する場所ですか。それなら、地下鉄で行けるじゃないですか」
稲生の頭の中に東京メトロ丸ノ内線が浮かんだ。
正しくそれと同じ形の路線が、アルカディアシティの地下を走っている。
イリーナ:「その前に、どうしてここに到着したのか知りたいわ」
イリーナは先に魔法陣の部屋を出た。
係員:「あっ、またダンテ一門の人達が来た」
これが戦士などのギルドなら、正しく酒場のような空間が広がっていたのだろう。
しかしこれが魔道士のギルドとなれば、趣もだいぶ変わって来る。
飲食OKの図書館のような感じになっていた。
実際、コーヒー片手に難しい魔導書を読み漁る男性魔道士の姿が稲生の目に飛び込んだ。
そして、パタパタとイリーナ達の所にやってきたのは、まだ10代半ばくらいと思われる少年であった。
手にはバインダーを持っている。
係員:「こんにちは。ダンテ一門の人達ですね?」
イリーナ:「そうよ。本当は魔王城に到着するはずだったのに、ここに来てしまったの。邪魔だと思うから、すぐに出て行くわ。だから、安心なさい」
簡単に言えば、ここは中小企業の商工組合事務所のような所。
そこに大企業の関係者が用も無いのに飛び込んで来たようなものだ。
係員:「いえ、邪魔だなんてとんでもない。特に今は、王都の状況が深刻になってきてまして……。如何にダンテ一門の人達であっても、無断で魔王城への立ち入りは禁止されました。これは宮廷魔導師ポーリン師の意向です」
イリーナ:「ポーリン姉さんの力だったの。それなら歪められて当然だわ」
稲生:「状況が深刻って、一体何があったの?」
係員:「隣国のミッドガードが、このアルカディアに侵攻しようとしているらしいのです」
イリーナ:「ええっ!?」
稲生:「えーと……すいません。魔界の国って、他にもあるんですか?」
イリーナ:「同じ人間界から迷い込んだ人間達が作った町……というか、国があるの。こっちは人魔一体の国だけど、向こうは人機一体といったところかしら」
稲生:「何ですか、それ?」
イリーナ:「この国も電化されたおかげで、それなりの機械もあるけれど、それに関しては向こうの方が発達してる。でも、魔法の力に関しては大したことなかったはずよ」
係員:「魔法石を機械に応用して強化するという技術を編み出したのです。それまでは、ただの乗り物とか製造機械だけだったんですが、兵器にも応用するようになりまして……。それで、自信を付けたのではないかと思われます。実際、ミッドガードはこの国の大使を引き上げさせました」
イリーナ:「それ、ガチよね」
係員:「だから城の方も警戒態勢なのです。魔道士とて、簡単に入られては困ると……」
イリーナ:「状況は分かったわ。こりゃ、クエストどころじゃないかな……」
マリア:「どうします?人間界はまだ安全ですよ。新型コロナウィルスは大変ですけど……」
係員:「ウィルス?」
稲生:「人間界は人間界で、新型の肺炎ウィルスが世界中に蔓延して大変なことになってるんです」
係員:「ミッドガードの科学省が人間界のチャイナという国で実験したという、あれですかね……?」
マリア:「それ、魔界製だったの!?」
イリーナ:「新型コロナウィルスの出所が特定できたわね……」
稲生:「すいません、そこ詳しくいいですか?」
係員:「僕に聞かなくても、アルカディアタイムスで特集されてましたよ。ここのギルドでも保管してあります」
稲生:「こっちのマスコミはちゃんと仕事してるなー」
マリア:「そういえばここ最近、アルカディアタイムスが届いてなかったな……」
魔王城に行く前に稲生達は最近の情報を集めることにした。
稲生:「僕は戦争を経験したことがないから、他国から攻められる恐怖というのを知らないんですよ」
イリーナ:「日本人はお気楽ねぇ……」
マリア:「まあ、師匠の祖国(ロシア)は他国を『攻める側』でしょうけどね」
因みにイリーナの実年齢からして、日露戦争を経験しているはずだが、イリーナの口からそれが語られたことは無い。
僅かにポーランド人達がシベリアに送られる所を見たというだけである。
稲生:「アルカディア王国に勝ち目は無いんですか?」
イリーナ:「いや、多分ボロ負けすることはないと思う。占うまでもないわよ」
稲生:「えっ?」
イリーナ:「軍事力なら、この国にだって飛空艇団はあるし、竜騎兵団はある。あと、アルカディアメトロを利用した列車砲もあるって話よ」
稲生:「飛空艇団はFFみたいだし、竜騎兵団はDQみたいでファンタジーですけど、列車砲っていきなりドイツっぽくなりましたね!」
マリア:「第2次世界大戦で、イギリスや旧ソ連、そしてドイツが導入したというアレでしょう?ミッドガード帝国がどれだけの近代的な兵器を持ってるか分かりませんけど、75年以上前の兵器で役に立ちますかね?向こうは戦闘機や爆撃機は持ってるんですか?」
イリーナ:「いや、飛行機が飛んでるのは見たことないわ」
マリア:「じゃあ、大丈夫ですね。うん、勇太、大丈夫っぽいよ」
稲生:「そ、そうですか?」
イリーナ:「うちの一門には“魔女の爆撃機”がいるから大丈夫」
稲生:「エレーナのことですか……」
ローブの中にグレネード弾を仕込み、ホウキで飛んだ上空から投げ落として爆撃するのだという。
イリーナ:「ありゃ?」
イリーナ組が魔法陣から出ると、そこは確かに魔界であった。
魔界であり、魔界屈指の王国アルカディアであり、そしてその王都アルカディアシティの中心街に他ならなかった。
それはいい。
イリーナが目を丸くしたのは、直で魔王城に到着するはずだったのに、何故か少し離れたデビル・ピーターズ・バーグ地区であった。
そしてそこは魔道士ギルド。
要は魔道士専用の“ルイーダの酒場”のような所である。
主にダンテ一門とは違い、魔界を拠点にしている魔道師の小さな私塾の協同組合事務所のような所である。
もっと言えば、『魔界魔道士協会』みたいな感じ。
人間界を拠点にし、そこで一際大きな集まりを成すダンテ一門はあまり用の無い場所であった。
魔法を使えない冒険者が魔法使いを味方にする為、ここにやってくることが多い。
イリーナ:「ここはギルドじゃない!え?何でここに着いたの?誰か呼んだ?」
マリア:「師匠の読みが外れたんじゃないですか?日にちも1週間以上経過してますよ?」
イリーナ:「ええ~?そんなはずないんだけどなぁ……」
マリア:「でも、現に場所ズレてるし、日にちも想定内の1週間以内を過ぎてるし、どう見ても誰かのせいでなければ師匠のミスですよ」
稲生:「でも、あれですよね?いきなり敵の本拠地に迷い込んだってわけじゃないですよね?」
マリア:「一応、同業者の集まりの場所だから、敵扱いされることはないよ」
稲生:「なら、いいじゃないですか。ここは何番街になるんですか?」
イリーナ:「デビル・ピーターズ・バーグよ」
稲生:「東京で言えば池袋に値する場所ですか。それなら、地下鉄で行けるじゃないですか」
稲生の頭の中に東京メトロ丸ノ内線が浮かんだ。
正しくそれと同じ形の路線が、アルカディアシティの地下を走っている。
イリーナ:「その前に、どうしてここに到着したのか知りたいわ」
イリーナは先に魔法陣の部屋を出た。
係員:「あっ、またダンテ一門の人達が来た」
これが戦士などのギルドなら、正しく酒場のような空間が広がっていたのだろう。
しかしこれが魔道士のギルドとなれば、趣もだいぶ変わって来る。
飲食OKの図書館のような感じになっていた。
実際、コーヒー片手に難しい魔導書を読み漁る男性魔道士の姿が稲生の目に飛び込んだ。
そして、パタパタとイリーナ達の所にやってきたのは、まだ10代半ばくらいと思われる少年であった。
手にはバインダーを持っている。
係員:「こんにちは。ダンテ一門の人達ですね?」
イリーナ:「そうよ。本当は魔王城に到着するはずだったのに、ここに来てしまったの。邪魔だと思うから、すぐに出て行くわ。だから、安心なさい」
簡単に言えば、ここは中小企業の商工組合事務所のような所。
そこに大企業の関係者が用も無いのに飛び込んで来たようなものだ。
係員:「いえ、邪魔だなんてとんでもない。特に今は、王都の状況が深刻になってきてまして……。如何にダンテ一門の人達であっても、無断で魔王城への立ち入りは禁止されました。これは宮廷魔導師ポーリン師の意向です」
イリーナ:「ポーリン姉さんの力だったの。それなら歪められて当然だわ」
稲生:「状況が深刻って、一体何があったの?」
係員:「隣国のミッドガードが、このアルカディアに侵攻しようとしているらしいのです」
イリーナ:「ええっ!?」
稲生:「えーと……すいません。魔界の国って、他にもあるんですか?」
イリーナ:「同じ人間界から迷い込んだ人間達が作った町……というか、国があるの。こっちは人魔一体の国だけど、向こうは人機一体といったところかしら」
稲生:「何ですか、それ?」
イリーナ:「この国も電化されたおかげで、それなりの機械もあるけれど、それに関しては向こうの方が発達してる。でも、魔法の力に関しては大したことなかったはずよ」
係員:「魔法石を機械に応用して強化するという技術を編み出したのです。それまでは、ただの乗り物とか製造機械だけだったんですが、兵器にも応用するようになりまして……。それで、自信を付けたのではないかと思われます。実際、ミッドガードはこの国の大使を引き上げさせました」
イリーナ:「それ、ガチよね」
係員:「だから城の方も警戒態勢なのです。魔道士とて、簡単に入られては困ると……」
イリーナ:「状況は分かったわ。こりゃ、クエストどころじゃないかな……」
マリア:「どうします?人間界はまだ安全ですよ。新型コロナウィルスは大変ですけど……」
係員:「ウィルス?」
稲生:「人間界は人間界で、新型の肺炎ウィルスが世界中に蔓延して大変なことになってるんです」
係員:「ミッドガードの科学省が人間界のチャイナという国で実験したという、あれですかね……?」
マリア:「それ、魔界製だったの!?」
イリーナ:「新型コロナウィルスの出所が特定できたわね……」
稲生:「すいません、そこ詳しくいいですか?」
係員:「僕に聞かなくても、アルカディアタイムスで特集されてましたよ。ここのギルドでも保管してあります」
稲生:「こっちのマスコミはちゃんと仕事してるなー」
マリア:「そういえばここ最近、アルカディアタイムスが届いてなかったな……」
魔王城に行く前に稲生達は最近の情報を集めることにした。
稲生:「僕は戦争を経験したことがないから、他国から攻められる恐怖というのを知らないんですよ」
イリーナ:「日本人はお気楽ねぇ……」
マリア:「まあ、師匠の祖国(ロシア)は他国を『攻める側』でしょうけどね」
因みにイリーナの実年齢からして、日露戦争を経験しているはずだが、イリーナの口からそれが語られたことは無い。
僅かにポーランド人達がシベリアに送られる所を見たというだけである。
稲生:「アルカディア王国に勝ち目は無いんですか?」
イリーナ:「いや、多分ボロ負けすることはないと思う。占うまでもないわよ」
稲生:「えっ?」
イリーナ:「軍事力なら、この国にだって飛空艇団はあるし、竜騎兵団はある。あと、アルカディアメトロを利用した列車砲もあるって話よ」
稲生:「飛空艇団はFFみたいだし、竜騎兵団はDQみたいでファンタジーですけど、列車砲っていきなりドイツっぽくなりましたね!」
マリア:「第2次世界大戦で、イギリスや旧ソ連、そしてドイツが導入したというアレでしょう?ミッドガード帝国がどれだけの近代的な兵器を持ってるか分かりませんけど、75年以上前の兵器で役に立ちますかね?向こうは戦闘機や爆撃機は持ってるんですか?」
イリーナ:「いや、飛行機が飛んでるのは見たことないわ」
マリア:「じゃあ、大丈夫ですね。うん、勇太、大丈夫っぽいよ」
稲生:「そ、そうですか?」
イリーナ:「うちの一門には“魔女の爆撃機”がいるから大丈夫」
稲生:「エレーナのことですか……」
ローブの中にグレネード弾を仕込み、ホウキで飛んだ上空から投げ落として爆撃するのだという。
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