[日付不明 時刻不明(夜間) 天候:晴 クイーン・アッツァー号(船橋区画) 稲生勇太]
用具室でペンチとゴム手袋を手に入れた稲生は、魔道師の姿をした化け物(“魔の者”?)の攻撃を交わしながら、何とか照明の灯る廊下へ飛び出た。
ヒューズボックスの所へ行こうとしたが、その前にやることがあったことに気づいた。
まずは船長室へ戻る。
その中のベッドルーム。
そこには緑色に塗装された木製のクロゼットがあって、しかし観音扉は針金でギチギチに取っ手が固定されていて開かない状態だった。
「よし。これで……」
ペンチで針金を切り落とす。
針金は真っ二つになって、クロゼットから落ちた。
こんなものがヒューズの代わりになるのか分からないが、やってみるしかない。
ついでに、中に何があるのか気になって開けようと思った。
しかし、
(魔物がいて、いきなり飛び出して来たらどうしよう……?)
と、急に不安に駆られてしまった。
ところがクロゼットの中から、
「別にキミを取って食おうとか、そんなことは微塵も考えていないよ。安心して開けなさい」
と、男の声がした。
どこかで聞いたことのあるような声だが……?
稲生は観音扉を開けた。
そこにいたのは、人ではなかった。
といっても、不安的中で魔物が潜んでいたわけでもない。
船長の制服などがハンガーに掛けられていたのは当然として、要はその下に一冊の本が置かれていたのだ。
その本を拾い上げようとした稲生は、思わずのけ反りそうになった。
本が勝手にクロゼットの中から出てきて、稲生の前でフワフワ飛んでいたのだ。
その本の表紙には天の川の模様柄が描かれていて、タイトルは英語であったが、和訳すると、“星界号航海日誌”であった。
男の声は、その本から聞こえてきた。
「私は“スターオーシャン”号といって、今キミのいる“クイーン・アッツァー”号とは同型の姉妹船の船長を務めている者だ。私の船に来たまえ。話がある」
どうやら、『スターオーシャン』までは和訳する必要は無かったようだ。
「船に来いって……。どうやって行くんです?」
「この本を持って、まずはその船の船橋まで来ると良い。話はそれからだ」
スターオーシャン号の船長と名乗る男の声がする本は、稲生の手の中に収まった。
本の大きさはA4サイズで、厚さは数センチある。
市販の時刻表の表紙を厚紙にして、中の紙質ももっと丈夫にした感じだ。
稲生は言われた通り、船橋に向かうことにした。
が、そこへの入り口と思われるドアには鍵が掛かっている。
「参ったな……。鍵を持っているのは……副船長さんかな?」
しかし副船長の幽霊らしき姿は、どこにも見当たらない。
「あ、そうだ。ヒューズ」
稲生はその前にやることがあったことを思い出し、ヒューズボックスへ向かった。
ゴム手袋を装着して、ヒューズボックスを開ける。
それのおかげで、感電せずに済んだ。
隣の無事なヒューズを見ながら、適当に繋いでみる。
バチッ!(火花が一瞬飛び散った)
「うわっ!」
突然の火花に驚いたが、それでも何とか繋げられたような気がする。
一応、試しに電気の点かなかった部屋に行ってみた。
「うふふふふふふふ……!」
用具室に入ると、また例のジェシカ師の姿をした女の化け物が襲い掛かってきたが、稲生が電気のスイッチを入れると見事に点灯した。
女はまたしても魔道師のローブのフードを深く被り、光から逃げ去るようにして消えた。
「やった!」
この調子で会議室に戻り、そこでもスイッチを入れる。
果たして、会議室でも電気が点いた。
すると室内にいた船員の幽霊は天井を見上げ、
「光だ……。やっと……明るくなった……。これでもう……アイツが……来る事は……ない……」
安堵の声を漏らした。
恐らく死ぬ間際まで、化け物に襲われる恐怖に取り憑かれていたのだろう。
それでこの会議室に地縛霊として括られてしまっていたようであるが、その恐怖から解放されたからなのか、スーッと消えていった。
仏法上では意味が違うが、世間一般的に言えば、『成仏』したのだろう。
その船員が残した置き土産が2つあった。
1つは、床に落ちた鍵が1つ。
タグには浮輪の絵が書いてあった。
(もしかして、これって……?)
稲生は拾い上げて思った。
もしかしたら、これが船橋へ通じるドアの鍵なのではないかと。
そして、もう1つ。
「こ、これは……!?」
さっきまで船員がいた所に浮かぶ、紫色の宝石のようなもの。
ゴルフボールのような形であった。
「何だろう、これ……?」
稲生の手の中に収まったが、それで何か起こるというわけでも無かった。
(とにかく、船橋へ向かおう)
会議室の外へ出ると、そこに副船長が佇んでいた。
「あっ、副船長さん」
「……よくぞ、私の部下を助けてくれた……。礼を言おう……」
「いえ、僕は大したことはやってませんよ」
「この船には……あの者のように、この船に囚われた者達が何人もいる」
「ええっ?」
「私の部下達は元より……その他のスタッフ……乗船客の皆さん……。それぞれが……それぞれの思いに縛られて……この船から出ることができずにいる……。キミのような人物が現れるのを待っていた……。どうか……この船の……化け物を退治してくれとまでは……言わない。だがどうか……せめて、それに殺されてしまった者達を救ってもらいたい……。頼んだぞ……」
副船長はそう言うと、稲生に敬礼してやはり消えていった。
あの紫色のゴルフボールみたいな宝石を残して……。
(一体、これは何なんだろう?)
稲生は副船長の残したそれを手にすると、今度は船橋に向かった。
(よし、開いた!)
果たして会議室の船員が置いて行った鍵は、船橋へ通じるドアの鍵だった。
そこも照明が消えていたが、スイッチを入れるとちゃんと点灯した。
船橋には誰もいなかった。
副船長は船長が行方不明だと言っていたが、船長の座る椅子にも見当たらなかった。
しかし、舵輪は勝手に動いている。
一瞬、幽霊が操舵しているのかと思ったが、その周辺の機器を見て、ただ単に自動航行システム(オートパイロット)になっているだけのようだった。
それで、ここに来たはいいものの、その後はどうすれば良いのだろう?
稲生がその疑問を心に浮かべると、再び本からさっきの男の声がした。
そこから出た指示とは……。
用具室でペンチとゴム手袋を手に入れた稲生は、魔道師の姿をした化け物(“魔の者”?)の攻撃を交わしながら、何とか照明の灯る廊下へ飛び出た。
ヒューズボックスの所へ行こうとしたが、その前にやることがあったことに気づいた。
まずは船長室へ戻る。
その中のベッドルーム。
そこには緑色に塗装された木製のクロゼットがあって、しかし観音扉は針金でギチギチに取っ手が固定されていて開かない状態だった。
「よし。これで……」
ペンチで針金を切り落とす。
針金は真っ二つになって、クロゼットから落ちた。
こんなものがヒューズの代わりになるのか分からないが、やってみるしかない。
ついでに、中に何があるのか気になって開けようと思った。
しかし、
(魔物がいて、いきなり飛び出して来たらどうしよう……?)
と、急に不安に駆られてしまった。
ところがクロゼットの中から、
「別にキミを取って食おうとか、そんなことは微塵も考えていないよ。安心して開けなさい」
と、男の声がした。
どこかで聞いたことのあるような声だが……?
稲生は観音扉を開けた。
そこにいたのは、人ではなかった。
といっても、不安的中で魔物が潜んでいたわけでもない。
船長の制服などがハンガーに掛けられていたのは当然として、要はその下に一冊の本が置かれていたのだ。
その本を拾い上げようとした稲生は、思わずのけ反りそうになった。
本が勝手にクロゼットの中から出てきて、稲生の前でフワフワ飛んでいたのだ。
その本の表紙には天の川の模様柄が描かれていて、タイトルは英語であったが、和訳すると、“星界号航海日誌”であった。
男の声は、その本から聞こえてきた。
「私は“スターオーシャン”号といって、今キミのいる“クイーン・アッツァー”号とは同型の姉妹船の船長を務めている者だ。私の船に来たまえ。話がある」
どうやら、『スターオーシャン』までは和訳する必要は無かったようだ。
「船に来いって……。どうやって行くんです?」
「この本を持って、まずはその船の船橋まで来ると良い。話はそれからだ」
スターオーシャン号の船長と名乗る男の声がする本は、稲生の手の中に収まった。
本の大きさはA4サイズで、厚さは数センチある。
市販の時刻表の表紙を厚紙にして、中の紙質ももっと丈夫にした感じだ。
稲生は言われた通り、船橋に向かうことにした。
が、そこへの入り口と思われるドアには鍵が掛かっている。
「参ったな……。鍵を持っているのは……副船長さんかな?」
しかし副船長の幽霊らしき姿は、どこにも見当たらない。
「あ、そうだ。ヒューズ」
稲生はその前にやることがあったことを思い出し、ヒューズボックスへ向かった。
ゴム手袋を装着して、ヒューズボックスを開ける。
それのおかげで、感電せずに済んだ。
隣の無事なヒューズを見ながら、適当に繋いでみる。
バチッ!(火花が一瞬飛び散った)
「うわっ!」
突然の火花に驚いたが、それでも何とか繋げられたような気がする。
一応、試しに電気の点かなかった部屋に行ってみた。
「うふふふふふふふ……!」
用具室に入ると、また例のジェシカ師の姿をした女の化け物が襲い掛かってきたが、稲生が電気のスイッチを入れると見事に点灯した。
女はまたしても魔道師のローブのフードを深く被り、光から逃げ去るようにして消えた。
「やった!」
この調子で会議室に戻り、そこでもスイッチを入れる。
果たして、会議室でも電気が点いた。
すると室内にいた船員の幽霊は天井を見上げ、
「光だ……。やっと……明るくなった……。これでもう……アイツが……来る事は……ない……」
安堵の声を漏らした。
恐らく死ぬ間際まで、化け物に襲われる恐怖に取り憑かれていたのだろう。
それでこの会議室に地縛霊として括られてしまっていたようであるが、その恐怖から解放されたからなのか、スーッと消えていった。
仏法上では意味が違うが、世間一般的に言えば、『成仏』したのだろう。
その船員が残した置き土産が2つあった。
1つは、床に落ちた鍵が1つ。
タグには浮輪の絵が書いてあった。
(もしかして、これって……?)
稲生は拾い上げて思った。
もしかしたら、これが船橋へ通じるドアの鍵なのではないかと。
そして、もう1つ。
「こ、これは……!?」
さっきまで船員がいた所に浮かぶ、紫色の宝石のようなもの。
ゴルフボールのような形であった。
「何だろう、これ……?」
稲生の手の中に収まったが、それで何か起こるというわけでも無かった。
(とにかく、船橋へ向かおう)
会議室の外へ出ると、そこに副船長が佇んでいた。
「あっ、副船長さん」
「……よくぞ、私の部下を助けてくれた……。礼を言おう……」
「いえ、僕は大したことはやってませんよ」
「この船には……あの者のように、この船に囚われた者達が何人もいる」
「ええっ?」
「私の部下達は元より……その他のスタッフ……乗船客の皆さん……。それぞれが……それぞれの思いに縛られて……この船から出ることができずにいる……。キミのような人物が現れるのを待っていた……。どうか……この船の……化け物を退治してくれとまでは……言わない。だがどうか……せめて、それに殺されてしまった者達を救ってもらいたい……。頼んだぞ……」
副船長はそう言うと、稲生に敬礼してやはり消えていった。
あの紫色のゴルフボールみたいな宝石を残して……。
(一体、これは何なんだろう?)
稲生は副船長の残したそれを手にすると、今度は船橋に向かった。
(よし、開いた!)
果たして会議室の船員が置いて行った鍵は、船橋へ通じるドアの鍵だった。
そこも照明が消えていたが、スイッチを入れるとちゃんと点灯した。
船橋には誰もいなかった。
副船長は船長が行方不明だと言っていたが、船長の座る椅子にも見当たらなかった。
しかし、舵輪は勝手に動いている。
一瞬、幽霊が操舵しているのかと思ったが、その周辺の機器を見て、ただ単に自動航行システム(オートパイロット)になっているだけのようだった。
それで、ここに来たはいいものの、その後はどうすれば良いのだろう?
稲生がその疑問を心に浮かべると、再び本からさっきの男の声がした。
そこから出た指示とは……。
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