報恩坊の怪しい偽作家!

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“魔女エレーナの日常” 「エレーナも戦う時はある」

2020-02-08 21:50:18 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月29日10:00.天候:晴 東京都江東区森下 ワンスターホテル]

 オーナー:「はい、お疲れさん。交替の時間だよ」
 エレーナ:「本日チェックアウト予定のお客様方は、皆様退館されました。その他、特に異常なしです」
 オーナー:「はい、ありがとう。給料日の月末まであと僅かだから、頑張るんだよ」
 エレーナ:「はい。それでは失礼します」

 エレーナがフロントから出ようとした時、電話が鳴った。

 エレーナ:「あ、私が……」

 外線である。

 エレーナ:「お電話ありがとうございます。ワンスターホテルでございます。……あ、はい。同門の御予約で。期日はお決まりですか?」

 本来、正式に日本を拠点としているのはイリーナ組なのだが、いかんせん長野県の山中にあるということもあって不便である。
 その為、魔法ではなく公共交通機関で来日する同門の者はワンスターホテルを利用することが多かった。
 エレーナがここで働いていることは皆知っているし、オーナーもまた『協力者』としての登録を受けているからである。

 エレーナ:「……はい、それではお待ちしております」

 同期や後輩にはざっくばらんな口調になるエレーナだが、仕事中にあっては『親しき中にも礼儀あり』を地で行く。

 エレーナ:「オーナー、予約入りました」
 オーナー:「キミが来てから、空室問題とは無縁になって助かるよ」
 エレーナ:「インバウンド絡みで満室の日も多くなりましたし、こりゃ増築ですかね?」
 オーナー:「ははは。そんな欲深いことはしないよ。この建物は、このままでいい」
 エレーナ:「オーナーも無欲ですね。……その割にはアネックス計画を立てていらっしゃるようですけど?」
 オーナー:「いや、別に火星に行くつもりは無いよ?」
 エレーナ:「進化した人型ゴキブリが出てくる方のアネックス計画ではなくて、別館建設計画のことです」

 別館のことをAnnexという。

 オーナー:「参ったなぁ……。さすが魔道士には内緒にできないね」
 エレーナ:「オーナーでしたら、別館を建設しても上手く行きますよ」
 オーナー:「それはエレーナの予知能力?」
 エレーナ:「予知能力なんか使わなくても分かります」
 オーナー:「そうかい」

 と、そこへまた電話が鳴る。
 またもや外線だ。

 オーナー:「ああ、いい。今度は私が出る。エレーナは早く部屋に帰って休むといい」
 エレーナ:「はい、お疲れ様でした」

 オーナーが電話に出ようと手を伸ばし、エレーナがそれに背を向けた時だった。

 エレーナ:「!!!」

 エレーナは背中に氷塊が当たったかのような感覚を覚えた。

 オーナー:「はい、お電話ありがとうござ……」
 エレーナ:「オーナー、危ない!!」

 エレーナはオーナーを突き飛ばした。

 オーナー:「うわ何をする!」

 ショックでオーナーが尻持ちを付き、受話器が耳から離れた。
 だが、それで良かったのだ。
 受話器からどす黒い槍のようなものが出て来て、それが天井に突き刺さった。

 オーナー:「な……!?な……!?」
 エレーナ:「呪い針!?誰ですか!?いくら先輩や先生でも冗談が過ぎますよ!?」

 呪い針というのは即死魔法の1つである。
 弟子の身分が見様見真似で覚えられる即死魔法が100%効果があるわけではないのに対し、こちらは師匠クラスになってやっと使える高度な魔法で、成功率100%という超危険過ぎる魔法なのである。
 イリーナが以前、同門の士でもないのに自分の秘密を知ってしまった者に対し、使用したことがある。

 ???:「オマエが隠し立てするからだ……」

 すると受話器の向こうからしわがれた声が聞こえて来た。
 それだけでは誰だか分からない。

 ???:「こちらが知りたいことを素直に答えれば良いのに、何故隠すのだ……?」
 エレーナ:「あんたは昨夜のイタ電BBA!?」
 ???:「ヒヨッコの癖に……」
 エレーナ:「だから!誰なんですか!?そりゃ私より階級高い方だというのは認めますよ!?呪い針を使えるくらいなんだから」

 魔法で作った凶器。
 天井に突き刺さったそれはシュウシュウと音を立てて、溶けるように消えた。

 ???:「ダンテ一門の者共め……」
 エレーナ:「他門の者か!名を名乗れ!!」

 だが、電話は切れてしまった。

 エレーナ:「くそっ……!」

 だが、エレーナは冷や汗をダラダラかいていた。
 いつもはボケ役として通っている彼女が、そうとは思えない程狼狽していた。

 オーナー:「わ、私が一体何をしたというんだ?」
 エレーナ:「オーナー、申し訳ありません。あれは恐らく私に向けて撃ったもの。直前まで私が電話に出ていたので、そのタイミングだと思ったのでしょう」

 エレーナはローブの中から、透明の液体の入ったガラス瓶を取り出した。

 エレーナ:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ」

 そして、ダンテ一門オリジナルの呪文を唱えながらその液体を電話機に振り掛ける。

 エレーナ:「これは電話線を通じて魔法攻撃をされた際、ブロックするものです」
 オーナー:「それなら大丈夫だな!?」
 エレーナ:「いえ、恐らく気休めでしょう」
 オーナー:「えっ!?」
 エレーナ:「私の実力以下の者の攻撃は全部ブロックできる自信がありますが、今の呪い針はちょっと無理かもしれません。あれは本当に、うちの先生達クラスでないと使えない難しい魔法なんです」
 オーナー:「じゃあ、どうすればいいんだね?」
 エレーナ:「とても難しい魔法ということは、消費MPも相当大きいです。ですので、連発はできません。ですから恐らく、もうオーナーに対しては撃って来ることはないでしょう。取り急ぎ、私の先生に報告して対応策を聞いて来ます」
 オーナー:「ああ、分かった。キミの先生と同じくらいの力を持った大魔道師が、キミに攻撃をしてくるなんて……」
 エレーナ:「御迷惑をお掛けして申し訳ありません」

 エレーナはオーナーに謝罪して、エレベーターに乗り込んだ。

 エレーナ:(くそっ!心当たりが在り過ぎて、誰が犯人なんだか分からねーぜ!)

 他門の魔道師にもボッタクリ商売を展開していたエレーナだった。
 バレて師匠ポーリンに何度も怒られてるはずなのだが……。

 エレーナ:(いやー、でもだったら、先生にチクるよなぁ……。それで何度もバレて怒られたわけだし……)

 エレーナは自分の部屋がある地下階でエレベーターを降りた。

 エレーナ:(何か、報告したらまた怒られそうな気がするぜ。だがしかし、日頃お世話になってるオーナーが危険な目に遭ったのを、黙って見過ごすわけにはいかねーぜ)

 そして部屋に入ると、早速机の上に置いてあった水晶玉でポーリンに報告したのだった。

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1 コメント

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Unknown (雲羽百三)
2020-02-09 05:43:07
今日は支部総登山の日です。
行ってきます。
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